真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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またしても投稿予定日時を延期をしてしまい申し訳ありませんでしたm(__)m
これから先はなるべく、このようなことがないように気をつけていきたいと思います。
ですが、私生活の都合上などでどうしても投稿が間に合わなかったりする場合には必ず活動報告にて一報を入れますので、其方の確認もして頂ければ助かります。

また、今回も少し文字数が多くなってしまっていますのでご了承ください。
それでは、弍章の四話、ご覧ください。





デンダ一味(仮称)との戦い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベロニカとセーニャの感動的な再会の後。セーニャを探すという目的を達成した一行だったが、新たに姉妹からの要請によりベロニカの魔力を奪った魔物を退治することになった。

 

 

 

「それにしてもセーニャだったか? 回復と支援が得意だって聞いているが、1人でよくこんなところまで来られたよな。此処まで魔物とは遭遇しなかったのか?」

 

 

 

 迷宮の最奥にいるという強力な魔物と戦うにあたって、ちょうど泉があるので休憩しようと決まり、各々で疲れを癒していた時のこと。

 手拭いで磨いた短剣を眺めていたカミュが、ふと思い出したようにそう言った。

 

 

 

 その言葉にセーニャが可愛らしく小首を傾げると、レイブンとベロニカの2人は揃って呆れたように苦笑いをした。

 カミュは3人の反応の意味がわからず、眉根を寄せてから問うようにレイブンへと視線を向ける。説明を求められていると判断した彼は簡潔にセーニャの戦闘能力について語った。

 

 

 

「えっと……つまり、なんだ? セーニャは槍を使った前衛としての戦い方をする他に風属性の攻撃呪文を得意としていて、その上で回復呪文に天性の才能があるってことか? ………………マジか?」

 

 

 

 実はセーニャが並みの前衛職には引けを取らないくらいの槍の使い手であると聞いたカミュの感想がこれである。

 自分の話をされているというのに、ぼんやりした様子で小首を傾げているセーニャの姿を見れば、そういう風に見ることができないのは無理からぬ話ではあった。

 

 

 

「気持ちはわかるけど事実よ。随分と昔のことになるけれど、レイブンのお爺ちゃんからあたしとこの子は武器の使い方を習ったのよね。あたしは鞭に向いていたみたいで、セーニャの方は槍だったってわけ。いずれにせよ、本当に得意なのは魔法であることは変わらないわよ」

 

 

 

 補足するようにベロニカが言って話を纏めた。本人に自覚はないが、これがトドメだった。

 ちなみに、彼女は基本的に攻撃呪文に特化しているが、補助や妨害の呪文にも精通している。仲間の能力を強化したり、反対に敵の能力を弱体化させて戦闘を優位に進めることが可能になる。

 

 

 

「おいおい、嘘だろ……? 2人揃って随分と心強い仲間だが、まさか俺が一番この中で弱かったりしないか? いや、確実にそうだよな………………ショックだ」

「ま、まあまあ……カミュにはカミュにしかできないことがあるって! 盗賊として培ってきた危険に対する察知能力とか、何時も助かってるんだからさ。ほらっ、元気出しなよ!」

「お、おう、確かにそれは俺だけだな。サンキュー、レイブン。………まあ、それはそれとして鍛え直さないとな」

 

 

 

 大きな戦いの前に予期せずカミュが心に消えない傷を負うことになりそうだったが、其処はレイブンのファインプレーにより回避された。

 とはいえ、少なからずダメージは残ったようだが。これに関しては、仲間が強くなるに越したことはないという考えにより誰も聞かなかったことにして、気まずい雰囲気になる前に休憩は終了した。

 

 

 

 再び地下迷宮の攻略に乗り出した一行は、戦力が増えたこともあって快調に奥へと進んでいた。

 魔物は接敵しても鎧袖一触で蹴散らして、多少の傷ならセーニャが直ぐに治す。罠はレイブンが完全に察知するので気にする必要はなく、彼等はあっという間に迷宮奥の間に続く大扉まで辿り着いていた。

 

 

 

 また途中に〈命の大樹〉の根っこがあったので、早くもルーチンワークのようにレイブンが手をかざして過去の記憶を垣間見るのを忘れない。

 其処で見たのは先程にも根っこの記憶で見た影のような奇妙な魔物が、奥の間に続く大扉を開くための合言葉を告げている姿だった。これにより本当の意味で迷宮奥への道が開かれる。

 

 

 

「なるほどね。此処で合言葉を言えば良いわけよね。それじゃあ、せーの………」

 

「「「「“ヤミ心あればカゲ心”」」」」

 

 

 

 レイブンたちが声を揃えて合言葉を告げた瞬間、扉に掛けられていた魔法らしき気配が呼応するようにして消えた。

 余談になるが、元盗賊のカミュが言うには合言葉により侵入者を防ぐという手法はありふれてはいるが、有効であるのは確かだとか。内側に裏切り者がいない限りは、という注釈は付けていたが。

 

 

 

 4人はそっと顔を見合わせた後に、代表として最も扉の近くに立っていたカミュが音を立てないように気をつけながらほんの少しだけ扉を開けて隙間を作った。

 そして、レイブンたちはそれぞれ思い思いの態勢で隙間から、息を潜めて広間の中を覗き見た。すると、扉越しに声が聞こえてきて、レイブンたちはそっと耳をそばだてた。

 

 

 

「オレがあれだけ注意したのに獲物に逃げられやがって…………。ごめんなさいじゃ済まねえんだよ!」

 

 

 

 扉の奥の広間には、膨大な魔力を内包した壺を中心に囲うように邪悪な竜の魔物と影のような姿形をした魔物たちがいた。

 なにやら壺を弄っていた竜の魔物だが、取り巻きの魔物たちに向かって苛立ちに身を任せて怒鳴り散らしているようで、広間の外まで胴間声が響き渡っている。

 

 

 

 “獲物”と“逃げられた”という言葉を聞いて、チラリとレイブンたちの視線がベロニカに向いた。

 当の本人は不覚をとった時のことを思い出したのか、「うへぇ…」とでも言いたげな苦々しい表情でため息をついていたが、ちゃんと意識は広間の中に向いている。

 

 

 

「あのベロニカという女は只者じゃねえ。桁外れの力と極上の素質を秘めた何年に一度現れるかわからない逸材だった」

 

 

 

 其処で言葉を区切ると、竜の魔物は巨体をクルリと反転させて、取り巻きの魔物たちに正対した。

 そして、大きく前方に張り出した腹を震わせながら、怒り心頭といった様子で喚き散らすが、その中に気になる発言があった。

 

 

 

「あの女の魔力を全部お納めすれば、いずれ現れる〈魔王様〉の右腕になれただろうに、それを………それをお前らはアァァッ!」

 

 

 

 竜の魔物の怒号を受けた影のような姿形の魔物たちが恐れ慄くように身体(?)を震わせているのを尻目に、レイブンたちは素早く目配せをした。

 ちなみに、この時に心なしかレイブンの目が、死んだ魚のように濁っていたことに気がついた者は幸か不幸かいなかった。

 

 

 

「〈魔王〉だって……?」

 

 

 

 独り言のように呟いたカミュの言葉に、残る3人は顔を曇らせて首を振る。

 〈勇者〉であり各地を旅したレイブンも、聖地ラムダから来たベロニカとセーニャも聞き覚えのない、しかし不穏な名前だということだけは全員が感じ取っていた。

 

 

 

 今は考えても仕方がないと割り切ったのか、ベロニカは腕を組み、目を細めて広間にいる魔物たちの姿を観察して、確信を持って頷いた。

 

 

 

「間違いないわ、あの魔物たち。ホムラの里で蒸し風呂に入っていたあたしを此処まで攫ってきた奴らよ」

 

 

 

 そして、そっと指を差し向けて広間の中央に置かれた壺を示すと、緊張によるものか固く強張った声であの中に自分の魔力があるはず、と幼い顔を引き締めてそう告げた。

 その言葉に、カミュが興味深そうな眼差しで壺を眺めて悩ましげな声を漏らす。

 

 

 

「なるほど…あの壺の中に、お前の魔力が。さて、どうしたもんかな………」

 

 

 

 そんな言葉に、レイブンたちは誰も良案が思い浮かばずに沈黙でもって答える。

 だが、広間の中に意識の大半を割いていた彼らは背後から這い寄るように近づく気配に気づけなかった。

 

 

 

 けれど、不意になんとなく背後を振り向いたセーニャは、其処にいた存在に驚きのあまり仰け反りながら愛する姉に呼び掛けた。

 

 

 

「……お、お姉様っ!」

 

 

 

 そして、呼ばれたから振り向いた、といった体のベロニカは不運にも、いつのまにか背後まで忍び寄っていたらしい影のような姿形の奇妙な魔物と、目と鼻の先の距離で見つめ合うことになった。

 現状を理解できずに無言で見つめ合うベロニカと魔物、その様子を固唾を飲んで見守るレイブンたち…………膠着した状況は、1人と1体の悲鳴により崩壊した。

 

 

 

「「ぎゃ──っ!!」」

 

 

 

 ベロニカ……となぜか魔物の方も絹を引き裂くような悲鳴を上げて、その悲鳴に背中を押されるように、レイブンたちはドタバタと扉を押し退けて広間に侵入する。

 そんな大声で騒げば、流石に中にいた魔物たちも彼らの存在に気がつく訳で………………。

 

 

 

「な……なんだ、オメーラはっ!? このデンダ様のアジトに勝手に入り込みやがって!」

 

 

 

 デンダと名乗る魔物が広間全体に響き渡る胴間声で怒鳴り散らせば、其処で漸く4人はやらかしたことに思い至って慌てて振り返る。

 すると、レイブンたちの姿を観察したデンダが、ベロニカに目を留めてニヤリといやらしく笑った。

 

 

 

「……ははーん、なるほど。オメーラはオレが逃した獲物を態々届けに来てくれたって訳か」

 

 

 

 既にベロニカを捕らえた後の皮算用を始めているのだろう。デンダの顔が醜悪に歪んだ。

 その様子に、レイブンたちは素早く配置を整えて、各々の武器な手を伸ばして戦闘の準備に入ると、それが合図であったかのようにデンダは号令を告げた。

 

 

 

「果報はブチギレて待てとはこのことよ! さあ、野郎ども! 仕事の時間だ! こいつらの魔力、全部吸い尽くしてやるぞ!」

 

 

 

 号令と共にレイブンたちに襲い掛かってくる取り巻きの魔物たちによって、地下迷宮に於ける最後の戦闘は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 セーニャが仲間に加わったことで、遂に〈勇者()〉〈盗賊(カミュ)〉〈魔法使い(ベロニカ)〉〈僧侶(セーニャ)〉という定番の4人パーティーが完成してしまった。

 所謂ドラクエの〈勇者パーティー〉って感じで、いよいよ俺も逃げ場がなくなってきた気がする。そう遠くないうちに、否応なしに腹を括る必要があるかもしれないと思うと憂鬱だ。

 

 

 

 それはそれとして、ベロニカの意味深な態度が少し気に掛かるところだった。

 あの時、酒場から出る瞬間に彼女は、俺のことを〈勇者〉と呼んだ。デルカダール王国が喧伝しているだろう〈悪魔の子〉ではなく、どことなく敬意を孕んだ意味ありげな口調で。

 

 

 

 更にベロニカが知っているならば、当然セーニャも俺が〈勇者〉であることは知っているだろう。

 どうやって知り得たのかは不明だが、或いは昔に聖地ラムダへと訪れた際に、お爺ちゃんが聖地ラムダの長老辺りに話していた可能性は否めない。お爺ちゃんも知っていたみたいだし。

 

 

 

 ………しかし、またしても不穏な言葉を聞いてしまった。〈魔王〉とか完全に厄ネタじゃないですかやだー!? 

 ドラクエで〈勇者〉と〈魔王〉が揃ったら、それはもう戦争待った無しでしょう……!? そんな未来はお呼びじゃないですー! お帰りは彼方でございますー!! (涙目)

 

 

 

 -閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 俺がそんな風に1人遊び──だって、自分の意思で身体を動かせないし──をしていたら、ふと気がつけば広間にいた魔物たちとの戦闘が始まっていた。

 な、なにを言ってるのか(ry……とポルポルしたい気持ちを抑えて、目の前の敵に集中する。

 

 

 

「やぁあああぁぁぁぁ────ッッ!!!」

 

 

 

 勇ましく叫びながら、真っ先に飛び出していったのは槍を手に持つセーニャだった。

 あの、いやさ……貴女ってば「回復呪文で皆様をお手伝いしますわ」とか殊勝なことを言っていたような。回復呪文(物理)による支援とは一体なんだったのか………(困惑)

 

 

 

「ああ、もうっ……! こうなったら仕方ないわ……! えいっ!」

「くっ…! ──唸れ轟音、爆ぜよ雷光──《イオラ》!!」

 

 

 

 そんな勇敢な、或いは無謀とも言える突撃を敢行したセーニャをフォローするために、ベロニカが悪態を吐きながらも交差するように2回鞭を振るってデンダと名乗る竜の魔物を牽制する。

 まだ敵との距離があったので俺もほぼ同時に呪文を唱えて、《イオラ》による連続した爆発が広間の中に轟音と共に広がった。

 

 

 

「……レイブン、油断するなよ!」

 

 

 

 その爆炎に紛れるようにして、先に行ったセーニャを追いかけるようにカミュが突っ込んでいった。

 まあ、なんだかんだでセーニャも此方のフォローを前提として突撃していったようだし、全くの考えなしと言う訳でもなかったようだけど。後でお怒りのお姉様からの叱責は免れそうにないのはご愛嬌ということで………。

 

 

 

「はぁああぁぁぁッ!!」

 

 

 

 一足先に接敵したセーニャが豪快に槍を取り回して、纏めてデンダの子分(仮称)4体を薙ぎ払うと、素早くバックステップによって距離を取る。

 当然ながら敵としては其処に生まれた隙を狙い、デンダの子分(仮称)は意外なほどの速度で飛び掛かってくるが、セーニャの飛び退いた空間に矢のように駆けてくる存在があった。

 

 

 

「はぁッ……!」

 

 

 

 両手に短剣を握ったカミュはまるで一筋の矢の如く現れてセーニャの隙を埋めるように、飛び掛かってきたうちの2体を切り裂いて直ぐに背後へと飛び退いてセーニャと肩を並べる。

 しかし、魔物側も好き勝手にやられるだけの柔な敵ではない。即座に反撃をしてきた。

 

 

 

「──きゃっ!?」

「セーニャ!? このっ、ええい……!!」

 

 

 

 いつのまにか側面に回り込んでいたデンダの子分(仮称)の1体から攻撃を受けて、予想外の方向からの衝撃にセーニャは思わず尻餅をついた。

 大切な妹が攻撃されたのを見て、ベロニカが反射的に鞭を操り、安全を確保するために魔物を弾き飛ばす。

 

 

 

「人間如きが……よくもこのデンダ様にッ!!」

 

 

 

 そうこうしているうちに、デンダは鞭を打たれた衝撃から立ち直って、空気を腹一杯に溜め込んでいた。

 そして、なんとデンダは腹一杯に溜め込んだ空気を俺たち目掛けて吐き出してきたのだ! く、くさっ……ていうか、冷たっ!? いや、痛い……まさか〈冷たい息〉なのか!? 

 

 

 

「ぐぅ…っ」

「あ、う……」

「さ、寒いです……」

 

 

 

 だが、それにしては威力が高すぎる気がする。

 そういえば、デンダは腹一杯に空気を溜め込んでいた。あれによって息吹系の攻撃が強化されている? 

 やばい……今のカミュたちは隙だらけだ。仕方ない、少し頑張るとしよう。

 

 

 

 一足飛びに〈魔力放出〉により強化された脚力で、カミュたちの前に躍り出る。

 その勢いのまま、怯んで動けないセーニャに襲い掛かろうとしていたデンダの子分(仮称)の1体を渾身の力で切り捨てた。続け様に、カミュに取りつこうとしたもう1体は火焔を纏った剣で上下に割断する。

 

 

 

「な、なにィッ!?」

 

 

 

 デンダは自慢の息吹の手応えに勝利を確信していたところに、一瞬で子分を2体も殺されて大層驚いているようで唖然と動きを止めてしまっている。

 その間に、俺は〈冷たい息〉を受けて寒さと痛みで動けなくなっている仲間たちを回復するために呪文を唱える。

 

 

 

「──大いなる力よ、我が名の下にこの者たちの疵を癒し給え──《ベホマラー》」

 

 

 

 俺を中心にして癒しの波動が広がる。聖なる力は傷ついたカミュたちの身体を瞬く間に癒していく。

 僅か数秒という時間でカミュたちは全快したらしく、改めて武器を構えて戦闘態勢に入る。──ーが、余程に先程の失態が屈辱だったのか、3人共に目が据わっていた。

 

 

 

「は、ははは………やってくれるじゃねえか、この野郎ッ!」

「────もういい加減に怒ったわッ! 魔力がないからって舐めるんじゃないわよー!!」

「……………………」

 

 

 

 其処から先は完全に3人のペースだった。

 勿論のこと魔物も必死の抵抗をしていたが、怒り狂ったカミュたちが悉くを凌駕した。

 

 

 

 カミュはまるで忍者のように軽妙に駆け回り、時には壁や魔物の身体さえも利用して跳ねて、隠れて、忍び寄ってと自らの持ち味をこれでもかと発揮して確実にダメージを与え続けて────ー。

 

 

 

 ベロニカは鬼神を思わせる形相で縦横無尽に鞭を巧みに操った。しこたまに打ち据えながらも、絡みつけては転ばせたり、魔物同士でぶつけ合わせたりと外面とは裏腹に冷静な立ち回りを見せて────ー。

 

 

 

 セーニャは恐ろしいほどに無言のまま怒りの波動を纏って、五月雨のような乱撃、閃光の如き突き、津波を思わせる薙ぎ払い、最適なタイミングでの回復呪文など、攻守にわたって一寸の隙も見せることはなく────ー。

 

 

 

 俺は余りの迫力に尻込みして援護に終始することになったが、なんだかんだと言って3人は我を忘れた行動はしなかったので実際には暇を持て余した。

 急に強くなったように見えるが、恐らくはただの火事場の馬鹿力に過ぎないだろう。取り敢えず今日の教訓として、彼らを本気で怒らせるようなことは今後一切しないことにしようと肝に命じた。

 

 

 

 そして、戦闘開始から約5分ほど経った頃には、デンダ一味(仮称)は全滅していた。

 10体以上は最低でも確認できた子分たちは1体残らず既に消滅しており、デンダも今この瞬間にドスンという音と共に巨体を地面へと横たえていた。

 

 

 

「クッ……〈魔王様〉の右腕になるというオレ様の野望も、此処で潰えるのか…………」

「おい、その〈魔王〉ってのはなんだ? さっきもそんなこと言ってやがったな」

 

 

 

 デンダは仰向けに倒れ込んで、最早起き上がる力もないといった風情だったが、焦点の定まらない視線を虚空に投げてそのように独白した。

 再び聞こえた〈魔王〉という言葉を耳聡く聞き咎めたカミュは、この機を逃したくないとでも言うように〈魔王〉についての情報を聞き出すつもりだったようだが、相手も簡単には口を割らない。

 

 

 

「ククク……いずれ〈魔王様〉にやられちまうオメーラになにを教えたって無駄さ………。命あっての特ダネとは……このことよ………ぐふっ」

 

 

 

 そう言って、デンダは勝ち誇るように笑った。心の底から〈魔王〉という存在の強大さを信じきっているのが見て取れた。

 結局、俺たちはなにも聞き出すことはできなかった。デンダは言いたいことだけ言った後に、ガクリと白目を向いて完全に力を失うと黒い靄となって消滅した。

 

 

 

「いずれ現れる〈魔王〉か………」

 

 

 

 前世の記憶がある俺はなんとなく〈魔王〉というのがどういう存在か理解できるが、カミュには不穏な気配しか感じられないのか複雑そうな顔をしている。

 もう少しでも聞き出せれば判断材料になったかもしれないが、既に後の祭りである。

 

 

 

 戦闘の最中にも頭にこびりついて離れなかった〈魔王〉という単語に、俺は苦々しく思う気持ちを抑えきれなかった。

 だからこそ、あんな風にデンダから良いように攻撃を喰らってしまった訳だが…………。

 

 

 

 嫌な想像やらなにやらで悶々としていると、スキップを踏みそうなご機嫌さでベロニカが壺に近づいていくのが見えた。

 ああ、そういえばベロニカの魔力があの壺の中に閉じ込められているのだったか。デンダが残した〈魔王〉という単語が強烈すぎて半ば忘れてしまっていた。

 

 

 

 そうこうしていると、いつのまにかベロニカはそっと壺の蓋をズラして中を覗き込んでいる。

 これで漸く彼女の本領が発揮できるようになるのかと感慨深く、ちゃんと魔力が戻るだろうかと不安半分に見ていたその時────壺の中から可視化できるほどの膨大な魔力が噴き上がった。

 

 

 

「これで魔力が戻ると良いんだけど…………」

 

 

 

 ボソリと呟いたベロニカの声が聞こえた。やはり彼女としても、これで元に戻るという確信はなかったようだ。

 そして、俺たちの方に向き直ったベロニカはいつも通りに堂々と仁王立ちをしていたが、次第にその姿は魔力の渦の中に埋もれていく。

 

 

 

 俺たちが固唾を飲んで目の前の光景を見詰めていると、ベロニカを包み込んでいた魔力の渦が少しずつ立ち消えていくのを見て辛抱堪らなかったらしいセーニャが駆け寄る。

 だが、魔力の渦から現れたベロニカの姿は変わらず幼いままだった。それを見て取ったセーニャは絶望した表情で力なく膝をついてしまった。

 

 

 

「そんな……お姉様の姿が変わっていない………。魔力は戻らなかったのですね…………」

 

 

 

 そうして我が事のように嘆き悲しんでいるセーニャの姿に嬉しそうに笑ったベロニカは、膝をついてしまった彼女の眼前に徐に指を突きつけた。

 すると、人差し指の先から小さな炎が立ち上がった。その光景に俺やカミュは勿論、目と鼻の先で見せられたセーニャも唖然として眺めることしかできなかった。

 

 

 

「ご心配なく、この通りすっかり元気よ。魔力が頭のてっぺんから爪先までギンギンに満ちているのがわかるわ!」

 

 

 

 ニッと不敵に笑って告げたベロニカの痩身には、確かに膨大な魔力が宿されていることがわかった。

 どうやら本当に無事なようで一安心だ。そう思いながら安堵の息を吐いていたら、なにやら楽しげに話していた姉妹がこっそりと俺の様子を伺いながら内緒話をしているのに気がついた。

 

 

 

 まさか悪口とか言われているんだろうか。

 例えば「〈勇者〉の割には少々期待はずれでしたね」とか「あんなんで大丈夫なのかしら」とか。

 いやいや、まさかあの2人に限って陰口はないと思うけど…………。

 

 

 

 少し心配になりながら2人の様子を見ていると、不意にベロニカとセーニャは真剣な表情になって俺の正面まで歩み寄り、徐に跪いて此方を仰いできた。

 2人は手と手を重ね合わせて一瞬だけ目を瞑ると、声を揃えて誓うように語り出した。

 

 

 

「「〈命の大樹〉に選ばれし〈勇者〉よ。こうして貴方と再びお会いできる日をお待ちしておりました。私たちは〈勇者〉を守る宿命を負って生まれた聖地ラムダの一族。これからは命に代えても貴方をお守り致します」」

 

 

 

 神妙な様子で、祈るような調子で告げられた言葉。今まで見たことのないような表情で宣誓する2人の姿に思わず瞠目してしまう。

 俺を……いや〈勇者〉を守る宿命を負って生まれた一族って言われても、急な話に頭がついていかない。お爺ちゃんはこのことを知っていたのだろうかと思うと、なんだか遣る瀬無い気持ちになる。

 

 

 

 しかも、命に代えて守られても正直嬉しくないのが本音だったりする。自分が死ぬのは怖いし、嫌だけどさ。それとこれとは話が別だと思うんだよね。

 幼い頃に知り合った、俺としては親しい関係だと思っている姉妹が目の前で死んだとなれば、確実に心が折れる気がするんだけど。

 

 

 

「レイブン様………。貴方は災いを呼ぶ〈悪魔の子〉などではありません。里の者から聞かされていました。私たち姉妹が探し求める〈勇者〉は瞳の奥に暖かな光を宿していると。…………まさか、本当にレイブン様が〈勇者様〉だったとは流石に思ってはいませんでしたわ。ああ、いえ……納得するところではありますけれど」

 

 

 

 そんな現実逃避気味に懊悩する俺の姿をどう捉えたのか、跪いたままのセーニャは真摯な表情で見上げて訴えかけるように語り掛けてくる。

 更に、今の言葉を信じるならば、2人は俺が〈勇者〉だと知った上で仲良くなった訳ではないようだ。

 それだけさえわかれば、少しは気が楽になったように思える。

 

 

 

「……まっ、あたしは最初にアンタを見た時から全部わかってたけどね。〈勇者〉っていうのは、きっとアンタみたいな奴なんだろう、ってね」

「うふふ、お姉様ったら。ですが、それでしたら私も同じですわ。レイブン様は私の知る誰よりも優しく、暖かで、勇敢な方でしたもの」

 

 

 

 自信満々に平べったい胸を張って告げたベロニカに、クスクスとセーニャも楽しげに笑って続く。

 余りこうして真正面から褒められると流石に照れるものがある。隣で一連の流れを静観していたカミュも、満足そうに腕を組んだまま頷く。

 

 

 

「〈勇者〉を守る、聖地ラムダの一族か…………。俺の読み通り、どうやらお前は本当に世界を救う〈勇者〉だったみたいだな」

 

 

 

 そんな風に言われると、なんとなく居心地が悪くて視線を彷徨わせてしまう。

 俺が困っていることに気がついた訳ではないと思うが、其処でベロニカが話を切り替えるように一歩前に出て注目を集めてから話し出す。

 

 

 

「アンタにはまだ話したいことが一杯あるんだけど、その前にもうちょっとだけあたしに付き合って。もう1人助けてあげたい人がいるの。此処からしか入れない部屋があるはずだから、一緒に探して頂戴」

 

 

 

 そのお願いに、俺の身体は当たり前だと言わんばかりに即座に快諾する。

 こういう時の反応の速さは相変わらずだと思う。恐らく、この身体は骨の髄から善行が染みついているんだろう。

 

 

 

 そうして探すこと1分ほどで、直ぐに目的の部屋は見つかった。どこかに隠されている訳でもなく、広間の正面奥にデンと大きな扉があった。

 扉を開けて中に入ると、其処の部屋は牢屋しかない所為なのか、随分と物々しい雰囲気だった。

 

 

 

「う、うぅ………」

「おい、其処に誰かいるのか?」

 

 

 

 すると、部屋のどこからか男の呻き声が聞こえてきた。

 反射的にカミュが腰を落として警戒するが、牢屋の1つから姿を見せた人相の悪い男にベロニカは全く慌てる様子を見せずに近づいた。

 

 

 

「もう大丈夫よ、おじさん。あの悪い竜は、あたしたちがやっつけたわ」

 

 

 

 そう言って牢屋を開けると、男は戯けたように頭を抱えて笑いながら感謝を告げてきた。

 

 

 

「いや〜、ありがてえ………。もう少しで、あの魔物たちの餌にされるところだったぜ」

「全く、あんな可愛い娘さんをほったらしにして、こんなところで魔物に捕まっちゃダメじゃない」

 

 

 

 つい先程まで魔物に捕まっていて、命の危険にあったとは思えない気楽な様子の男に少しだけ違和感を覚える。どうにも余裕があり過ぎないか? 

 俺の疑念は兎も角として、ベロニカはそんな飄々とした態度が気に入らなかったらしく、可愛らしい娘さんとやらを引き合いに出して叱責すると、今まで動揺の欠片も見せなかった男が大きく驚嘆する姿を見せた。

 

 

 

「え? アンタら、まさかあの子を………ルコを知っているのか!?」

「心配しなくても大丈夫よ。ホムラの里の酒場で預かってもらってるから、里に戻ったらマスターにお礼を言うのね」

 

 

 

 ……なんということでしょう! あの健気で可愛らしいルコの父親が、こんなに人相の悪い男だったなんて! 

 いや、ベロニカもよく気がついたものだ。俺だったら、この男とルコに血の繋がりがあるとはほぼ絶対に思い至らない。

 

 

 

「ありがとう……俺の名前はルパス。アンタたちから受けた恩は、きっと忘れねえよ」

 

 

 

 ベロニカから宥めるように言われて、ひとまず安心できたのだろう。

 男は徐に俺の方に向き直って、改めて感謝を告げてきた。………暫定的ではあっても、俺がこのパーティーのリーダー役だと一瞬で見抜いたらしい。

 

 

 

 この男、ルパスは恐らく只者ではない。彼の助けがどこかで必要になると、俺の〈直感〉が教えてくれているような気がした。

 それを裏付けるように、元盗賊で裏の世界の住人であったカミュがピクリと反応した。

 

 

 

「ルパス……? その名前、どこかで聞いたことがあるような…………」

 

 

 

 そう独りごちて、訝しむように見詰めてくるカミュの視線に焦る様子を見せると、ルパスは急に話を切り上げてしまった。

 

 

 

「そ、それじゃあ、俺はルコが心配だから先に行くぜ。アンタたち、本当にありがとうな!」

 

 

 

 ルパスは捲し立てるように言い捨てると、サッサと走り去って行った。

 やはり怪しい………けれど、なんだかんだで悪い人間には見えないから大丈夫だと思いたい。犯罪者とかではないはずだ。

 

 

 

「……行ってしまいましたね」

「なんか引っ掛かるけど………まあ、いいわ。あたしたちもホムラの里に戻って、少し休みましょ」

 

 

 

 最後の最後で少しモヤっとした気持ちが残ったが、俺としても流石に少しばかり疲れたし、ベロニカからの提案に否やはない。

 火事場の馬鹿力を出した3人は、明日の早朝辺りは辛い思いをするかもしれないな…………なんてことを考えながら、俺たちはホムラの里に向けて帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて、弍章の四話を終了致します。
本日も最後までご覧いただきありがとうございます。


今回は3度目のボス戦、デンダとの戦いでした。
本来ならば子分の数はもっと少ないのですが、主人公側が強すぎるのでデンダも含めて少し強化してみました。
戦闘前に〈魔王〉という言葉を聞いて主人公が動揺していたので、その所為で今回初めて敵の攻撃を喰らうことになりました。
とはいえ、強化されていても〈冷たい息〉くらいでは暫定Lv.35の主人公をどうこうできる訳でも御座いませんが。

今の状態だと主人公1人が強すぎて、私のような作者では上手いこと仲間たちと連携した戦闘を描写できず、今回のような形となりました。
圧倒的なワンマンアーミーとして運用するならば兎も角、本気で動く主人公に他の仲間たちが合わせられる気がしなくて、結果として主人公はフォローに徹するというお茶を濁すような形に…………。
実際に私自身が執筆をするようになって痛感していますが、戦闘描写はなかなか思い浮かばず、特に難しいと感じております。
いつか、私も上手に描写できる日が来るのでしょうか………。


まあ、それはそれとして、次回の投稿は2週間後の水曜日、10月16日を予定しております。
またなにか、私生活が立て込んで延期することになりましたら、前書きでも言いました通りに活動報告にてお知らせ致します。
改めて、お待たせしてしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m

それでは、また次の投稿をお待ちください。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!


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