真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

22 / 27



こんにちは、二週間ぶりの投稿です!
お約束通りの日程に執筆が間に合ったので安心しました…………ええ、切実に。
未だに書くのが大変な状態ですが、以前よりは確実に良くなっています。
まあ、先々の話になるけれど、これで初期の一週間投稿まで戻せるのが理想だったり(小声)

前話と比べて文字数は減っていますが、今回も視点が切り替わっています。
セーニャ視点→第三者視点といったところですね。
1万文字には届いていないので、長文が苦手な人でも問題なく読めると思いますのでご安心ください。

それでは、弐章三話です。
短いですが戦闘シーンもありますのでお楽しみください!





癒しの聖女セーニャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様〜? 何処にいるんですか、返事をしてください、お姉様ぁ〜! ────変ですねえ。此処からお姉様を感じたと思ったのですが………………」

 

 

 

 ホムラの里から西に向かって10kmほど離れた海岸近くにある迷宮に、私、セーニャは居ました。

 迷宮の中は、見通せないほどではないけれど薄暗く、ジメジメと湿り気を帯びていて心地の良い場所とは言えません。何処からか、饐えた匂いにも似た酷い悪臭が漂ってくるのも辛いです。

 

 

 

 それならば何故こんなところにいるのかと言いますと、実は私と一緒に旅をしていたお姉様が、ホムラの里でお風呂に入っている間に突然消えてしまわれたのです………!! 

 お風呂には僅かに争った痕跡と、お姉様の魔力が充満しており、其処で戦闘があったことを示していました。それは同時に、何者かとお姉様が争った末になんらかの理由で遅れを取ってしまい攫われたであろうことも、私に教えてくれていました。

 

 

 

 何者かにお姉様が敗北し攫われた。その事実は、私にとって衝撃的なものでした。

 更に言えば、あのお姉様が遅れを取るような強く、或いは賢い魔物が、つい先程までホムラの里にいたのにも関わらず誰にも気づかれていなかったということでもあります。………なんて、恐ろしい魔物なのでしょう。

 

 

 

 それでも誰でもいいから、なにか知っていないかと思って酒場のマスターに聞いてみましたが、結局、空振りに終わってしまいました。

 こうなってしまえば、私自ら探しに行く以外に手段は残っていません。敵の情報がない時に、無闇に動くのは得策ではないと常々お姉様から言われていますが、非常事態では適用されないでしょう。時は一刻を争う(ような気がする)のです………!! 

 

 

 

 そうして、私は旅立ちました。なんとなくお姉様を感じる方角、ホムラの里から西に向かって、魔物はなるべく避けながら一心不乱に歩き続けたのです。

 途中に見掛けたキャンプ地で転寝をしてしまうこともありましたが、曖昧な感覚を頼りに私は何処かへと連れ去られてしまったお姉様を探し歩きました。そして、見つけたのが、この洞穴だったのです。

 

 

 

 私はその洞穴を見た瞬間、此処にお姉様がいるのだと確信を得ました。この洞穴は海岸の直ぐ近くにあって、ジトリと湿気が肌に張り付いてくる不快感を覚えましたが、お姉様のためにも堪えて中に入りました。

 洞穴は迷宮の入り口であったらしく、その中には魔物が犇く酷い有様でしたが、何処からか確かにお姉様を感じられたのです。────今、セーニャが助けに行きます! 待っていてください、お姉様……!! 

 

 

 

 そのように確信を得て、意気込み突入したまでは良かったのですが、この迷宮は一筋縄ではいかない難物だったのです。

 肌に張り付く湿気、鼻を覆いたくなる悪臭、整地されていない足場、身を隠す場所も逃げ場もない通路、群がる魔物の集団、巧みに設置された罠の数々。それ等に私は翻弄されてしまい、なかなか奥にまで行けませんでした。

 

 

 

「むっ! 魔物が、四体いますね。では…………そろり、そろり────ふんっっ!! えいっえいっえいっ、えいぃやぁあぁあああっっ──!!! ──風よ、渦巻け──《バギ》!!」

 

 

 

 それにしても、本当に魔物が多い場所です。主にサポートを得意とする私は自分だけで戦うのが苦手なので、改めてお姉様の偉大さを再確認です。

 まず初めに、通路の奥に複数の魔物がいるのを発見できたので、敵に先んじて気づけたことを活かしました。不意打ちの急所狙いで槍を『閃かせて』、黄色のドラキーの胴体を貫きます。この時に『会心』の手応えがなければ、急いで距離を取らなければ反撃を喰らいます。

 

 

 

 その次に、鈍重な動きですがしぶとい腐った死体と、変則的で読み難い動きをする泥人形に、『五月雨の如き』槍の乱撃を見舞いました。

 更に、勢いを止めないまま、素早い動きで迫ってきていた、白骨化した魔物に騎乗した小人を含めた三体を諸共に『薙ぎ払い』、バックステップで一度距離を開けます。

 

 

 

 そして、先の一撃で怯んでいるところを見逃してはいけません。即座に呪文を唱えて、風系統の基本呪文である《バギ》を発動します。

 顕れた3つの魔力により構成された小さな竜巻は魔物を瞬く間に渦の中に巻き込み、数秒の後に呪文が解けた時には全身を切り裂いて絶命しています。其処で、漸く私は息を吐いて体の力を抜くことができました。

 

 

 

 普段ならば、お姉様がお得意の《メラ》を無数に放って敵を牽制しながら、私が風系統の上位呪文で倒す。または怯ませて、最後にお姉様の高火力範囲呪文で一掃するというパターンにより、このくらいの魔物なら消耗も少ないのですけれど。

 今のように一人でしたら、必ず先手を打てるように心掛けています。槍の扱いは教えてもらう機会に恵まれましたが、やはり直接的な戦闘には長けていないので、当然のことですよね。

 

 

 

 それにいざ槍を握って戦いに臨みますと、昔からの癖が治らなくて、気合いを入れるために大声を出してしまいます。こうして声を出さないと怖くて腰が引けてしまうので、少し恥ずかしいですが諦めが肝心ですね。

「声を出せば、意外となんとかなる」などと、初めて言われた時は半信半疑でした。この方法を教えていただいたのは何時だったのか、もうはっきりとは覚えていませんのに、誰になにを言われたのかはしっかり忘れていない辺り都合のいい記憶です。

 

 

 

 そういえば、レイブン様は剣で斬りかかる時に私と同じように声を出していますし、今では助言も的確だったとわかります。

 私の中では、彼は最も勇敢な方なので考えたこともありませんでしたが、もしかしてレイブン様も戦うのが怖かった時期があったのでしょうか? …………いえ、こんな場所で考えることでもありませんね。しかし、そう思うと親近感が湧いてきて、つい笑ってしまうのでした。

 

 

 

「あら…? 急に空気が澄んで……此処は一体………あっ、女神像が何故こんなところに? それに、泉まであります! 元々は人間の拠点だったのでしょうか?」

 

 

 

 途中で何度か罠に引っ掛かってしまったり、一人での戦闘なので魔力の消費も大きく、持参していた魔法の聖水も残り僅かといった時のことでした。

 通路を抜けて広間に入った瞬間────魔の気配が一切感じられない、清廉な空気に包まれました。まさかとは思いましたが、人気のない迷宮の中には不思議なことに女神像があったのです。そのお陰でこの広間には、魔物も必要以上には近づけないようになっているのでしょう。

 

 

 

 人間がこの迷宮を放棄してから、どれだけの年月が経ったのかはわかりません。女神像は苔生していますし、床には大小様々な亀裂が走っています。

 ですが、祈る存在もいないのに、女神像は未だにその恩恵をこの広間に満たして魔物を寄せ付けず、美しかったであろう泉も枯れることなく、現在でも清らかなままであることに、何故か嬉しく思いました。

 

 

 

「うっ…急に……っ……。あぁ、でも……女神像がお護りくださっている此処なら、少しくらいは………いい、です……よね………………」

 

 

 

 そうして感慨に耽っている時間は、あまり長くはありませんでした。

 唐突に襲ってきた疲労に、意識が朦朧としてきます。食事は保存食だけで、休憩も碌にしていませんでした。気が緩んでいたところだったので我慢することもできず、敢えなく意識を沈ませていきました。

 

 

 

 次に、目を覚ました時には、何故か私に縋り付いて泣きそうな表情をしたお姉様と、懐かしいレイブン様の成長して逞しくなったお姿がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 新たにベロニカを仲間に加えた一行は、早々に酒場を辞して、まずは宿屋に彼女の装備と所持品を取りに行くことになった。

 彼女は本来、魔法使いであるので使う武器は杖なのだが、現在は諸事情により魔法が使えないため、致し方なく鞭を装備する。「スコーピオンテイル」という、具体的に言うと[攻撃力43]という感じの威力と、稀に打った相手を痺れさせる効果のある強力無比な鞭である。

 

 

 

 その後は、カミュの短剣を新調することにした。ホムラの里にある武器屋へと赴き、「毒牙のナイフ」という短剣を1本だけ購入する。片方は「聖なるナイフ」を使うつもりのようだ。

 この短剣も、ベロニカの鞭には一歩譲るが、有用な装備である。具体的には[攻撃力24]という感じの威力と程々の確率で斬り裂いた相手を痺れさせる効果があるのだ。

 

 

 

 レイブンとしては、お金に困っているわけでもないので、どうせなら「毒牙のナイフ」を2本買ってしまえば良いと言ったのだが、ベロニカの助言により1本にすることに決まったという経緯がある。

 それは何故かというと、これから向かう予定の場所には腐った死体という魔物がいたらしい。その魔物は、不死の性質を持っているので不浄を払う聖なる力を宿した「聖なるナイフ」で斬りつけると、通常よりも遥かに大きなダメージを与えることが可能なのだ。

 

 

 

 曰く、腐った死体は体力が多く、一度の攻撃ではなかなか倒れないのだそうだ。死体が腐った匂いのため悪臭も酷く、戦闘に集中するのも一苦労だとか。

 2人も戦った経験があったので思わず顔を顰めて、「聖なるナイフ」を残したのは副次効果で腐敗臭も少しは和らぐからというのもあった。同じ理由で、レイブンも「ゾンビキラー」という装備に変更している。

 

 

 

 これで3人の装備が整ったので、善は急げとホムラの里を飛び出して西方へと向かっていく。道中の魔物は全員揃って、サーチ&デストロイの勢いで蹴散らしながら猛烈な速度で荒野を征く。

 ちなみに、ルコは危ないから連れていけないとして、酒場のマスターと店員兄ちゃんに預けている。店員兄ちゃんは非常に嫌そうな顔をしていたが、マスターの鶴の一声により決定した。彼も所詮は下働き故に、逆らうことはできないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホムラの里を出立してから、およそ2時間が経過した現在────3人は目的地となる海岸沿いにある洞穴、迷宮の入り口まで辿り着いていた。

 レイブンとカミュだけならば、恐らく半分の時間で着くことも可能だったはすだ。しかし、ベロニカの体が縮んでしまっている以上、移動速度が遅れるのは仕方がないことでもある。

 

 

 

「……うん、此処で間違いないわね。この迷宮の奥まで行けば、私を攫った魔物たちがいるわ。あの子も中から感じるから、1人で探しに来ちゃったみたいね」

「まあ、なんというか、こういう行動力はセーニャらしいね。普段は物静かで、大人しい娘なのに………………」

「なんだよそれ? 本当に大人しい奴なら、こんな陰気臭いところに入っていかねえだろ」

「そういう子なのよ。変なところで行動的になるし、危なっかしくて放っておけないのよね。────ほらっ! あの子については実際に話してみればわかるから、今は先を急ぐわよ!」

 

 

 

 その一声により、暫しの休憩を経た3人は迷宮へと突入していった。

 入り口から中に入った瞬間────ムワリと湿気と悪臭を伴った空気に迎えられる。反射的に片手で鼻と口を押さえてしまうが、決して警戒を緩めることはしない。

 ベロニカも眉を顰めて鼻をつまんでいたが、ゆっくりと手を離してレイブンに注意を喚起する。

 

 

 

「レイブン、用心しなさい。此処はあちこち罠が仕掛けられているから、上手く切り抜けないと出られなくなるわよ。あたしが此処から脱出した時も、もう少しでホントの迷子になるところだったわ。特に……床には注意することね」

 

 

 

 その言葉に、レイブンは真剣な表情で頷く。続けて、カミュはすんっと鼻を鳴らした後、腰に佩いた短剣の柄に手を添えながら不愉快そうに言った。

 

 

 

「なんだか、嫌な感じの迷宮だな…………。今まで此処で、沢山の人間が犠牲になったような………そんな“ニオイ”がするぜ。さっさとセーニャって子を見つけて、こんな場所からはおさらばしよう。盗賊の勘が、そう言ってるぜ」

 

 

 

 カミュの提案にも頷く。長居して誰かが得するのでもなければ、無用な危険を侵す必要はない。

 レイブンは臨戦態勢に入ったことで研ぎ澄まされた《直感》により、この先にある脅威を正確に理解していた。そうして感じ取った強さから、3人で戦えば問題なく倒せる敵であることもわかっているが油断はしない。

 

 

 

「うん、わかってる。……早速お出ましのようだね」

「ドルイド、ドロル、タホドラキー、泥人形…………一気に来たわね。作戦通りに行くわよ! レイブン!」

「任せて…! ──唸り、爆ぜろ──《イオ》っ!!」

 

 

 

 迷宮に突入してから数分で魔物の群れと遭遇した。レイブンの《直感》により、接敵前に発見に成功する。

 此処に来る前に決めてあった作戦に従って各々が行動を開始────まずは、開口一番にレイブンが爆裂系統の基本呪文である《イオ》を放って先制し、途端に混乱へと陥れる。

 

 

 

「畳み掛けるわ! ……杖よ! その身に宿す力を解放したまえ! ──喰らいなさいっ!!」

 

 

 

 その混乱に乗じて、ベロニカが手に握る杖を振りかざすと、先端に埋め込まれた宝玉から《メラ》に酷似した火球が放たれた。

 泥人形は爆発の衝撃で避けることもできずに火球が直撃すると、泥で構成された身体は瞬時に燃え上がり、水分が蒸発してしまい機能を停止する。

 

 

 

「オラッ! 魔法なんて使わせねえよ……!!」

 

 

 

 奇怪な魔導師のような姿の魔物、ドルイドが魔法を放とうと杖を構えるよりも早くカミュが駆け抜けて、迷宮の壁を蹴りつけて3次元的な動きをしながら両手の短剣で切り裂いていく。

 着地した後も勢いを殺さず、カタツムリに似た姿のドロルという魔物の飛び出た目玉を「聖なるナイフ」で斬りつけた瞬間────会心の手応えと同時に、開いた傷口から黒い靄のようなものが吹き出して直後に浄化される。

 

 

 

「やらせないっ! ふっ……!甘い、そんな棒切れで! ──はぁあっ!!」

 

 

 

 鋭敏な聴覚が災いして爆音により意識を朦朧とさせていたタホドラキーが、態勢を整えて背後よりカミュに襲い掛かろうとする。しかし、いつのまにか接近していたレイブンが跳躍し、攻撃姿勢に入っていた為に隙だらけだった2匹を纏めて背後から横一文字に両断した。

 そのまま着地地点の真正面にいたドルイドを、咄嗟に構えたであろう木製の杖ごと唐竹割りに斬り捨てて、続けざまに後ろ回し蹴りで、背後にいた泥人形の胸部にある核を的確に蹴り抜いて仕留める。

 

 

 

「ふんっ、やぁあっ! ………このっ、鬱陶しいのよ! 落ちなさい!!」

 

 

 

 3人の怒涛の攻撃は止まらない。ベロニカが今度は鞭を持ち、鞭のしなりを上手く利用して空中にいるタホドラキーを一振りで纏めて数体打ち据える。

 不運にも蠍の毒針で作られた鞭の先端により傷ついた個体は瞬時に蠍の麻痺毒が小さな体に回ってしまい、神経が機能しなくなったことで空中から転がり落ちたところを追撃の鞭が襲い掛かり絶命する。

 

 

 

「纏めて仕留める! ──光よ、迸れ──《ギラ》っ!!」

「これで、終わりだぁあ──っ!!」

 

 

 

 そして、直線上に並んでいた2体の泥人形をレイブンから放たれた閃光が諸共に貫いて焼き尽くし、今にも魔法を放とうとしていたドルイドにカミュは怯むことなく、2体の隙間を通り抜けざまにクロスするように両腕を振り抜いた。

 泥人形は互いに絡まりあってゴロゴロと転がりながら壁にぶつかって止まり、ドルイドは発動寸前だった呪文を保持できなくなって仰向けにコテンと倒れる。こうして、迷宮での初戦闘は完全勝利に終わった。

 

 

 

「……ふぅ、予想以上に上手くいったわね」

「ああ、そうだな。こっちは無傷であの数を倒せたんだ。上出来だろ」

「奇襲からの速攻………此処に来るまでも練習したけど、迷宮の魔物でも連携が嵌れば完封できるとはね」

 

 

 

 3人の作戦は、シンプルに開幕奇襲から速攻で殲滅に移る電撃戦。それにより14体もの魔物を無傷で仕留めることができた。

 レイブンとカミュ、レイブンとベロニカは兎も角として、カミュとベロニカの2人は知り合ってから間もないために細やかな連携は期待できないとして、レイブンの先制攻撃から臨機応変に互いをフォローし合うことを提案した。

 

 

 

 カミュも、ベロニカも、実力的には両者共に問題ないので、的確な状況判断をして動くことができる。

 連携を意識するのではなく、個々に敵を撃破しながら互いをフォローすることを目的とすれば、こうして意外なまでの成果を上げることに成功したのだ。

 

 

 

「よし、この調子で先に進もうぜ! …………ん? おい、見ろよレイブン! 彼処に宝箱が……いや、俺が取りに行ってくるから待ってろよ!!」

「え? ……あっ、カミュ待って! 其処にベロニカの言っていた罠が──────」

「どわあぁあぁあああ────っっ!!?」

「カ、カミュ──っ!?」

「もう、なにやってるのよ全く…………」

 

 

 

 ────また、圧倒的な戦闘に浮かれたカミュが宝箱を見つけて我先にと走ったけれど、落とし穴の存在を見落としてしまい落下したのは余談である。

 当然だが、落とし穴に引っ掛かったカミュは、レイブンとベロニカの2人によって救出された。

 

 

 

 そんな一幕もありながらも、3人は快調に迷宮の攻略を進めていた。スカルライダーという魔物の素早い動きに少し手間取るくらいで、対抗手段を用意していた腐った死体は特に問題なく倒すことができた。

 迷宮の各所に仕掛けられた落とし穴にしても、実際にカミュが罠に引っ掛かったことで警戒心を上げたレイブンの〈直感〉により暴かれて、その後は誰も引っ掛かることはなかった。

 

 

 

 すると、レイブンとカミュには見覚えのある〈命の大樹〉の根っこを見つけたので、以前のようにレイブンが近づいて過去の記憶を垣間見る。

 最奥に近い通路には落とし穴があると知ることができたが、人型罠探知機のレイブンの存在がある為にあまり有益な情報ではない。ただ、奥に待ち受ける魔物を知れたので全く無意味でもなかった。

 

 

 

 それからも、先手必勝で魔物を倒しながら、偶に奇襲を受けて怪我をすることはあっても《ホイミ》と薬草で傷を癒して先を急ぐ。

 再び広間に入ると、其処には迷宮としては場違いなことに人の手が入ったものと思われる泉があった。

 

 

 

「………へえ。こんなところに泉があるなんてな」

 

 

 

 カミュは興味深げに泉を眺めてそう呟いた。

 レイブンはそれに頷くが、ベロニカはなにかに気がついたようにキョロキョロと広間の中を見渡す。

 

 

 

「う、ん……? この辺からセーニャの気配が…………あ! あれは………!」

 

 

 

 そして、ベロニカは見つけた。常に一緒にいた双子の妹が、力なく倒れている姿を………………。

 ベロニカの悲鳴のような声に、泉に目を奪われていた2人も反応する。視線を向けた先には地べたに倒れ伏した少女の姿があり、その特徴から倒れている人物に気づいたレイブンが驚くよりも早く、ベロニカは慌てて少女に駆け寄った。

 

 

 

「セーニャ……セーニャったら! ちょっと、しっかりしてよっ!」

 

 

 

 その少女、セーニャの側で膝をついて、ベロニカは悲痛な声で叫ぶように訴える。

 

 

 

「セーニャ、なんでこんなところで…………」

「こいつが、彼奴の妹か………」

 

 

 

 レイブンたちも近づいたが、その姿を後ろで見ていることしかできない。2人は顔を顰めて、直後にレイブンはなにかに気づいたように首を傾げた。

 

 

 

「どんな時も、ずっと一緒だって約束したじゃない…………。ねえ、返事してよ、セーニャ…………」

 

 

 

 そんな2人のことは意識の外にあるベロニカは、これだけ呼び掛けても返事の一つもしないセーニャに悲痛な表情になって、身を乗り出しながら耳元に顔を寄せて囁くように声を掛け続ける。

 だが、それでも反応はない。涙を堪えるように目を瞑り諦め掛けた、その時────今まで反応を見せなかったセーニャがピクリと体を動かして起き上がった。

 

 

 

「んん……ふわぁ………」

 

 

 

 そして、驚いて目を見開くベロニカを尻目に、大きな欠伸をかました。後ろでカミュも驚いているが、レイブンは一瞬だけ呆れた表情をしていた。

 

 

 

「すみません、私、人を探していて…………。此処についてから、疲れていたのか眠ってしまったようですわ…………」

 

 

 

 そのまま寝ぼけ眼を擦りながら誰にともなくそう言うセーニャは、ボンヤリとした表情をベロニカに向けて…………数秒の後に背後にひっくり返りそうな勢いで驚きを露わにした。

 

 

 

「………お、お姉様!? なんという、お労しい姿に…………。そ、それに、其方の方はレイブン様ではないですか!?」

「………………………まあ、随分と顔を合わしていなかったレイブンがわかったくらいだし、アンタならわかって当然よね」

「ふふっ、何年もお姉様の妹をしてますもの。ちょっとお姿が変わったくらいで間違えたりしませんわ」

 

 

 

 クスクスとセーニャは淑やかに笑う。先程までのベロニカも知らずに、のんびりとした様子で驚いている姉を見て楽しそうにしていた。

 そうして漸く安心できたのか、ベロニカはむんっという感じで両手を腰に当てて、色々と紛らわしいことをしてくれたセーニャをキッと睨みつける。頰が薄っすらと赤くなっているのは、あんな姿をレイブンたちに見られたことが恥ずかしかったからだろうか。

 

 

 

「も……もう! 紛らわしい倒れ方しないでよ! あたし、てっきりアンタが…………」

 

 

 

 …………と、そこまで言ってベロニカは口をつぐむ。性格的に素直に心配したとは言えないらしく、ふんっ! と鼻息荒く顔を背ければ、そんな姉の姿にセーニャは更に笑いを深くする。

 

 

 

「お取り込みのところ悪いが、そろそろお前がどうしてそんな姿になってるのか教えてくれないか?」

 

 

 

 そこで、2人の姿に頰を僅かに緩めていたカミュだったが、ふと思い出したようにそう言った。レイブンも同意するように頷く。

 ベロニカも最早隠すことでもないので、眉を悩ましげに顰めながら話し出した。

 

 

 

「そうね……私がこんな姿になっちゃったのは、ふかーい訳があるのよ。あたしを攫った魔物はね。此処をアジトにして、沢山の人を攫っては魔力を吸い取って集めていたの。魔力を吸い尽くされないように堪えていたら、どんどん年齢の方も吸い取られたみたい。それで、今はこんな格好ってわけ」

 

 

 

 その説明に、2人は納得して頷く。

 しかし、レイブンは心配そうに幼い姿になってしまっているベロニカを上から下まで眺めて問い掛ける。

 

 

 

「………そんなことがあったんだ。でも、ベロニカ、そんな体だと大変なんじゃない? 失った魔力を取り返せば元に戻るってこと?」

「ええ、きっとね。だから、アンタたちにはあの魔物から魔力を取り戻すまで付き合ってもらうわ」

 

 

 

 ニヤッと笑ったベロニカは、確定事項のようにそう告げた。此処までの道のりで、レイブンは勿論、カミュのお人好しも理解している故の言葉だ。

 レイブンたちも断るつもりはなく、カミュは呆れたような顔をしていたが苦笑して受け入れる。

 

 

 

「私からもお願い致します。回復呪文で皆様のお手伝いをしますわ。さあ、行きましょう」

 

 

 

 ペコリと行儀よくお辞儀をしたセーニャの言葉に3人が頷きを返して、此処で一休みをしてから先に進むことに決まった。

 それぞれ再会の挨拶を交わしたり、指名手配された話をして驚かしたりと疲れた心身を休める。

 

 

 

 こうして新たにセーニャという心強い仲間を迎えた一行は、迷宮の最奥に潜む魔物の親玉に挑むまでの、最後の休憩を楽しく過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて弐章の三話を終了致します。
本日も最後までご覧いただきありがとうございます!


ベロニカとセーニャの2人は、その昔にテオとレイブンの旅に同行していた時期があるため、魔法抜きでもそれなりに戦えるようになってます。
とはいえ、1人で戦うには消耗が大きいのも事実で(ここから妄想)、原作のセーニャは魔物を聖水やらなんやらで避けながら移動したところだったが、今作のセーニャは微妙に強かったことでまともに戦ってしまったが故の疲労感により眠ってしまいました、という設定です。
ちなみに、ベロニカとセーニャがすれ違ったのは途中にあるキャンプでセーニャが少しだけ仮眠した時のことですね。
魔力も武器もなくて魔物から隠れるのに必死だったベロニカも、流石にセーニャの存在を感知する余裕はなかったということでお願いします。

補足すると、この時点でのパーティーメンバーのレベルは、レイブンは30〜35と変わらなく、カミュはレベル12、13くらいで原作の推奨レベルをイメージしています。
ベロニカとセーニャは前述の理由から過去に戦闘経験があるため、レベル20前後だと考えていただければと思います。
本編での戦闘描写があまりに一方的なのは、その時は運良く連携が嵌ったとかそういった理由なので、毎回のように圧倒的に勝てていた訳ではありませんでした。


それでは、次の投稿はまた2週間後の水曜日、9月18日の予定です。
もしかしたら投稿が遅れる可能性もありますので、その時は活動報告に一報を入れてからにすることをお約束致します。

毎度毎度、長い後書きを最後まで読んでいただきありがとうございます。
また、2週間後(予定)を楽しみにしてもらえると嬉しいです!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。