真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね 作:お茶に煎餅、お酒にチーズ
火曜日に間に合わなかった……!
元から火曜と水曜のどちらかで投稿とは言ってたけど、今まで火曜日に出せてたからなんか悔しい!
待ってくれていた方がいたら申し訳ないです
それでは7話の後編です
主人公視点はこの話で一旦終了となります
俺が王城に通されたのは、あの「俺は勇者だっ! (集中線)」という宣言から意外にもすぐのことだった
門番Aが上官にお伺いを立て、更に上官が王様にお伺いを立て、舞い戻って来た門番Aが俺に〈勇者〉と名乗る証拠を見せろと言って来たのでお爺ちゃんから譲り受けた神秘的な青緑色の石が括られたペンダントを提示。再び門番Aがシャトルランを行なって、程なく入城の許可が下りた。この間、僅か5分の出来事であった
息絶え絶えの門番Aにお礼を言って、急に愛想の良くなった門番Bの態度に若干の違和感を覚えながらも取り敢えず城に入ってみた
一階のエントランスの時点で圧倒されるものがあった。豪奢でありながら華麗、とでも言おうか。鬱陶しくない程度に散りばめられた金色は絶妙なアクセントになっており、赤を主体に様々な色であしらわれたカーペットは宛ら幾何学模様のような複雑な刺繍が施されている
そして城の大扉を開けて最初に目に入って来た黄金の大鷲が、このデルカダール王国を象徴するものだと如実に示している。猛々しくまるで威嚇する時のように翼を大きく広げた大鷲の姿は、されど見方を変えれば親しき隣人を迎え入れるかのように堂々と自らの弱点となる胴体を晒しているとも受け取れる。この大鷲だけでも、大国の威容を実感できた
大鷲の両脇を通るようにして二階に繋がる階段があったので、その側でエントランスを見張る警備兵に尋ねたところデルカダール王は既に王座の間で待っているらしい。王座の間は二階に上って正面に進んだ奥の大扉の先にあるとのことだ
それにしても随分と対応が早いなあ……。俺が今日この時間に来ると知っていたのならば別に不思議ではないが、アポなしで尋ねたのにこの反応は正直言うと想定していなかった。恐らくは他の予定を後回しにして〈勇者〉への対応を優先したのだろう。だからこそ、俺には妙にきな臭く感じられる。些か大袈裟じゃないか?
仮に……そう、仮にだ。今この時も世界中が魔物で溢れかえり、既に世界滅亡の危機に瀕しているというのならば必然〈勇者〉という象徴は諸手を挙げて歓迎すべき存在だろう
だが、現状ではそこまで目に見えてわかる危機は訪れていないはずだ。或いは、大国であるデルカダール王国ともなれば予兆のようなものは察知しているが、国民の混乱を避けるために秘匿しているとか……? 可能性としては捨てきれないが、根拠となるものが存在しない以上は俺が1人で想像力逞しく妄想したに過ぎない
デルカダール王や今は亡き王女の私室を警護する兵士たちの話を聞くところによると、やはり大国たる所以か微塵も魔物の脅威を恐れていない。いや正確には、ついさっき依頼で調べる機会があったが、デルカダール王国には2人の英雄がいるとか
曰く、武勇のグレイグと知略のホメロス。または「猛将」グレイグと「智将」ホメロスと国民だけでなく兵士たちからも慕われる大国の双璧だ。役職としては将軍と軍師の関係であり、故にホメロスが作戦を立て、グレイグが軍を率いた時、デルカダール兵は天下無双の軍隊となる。────あの本にはそのように記されていた
要するに、デルカダール王国は〈勇者〉に縋る必要がない。なぜなら所詮は伝説の存在でしかないものに比べてしまえば、確かな実績を築いて来た頼れる英雄が既にいるのだから当然の帰結だ
それはデルカダールという一国だけのことではなく、他国に於いても現状では〈勇者〉を必要とする状況ではない。世界中で恒常的な魔物の被害は出ているが、外部の人間の助けを求めるほどではないということだ。国としての面子もあるだろうし、軍隊で対処が不可能なのに個人で対処可能な相手というのも想定し辛いからな
「そなたが、あの勇者………………あ、いえ、失礼致しました。デルカダール王がお待ちです」
「デルカダール王は寛大なお方ですが、秩序を乱す者にはとても厳しい。呉々も妙な真似はなさらぬよう…………」
うーむ。やはり絶妙に胡散臭いというか……。警備兵たちの幾人かが見せた物言いたげな態度が気になる。王座の間に続く大扉の脇に控えていた2人の兵士もヤケに含みを持たせた言い方をしてくるし…………。伝説の存在の生まれ変わりに対して戸惑っていると受け取れば、そこまで変な反応とまでは言えないけれど
でも、さっき開き直ってからというもの「なにが来てもぶっ飛ばしてやる」みたいな気概でいた所為なのか。戦闘態勢に近い精神状態に入っていたらしく、常よりも研ぎ澄まされた〈直感〉が身の危険を知らせてくる。それは、今まで俺の命を幾度となく救って来てくれた時のものに非常によく似ていた
本来ならこの〈直感〉を無視するという行いが、どれほど下策極まりないことかは理解している。だが、世の中には頭の中ではわかっていても割り切れない事柄というものは必ず存在する
入城する前までは感じていた万能感は既に消え去っている。言葉にするのが難しいほどの悍ましいなにかがこの城の中に巣食っているような気がしてならないのだ。そんな存在がいると断じるには根拠がなく、気の所為だと言われたらそうかもしれないと思ってしまいそうな曖昧な気配。故に、異常事態が起きていると確信した
ゴゴゴ……! と重厚な大扉が内側に向けて開いていく。赤いカーペットを挟むようにして兵士たちが整列しており、玉座の両袖には厳しい面立ちの巨躯の男と知的な風貌の男が堂々たる態度で立っていた。まず間違いないと思うが、偉丈夫の方がグレイグ将軍で、華奢な方が軍師ホメロスなのだろう
兵士たちも含めて完全武装に見える。国の最重要人物たる王の身辺に侍っているのだから、如何なる状況にも対応するためには決しておかしな事とは言えない。それはそれとして歓待するはずの〈勇者〉を迎える装いに相応しいかと言われれば疑問符がつくが…………
ところで、ホメロスから仄かに感じる噛ませ犬&小悪党めいた雰囲気は俺の気の所為か……? 例えば、裏切り者として敵対して強敵ムーブをかますけど戦ってみたら大して強くなくて、敵の親玉から利用するだけ利用された後にトカゲの尻尾切りでコロコロされそうな感じというか。こういうとアレだが、なんか幸薄そうな奴だなあ
ベクトルは違うけどグレイグからも似たような気配が………。例えばそう、親友とのバッドコミュニケーションの末に裏切られる要因を作り出してしまい、せめてもの情けと介錯しようとしたら背後からズドンとされそうな感じというか。こう言っちゃなんだが、英雄には悲劇がつきものなんだなあ。いや、実際のところあり得ない想像だとは思うけどさ
そして、2人の英雄を従え王座にて俺を睥睨する人物こそ、世界でも有数の大国たるデルカダールを治める王────モーゼフ・デルカダール三世か
鷲の如き鋭い三白眼の厳しい老人の男だ。色素の抜け落ちた頭髪と顎髭は随分と長く伸ばされており、細やかに手入れしているのか鷲の羽毛のようにも見える。大国の王としての威厳を損なうことはなく、むしろ彼の深い経験と見識を窺わせた
王座の間にいる全員の視線が集中してくるが、正直に言うとそれどころではない
デルカダール王を目にした瞬間から〈直感〉が今までに類を見ないほどに警鐘を鳴らしている。無表情の鉄面皮で良かった。そうでなければ思い切り動揺を表に出していただろう
傍目からはなんともない様子のまま、警戒を最大限に強めて赤いカーペットの上を歩いて行く。兵士たちの前を横切る度に視線も追ってくるが、普段は煩わしいと感じるであろうそれにも神経を尖らせる。………これは、敵意か?
「旅の者よ。ようこそ、デルカダール城へ」
王座の前まで来たところで、脇に控えていたホメロスがぬるっと動いてそんなことを宣った
あー、うん。確か軍師だっけか。智将とも呼ばれていたような気がするけど、明らかに歓迎しているようには思えないわ。端正な顔立ちだが、随分といやらしい微笑みだ。それに視線からは僅かに嗜虐心を感じる。この状況を愉しんでいるのか
グレイグは論外だな。さっきからずっとビシバシ敵意が向けられてた。なんとか抑えようとしているようだが、威圧感が全身から漏れ出してしまっている
「ユグノアの首飾りか………」
やはり嵌められていたか。──と内心で後悔していたところ、デルカダール王から小さく呟きが聞こえた
今なんて言った……? ユグノアの首飾りって、まさかとは思うが王座の間に入る前からずっと右手に握ってた青緑色のペンダントのことか
いや待て。なんでお爺ちゃんはそんなものを持ってるんだよ。ユグノア王国ってアレだろ。16年前だかに
「よくぞ来た、旅の者よ。儂がデルカダールの王である。こうして其方が来るのを長年待っておった。漸く会うことができ、嬉しく思うぞ」
全く嬉しく思ってないような顰めっ面で言われても、こっちはどう反応すれば良いのやら
とはいえ、デルカダール王の演技は上手いな。俺も〈直感〉というチートがなければ怪しまなかったに違いない。無愛想であることを除けば、両脇の英雄様と違ってパッと見てわかるボロは出していないな。敵意なども上手く隠しているらしく、デルカダール王からは全く負の感情は察知できない
「その首飾りを携え、王である儂に会いに来たということは、其方は自分の素性を知っておろう。もし其方が本物の〈勇者〉であるならば、恐らく手の甲に痣があるはず」
自分の素性とは〈勇者〉の生まれ変わりであることか……? それとも出生のことだろうか
後者の場合はわからないというね。転生してから意識がはっきりしたのは1歳過ぎてからくらいだし。両親らしき人物の姿はなんとなく覚えているような気がするんだけど、生憎と朧げだからなあ
そんなことを考えながら、要望に従って左手を掲げて甲にある痣を見せる。さて、これで後には引けなくなったがどう出てくる
「うむ、その痣こそ〈勇者〉の証! 其方こそあの時の赤ん坊………。皆の者よ! 歓べ! 今日は記念すべき日! 遂に伝説の〈勇者〉が現れたのじゃ!」
「「「「「おおぉ────ッ!!!」」」」」
痣を目にした途端、デルカダール王は勢いよく立ち上がって場を盛り立てる
さっきまでの厳かな雰囲気は消え伏せ、この場にいる全員が手に持つ槍や拳を突き上げて歓迎する。一転して明るくなったことで一瞬だけ俺の懸念は杞憂だったのではないかと考えたが、残念ながらそれはなさそうだ
「……時に、〈勇者〉よ。其方は何処から来たのだ? 其方を此処まで育て上げた者に礼をせねばならん。教えてくれぬか」
はっ……。誰が教えるか馬鹿者めが。イシの村が焼き打ちされるフラグだろ。現代人ならそのくらいはすぐに察しがつくわ!
ということで、俺を拾ったのはテオという老人で既に亡くなっていること。定住はせずに世界中を転々と旅していたと嘘をつく。お爺ちゃんの名前は本当だし、旅をしていたのも嘘ではない。イシの村のことは欠片も匂わせない
なぜか自由に身体を動かせる現状が吉と出た。これで普段通りに主導権がなければ、平然とイシの村について言及していたことだろう。危なかった………
「なるほどな。既に亡くなっておるのか………。ホメロス、しかと聞いたな?」
「はい。しかと聞きました。定住はしていなかったということですが、さして問題はないでしょう」
「ホメロスよ! わかっているな!? 後は任せたぞ!」
「はっ!」
ちょっ!? 雲行きが怪しくなってきたぞ!?
ホメロス、定住はしていないと言っただろう! なにが問題ないんだよ! まさか世界中の全てに焦点を定めて聞き込みでもするつもりか……? やばいやばい、不特定多数に迷惑掛ける可能性が出てきた
小物っぽいが仮にも大国の軍師まで上り詰めた男だ。一般人では対抗することもできないだろう。幾らなんでも決定的な証拠もなしに手を出すような真似はしないと信じたいが…………。まずは自分の安全を確保しないと駄目かもしれんな
「まさか1人で乗り込んでくるとはな………。なにを企んでいるか知らんが、貴様の思い通りにはさせんぞ! 〈勇者〉め!」
デルカダール王と俺の間に割って入るようにしてグレイグが立ち塞がった。事此処に至っては隠す必要もないと敵意すら超えて殺気を叩きつけてくる。なるほど。抵抗すればこの場で叩き斬ると……?
ホメロスと共に王座の間を出て行った兵士を除いた、恐らくグレイグ直属の部下と思われる兵士たちが一斉に俺を取り囲んで槍を突きつけられた。まあ、此奴らは別に脅威にはならないんだよ。問題はグレイグだ
「グレイグよ! その災いを呼ぶ者を地下牢にぶち込むのじゃ! 皆の者も知っておろう! 〈勇者〉こそがこの大地に仇をなす者! 〈勇者〉こそが邪悪なる魂を復活させる者! 〈勇者〉と〈魔王〉は表裏一体なのじゃ!」
うん。それは確かにそうですね。物語として〈魔王〉がいないと〈勇者〉は成り立たないもんな
でもさ、鶏と卵の話じゃないけど。〈勇者〉が〈魔王〉を復活させるってのは違うだろう。復活させた後に自分で倒して「世界の平和を取り戻したのこの私だ!」とかやっても、完全にマッチポンプ甚だしいのだが
そもそも〈勇者〉という字をしっかり見て欲しい。勇気ある者と書いて〈勇者〉なのに、なぜそれが大地に仇をなす者とか言われるのか
「我が王はあの様に聡明なお方。〈勇者〉が何者であるかわかっておったのだ。お前には不運であったな。よし! この者を捕らえよ!」
よし! ──じゃねえよ! お前は馬鹿なのか
例え自らが仕える王の言葉だとしても少しは疑ったり、或いは変に思って窘めたりするのが真の臣下に求められる姿だろう!?
ああ、もう! 展開が早すぎる! かと言ってボケっとしてたらこのまま地下牢にぶち込まれるのは確定だ。サシならグレイグに負けるつもりはないが、周りの兵士諸共殺さずにデルカダール王を生け捕りにするしかないか
若干の混乱はあったが、予め覚悟を決めていたお陰で立ち所に思考を切り替える。早速行動に移そうとした時、俺は一寸先の未来を垣間見た
◇
────────その場から動かず震脚。床を通して唐突に伝わる振動に体勢を崩した兵士は捨て置く
僅かに驚いた様子のグレイグの懐に潜り込んで、再びの震脚から水月目掛けて掌底を叩き込む。しかし、其処は流石の英雄と言うべきか。普段は左手に盾を装備しているのか、確実に入ったと思ったのに反射的な動きで左腕が差し込まれて直撃は成らず
だが、咄嗟に掌底に合わせて発剄の要領で魔力を放出することによってグレイグを吹き飛ばして道は開けた
吹き飛ばされてふらつくグレイグの脇を抜けて、地を滑るように、いや跳ぶように一足でデルカダール王との間にあった距離を縮めて肉薄する
瞬間移動にも匹敵する速度には武闘派と言われるデルカダール王と言えども流石に反応することはできず、グレイグにしたように掌底を叩き込もうとした瞬間、不意に目が合った
まさか。
◇
──っ!? ……今のは〈直感〉による未来視か? 取り敢えずグレイグは別に良い。敢えて弱い装備にしていたお陰か油断している。隙をつけば難なく突破できていた
問題はその後だ。デルカダール王。奴は一体何者だ……? 活歩による〈縮地〉は正に地面を縮めたとしか思えないほどの瞬間的な移動を可能とする
武闘派を謳っているデルカダール相手でも奇襲という形なら余裕を持って生け捕りにできるはずなのに………。完全に動きを把握されていた上にカウンターで俺が致命傷を受けるとは
余りの衝撃に動こうとした身体が硬直する。いや、未来視であの結果だった以上は実際に動いても失敗は確実だろう。行動しないことこそが正解なのだ
これは流石に仕方ないか……。想定が甘かったと言えばそれまでだが、今の俺ではデルカダール王の姿をした存在に勝つことは不可能だとわかった。無理矢理だが、それだけが収穫だと思わなければやってられない
兵士たちに槍を向けられて包囲された状態で、グレイグの後を追って王座の間を出る
さて、今すぐに逃げ出すことも難しくはあるができない道理はない。グレイグが油断してくれているからな。だとしても、失敗する可能性は五分五分と言ったところだ。まだ様子を見た方が良いか
決行するなら地下牢だな……。恐らく極悪人が収容されると言われる最下層の牢獄のことだろう。絶対に逃げられないという自信に付け込ませてもらおう。往々にして自信とは行き過ぎれば過信となり、油断へと行き着くものだからな
◇◇◇
────というような話を、もっと簡潔にしてフードの男に語る。具体的には「さっき〈勇者〉と名乗ったら牢獄にぶち込まれた」と言っただけだが
うーん。自分で話せればこの遣る瀬ない気持ちを全てぶちまけてやるのに。回想の時間とは比べ物にならないくらいアッサリとした説明だった。なんだか納得いかないなあ
「うん? なんだって!? 自分はなにもしてない? ただ〈勇者〉と名乗っただけだと!? マジかっ!」
良い反応をどうも。少しだけ気が晴れたわ
やっぱり普通じゃないよな。王国側もそれを承知しているから、ホメロスに事実確認をさせるために探索に出させたのだろう。〈勇者〉が悪だという証拠集めをしなければ俺を始末した後に面倒が残るだろう。あの一族が黙ってるとは思えないからな
その点で言えば咄嗟に定住していないと嘘を吐いたのは正解だったか。グレイグの予想では、ホメロスが探索を終えて帰ってくるまでは短い期間だったとしても最低でも3〜4ヶ月は掛かるそうだ。それまでには脱獄する方法を確立せねば……!
「こいつは驚いた! まさか〈勇者〉様が同じ牢だとっ!?」
本当に驚いたらしく、フードの男は立ち上がって大きく身振り手振りをしながら言った
オーバーリアクション、ではないのか。少し皮肉っぽい言い方に聞こえてしまうが、そういう性格なのだと思えば別に気にならない。彼が割と良い奴なのは恐らく間違いないしな
それにしても隣はご飯の時間か……。俺も朝しか食べてないからお腹空いてるのに。良いなあ……。と思っていたら、ご飯を受け取るために近づいたフードの男が徐に兵士へとリバーブローをお見舞いした
流れるような一連の動きに俺の身体が硬直している間に倒れた兵士から手慣れた様子で鍵を奪い、あっという間に自分の牢を開けてしまう
そのままなぜか俺の方に接近。奪った剣を肩に担ぎながら近づいてくるその姿にはなんとも言えない威圧感があり、ジリジリと身体が勝手に後退っていく。……いや? 仮に襲われても無手で普通に鎮圧できると思うのだが
「俺の前に〈勇者〉が現れるとはな……。全てはあの預言の通りだったって訳か。来な」
えぇー? なんで開けてくれたの。そりゃ嬉しいけど、余計に怪しく見えてしまう罠。理由が知りたいです
そんな風に内心でブツブツ言ってる間にも身体は素直についていく。お前ェ……。ついさっきは警戒してたのにもうあの男を信用したのか。どんだけチョロいんだよ。勘弁してくれませんかね
フードの男が収容されていた牢屋に入ると、俺がついてきたのを確認してから寝藁に手を掛ける。おっと、通路の方から足音が聞こえますよ。うん、気づいたな
「ちょっと待ってろ」
「き、貴様はっ! ……ぐわっ!」
言うが早いか。フードの男は奪った剣を手に駆け出して、巡回の兵士に襲い掛かっていた
見た限りだとすれ違いざまに剣の腹でぶっ叩いたようだな。アレなら死んではいないだろう。体躯が細く、小柄な割にやはり良く鍛えられているな。身のこなしが軽やかで無駄が少ない
それはそうと、彼が無闇に殺人を犯す人物ではなさそうなことは安心できる要素には違いない
「殺してはいない。ただ暫く起きないだろうな」
俺を安心させるためか、ちゃんと報告までしてくれる。あれ…? 本当に良い奴じゃないか。尚更こんな所に収容されていた訳がわからなくなるけど
まあ、さっきリバーブローされた兵士から鍵を奪い取る手慣れた仕草から鑑みて、盗賊かなにかやってたのかもしれないな。此処にぶち込まれるほどの物を盗もうとすれば可能性はあるか
「この先、手ぶらじゃ危険だからな。此奴を装備するんだ。それから、これ……お前の荷物じゃないか? 向こうの部屋に置いてあったから、ついでに取り返しておいたぜ」
おー! 良かった! その〈魔法の袋〉には色々入ってるから、脱獄するにしても絶対に取り返さないといけないと思ってたんだよ。アンタ気が効くな……!
流石に王座の間で装備していた剣は回収されていたようで、渡された剣は俺のものではなかった。あの昏倒した兵士の物だろう。丁寧に手入れはされているからこれで充分だけどな。袋の中にある〈プラチナソード〉とかは取られてなくて安心したわ
「俺も愛用の短剣を取り戻すことができた。此奴が有れば百人力だぜ」
おめでとう。でも、百人力は言い過ぎだと思う
さっきので一兵士よりも強いのはわかったけど、そんなに強くないよね。まあスペック自体は高そうだから、この先で力をつければまた話は違うだろうけど。余り魔物と戦わずに避けてきたのかな?
「さて、他の兵士が来る前に逃げるとするか。準備ができたら声をかけてくれ」
そう言って、牢の中に引っ込んで行く
あの、いや、もう準備できてますから! 牢屋に閉じ込められてる状態だと大してすることないって。離してる間に装備も終わってるし
というか、普通に俺も一緒に逃げることになってる。すごい助かる。本当にありがとう! 捕まってた時間は30分にも満たないけど陰気臭いから早く出たかったんだよ
フードの男に倣って牢の中に入れば、それを確認した後に寝藁を引っぺがした。今度は邪魔が入らなかった………って、なんか思い切り穴が掘ってあるんだけど。よくぞここまでしてバレませんでしたね
「ずっとこの穴を掘っていたんだ。今日脱獄しようと思っていたが、そんな日にまさかお前が来るとはな……。どうやら預言の通り、俺はレイブン………お前を助ける運命にあるらしいな」
意味深な発言やめてくださらない……? なんか〈勇者〉に思うところがあるのはわかったからさ
いや、まさかとは思うがこのフードの男って仲間の1人なのか? 預言の通りだとか、俺を助ける運命にあるとか言ってるし、その可能性は高い
この世界が俺の知ってるドラクエシリーズならこんな悩む必要ないのに………。神様(自称)もどうせなら知ってる奴にしてくれたら良かったんだけどなあ
「今は詳しく話してる時間はねえ。さあ、お前から先に行きな!」
確かに今はまず逃げることに集中しよう。どうやら脱獄後に話してくれそうだしな。お言葉に甘えて先に行かせてもらおうか
不気味なデルカダール王。王に心酔する将軍と軍師。それらを信じて〈勇者〉を悪と見定めた兵士たち。大国の言葉に扇動されるであろう民衆。これから先の旅路への不安を呑み込んで、俺は底の見えない穴の中に身を投げ出した
誤字報告ありがとうございます
>>修正
神様(自称)もどうせなら知ってる奴にしてくらたら良かったんだけどなあ→神様(自称)もどうせなら知ってる奴に知ってる奴にしてくれたら良かったんだけどなあ
これにて7話後編は終わりです
前書きでも言いましたがお待たせしてしまった方には申し訳ない……っ!
先週は立て込んでたので一昨日と昨日で頑張って書いたのですが、その所為かいつにも増して内容が稚拙かもしれません
修正した方が良いという意見があれば随時受け付けておりますので、よろしくお願いします!
では、来週も火曜か水曜のどちらかに投稿しようと思います
50人もお気に入りしてくださってるので、なんとしても最後まで書いていく所存でございます!
今週もありがとうございました!
ーー転生チート詳細ーー
・カリスマ(B++)
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。稀有な才能だが、稀に持ち主の人格形成に影響を及ぼす事がある。王や指導者には必須ともいえるスキル。Bランクであれば国を率いるに十分な度量。レイブンの場合は更に志を同じくする者には追加補正が掛かり、一緒にいる時間が長いほど効果が増して最終的にはA+にも匹敵する呪いじみた魅力になる。レイブンの仲間として旅に参列する者は日毎に彼に心酔していき、自らの死を厭わない強固な信頼を寄せるに至る。転生チートと元々身体に備わっていた〈素質〉が合わさって凶悪な性能になっている
・騎乗(A+)
乗り物を乗りこなす能力。〈乗り物〉という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。A+ランクでは竜種を除くすべての獣、乗り物を乗りこなすことができる。本来ならクラススキルだが、転生チートなので細かいことは気にしない。前世ではバイクを愛用していたので、馬などに騎乗した際のバランス感覚には眼を見張るものがある
・縮地(B−)
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。最上級であるAランクともなると、もはや次元跳躍であり、技術を超え仙術の範疇との事。その為、恐らくは人間が技術で実現できる範疇としての最高峰に相当するのがBランクだと思われる。レイブンの場合は本来ならBランクなのだが、戦闘中でも完全には身体の主導権が渡らないため十全には扱えずマイナス補正が掛かっている
・直感(C+)
戦闘時、常に自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。レイブンの場合は中身と外側の整合性が取れていない影響か、戦闘に集中できない状況や不意打ち、奇襲された際にはCランク相当の補正しか受けられない。しかし、自らが先手を取って戦闘を開始した場合、または戦闘が長引いて集中していくにつれて、彼の第六感は瞬間的にAランクに匹敵する未来予知にも等しい感覚にまで研ぎ澄まされる
他のスキルに関しては随時紹介していこうと思いますので、気長にお待ちくださいませ