真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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今回は戦闘シーンがありますが、主人公からしてみれば圧倒的に弱い相手なので余り濃い内容にはなっていません
期待されている方がいたかもしれませんが、1話を丸ごと戦闘シーンだけに費やすような戦闘は暫く後になってしまいます
申し訳ありませんが、ご了承頂ければ幸いでございます

それでは、どうぞ





樵と悪戯デビル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャンプ地で一夜を過ごしたレイブンとカミュの2人は、昨日の夕飯と同じく干し肉などで簡単に腹ごしらえをした後にさっさと焚き火の始末を済ませる

 指名手配されている犯罪者である以上は、幾ら秘境と言われるナプガーナ密林の中でものんびりとしている余裕はない。2人の目的のためにも、朝からの素早い行動が求められているのだ

 とはいえ、昨夜はキャンプ地に着いた時間が遅かったこともあってすっかり陽が昇ってしまっていた

 

 

 

「さあ、イシの村を目指して進もうぜ」

 

 

 

 カミュの言葉に頷いて、彼の先導に従いキャンプを離れる。ナプガーナ密林からイシの村に繋がる道をレイブンは知らないので、大人しく後をついて行く

 すると、昨夜は暗くて気がつかなかったが、イシの村に向かう道の先に架かっていたであろう吊り橋は完全に壊れていた。どう見ても渡れるような状態ではない

 

 

 

「マジかよ……。弱ったな。此処を通る以外に兵士に見つからずイシの村に辿り着く道は知らねぇぞ」

「遠回りになるけど、下を通れば…………あれ?」

「くぅーん、くぅーん………」

 

 

 

 予想外の事態に2人が頭を悩ませていると、不意に背後から犬の鳴き声が聞こえてきた。切なげに鳴いている姿は可哀想であると共に非常に愛らしく、レイブンとカミュは僅かに笑みを零す

 2人が自分に気づいたことが犬にもわかったのだろう。まるでレイブンたちを何処かに導くように背を向けて走り出した。誘うように何度も振り向いて、ついて来なければ再び切なげな鳴き声を上げる

 レイブンが少し付き合ってあげたいという旨をカミュに告げると、どちらにしても先に進めないということで少しだけだぞ、と了承を得て2人は犬の後を追った

 

 

 

 キャンプ地の傍らにある小屋の右手に細道がある。犬は迷う様子もなく細道を駆けていくので、レイブンたちは顔を見合わせながらも追いかけていくと道の奥は行き止まりになっていた

 行き止まりの少し拓けた空間には2人を此処まで誘導した犬の姿があり、その犬は不思議な形をした根をジッと見つめている。アレを見せたかったのだろうか、と疑問に思いつつレイブンが近づいていく

 すると、近づくにつれてじんわりと左手の痣が熱を持ち始めたので確認すると、変わった形の痣は柔らかい光を放って発光していた

 

 

 

「おい、レイブン……お前それ昨日も…………」

「昨日……? ごめん、覚えてない」

「……覚えてないのか? デルカダールの丘から〈命の大樹〉を見てると思ったら、いつまで経ってもボケっとして動かなかった時も今みたいに痣が光ってたぜ」

「そうだったんだ……!」

 

 

 

 レイブンの記憶の中で痣が光ったのはイシの村で幼馴染のエマと一緒に成人の儀式を行った時だけだ。神の岩の頂上で突如現れたヘルコンドルに襲われて、驚いたエマが危うく大岩から滑落しそうになった瞬間、痣が強く光り輝くと呼応するように落雷が狙い撃ったかの如くヘルコンドルに直撃した

 そのお陰で2人は助かったのだが、アレはまるでレイブンが雷を呼んだようにも思えた。実際のところ前世の知識から、雷が魔力を帯びていた時点であの雷の正体には大体検討がついているのは今は置いておこう

 

 

 

 それ以降も、それ以前も痣が光り輝くようなことはなかった。しかし、カミュの言うことを信じるのであればレイブンが〈命の大樹〉を眺めている時にも痣が光っていたらしい

 今思い出せば、確かにレイブンはデルカダールの丘から〈命の大樹〉を眺めていた記憶がある。そして、カミュはボケっとしていたと言うが、あの時にレイブンは不思議な光景を目の当たりにしていたのだ。或いは、痣が光り輝いていたのと関係があるかもしれない

 

 

 

 またイシの村で生活していた時にも、村の中心にある不思議な紋様の浮かぶ大木の枝の上から遥か遠くの空に浮かぶ〈命の大樹〉をボンヤリと鑑賞することは多かった

 その時にも痣が熱を持つような、疼くような感覚がして、良く左手の甲を摩っていたのだ。もしかしたら今のように痣が光っていた可能性は否めない

 今も理由はわからないが、この不思議な形の根に反応してか淡く光を放っている。近寄れば近寄るほど光は強くなっていき、レイブンが左手を根にかざした瞬間────2人と1匹を眩い光が包み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「カッコン、カココン、木を切るべ〜♪」

 

 

 

 何処からか調子外れな歌声が聞こえて目を開く

 其処は小屋の横を通った先の行き止まりではなく、キャンプの側だった。此処まで戻ってきた記憶はもちろんないので、同じように戸惑ってキョロキョロと辺りを見回していたカミュと顔を見合わせて首を傾げる

 良く見ると直ぐ近くに先程の犬の姿も見える。くるくると自分の尻尾を追うようにして回っているところを見る限り、彼(?)にとってもこの状況は恐らく予想外だったのではないかと思う

 

 

 

「オラは樵、森の恋人〜♪ は〜ぁ、よっちょれ、よっちょれよぉ〜♪」

 

 

 

 そうしていると再び調子外れな歌声が聞こえてきて、声の人物は小屋の中から出てきた

 今も機嫌良さげに歌っている人物は、顎に蓄えられた白髭の他には特筆するところのない平凡な中年の男性だった。しかし、不思議なことにレイブンたちの姿は目に入っていないかのように身を翻し、壊れた吊り橋の方へと歩いていくのがわかった

 取り敢えずなにがなんだかわからないにしても、あの樵(仮)の男性について行くことにして、2人と1匹は後を追いかけて行く。すると、やはりというか吊り橋は無残な姿を晒していた

 

 

 

「なにぃ──っ!!」

 

 

 

 驚きの声を上げたのは樵(仮)の男性だった。実に見事なリアクションなので、レイブンが内心で芸人みたいだと笑っていたのは内緒である

 なにはともあれ、樵(仮)の男性の反応から察するに恐らく昨夜まで吊り橋は壊れていなかったのだとわかる。だとすれば、魔物の仕業か人為的なものだろう

 

 

 

「昨日直したばかりの橋が真っ二つ! また一からやり直しだ! 誰だべや、こんな酷いことする奴は!」

 

 

 

 樵(仮)の男性は本当に樵だったようだ。橋を架けていたのは彼で、つまり小屋に住んでナプガーナ密林で生活しているということになる。デルカダールで噂になるほどの秘境で暮らすとは中々逞しい人物らしい

 憤懣やるかたないといった様子で怒鳴り散らす樵の男性だったが、誰もいないと思われた壊れた橋から突如何者かが現れた

 

 

 

「ジャジャーン! それは、この俺………悪戯デビル!」

 

 

 

 そうして壊れた橋の下から飛び出してきたのは、薄紫の毒々しい体色、頭からは2本の触覚のような突起が生えており、蝙蝠のような小さな羽を背中に持つ魔物だった。顔は青緑色に三白眼で人相が悪い、正に小さな悪魔とでも言うべき見た目をしていた

 その小悪魔は樵の男性を嘲笑うように首を傾けて、北叟笑みながら驚いて硬直している彼に対して行動を起こした

 

 

 

「折角壊した橋を直されてたまるか。これでも喰らえ! 《悪戯変身ビィ〜〜ム》!」

「ぎょえ──っっ!!」

 

 

 

 小悪魔の指に桃色の光が灯り、徐に樵の男性に向けて突きつけた瞬間、文字通りにビームが発射された

 固まっていた樵の男性に避けられるはずもなく、敢えなく桃色のビームは直撃してしまった

 無論レイブンは止めようと動こうとしていたが、なぜか身体が動いてくれなかったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、まるで身体が自分以外の何者かに操られているかのようで気味が悪かった

 

 

 

 桃色のビームは樵の男性を包み込むように発光すると、暫くして光が収まった

 すると、其処には樵の男性の姿はなく、1匹の犬がいるだけであった。その犬は今もレイブンとカミュの側にいる犬に瓜二つ、いやそのものでありカミュなどは幻でも見ているかのように何度も繰り返し2匹になった犬の姿を確認している

 ワンッ! と先程の樵の男性がいた場所にいる犬が吠えるが、その声に篭る怒りは何処か虚しい

 

 

 

「ケッケッケー! 悪戯大成功! 樵を犬にしてやったぞ! オイラやっぱり天才かもね〜。さーてとっ! 次はどんな悪戯をしよっかな〜♪」

 

 

 

 小悪魔………いや悪戯デビルの言葉と状況から判断する限り、あの犬は樵の男性ということなのだろう。俄かには信じ難いが、この目で見てしまったのだから疑うのもおかしいかもしれない

 それはそうと、悪戯デビルは樵の男性にはもう興味がなくなったのか、巫山戯たことを宣いながらナプガーナ密林の奥へと入っていく。当然ながらレイブンは後を追おうとするが足は未だに動かなかった

 しかし、唐突に景色が変わる。辺りの木々などからナプガーナ密林の中にある何処かということはわかるが、具体的にはわからない

 

 

 

「そういや、この宝箱は空っぽだったな。しめしめ…………それじゃあ、お次はこの宝箱の中に隠れて………♪」

 

 

 

 すると、程なくして遠くから悪戯デビルがやってくると、1つの宝箱の前で足を止める

 新しい悪戯とやらを思いついたのだろう。見るからに性質の悪いことは考えているイヤラシイ笑みを浮かべながら、悪戯デビルは宝箱を開けた。悪戯デビルの言うように中身はない

 その光景を最後に、2人と1匹の視界が真っ白に染まっていく。それはレイブンが不思議な形の根に手をかざした時と同じ、暖かく優しい光だった

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 徐々に光が収まっていく感覚に従い、レイブンたちはゆっくりと目を開いた。目の前には不思議な形の根があり、まだレイブンの左手の痣も淡く光り輝いていたが、少し経つと萎むようにして消えていった

 白昼夢のような現象だった。だが、レイブンには以前にも似たような経験がある。いや実感してわかったのは、似たようなではなく正しく同じ現象であること。それでいて以前の現象は少し特殊だったのではないかということだった

 

 

 

「………今の光景は一体なんだ? レイブン……お前この根っこに………なにかしたのか?」

 

 

 

 当然といえば当然だが、カミュがそのように聞いてくる。レイブンの手の痣が光り輝いて、呼応するように不思議な形の根が光を放ったのだから無関係とは思わないだろう

 とはいえ、肝心のレイブンにも理解ができていない。だが、この根っこに痣が反応したこと。そして、カミュの証言から〈命の大樹〉を眺めていた時にも光り輝いていたということから、なんらかの関連性を見出すことは不可能ではないと思う。例えば、この不思議な形の根っこが実は〈命の大樹〉と繋がっているとか

 

 

 

「くぅ〜ん……」

「マジか……このワンコロが樵のおっさんだってのか………?」

「そう、みたいだね。信じ難いけれど………」

 

 

 

 そうして思案に耽っている2人の耳に切なげな鳴き声が聞こえた。足元を見れば其処にはもちろん、レイブンたちを此処まで導いた犬がいる

 先程の不思議な光景では樵の男性が悪戯デビルの《悪戯変身ビーム》とやらを喰らった後、この犬の姿に変わってしまっているように思えた。あの技で亡くなってしまったのでなければ、如何に荒唐無稽と言えども信じざるを得ないだろう

 

 

 

「やれやれ………。牢を出てからおかしなことばかり起きやがる。〈勇者様〉との旅は退屈しそうにねえぜ…………。まあ、どのみち橋が直らなきゃ俺たちはこの森から出られないか」

「なんだかごめんね…………。でも、そういうことなら早いところ樵のおじさんを助けてあげないと!」

「だな! ……さっきの光景が本当なら、このワンコロが橋を直せる樵なのかもしれねえ。魔物の入った宝箱を探して確かめてみないか?」

「うん、もちろんだよ!」

「それじゃ、まずは来た道を戻って怪しいところを調べてみようぜ!」

 

 

 

 この後の行動方針が決まった。2人の目的を達成するためにも、いるかもしれない追っ手を確実に撒くためにもナプガーナ密林は抜ける必要がある

 そして、そのためには吊り橋を修繕することのできる樵の男性の存在は必須であることは間違いない。仮に迂回して先を目指す場合は、ナプガーナ密林が秘境と呼ばれる所以をこの身で体感する羽目になるだろう。可能ならば避けたいのは当然だった

 

 

 

 ところで、昨日は横道になるべく逸れないで歩いて来たのであの宝箱らしき物は確認していない。先を急ぐ旅なのだから当然のことだが、こうなってしまっては虱潰しに探索する他なかった

 それから1時間ほどが経過した頃、2人は細い分かれ道に足を進めた。宝箱があった周囲の状況を思い出すに、片側は崖になっていたことをレイブンが思い出したのだ

 目星さえついて仕舞えば場所を絞り込むのは然程難しいことではなく、レイブンたちが入った分かれ道の奥の行き止まりには見覚えのある宝箱があった

 

 

 

「ケケケケ、来たな、来たな♪」

 

 

 

 2人がそっと近づくと、宝箱から微かに声が漏れて聞こえた。きっと、こうして予め警戒をしていなければ気づけなかったであろうほどに小さく忍ばせた声である。やはり随分と狡賢い魔物のようだ

 レイブンとカミュは確信を深めて、互いに準備は万全であることを確認して頷き合う。そして、宝箱の直ぐ側まで近づいた瞬間、バンッ! と独りでに宝箱が勢いよく開いたのだ

 

 

 

「ジャジャジャジャーンッ! 参上! 俺は…………悪戯デビル!」

 

 

 

 意気揚々と現れた悪戯デビル。樵の男性を犬に変身させたあの魔物だった

 宝箱を発見して開けようとしたところを驚かす作戦だったのだろうが、事前に一部始終を見ていたレイブンとカミュはもちろんピクリとも反応しなかった。つまり、悪戯デビルはとんでもなくスベってしまったのだ

 びっくりするくらいスベった悪戯デビルには悪いけれど、レイブンとしては宝箱に隠れていたことを知らなくても大して驚かなかった自信がある。なぜなら、世の中には宝箱に擬態するという恐ろしいまでに悪辣な魔物がいるのだから

 

 

 

「ふ〜ん………で?」

「ウケーッ! リアクションが悪いぞ! ならこれでびっくりさせてやる! いっくぞー!!」

 

 

 

 人間を驚かせることを楽しみにしている悪戯デビルにとって、2人の反応は耐えられるものではなかったようだ。更に、カミュが冷めた顔で煽る

 ドッキリの失敗に加えて塩対応で一気に怒りのボルテージが上がった悪戯デビルはまだ諦めていないらしい。くるくると回す指に見覚えのある桃色の光が灯る。先程は馬鹿にしていたカミュも油断はしていなかったので、悪戯デビル必殺の《悪戯変身ビーム》は2人に直撃することなく虚空へと消えていった

 

 

 

 宝箱ドッキリに《悪戯変身ビーム》のどちらも掠りもしなかったことが余程屈辱だったのだろう

 悪戯デビルは器用にも宝箱の縁に立ったまま地団駄を踏んで悔しがっている。しかし、人間を他の動物に変えてしまう《悪戯変身ビーム》は恐ろしい技だ。レイブンたちとしても最も警戒していたところなので、この結果は必然だった

 

 

 

「おいおい、どうしたそれで終わりか? もっとびっくりさせてくれよ」

「なんだとー! 生意気な奴らめ! なら今度はオイラの強さでビビらせてやる! いくぞぉっ!」

 

 

 

 悔しがる悪戯デビルを前にして、何処か活き活きとした様子でカミュが再び煽る。実に腹の立つ表情で悪戯デビルを嘲笑う。無駄に煽りスキルが高い

 地団駄ふむほどに怒っていた悪戯デビルはあっさりと煽られて、遂に実力行使に出るつもりのようだ。だが、それはレイブンたちとしても望むところである

 飛び掛かってきた悪戯デビルからバックステップで距離を取って、レイブンは〈鉄の大剣〉をカミュは〈聖なるナイフ〉を2本構えた

 

 

 

「ウケケケ! これでも喰らえ! ──光よ、迸れ──《ギラ》っ!!」

 

 

 

 先手を取ったのは悪戯デビルだった

 悪魔系の魔物だけあって魔法が得意なようで、レイブンたちが動くよりも早く閃光属性の基本呪文とされる《ギラ》を発動した。レイブンとカミュに向けてかざされた悪戯デビルの手から熱光線が放たれる

 基本呪文なので威力は低いが、両手剣で防いだレイブンはともかく、避けられずに直撃したカミュはそれなりの痛手を負ってしまった

 

 

 

「がは…っっ!?」

「……カミュ! ──聖なる力よ、我が祈りを導にこの者を癒し給え──《ホイミ》!!」

「ふぅ……。助かったぜ、レイブン! さてと……やりやがったな、この野郎っ!!」

「ケケケ………なっ、ウゲゲェ──っ!?」

 

 

 

 しかし、熱光線に焼かれたカミュの身体は、直ぐに回復呪文の《ホイミ》を使用したレイブンによって治された

 火傷の痛みは瞬く間に消え失せて、少し身体の動きを確かめるような動きをした後、カミュは怒号をあげながら悪戯デビルに反撃する。けらけらと笑っていた悪戯デビルを両手の〈聖なるナイフ〉で斬りつけた

 レイブンが昨夜作った性能の良い武器は悪戯デビルに大ダメージを与えたようだ。その様子を見ながら、レイブンはサポートのために魔法を詠唱する

 

 

 

「畳み掛けるよ! ──炎よ、集え──《メラ》!」

「うぐっ……そ、そんな簡単にオイラに勝てると思うなよ! ──『聖なる力よ、我が祈りを導に我を……………!」

 

 

 

 レイブンが追撃として放った《メラ》の魔法は悪戯デビルに直撃した。それは、攻撃と同時にカミュへと反撃しようとした悪戯デビルの動きを牽制する効果もあった

 本来ならば一撃で倒すような呪文も使えるが、此処に来る前の話し合いで、この戦闘はカミュを主軸にレイブンはサポートに徹すると決めてある。だからこそ、悪戯デビルの注意を逸らす程度の攻撃で留める

 そして、積み重なるダメージに危機感が生まれたのだろう。悪戯デビルは徐に《ホイミ》の詠唱を始めるが、カミュがその隙を見逃すはずもない

 

 

 

「させるか! ──《ヴァイパーファング》っ!!」

「……っっ!? 呪文が……! な、なんだ…? オイラの身体が上手く動かない………っ!!」

 

 

 

 詠唱の途中だったことで、カミュによる《ヴァイパーファング》は悪戯デビルの身体を強かに穿った

 その影響により詠唱が遮られてしまい呪文は不発。それどころか短剣技の《ヴァイパーファング》に内包される特殊効果、猛毒が悪戯デビルを蝕む。毒は悪戯デビルの動きを阻害して、致命的な隙を晒すことになる

 カミュは地面に蹲り悶えている悪戯デビルに接近すると、必殺の一撃を繰り出した

 

 

 

「これで仕留める! 《タナトスハント》──っ!! うおおお────っっ!!!」

「ウゲゲゲェ──っ!!」

 

 

 

 裂帛の気合と共に放たれた渾身の一撃は、悪戯デビルの身体を激しく斬り裂いた。悪戯デビルの矮躯は空高く吹き飛び、宝箱の直ぐ近くに力なく叩きつけられた

《タナトスハント》は対象が毒や麻痺に蝕まれている時に真価を発する技である。動きの鈍った敵の急所を正確に斬り裂き、体内を蝕む毒などの効力を爆発的に高めることで普通に攻撃する時とは比較にならないほどの大ダメージを生む奥義の1つなのだ

 敵を毒や麻痺にしなければ真価を発揮できないという特性から使用するタイミングはシビアだが、的中した時には想像を絶するほどの威力を叩き出す

 

 

 

「な……なんてこった…………。オイラの方が、ぶったまげたぁぁ──!!」

 

 

 

 その言葉を最後に、悪戯デビルは靄となって消滅した

 無辜の民を相手に悪さを繰り返した魔物は〈勇者〉たちの手によって、此処に敗れたのであった

 2人が武器を仕舞って互いを労っていると、背後から大声と共に慌ただしい足音が聞こえてきた。思わず振り返れば、あの不思議な現象の時に見た覚えのある樵の男性が此方に向かって走ってきていた

 

 

 

「おーい! おーい! 旅人さん方ー!!」

 

 

 

 レイブンたちの目の前まで来ると、余程急いで走ってきたのかぜぇぜぇと荒く息を吐いている。

 その姿は見間違えようもないほどに人間のもので、少し離れたところで待っていたはずの犬は見当たらない。それがどのような事実を示すのかわからない2人ではないが、流石に驚いた様子でカミュは目を見張って驚きの声を上げた

 

 

 

「……まさか、アンタあのワンコロか?」

「ワンッ……じゃない、おうっ! オラは樵のマンプク。アンタらのお陰で人間さ戻れただ。いやあ、ありがとうなんて言葉だけじゃ、オラの気がすまねえだよ。なにかオラに手伝えることはねえか?」

 

 

 

 樵の男性、マンプクは和かに笑いながらそう言った

 心の底から感謝してくれているようで、ニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべている。悪事でも頼まない限りはなんでも頼みを聞いてくれそうな勢いである

 当然のことをしたと考えているレイブンは、其処まで感謝してくれなくても良いのにと少し擽ったいような気持ちになる。それを尻目にカミュはニヤリと不敵に笑って頼みを告げていた。言うまでもなく、マンプクには橋の修繕を頼んだのだ

 

 

 

「それならお安い御用だべぇ〜! 橋の修理さ終わるまで、オラの小屋で休んで行くといいべや」

「へへっ、ありがとな樵のおっさん。そんじゃ、お言葉に甘えるとするか」

「そうだね。マンプクさん、少しの間お世話になります」

 

 

 

 そうして、2人はマンプクの家で疲れた身体を癒すのであった

 恩人のためと言って張り切っているマンプクは翌日までには仕上げると意気込んでいるので、早ければ明くる日の早朝から旅立つことができるだろう

 無理はしないようにとだけ言い含めて、その日は何事もなく過ぎていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて壱章の5話は終了です
楽しく読んで頂けたのであれば嬉しいです


今回は初めてのボス戦となるスモークに続き、カミュという仲間が増えたから初めてとなるボス戦でした
敵は悪戯デビルとレイブンと比較したら弱すぎる相手なので、カミュを中心とした戦闘という形にすることでそれなりのものになったと思います
主人公が俺TUEEEEE!のように無双するのも良いのですが、流石に相手が弱過ぎて描写が寂しくなってしまいますよね
ということで、カミュの性格的にも足手纏いは望むところではないだろうと思い、彼が活躍するような展開にしてみたのですが違和感はなかったでしょうか?
其処が少し不安ですが、まあ問題はありませんでしたよね?(願望)

どうでも良いことですが、樵のおっさん……もといマンプクさんですが、彼が人間に戻った時に「ワンッ!」と返事している時がありますよね
アレって犬になってる時にも「ワンッ!」って言って「ワンッ!」って鳴いていたということになるんですかね……?
いや、なに言ってるのかわかんねぇかもしれないですけど、犬になってる時は知能とかも犬並みになっていたと考えるのが自然なのか?
人間の時のように喋ろうとしても「ワンッ!」とか「くぅ〜ん……」になるならわかりますけど、アレでは「ワンッ!」って喋ってたことになるのだろうか………などと、下らないことを考えながら執筆していました

まあ、長々と書き綴った作者のつまらない裏話はともかく、次の投稿は2週間後の5月1日になります
はい、ゴールデンウィークですが投稿頻度は変わりません
むしろ仕事が忙しくなるからゴールデンウィーク中は真面に執筆できる気がしませんが、流石にそれはないでしょう………ないよね?(震え声)

それでは脱線もこの辺りで
今回もお読み頂き、大変ありがとうございました


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