真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

20 / 27



大変お待たせ致しました!
1週間も投稿が遅れてしまい申し訳ありません………。

今回の話から新しい章に移ります。
情けない限りですが、最近の忙しさとスランプなのか思うように文章が書けない所為で、いつにも増して文章が不安定になっています。
見るに耐えないと思う方もいるかもしれませんが、どうかご容赦頂きたいです。

それでは、どうぞ………。





弐章 勇者と双葉の賢女
逃げ延びた勇者


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デルカダール王国は────かつては五大国、現在に於いても四大国の1つとして世界に認知されている巨大な力を持つ国家である。

 特に現国王モーゼフ=デルカダール三世は賢君と知られている。広大な領土は他の大国と比べても恵まれた風土。貧富の差はあれど民の暮らしも豊か。なにより「猛将」グレイグと「智将」ホメロスの2人を両脇に控えさせる姿に国民は絶対の安心感を覚えていた。

 

 

 

 そんなデルカダール王国から各国に文書による伝令が送られた。文書にはデルカダール王が認めたことがわかる印が押されているのだ。

 何事かと文書に目を通した各国の王たちは驚きに目を見張った。先代の王が亡くなり代替わりしたクレイモラン王国を除いた王たちは文書に記された内容が信じられず、16年前の宣言を翻したデルカダール王の真意が読み取れなかった。

 

 

 

 文書には先日デルカダール王国に来訪したという〈勇者〉について記されていた。デルカダール王は〈勇者〉を名乗る少年と謁見した後に、彼を災いを呼ぶ〈悪魔の子〉として投獄したとある。

 しかし、その日の内に〈勇者〉を名乗る少年は同じく牢獄に囚われていた罪人の手を借りて脱獄。追っ手を差し向けるも激しい抵抗の末に取り逃がし、現在も逃亡を続けている。もし各国の領内で発見されたならば速やかに一報を入れて欲しいと書かれていた。

 既にデルカダール王国では指名手配しているとの旨も記されてある。真意の見えない文書に各国の王たちは未来に暗雲が立ち込めるような不安に襲われる中、デルカダール国内には新たな動きがあった。

 

 

 

「──ホメロスよ。首尾はどうなっておる」

「……はっ! ここ数日収集した情報によりますと〈悪魔の子〉の痕跡は各地に存在していました。ですが、あの場で本人が証言した通り1つ所に留まることはしなかったのか、彼の者が定住していたであろう土地に関する有力な情報は得られませんでした」

 

 

 

 デルカダール城の王座の間に繋がる通路にある一室。他ならぬデルカダール王の私室の中で、そのような会話がされていた。

 1人はもちろんデルカダール王。もう1人はこの国が誇る参謀、智将ホメロスと呼ばれる男だ。先日レイブンが訪れた際に、デルカダール王の命により部下を引き連れて〈悪魔の子〉の痕跡を探しに行ったのだ。

 デルカダール王とホメロスの2人はレイブンが語った定住はしていなかったという話を信じていなかった。故に、その根拠を見つけるためホメロスは動いていた。

 

 

 

 しかし、各地にある伝手を用いて情報を集めたが、2人が求めていた情報は得られなかった。

 この事実が示すのはレイブンの証言が嘘ではなく誠であったか、或いは容易にはわからないように情報の操作がされているかのどちらかだろう。そのように2人は考えた。

 実際にはデルカダール領内を隅から隅まで探せば発見できることであるが、まさか領内に名前も知らない村があるとはこの時は思いもしなかった。

 

 

 

「ふむ………。納得はいかぬが、まあ良い。グレイグが〈悪魔の子〉を取り逃がしたことはもう聞いておるか?」

「はい。城内では既に噂になっておりましたので。事実だったのですか?」

「うむ。お主とは違い使えぬ奴よ……。そこで、だ。ホメロスよ。お主にも〈悪魔の子〉の捜索を命ずる。あの者は必ずや捕らえねばならぬ。その意味は、わかっておるな?」

「はっ…!! このホメロス、謹んで拝命致します」

 

 

 

 新たな命を受けたホメロスは優雅に礼をする。その動作からは真にデルカダール王に対する敬意が篭っているようだった。

 だが、それと同時に伏せられて見えないホメロスの顔には暗い喜悦が滲んでいた。それを知ってか知らずか、デルカダール王はホメロスの従順な態度に満足げに頷いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 グレイグ率いるデルカダール軍から逃げ延びたレイブンとカミュの2人は、現在荒野の真っ只中を歩いていた。

 レイブンたちがいる場所はデルカダール地方でもデルカコスタ地方でもない。旅立ちの祠に入った時に、見知らぬ場所に移動してしまったようだ。盗賊として各地で宝探しをしていたカミュでもこの辺りには来たことがなかった。

 

 

 

「………もしかしたら僕は昔この辺りに来たことがあるかもしれない。多分ホムスビ山地………。記憶が確かなら近くに村があったと思うよ」

「マジか! それなら久し振りに宿で眠れるかもしれねえな……。早速その村に行こうぜ!」

 

 

 

 だが、スライムベスやガルーダなどの魔物と戦いながら下山している間、レイブンはなにかを確かめるように周囲を見渡していた。地面に触れたり太陽の位置を眺めたり、熱水が湧き出て水溜まりになっているのを見て確信したようにそう言った。

 祖父のテオと共に世界中を旅していたレイブンはこの地域、ホムスビ山地にも訪れたことがあったらしい。それを聞いて、なにも知らない場所のため野宿を覚悟していたカミュの足取りが少し軽くなった。

 

 

 

 2人は此処に来るまでの道程でかなりの疲労を感じていた。時間にすればデルカダール王国の牢獄から逃げ出してから未だに数日しか経っていないが、なにかに追われるというのは精神的にも疲労を溜め込みやすいものだ。

 レイブンとカミュも例外ではない。2人共に色々と経験豊富だが、国という強大なものに追われるのは流石に初体験である。

 グレイグ将軍という追っ手から逃げ延びて、旅立ちの祠によってデルカダール地方から海を跨いだ場所にあるホムスビ山地に移動したことにより、暫くは安全である可能性が高い。だからこそ、近くに村があるというのが真実ならば羽休めには最適だと言えるだろう。

 

 

 

 一刻も早く休みたいと歩みを速める。魔物やらなんやらと蔓延る世界だが、旅人は一定数存在するので村があるなら基本的に宿はある。

 脱獄から始まり、城下町に忍び込んで、秘境を抜けて、神殿に潜り込み、グレイグから逃げる。たった数日の間に起きたことだとは信じられないくらいに慌ただしい時間を過ごした。幾ら旅慣れていても疲れてしまうのは仕方がないというものだ。

 しかも、魔物が2人の疲労なんてものを斟酌してくれるはずもないので常に襲われ続けており、レイブンは兎も角カミュはそろそろ限界に近くなっていた。

 

 

 

「くっ……! この野郎、いってぇな……!!」

「………! …………っ!!」

 

 

 

 ドンドコと喧しく太鼓を叩きながら、魔物は拳を振るって勢いよく殴り掛かってくる。ドラムゴートという名前の魔物だ。

 度重なる疲労によって回避行動が遅れたカミュは真面に攻撃を受けた。それでも咄嗟に自ら背後に飛ぶことでダメージを減らしたのは流石と言うべきか。

 地面を滑るように着地した後、持ち前の軽やかな身のこなしで素早くドラムゴートの側面へと移動する。カミュが見たところこの魔物は力が強くタフだが、動きの速さと言う意味では鈍重だった。故に、カミュは素早さを活かして短剣で斬りつけては離れてを繰り返す。

 

 

 

「いい加減、しつこいんだよ……!!」

「…………っ!!?」

 

 

 

 そうした戦い方に切り替えても2回ほどカウンター気味に痛打を浴びていたが、7度目の交差で漸くドラムゴートを倒すことができた。でっぷりと太った人型の大きな太鼓を持った奇妙な姿の魔物は粒子になって消えていった。

 ふぅ…と小さく息を吐いて、離れた場所で複数の魔物を相手にしているレイブンを見る。片手剣の二刀流で器用に危なげなく戦っており、加勢する必要がないくらいに圧倒していた。

 

 

 

「ピキーッ!?」

「ギョエ……!?」

「………!?」

 

 

 

 右手の剣でガルーダの鉤爪を弾き、左手の剣でスライムベスを斬り捨てる。一刀両断されたスライムベスには目もくれず、その勢いのままに反す刃で弾かれて蹌踉めくガルーダも仕留める。

 ガルーダを仕留めた右の剣に引っ張られるように身を翻して飛来した火球を躱し、鈍重なドラムゴートに左の剣を叩き込む。上空から襲い掛かってくるガルーダと地面から跳ねるように飛び掛かってくるスライムベスの2体は、軽やかに踊るように回転した拍子に両の剣で撫で斬りにされた。

 

 

 

 一連の動きは正しく『剣の舞』とでも言うのが相応しいものだった。華麗で美しい舞いのようでありながら、虚空に刻まれる銀閃と共に敵を斬り裂く。

 デルカコスタ地方よりも更に少しだけ魔物が強くなっているが、レイブンには微々たる差だった。カミュも多少は負傷しているが問題はない。とはいえ、疲れによって不覚を取る回数が増えてきているのも事実なので、早いところ村に向かった方が良いのは間違いなかった。

 

 

 

「おっ、この先から道になってるな。お前の言う村も近づいてきたんじゃないか?」

「そうだね。もう少しだったはずだよ」

「よし…! もう一踏ん張りだな……!!」

 

 

 

 そんな風に魔物と戦いながらも下山したところで、明らかに整備された道が見えてきた。道幅はそれなりに広く、そこから鑑みるに馬車なども時折往来するのであろうことが推測できる。

 あと少しで村に着くと聞いて気合いを入れ直したカミュと頷いて小さく微笑むレイブンは、ガルーダを筆頭に時折襲ってくる魔物を蹴散らして進む。

 

 

 

 太陽は頂点から大分西側に傾いており、徐々に周囲の山々が夕焼け色に染まっていく。

 日が落ちるという焦りが2人の裡に生まれるが、ちょうどレイブンの先導に従い進んだ先から人の気配がした。木で造られた柵があり、物見櫓で警戒している人や門前で警備している人たちが見える。

 旅人という出で立ちのレイブンとカミュの姿を見て、彼らは僅かに眉を顰めるような様子を見せた。どうやら余所者には居心地が良い村ではなさそうだが。

 そうは言っても追い払われるというほどではないようで、2人は無事に目的の村に到着したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……やっと人のいる場所に着いたぜ。これからどうしたもんかな…………」

 

 

 

 ホムラの里。レイブンとカミュが辿り着いたのは、そんな名前の村落だった。

 村に入って漸く張り詰めていた気が休まったのだろう。追っ手の心配をする必要もないので、カミュは溜息を吐き出しながらそう言った。

 ホムラの里は小集落と言えばいいのか。見る限り村人の住居であろう建物の数は少なく、イシの村と同じように少人数の村人たちで協力しあって暮らしていることがわかるが、それでも他所と交易があるためか宿の存在が確認できるところから隠れ里という訳ではないのだろう。

 

 

 

 この地域は大きな山脈に囲まれており、ホムラの里に程近い場所にあるホムスビ山はその筆頭と言える。

 ホムスビ山は現在でも火山としての機能は失われておらず、山内には人体など一瞬で溶かし尽くす溶岩で溢れかえっている。同時に鉱山でもあり、昔から里の人々は鉱物資源により近隣の国と交易することによって日々の生活を賄っていた。

 

 

 

 溶岩の影響でこの辺り一帯では温泉が湧き出る。地熱によって地下深くに溜まった地下水が温められて、それを里に引っ張り込んでいる。

 というわけで、ホムラの里は特産品として周囲の山から鉄を集められるだけでなく、温泉という天然資源による集客を図ることもできるのだ。里に訪れる行商人などからすれば、売買の後に温泉に入って英気を養うというのが楽しみになっている。

 だから、レイブンとカミュの2人に気づいたとある里の人間がこうして声を掛けてくるのは予定調和とも言えたかもしれない。

 

 

 

「おやおや、お兄さんたちは見たところ旅の方のようですね! いやあ、良い時にいらっしゃいました! わたくしつい先日、里の奥の方で蒸し風呂屋を開店したばかりでして………………。今でしたら先着100名まで無料でご入浴頂けます! この機会、ご利用されないと損ですよ〜!」

 

 

 

 小太りの中年の男性がレイブンたちに近づいてくるや否や、挨拶もそこそこにマシンガンのような勢いで繰り出される商売文句。口を挟む暇も与えてくれない。

 旅人であるというのは身軽な装いを見て判断したのだろう。行商人ならば馬車を引いて護衛を雇うし、他国のお貴族様であっても同様である。それでいて2人だけという、このご時世では明らかに少ない人数ということもあって腕の立つ旅人、イコールで金を持っているという結論に至っていた。

 

 

 

「おい……悪いけど俺たちは風呂なんか入ってる暇はないんだ。客引きだったら他を当たりな」

 

 

 

 そんな皮算用がされているとは露とも知らないカミュは、一顧だにせず素気なく断りの言葉を入れる。

 今日までの数日が激動の日々だったので疲労は溜まっているため宿で休みたいとは思うが、風呂で汚れを落とすという行為は余り重要とは思えなかった。

 今の2人は一国に追われる身であり、海を跨いだ地域にいるとしても敵は四大国の1つデルカダール王国だ。到底油断できる相手ではないので、今日のところは早めに宿をとって疲れを取って明朝に里を出るというのが理想的な動きだ。

 

 

 

 ────という思いと、疲れ切っている状態にも関わらず無遠慮な商売文句を受けたことで、カミュの言葉に倹が加わっているのも無理からぬことだと言えた。

 まだ肉体的にも精神的にも余裕のあるレイブンは微かに眉を潜めただけだった。常ならば気にするほどでもないと眉一つ動かさないだろうが、流石にグレイグの追撃を振り切るという大事を成した後だったこともあっていつもより気が張っていた。

 

 

 

 だが、元々からして無表情であることの多いレイブンが少し表情を動かした程度では、彼と親しい関係にある人物くらいしかその機微を察知することは難しい。

 例え内心では「ちっ、面倒な奴に絡まれたな………」と吐き捨てていようとも、表情としてはちょっと眉間に皺が寄るくらいの変化しかない。だが、そこは流石に商売人と言うべきか、2人が乗り気でないとわかってアプローチの仕方を変えた。

 

 

 

「ダメですよぉ〜、お客さん。どんな時でもお風呂はちゃんと入らないと、不審者に思われちゃいますよ」

 

 

 

 なるほど上手い手だ、とレイブンは思う。彼は諭すような口調で注意をしているように聞こえるが、カミュの言葉で2人が色々と訳ありであると察したが故の脅し文句でもある。

 此処で断れば言葉通りに不審者扱いされる可能性が高い。ホムラの里は小集落であるために恐らく村人同士の結束は強いだろう。この男性がレイブンたちのことを積極的に怪しい奴だと吹聴して回れば、一夜のうちに噂が広まっていても不思議ではない。

 

 

 

「確かにちょっと………臭うかもな。風呂なんてこの先もあるかわからねえし、入れる内に入っておくか…………?」

 

 

 

 そう考えて胸中で苦い思いをしているレイブンとは異なり、カミュは男性の言葉を違う意味で捉えていたらしい。

 不審者だと思われちゃいますよ、という言葉の裏に臭いますよ? と言われているのだと考えたのか。少し慌てたような様子で自分の匂いを嗅いで思うところがあるようだ。まあ野宿を繰り返せば臭くなるのは当然である。

 というわけで、カミュは明らかに乗り気になっている。レイブンとしても断るのが難しそうなので否やはない。

 

 

 

「なあ、レイブン。折角のチャンスだから今のうちに汗を流していこうぜ。俺は先に行ってるからな」

「はい! 1名様ご案内〜! さあさあ、此方でございます。あっ、足元気をつけてくださいねっ!」

 

 

 

 汗臭いことに気づいたからには早く汗を流したいのか、カミュはそう言ってサッサと先にお風呂へと向かってしまう。風呂屋の男性もなんとか捕まえたお客を逃したくないようで、意気揚々と案内をかって出ている。

 こうなっては仕方がないので、先に宿だけは確保しておこうと予約を済ませる。幸い部屋は空いていたので1部屋取って、レイブンも里の奥にあるという風呂屋に向かう。長い階段を上っていると、不意に言い争う声が聞こえた。

 

 

 

「いっ……たぁ〜い!! ちょっと、レディには優しくしなさいよ! 乱暴な男はモテないわよ!?」

「あーもう、ピーピーうるせえな! 悪りぃけど今は忙しいんだ。ガキの相手をしてる暇はないんだよ」

 

 

 

 幼い少女の声が聞こえたので少し急いで階段を上りきると、押されたのか投げ飛ばされたのか尻餅をついた少女と店員と思われる少し人相の悪い青年が言い争っていた。

 普段のレイブンなら直ぐに言い合いに介入して仲裁するところだが、今回は動くことはなかった。いや、正確には動けなかったというのが正しい。言い争っている少女、特徴的な赤い頭巾と赤いローブを着た彼女を見て驚嘆したように息を呑んでいたのだ。

 

 

 

「なによ! マスターと話すくらい良いでしょ!? マスターなら逸れちゃった妹のこと知ってるかもしれないんだってば!」

「此処はガキのくる場所じゃねえんだ。迷子の相談なら里の入り口に詰所があるから、其処で話を聞いてみな」

「ふん、わかったわよ! マスターなら話が通じると思ったけど、こんな石頭がいたんじゃどうしようもないわ」

 

 

 

 そうしてレイブンが硬直している間に言い合いは終わり、聞いた限りでは少女の方が折れたようだった。

 まあ少女の幼さを考えれば店員の男の言葉もある意味では当然だとも言える。10歳にもなっていない少女の妹とやらが、まさか酒場に来るはずがないのだから、代わりに詰所を紹介したのはせめてもの親切か。

 なにはともあれ、里の入り口にあるという詰所、つまりはレイブンの方に少女が振り返る。憤懣やるかたないという様子でどしどしと歩くが、目の前に人がいることに気がついて顔を上げた。

 

 

 

「あれ? アンタは………!」

 

 

 

 機嫌が悪そうだった少女は、しかし、レイブンの顔を見て驚いた様子を見せる。まるでいるはずのない人間がいたことに驚嘆したような反応だった。

 そんな少女の反応でレイブンはハッと我にかえる。そして、改めてマジマジと少女の姿を確認する。赤頭巾と赤ローブ、綺麗な金髪は三つ編みにして頭の左右で2つに結わえられており、宝石のような紫の瞳は驚きによってから大きく見開かれている。

 その姿はレイブンの記憶にあるものと寸分違わず同じもので、最後に会ってから8年もの年月が経っていることを考えればあり得ない幼さだが、不思議と彼女がそうであると認識していた。

 

 

 

「ベロニカ………? でも、なんで………」

「────驚いたわ。まさか、こんなところでアンタと会えるとはね。運命ってわからないものね………。本当なら色々と話したいところだけれど、今はいなくなったあの子の方が心配」

 

 

 

 少女──ベロニカと呼ばれた彼女は、困惑を隠せない様子のレイブンを見て落ち着いたのだろう。僅かに掠れた声で問い掛けた言葉には答えず苦笑した。

 ベロニカは喜んでいるような、呆れているような、或いは焦っているように見える表情でレイブンと目を合わせながら独りごちる。話し掛けているのではなく自分の考えを纏めているような言い方だった。

 そこにきて、レイブンは漸く彼女の隣にいるはずの片割れの姿が見えないことに気がつく。思わず表情に疑問が浮かぶ彼に気づいていない訳でもないだろうに、ベロニカは敢えてそれを無視して横を通り過ぎる。ついその姿を見送ってしまうが、階段を降りる直前で彼女が振り返った。

 

 

 

「アンタと此処で会えたのは、もしかしたら大樹の導きかもしれないわね。後で話したいことがあるから、時間を作ってくれない?」

「………わかった。また後でね、ベロニカ」

「ええ……。ありがと、レイブン。また後で会いましょう」

 

 

 

 そう言って、後で話す約束を取り付けて歩き去るベロニカの後ろ姿を見送る。

 レイブンとしても聞きたいことが多くて頭の中が纏まらない。風呂屋にカミュを待たせているし、後で話す時までには今よりは落ち着いているだろう。

 そう考えて、一旦思考を切り替えて風呂屋に続く道に足を向ける。だが、姿の見えないもう1人の少女とまるでレイブンのことを探していたような言い方。ベロニカは大樹の導きと冗談交じりに言っていたが、此処で会ったことは偶然ではないとレイブンも感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて弐章の1話は終了です。
今回も読んで頂きありがとうございます。

前書きにも書きましたが、改めて謝罪をさせてください。
1週間も投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
今日まで辛抱強くお待ちくださっていた読者の皆々様につきましては、本当に感謝の念が絶えません。
今後ともよろしくお願いします。

今回の話は弐章の導入といった感じですね。
どうにも最近は文章が浮かんでこなくて執筆が進まず、そんな状態で強引に書いたので文章が乱れに乱れてしまいました。
弐章でメインとなるベロニカと会うまでを導入にする予定だったので、ギリギリなんとかなったというところでしょうか………?
正直に言って1話からこの調子では先が思いやられますね。
今の私の状態がスランプと言うのであれば、読み専だった頃に思っていたよりも結構キツイものです。


まあ作者の詰まらない愚痴は兎も角、次の投稿につきましては元々の予定通りに来週の水曜日、7月10日に投稿したいと思っています。
とはいえ、先に説明したようにスランプに陥っているのか自分でも思ったように文章が書けません。
もしかしたら今回と同じく本来の予定日を超過してしまう可能性がありますが、その際には活動報告にて事前にお知らせしますので、もし「あれ?今日は投稿していないな?」と思いましたら、そちらの方をご確認頂ければ私としても助かります。

それでは、お読み頂いた皆様ありがとうございました。
また次の投稿をお待ちください。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。