真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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令和元年の初日に投稿です!
べ、別に狙っていた訳じゃないんだからね!?

……と思わずツンデレしてしまうくらいにはタイミングが良いですね
我ながら狙っていたとしか思えないなぁ〜
昨夜は徹夜してしまったので変なテンションかもしれませんが、どうか皆様の寛大なお心で許してください

では、最新話です
前回は悪戯デビルを倒して終わりでしたね
その続きからです、どうぞ!





イシの大滝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪戯デビルを倒した翌日…………レイブンとカミュの2人は一夜で修復された橋を前にマンプクと向かい合っていた

 もう少しゆっくりしていけば良いのにという彼には曖昧に誤魔化して、急がなければならない用事があると言って厚意を断った。人間に戻してくれた恩人として、2人は非常に慕われているようだった

 徹夜で修理に励んでくれたので眠いはずなのに、こうして元気に見送りをしてくれることからもマンプクの感謝の念が伝わってくる。こうして素直に感謝を示されると、やはり嬉しいものがある

 

 

 

「やーやー。お待たせしてすまんかっただ。壊れた橋はオラがバッチリ直したぞ。前の何倍も丈夫にしてやったべぇ〜!」

「おおっ、仕事が速いじゃねえか。お陰で助かったぜ」

「ありがとう、マンプクさん」

 

 

 

 自信満々のマンプクに促されて橋を見ると、確かに昨日までの無残な有様が幻だったのではないかと思ってしまうほどに立派な橋が架かっていた

 マンプクの言葉通り、あの不思議な空間で見た時の橋よりも更に頑丈に補強されている。これならばあの悪戯デビルが壊そうとしても容易には行かなかっただろう。とはいえ、木製なので《ギラ》のような魔法を何度も喰らえばその限りではないというのは仕方がない

 しかし、それにしても一昼夜で仕上げたとはとても思えない出来である。人畜無害な外見だが、マンプクは意外と凄い人なのかもしれない。なにしろ秘境と畏れられるナプガーナ密林の中で、近くに女神像があるとはいえそんな危険な場所に1人で暮らしているのだから変わり者ではあるだろう

 

 

 

「それにしても、其処の兄ちゃんが木の根に近づいたらオラが犬になんのが見えたって、あの話だがよ…………。ありゃあ、よく考えたら〈命の大樹〉の導きに間違いねぇべ〜」

「〈命の大樹〉の導き…………?」

「んだ。大樹の導きはオラが子供の頃から今は亡き祖父様から聞かされてきただ」

 

 

 

 マンプクはあの現象に心当たりがあるそうだ。〈命の大樹〉の導き、生憎とレイブンには聞き覚えがなかった。博識だった祖父のテオからも聞いた記憶はない

 小耳に挟んだこともないということは、滅多に起きない珍しい現象であるとわかる。そうなると色々と気になるところが出てくるが、マンプクの話の続きを聞いていればなにかわかることがあるかもしれない

 

 

 

「世界の真ん中に浮いている大きな木。あれは〈命の大樹〉さ言うもんだ。その葉っぱの1枚1枚に全ての生き物の命を宿し、世界の調和を保つと言われる神木だな」

 

 

 

 〈命の大樹〉……。レイブンの暮らしていたイシの村からも、デルカダールの丘からも見ることが出来る

 レイブンとカミュの2人も〈命の大樹〉について、今マンプクが語ったことは当然のように知っている。この世界ロトゼタシアで生きる者にとっては常識の中の常識、まだ物心がついたばかりの子供の頃から家族などから教えられることだ

 この話を知らないという人は、其れこそまだ自我の芽生えていない赤子やボケた老人か、恵まれた環境に生まれることが出来なかった人くらいのものだろう。一般的な知識を持つ人が側にいて、尚且つ人並みの親切心を持つ人がいれば誰でも一度は耳にするほど常識なのだ

 

 

 

 遥か昔から〈命の大樹〉は変わらず世界の中心に浮いているらしい。どうして宙に浮いているのかなど、〈命の大樹〉についてはわからないことばかりであるが神木と崇められるのには理由がある

 先程もマンプクが言っていたが、大樹の葉の1枚1枚には命が宿っている。それは人の命であったり、動物の命であったりと様々だ。もちろんレイブンやカミュの命が宿った葉っぱも〈命の大樹〉の何処かにある。その例外はなく、あるとしても魔物だけであろうと世の研究者たちは推測しているそうだが、まあ今は置いておく

 

 

 

 人が生まれるには母体となる女性がいるけれど、その身体に新たな命を宿した時と同時に大樹には新たな葉っぱが生える。その葉っぱこそが、赤子を宿した証になる

 ロトゼタシアにとって命とは〈命の大樹〉によって授けられるものである。命を授かることは尊く、だからこそ大樹は神木と崇められているのだ

 しかし、なぜ〈命の大樹〉の話が出てくるのだろうか。それについても、マンプクの話にはまだ続きがあるようだ

 

 

 

「そして、この森にある輝く木の根。あれは世界中に張り巡らされた大樹の根っこが顔を出したもんだ」

 

 

 

 あの不思議な形の根っこが〈命の大樹〉の根であることは、話の流れから予想は出来ていたので2人に大きな驚きはない

 だが、そうなると気になってくることは他にある。レイブンのことだ。正確には手の甲にある痣が大樹の根っこに反応していたが、その場にはレイブンの他にカミュや犬の姿になってはいたけれどマンプクもいた

 マンプクは知らないことだが、レイブンは〈勇者〉である。或いは、なにか関係があるのだろうか。2人はマンプクの話に静かに耳を傾ける

 

 

 

「そして、あの根は選ばれし者だけに大樹の意思を伝える。オラの祖父様はその不思議な奇跡を……………“大樹の導き”、そう呼んでいただ」

「……そういえば、あの時に見てたのも〈命の大樹〉だったよな? ほら、昨日も言ったがデルカダールの丘の時もお前の痣が光ってただろ。いつまで経っても動かねえから声を掛けたが…………。俺には見えなかったが、もしかしてなにか見えてたのか………?」

 

 

 

 マンプクの話を聞いて、カミュは思い出したようにそう告げた。もちろんレイブンにも覚えがある。昨日あの大樹の根っこの前で以前にもレイブンの手の甲が光っていたことがあると聞いて驚いたので、なにかあるのではないかと引っ掛かっていた

 それだけではなく、確かにレイブンは不思議な光景を目の当たりにしていた。あの時はカミュに問われて思わず誤魔化してしまったが、今考えると間違いなく昨日の現象と同じようなものだろう。相違点としては側にいたはずのカミュが、昨日とは異なりレイブンと同じ光景を見ていないことだ

 取り敢えずレイブンは頷いて、カミュにその時に垣間見た光景について話してみる。ただし、話している途中で最後の辺りが朧げになってしまっていることに気がつき、正確に伝えることは叶わなかった

 

 

 

「なるほどな。如何にも黒幕って感じに人相の悪い道化師の男か。其奴は何者なんだろうな……? まあ、考えても仕方ないか。つまり、今の話を聞く限りレイブンがその選ばれた存在とやらってことだな」

「そんなことがあったべか………。ダハハ。オラは幾ら根っこに話し掛けてもなんも起きなかった。祖父様のホラ話だと、今の今まで忘れてたぐらいだべ。兄ちゃん………あんた〈命の大樹〉に愛されてんだな。髪の毛もサラサラだし、羨ましい限りだべ」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)ドヤァ」

「ふーん……。〈勇者〉様は〈命の大樹〉に愛されし者って訳か。まあ、いいや。さっさと行こうぜレイブン。ところで、今なんか言ったか……?」

「……………………いや、なんでもないよ。やらないといけないことがあるし、今はとにかく先を急ごうか」

「あ、ああ……ならいいが」

 

 

 

 一瞬だけレイブンの口調が変わったような、以前にもカミュは何処かで似たような違和感を覚えた気がする。結局思い出せなかったので、2人は最後にマンプクに挨拶してその場を後にした

 橋を渡っても景色に変化はない。変わらず鬱蒼と木が生い茂る密林であるが、其処に今までは見なかった魔物の姿があった

 

 

 

「……! プギィ──ッ!?」

 

 

 

 三角帽子が地面をもそもそと動いている。なにかを探す仕草にも似ている

 帽子の形をした魔物かと思いレイブンが〈鉄の剣〉を手に近づくと、向こうも此方に気がついたようだ。三角帽子の下から円らな瞳と鼻、小さな手足が見えた。瓜坊のような姿の魔物が帽子を被っていたらしい

 瓜坊は凶器を構えるレイブンの姿を見て悲鳴をあげる。そして、小さな手足を必死に動かして、2人の前から意外なほどの速度で逃げていった

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 魔物に逃げられるという微妙な事件はあったが、2人は順調にナプガーナ密林の探索を進めていた。薬草や毒消し草を拾ったりと収穫もある

 戦闘にしてもカミュが悪戯デビルとの戦いで勘を取り戻してきたのか、調子良く魔物たちを倒していく。魔物に囲まれることもあるが、徐々に習熟していく2人の連携もあってか大きなダメージはない

 途中で昼食を挟みながらも探索を進めると、昼過ぎから2時間ほどでナプガーナ密林の出口に辿り着いたようだった

 

 

 

 ナプガーナ密林を出た先の光景は、レイブンにとっても見覚えのある場所だった。先日通ったばかりなのだから、それは当然のことなのだが…………

 レイブンがイシの村を旅立ってデルカダール城に向かう時に通った道だ。記憶が確かならば直ぐ近くにイシの村があるはずである。そのことをカミュに伝えると、彼は心なしかほっとしたように見えた

 

 

 

「おっ、やっぱりそうか。じゃあ、早速行こうぜ」

 

 

 

 この数日で見慣れた不敵な笑みを浮かべたカミュがそう促してくれる。彼としても目的があるため、レイブンの用をさっさと済ませてしまおうと考えるのは当然のことだ

 しかし、レイブンは首を横に振った。無念そうに眉を顰めていたが、瞳には強い光が灯っている

 

 

 

「………………村には帰らない。僕が行くことによってデルカダールに気づかれてしまうかもしれない」

「それはそうだが………。なら、どうするんだ? お前のこと心配してるかもしれねえぞ?」

「うん。だから、少し考えがあるんだ。〈馬呼びの鐘〉が近くにあるから一旦其処に行こう」

 

 

 

 其れは、確かに懸念してしかるべきことではあった

 レイブンは王座の間でデルカダール王に問われた際に定住はしていなかったと言ったが、相手が彼の物言いを本当に信じているかは疑わしい。そうでなくとも、指名手配犯として捜索されている身である

 王命とあっては草の根を掻き分けるような勢いで2人を探していることだろう。もしイシの村に向かうところを見られてしまっては、レイブンとの関係を誤魔化すことは難しくなってしまうかもしれない。それを避けるために道中で思いついたことがあった

 

 

 

 2人は左右が崖に囲まれた隘路に入る。イシの村に繋がる一本道だが、此処にレイブンの探すものがある

 時々襲い掛かってくるスライムやモコッキーは先を急ぐレイブンの両手剣により文字通り薙ぎ払われていく。後ろをついていくカミュには、まるで無人の野を歩くような気分だったことだろう

 少しすると、道の脇にレイブンが〈馬呼びの鐘〉と呼ぶ鐘を見つけた。これを鳴らすことにより、離れたところにいても愛馬を呼び寄せることが出来るのだ

 

 

 

「ブルル……ッ!」

 

 

 

 鐘を鳴らして暫く待っていると、デルカダール王国の方からレイブンにとって見慣れた白馬がやって来るのが見えた

 荒々しい鼻息を鳴らして、レイブンに頭を擦り付けるようにぶつけてくる。どうやら大いに心配させてしまったらしい。馬は動物の中でも賢い生き物なので、或いは主人になにかあったことを察していたのかもしれない

 宥めるように鼻筋を撫でたり、頭を抱えるように抱きしめていると徐々に落ち着いてきた

 

 

 

「…………心配させてごめんね。早速で悪いけど、君にはお願いがあって呼んだんだ。これを村のみんなに届けてきてくれないかな」

 

 

 

 そう言って、レイブンは小さなポーチを白馬の首に引っ掛ける。ポーチの中には手紙が入っていた。昨夜に樵の小屋で手紙を認めていたのをカミュも見ていたので、自然と中身には検討がついたらしく複雑な表情を見せている

 首を優しく撫でさすりながら真摯に頼み込むと、白馬はコクリと頷いてゆっくりとした足取りでイシの村へと歩いて行った。走っていかないのは、レイブンが村に戻るつもりがないことを悟ったからだろう

 口を挟まずに遣り取りを見ていたカミュだったが、何処となく困ったような様子で問い掛けてきた

 

 

 

「なあ、レイブン。本当に顔見せなくて良いのか……? きっと、暫く会えなくなるぞ」

「それでも、みんなに危険が及ぶ可能性があるならこれが最善だと思うんだ。だから、此処にはあまり長居したくない。…………先に進もう。あともう1つ行きたいところがあるんだ」

「………………お前がそれで良いなら、もうなにも言わねえよ。その後で俺の目的に付き合ってくれたら、それで構わないさ」

 

 

 

 2人は足早にその場を後にする

 隘路を抜ける直前にレイブンは1度だけ振り返るがそれだけで、以降は振り返ることなくイシの村を背に歩き出した

 レイブンは知る由もないが、それから凡そ30分後、イシの村では怒り狂ったペルラやエマなどを必死に取り押さえるダンを筆頭とした男性陣がいたとか、いなかったとか………………

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 イシの村を後にして暫く、2人は西へと足を進めていた。偶然だが、カミュの目的地であるデルカダール神殿も同じ方向である

 道中でレイブンは自分の用事について話した。先日デルカダールの地下牢から脱出した翌日に不思議な夢を見たこと。その夢の中で謎の人物に、イシの大滝にある三角岩の下を掘り起こすように言われたことを伝えた

 突拍子もない話に初めはカミュも半信半疑だったが、この数日で幾度も起きた不思議な現象が脳裏を過ぎったのか、そんなこともあるかもなと一見投げやりな物言いで賛同してくれた

 

 

 

 レイブンたちは程なくイシの大滝に辿り着いた

 大滝と言うだけあり、轟々と音を立てる滝は壮観の一言だ。さわさわと風が木の葉を揺らす音や水を飲みにきた小鳥たちが奏でる音が混じり合い、なんとも風情のある場所であった

 その光景を前に、レイブンは懐かしそうに目を細めている。釣りが好きだった祖父に連れ添う形で、幾度かこの場所には連れてきてもらっていたのだ

 

 

 

 物思いに耽るように暫し目を瞑っていたレイブンだが、カミュに促されて思考を断ち切る

 青空を思わせる瞳に名残惜しげな色を見せながら、先を急ぐために目的を果たそうと滝壺の側にある特徴的な三角岩へと歩み寄る。レイブンは膝をついて岩の前にしゃがみ込むと、軽く地面の砂を払ってなにか痕跡を探そうとする

 すると、三角岩の正面側に1度掘り起こしたような跡があった。恐らく、此処になにかしらを埋めたのだろう。幸いというか近くに水辺があるため、程よく柔らかい土を素手で掘り出すと1つの箱を見つけた

 

 

 

 土汚れ以外には目立った破損はない。箱の仕立ては上等な様子で、劣化具合から埋めてから何十年と経っている訳ではないことはわかる

 背後からはカミュも興味深そうに顔を覗かせる。レイブンも覚悟を決めて箱を開くと、中には2枚の手紙が入っていた

 1枚は少し色褪せている程度だが、もう1枚はかなり劣化が進んでおりボロボロに擦り切れている。先程は気がつかなかったが2枚の手紙を手に取ると、手紙の下には蒼玉に似た美しい色合いの宝石が入っていた

 

 

 

「手紙か。1つはかなりボロボロだな」

 

 

 

 一体これはなんなのだろうか。宝石のような代物についても気になるが、まずは手紙の方を読んでみることにした

 ボロボロに擦り切れた手紙には妙に洗練された印が押されており、レイブンは何処かで見たことがあるような気がする。世界中を旅していた時か、或いは祖父に見せてもらった書物に載っていたのだろうか

 どうにも気になるが、答えは手紙を読めばわかるとレイブンの〈直感〉が告げていたので、慎重に壊さないようそっと開いてみる

 そして、手紙に書いてあった内容を見て、レイブンは彼にしては珍しく大きな動揺を表した

 

 

 

『レイブン………。貴方がこの手紙を読めるようになった頃、私はもうこの世にはいないでしょう。貴方が生まれて直ぐ、故郷のユグノアの地が魔物に襲われました。私は貴方を逃がすので精一杯でした。良いですか、レイブン。心ある人に拾われ立派に成長したら、ユグノアの親交国であるデルカダールの王を頼るのです。貴方は誇り高きユグノアの王子。そして、忘れてはならないのが大きな使命を背負った〈勇者〉でもあります。〈勇者〉とは大いなる闇を打ち払う者のこと。いずれこの言葉がなにを意味するのかわかる時が来るでしょう。レイブン………。一緒にいてあげられなくて、ごめんなさい。無力な……母を、許し………て…………』

 

 

 

 手紙の内容を読み解く限り、恐らくこれを書いたのは魔物の襲撃があった日なのだと思う。几帳面な性格なのか綺麗な字で書かれているが、最後の方は急いでいたらしく雑な走り書きになって途切れてしまっている

 この手紙を読んだレイブンは、猛烈に込み上げてくる感情があった。母への愛情と強い郷愁、故郷を襲ったという魔物に対する怒り、そしてデルカダール王を頼るように言っている母に対する疑問である。自分の出生が王子だったことは今はどうでも良い

 

 

 

 レイブンは中身が転生者であるため、育ての親であるペルラとは別に、自分をこの世に生んでくれた生みの親となる人物についても覚えている

 とはいえ赤子であった所為か、視界がはっきりとしていなかった影響で顔などは記憶になく、意識も曖昧だったのか記憶も途切れ途切れで朧げという拙いものだ。だが、なんとなく母親がとても綺麗で優しい理想的な女性であろうことは薄っすらとわかっていた

 それもあって、レイブンは今自分が抱いている愛情が親に対するものなのか少し自信がなかった。どちらにしても母親への愛情は強く、故郷を襲った魔物に対しては穏やかな気持ちではいられそうにない

 

 

 

「………………………。どうやらお前の母親の手紙のようだな。そっちの手紙はどうだ?」

 

 

 

 カミュの声にハッと意識を取り戻す。無意識の内に怒りの感情に囚われそうになっていたようだ。あまり良い状態とは言えない

 気分を切り替えるためにも、もう1つの手紙を読むことにする。母親からの手紙はこれ以上は破けないように丁寧に畳んで〈魔法の袋〉に仕舞って、2つ目の手紙を手に取った

 だが、再びレイブンは驚愕を隠せなかった。なぜならもう1つの手紙を書いた人物は、彼の尊敬する祖父であるテオその人だったのだ。……内容はこうだ

 

 

 

『親愛なる孫、レイブンへ。未来から来たお前に出会った後、儂は約束通りお前の道標となる物を此処に埋めておいた。母親の手紙はもう読んだかのう? あの手紙はお前が流されて来た時、一緒に入っていた物じゃ。儂はあの手紙に従いお前をデルカダール王国に向かわせたが、辛い思いをさせたようじゃの。お前から話を聞いて悩んだのじゃが、儂には未来を変えることがどうしても恐ろしく思えてお前の辿る運命を変えることは出来なんだ。卑怯な話ではあるが、許してくれなどとは言わぬよ。…………話を戻そう。なぜユグノアの地が魔物に襲われ、〈勇者〉が〈悪魔の子〉と呼ばれているのか。儂には見当もつかなかった。未来のお前はそのことについてもなにやら知っておるようじゃが、語りたくなさそうな様子だったので結局わからずじまいじゃな。なれば真実は自分の目で確かめるしかない。東にある旅立ちの祠の扉を開ける〈魔法の石〉をお前に授けよう。それを使って世界を巡り、真実を求めるのじゃ。お前が〈悪魔の子〉と呼ばれ追われる〈勇者〉となった全ての真実を………………。レイブンや。人を恨んじゃいけないよ。儂はお前の爺じで幸せじゃった』

 

 

 

 ………この手紙を読んで、レイブンに思うところがないと言えば嘘になる。不可解な点も多くあり、今此処で考えたところでわからないことばかりだった

 未来から来たというレイブンはテオと会い、それまでに起きたことを語ったのだろう。しかし、全ては話さなかった。その理由はわからない。少なくとも今のレイブンには知り得ないようなことを沢山、信頼する祖父にも話すことが出来ないような重大な情報を抱えていることは想像に難くない

 

 

 

 それから、テオが未来を変えることを恐れて出来なかったという記述については特に思うところはない。むしろ下手に行動しない方が正解だと、祖父の先見の明には感心するばかりであるくらいだ

 前世で未来や過去を変えるという物語が幾つか記憶にあるが、それらの殆ど全てが碌な結末ではなかった。タイムパラドックスは恐ろしい。この一言に尽きる

 故に、この先レイブンにできることは手紙に書いてある通りに世界中を旅する中で様々な謎を解明していくことだろう。出来ることならば、自らの手で解決してしまうのが望ましい

 

 

 

 1人で考えに耽っていると、不意に肩が叩かれた。この場にはレイブン以外にはカミュしかいないので、もちろん肩を叩いた人物は推して知るべし

 またしても沈思黙考に入りカミュの存在を忘れてしまっていたが、大まかな方針が決まったのであればのんびりしている時間はない。刻一刻とデルカダールの捜索の手は伸びているに違いないのだから

 

 

 

 テオからの手紙を丁寧に畳んで仕舞うと、続けて〈魔法の石〉が入ったままの箱を袋に入れようとして止める。なんとなく石だけは別にした方が良い気がして、服のポケットに仕舞っておく

 立ち上がってカミュと向かい合い、これからの行動方針を擦り合わせる。といっても、今までの動きに新たな目的が加わったに過ぎないので簡単な確認をするだけで2人の話し合いは直ぐに終わった

 どうやらカミュは自分の目的を果たした後も、レイブンを手伝ってくれるつもりのように思えた。危険な旅になりそうだが、彼であれば問題はないだろう

 

 

 

「よろしくな、レイブン」

「うん。こちらこそよろしく、カミュ」

 

 

 

 次なる目的地はデルカダール神殿。レッドオーブを新たに安置した場所である以上、一筋縄ではいかないと想定しておくべきだろう

 純粋な戦闘力でレイブンに比するのはグレイグくらいのものだと思うが油断は大敵という。追われる身であることを自覚した慎重な行動が成否を問う。それでいて素早く任務を遂行する必要があるのだから大変だ

 レイブンは最後にイシの大滝を目に焼き付けるように眺めて、先を歩くカミュの後を追っていった。この時の2人は、まさかデルカダール神殿があのようなことになっているとは露にも思っていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて壱章6話を終了します
今回はサクサクと話が進みましたが、オリジナル展開になるので原作を知っている方にはどう映るのでしょうか?
あまり強い言葉は使わないでくださいね、私のメンタルは弱いのです

原作ではイシの村に向かうことでストーリーが進むのですが、この作品では手紙を送るだけになりました
これは最初からそのつもりだったので、壱章の1話目からそのための道筋を立てていました
もっと言えばデルカダール王への返答の時点でもしかしたらと感じていた方もいたのではないでしょうか?
世界中を旅して酸いも甘いも経験しており、便利な転生特典を持っていることもあって主人公は取り敢えずイシの村を守ることには成功しました
尤も、自己犠牲のような遣り方は褒められたものではありませんが

主人公の親に対する感情はかなり複雑なものです
本人に自信はありませんが、ちゃんと母親に向ける愛情ではあります
転生者として赤子の頃からある程度は成熟した精神性を得ていたのですが、赤子であるが故に基本的に意識は薄く、もう少し意識がはっきりとしていれば今のように悩むことはなかったでしょう
加えて、彼には母親が2人いることがややこしくしています
ペルラに対する愛情は親に向けるものだと自信を持って言えますが、記憶が曖昧な両親には無意識化での強い郷愁などが混ざり合い、正確に感情を掴むことが出来なかったということです
主人公は戦闘力的にはかなり強いですが、実際には精神的に不安定なところが幾つかあるので、それらが後々大きなミスに繋がります


さて、毎度後書きが長くなってしまい申し訳ないです
次の投稿日は2週間後の5月15日になります
カミュ視点の話として展開していく予定ですので、私が上手く表現できることを願っていてください
まあ楽勝だと思いますけどね!(震え声)

それでは、今回もお読み頂きありがとうございました
また次の投稿をお待ちください


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