真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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ーーーーお久しぶりです、読者の皆様方。
前回の投稿から大分遅れてしまいまして、本当に申し訳ございません。
この場をもって心よりの謝罪とお気に入りから消すこともせずに待ってくださったことに、尽きることのない感謝の言葉を申し上げます…………ありがとうございました。

1ヶ月以上の間隔をあけての投稿となりましたが、活動報告を見てくださった方は既に理由はご存知とは思います。
前書きにて失礼しますが、これから先の投稿につきましては取り敢えず以前と同じ2週間ペースでの投稿とさせていただこうかと考えております。
とはいえ、未だに色々と不安のある身ですので、投稿予定日を超過してしまう可能性についても此処で言及しておきます。


今回の話は以前に感想でいただいたアドバイスを参考にさせてもらって書き上げたものになっています。
具体的には、途中で三人称から一人称の主人公視点に切り替わっています。
切り替えが下手で読みづらくなっていたり、以前とは書き方が違って嫌だという方もいるかもしれませんし、それに伴って文量も1万を超えてしまっていますが、文章が安定しない現状ではこれが駄作者の精一杯なので、どうか寛大なお心でもって見守っていただけると幸いです。



それでは、前書きが長くなってしまい申し訳ありません。

ーーーーどうぞご覧ください。






大魔法使いベロニカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の昔馴染みとの再会にレイブンは困惑を隠せずにいた。取り敢えず後で話をするということなので、今は思考を切り替えて風呂屋へと向かう。

 途中でベロニカと言い争っていた酒場の店員から声掛けされたり、10歳に満たない男の子と女の子がなにやら演劇めいた遊びをしていたのを横目に見ながら、無駄に長い階段を上っていく。

 階段を上りきると漸く風呂屋が見えた。カップルと思われる男女が言い争っていたり、何処かの国の高貴な身分の出であろう女性がぶちぶちと誰に言うのでもなく愚痴を零していたりという姿が気になりつつも、いつまでもカミュを待たせるのも悪いので急いで風呂屋に入る。

 

 

 

「おお、里の入り口でお会いした方ですね! お連れ様ならつい先程、蒸し風呂へご案内したところです。早速ご利用されますか?」

 

 

 

 風呂屋に入ると、あの男性が出迎えてくれた。カウンターがあるので、其処で受付をしているのだろう。

 レイブンは男性からの勧めに頷き、蒸し風呂に入る時に着用が義務付けられているらしい湯着を受け取って男性用であるらしい青い暖簾を潜る。

 暖簾の奥は脱衣所になっており、少しばかり急いで服を脱ぐと空いていた竹籠の中に入れる。そのまま湯着に着替えてカミュが待っているであろう蒸し風呂に繋がる扉を開くと、一気に視界が白い湯煙で覆われた。

 

 

 

 むわっと立ち込める湯気に僅かに眉根を顰めながら、板張りの床に足を踏み入れる。前方が見通せないくらいの湯煙がレイブンに纏わりついて、早くもサラサラヘアが顔にくっついていく。張り付く髪を鬱陶しそうに引き剥がして室内を見回す。

 すると、座席にゆったりと腰掛けて手拭いで赤を落としているカミュがいた。レイブンが近づいて隣に腰を下ろすと漸く気がついたようで、彼にしては珍しく爽やかに笑った。……随分と蒸し風呂を堪能してるらしい。

 

 

 

「よう、遅かったなレイブン。此処の蒸し風呂はなかなかいいぞ。客は俺たちしかいないみたいだからな。折角だから此処で一息ついていこうぜ」

 

 

 

 足を組んで何故か自慢げにそんなことを言う。まあ、今のカミュの顔を見れば誰でも満足していることはわかると思う。

 意外と綺麗好きなのか、なんだかんだ言って体の汚れを落とせたことが嬉しいのだろう。他の客がいないこともあってか、かなり寛いでいる様子だった。レイブンもその提案に否やはないので素直に頷いて、手拭いで汗と垢を拭い取っていく。

 

 

 

「しかし、俺たちこれからどうするか………。追っ手が此処に来るのも時間の問題かもな」

 

 

 

 それはそうだろう、とレイブンも頷く。なにしろ2人を追う相手は何処かの地方で顔が売れている程度の盗賊団なんてチャチなものではなく、世界でも有数の大国が全身全霊で追いかけてきているのだ。

 現在2人がいるのはデルカダール王国のある大陸との間に海を挟んだ場所にあるが、大国の力を総動員すれば海の1つや2つは余裕で超えられる。

 

 

 

 まあ、流石に今すぐという訳にはいかないだろうが、レイブンたちはそう遠くない内にデルカダール王国の情報網に捕捉されるはずだ。

 それがわかっているからこそ、2人は今の平穏な時間を甘受している。1月も経たない間に追っ手が差し向けられるであろうから、少しでも英気を養うためにも蒸し風呂に入ることを決めたのは、或いは現状ではこれ以上ないくらいに英断だったと言えるかもしれない。

 

 

 

「………ところで、お前少しはこの里を見て回ったんだろ? なにか気がついたことでもあったか?」

 

 

 

 折角の風呂で気を休めているのに無粋な話をしたとでも思ったのか、カミュは誤魔化すようにそう問いかけた。

 というか、先程も遅かったな、と言われたが別にレイブンは何処ぞで道草を食っていた訳ではない。後で満室になってしまって結局は野宿なんてことになるのが嫌だったので宿を予約したくらいで、他にはベロニカと少し話していただけである。

 特に気がついたようなこともなかったけれど、なにかあっただろうかと記憶を遡って、ベロニカと再会した時の騒動について話した。

 

 

 

「──なに? その妹を探してる女の子なら俺も見たが、お前の昔馴染みだったのか。理由はわからないけど体が小さくなってるねえ…………? しかしまあ、見た目通りの年齢じゃないって言うなら酒場で聞き込みをしようとしてたのも納得だな」

 

 

 

 予想もしていなかった話題に目を見開くカミュだったが、此処のところ驚きの連続なので直ぐに気を取り直して何度か相槌を打った。

 それはそれとして、今の話になにか思うところがあるのか、カミュは神妙というか悲しげというか。複雑な表情で視線を外すと、虚空へと視線を投げてポツリと言葉を落としていく。

 

 

 

「妹……妹か………。全く、出来の悪い妹を持つと兄ちゃんや姉ちゃんは苦労するよな………」

 

 

 

 カミュはそう言うが、誰かに愚痴を垂れるような言葉とは裏腹に声音には嫌悪感などはなく、優しく温かな響きが込められていた。

 彼にも妹がいるのだろう。……いや、何処か懐かしむような口調と決して許されないことを懺悔するような表情から、或いはカミュの妹はもう──────とそこまで考えてレイブンは頭を振って思考を切り替えた。人の過去を詮索するのは趣味の良い行いではない。

 

 

 

「ねぇ……」

 

 

 

 なんとなくお互いに喋るような気分にはなれず、2人揃って蒸気で白く染まった室内を意味もなくボーッと眺めていた時のことだ。

 不意に何処からか、この風呂の中の何処からか誰かに対して呼び掛けるような声が聞こえてきた。幼い少女を思わせるあどけない声で、深い悲しみを感じさせる声が静かな空間に染み渡るようにして2人の耳に届いた。

 

 

 

「…………おい、なにか喋ったか?」

「いや、僕は喋ってないけど。確かに今、女の子の声が聞こえたような──────」

 

 

 

「ねぇ、どこなの………?」

 

 

 

 気の所為とでも思ったのか、カミュは訝しげな顔になってレイブンに尋ねるが、当然ながら彼が喋ったわけではない。まあ確かに隣で喋られたらわかるし、益々以って謎である。

 首を傾げて顔を見合わせる2人だったが、またしても謎の声が聞こえてきた。キョロキョロと室内を見回したレイブンとカミュは、テラスに続く扉の方にボンヤリと浮かび上がる黒い影を見て素早く立ち上がり、いつでも動けるように意識を研ぎ澄ませる。

 

 

 

「おい。此奴はもしかして………。ゆう、れ…………」

 

 

 

 確信を持ってカミュが言い掛けた言葉は、しかし徐々に近づいてくる黒い影が正体を現したことで最後まで言うことなく尻すぼみに消えていった。

 蒸気の中から姿を見せたのは当たり前だが幽霊なんかではなく、袖で零れ落ちる涙を拭う幼い少女だった。見たところ湯着ではなく私服のようなので、女風呂から迷い込んだというわけでもなさそうである。

 

 

 

「どこなの……? どこにいっちゃったのよう…………」

 

 

 

 カミュよりも幾らか濃い色の青髪が印象的な少女は、そう言って何度拭っても涙が溢れる目を抑える。

 たった1人でいる少女、見える範囲には親らしき姿はない。誰かを探しているような言葉を漏らしながら、今も泣きじゃくっている。どう考えてもこの少女は迷子であるに違いない。

 2人はまた顔を見合わせたが、互いに考えていることが同じとわかり苦笑した後、ゆっくりと近づいて驚かさないように目線を合わせるために片膝をついた。

 

 

 

「……なんだ、驚かせやがって。お前こんなところでなにやってんだ?」

「ほら、怖くないから。僕たちに教えてくれない?」

「あたし……やどやでまってたのに………。おふろにいくってでかけたまま、もうずっとかえってこないの…………。どこにいっちゃったの……ひどいよ…………。ひっく、ひっく………」

 

 

 

 2人が怖がらせないように優しく話しかけると、未だに泣き続ける少女はそれでも一生懸命にレイブンたちに話をしてくれた。

 どうやら少女の親か、または保護者は彼女に言伝もなく何処かへと行ったまま帰ってこないのだとか。しゃくりあげて言葉もつっかえながら上擦った声で教えてくれた少女は話すことで更に悲しくなったのか、もう嗚咽を隠すこともできず更に泣き始めてしまった。

 

 

 

「はあ……迷子ってヤツか。──! ……なあ、レイブン。お前の昔馴染みだって言う女の子も妹を探してたんだろ? 酒場ならこの子の家族についても知ってる奴がいるかもしれねぇ………。ついでと言ったら悪いが、あの女の子も一緒に連れて行ってやらないか?」

「……それはいい考えだね! ベロニカ……っと、酒場の女の子とは後で話をすることになってたし、これから合流しよう! なかなか冴えてるね、カミュ」

「はっ…! 褒めてもなにも出さねえぜ……? ──さて、そうと決まれば………なあ、おチビちゃん。お前の名前はなんて言うんだ?」

 

 

 

 急に頭上に電球を灯した(幻覚)カミュはなにか名案を閃いたらしく、ドヤ顔で相棒に1つの提案してきた。

 実際にその提案は最高にクールで冴えてるものだった。これにはレイブンも感心の声を上げながら快諾する。彼としてもベロニカが探している妹は彼女と同じく友人なので行方が気になっていたし、目の前の少女も放っておくことなどできるはずもない。

 

 

 

 レイブンが断るとは思ってなかったのだろう。不敵にニヤリと笑みを浮かべて、賞賛の言葉を未だドヤ顔のままでクールに受け流す。

 これからの方針が決まったところで、カミュはできる男の風格を醸し出しながら、悲しげに嗚咽を零す少女に名前を尋ねた。妙に頼れる兄貴感があるのは、彼にも妹がいたからなのだと今のレイブンにはわかる。

 

 

 

「ひっく、ひっく………。あ、あたし……ルコっていうの…………」

「よし、ルコ。お前の家族を探すのを手伝ってやる。俺たちについてきな」

「1人は心細かったよね………。でも、もう大丈夫だよ。ルコ……僕たちと一緒に行こう?」

「ほ……ほんと? ありがとう…………」

 

 

 

 この青髪の少女はルコというらしい。泣いたことで上擦る声を必死に押し隠しながら、それでもキチンと自己紹介をしてくれた。

 ルコ本人の口から名前を聞いて2人は立ち上がると、まだ涙が止まらない痛々しい様子のルコを励ます目的なのか、少しばかり強引な物言いでカミュが彼女を促す。続いてレイブンが気遣うように優しく話しかけた。

 

 

 

 そんなレイブンたちの言葉に驚いたのか、目尻に涙を浮かばせたルコは大きな目を更に大きく開きながら2人を見つめる。その姿は、ついて行っても大丈夫なのか確かめているようにも思える。

 やがて大丈夫と言う判定が降ったようで、ルコは泣き腫らして瞼が赤くなったままに、華が咲いたように可愛らしく笑ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近は怒涛の展開で正直に言うと頭がついていかないよ………助けて、パト◯ッシュ! 

 

 

 

 ────なんて、遊んでいる場合でもないのだけど。

 いきなりネタに走ってしまいたくなる程度には、色々とこんがらがって混乱してる。でも、それも仕方がないと思うの。

 気がつけば指名手配されて、なんかイケメンな相棒ができた。祖父からの謎の手紙は意味不明だし、祠に入ったら次の瞬間には海を挟んだ別大陸にまで転移していたり、最早わからないことばかりだ………………。

 

 

 

 転生特典とか与えられていても、所詮は凡人である俺からすればこんな波乱万丈な展開はお断りだ。凡人には凡人らしく、平凡な日常がお似合いだと思うんだ。

 まだ手強い敵とはブラックドラゴン以外に遭遇していないが、きっと時間の問題に違いない。だって、実は中身がこんなヤツだとしても俺の体が〈勇者〉であることはもう確実と言っていいのだ。きっと、最終的には〈魔王〉みたいな素敵ネーム()の化け物と戦う羽目になる。………………もうやだ、たすけてッ(切実)

 

 

 

 

 閑話休題(彼が落ち着くまで暫くお待ちください)

 

 

 

 

 ──ふぅ、すまない。少し取り乱した。

 まあ、こうして愚痴を並べたところで意味はない。全くもって腹立たしいことに俺の体は意に反して勝手に動くのだ。この体との付き合いも長いけれど、未だにもどかしくて仕方がない。

 

 

 

 それはさておき、今は相棒のカミュと彼の隣に並ぶと兄妹にも見えるルコという少女と一緒にベロニカを探しているところだ。

 彼女をこの集落で発見した時は本当に驚いたものである。だって、俺の記憶にある8年前の姿と変わらないどころか、むしろ少し小さくなってるまである。他人の空似だと言われた方が納得できる。

 

 

 

 ベロニカと初めて会ったのは俺がまだ6歳の頃──────つまりは、10年前に祖父に連れられて彼女たちの故郷に行った時だった。

 俺の記憶が間違ってなければ聖地ラムダという名前だと思うが、確か祖父がそこの長老に用があったので旅の途中に訪れたという経緯がある。結局教えてくれなかったけれど、あの時はなんの話をしていたんだろうか? 

 

 

 

 大人は大人同士で話して、俺も同じ年齢くらいの双子の姉妹がいると言われたのでその子たちと遊んでいた。その双子がベロニカとセーニャという少女たちだった。

 ちなみに、聖地ラムダの人たちからは結構歓迎された記憶がある。なにやら村長の命の恩人が祖父であるとか言っていたような………………取り敢えず言わせて欲しい、本当に何者なんですかお爺ちゃんッ!? (遠い目)

 

 

 

 そもそもからして聖地ラムダの人たちは気性が穏やかで優しい人が多かったので、他の人里離れたコミニティにありがちな余所者に対する排他的な意識は少なかったようだ。

 穏やかというにはベロニカは当時から気が強い少女だったが、例に漏れず心根の優しい子であるのも事実だった。おっちょこちょいというか、どうにも天然度合いの高い妹のセーニャの存在もあって面倒見が非常によく、しっかり者のお姉ちゃんという印象が強かった。

 

 

 

 俺も転生者であるので精神年齢は高かったし、あの頃はまだ自分で体を動かせないことにかなりのストレスが溜まっていたので、彼女たちのような利発な子供たちとの会話はそれなりに楽しんでいた。

 そんなこんなで俺と双子姉妹は仲良くなったというわけだ。聖地ラムダには祖父が存命の間は何度か訪れていたし、祖父と俺の旅にベロニカとセーニャがついてくることもあったのでエマの次に親しい女の子たちだと言える。彼女たちとの遊びは苦にならなかった、というのも大いに関係あるが。

 

 

 

 まあ、実は2人は妙に勘が鋭くて、初めて会った時に俺がなにかに対して常に苛立っていることに気がついていたらしい。ドクシン=ジツかなにかです? 

 そのためか、ベロニカからは「アンタはもっと笑いなさい!」と言われたり、セーニャからも「……楽しんでますか?」不安げに聞かれることが多かった。幼い少女たちに心配されていたと知って、余りの情けなさに地味に落ち込んだ。……それで更に心配させた(悪循環)

 

 

 

 ──と、昔語りはこの辺りで終わりにしておこう。集落の入り口で今度は門番と言い合いをしているベロニカの姿を発見した。

 それにしても、本当に気が強いなあ………。今の彼女だとあんなガタイの良い男と本気の喧嘩になったら、手も足も出ないだろうによくやるよ。ベロニカから魔力を感じないのと、小さくなってるのには関係があるのかね? 

 

 

 

「全く、てんで話にならないわ。この里の連中、どいつもこいつも石頭ばっかりなんだから…………」

 

 

 

 そう言ってベロニカは、両手を腰に当てて怒りを露わにする。昔と全く変わらない仕草を見て、懐かしさに少しだけホッとしてしまう。最近は疲れることばかりだったし、やはり昔馴染みの存在は心が安らぐ。

 激おこぷんぷん丸の状態に触れるのは少し勇気が要るところだが、此方から声をかける前に俺たちの存在に気がついたらしい。同じくらいの身長のルコとまず目が合い、次いでカミュに目が向けられて、最後に俺の方を見て嬉しそうに笑った。

 

 

 

「あら、レイブンじゃない。こんなところにどうしたの? もしかして、あたしのこと探してた?」

「うん、御察しの通りだよ。ちょっと、事情があって………ベロニカにも悪い話じゃないと思うけど」

 

 

 

 一瞬で機嫌が良くなった理由はわからないが、悪化したわけでもないのだから気にしなくていいだろう。

 少し揶揄い混じりに言ってくるベロニカに対して、俺も珍しくはっきりと笑みが浮かんでいることを自覚しながら話を切り出す。

 すると、先程までの笑顔が一転、心苦しそうに眉根を寄せてガックリと肩を落とした。

 

 

 

「そう……。本当はあたしも色々と話したいことがあるんだけどね。でも、アンタには悪いけど、今はあの子を探してる途中なのよ。なにか嫌な予感がするし、早く見つけないと…………」

「そこでだ、おチビちゃん。俺たちがお前の手伝いをするために来たって言ったらどうする……? 俺とレイブンがいれば酒場にも入れると思うぜ?」

 

 

 

 まだなんの話かも言っていないのに断ろうとしているベロニカを見て、やはり彼女も内心ではかなり慌てていることがわかる。自分でも言ったように、本当に嫌な予感がしているということだと思う。

 そんな風に俺とベロニカが話していると、急に横からカミュが割って入ってきて彼により考案された話を持ちかける。しかし、一石二鳥の名案だとは思うのだが、この相棒殿はいつまでドヤ顔を引っ提げていくつもりなのだろうか? 周りの人からの視線がつらい………………。

 

 

 

「………………。………そういえば、確かにそうね。あたしとしたことが、うっかりしてたわ。やっぱり先入観ってものは良くないわ。────ところで、素敵な提案をしてくれたアンタは誰かしら?」

「お気に召したようなら良かったぜ。俺はカミュ、此奴の相棒なんかをやってるもんだ。よろしくな、おチビちゃん」

「ふーん……。カミュというのね。一応お礼を言っておくわ、ありがとう。………けれど、それとこれとは話が別よ。あたしのことを「おチビちゃん」って呼ぶのは止めてちょうだい。あたしにはベロニカっていう素敵な名前があるの。今度そんな呼び方をしようものなら、燃やしてやるんだから」

「おぉ、そりゃあ怖いな。わかった、燃やされるのは勘弁したいから、普通に名前で呼んでやるよ」

 

 

 

 ふと、カミュとベロニカの遣り取りを見て思った。この2人って、もしかして相性が悪いのかしらん? ほんのりと険悪なムードが漂い、敏感な子供らしく察したルコが怯えて俺の脚に引っついてくる。

 その行動でルコの存在を思い出したのだろう。ベロニカは不思議そうな顔で彼女を見つめた後、どんな結論に至ったのか戦慄の表情で此方を見てきた。

 

 

 

「レイブン……? その子どうしたの? 随分と懐いてるようだけど………………はっ!? まさかアンタ、誘拐してきたんじゃないでしょうね………!?」

「いやいや、そんなわけないでしょ。この子も家族を探してたから、一緒に探そうとしてただけだよ。酒場にでも行けば、ルコの父親の話も聞けるかもしれないからね」

「あー、うん……まあ、アンタならそんなところよね。あたしと会わないうちに嗜好が歪んじゃったのかと思ったけど、ただの取り越し苦労で良かったわ」

「あはは……。恐ろしい冗談は止めてくれないかな、本当に………………えっと、冗談だよね?」

「さあ、どうかしらね? ──それはそうと、よろしくね。あたしはベロニカよ、ルコって呼んでもいいかしら?」

「う、うん。よろしく、おねえちゃん………」

「おいおい、レイブン……お前遊ばれてるじゃねえか。見た目一桁の女の子に弄られるとか、側から見るとなかなかにアレな光景だぜ?」

 

 

 

 なんだかんだと和気藹々とした空気になって、奇妙な集団で纏まって酒場へと向かう。日も暮れ始めた時間なので、酒場の中はそれなりに盛況であった。

 入店すると直ぐに店員が声をかけてくる。見覚えのある男だ。記憶違いでなければ、昼間にベロニカと言い合っていた石頭(by ベロニカ)だと思われる。相変わらず気に喰わない相手には手厳しいなあ………。

 

 

 

 まあ店員も店員で、レイブンの背後に姿を隠していたベロニカが顔を覗かせると、即座に接客スマイルが消し飛んだ。

 ちょっと、それは接客業を仕事とする人間としてどうなんだ? クレーマー相手にも笑顔で対応がモットーでしょうが。陰湿なクレーマーなら笑顔で通報が最善だと思うけどね。

 

 

 

「あっ、お前は! 懲りもせず、また来やがったな! 子供が1人で酒場なんぞ…………」

「………俺たちの連れが、なにか?」

「あっ、いや……こいつぁ失礼しやした。大人が一緒なら大丈夫でさあ。どうぞゆっくりしていってくだせえ」

「………………ふふんっ」

「うっ……このガキ…………ッ」

「コラコラ……無意味に煽るのは止めなって、ベロニカ。ほら、マスターに話を聞かないと」

 

 

 

 そんな一幕がありながらも、俺たち一行は無事に酒場に入ることができた。通り過ぎる時にベロニカが煽るようなことをした所為で、背後のお兄さんは額の青筋に加えて歯軋りと大変な形相になってるよ。

 ところで、そろそろカミュのドヤ顔について言及してあげるべきだろうか。見たところ無意識っぽいし、ベロニカとかにこれがデフォルトの顔だと思われるのは少し可哀想だ。

 

 

 

「こんにちは、マスター。此方の席………かけてもよろしくって?」

 

 

 

 俺の説得により取り敢えずは煽りを中断したベロニカは、本来の目的のためマスターに声をかける。小さな体で席に着き、グッと両肘をカウンターについて前のめりになる。

 これで元の姿であれば、きっとベロニカは美人になってると思うので映えるのだろうが。今の姿だと、どうしても背伸びした子供にしか見えないのが複雑だった。

 

 

 

「ほっほ……元気そうなお嬢ちゃんだ。ご注文は“ますたぁの気紛れコブ茶”でいいですかな?」

「お気持ちはありがたいけど、今はゆっくりしている暇はないの。あたしたち、人を探しに来たのよ」

 

 

 

 どうやら酒場のマスターは気の良い人のようで、ベロニカのような幼い少女(18歳)に対しても穏やかな対応である。年の功とはよく言ったものだ。

 流石に酒は勧められないのでコブ茶をと言ってくるマスターだが、それに断りを入れてベロニカが早くも話を切り出した。彼女はよりいっそう身を乗り出して、最初から核心について尋ねた。

 

 

 

「単刀直入に言うわ。──あたしと似た格好をしたセーニャって子が、誰かを探しに来なかった?」

「セーニャ……セーニャねぇ…………おぉ! あのお嬢ちゃんならウチにお姉さんを探しに来たけど、居ないとわかって里を出ていったよ」

「……そう。セーニャは、何処に行くって言ってた?」

「西の方にお姉さんがいる気がするから、そこを目指すって言ってたっけねえ。なんとも不思議な子だったなあ………………」

 

 

 

 うん、まあ……この双子のことを知らなければ不思議にも思うわな。本当になにか目に見えないもので繋がっているのではと思わせるくらいだからね。なんとなくでお互いの位置がわかるとか、俺もそれ欲しいです! 

 しかし、それにしてもセーニャは既に里の中には居ないのか。わかってはいたけど、漠然と西の方というだけでは探すのは時間が掛かりそうだ。

 そう思った俺だったが、ベロニカには心当たりがあったのかカウンターを叩きながら勢いよく起き上がった。

 

 

 

「西の方? ああもう、入れ違いだわ! セーニャはあたしを助け出そうとして…………!」

 

 

 

 やはりというか、嫌な予感は当たってしまったらしい。反射的に立ち上がるほどの衝撃だったようだが、一瞬でベロニカの興奮は冷めてストンと席に座りなおす。

 そのまま沈んだ表情で振り返ってレイブンと向かい合う形になり、ポツリと事情を話していく。漸くなにがあったかも話してくれるらしい。

 

 

 

「実はあたし、蒸し風呂に入っているところを魔物に攫われちゃって、今まで其奴らのアジトに閉じ込められていたの。折角其処から逃げ出してきたのに、今度はセーニャが魔物のアジトに行っちゃうなんて………………」

 

 

 

 それを聞いて俺が思ったのは、まさかという感想だった。お風呂という丸腰の状態で魔物と相対したところで、ベロニカの攻撃手段は基本的に魔法であるので大幅な戦力低下にはなり得ない。

 とはいえ、どうして捕まったのかというのは今は大事な話ではない。要はこの後、魔物のアジトにベロニカは行かなければならない。魔法も使えない状況でだ。

 

 

 

 ベロニカが顔を上げる。語っていた時は伏せ気味だった顔を上げて、真っ直ぐに此方を見てくる。

 昔となにも変わらない力強く、尊い意思がいっぱいに籠められた瞳と見つめ合う。これから彼女がなにを言おうとしているのかは容易にわかる。わかっていて、俺は既に断る気がなかった。

 

 

 

「ねえ……レイブン。アンタに力を貸して欲しいの。6年前の時点でも年齢に見合わない強さを持っていたアンタのことだもの、今はもっと強くなってるんでしょう………? そのくらい、あたしは見ればわかるわ。今はまだ、アンタにも詳しい話ができないけれど、お願い………………どうかなにも聞かないで、一緒にセーニャを探してちょうだい」

「──当然だよ。わかった、一緒にセーニャを探そう。むしろ来ないでなんて言われたら、無理矢理について行くところだった」

「……あははは! 本当に、アンタは変わってないわね。そういうところ、あたしは好きよ。────ありがとう………レイブン。そう言ってくれて安心したわ」

 

 

 

 ベロニカからの頼みに即答する。勿論、答えは快諾以外になかった。

 仮にも相棒であるカミュに相談しないのは不義理かもしれないが、これで愛想を尽かされても構わない。俺はベロニカとセーニャの力になりたいって、本気で思ってるんだから。

 

 

 

 彼女にとっても、俺がベロニカからの頼みの内容に察しがついていたのと同じように、どんな答えが返ってくるかはわかりきっていたようだ。

 俺と彼女たち姉妹との関係は言ってしまえば4年程度でしかないが、その密度はもかなり濃かったと言える。やはり一緒に旅をしていたのが、大きな要因だとは考えられる。その時間は短くても、互いに仲良くなろうとしていたのが良かったのだ。

 

 

 

 こうして俺の答えは予想できてきただろうに、会っていなかった間に俺が変わってしまっている可能性から不安に駆られて、その懸念が晴れた時に見せた満面の笑みは本当に嬉しいものだ。

 俺と彼女の間にある親しさなら、敢えてこのように頭を下げて頼み込んでこなくても良かったのだ…………本当のところは。でも、それを律儀に「親しき仲にも礼儀あり」と誠意を見せるのがベロニカという人間であり、俺もそうしたところに好感を覚えている。

 

 

 

 それに、カミュにしても勝手に方針を決めたことに文句の一言くらいはあるものだと考えていたが、そうでもなかったようだ。

 視線とジェスチャーで謝罪すると、彼は仕方のないヤツだとでも言いたげに「アメリカン:やれやれ」ポーズで呆れを表し、しかし俺の選択に対して意義を示すことはなかった。どうやら認めてくれたらしい。

 

 

 

 本当に今更な話ではあるけど、改めて思う。

 ────運命には恵まれていないが、人との縁には恵まれているな、俺は。この縁を、大事にしていこう。

 

 

 

「おねえちゃんたち………いっちゃうの? ルコもいっしょにいく!」

「子供は危ないからダーメ。貴女のパパについては心当たりがあるの。必ず連れて帰って来るから、いい子で待ってて」

「お前だって子供じゃねえか…………少なくとも見た目に限ってはな。ちゃんと、俺たちについて来られるのか?」

「あたしを誰だと思ってるの? 聖地ラムダからやってきた最強の魔法使い、ベロニカ様よ。むしろアンタの方が、あたしの足を引っ張らないように気をつけて欲しいくらいだわ」

 

 

 

 まだ顔を合わしてから一時間も経たない短い時間で、恰も喧嘩漫才のように掛け合いをするカミュとベロニカの2人を見て、思わず浮かんだ笑みをそっと隠す。

 密かに心配していたルコの父親に関しても、ベロニカの方になにか心当たりがあるとのこと。流石に断言はできないが、話の流れ的にベロニカが囚われていたという魔物のアジトにいるのではないだろうか。

 それなら帰って来ないのではなく、戻って来れないということならば辻褄が合う。

 

 

 

 所詮は俺の予想に過ぎないが、先に言った通りにベロニカの直感は頼りにできる。九割がた彼女のいう心当たりで間違いないはずだ。だって、エスパーだもの(半笑い)

 あとは、セーニャが既に魔物のアジトについていないことを願おう。そうでなくても何処かで立ち往生してくれていれば、まだ安心できるというものだ。彼女の場合は回復・支援を得手とするが、直接的な戦闘には本来向いていないタイプだから心配である。

 

 

 

 なにが心配かって、あの子の天然度合いは本当に凄いものだったので場合によっては魔物のアジトの存在にも気がついていないかもしれない。

 どういう状況だったかは知らないが、当時から攻撃・妨害魔法の天才だったベロニカが成長した現在でも捕らえられたという相手に、そんな考えで挑んだりしたら大変なことになるだろう。

 

 

 

 つい思い浮かべてしまった想像を振り払い、余計な思考を切り替える。俺が考えるのは不測の事態の対応と危機的状況を打破するための手段だけで良い。他は体が勝手にやってくれるはずだ。

 カミュとの問答で調子が出てきたのか、快活さと不敵さが合わさったような印象的な笑顔を向けてくるベロニカに対して、俺も極力は自然な笑みに見えるように努めて笑い返した。

 

 

 

「さあ、行きましょ、レイブン。魔物のアジトがあるのは、此処から西の地下に広がる大きな迷宮の中よ。────きっと、セーニャも迷宮の中にいると思うの。西の海岸辺りに迷宮の入り口があるはずだから、ひとまず其処を目指しましょ。アンタが頼りだから、しっかり頼んだわよ、レイブン」

 

 

 

 俺の反応で更に気を良くしたのか、ベロニカは笑みを深めて目標地点の情報をくれた。

 その言葉に頷いて、いざ行かんと彼女に連れ立って酒場を出ようとした時にスッとベロニカが密着するほどの距離に寄ってきて、誰にも聞こえないくらいの声でそっと囁いてきた。

 

 

 

「──────いいえ、違うわね。そう、期待しているわよ。レイブン………私たちの勇者様?」

 

 

 

 そう言って、ベロニカは──────俺が驚きに目を瞠る姿を宝石のように美しい紫の瞳(アメジスト)に映して、サプライズが成功したかのように悪戯っぽくも、妖しく可憐に微笑んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて弐章の2話目を終わりとします。
最後までご覧いただいた方々、本当にありがとうございました!


今回の話は色々と形式を変えているので、ある意味では試験的な意味合いもありましたが如何でしたでしょうか?
前書きでも言及しましたが、話の途中で視点変更を入れております。
三人称から一人称の主人公視点であり、そういった形式が嫌いな読者の方からすれば問答無用で不評かとは思いますが………………。
弊害として文量がふえてしまったりと幾つか問題はありますが、現状の私にとっては不思議とこの形式が最も書きやすいと感じました。

実を言いますと、私はドラクエ11に登場するキャラクターの断トツでベロニカのことが好きでございます!(唐突)
勿論ですが他のキャラクターも非常に魅力的で可愛い/格好良い人たちだらけなので凡人の私はついつい目移りしてしまうのですが、今までに2回ほどエンディングまでプレイさせていただいたところ、私は完全にベロニカというキャラクターに心を打たれてしまいました。
なるべくキャラクター1人1人を丁寧に書いていき、誰か1人を贔屓するような書き方にはならないように気をつけようと思っていたのですが、今回の話を見返すと明らかにベロニカを贔屓する書き方になっているような、いないような………………いえ、なんでもありません問題ないですね!(目逸らし)

ーーー真剣な話、これから先の話を書いていくにあたって1人のキャラクターを贔屓する書き方は色々と問題が出てくるでしょう。
最悪の展開としては、無意識のうちに誰かを上げるために誰かを下げるような印象を与える文章になってしまうこと、これが最も恐ろしいです。
前述したようにランク付けしようと思えば、私の中でのトップはベロニカで既に固定されています(ちなみに、No.2はシルビア)
しかし、無理にランクを設けなければどのキャラクターも魅力的でアンチするには勿体ない人たちばっかりです!
ですが、私は凡人ですのでいつの日かきっと内なる欲求に抗えず、ベロニカを全力でプッシュする日が来るやもしれません。

もしそんな真似をすることがあれば、どうか読者の皆様方には感想やら活動報告のコメントやらでそれとなくご指摘いただきたいのです。
例えば「俺の推しが露骨にアンチされて、◯◯ばっかり目立ってるんだけど………ちょっとオハナシしようか?」みたいなイメージです。
こういうのは得てして自分では気がつきにくいものだと思いますので、ついつい私がやり過ぎているのを見咎めた際にはビシッと一発キツイのを決めていただければ助かります。


それでは、前書きに続いて後書きまで大変長くなってしまって申し訳ありませんでした。
次の投稿は取り敢えず2週間後の水曜日、9月4日とさせていただこうかと思いますが過度な期待はしないでください。

本日も私の作品を読んでいただいたこと、本当にありがとうございました。
失踪だけはしない所存でございますので、皆様方さえ宜しければどうか完走までお付き合いください!

最後に改めて、私の度重なる投稿延期に付き合ってくださり本当に申し訳なく、そしてあらん限りの感謝をーーーーーありがとうございました。



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