真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

26 / 27



お久しぶりです!
今回は約束通りに投稿できてよかったです。
もしこんな作品の更新を待ってくれていた方がいたのであれば、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
そして、こんな作品を待ち続けていてくれて、本当にありがとうございます!

今回のお話から参章に突入していきます。
では、拙い文章ですが、どうか最後まで読んで頂ければ嬉しいです。





参章 勇者と旅芸人と砂漠の王国
新たな旅立ち


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サマディー王国とは、ホムラの里から南西に進んだ先の砂漠地帯に古くからある四大国の1つである。

 現国王は非常に穏やかな気質の持ち主だが、特に彼の妻の王妃も含めて息子に対する態度は甘々の親バカそのものだとか。毎年催される王子の誕生祭は有名で、国を挙げてのお祭りには態々国外から来訪する人もいるほどだ。

 

 

 

 件の王子はとても優秀な人物だと言われており、国民からの人気も高く次期国王の名は盤石だろうという話だった。

 騎士の国の王子の名に相応しく、巧みな馬術と勇猛な剣技で魔物を打ち倒すべく定期的に部下の兵士と共に広大な砂漠を駆け回っているらしい。そうした上に立つ者としての姿勢も民草から慕われる要因なのだろう。

 

 

 

 昔に祖父と共にサマディー王国に訪れたレイブンは残念ながら時期を外していたようで祭りを見ることは叶わなかったが、それでも伝統ある馬レースを観戦した時にはとても興奮したことは覚えている。

 レイブンとしては時間さえあれば自慢の馬術でレースに参加したいところだが、流石に現在の状況では余りにも呑気な行動だろう。諦める他なさそうだった。

 

 

 

「へぇ……随分と活気付いてるじゃないか」

「確かに。なにかあるのかな?」

「賑わってますね。なんだかお祭りが始まるみたい」

 

 

 

 それはそれとして、無事にサマディー王国に辿り着いたレイブンたちは国中の其処彼処から感じる浮かれたような雰囲気にキョロキョロと周囲を見渡している。

 嗄れた大声で客呼びする者、道端で話し込んで盛りあがっている者、立派な体躯の馬の手綱を引いて散歩させている者と千差万別だが、国全体に漂っている熱気は砂漠の暑さにも負けず劣らずのものであった。

 

 

 

 物珍しそうに周囲を眺めていたカミュが感嘆の言葉を漏らせば、レイブンも同意するように頷く。

 双子姉妹の片割れであるセーニャも特に思い当たる節はないようだ。まあレイブンは兎も角として、カミュはこの辺りに訪れたこと自体ないのだから当然の話だが。

 

 

 

「ははーん、なるほど………」

 

 

 

 それに対して、ホムラの里に赴く以前にサマディー王国を経由していた双子姉妹のもう片割れであるベロニカは活気付いた人々を楽しげに眺めていた。

 どうやらベロニカには心当たりがあるようで意味ありげな態度を見せてながら、講釈でも垂れるように仲間たちに語り出した。

 

 

 

「此処サマディー王国は騎士の国と呼ばれていてね。城の裏のオアシスの上にレース場があるの。其処で馬のレースが行われるのよ。前に此処に来た時、年に一度だけ特別なレースが開催されるって聞いたわ。きっと今は其れで賑わっているのよ」

 

 

 

 ベロニカから齎された情報に、仲間たちの中で最も大きな反応を示したのはレイブンだった。

 前述したように彼は以前にこの国を訪れた時に馬レースを観戦しており、その時のことを今でも覚えているほどに衝撃を受けていたのだ。あわよくば参加したいと思うくらいには食いついて当然の話題である。

 

 

 

「ふーん。馬のレースも面白そうだが、俺たちの目的は〈大樹の枝〉だからな。忘れんなよ、お前ら」

 

 

 

 其処で、目を輝かせる3人を他所にカミュは至極冷静に現実を指摘した。

 偶然開催されている催しの存在に盛り上がっているところに冷や水を掛けるような行いにベロニカは眉を顰めて、レイブンとセーニャはバツが悪そうに肩を落とすことになった。

 しかし、彼も興味を惹かれていない訳ではなく、ただ余裕のない現状を考えて割り切っているだけであることは他の者たちにもわかる。なによりもカミュの言っていることは尤もな話なので実際のところ反論の余地はない。

 

 

 

 それ故に、レイブンが落ち込んだ理由は祭りに参加できそうもないことではなく、彼に嫌な役割をさせてしまったことだった。

 まるで気にしていないように、3人を置いて先に城の方へと向かって行ってしまったカミュであるが、恐らくは少し気まずいと思っていたのではないだろうか。なにも間違ったことは言っていないのに。

 ちなみに、セーニャは単純に祭りに参加したかっただけである。彼女は純粋な娘なのだ。

 

 

 

「なによ、ノリが悪いわね。レイブン、あんな奴はほっといてこの町を楽しみましょう」

 

 

 

 ベロニカは呆れたように言って、その場に残されたレイブンたちを促した。

 彼女は沸騰しやすい性格なので一瞬だけカミュの物言いに腹を立てたのは間違いないが、既に聡明な頭脳により彼の真意を理解している。

 ああして注意しながらも単独行動に走ったのは、自分が情報収集はしてくるからお前らは息抜きでもしてろ、という彼なりの気遣いだった。非常にわかり難い優しさを持つカミュらしいと言えばらしいのだが。

 

 

 

 だからこそ、そんな言い方しかできないカミュの不器用さにベロニカは呆れているのであった。普通に注意すればいいのに、どうしてあんなにも捻くれた物言いになってしまうのか。

 まあ、もしそんなことを口にしようものならば、レイブンとセーニャの2人から「お前が言うな」という類の言葉が返ってきたかもしれない。

 なにはともあれ、此処はカミュの厚意に甘えてレイブンと双子姉妹は暫しの間、祭りを楽しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 ぐるりと城下街を回ったところでカミュが戻ってきた。適当に出店なんかも見たけど、特になにかを買うでもなく冷やかすだけで終わった。

 俺としてはサマディー王国までの道中で多少なりとも消耗した薬草なんかを買い足しておきたかったのだが、出店に並ぶ商品は定価と比べて微妙に値段が高かったので買うのは控えた。

 まあ、道具屋ならば定価で販売しているだろうから、目的を果たしたら買いに行けばいいだけだが。

 

 

 

「おいおい……まだこんなところで油を売ってたのか。王様に会わねえとならないんだし、日が暮れる前に目的を果たしちまおうぜ」

 

 

 

 やはり捻くれた言い方だけど、そんな言葉とは裏腹に棘はなかった。もう少し素直になってもええんやで。

 それはそうと、カミュが持ってきた情報によると〈大樹の枝〉は聞いた通りこの国にありそうだった。王様に謁見した商人が、其れらしきものを見たらしい。

 流石は元盗賊というか……いや、善は急げと言うし、リフレッシュは充分に済ませたから早いところ目的のブツを手に入れよう。仮に譲り受けられるとしてもタダでもらえるとは思えないが、その時はどうにかして頑張るしかないだろう。

 

 

 

「そうね、夜になったら城に入れなくなっちゃうわ。町の様子も見て回れたし、そろそろ行きましょう?」

「お姉様……わかりましたわ。もっと色々と見てみたかったですけれど、目的を果たした後にでも再び訪れればいいだけですものね!」

 

 

 

 セーニャが楽しそうでなによりです。この双子姉妹は箱入り娘みたいなものだし、きっと外の世界が楽しくて仕方ないのだろう。俺も冒険の楽しさはよく知っている。

 彼女の言うように、旅の目的を果たしてからまた世界を見て回るのも一興なのかもしれない。まだまだ先の話だけどな。

 

 

 

 そんな風に4人で話しながら城の中に入っていく。当然ながら城に繋がる扉を警備している兵士もいるけれど、サマディー王国は他の国と違って城に入る上で許可などは必要としないのだ。

 城に入ってすぐは大広間になっており、そのまま正面に真っ直ぐ進んで長い階段を登れば玉座がある。この国らしい実に開放的な間取りである。

 

 

 

 大広間の両脇では恐らく新兵と思われる兵士たちの教導が行われていたり、仕事の休憩中なのかメイド服姿の女性が猫を愛でていたりと格式張った気配はない。

 デルカダール王国のようなガチガチの雰囲気よりは遥かに気が楽なので、俺としては一向に構わないけれど。

 

 

 

「………なんだか妙な気分になるな。元盗賊の俺が堂々と城の中に入ってるのはよ」

「ちょっと! 妙な真似は止してよね。アンタたちがお尋ね者だって知られたら、譲ってもらえる物も譲ってもらえなくなっちゃうわ」

「お、お姉様……そのように仰られなくてもカミュ様はなにもしないと思われますよ?」

 

 

 

 疑問形なんだよなぁ………。まだ互いに為人を理解していないとは言えど、其処は断言してもいいのではないだろうか。

 ここ数日で多少は見慣れた2人の掛け合いと、それに振り回されながらフォローにならないフォローを入れるセーニャという組み合わせに笑いを噛み殺しながら、緊張感のない3人を静かにさせる。

 

 

 

 長い階段を登り始めたところで、上の方から焦りを感じさせる忙しない足音と共に微かに声が聞こえた。

 4人で首を傾げながらも衛兵などに止められることもないので気にせず階段を登りきれば、見るからに高貴な出で立ちの膨よかな男性が玉座の前で右往左往と歩き回っているのが見えた。

 恐らくは、あの男性こそがサマディー王国の国王なのだろう。俺たちから見て右に座っている気品のある女性が王妃だと思われる。

 

 

 

「えー………。本日は絶好の晴天なりまして、ファーリス杯という我が王子の16歳の誕生日を祝うレースに相応しい………いや、違うな。こんなスピーチではありきたりだ。民衆を楽しませることなどできん」

 

 

 

 ブツブツと前口上のようなものを呟いていたが、どうにもしっくりと来なかったのか頭を振って自らリテイクする。先程聞こえてきた声はコレだったらしい。

 ファーリス杯というのは今のタイミングから考えれば普通にわかるが、この祭りのことを言っているのだろう。レースという言葉も聞こえたし、馬レースの開催を告げる口上を考えていたようだ。

 

 

 

 というか、年に一度のお祭りの正体が王子の誕生日を祝うために行われた国を挙げての催しだとは流石に思わなかった。

 国王と王妃から溺愛されているとは聞いていたが、まさかの展開である。お金は大丈夫なのだろうか。国王主催のようだし、その資金は国庫から捻出してると思われるのだが、その辺りは税を納める側である民衆としては微妙じゃないか? 

 

 

 

「うん? なんだ、其方たちは? 今は客の相手をしている暇などない。出直して………」

 

 

 

 夢中になって口上を考えていた国王が、漸く俺たちの存在に気がついたかと思えば胡乱げに不審者でも見るような目で見られることになった。

 事がことなので交渉をする必要もあるし、忙しそうにしている以上は無理に此方の事情を押し通そうとすれば心象を損ねる可能性が高い。残念だけど、素直に出直すべきか………そう考えた時のことだった。

 

 

 

 バンッ! と喧しい音が背後から聞こえた。反射的に振り返れば、城の入り口の扉を誰かが豪快に開いた時になった音であることがわかった。

 その仕立て人と思われる燻んだ金髪の青年は、カツカツと軽快な靴音を鳴らして一寸の迷いもなく玉座の前まで歩いてくると、予想を裏切り跪くでもなく大仰な仕草のまま国王に対して高らかに声をあげた。

 

 

 

「父上! ただいま訓練から戻りました!」

 

 

 

 そう宣言すると、キリッとした表情で更に玉座まで歩み寄って行く。

 しかし、父上ときたか………話に聞いたところでは1人息子のようだから、彼こそが此度の祭りの主役であるファーリス王子らしい。

 俺たちに気づいた様子もなく横を通り過ぎるファーリス王子。何処か芝居掛かった大仰な仕草も気になるが、其れより妙な違和感を覚えた。彼の後ろ姿からは噂に聞くような勇壮さは微塵も感じられなかったのだ。

 

 

 

 カツカツと硬質な足音を鳴らすファーリス王子に合わせるようにして、つい先程までの悩ましげな姿などなかったかのように厳しい顔つきの国王が向かい合う。

 じっくりと真剣な表情でファーリス王子の全身を眺めて、一つ咳払いを行う。

 

 

 

 次の瞬間────ファーリス王子のように大仰な仕草で彼に向かって掌を掲げながら国王が叫んだ。

 そして、国王の叫びにファーリス王子は呼応するように叫びながら芝居掛かって敬礼を取る。その動きは先程の違和感を拭い去る程度には洗練されたものであった。

 

 

 

「騎士たる者!」

「信念を決して曲げず、国に忠節を尽くす! 弱きを助け、強きを挫く! どんな逆境にあっても正々堂々と立ち向かう!」

 

 

 

 俺たちはなにを見せられてるのだろうか………キラキラと瞳を輝かせているセーニャを除いた3人の気持ちがこの瞬間ばかりは完全に揃ったような気がして、顔を見合わせればなんとも言えない表情をしていた。俺も純粋な心があれば………言っても仕様がないことだな。

 だが、国王からしてみればファーリス王子の対応は実に満足のいくものだったらしく、鷹揚に頷いてみせている。周囲にいる衛兵たちの様子を見る限りでは、普段からこんな調子であることが窺えた。

 

 

 

「うむ、よろしい。今日も騎士道精神を忘れてないようだな」

 

 

 

 そう言って、国王は満面の笑顔を浮かべると、悠々と歩いて玉座に腰掛ける。

 サマディー王国が騎士の国と呼ばれる所以はこの辺りなのだろう。日常的に騎士道精神の是非を問われるとなれば、むしろ忘れる暇なんてないと思うけど。

 

 

 

「ファーリスよ。お前も今年で16歳。ファーリス杯では騎士の国の王子に恥じない勇敢な走りを期待しているぞ」

「お任せください、父上。必ずや期待に応えてみせましょう。其れでは、これにて………」

 

 

 

 最後まで妙に演技っぽく見えてしまう仕草で、国王からの激励の言葉にファーリス王子は優雅な礼を以って応えた。

 そうしてビシッとでも音がつきそうなほどの勢いで振り返り、このまま俺たちの横をまた通り過ぎて行くのかと思えば………不意に俺を見て動きを止めた。これはもしや、バレちゃったか? 

 

 

 

「あ…貴方は………」

 

 

 

 なにかに驚いたように瞠目したファーリス王子だが、どうにも俺が思ったような反応ではない。

 其れこそ、噂に聞く高潔で勇敢な王子の為人であれば「曲者めっ! ひっ捕らえてやる!」という感じになりそうなものだけど。

 

 

 

 俺の全身を矯めつ眇めつ、上から下まで眺めては1人で何度も頷いて満足げな表情を見せる。ああもうっ、どっちなんだよ、この王子は。俺に反応した真意がわからないと迂闊な行動は取れないじゃないか!

 俺のそんな葛藤を嘲笑うように、ファーリス王子は飄々とした様子で語り掛けてきた。

 

 

 

「失礼ですが、旅の方。お名前は?」

「…! どうも、僕の名前はレイブンと申します」

「………ふむ。レイブンさんと言うのですね。何用で我がサマディーを訪れたのです?」

 

 

 

 これは気がついていないのか。いや待てよ、先程までの国王との遣り取りは妙に演技染みていなかったか? もしかしたら俺を油断させるための罠かもしれない。

 最初に彼を見た時と同じような違和感は今もずっと抱いているが、仮にもあれほどに噂になっている王子が実はまるで鍛えたことがないなんてことはあるのだろうか。身のこなしから鍛錬の形跡は感じられず、そのまま見た印象の通りに痩身の彼には筋肉も最低限しか付いていない。

 

 

 

 それはそれとして、一瞬だけ反応が遅れてしまったのは頂けない。特に猜疑の視線を向けられている訳でもないので気がつかれていないと思いたいが。

 だが、彼からの質問の意図を読もうとしても、不思議なほどに読み取る事ができない。ファーリス王子は余程に腹芸が得意なのか、俺たちの目的を尋ねてくる真意がわからない………わからないが、応えない訳にはいくまい。故に、葛藤は一瞬だけだった。

 

 

 

「……僕たちはホムラの里の方角からこの国に来たのですが、実は事情があって旅をしています。その事情に関わる事で、実はサマディー王国に〈大樹の枝〉があると風の噂で耳にしまして、どうにかして譲り受けられないかと思ったのです」

 

 

 

 此処は敢えて素直に、其れでいてデルカダール王国のことだとかは全くおくびに出さずに説明する。

 直接誰かに聞いたのではなく、噂だけを又聞きしたように伝えるのも猜疑心を生み出させないためだ。これが正しい対応であるかはわからないが、態と足取りを掴めるような情報を出したのも、その一環であるのは言うまでもない。

 

 

 

 取り敢えず、俺たちは噂で虹色に輝く枝………即ち〈大樹の枝〉と思われる代物の情報を偶然にも知り得て訪れたと言うことにしておく。

 俺が正直な理由を告げたところ、ファーリス王子は顎に手を当て首を傾げた。まさかハズレだったのかと不安になり掛けたのも束の間、少し考えてから思い当たる節があったのか記憶を探るように呟いた。

 

 

 

「〈大樹の枝〉……? もしやサマディーの国宝………七色に輝く、虹色の枝のことでしょうか?」

 

 

 

 七色に輝く、虹色の枝だって……! 情報通りだ、其れが〈大樹の枝〉に間違いないだろう。

 俺たちが揃いも揃ってコクコクと頷くのを見ると、ファーリス王子は何故か妙に緊張したような面立ちで此方に対して提案をしてきた。

 

 

 

「………ボクならお役に立てるかもしれません。後で大階段を下り、左に曲がった所にあるボクの部屋に来てください。お待ちしています」

 

 

 

 それだけを一方的に伝えてきたファーリス王子は、返事を聞くこともせずにこの場を後にしてしまった。

 期せずして、有力な情報を手に入れる事ができた。だが、其れとは別になにか面倒なことに巻き込まれてしまうような予感もしてきた。

 ………ふぅ、此処は一旦落ち着いて考えたい。自分1人で考えるだけだと煮詰まってしまうので、他の3人の意見も聞いてみたいな。例えば、ファーリス王子に対する印象とか、みんなはどう思った? 

 

 

 

「手掛かりが掴めてひと段落ってとこだが………あの王子、お前のことをジロジロ見てたよな。……まさかとは思うが、お前の正体に気づいていたのか? もしそうだとしたら、相当な遣り手だな。建国以来、最も優秀な王子だって噂だし、嫌な予感がするぜ………気をつけろよ」

「幸先よく〈命の大樹の枝〉……虹色の枝の情報をゲットできたわね! これはラッキーよ! さ、王子様の部屋に行くわよ! アンタ一国の王子に招かれたんだから、失礼のないようにしなさいよね………って、此れはアンタよりも他の2人に言うべきかしら?」

「王様はお忙しそうでしたけれど………その代わりにファーリス王子様にお話を聞いてもらえそうでよかったです。其れにしても、王様と王子様の騎士の格言の遣り取り………びっくりしました。流石は気高き騎士の国ですわ」

 

 

 

 カミュから順に聞いてみれば、見事に三者三様の言葉が返ってきた。統一感のないパーティーである。

 いつも通りに慎重なカミュは冷静に情報を把握しようと努めており、手掛かりを喜ぶと共にしっかりと相手を観察して懸案事項を考察していた。大体は俺と同じような心配をしており、警戒を高める必要がありそうだ。

 

 

 

 ベロニカは額面通りに受け止めて手放しに喜んでいるように見えるが、実際には色々と頭を巡らせているっぽいのが彼女らしい。

 俺とカミュは今までの経験上、どうしてもネガティブな方向で最初に考えてしまう癖があるようなので、まず真っ先にポジティブな意見が出てくるのは非常に貴重だと言えるだろう。

 

 

 

 セーニャは相変わらず少しズレている。此方は全く騙される心配なんてしていないのが見て取れるが、こんなにポワポワしていると見ている此方が不安になる。

 まあ彼女にはいつまでも汚れないでいて欲しいし、なによりも2人の言うように裏なんてものはなく、少しの頼まれごとくらいはあるかもしれないがトントン拍子に話が進む可能性もあるのだ。

 まだ話を聞いてもいない状態で彼是と考えていても仕方がない。3人から意見を聞いて、結局はそう言う結論に至った。

 

 

 

 そうと決まれば、特にこの後の予定もないので早速ファーリス王子の部屋に向かうことにした。

 大階段を下りて左に曲がると、彼が言っていたように立派な意匠が施された扉があった。扉の前には衛兵が立っており、俺たちを見つけると横に退いてくれた。

 衛兵に頭を下げながら、4人で顔を見合わせてから意を決して扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







というわけで、中途半端な区切り方ですが1話目はこれで終了です。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


漸くサマディー王国の話に入ることが出来ました。
去年の正月から書き始めて既に1年が経過していますが、スランプだったりで更新できなかった時期もありましたので余り話が進みませんでしたね。
このペースでは完結まで一体幾ら掛かるのか心配でなりません。
まあ、そもそもは書き溜めを作らずに書き始めた私の浅慮が原因ですし、こんなに長期間も投稿を休むつもりもなかったんですけど、色々あって結局は前回の投稿からこんなに遅れてしまいました。
口先ばかりで情けない限りですよ………まだ読んでくれている方はいるんですかね、こんな駄目駄目な筆者の小説。

それはそれとして、今回は参章の触り程度ですね。
弐章の最終話で情報屋のルパスから聞いた〈大樹の枝〉を求めてサマディー王国に訪れたレイブンたちですけど、王国は現在お祭り気分一色。
国王も外部の人間に拘っている余裕はなく………しかし、噂の王子がなにか企んでいるような雰囲気に男2人は戦々恐々。
さて、王子からの話とは一体………というところですが、原作でも思っていたことですけど、女性陣は呑気な発言や行動が多く見えてしまいますよね。
セーニャは別として、ベロニカの緊張感のなさそうな発言は息抜きのため、要するにメリハリをつけているだけという理由をこじつけてみましたが、この双子姉妹は本日のところでは似ていますし実際はどうなんですかね?


後書きも長くなってしまっていますし、この辺りで終わりにしておきましょうか。
ではでは、次の更新予定日は2週間後の水曜日、時間は今まで通りですね。
今回もそうでしたが、これからは文字数を減らして書いていくつもりなので読み応えは少なくなってしまうかもしれません。
といっても、7000文字〜9000文字くらいを目安に書くので、極端に文字数が減るという訳ではなく、元に戻るという感じですけどね。

久しぶりの更新でしたが、後書きまで読み切って頂いた方には本当に感謝の念しかありません。
これからもどうか応援よろしくお願いします。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。