真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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初投稿からの連投最後の3話目です。

次の投稿などに関しましては後書きに記載するので、まずはお楽しみ下さい。






勇者、驚くと雷を呼ぶらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エマの号令の下、レイブンたちは洞窟の中に突入していた。マノロの匂いを辿ることができるルキを先頭にして迷うことなく進んでいく

 神の岩の向かう道中には当然のように魔物が立ち塞がるが、彼らにとってしてみればその程度の障害は物の数ではない。埃を散らすように蹴散らしていた

 

 

 

「──はぁっ!」

「ピキー!?」

 

 

 

「わんわん、わぉん!」

「モ…!?」

「わっ! ルキってば凄いわ。魔物が怯んでる…?」

「ナイスだ、ルキ! ……隙だらけだぞっ!」

「モキ…ィ……?」

 

 

 

 両手剣から片手剣に装備を変えて身軽になったレイブンが躍動する。お世辞にも決して足場の良いとは言えない洞窟の中にも関わらず、レイブンだけは平地での戦闘と比べても遜色のない動きをしていた

 彼らの存在に気づいたスライムとモコッキーが一歩を踏み出すよりも早くスライムを斬り捨てる。身の危険を感じたのか、本能による反射だと思われる素早い動きで身を翻そうとしたモコッキーはルキの鋭い吠え声により硬直。その隙をレイブンが見逃すはずもなく、目にも留まらない隼の如き3連撃を叩き込んだ

 

 

 

「あら。モコッキーが薬草を落としてるわよ。運が良いわね。有り難くもらっていきましょう」

 

 

 

 レイブンの攻撃で黒い靄のようなものになって跡形もなく消えてしまったモコッキーが直前までいた場所には、ポツリと薬草が残されていた。旅をする上での必須道具だが、山奥にあるイシの村で暮らしている村娘のエマにとっても農作業などで生傷が絶えないが故に欠かせないものだ

 磨り潰して患部に塗ることによって薬草に内包された魔力が薬効を増幅して細菌を殺し、人間に最初から備わってる自己回復機能に作用して傷を治すという結果を起こしてくれる。そのため即時効果があり、緊急時には口内摂取でも同様の効果が得られるとか

 

 

 

 そのような細かい成り立ちを知らずとも、この薬草という道具は一般市民から上流階級の人間までに需要があるとされている。生き物である以上は怪我から無縁というわけにはいかないのだから当然だ

 基本的には村や町などの集落の外で生えているものを積むのだが、魔物が持っていることもある。それを奪うなり、魔物自体を倒して手に入れるという手法もある。もちろん群生する薬草を探した方が手っ取り早い上に一度に数を揃えることもできる。生き物全てに共通して効果があるというのは、考えるまでもなく素晴らしい道具だろう

 

 

 

「う〜、わんっ!」

「──っ! レイブン、外よ! 光が見えるわ。もしかしたらマノロがいるかもしれない。急ぎましょう!」

 

 

 

 何年もの長い間に築き上げられたレイブンの卓越した戦闘技能と鍛え上げられた能力。そこに魔物を一瞬とは言えども硬直させることができる優れた支援役のルキが加わると面白いように戦闘が一瞬で終わる

 元々スライムとモコッキーは弱い魔物ではある。しかし、数が多ければ足止めされることは避けられない。レイブンとルキは熟練の相棒同士かのような抜群の連携で息もつかせない早さで戦闘を終わらせると進行の邪魔になる次の標的を蹴散らす

 

 

 

 その結果、驚くことに彼らは3分と経たずに洞窟を突破しようとしていた

 薄暗くて服が肌に張り付くような湿り気を帯びた洞窟から、外の世界に繋がる光の路が2人には見える。あと少しと分かれば、ルキの様子からもマノロがいることが確定的に明らかである以上は足も速くなる

 彼らは僅かにも走る速度を落とすことはせず、そのままの勢いで光の絨毯に飛び込むかのようにして洞窟を抜け出していった

 

 

 

「──見て、レイブン。真っ白だわ。霧が、こんなに…………」

 

 

 

 洞窟を抜けた彼らを迎えたのは暖かな陽射しに照らされた神の岩────ではなく、薄気味の悪い濃霧に包まれた光景だった

 レイブンたちが洞窟に入るまでは燦々と輝いていた太陽も霧の所為で拝むことは叶わない。普通に考えればここに来るまでの数分で周囲一帯を覆うほどの霧が立ち込めるはずはない。要するにこの仄かに魔力を帯びた霧は尋常なもの、即ち自然のものとは異なるものであり、間違いなくなんらかの外的要因が存在するだろう

 

 

 

「た……たすけてー!」

「えっ!? マノロ! ──レイブン、大変! 早く助けなきゃ!」

 

 

 

 それが一体なんなのか考察する間も無く、思考を遮るように悲鳴が響き渡った

 エマからしてみればとても聞き覚えのある声だ。すぐさま反応すると、少し離れた場所に這いつくばった体勢で彼女に必死に手を伸ばすマノロを見留めた

 その姿に思わず鬼気迫る声色でエマがレイブンに知らせれば、言われるよりも早く彼は武器を抜いて臨戦体勢で構えていた。同時にルキが警戒を始めると、唐突に周囲を覆い尽くしていた霧が集束していく

 

 

 

「き…霧が、魔物に………」

 

 

 

 エマが呆然と呟くが無理もない。霧の魔物、通称スモークと呼ばれる魔物は基本的にこの辺りには出現しない。生息地のナプガーナ密林は、年内に必ず合計数十人もの人間が迷い込んで行方不明になると言われている恐ろしい秘境だと伝えられている

 そのような場所に生息している魔物だが、稀にナプガーナ密林の外に迷い出て来ることがあるとか。当然ながらスライムやモコッキーなどよりも遥かに強力なため、デルカダール王国の兵士が討伐に出ることも珍しい話ではないくらいだ

 

 

 

「──ルキッ!」

「わぉーんっ!!」

「「────ッ!?!?」」

 

 

 

 しかし、今日この日に限ってはスモークにとって相手が悪かったとしか言い様がないだろう

 霧が一点に密集したような不定形の姿に、目と口がついた魔物だが物理的な接触は可能である。その証拠にレイブンの指示で鋭く威嚇したルキの吠え声に動きを止めた2匹のスモークたちは、一息で間合いを詰めたレイブンが舞の如き美しい剣戟で斬りつけると、霧で構成されているためか抵抗は少なく、けれども確かな手応えと共に吹き散らされて只の霧となった

 

 

 

「──あれ、魔物は…っ………!」

 

 

 

 一瞬の攻防が終わり。うつ伏せになって身体を小さく縮こまらせていたマノロは恐る恐ると顔を上げた。キョロキョロと周りを見てもあの霧の形をした魔物の姿はなく、剣を納めながら近づいて来るレイブンとその後ろから駆け寄って来るエマが見えた

 ほっと頬を緩めてから慌てた様子でマノロが駆け寄るが、改めて近くまで来たところでエマたちの表情を見て罪悪感で怯んだように勢いが萎んだ。普段母親に叱れる経験を存分に生かしたマノロは、2人がなにかを言うよりも早く謝罪をした

 

 

 

「ご…ごめんね。先回りしてエマねーちゃんをおどろかせようと思ったんだ。でも、魔物におそわれて………」

 

 

 

 申し訳そうな表情でマノロが謝ってくる

 機先を制された形のエマは、それを見咎めるのではなく一度二度と頷きを返して考えに耽る。現状に於ける明らかな異常に頭を悩ませているのだ

 

 

 

「そうよ、変よね……。神聖な神の岩に魔物が出るなんてこと今までなかったのに…………。それはそうと、ダメよマノロ! こんな危ないことしたら。さっ、ルキと一緒に村に戻ってなさい」

「う…うん。わかったよ」

 

 

 

 個人的な悩み事は後回しにして、とりあえず今は優先的にマノロを村まで送り届けなければならない。洞窟移動中に「ルキがついてれば問題ない」と他ならないレイブンが太鼓判を押してくれたこともあるため、安心してマノロを送り出すことができた

 本当に万全を期すならばレイブンがついていくのが確実だが、その場合はエマも一緒に戻ることになり、2人に課せられた成人の儀は失敗ということになる

 マノロとしても己の不用意な行動によってレイブンたちの成人の儀が完了できたかったとしれば気に病むのは間違いない。それを避けるためにも、ルキひとりでマノロを村まで帰しに行ければ全てが解決する。これが現状で取れる最善だった

 

 

 

 そして、いつからか神の岩で目撃されるようになった魔物の存在。大地の精霊が宿るこの場所に魔物が出るようになった理由もわかっていない。今までも村の外にはいても神の岩にはいないはずだった

 これらに関連性のありそうな問題としては、昨今は魔物の凶暴性が増していると言われていることが挙げられるだろう。10年ほど前から魔物による死傷者が後を絶たず、国からも出兵する機会が多くなっているとか。若干のこじつけ感は否めないけれど、凶暴性を増して興奮した魔物が迷い込んで棲みついた可能性もある

 

 

 

 だが、その考えを裏付けるように魔物たちはレイブンとの力関係を理解して逃げるのではなく、むしろ魔物の方から襲いかかっていた。魔物にしても他の生き物と同じように、生存本能のようなものはあるはずなのに、それがないような行動は確かに不可解だった

 とはいっても、凶暴性こそ増しているが魔物の強さが変わっているわけではない。だとすれば、レイブンとルキの敵ではないことは言うまでもないだろう

 

 

 

「ありがとうね、レイブン。あんな怖い魔物を簡単に倒しちゃうなんて本当に強いのね」

 

 

 

 そんな風にどこか照れ臭そうにエマは感謝と賛辞を伝えた。素直で快活な性質の彼女は元より言葉を必要以上に飾ることはないし、偽るなんて以ての外だったからこそ思わず羞恥が表に出たのだ

 レイブンとしても改めて伝えられると気恥ずかしい感情を覚えるのか、いつも通りに頷きだけを返すと神の岩に顔を向けてしまう。なんとなくエマも空を仰いでみると、先程よりも霧が薄れて神の岩の頂上が見えた

 

 

 

「もう少しで頂上だね………」

 

 

 

 暫く間を空けてから、エマがポツリと呟いた

 これもまた普段のように、特に返答を求めてのものではないのだろう。レイブンもそれがわかっているので頷くだけに留めた

 そして2人の間に再び沈黙が降りる。先の流れの所為で気まずさのようなものもあるけれど、総じてお互いにとって居心地の良い穏やかな静寂だった

 

 

 

 今までのアレコレに関しては、村長の娘であるエマとしては思うところがあっても不思議ではない。口数の多い彼女にしては珍しく、ぼんやりとした様子で神の岩を眺めて思考の中に埋没している

 幼馴染のレイブンには考えている内容もある程度は想像がつくが、敢えて声を掛けようとは思わなかった。今ここで考えても答えがわかる訳ではないし、とてもエマが解決できる問題とも思わないけれど、こうして悩むこと自体は決して無意味ではないと感じたからだ

 そうして2人で特に会話をするでもなく夕暮れに変わりつつある空を見上げていると、不意に空からポツポツと水滴が降ってきた

 

 

 

「やだ……。雨が降ってきたわ。レイブン急ぎましょ。この辺りは道が悪いから迷ったり足を滑らせたりしたら大変だし、立て札があったらしっかり調べるのは忘れないようにしないとね」

「そうだね。これ以上雨がひどくなる前に急がないと」

 

 

 

 徐々に雨足を強める天候に2人は急いで頂上に登るための道を探す。すぐに見つかった立て札の真横に吊るされた蔦を順番に登って、斜面ギリギリの細い足場を岩壁に張り付くようにして移動する。今度は蔦を伝って下に降りると、自然と階段式になっている大岩をよじ登りエマに手を貸しながら道無き道を進んで行く。一つ二つと大岩を乗り越えると先よりも小さな洞窟、というよりも洞穴のような道に入った

 スモークを倒してからは魔物が現れることがないのはやはり神の岩に宿る大地の精霊のお陰なのだろうか。理由はなんであれ、恐らくあの険しい道で魔物に襲われたらとてもではないが戦えなかったはずのので、レイブンたちからすれば胸をなでおろす心持ちだった

 

 

 

「──着いたわ!」

 

 

 

 洞穴を抜けたところで、エマが感無量といった風に喜色を含んだ叫びを上げた

 村娘として日夜農作業などに精を出しているエマからしたら体力に関しては問題ないが、それでも足を滑らせるかもしれない恐怖や魔物との遭遇で精神的に疲れた可能性は高い。とはいえ、まだ余裕はありそうだった

 仄かに頂上から見える景色に期待してキョロキョロと周囲を覗こうとする2人だが、生憎の天候による雨雲の所為で視界が悪すぎた。遠く離れた風景さえ判然としないほどだ

 

 

 

「惜しいなあ……。天気が良かったらきっと、絶景が見れたはずなのに」

 

 

 

 両手を腰に当てながら眉を寄せたエマは小さく溜息を漏らした。本気で惜しいと思っているのか、その顔からは落胆を強く感じさせた

 レイブンも少しだけ残念そうにしていたが、仕方がないと言う代わりにエマに向けて頷いてみせた

 不器用ながら励まそうと言う意図を察したエマとしても、落ち込んでいたもの仕方がないと先程よりも強くなった雨を見て焦ったような表情を浮かべる

 

 

 

「早くお祈りを済ませないと………」

 

 

 

 その言葉を合図にした訳ではないが、どちらともなく胸の前で手を組んで目を瞑って祈りを捧げようとした────瞬間のことだった

 金属などを引っ掻いた時とはまた異なる不愉快な甲高い音、正確には耳をつんざくような叫び声が雨雲に覆われた遥か天空から聞こえてきたのだ。反射的に身を震わせたエマを庇うように前に立ったレイブンは片手剣2本を鞘から抜き放ち、空を睨んで油断なく構えた

 スライムの時とは違って今度はエマも空から猛烈な速度で迫ってくる悪しき気配、比べ物にならないほどに凶悪な魔物の存在を感じ取った

 

 

 

「キィヤアア────ッ!!」

 

 

 

 金切り声と共に曇天の空を自慢の紫色の翼で切り裂くようにした現れたのは、地獄の魔鳥として恐れられるヘルコンドルと言う名の魔物だった

 先程のスモークにしても大概だったけれど、これは輪をかけてあり得ない事態である。なぜならヘルコンドルの生息地はデルカダール地方近辺にはなく、この辺りより遥か西のやや北寄りといった寒い地域を好む特徴があるのだ。仮に群れを追われたとかであっても、態々こんな遠くまでは来ないだろう

 余りにも不可解な事態に下手に知識があるレイブンは内心で動揺してしまうが、当然のことながら襲いかかってくる魔物がそれらを斟酌してくれるはずもない

 

 

 

「キャワアアァアアア──────ッ!!!」

「──うっ、ぐぅ………っ!?」

 

 

 

 その強靭な翼で豪快に風を切って2人に目掛けて突撃すると、人間を容易く鷲掴みできるほどの大きな鉤爪を容赦なく叩きつけていく。位置関係の問題からレイブンが躱した場合、無情にもエマがヘルコンドルの爪の餌食になるのは間違い無い

 そのため彼は無理矢理に内心の動揺を抑え込んで迎え撃った。〈プラチナソード〉と〈奇跡の剣〉を交差させて鉤爪を受け止めると、金属同士がぶつかり合った時のような耳障りな甲高い音を響かせた。両者の激突は一瞬の拮抗の後、なんとかレイブンに軍配が上がる

 

 

 

 しかし、この時のレイブンは失念していた

 ここに来るまでにエマはスライムやモコッキー、更にはスモークのような魔物と遭遇しても悲鳴を上げこそすれど平静を保っていたが、実際には魔物との戦闘を間近で見る機会は今まで一度もなかった。運良く弱い魔物ばかりでレイブンとルキの連携が嵌り瞬殺をしていた影響から、彼に対する信頼にも似た油断により無意識に気が緩んでいたのだ

 そこに来てヘルコンドルという文字通り格が違う魔物と初めて見る余裕のないレイブンの姿を目の当たりにした衝撃は計り知れない。それほどまでの絶対の信頼を寄せていた彼の苦戦に、戦闘の素人であるエマの心に不安が去来したのは責められないだろう。その不安と恐怖が彼女の足を竦ませる結果になってしまった

 

 

 

「えっ……!?」

 

 

 

 レイブンとヘルコンドルの激しい衝突にエマは身を竦ませて思わず後退ろうとしたが、急激に全身から力が抜けるような感覚に襲われて体勢を崩した。倒れまいと足に力を入れようと踏ん張ったことで、ふらりふらりとよろけた彼女は運命の悪戯により足を滑らせた

 不運だったのは何度かよろけた時に崖の方向に動いてしまったこと、そして転んだのが崖下、即ち足場のない空中だったという点に限った

 崖に身を投げ出す形になったエマは死に物狂いで手を伸ばして、切り立った岩壁にある尖った岩に掴まって首の皮一枚繋がると即座にレイブンに助けを求めた

 

 

 

「──レイブン! 助けて!」

 

 

 

 エマの必死の叫びを聞いた時のレイブンは目の前の敵に集中していた弊害で、背後で起きていた事態を全く把握していなかった。一連の反応が遅れてしまったのはそのような事情があってのことだった

 切迫した声に反応して振り返ったレイブンの目に映ったのは、なぜか出っ張った岩に掴まっただけの今にも崖下に落ちてしまいそうなエマの姿。幼馴染の危機を前にして、彼の行動には迷いはなかった。或いは、魔物の存在を頭の中から追いやってしまったのかと思うほど躊躇なく武器をその場に突き刺して、エマの元へと素早く駆け出したのだ

 実質エマが岩を掴んでいられた時間は2〜3秒ほどだったが、手が滑ってしまった瞬間にレイブンの手が彼女の手をしっかりと握りしめた

 

 

 

「クルゥアアアア────────ッ!!!!」

 

 

 

 武器を持たないレイブンを見て勝機と見たのか、先程よりも更に鋭く、速く、強烈な一撃をたたきこむためにヘルコンドルは自慢の鉤爪を振りかざした

 言うまでもないことではあるがエマの手を離すなんてことは以ての外だし、さしものレイブンと言えども武器を持たず左手でエマを掴んで右手も自分の身体を支えるために使っている状況ではどうしようもない

 万事休すかとエマの手を握る左手に力を込めたその時────レイブンの左手の甲から眩い光が放たれた。光は一筋の閃光となって雨雲に突き刺さり、一瞬の間の後に稲妻となってヘルコンドルを襲った

 

 

 

「ギョワワワァアア──────ッッ!!?」

 

 

 

 網膜を焼く雷光の中でヘルコンドルの悲痛な叫びが響き渡る。稲妻は数秒間途切れることはなく、憐れなる魔鳥は黒焦げになって地に堕ちていった

 突然の事態に一時自失していたレイブンだったが、すぐに気を取り直してエマを一息に引っ張り上げる

 命の危機に瀕していた所為か、或いは間近で雷を見た衝撃によるものか、エマは荒い息を吐きながら茫然とした様子で項垂れていた。暫くして落ち着いたところでレイブンが手を貸して立つのを手伝ってあげると、僅かにふらつきながらも確かな足取りで立ち上がった。そして互いに顔を見合わせた

 

 

 

「──助かったのね、私たち………。でも、不思議だわ……。まるで貴方が雷を呼んだみたい…………」

 

 

 

 未だに助かったという実感が薄いのか、自分でも信じていないであろうことをエマは言葉にしてみるが、そこでレイブンの左手が光り輝いていることに気づいた

 雷が落ちる前と比べると淡い光しか放っていないけれど、どこか暖かく包み込まれるような心が落ち着く不思議な輝きだった。それによく見ると手の甲にある痣がなにやら紋章のような複雑でいて規則正しい形になっており、ぼんやりと光を帯びているようだ

 

 

 

「レイブン。その痣は一体………。──あら、消えちゃったわね。なんだったのかしら」

 

 

 

 首を傾げながらエマが独り言のように呟くもレイブンは僅かに眉を寄せるだけで、左手の痣や光との関連性を知っているようには見えなかった。それでいてエマほどには驚いていないのが少し不思議ではある。どうにも全く知らないと言うわけではないらしい

 しかし、エマも無理に問い詰めるようなことはするつもりはなかった。仮にも幼馴染のレイブンが悪意を持って隠しているわけではないと信じているし、それでも隠すならばなにか理由があるとわかるからだ

 

 

 

「いっぱい助けてもらったわね。やっぱりレイブンが一緒だと私、心強いわ。──さっ。早いとこお祈りを済ませましょ」

 

 

 

 さりげなく話題を変えて、心の裡にあった命の危機に対する動揺や不安もすっかり切り替えたエマはそう言ってレイブンを促した

 確かに魔物との戦闘や悪路を慎重に移動していたことで時間に余裕があるとは言えない。実際のところは前述の理由よりも、道中で村の老人たちに捕まった時の方が圧倒的に時間を浪費しているのは言わぬが花だろう

 今度は邪魔も入らずに胸の前で手を組み合わせた2人は静かに目を瞑り、大地の精霊に祈りを捧げ始めた

 

 

 

「──我らイシの民。大地の精霊と共にあり………。ロトゼタシアの大地に恵みをもたらす精霊たちよ。日毎の糧を与えてくださり感謝します。……どうか、その大いなる御心で悠久の大地に生きる我らをこれからも見守りください」

 

 

 

 エマが精霊たちに向けた詔を述べた後、2人は一言も喋らずに祈りを捧げ続ける。暫くそのままで身じろぎもせずにいると、不意に瞼の奥から光を感じた

 先程まで感じなかった光に2人が思わず目を開けると、目の前には息も忘れるほどの絶景が広がっていた。青々と木が生い茂る山岳地帯から丘陵地帯を経て平野部に移り、大いなる海へと繋がっている。余りにも美しい光景に2人の顔に笑顔が浮かんでいく

 

 

 

「うわあ、すごい……。世界って、こんなに広かったんだ…………」

 

 

 

 そのような感想を漏らしたエマだったが、どうやら無意識に感嘆の念が溢れたといった様子で声に出したという自覚はなさそうだった

 世界中を旅していたレイブンにとってもこの光景には目を奪われざるを得ないようで、普段の鉄面皮からは想像もつかない満面の笑みを見せていた

 景色に見惚れていたエマがそこでハッとなにかに気がついたような表情を見せた

 

 

 

「この仕来りを考えた人………きっとこの景色を見せたかったんだね」

「それは……。うん、そうかもしれないね」

「それじゃ儀式を終えたこと、お爺ちゃんに教えてあげましょ。みんな私たちの帰りを待ってるはずだわ。それにお爺ちゃんならあの雷についてもなにかを知ってるかもしれないわ」

 

 

 

 それとさっきは助けてくれてありがとう。──そう言ってエマは淡く頬を染めたまま笑った。レイブンも応えるように微かではあれども優しく微笑み、2人は仲良く村への帰途に着いた

 まるで彼らの未来を照らすように、晴天の空には暖かくも眩しい太陽が燦然と輝いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにて3話の投稿完了です。

今回のお話では前回よりもレイブンの強さがわかりやすく出ていますね。
スモーク戦は安定の瞬殺でしたが、ヘルコンドル戦では咄嗟にソードガードで危機を切り抜けました。
内心で動揺を隠さない状態でありながら防ぎきれたのは純粋に技量の高さによるものです。
ゲーム的にはスキルさえあればレベル差があっても防げると思うのですが、流石にそれは不自然ですよね(ステータスもかなり離れてると思うので…………)

こんな感じで初期は殆ど敵なし状態で進んでいくことになると思います。
苦戦するとしたら強さ弱さは関係なく、状況などによる不利を抱えた時だけになるでしょう。
基本的には原作のストーリーに沿って物語を作っていくので、そこら辺は仕方ないですよね。


ところで、初投稿ということで拙い文章を晒してしまったと思いますが、個人的には楽しんで執筆ができました。
3連投を目指していたので、ギリギリで間に合う形になって非常に焦ったりしましたがなんとか投稿できて安堵の気持ちで一杯です。

次話の投稿につきましては、基本は一週間以内に投稿というペースでやっていきたいと考えています。
予定よりも早く投稿したり、多少の遅延ということもあると思うのです実際には不定期です。
個人的には火曜と水曜のどちらかで投稿しようと思うので、拙作を面白そうと感じていただけた方は来週をお待ち下さい。

それではありがとうございました。


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