真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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お待たせ致しました!
今回もまた文章が安定しておりませんがご了承ください

それでは、どうぞ





ナプガーナ密林

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと気が付くと、レイブンは見知らぬ場所に立っていた

 辺りを見回してみれば、周囲は数え切れないほどの木々や草花で埋め尽くされており、レイブンが立っているところはポツリと拓けた空間であることがわかる。そして、なにより目の前に聳え立つ巨木が印象的だ

 一般的な感性を持つ人間ならば見惚れてしまいそうな美しさ、神秘的な雰囲気を纏った巨木。見上げても頂点が見えないことは容易に察することができるほどに大きい

 生物としての本能によるものか、レイブンはこの巨木のことを知っている気がした。いや、こんな馬鹿げた大きさの木なんて、2つとないだろう。故に、レイブンには目の前に聳え立つ巨木の正体が〈命の大樹〉であるとわかった

 

 

 

 なぜ自分が〈命の大樹〉の目の前にいるのか。少なくともレイブンには此処まで来た覚えがない

 この場に漂う静謐な空気のお陰で取り乱すような真似はしないで済んだが、大いに戸惑いながらも目で見ると同時にペタペタと手で触って身形を確認する。どうやら服装などはレイブンの記憶にある紫色の渋い服であり、背中には〈プラチナブレード〉もあった

 多少は冷静になったことで、先程は〈命の大樹〉に気を取られて見逃していたが、レイブンの真正面には小屋ほどの大きさの繭のような印象を受ける球形の物体が存在した。良く見れば其れは、淡く輝く光球を守るように蔦が幾重にも纏わり付いたもので、不用意に触れることを躊躇わせる荘厳な雰囲気がある

 

 

 

 なんだか夢の中のようだとも感じる。漠然と〈命の大樹〉から神聖な空気を感じ取ってはいるが、視界の端が不規則に歪んだり、草花が風に揺れる音に紛れて砂嵐のような雑音が混じったりと違和感を覚える

 現代日本の知識として、夢とは記憶にあるものしか再現できないことはわかっている。当然ながらレイブンには〈命の大樹〉をこんな間近で眺めた記憶はない。それならば最近も妙な夢を見たし、コレも似たようなものなんだろう

 ────と近頃は急に慣れ親しんだ村から旅立たされたり、〈悪魔の子〉呼ばわりされて牢に閉じ込められたりしている所為で、若干投げやりな結論を出した

 

 

 

 暫くして、気を取り直したレイブンは夢ならば自由に体が動かせるのではと考えて、恐る恐る1歩足を踏み出した。予想に違わず思い通りに動く体に喜んで、どうせ夢なのだからと目の前にある謎の光輝く球体をもっと側で見ようと近づいていく

 特に何事もなく直ぐ目前という位置まで近づいて、レイブンは心の底から感嘆の息を漏らした

 まるで夢とは思えないほど体を包む光は温かく、光球に纏わり付く蔦にはリアルな質感があった。それでいて夢でなければあり得ないとさえ思わせるくらいに、現実離れした幻想的な光景でもある

 

 

 

「……ん? 球体の中に………アレは剣かな?」

 

 

 

 目を凝らしてみると、光球の中に1振りの剣があることに気がついた。球体の中心部の辺りに浮いており、手に取るまでもなく美麗な剣であるとわかる。淡く輝く光球の中心に漂う美しい剣という男心を擽る展開に、レイブンも例外なく心弾んだ

 こういう封印されてるっぽい剣とかは、物語の中で特別な役割を担っていたり、伝説として過去に行方が分からなくなった最強の剣だったりするのがテンプレである

 仮に夢の中だったとしても、いや夢であればこそ唐突に物語の主役になったような高揚する心のままにレイブンは光球へと手を伸ばして──────────

 

 

 

「──うぐっ!?」

 

 

 

 指先が蔦に触れるか触れないかというところで、レイブンの胸の辺りに強い衝撃が走った。余りの衝撃によって反射的に喉の奥からくぐもった声が漏れて、視界が明滅するような感覚に陥る

 胸の中心には強烈な違和感があり、明滅する視界で確認すると人の手に良く似た形だが、骨ばって節くれだった手のようなものが生えていた。内心とは裏腹に冷静な思考は、背後から何者かによって胸を貫かれたのだと確信に満ちた答えを叩き出した

 しかし、貫かれた胸からは血が出ておらず、節くれだった手のようなものにも血は付着していない。ただ、その手には光る小さな光球が握られていることがわかる。其処まで認識した瞬間、レイブンの全身に発狂してしまいそうなほどの激痛が生まれた

 

 

 

「──っ、────ぁあぁああ………っっっ!?!?」

 

 

 

 狂おしいまでの痛みにレイブンは言葉にならない絶叫を上げて悶え苦しむ。体の内側を滅茶苦茶に掻き毟られているかのような筆舌に尽くしがたい感覚に苛まれながらも、ある種の本能によるものか背後にいるであろう何者かの姿を確認しようと首だけで振り向く

 其処にいたのは、なんと言うべきだろうか。魔法使いのようにも、道化師のようにも見える青白い肌の人相の悪い男がレイブンの直ぐ背後に立っていた。まず間違いなく、胸を貫く手はこの男によるものだと〈直感〉する

 謎の男はニヤリと嫌らしく笑って腕をぐりぐりと捻るようにして動かした後、一気にレイブンの胸から引き抜いた。その瞬間、レイブンは全身から力が抜けるような感覚に襲われて俯せに倒れ込んだ

 

 

 

「……………」

 

 

 

 尋常ではない気怠さに抵抗しながら体に残る力を振り絞って頭を上げて謎の男を睨む。しかし、謎の男はレイブンからの敵意を心地好さそうに受け止めると、やはりニヤニヤと意地悪く笑ってみせた

 徐々に視界が霞んでいく。最早コレが夢であるかなんてことは頭になく、明らかに常軌を逸していると思われる謎の男の姿を目に焼き付けようと試みる。今の状況はただの夢ではなく、現実に起こり得るものなのだとレイブンの〈直感〉が激しく警鐘を鳴らしているからだ

 すると、不思議なことが起きた。視界が霞んだことで判然としないが、謎の男の姿がとある人物に重なって見える。その顔は奇しくもレイブンが少し前に見たばかりの人物に良く似ていた──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆〜☆【GAME OVER】☆〜☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *注意!! 

 読者の皆様にお知らせです

 これは本編ではありません、ご安心ください

 

 一昨日がエイプリルフールだったということで、2日後だけど自分もなにかしてみたいと作者が考えた末のお遊びです

 エイプリルフールだし、ちょっとしたネタバレくらいなら許してくれるよね……? とわかる人には普通にわかってしまいそうな描写も含まれております

 できれば気づいた方も無視して頂ければと思います

 

 というわけで、此処からが本編となります

 作者のお遊びにお付き合い頂きありがとうございました

 それでは、どうぞ………(;⊃・ω・)⊃

 

 

 

 ──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、レイブン! さっきからどうしたんだよ?」

 

 

 

 不意に体が揺らされる感覚と呼び掛けられた声にレイブンは夢から覚めた時のように意識が浮上してくる。目の前でレイブンの肩を掴んでいる青年、カミュが体を揺すっていたのだろう

 辺りを見渡せば、其処はデルカダールの丘に間違いなく、見覚えのある旅仲間の姿と景色を見たことで少しずつ気持ちが落ち着いていく。なにか不思議な夢を見ていた気がするが、ハッキリとは覚えていない

 それはそれとして、昨日はデルカダールの城下町を抜け出した後、日が落ちた状態でナプガーナ密林に向かうのは危険だと話し合って例の教会で一眠りさせてもらったのだ。そして夜が明けて今日、2人は改めてシスターに礼を述べてから旅立ったということをレイブンは思い出した

 

 

 

「ご、ごめん……少し頭がボンヤリとしてたんだ」

「なんだよ、寝不足か……? しっかりしろよな〈勇者〉様。これから噂の秘境に挑むんだぜ。戦闘中に眠るなんてことはしてくれるなよ」

「もう大丈夫だから、存分に頼ってね」

「へっ、寝坊助がよく言うぜ………」

 

 

 

 まだ夢の光景が目に焼き付いているような気がして、レイブンは強く頭を振った後、誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべてカミュに謝る

 カミュにしてみれば特に疑うようなことではなかったので素直に信じて、ポンとレイブンの頭を軽く叩いて茶化すように笑った。戦闘中に眠るなんて真似は魔法でも喰らわない限りあり得ないが、敢えてそう言ってみせるのは彼なりの気遣いなのだろう

 それを有り難く受け取り、2人は再びナプガーナ密林へと足を進めた

 

 

 

 ところで、デルカダールの丘に出現する魔物は単体での強さはそれ程でもないが、昨今の増え続けている魔物事情に違わず一度に複数体と遭遇することが多い

 例えばレイブンであれば、突然10体以上の魔物に囲まれても大した傷も受けずに倒せるくらいの強さだ。しかし、此れがカミュだとそうはいかず、安全に倒せる数は1、2体が限界でそれ以上になると致命傷とはいかなくても無視のできない怪我を負う可能性が高くなってくるのが現状だった

 そういうわけで、2人の戦闘時の立ち回りは基本的にレイブンが中心となって行われる。5体の魔物が同時に襲ってきた時は2体はカミュが、残る3体をレイブンが相手をしながらいつでも援護できるように構えておくというのが定型化してきている

 

 

 

 そのようにしてデルカダールの丘では戦闘をしていたが、噂の秘境ではまた少し勝手が違った

 ナプガーナ密林に入ると、魔物の生態系がガラリと変化した。ベビーパンサーを除いて、他の魔物はデルカダールの丘には出現しないものばかりであり、その強さも軒並み一段階上になっている

 というより、デルカダールの丘ではベビーパンサーが頭1つ抜けた強さだったので、元々はナプガーナ密林に生息していた魔物だと考えれば納得がいく。まあデルカダールの丘の外れには更に強いキラーパンサーがいたのだが、幸運にも2人は遭遇しなかったらしい

 

 

 

「おっと、レイブン。言い忘れてたが、暫くの間はなるべく装備は上等な物を使わないほうがいいと思うぞ」

「………どうして?」

「俺たちは犯罪者として国に指名手配されてるのはわかってるな……? 奴らの目から逃れるためにフードも被って人相を判別し辛くしてるが、お前が見るからに高価な装備を使ってたら逆に悪目立ちしちまう」

「なるほど、確かにそうだね。わかった。装備を変えるから少しだけ待って。あっ、これ使って」

「……良い武器だな。有り難く受け取っておくぜ!」

 

 

 

 ──と、ナプガーナ密林に生息する魔物、びっくりサタンの群れを倒した後で、カミュが思い出したようにそう言った

 言われてみればその通りだとレイブンも納得して、背負っていた〈プラチナブレード〉を袋に仕舞う。少し考えた後、代わりに袋から〈鉄の大剣〉 を取り出して背負う。そして、カミュにも〈聖なるナイフ〉を渡した。もう少し良い短剣も持っているが、悪目立ちしないという意味ならばこのくらいが妥当というものだろう

 カミュも嬉しそうに受け取って、元々使っていた短剣の反対側の腰に指して、何度か抜いて収めてと使い勝手を確認していた。気に入ったようだ

 

 

 

 その後の道中も一筋縄ではいかない

 秘境というだけあって道はわかり辛く、密林特有の湿った空気は慣れてなければ動くのに支障をきたすこともあるだろう。密林らしく周囲の木陰から魔物が引っ切り無しに襲い掛かってくるのも、通常の戦闘とは異なる点だと言える

 つまり、世界中を旅していたレイブンやカミュだからこそ、ナプガーナ密林の中を真面に進むことができている。秘境の呼び名は伊達ではないのだ

 

 

 

「……はぁっ!!」

「ギャウギャウ──!! キャウンッ!?」

「──炎よ、集え──《メラ》」

「ギィギィ!?」

 

 

 

 レイブンが豪快に〈鉄の大剣〉を両手に持ってぶん回す。ぐるりと回って横薙ぎに一閃、前後から挟み撃ちのように飛び掛かってきていたベビーパンサー3体を纏めて両断した

 ベビーパンサーに対処すると同時に詠唱を唱えて、カミュを背後から攻撃しようとするびっくりサタンに《メラ》を当てることで怯ませる。怯んだ隙を見逃さずに飛び込んで追撃を掛ければ、両手剣という重量武器の威力を遺憾なく発揮して一太刀で絶命させた

 

 

 

「──地よ、叩け──《ジバリア》!!』

「──ッ!?」

「ふっ……! これでも喰らえっ!!」

「──ッ! ……………」

 

 

 

 カミュの相手は1体のバブルスライムだった。見るからに毒々しい見た目で、迂闊に近づけば痛い目に会うことは想像に難くない

 其処でカミュは一計を案じた。彼の適正である地属性の魔法《ジバリア》は設置型の魔法だ。それを上手く活用して、バブルスライムとの間に設置することでカミュに攻撃しようと突撃してきた相手への不意打ちとした

 地面から爆発するように飛び出した土の杭に跳ね飛ばされたバブルスライムは、カミュの作戦通りに隙だらけである。後は反撃を警戒して武器を叩き込むだけで、戦闘は終了した

 

 

 

 昨日、今日と続けて戦闘をしたことでカミュも勘を取り戻しつつあった

 バブルスライムはナプガーナ密林でも強い魔物で、接触すると一定確率で毒を受けるという厄介な特性も併せ持っている。それを相手にしてダメージを受けずに完封したのだから、上出来というものだろう

 基本的にカミュは身のこなしも軽く、魔物に囲まれでもしなければ攻撃を喰らうような真似はしない。それでも勘が鈍るというのは考えている以上に大きなもので、此処に来るまでの間に何度か傷を負ってしまっているのだから彼の復調は歓迎すべきことに違いなかった

 

 

 

 そうして時に魔物と戦いながら、時に道に迷いながらも2人はナプガーナ密林を着実に進んでいく

 ナプガーナ密林に突入したのが昼頃だったが、気がつけば辺りは夕日によって赤く染まり始めている。いつのまにかこんな時間になっていたのかと2人は驚くが、木々に覆われて薄暗い密林の中であることなどが時間の感覚を狂わせていたのだ

 こうなってくると急ぎ密林を抜けるか、或いはキャンプ地でも見つける必要があるだろう。というところで、吊り橋を渡った先にちょうど良くキャンプ地を発見した

 

 

 

「おっ、キャンプか………ちょうど良い。イシの村がある辺りはまだまだ先だからな。今日は此処で休んで行こうぜ」

 

 

 

 吊り橋を渡った先はポッカリと拓けた空間になっている。人の気配はしないが小屋があり、その手前に誰かが焚き火をした跡があった。女神像もあるので、此処ならば魔物に襲われる心配もないだろう

 カミュの提案に、レイブンは心なしか嬉しそうに頷いた。元現代人の中の人はこの世界に転生するまでキャンプなんてした経験はなく、こうした旅の途中で行われるキャンプを殊の外気に入っているのだ。曰く、焚き火の音が落ち着くらしい

 

 

 

 日が完全に落ちる前に焚き火を作るため、2人は分担して作業を始めた

 レイブンは周囲から枯れ枝や枯れ草を拾い集めて、カミュは焚き火の跡に残る灰を掻き集めたり適当な丸太を見繕って設置していく。程なくして戻ってきたレイブンが火打ち石で枯れ草を用いて火種を作り、灰の上に被せるように置いてその上に更に小さな枝から順に乗せる

 暫くして辺りが暗くなり始めた頃に枝に火が移って燃え始めたので、2人は焚き火を囲んで干し肉や乾パン、またはレッドベリーなどを食べて腹を満たした

 

 

 

「それにしてもデクの野郎が一丁前に店なんぞ開いてるとはな。しかも、町の一等地に嫁さん付きだぜ? あれで俺と盗賊やってたなんてな。お宝求めて世界中駆け回ってたのが、なんだか懐かしく思えてくるぜ」

 

 

 

 そう語るカミュは、何処か寂しそうにも見える。話を聞いているレイブンはなにも言わず、ただ黙って頷くに留めていた。或いは彼も、静かに閉じた瞼の裏に前世での家族の姿でも思い描いているのかもしれない

 僅かに沈黙が降りる。パチパチと焚き火に使用した枝の中の水分が弾ける音だけがその場に響いている。その沈黙を嫌ってから、カミュはなにかを思い出したように自らの袋に手を伸ばした

 

 

 

「ん……。そういやデクとの旅の途中で見つけた、あのお宝……………今こそ役立ちそうだな。なあ、レイブン。お前に良い物をやるよ。今まで色んなお宝を手に入れてきた俺とデク、とっておきの逸品だ」

 

 

 

 そんな前置きをして取り出したのは機械的というかなんというか、ヤケに未来感の強い代物だった

 レイブンが見たところ、彼の知る鍛冶台に近い構造をしているようだ。まあ近未来的な外観だけならば、レシピ通りに決まった素材をぶち込めば一定時間で新しい道具を手に入れることのできる〈錬金釜〉を思い起こさせるものではあるのだが

 などと、同じシリーズの別作品に出てきたアイテムに思いを馳せていると、急にカミュが立ち上がって怒涛のマシンガントークを始めた

 

 

 

「その名も〈不思議な鍛冶台〉! 此奴の上に素材を乗せて不思議なハンマーでトンカン叩けば…………なんとビックリ! 金属の剣はもちろんのこと、木のブーメランになんと布の服まで! 材質を問わず凡ゆる装備が作れちまうんだ。凄えだろ!」

「カミュっ!? 急にどうしたの……!?」

 

 

 

 突如としてカミュは敏腕セールスマンのように〈不思議な鍛冶台〉とやらを解説する。余りの変貌ぶりにレイブンも普段の穏やかな言葉遣いではなく、ツッコミ芸人のように機敏に反応した

 若い男同士が揃うと馬鹿っぽい遣り取りが起きるのは最早必然というものだろう。男子中学生や男子高校生のような雰囲気といえば、大体わかってくれると思う

 相方の反応に満足したのか、カミュは今度は落ち着いた様子で〈不思議な鍛冶台〉をレイブンに渡す理由を話していく

 

 

 

「汗水垂らして鍛冶に励むのはガラじゃなくてな。余り使ってなかったんだが、お前なら使い熟せる気がするんだ。ちなみに、不思議な鍛冶をするには作りたい装備の素材と専用のレシピブックが必要なんだ」

「…………(なんだ、やっぱり〈錬金釜〉じゃないか)」

「ん…? 今なにか言ったか?」

「なんでもありません」

「なんで敬語?………まあ、いいか。そうだな……まずはこのレシピブックお前にやるから、この後に早速作ってみろよ」

 

 

 

 徐に渡された薄っぺらい数枚の紙の初めには〈不思議な鍛冶入門〉と記されており、残りの紙は〈青銅の剣〉と〈聖なるナイフ〉について書かれていた。このレシピブックで作れるようになる装備は、残念ながらこれ以外にはなさそうだ

 レイブンは折角なので、カミュの言う通り鍛冶をすることにした。必要な材料は彼の〈魔法の袋〉に入っていたので集めてくる手間は省けている

 

 

 

 今から作ろうとしているのは〈聖なるナイフ〉だ。先程カミュに譲った物は昔に旅の途中で拾った物なので年季が入っている。どうせなのだから、新調してしまおうと考えた次第である

 〈不思議な鍛冶台〉はその名の通り不思議なもので、レイブンが台の前に腰掛けると同時に独りでに炉に火が灯り、ほんの数秒で金属が融解するくらいの温度にまで上がっていく。ファンタジーな世界でなければ、ただの怪奇現象として処理されそうな不思議さだった

 

 

 

 〈聖なるナイフ〉の製作に必要な素材は銅の鉱石と清めの水が1つずつ。この場合の清めの水1つというのは、小瓶に入っている程度の量で問題ないようだ

 レシピブックの指示に従い、そのまま素材を炉に放り込む。少しすると清めの水と混ざり合い高温によって赤く変色した銅の鉱石をハサミで取り出して金床に置く。ハサミを離すと、不思議なハンマーによって一定の間隔で4回ほど叩いたレイブンは手応えを感じて、ハンマーを手放した瞬間────銅の鉱石が激しく光り輝いた

 

 

 

 3秒近く激しい光を放つと次第に収まり、金床の上には完成した〈聖なるナイフ〉が置いてあった

 手に取れば、つい数秒前まで真っ赤になるほど熱を持っていたとは思えないほど普通に触れる熱さで、レイブンは僅かに驚くも心の中で「ファンタジー乙」と呟いて直ぐに平静に戻る

 よくよく見ると、レイブンの作った〈聖なるナイフ〉は明らかに出来映えが良い。刀身には鏡のように観察するレイブンの姿が映り込み、刃は鋭くも脆そうな印象は皆無である。もっとわかりやすく言えば、カミュに渡した物が[攻撃力14]だとして、レイブンの作った物は[攻撃力20]は有りそうな感じといって伝わるだろうか

 そんな風に確認していたレイブンに、背後から声が掛かった。作業が終わったことに気づいたカミュによるものである

 

 

 

「………おう。初めての鍛冶お疲れさん。どうだ、上手くできたか?」

「うん。バッチリだよ。かなり良い出来映えだと思う」

「マジか! 初めての鍛冶なのに、やるなレイブン! 練習したらもっと上手くなると思うぜ! これからは不思議な鍛冶がしたいときは言ってくれよ。近くでキャンプすれば直ぐにできるようにしておいてやる」

「ありがとう! それじゃ、コレあげるよ。さっき渡したよりも性能は良いはずだから」

「……………お前、凄えな。〈勇者〉って奴は戦闘も鍛冶も得意なもんなのか!? まあ、折角くれるって言うならもらうぜ。サンキュー、レイブン!」

 

 

 

 不思議な鍛冶が大成功したことを伝えると、いっそ大袈裟なくらいにカミュは驚いていた。実際のところは彼も使ったことがあるからこそ、不思議な鍛冶の難しさを知っていると言うだけだが。自己申告の通り、汗水垂らして鍛冶をするというのはカミュの性格には合ってなかったということだろう

 完成した[攻撃力20]くらいの〈聖なるナイフ〉を当初の予定通りカミュに渡す。鞘から抜いてレイブンと同じように刀身を矯めつ眇めつ眺めると、彼は呆れたような調子で感嘆の言葉を漏らした

 そうした遣り取りの末に、ナプガーナ密林の夜は更けていったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて壱章の4話目を終了致します
今回は2日前がエイプリルフールだったので少し遊んでみたのですが、皆様には喜んでもらえましたでしょうか
もし面白いと思って頂けたのであれば嬉しいです


さて、早くも4月になってしまいました
初投稿から既に4ヶ月と思うとなんだか感慨深いですね
というか、今年はなんだか時間が経つのがとても早く感じるのはわたしだけなのでしょうか
まだ14話しか投稿しておらず、ストーリーの進行具合は序盤も序盤という現状を改めて考えると先が心配になります
この作品が完結するまでには何年掛かるのか、今更ながら不安です(白目)

それはそれとして、次の投稿は変わらず2週間後なので、4月17日になる予定です
遅筆で申し訳ないですが、これからもよろしくお願いします
今回もお読み頂きありがとうございました!


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