真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね 作:お茶に煎餅、お酒にチーズ
今回は本編ではなく閑話になります。
以前に投稿した閑話と同じく3つの短編からなっています。
レイブンとカミュがキャンプで雑談するだけの話
昔のテオとレイブンが旅をしていた頃の話
その後のイシの村、手紙が届いてからの話
ーーーと、この短編3話でお送りします。
最後が後味の悪い終わり方をしていますので、シリアスが嫌いという方は読み飛ばして頂いても本編に差し障りはありませんのでご安心ください。
まあ作者の私自身にシリアスを上手く書く技量はないと思うので、数々の二次小説を読んで鍛えられた皆様が(´・ω・`)されてしまうような内容ではないないでしょう。
では、本日もお楽しみください
閑話②
〜とあるキャンプの夜に〜
デルカダール神殿の最奥にてイビルビーストを倒したレイブンとカミュの2人は、神殿から少し離れた位置にあったキャンプで疲れを癒していた。
なぜか神殿に巣食っていた魔物やオーブを狙っていた理由などを考察しながら夕飯を食べていたが、食べ終わっても暫く考えていたが答えは出なかった。取り敢えず話は保留ということになり、今度こそ気を楽にして取り留めのない雑談を始めた。
初めは当たり障りのない内容だった。どうやって強くなったのか。今迄にどんな宝物を手に入れてきたのか。そんな程度であった。
拾われ子であるレイブンも、盗賊だったカミュも、そうなる経緯などにお互い深入りするのは躊躇われる。こうして旅を共にすることで仲良くはなっていても、踏み込んで良い領域と駄目な領域は必ずある。
しかし、急にカミュが悩むように腕を組んで目を瞑る。パチリと焚き火の弾ける音だけが響く中、暫くして目を開けたカミュは真剣な表情で口を開いた。
「そういえば気になってたんだが、レイブンの爺さんってどんな人だったんだ?」
「お爺ちゃんは、うん……僕の尊敬する人かな。色々なことを知っていて、やろうと思えばできないことなんてなさそうで、なによりも自由な人だったよ」
「……自由か。まあ、其れはいいや。色々知ってたって言ったが、あの手紙にはまるでお前がこうなることを知っていたようなことが書いてあったよな。未来のお前から聞いたとかなんとか………って」
そう言われて、レイブンも改めて手紙の内容を思い起こす。確かにそう取れるような、というかはっきり「未来から来たお前から話を聞いた」と書いてある。
勿論レイブンには過去に行って今は亡き祖父と会話した記憶はない。だとすれば、あの一文は嘘であったのかといえばテオをよく知るレイブンは違うと断言できる。戯れに人を揶揄うことはしても、意味のない嘘をつくようなことはしなかった人だ。一考の余地もない。
だが、そうなるとレイブンが過去に戻ってテオと話をしていなければ辻褄が合わない。あの手紙の存在がある以上は嘘でないことは間違いないのに、まるで過程を飛ばして結果だけが残ったような妙な感覚である。
2人して首を傾げるが、実際のところ余り真剣に考えていない。翌日には旅立ちの祠を目指す予定だが、此処までに一度も追っ手とは遭遇していない。
有り体に言えば、この時の2人は油断していた。本人たちも認識していない程度の油断ではあったが、此れが明日の修羅場を招くことになるとは思いもしなかったであろう。
「ふーん……レイブンにも覚えはねえのか。なにかお前が指名手配されてる現状の手掛かりくらいはあると思ったんだが、世の中そんな都合良くはないか…………」
夜を徹して悩み明かすほど真剣には考えていなかったが、これから先も切っては離せない相方の問題であるし、カミュも適当に話を振った訳ではなかったらしい。
というのも、基本的に彼は誤解されやすい性格なのだろう。普段の飄々とした態度から不真面目だと思われることが多いかもしれないが、彼は元来からして義理堅く人情に厚い男だった。
世界は決して優しくない。カミュはそんな厳しい現実を知っているため常に人との間に一本の線引きをして、態と斜に構えたような態度を取っている。
なぜなら、そうでもしなければ困っている人間を放って置けない性分の彼は見捨てることができないから。自分が生きるのに精一杯なのに人助けなんてしていられない。盗賊としての生活を彼なりに楽しんではいたが、当然のように裕福であるとは言えなかったのだから。
或いは、無意識の内に人の心の奥深くに触れることを恐れているのかもしれない。それでもデクやレイブンを相手に親しい関係を築いてしまうのは彼が彼である以上は仕方がないのだろう。
「……まあ、何れわかることか。これ以上は考えても意味ねえし、他の話でもしようぜ」
「そうだね。でも、なんの話をしようか。今迄通りにお互いの知りたいことを訊くってことでどうかな?」
「それでいいか。じゃあ、さっき言ってたが、レイブンは戦い方とか、旅をする心得は爺さんから全部教わったんだよな。片手剣に大剣、二刀流は知ってるけど、他にはなにが扱えるんだ?」
「どんな武器を扱えるかって質問……? それなら基本的な武器は大丈夫だよ。僕は剣と徒手が得意だったんだけど、お爺ちゃんは槍と短剣と爪を好んで使ってたんだ。それで僕も教えてもらって、人並みには使えるようになれたかな。他の武器も使い心地を知っているのと知らないのとでは全然違うから、一通り握ったことはあるけど扱えると言えるほどではないね。実戦で使っても問題ないのは剣と徒手、あとは槍と短剣くらいだからカミュが期待してるほどじゃなかったかな……………?」
「いやその理屈はおかしい」
なんとなしに質問してみたら、とんでもない答えが返ってきた。しかも、本人は全く凄いことだとは思ってないことが、のほほんとした顔から伝わってくる。
駄目だ此奴……なんとかしないと………!! カミュは降って湧いてきた使命感に燃え上がった(燃え上がったとは言っていない)。レイブンには一刻も早く常識を叩き込まなければ、きっと後々とても恥ずかしい思いをすることだろう。
だが、なんと言えばいいのか。冷静になって考えてみると大した問題でもないような気がしてきた。さっきは混乱してしまったが、別に少し勘違いしているくらいだし大丈夫だろ、と放置が安定と結論を出した。
「………カミュ? なにか気になることでもあった?」
「お、おう。なんでもねえよ。それより今の俺だと話を聞いてもお前の凄さが正直わからないな。レイブンさえ良ければ、また今度短剣を使って見せてくれよ」
「それはいいけど。まだデルカダールと近くて落ち着かないからひと段落したらね」
急にカミュが黙ったので、レイブンが不思議そうに尋ねてくる。取り敢えずなんでもないと誤魔化して、話を逸らす。
レイブンも特には疑問に思わなかったようで、素直に頷いて後日に短剣を使うところを見せると約束をした。この辺りの魔物ではレイブンに擦り傷をつけることも不可能なので、得意な武器以外で戦闘をする余裕くらいは普通にある。
この時の妙に気持ちが落ち着かなかったのは明日の事態を無意識に察知していたからなのか。単純に追われる身であるために神経質になっていただけなのか。
なにはともあれ、旅立ちの祠に向かう前日の夜は比較的に緩い感じで過ごしていた2人であったとさ。
〜過ぎ去りし日々の幻影〜
「お爺ちゃん……何処まで行くつもりなの? もう日が沈んできたし、キャンプを探さないと危ないよ」
「ほほほ。そう焦らなくても大丈夫だよレイブン。目的地の近くにはキャンプがあるから心配する必要もない。無理に急ぐと却って到着が遅くなってしまうよ」
茜色に染まりつつある空。舗装のされていない荒れた道を慣れたように歩きながら、恐らく10歳にもなっていないであろうレイブンと呼ばれた幼い少年が、焦りを滲ませた口調で数歩後ろをゆっくり歩く老年の男性、かれの祖父を急かそうとする。
それに対してレイブンの祖父は、柔らかな笑みを湛えてレイブンの不安を消し去るようにわかりやすく諭した。言葉通りに急ぐ必要はないのだろう。それに歩調こそゆっくりだが、年老いた外見からは信じられないほどに力強く荒れ道を歩いている。見た目通りの好々爺ではなさそうだ。
幼さに見合わず聡明なレイブンは、彼が慕う祖父の言葉を正確に受け止めていた。昨日に仮面武闘会を観戦した時の興奮が残っていたのかもしれない。気が急いていたことも、ちゃんと自覚していた。
久方振りの長旅であることも先を急がせようとした要因の1つだろう。日の位置を確認して冷静な判断を下しているように見えたが、実際のところは旅が楽しくて仕方がない子供なのだ。それでいて夜の危険もわかっているからこそ焦りに繋がってしまった。
かなり足場は悪いので祖父の言うように、無駄な体力を消耗して本末転倒な結果になっていたかもしれない。
「…………うん。確かに焦ってたみたい。お爺ちゃんは凄いね。昔は世界中を旅していたって言ってたし、やっぱりこの辺りにも来たことがあるの?」
「そうじゃな………。儂の記憶が定かなら10年以上も前のことではあるが、この地には訪れたことがあるのう。当時はこの辺りの道もこんなに荒れ果ててはおらなんだが。しかし、あの噂が確かならそれも仕方がないのじゃろうな」
そう言って懐かしそうに目を細めるが、何処か寂しげな表情に見えた。今でこそ全く舗装されていない道だが、かつての名残であるのか朽ちた看板が道端に転がっていたり、よく見れば踏み固められて自然にできた道とは違うことがわかる。
それらの事実を確認して感心するように頻りに頷いていたレイブンだったが、祖父の最後の一言を聞いて首を傾げた。噂とはなんだろうか。いや、こんなにも荒れ果ててしまうような理由はまるでわからないが、祖父の言う噂には心当たりが1つあった。
「あの噂って………? うーん、あっ! もしかして此処に来るまでに寄った街で、お爺ちゃんが知らない人に訊いてたユグノアって言う昔に滅びちゃった国のこと?」
「うむ。ちゃんと話を聞いていたようじゃな。儂はてっきり、興味のない話で詰まらなくて聞き流しているものだと思ってたよ」
「えっ……ああ、うん! もちろん聞いてたよ。当たり前でしょ! 旅の中ではたった1つの情報が生死を分けることもある、って教えてくれたのはお爺ちゃんだよ。昨日泊まったグロッタの町の宿屋で女将に聞いてた時にも直ぐ横で聞いてたんだから!」
「ほっほっほ……それは済まんかったのう。疑うようなことを言って悪かったよ。ところで、ユグノア王国はどうして滅んでしもうたんじゃったか?」
「まだ疑ってるの!? ……えーと、ユグノア王国は急に現れた魔物の大群に襲われたんでしょ? 五大国の首脳陣で集まって何か秘密の会合をやっていたから兵士も沢山いたはずだけど、それでも対処できないような魔物の群れだったって………………」
その光景を想像してしまったのか、レイブンはぶるりと大きく体を震わせた。国を滅ぼすほどの魔物、しかも五大国の1つであったユグノア王国を一夜にして滅ぼしてしまうくらいの規模は想像するだけでも恐ろしい。
空と地を覆い尽くし、逃げ惑う人々に群がる魔物たちの悍ましい姿。果敢に戦い勝利を収めるも、何処からともなく現れた別の魔物に襲われる兵士。戦装束に身を包む精悍な面立ちの男、幼くも気品を感じさせる少女と手を繋ぐ凛とした雰囲気の美しい女性。
白昼夢のように妙に鮮明なイメージが脳裏に浮かび上がったことで、恐怖によるものかレイブンはその場で立ち竦んでしまった。
「……………むっ!? これはいかん! しっかりするんじゃレイブン! 儂の声は聞こえておるか!? ………駄目か、意識が朦朧としておる。薬草を煎じている時間もなさそうじゃな。それならば! この魔法で治ってくれ────《ベホマ》!!」
孫の異常に老年の男性は直ぐに気がついた。茫洋とした目で虚空を見つめながら荒い呼吸を続けるレイブンに必死に呼び掛けるが、まるで意識だけが別の場所に飛んでしまっているかのように反応がない。
老年の男性は日中の暑い時や水分を十分に取っていなかった者が見せる症状に似ていると思った。そして、何十年も前の話だが、砂漠で倒れている人に対して回復の魔法を使用して症状が改善したことがあった。縋るような気分で今使える最上級の回復魔法を使うと、直ぐにレイブンの様子は良くなっていった。
不思議な光景を見続けていたレイブンは、その光景が不意に途切れると同時に激しい疲労感を覚えた。視界は霞み体は怠く呼吸も荒い。目の前には自分の肩を掴んでおり、徐々に視界が回復すると祖父が酷く心配そうに顔を覗き込んでいるのがわかった。
意識が戻ったことは老年の男性も理解できたようだ。無事で良かった、とレイブンを強く抱き締める。状況がわからないレイブンだが、年齢に見合わない成熟した精神が先程までの自分の状態を冷静に推理していた。
「……ありがとう。もう大丈夫だよ、お爺ちゃん」
「うむ。そのようじゃな。意識もはっきりしておるようだし、もう問題はなさそうかな? なにかあったら直ぐに言うんだよ。しかし、急にどうしたんじゃ………?」
「うぅん……ごめんなさい。でも、変な光景が見えてたんだ。なんて言えばいいのかわからないけど、とても怖かった気がする」
そう言ったレイブンはどんな光景が見えていたのかを覚えている限り詳細に祖父へと伝えた。既に朧げになり掛けている記憶を掘り起こしながら話すと、老年の男性は暫く唸った後に納得したように頷いた。
なにかに納得した後、老年の男性は「怖かった」と言ったレイブンを今度は優しく抱き寄せる。そうすると抱き締められた孫の体が僅かに震えていることに気づいて、安心させるように軽く背中を摩った。気丈な様子で説明をしていたレイブンだったが、聞いた通りの光景を見たとすればそうなるのも当然と言うものだろう。
「なるほどのぅ……。そんなことがあったのか。今日はもう休んだ方が良さそうじゃな。目的のキャンプまではそう遠くはない。あともう少し頑張れそうかな?」
祖父に優しい調子で言われて素直に頷く。レイブンは自分がどのような状態だったかは朧げにしかわからないが、それでも尋常ではない汗の量と疲労感、心配する祖父を見て余程の状態だったのだと推測できるだけの聡明さがあった。
これ以上の心配は掛けるまいとつい先程までの物見遊山な気持ちはなくなっていた。体力の消耗具合から余りに長い距離は歩けないと思うが、せめてそのくらいはと気力を振り絞り移動を再開した。
それから30分ほど歩いた後、老年の男性が言っていたキャンプに到着した。
激しく体力を消耗していたレイブンにとっては、荒れた道を歩くというのはかなり辛かったようだ。キャンプに着くなり、椅子代わりの切り株に腰掛けてしまった。
それでも顔を上げて周囲を見渡せば、其処はまさに跡地と言わんばかりの荒れ果てた場所であった。崩れ掛けた建物やその痕跡、少し遠くに見える朽ちた城跡がユグノア王国の名残であるのだと、不思議とレイブンは本能に近い部分で理解していた。
〜イシの村のその後②〜
「────おばさんっ!! ペルラおばさん! 大変よ……! レイブンから手紙が来たの!!」
バンッ! と音と共に荒々しく扉が開かれる。今日の仕事も終わり縫い物をして暇を潰していたペルラは心底から驚いて飛び上がりそうになりながら扉を見た。
礼儀のなっていない扉の開け方をしたのは、なんと村長の娘であるエマだった。普段から礼儀正しい彼女が無作法な真似をしたことも驚きだったが、ペルラの姿を見つけたエマが口走った台詞によって彼女は勢い良く立ち上がって外へと向かった。
◇◇◇
エマと共に家から飛び出したペルラは村の中央にある大樹を中心として村人が集まっている光景が見えた。近づいてみると村人が集中している真ん中にはレイブンのお供として旅立ったはずの白馬がいた。
人混みを押し退けて中央に行くと、村長のダンと数人の村人が手紙を囲んでなにかを言い合っていた。明らかに深刻な雰囲気であり、一瞬近づくのを躊躇ったエマとは対照的にペルラはズンズンと押し入っていき、余りの剣幕に慄くダンを無視して手紙を奪い取った。
「ペルラ……!? ま、待つんじゃ! 見るんじゃない!」
「なに言ってるんですか村長……? 私の息子の手紙ですよね? でも、あの子がこんなに早く手紙を送ってくるなんて………………って、なんだいこれは!?」
「お、おばさま! 私にも見せて……!! ………………えっ!? そんな、レイブンが…………!?」
ダンや周囲の止める声を一顧だにせず、レイブンから届いたという手紙に目を通す。旅に出た時には常に1ヶ月毎に近況の報告をしてくれるが、今回はまだ旅立ってから3日しか経っていない。なにかあったと思うのも当然であろう。
それが杞憂であれは良かったのだが、ペルラの懸念は的中していた。追いついてきたエマも背後から覗き込むようにして手紙を見る。
そして、手紙に書かれていた余りに壮絶な内容に驚いて、大声で叫びそうになったのを手で抑えた。なにかの間違いではないかと何度も確認してしまう。
『親愛なる母ペルラとイシの村のみんな。突然の手紙でごめん。そして、約束して欲しい。どうかこの手紙を読んだ後に軽率な行動はしないで。今まで通りに生活すれば良いだけだから。──────僕は現在デルカダール王国に犯罪者として追われています。〈勇者〉ではなく災いを呼ぶ〈悪魔の子〉として。もし捕まれば死刑は確定だと思う。こうして牢獄から脱出していなければ遠くない内に刑を執行する手筈だったみたいだからね。…………デルカダール王と謁見した時に出自を問われて、嫌な予感がしたから「定住していた場所はない」って嘘をついたんだ。だから村に迷惑を掛けることはないかもしれないけど、もしデルカダールの兵士が村に訪れたら僕のことは知らないってシラを切って。そうすればなにもされないはずだから。お願いします。………こんな手紙しか送れなくてごめん。僕はなんとかデルカダールから逃げ延びて、デルカダール王がどうして〈勇者〉を〈悪魔の子〉と呼ぶのか突き止めようと思う。幸い心強い旅仲間もいるし、僕は大丈夫だから心配しないでね。──みんな、お元気で』
ペルラも震える手で字をなぞりながら何度も確認する。だが、何度そうしたところで書いてある文字が変わる訳でもない。まるで悪い夢でも見ているかのようで、周りの村人たちと同じように俯いてしまった。
村長のダンも他の村人たちも一様に暗い表情をしている。自分たちが信じて送り出した村の子供が、〈勇者〉であるレイブンが〈悪魔の子〉などと呼ばれて犯罪者にされてしまっているとは思いもよらなかった。今この時もデルカダール王国から逃げようと奮闘しているレイブンを思うと、何処かで褒賞がもらえるのではと浮かれていた気持ちは吹き飛んでいた。
「お、お爺ちゃん! これに書いてあることって本当なの!? だったらレイブンを助けないと………!」
「………………ならぬ。手紙にも書いてあるじゃろう。デルカダール王がレイブンのことを〈悪魔の子〉と呼んだのであれば、儂らがなにをしたところで意味などない。エマ……お主のやろうとしていることはレイブンが最も望んでいないことなんじゃ」
「そんな……っ!? なら、どうすれば………!!」
なにがどうして幼馴染が犯罪者として追われることになったかはわからないが、レイブンが大変な目に遭っているならとエマは声を張り上げる。
しかし、ダンは力なく首を横に振った。大国の王が犯罪者として指名手配したのであれば一介の村長に如何にかできることではない。村人全員で押し掛けても、恐らく犯罪者を育てた者たちとして捕らえられるだけで事態は好転しない。人質として使われる可能性を考えると足を引っ張る危険性さえある。
彼らにできることは歯を食い縛って耐えること。強く賢いレイブンならきっと大丈夫だと祈って、今までと変わらない日常を過ごすことだ。
実際に村では今は亡きレイブンの祖父テオしか並ぶ者がいないほどの実力を持っていた。幼い頃から祖父に連れられて世界中を旅していた彼には各地に知り合いがいるし、地の利も得ることができるはず。優しくお人好しという弱点にもなり得る性質さえ悟られることがなければ、余程のことがない限り捕まるとは思えない。
村の子供たちは慕っていた兄貴分が大変な目に遭っていると聞いて、エマに同調して「助けないと!」と言っていた。だが、幼くも賢い彼らは深刻な表情で話し合う大人を見て自分たちでは力になれないのだと理解して、泣きそうになりながらも、ぐっと堪えて口を噤んだ。
そうなると誰もなにも言えなくなってしまう。嫌な空気が場を支配するが、不意に黙って俯いて震えるだけだったペルラが口を開いた。
「………………本当に、馬鹿な子だねえ。兵士が来てもアンタのことを知らない振りをしろだって……? やっぱり馬鹿だよ。私がアンタをいなかったことにできる訳がないじゃないか────っ!!!!」
ペルラの血を吐くような叫びが、その場にいるみんなの胸を締め付けた。彼女が愛息子のレイブンを心から大事にしていたことは村の人間であれば誰だって知っている。血が繋がっていないことなんて関係ないと、仲の良い姿をみんな目にしてきている。
そんな彼女がレイブンの手紙を読んでどう思ったのか。余りにも悲痛な叫びからは彼女の心の内を推し量ることはできない。その日から暫く、イシの村から暗い雰囲気が消えることはなかった。
今回はこれで終わりになります。
いつもながら読んで頂きありがとうございます。
短編1話目はレイブンとカミュが普通に雑談するだけ。
原作に於けるボスを倒してレッドオーブを確保した後の束の間の休息ですね。
この2人は大体こんな感じの雰囲気だということがわかってもらえたら嬉しいです。
まあ、特筆して話すようなことでもありませんかね。
次の2話目は昔のレイブンとテオが旅をしている時の話です。
原作を知ってる人は読んでいてわかったと思いますが、2人が旅をしていたのはユグノア地方になります。
本編を読んでいれば知っているでしょうが、原作主人公のレイブンが生まれた本当の場所ですね。
細かい描写について解説するとネタバレが大変なことになってしまうので、皆様でお好きなように想像してみてください。
最後の3話目は言うまでもなくイシの村のその後についてですね。
レイブンが手紙を送ったことは、果たして良かったのか悪かったのか。
ペルラを筆頭とした村人たちの嘆き具合を鑑みると、決して最適な判断だったとは言えなかったでしょう。
ですが、村を守る一手と考えれば間違いなく正解だと思います。
他にも方法があったかもしれませんが、レイブンに転生した中身の人は平凡の域を抜けないので、これが(作者の)精一杯でした。
このやり方には賛否両論あるとは思いますが、どうか生温かく見守ってくださると助かります。
さて、次の話からは新章となっていきます。
新しい仲間も一気に2人増えたりしますが、原作を知っている方の中ではお待ちかねだった方もいるのではないでしょうか。
そういう私もやっとここまで書けたという思いで一杯です。
次の投稿はいつも通り2週間後の水曜日、6月26日になります。
それでは本日も読んで頂いてありがとうございました。
また2週間後にお逢いしましょう!