真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね 作:お茶に煎餅、お酒にチーズ
今回はどうにか間に合いました。
台風19号による被害等々、色々とありましたが………なんとか小説は続けられそうで安心しました。
お気に入りも300人を超えて、このような作品に評価をつけてくださった皆様には感謝の言葉しかありません。
これからもどうか、私の作品をよろしくお願いします。
それでは、どうぞ………。
夜眠りについてから、ふと眼を覚ますと…………俺は不思議な場所にいた。
光源がないのか、見渡す限り全てが闇に覆われた空間。しかし、どういうわけか自分の身体はぼんやりと闇の中に浮かび上がるように形を捉えることができる。
記憶に間違いがなければ、以前にも俺はこの空間に来ているはずだ。
その時は当てもなく彷徨っている時に、何処からか何者かに話しかけられたのだったか。この闇に溶け込むようにして姿の見えなかった、謎の人物…………俺が此処にいるのは彼に関係しているのだろうか?
『────そうだよ。今回は僕が、君を此処に呼んだんだ』
「な、なんだ……ど、何処からッ!?」
余りにもタイミングよく聞こえた声に、心臓が飛び出そうなくらい驚いた。
しかも、まるで俺の心の声でも聞こえているかのように的確な返答だ。口には出していないはずなのに、そう疑問に思いながらも〈直感〉に従って背後に振り向く。
すると、其処には何時の間にか闇に溶け込むように佇む謎の人物がいた。
こんな空間にいることや顔もなにもかもが不明ときて、普通に考えればあからさまに怪しい人物なのだが、俺には不思議と悪い存在とは思えなかった。
確か以前にも同じように感じた記憶があるので、この感覚は勘違いではないのだろう。
「…………俺は以前にも此処に来たことがあると思う。その時に、俺はお前と会っている。……間違いないか?」
『うん。確かに僕と君は会ったことがあるよ』
「そうか。──なら聞くが、此処は何処なんだ? 先程お前は俺を此処に呼んだと言っていたが、元の場所に戻れるんだろうな……?」
『それに関しては安心して欲しい。君が迷い込んだ時のように自然と目が醒めると同時に、此処から出ることができるから』
頷くような気配がした後に、穏やかな声で安心させるように答えが返ってきた。
それを聞いて、ひとまず安堵の息を吐く。望んだ旅路ではないとはいえ、こうして〈勇者〉として旅立って仲間もできたのに1人だけ放り出すわけにはいかないからな。
それに、旅立つことになったばかりの頃は違って、今は個人的に知りたいこともある。色んな謎も解明しないと気持ちが悪いし。
昨日の魔物たちが言っていた〈魔王〉についても気になるところなので、もうこれ以上の文句は言うまい。
『………ただ、申し訳ないけれど、此処について僕に話せることはないんだ』
「それはどういう意味だ……? 今の言い方だと、お前が話したくても話せないのか、そもそも此処についてお前の知ることが少ないから話せないのか。…………或いは、その両方なのか?」
そう聞くが、今度は待っても声が返ってこない。
しかし、声の代わりに謎の人物が動く気配がした。今のは………2回首を振った後に、1回だけ頷いたのか。姿が見えないから感覚頼りだが、恐らく正しいはずだ。
となると、両方の意味で良いということだろう。3回目で頷いてたからな。
でも、要するにこう言いたいわけだろ? 「此処のことは大して詳しくないし、言いたくても言えないことがある」って。
何故か声は出すのは駄目で、言葉じゃなくて態度で示すのは大丈夫っていうのは謎だけどな。誰が判断してるんだろうか。
うん、全く基準がわからないし、そんな状態で俺を呼んでどうするつもりなんだ此奴は………(ジト目)
『うぅ……本当にごめん。でも、そんな目で見ないでよ。なるべく早い段階で君に見てもらいたいものがあったから、こうして此処に来てもらったんだ』
そんな声が聞こえてきたが、何故か見えないはずなのに肩を落としてションボリしている光景が思い浮かんだ。
相変わらず少年的な声だし、どうしてか凄く聞き覚えのあるような気がする。なんというか、毎日耳にしているくらい馴染みがある感じが………いや、それはないか。
「あー、今のは俺が悪かった。お前にも事情があるんだよな。それがなんなのかは知らないけどさ」
『………ありがとう。それじゃあ、余り時間もないから、早速だけど君に見てもらいたいものがある』
「そういえば、さっきも言ってたが………俺になにを見せたいんだ?」
『いや、その………ごめん。言葉にするのは難しいけど、きっと見てもらえばわかると思うから』
幾ら目を凝らしても姿の見えない少年(?)が言った瞬間のことだった。
俺と少年(?)との間に突如として闇に覆われた空間を眩く照らすほどの光が生まれて、直後に視界の全てを白く染め上げるように爆発的に広がっていった。
◆ ◆ ◆
視界を白く染め上げていた光が消えると、俺は地下迷宮のデンダ一味と戦った広間によく似た場所に立っているようだった。
何故こんなところにいるのかはわからないが、もっとわからないのは目の前でベロニカとセーニャが、互いの手と手を合わせて跪くようにして真剣な表情で俺を見上げていることだ。
「「〈命の大樹〉に選ばれし〈勇者〉よ。こうして貴方とお会いできる日をお待ちしておりました。私たちは〈勇者〉を守る宿命を負って生まれた聖地ラムダの一族。これからは命に代えても貴方をお守り致します」」
そして、やはりというか聞き覚えのある口上を見覚えのある状況で述べた。
だが、なにがとはハッキリと言えないが、少しだけ違っているような気もする。この言い表せないような違和感はなんだろうか。
違和感の原因がわからないまま、再び光が生まれて視界が白く染め上げられていく。
「そんな、〈命の大樹〉が…………」
ホワイトアウトから意識が戻ると同時に、右隣からベロニカの呆然とした声が聞こえた。
反射的に顔を上げれば、其処には見るも無残に枯れ果てた〈命の大樹〉があった。しかもどういう状況なのか、俺は胸を抑えて悶え苦しみながら、左右からベロニカとセーニャに支えられているらしい。
不意に〈命の大樹〉よりも上に原因がある気がして仰ぎ見ると、闇の衣とでも形容すべき球体状に膨らんだ闇の魔力が渦を巻いていた。
その中に、いつか何処かで垣間見た道化師の姿が見えたと思ったら、次の瞬間には筋骨隆々の禍々しい異形の魔物の姿に変わってしまったので確証は得られなかった。
「このままだと、世界が………」
再びベロニカの呟きが聞こえてきて、けれど──────異形の魔物が大地を震わせるような咆哮を上げると、嵐のように渦となっていた魔力が一気に臨界点を超えて爆発した。
その爆発は、瞬時に世界を飲み込んでしまったかのような絶大な規模で、その直下にいた俺は抵抗することもできずに意識を闇に染めてしまった。
次に意識が戻ると、静寂の森と思われる場所で木に寄り掛かって眠るベロニカと、そんな彼女に手を伸ばすセーニャの姿があった。
良かった……無事だったのか。そう思ったのも束の間、俺は木に寄り掛かって眠るベロニカの身体に全く力が入っていないことに気がついてしまった。
「起きてくださいお姉様。風邪を引いてしまいますわ」
普段とは逆にセーニャがベロニカを起こすという光景は、本来ならば微笑ましいものだったかもしれない。
だが、いつも元気一杯な彼女の姉はピクリとも動かず、セーニャの声にも全く反応を見せなかった。嫌な予感がふつふつと浮かび上がってくる。
「…………お姉様、どうしてしまったの?」
おっとりとした様子で首を傾げるセーニャを他所に、この嫌な予感を否定したくて、無理矢理にでも起こそうと近寄り────不意にベロニカの杖が光り輝いた。
俺の左手も急に熱を帯びたので、まさかと思いながらも確認すれば、其処には光を放つ痣がある。
「お姉様の杖が光っている………。それから●●●●様の手も………………。●●●●様、お願いです。此方の杖に触れてみてください。もしかしたら………」
セーニャも俺と同じように嫌な予感に襲われているのだろう。一縷の希望を託すように俺に向かって言ってくるのだが、何故か名前の部分が聞き取れなかった。
だが、そんなことより確認せねばなるまい。這い寄ってくる嫌な予感を振り払うようにして、俺はベロニカの杖に手を伸ばした。
大樹の根っこに手を翳した時のようにいつも通り光に包まれると、初めに見えたのは完全に死に絶えたと思われる無残な姿の〈命の大樹〉と空に浮かぶ恐ろしいまでに巨大な魔力の塊だった。
更に、恐らくベロニカの視点なのだろう。淡く光る魔力に身を守られて、ふわふわと空中を漂うようにして浮かんでいる俺・カミュ・セーニャの姿が見える。何故か、グレイグもいるが、一様に気絶でもしているのか力なく項垂れている。
「早くなんとかしないと、みんなやられてしまうわ………」
息も絶え絶えに、まるで自分に言い聞かせるような調子で呟くベロニカの声が聞こえる。
俺たちに向けて翳している両腕は目を覆いたくなるほどにボロボロに擦り切れて傷だらけになっており、自分以外の人物を守ることだかに全神経を集中したであろうことが窺えた。
「あたしはどうなってもいい………。みんな絶対に生き延びて、彼奴から世界を救って頂戴!」
そう言って、ベロニカは残った魔力の全てを振り絞るようにして俺たちをこの場から逃した。
緊張が途切れたのか、限界を超えて魔力を使用した疲労で荒く息を吐きながらも、ベロニカは悲壮感もなく少し笑みさえ湛えたような声で誰にともなく囁いた。
「セーニャ……。またいつか、同じ葉の下に生まれましょう。●●●●のこと………頼んだわよ」
その言葉を最後に────いや、遥か上空にある膨大な魔力が爆発する瞬間、声に出さずに口の中だけで呟いた言葉があった。
ベロニカが声にしなかったということは、伝える気のなかった言葉だったのだろう。
しかし、あの時の宣誓のように本当に命を懸けて俺と仲間たちを救おうとするなんて………それは余りにも悲しい覚悟だよ、ベロニカ。
また視界が白く染め上げられて光が晴れた時、俺はセーニャを抱き締めていた。
反射的に手を離そうと思ったが、胸に顔を埋めている彼女の肩が震えていることに気がついて、セーニャがこうなっているのはベロニカの最後をあの力で垣間見てしまったからなのだろうと推測できた。
良く見れば、此処はベロニカとセーニャの故郷の聖地ラムダだった。きっと静寂の森でベロニカを看取って、此方に戻ってきたのだと思う。
暫くして、セーニャは落ち着いた腕の中から離れていくと、強い覚悟を秘めた瞳で俺に向き合った。
「ごめんなさい、●●●●様。やっと心の迷いが晴れました。お姉様が助けてくれたこの命………精一杯、未来へ繋いでみせます」
セーニャは、決然とした様子で誓うように告げる。その姿からは、死ぬ覚悟でなく、生き抜く覚悟を感じた。
そして、俺に背を向けて何処か遠くを見詰めるようにしてから一つ頷くと、女性らしく長く美しいベロニカとお揃いの金髪を一房に纏めるように掴んで…………徐に右手に握り締めたナイフで断ち切ってしまった。
その後ろ姿が、あの美しい髪を切るという行為に神聖なものを感じてしまい、俺は声を掛けることができない。
セーニャは切り取った髪を左手に強く握り締めて、再び誓うように言葉を紡いだ。
「もう……涙は見せません。………さようなら」
そう言って、セーニャはそっと風に乗せるように髪を放った。美しい金の髪は山風に乗って上へ上へと、空に向かって何処までも高く登っていく。
しかし、その途中で火に炙られて燃え散るようにして虚空に消えていった。
彼女は一体、何に向かって………或いは、誰に向かって「さよなら」と告げたのだろうか。
みんなを守って亡くなった姉に対してか、今しがた切り取った自慢の髪に対してか──────泣き虫で弱かった自分自身に対する決別か。
そんな神秘的で幻想的な光景を前にして、俺は思わず見惚れてしまっていた。
再び何処からともなく光が生まれて、ホワイトアウトしていくのにも構わず、不思議とベロニカの姿が重なり合っているかのように見える、常になく力強いセーニャの後ろ姿を眺めていた。
「其処にいるのは、お姉様………?」
その言葉に、惚けていた意識が戻る。
正面に視線を送ると、確かに其処にいたのはベロニカのようだった。シクシクと悲しげに泣いている。
ただ、俺の〈直感〉は何かが違うと教えていたが、明確に何処が違うのかはわからない。
「セ…セーニャなの……? あっ、●●●●も一緒なのね」
へたり込むように座って泣いていた彼女は、そう言って俺たちの方に振り向いた。
それにしても、此処は今までと違って見覚えのない場所だ。強いて言えば、なんとなくデルカダール城に似ているような気もするが、こんなに禍々しい気で満ちてはいないので気の所為だろう。
ベロニカは涙を瞳に溜めたままだったが、少し嬉しそうに俺たちの元へと走り寄ってくる。
そして、俺の目の前で立ち止まると、またシクシクと悲しげに泣き始める。はて、彼女はこんなにも悲壮感に囚われる性格だったか。
「●●●●、寂しかったの。ずっと、1人だったから………」
そう言われると、仕方がないのかもしれないと思う。彼女があのように涙するのは少し意外だったが、ずっと此処に1人でいたならば不思議ではない、のだろうか。
なにより、仲間を疑うのは気分が良くない。何処か違和感はあるが、まだ確証はないのだ。
「あのね、●●●●。ひとつだけお願いがあるの。──────今すぐに、死んでくれないかな……?」
………一瞬、何を言われたのかわからなかった。
聞き間違いでなければベロニカは今、俺に「死んでくれ」と言ったのか?
あり得ない……こんなにも不愉快になったのは久し振りだ。目の前にいるこの不届き者は、絶対にベロニカであるはずがない!
「だって、アンタを守った所為であたし死んじゃったでしょ? アンタだけ生きてたら、不公平じゃない? だからね………………」
ベロニカの姿をした“ナニカ”は涙を流しながら悲壮感たっぷりに語ってはいるが、この台本を作った奴は3流以下の小悪党にしか思えない。
そのまま“ナニカ”は一息だけ間を置いて、次の瞬間────瞳孔が開いた恐ろしい形相で叫んだ。
「────死んで! 自らの死を以って償って! もっと生きたかったのに、アンタの所為でこうなっちゃったんだからさ!」
“ナニカ”はベロニカの姿と声で、絶対に彼女が言わない言葉を叫ぶ。
もっと生きたいと思っていたのは本当だろう。でも、仲間を守るために命を投げ出したベロニカの覚悟は、そう簡単に折れるものではないと思うのだ。
その覚悟に土足で踏み入るようにして穢した何某かに対する怒りはあったが、報復する前に残念ながら時間切れのようだった。
俺は光に包まれて、次第に意識が沈んでいく。いつになったら、この不可思議な現象は終わるのだろうか。────意識が途切れる直前、涼やかなハープの音色が聞こえた気がした。
意識が浮上して、最初に見えた光景はまたしても見覚えのないものだった。
今度は近似する場所にも心当たりがなく、本当に見た記憶がない。しかも、セーニャとカミュは兎も角として、他に知らない人たちがいる。
そんな疑問とは裏腹に、彼らはきっと俺の仲間たちなのだろう。何も知らないはずなのに、不思議とそう確信している自分がいた。
だが、どうして彼らは一様に泣きそうな顔で俺に向き合っているのか。サーカス衣装に身を包んだ男や穏やかそうな老人などは笑顔を取り繕っているけど、その心のうちは感じ取れる。
そして、彼らの例に漏れず、セーニャも泣きそうな顔を隠すように俯いてしまっていた。
短く切り揃えられた髪は、昔の幼い頃の彼女を思い起こさせるが、やはりこの光景はあれから未来の出来事であるということなのだろう。
「あっ……」
すると、いつのまにか何も言わず俯いているだけのセーニャの背後にいたカミュが、彼女を俺の前に押し出した。
驚いて振り向いたセーニャに、ニヤリと彼らしい不敵な笑みを見せて頷いた。
それに勇気付けられたのか彼女も返事の代わりに頷いて、改めて俺に向き直ると噛みしめるような調子で語り出した。
「………●●●●様。私は、貴方を守る使命のため、必死に此処まで歩いてきました。貴方と一緒に冒険した日々は、私にとって掛け替えのない時間。私、絶対に忘れません…………」
まるで別れを告げるような言葉。泣くのを我慢しているのか、声も少し震えていたような気がする。
………恐らく、俺は彼らを置いて何処かに1人旅立つのだろう。何処に、どんな目的があるのかは不明だが、そうだと考えれば説明がつく。
「だから……●●●●様………。…………だからっ……」
セーニャは涙を堪えるように一瞬だけ俯いて、声を詰まらせた。
だが、グッと堪えて、瞳を潤ませながらも顔を上げた。強さと弱さが混じり合った瞳で見詰められて、一瞬胸が高鳴ったのは気の所為じゃないだろう。
「また、私のこと………探し出してくれますか?」
涙を流してはいなくても、まるで泣き笑いのような表情でそう言ってきたセーニャは、本当に美しかった。
それを最後に、また場面が切り替わるのか、光が全てを染め上げていく。俺の視界もホワイトアウトしていき………………。
◆ ◆ ◆
目を開くと、其処は闇に覆われた空間だった。
あの現象の続きだろうか。そう思ったが、目の前にいるのに姿の見えない謎の人物の姿を認識して、どうやらアレで最後だったのだと理解する。
向こうが口を開こうとする気配を感じたが、俺はそれを無視して問い掛けた。
「なあ……今のはなんだったんだ? まさか、未来の光景なのか……?」
俺の言葉に少年(?)は口を噤んでから、その後に首を横に振った。
また話せないことなのかと苦々しく思ったが、どうやらそれは早とちりだったらしい。少年(?)が話そうとするのを感じ取って、話を聞く体勢を整えた。
『……少し違う、かな。正しいとは言えないけど、間違っているとも言えない………。でも……いや、これ以上は話せないみたいだ、ごめん』
なんとも曖昧な言葉しか返ってこなくて拍子抜けした。なんの参考にもならないという訳ではないので、別に構わないのだが…………。
恐らく、という推測はある。根拠もなく荒唐無稽な考えだが、俺自身が転生なんてものをしているのだから今更な話でもあるのだ。そう外れてはいない気がする。
俺がそうして考察していると、不意に地面が大きく揺れ始めて咄嗟に片膝をついてバランスを取った。
この感覚には覚えがある。確か以前にこの空間に来た時もこんな風に揺れ始めて、その後に元の場所に戻ったような…………。
『それに、もう時間がないね。君も察しているみたいだけど、どうやら元の場所で君が目覚めようとしているらしい。………伝えたくても、伝えられないというのは、こんなにもどかしいものなんだね』
嘆くように、少年(?)はそう言った。
以前にも思ったが、時折この人物は重く冷たい過去のようなものを覗かせる。
もしかしたら、俺に見せてくれた光景ともなにか関わりがあるのかもしれない。それが、どんなものかはわからないけど。
「そうかもしれないな。…………だが、お前のお陰でこれから先の旅路は、一層気合いを入れる必要があることはわかった。アレが現実にならないように、頑張るさ」
『………うん、それを聞いて安心した。君ならきっと大丈夫だとは思うけど、よろしく頼むよ』
本当に安心したような声で、その姿を見ることはできなかったが、少年(?)は笑っていたんじゃないかと思う。
色々と気になることはあるけど、俺の推測が合っているとすれば野暮という他ないだろう。
そんな風に内心で独白したのを最後に、俺は意識を埋没させていった。
◇◇◇
目を覚ました俺は、今度こそ元の場所に戻ってきたようだった。
昨夜はもう遅かったので、ホムラの里にある宿で一泊することになったのだったか。俺がいるのは、その宿の一室であるのは間違いない。
隣のベッドを見たが、カミュは既に起きて部屋を出ているらしい。外を見れば、それなりに陽が高くなってきている。
恐らく、ベロニカとセーニャも目を覚ましているだろう。俺を待ってるのかもしれない。
寝間着のような服はないので着替える必要はないが、忘れ物がないかだけは確認して部屋を出る。
階段を降りて宿屋のロビーに出ると、其処には3人が寄り集まって話をしていた。やはり待たせてしまったようだ。
「よう、レイブン。起きてきたか。俺たちも、ちょうど集まったところだ」
「おはよう。待たせてごめんね。なんだか、とても長い夢を見ていた気がするんだけど…………」
3人に近寄っていくと、初めに気がついたのはカミュだった。
俺としては意外なことに、昨日の疲れは微塵も見せずに元気一杯に見える。まあ、言葉通りならしっかり眠ったみたいだし、そう不思議なことでもないか。
ちなみに、前回と違って、今回の夢のことはまだ話すつもりはない。
夢の中で未来の光景を垣間見たとでも言えば、恐らく3人は信じてくれるとは思うけど、特にベロニカ辺りは必要のない覚悟を決め兼ねないので黙っておくのが吉だと判断した。
「なんなのよー。夢を見てたなんて、本当に呑気ねえ。昔からそうだけど、アンタって少し抜けてるところがあるわよね。……指名とか関係なく、どうにも放って置けないわ、全くもう…………」
「お、お姉様……。レイブン様に向かって、例え事実ではあったとしても、そのような仰りようは如何なものかと…………」
うん、セーニャ………気持ちは嬉しいけど、全くフォローにはなってないよね。その一言は本当に必要でしたかな?
カミュとベロニカは笑ってやがるし。まあ、俺とこの2人の関係は昔からこんな感じだったっけ。なんだか懐かしくなって、俺も笑ってしまう。
セーニャだけは、何故俺たちが笑っているのわからないみたいだけど。これぞ純粋培養の天然………。
「……ふぅ、まあいいわ。それよりも、やっと聞いてもらう時が来たわね。〈勇者〉であるアンタと、あたしたち姉妹の使命について…………」
散々笑って満足したのか、一息ついた後に意識を切り替えたのか雰囲気が変わる。
そうして意味ありげにベロニカが言って、促すようにセーニャに視線を向ける。姉からの催促に従って、セーニャは真剣な表情で頷いてから話を引き継いだ。
「大いなる闇………邪悪の神が天より現れし時、光の紋章を授かりし大樹の申し子が降臨す…………私たちの故郷に伝わる、神話の一節ですわ」
そう言われて、今の話の何処に俺の関わる要素があったのかと考え…………ふと左手の痣を見た。
光の紋章と言えば、この手の痣は大樹の根っこに反応して光り輝くことがある。しかも、俺の気の所為でなければ〈ロトの紋章〉に似ている。
いやいや、まさかね………大昔の神話に出てくる英雄と同じ特徴があるとか厄ネタ以外の何物でもないじゃないですかぁ〜。
「そう。信じられないだろうけど、アンタは嘗て、その紋章の力で邪悪の神を倒し、世界を救った〈勇者〉の生まれ変わりなの」
へぇ………〈勇者〉の生まれ変わりだとは聞いてたけど、そんな大それた人だったとは思わなかった。
星になってるとか言われてるくらいだから凄い人なのかなぁ〜、程度には想像してたけどさ。邪悪だろうがなんだろうが、神殺しをしてるとはね。
しかし、前からそうだけど〈勇者〉の生まれ変わりと言われても全く実感がないのは困りものだ。
そもそも俺には現代日本で生きてきた記憶が、前世の記憶としてあるのが問題なのかもしれない。或いは、それがなければ………とも思うが、流石に俺が俺である唯一の証明となる記憶を捨てたくはない。
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俺が思考の迷路に嵌りそうなことを考えている間にも、ベロニカの話は続いていた。
「邪悪の神は倒されたはずなのに、何故〈勇者〉がこの世に生を受けたのか………。それは、あたしたちにもわからない」
目を瞑って俯き、淡々と言ってはいたが、その声には少しばかりの悔しさが滲んでいた。
俺としても、使命がどうとか言われても特に思い当たることはない。前世の記憶的に考えれば、件の〈魔王〉とやらが怪しいのだが…………。
「其処で、真実を突き止めるためにアンタを〈勇者〉と縁の深い〈命の大樹〉へ導く使者として、あたしたちが大抜擢されたってワケ」
「ふーん……。〈命の大樹〉か。其処に行けば、全ての謎が明らかになるってんだな? じゃあ、さっさと其処に行こうぜ」
カミュはなんでもないかのように言うが、それは流石に無理があるだろう。
正直に言わせてもらうと、なにも考えずに発言したとしか思えない。さっさと行きたいのは山々だけど、まさか〈魔力放出〉で俺だけ飛んでいくのもキツイし。
「アンタ、本気で言ってるの? 〈命の大樹〉って、空に浮かんでいるのよ。簡単に行けると思ってんの?」
ベロニカから呆れているようにも、馬鹿にしているようにも聞こえる調子で言われて、カミュは決まりが悪そうに顔を背けた。
雰囲気が悪くなり掛けたのを察したように、セーニャが後を引き継いで話を続ける。
「嘗て、邪悪の神と戦った〈勇者〉様は空を渡り、大樹から使命を授かったそうですが、その記録も時の流れに埋もれてしまいました」
「なんだよ、それ? アンタらにもわからないってことかい?」
要するに、手掛かりはなにもないのか。それは、少し骨が折れそうだ。
カミュも盗賊としての勘なのか、面倒そうに呟いた………のも束の間、なにか心当たりでもあったようで、顎に手を当て独りごとのように呟いた。
「〈命の大樹〉ねえ………。うん? 待てよ。なにか、わかるかもしれねえぜ」
「まぁっ、本当ですか!?」
「ああ。昨日、助けてやったおっさんな………実は彼奴、有名な情報屋なんだ。〈命の大樹〉について、なにか知ってるんじゃねえか?」
なるほど……昨日の、確かルパスと言ったか。あの男は裏の世界では名の知れた情報屋だったんだな。
それなら期待はできる。表で知られていない情報でも、裏では常識ということなんてザラにあるのだ。少なくとも、聞いてみる価値はあるだろう。
「確か迷子のお嬢さんを迎えに酒場まで戻ると仰っていましたね。取り敢えず、酒場まで行ってみましょう」
セーニャの提案に、意を唱える者はいなかった。ぶっちゃけ藁にも縋りたい気持ちだからな。少しでも情報が欲しいところだ。
善は急げということで、俺たちは宿の女将さんに挨拶だけして、急いで酒場へと向かう。まだルパスたちが旅立っていなければいいのだが………。
酒場に入ると、見覚えのある後ろ姿が2つ、カウンター席に並んで座っていた。
1人は幼い少女、ルコだ。折り目正しく座っており、隣でご機嫌に酒を呑んでいる人物を窘めるように困った顔で話し掛けている。俺たちの目的の人物は、その隣に座っている男だ。
「よう、おっさん。ご機嫌じゃねえか」
そんな、娘の制止も聞かずに呑んだくれている男、ルパスに近づいたカミュは陽気に話し掛けた。
此方の気配には気がついていたらしく、ルパスはチラリと流し目を送ってくる。取り敢えず、話は聞いてくれるつもりのようだ。
「俺さ、おっさんのこと思い出したんだ。アンタ……裏社会では結構、名の知れてる情報屋のルパスさんだろ? なんでも、生まれつきの不運を逆手にとって、厄介ごとに巻き込まれちゃあ、其奴をネタに商売してるって話だが…………違うかい?」
続けて、カミュが真犯人を暴き立てるように言えば、ルパスは酒を置いて振り返った。
そして、以前の魔物に囚われた不運な人間としてではなく、それすらも楽しむ情報屋ルパスとしてニヒルな笑みを携えて対面した。
「フッ、バレちまったなら、しょうがねえ………。そうさ。道を歩けばネタの方から寄ってくる、天才情報屋ルパスたあ、俺のことよ」
素敵に不敵に自己紹介を済ませると、彼はどうしてデンダ一味に捕まったかの話をしてくれた。
どうやらルパスは暖簾が入れ替わっていたとかで運良く女子風呂に入ることができたけれど、ツイていたのは其処までだったらしく、不運にもデンダ一味の魔物と遭遇して囚われたとのことだ。
ベロニカにも話を聞くと、どうやら彼女は武器のない状態だったので多少は苦戦したが、狭い室内ということを逆に利用して戦闘を優位に進めていたそうだ。
しかし、其処にルパスを人質に取った魔物が入ってきたことに動揺してしまい、捕まってしまったのだとか。
彼女にとって、不覚をとった記憶は余り思い出したくないようで、説明している間は終始、不愉快そうに顔を顰めて逸らしていた。
「ところで、おっさん。〈命の大樹〉を知ってるか? 〈命の大樹〉に結びつくなら、どんな情報でもいい。アンタが知っていることを教えてくれ」
「ほう……〈命の大樹〉とは、デカいターゲットだな。いいだろう。アンタたちは命の恩人だし、とっておきのネタを教えてやる」
ルパスはそう前置くと、自信満々に“とっておきのネタ”とやらを語り始めた。
ルパスとルコの2人は、ホムラの里には南西の砂漠………俺も昔に行ったことがあるので覚えはあるが、サマディー王国の砂漠を越えてきたそうだ。
道中で砂漠の暑さにやられてしまった彼らは、死を覚悟したと言う。だが、運良く通り掛かったサマディー王国の兵士に助けられて、城に運んで介抱してもらい九死に一生を得たらしい。
そのエピソードに、本当に不幸な体質なんだなと思う。………幻想を破壊する能力でも右手に秘めているんだろうか?
なにはともあれ、城で介抱されていたルパスは、その時にある物を見たのだと語気を強くした。クライマックスが近づいてきて、語ってる本人も興奮してきたようだ。
「意識を取り戻したその時、俺は見ちまったのさ! 城の中に飾られた、“キラキラと七色に輝く枝”をな……! 俺の目に狂いはねえ。アレこそが〈命の大樹〉! ………………の枝だと思うぜ」
おおっと、これは当初に予想していたよりも、遥かに有力な情報なのでは……!?
恐らくは、此処まで何度か俺の道行を助けてくれた〈命の大樹〉の根っこと同じ効果が期待できる。左手にある紋章が反応してくれたら、一気に解決まで行ける可能性は高い。
「まぁっ、お姉様、お城の中に“七色に輝く〈命の大樹〉の枝ですってっ!? 行ってみる価値はありますわ!」
「そうね。枝とはいえ、〈命の大樹〉。ずっと輝き続けてるってことは、〈勇者〉を導いてくれるに違いないわ! カミュ、アンタもやればできるじゃないの!」
「まあな……」
へへっ、とカミュは得意げに笑っているが、なんだか凄い嬉しそうだなぁ……。
まあ、今回は大手柄と言ってもいい。俺としては色々と助けてもらっている立場だし、カミュの元盗賊としての見識は追われている現状では非常に頼りになるのだ。
「それでは、お姉様──ーひとまずサマディーに向かいましょう。此処から南西の関所を抜けて進んでいけば、サマディー王国に辿り着けるはずですわ」
次の目的地はサマディー王国に決まりだな。久し振りに馬レースとかも出てみたいけど、逃亡中の身の上だとそう言うわけにもいかないか。
お爺ちゃんが生きていれば、王様に直談判して大樹の枝も手に入ったかもしれないという考えが思い浮かぶ時点で、本当に俺のお爺ちゃんはとんでもない人だったんだなぁ〜。
そして、先行きが不透明な状況から、少なくても〈命の大樹〉への手掛かりになりそうな情報を得られたお陰か。
心持ち明るい表情になった姉妹が、そっくりな笑顔で楽しそうに告げてきた。
「「レイブン様。これから先、長い旅になると思いますが、私たち姉妹をどうかよろしくお願い致します」」
相変わらず、律儀で真面目だ。それでいて、優しくて情が深く………この長く険しい旅路に於いて、とても頼りになる2人だ。
むしろ、俺が頼んで付いてきてもらうところだよ。これからよろしく。ベロニカ、セーニャ。
────余談だが。
ホムラの里を出発する直前に、ベロニカからとっても便利な呪文を教えてもらった。
一度訪れたことのある町や村、キャンプ地にも一瞬で移動できる呪文…………ドラクエでは定番中の定番である《ルーラ》の呪文だ。
【レイブンは ルーラの呪文を 覚えた!】
……って感じのテロップを流していそうなくらいに、簡単に覚えることができた。
それに、確かに凄い便利な呪文だけど、ベロニカが使えるなら態々俺が覚える必要はないと思うのだが……………えっ、移動するために魔力を使うのは勿体ないって? それなら、まあ…………。
これにて弍章の5話が終わりました。
最後までご覧いただき、ありがとうございます!
今回の話で、弍章の本編は終了です。
次回は幕間の話を予定していますが、今のところ2本続けて本編に関係のない話を書こうと考えております。
予定としては、1本目はハロウィンに関連する話、2本目はいつも通りの短編集のような形でいこうと思っています。
本編の続きを楽しみにしている方には申し訳ありませんが、どうかお付き合いいただければ嬉しいです。
さて、今回は少し物語の核心に迫ってみました。
原作をプレイ済みの方からすれば、伏線にもならないような稚拙な文章だったかと思います。
もう大体のところは察しがついているかもしれませんが、ネタバレはしない方針でよろしくお願い致します!
次回の投稿は平常通りに2週間後の水曜日、10月30日を予定しています!
前述したように、次の話は本編とは関係のない話となりますので、興味のない方は読み飛ばしていただいても構いません。
それによって、本編の内容についていけないということはありませんので、どうかご安心ください。
それでは、此処までご覧いただいた皆様、ありがとうございました。
二週間後の投稿(予定)の際に、またお会いしましょう。
これからも応援よろしくお願い致します!