真の勇者なら1人で魔王に勝てるよね   作:お茶に煎餅、お酒にチーズ

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今週も水曜日の投稿になってしまうとは………
遅くなって申し訳ないです

それでは、ついさっき書き終わった出来立てホヤホヤの8話をどうぞ





勇者、I can fly!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デルカダール王の画策によって地下牢へと閉じ込められたレイブンは、そこに収容されていた怪しいフードの男が脱出するために掘ったという穴に飛び込んだ

 特に邪魔が入ることもなく、2人が穴の中を順調に進んで行くと、程なくして行き止まりに辿り着いた。石壁を押すと意外と簡単に崩れて、そこから穴の外に続いているようだった。レイブンが息を潜めたまま穴の外を松明で照らせば、其処は地下水路を思わせる風景であり、今は人影らしきものもない

 

 

 

 音を立てないように気をつけながら、それでいて素早く2人は穴の外に飛び出した

 其処はやはりというか薄暗い所為で視界が悪く、しかし所々に照明代わりの松明が壁に飾られているお陰で目を凝らせば全く見えないわけではなさそうだった。改めてレイブンが持つ松明で周囲の安全を確認すると、小さく水音を立てる水路が2人の目に入る

 

 

 

「……水路か。何処かに出口があるはずだ。俺らが逃げたとバレる前にさっさとズラかるぞ。背後は俺に任せて先に行ってくれ」

 

 

 

 そう言ったフードの男────改め青年に頷いて、レイブンはゆっくりとした足取りで前方を松明で照らしながら歩き出した

 少し進むと鉄格子の扉の奥になぜか宝箱や壺の中に薬草が入っていた。取り敢えず2人は宝箱は鍵付きの扉が開けられないため諦めて、それでも薬草だけは拾って先に進んで行く。その先で見つけたT字路は水路の水が流れる方向を見て左に曲がる

 ────瞬間、複数の硬質な足音と鎧の擦れる音と共に松明の灯りがレイブンたちを背後から照らした

 

 

 

「いたぞ……! 脱獄囚だ、捕まえろ!」

「ちっ、もう追っ手が来てるのか……。一々兵士どもの相手なんざしてられねぇ。行くぞ〈勇者〉様、俺について来な」

「そうだね。“僕”も訳もわからず捕まるつもりはないよ。──炎よ、集え──《メラ》!」

 

 

 

 3人で巡回していたデルカダール兵に見つかったレイブンたちの反応は早かった

 青年が先導するように走り出せば、短い詠唱の後にレイブンの左手の先に拳より少し大きいくらいの火の玉が生まれる。間髪入れず炎属性の基本呪文とされる《メラ》という魔法名を唱えると、2人を捕縛しようと足を踏み出した兵士たちの足下に着弾して埃を巻き上げた

 その影響は目眩しのみならず、着弾の際に生じた衝撃により体勢を崩して隙を作ることにも働いた。明確な隙を見逃す2人ではなく、走りながらも松明の火を消して逃げ延びることに成功する

 

 

 

 しかし、2人は息を吐く暇もなく、今度は突き当たりに持ち場と思われる場所を何度も行ったり来たりとする巡回兵を見つけた。軽い相談の末に戦闘はなるべく避ける方向に決まったレイブンたちは、見事な身のこなしで巡回兵を回避していく

 3人ほどやり過ごして、先導していた青年が前方に石橋を発見する。背後を確認した青年の「先に行って確認してくれ」との要望に頷き、前後を入れ替えてレイブンが橋に足を掛けたところで向かい側から幾人もの兵士たちが慌ただしく現れた。素早く方向転換しようとした2人の視界には、さっき通り抜けた道とその対面からも続々と姿を見せる兵士の姿が映っていた

 

 

 

「ちっ……。しつこい奴らだ………」

 

 

 

 運悪く挟み撃ちのような状況に陥ってしまい、ジリジリと間を詰めてくる兵士たちに青年が思わずと言った様子で悪態を吐いた

 逃げ場のない橋の上で前後からの挟撃。橋の下は只でさえ薄暗い地下水路に増して暗く目視は困難である。砕けた床の破片が跳ねているのか水音は聞こえるくらいの高さのようだが、飛び込むには勇気のいる高さであることには違いなかった

 

 

 

 10人近い数のデルカダール兵に囲まれたとはいえ、レイブンの実力であれば青年を庇いながらでも充分に撃退できる範囲だったが、石造りの橋の上で戦闘なんてすれば橋が崩落する可能性がある

 だが、残念ながら葛藤する時間はなかった。あと2、3歩で剣の間合いに入る位置まで兵士が来たところで、2人が腹を括って戦闘に入るため武器を構えようとした瞬間のことだ。不意に彼らが足場とする石橋がズズズ……という音と共に沈み始めた

 

 

 

「おいおい、マジか………」

 

 

 

 呆然と呟いた青年が察したように、2人を囲んでいた兵士たちも口々に騒ぐが最早手遅れだった

 長年に渡り放置されていた所為で老朽化していた石橋は突然複数の人間が乗った重さに耐えることは難しく、呆気なく崩界に至った

 橋の中央付近にいたデルカダール兵を含めて、レイブンたちは暗く冷たい地下水路へと落下していったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました2人はなぜか在る女神像の近くに焚かれた火で照らされた辺りを見渡すと、其処は洞窟のような場所だった

 あのまま水路を通じて外に流されるということにはならなかったが、それなりの距離を流されたのは間違いない。不幸中の幸いか、あの兵士たちを撒くことには成功していたので、荷物の確認をしたところ運良くレイブンも青年も失った物はなかった

 

 

 

「やれやれ。まさか橋が崩れるとはな。だが、そのお陰で助かった。この先から出られるかもしれねえ。さあ、先へ進もうぜ」

 

 

 

 言葉とは裏腹に余り期待はしていないような口調で青年が言えば、濡れた服を絞りながら〈魔法の袋〉の中身を確認していたレイブンが神妙な様子で頷いた

 先程までレイブンは道幅が狭いため片手剣を装備していたが、それなりに拓けた空間であることもあって両手剣に切り替えてから、先に進む青年の後に続く

 2人が流れ着いた地点よりも更に拓けた空間に入った瞬間、常よりも集中していたレイブンの〈直感〉に反応があった

 

 

 

「──っ!? この先になにかいる……!」

「なに…? ちっ、暗くて見えねえ」

 

 

 

 青年は腕を掴んで引き留められたまま、暗闇の先にいるという()()()を見極めようと目を凝らす

 しかし、気配を感じたのは2人だけではなかった。この空間の主である魔物もまた、警戒して戦闘態勢に入ったレイブンたちの存在を認識していた

 

 

 

 その魔物は人間を遥かに超える巨体に加えて、闇に溶け込むような漆黒の鱗に覆われていた

 今日2人が来るまでは、いずれ来たる時に備えて深い眠りに入っていたのだが、不遜にも縄張りを犯した羽虫の存在に興味を持ち意識を覚醒させたのだ

 伏せていた巨体を気怠げに起こし、身体を支えるために太く強靭になった脚で立ち上がる。人間のような小さき者を容易く丸呑みにできる凶悪な顎門から低い唸り声を立てながら、丸太よりも長大な尻尾を煩わしげに地面へと叩きつけて存在を誇示する。蜥蜴に似た縦長の瞳は、確かにレイブンたちを睥睨していた

 

 

 

「グォォォオオオオオオ──────ッ!!!!」

 

 

 

 耳を劈く咆哮が拓けた空間に木霊する。その魔物にとっては威嚇に過ぎない咆哮は衝撃波すら伴うものとなり、レイブンたちを襲った

 立ち上がったことで全貌が見えた。デルカダール城の地下深くに潜んでいた魔物の正体は、此処デルカダールより遥か北東の山岳地帯で稀に目撃されるという化け物

 4〜5m以上の巨体。尻尾も含めれば全長7〜8mにも及ぶであろう漆黒の鱗に覆われた体躯に、巨体にも関わらず空を飛ぶことを可能にする所以たる蝙蝠を想起させる巨大な翼を広げて2人を威嚇する

 

 

 

 咆哮による衝撃波から身を守った2人が見上げると、翼の生えた黒色の蜥蜴に似た魔物────ドラゴン系の魔物の中でも輪を掛けて凶暴だと伝わるブラックドラゴンは既に次の行動に移っていた

 尻尾を振り上げて振り下ろすという単純な動作。だが、ブラックドラゴンはレイブンたちと比べるまでもなく数倍以上の大きさを誇る巨体である。それは只の身動ぎを致命的な攻撃に変えるほどに圧倒的な差だった

 

 

 

 止める間もなく叩きつけられた尻尾は偶然にも2人には直撃しなかったが、代わりに受け止めた壁は一撃で容易く破壊されてレイブンたちには破片が降り注いだ

 激しく揺れる地面の上で、青年は崩落する岩に当たらないように気をつけるので精一杯のようだった。しかし、青年よりも遥かに優れた実力の持ち主のレイブンには幾らか余裕があり、瞬時に岩の当たらない場所を見極めて両手剣を構えて意識を集中させていた

 そして、間断なく降り注ぐ岩の隙間を縫ってレイブンを狙ったブラックドラゴンの顎門に下から掬い上げるような軌道で〈プラチナブレード〉を叩きつけた

 

 

 

「ガァ────ッ!?!!?」

 

 

 

「おい…!? 無事か……!?」

「大丈夫……! この魔物とは戦ったことがある。此処は“僕”に任せて、先に其処の横道から逃げて。必ず後から追いかける」

「……わかった。こんなとこで死ぬんじゃねえぞ!」

 

 

 

 獲物だと思っていた存在からの思わぬ反撃に、今度は咆哮ではなく悲鳴のような声を上げるブラックドラゴンを尻目に、レイブンたちは素早く行動していた

 世界中を旅していたレイブンは偶然にも2回ほどこの魔物に襲われて勝利しており、そのため攻撃方法などはある程度把握していた

 青年もこの場にいては足手纏いになると判断したらしく、悔しそうにしながらも感情に任せて判断を誤ることもなく迅速に撤退に移った。此処が完全に行き止まりだったとしたら、或いは命はなかったかもしれない

 

 

 

 横穴に姿を消した青年を見送って、レイブンは両手剣を一度地面に突き立て両手を空ける

 下顎をかち上げられたことで脳髄まで衝撃が突き抜けたようで、未だにレイブンの反撃から立ち直っていないブラックドラゴンに猶予を与えず畳み掛けていく

 その魔法はおよそ半年前に習得した覚えたてのもので、対象とした存在を強制的に眠らせる《ラリホー》系統の上位呪文。ブラックドラゴンが相手では確実に効果がある訳ではないが、今の意識が朦朧としている状態ならば打って付けの魔法だった

 

 

 

「──来たれ、微睡の精霊よ。遍く者を安らかなる眠りの淵へと誘い給え──《ラリホーマ》!」

 

 

 

 魔法名を唱えた瞬間、ブラックドラゴンの頭を覆い隠すような形で桃色の霧が発生した。仄かに甘い香りを伴う魔力で構成された霧は頭から首、胴体へと順に移動して全身に纏わりつくと、その巨体に染み込むようにして消えていった

 強制的に睡魔を誘発する《ラリホーマ》によって発生した桃色の霧が消えた跡には、ブラックドラゴンが呆気なく魔法の餌食となり眠りこけていた

 

 

 

 敵が五体投地して爆睡している現状はレイブンにとって決定的な勝機に他ならない

 通常ならば先程レイブンがしたように噛みつきに合わせた反撃か、あの巨体を強引に登攀するか、或いは魔法でもなければ急所となる頭を狙うことは非常に困難となるが、今は無防備に倒れ伏しているのだ。これを見逃す手はなかった

 恐らくブラックドラゴン程の魔物ともなれば魔法の効果で眠っている時間は1分にも満たないだろう。それに加えて、魔物が体内に備える魔力が抗体のように作用することで再び眠らせることも難しくなるが、つまり起きるまでは隙の生まれる大技も安全に使える

 

 

 

「──全身全霊の力を今此処に………!」

 

 

 

 ブラックドラゴンの眼前まで移動して、レイブンは絶大な威力を持つが故に大きな隙が生まれてしまう剣技の発動準備に入った

 魔法の詠唱のように言霊を唱えながら、胸の前で祈るように構えた両手剣を頭上に掲げていく。体内で練られた魔力が刀身に満遍なく行き渡ると同時に眩く輝き、宛ら光の大剣のような様相を呈している。ちなみに、別に光属性ではないことは付け加えておく

 しかし、本来はこのまま光剣(のように見える)を叩きつけるという技なのだが、レイブンは更に一工夫する

 

 

 

 まず前提として、レイブンは転生チートとして与えられた〈Fate/シリーズのスキル〉から〈魔力放出〉を選択していた。その〈魔力放出〉を発動する時に、任意で〈火・氷・雷・光〉の属性からいずれかを決めて反映することが可能になっていた

 これは転生チートを選択する際には伝えられなかったことで、実はレイブンというか〈勇者〉として転生したことにより〈スキル〉が変質した結果である。それぞれの属性に対応した剣技を習得したことにより、いつからか〈魔力放出〉の際に上記の4種類の属性を付与することが可能になった、というのが事のあらましだ

 

 

 

 そのような経緯は露ほども知らないまま、レイブンが今回選んだのは〈魔力放出(雷)〉だった

 光を纏った両手剣に、更に黄色っぽい雷光が纏わり付いていく。それだけでは留まらず、発動した〈魔力放出(雷)〉によってレイブンの全身も帯電して、その恩恵により全体的な身体強化と共に特に瞬発的な筋力などが著しく上昇した

 此処までの準備で15秒以上が経過しており、ブラックドラゴンの魔法抵抗を考えれば再び暴れ出すまでの猶予はそれほどないだろう。だが、流石にバッチリ上位呪文に囚われた状態から目覚めるよりも、レイブンが大技の準備を完了させる方が遥かに早かった

 

 

 

「────《全身全霊・稲妻斬り》………つ!!」

 

 

 

 裂帛の気合と共に、正しく稲妻の如き速度で振り下ろされた雷光の大剣は狙い違わずブラックドラゴンの眉間に命中した。刀身が漆黒の鱗に接触した瞬間、視界を白く焼き尽くすような爆発的な雷光の奔流が迸る

 その結果、常識外れの剣速と両手剣の攻撃力と〈魔力放出〉によって放出された雷光も相俟って、ブラックドラゴンは頭から尻尾に至るまでの剣の軌跡の直線上を綺麗に両断された

 当然のことだが、ブラックドラゴンは即死。断面は雷光に付随する高熱により焼き切れて僅かに煙が立っており、先程の一撃の絶大な威力を物語っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見事にブラックドラゴンを撃破したレイブンが先に行かせた青年を追いかけて横穴を走っていると、暫く進んだところで発見した

 青年の方からもレイブンが特に怪我もなく、かといってブラックドラゴンの姿も見えないことには驚いた様子だった。だが、レイブンの接近に気づいた青年は念のため警戒は維持したまま互いに駆け寄って合流を果たす

 

 

 

「おい〈勇者〉さま、あの魔物はどうした……?」

「アレなら“僕”が倒した。でも、他にもいないとも限らないから先を急ごう……!」

「マジか……!? いや、お前の言う通りか。色々と気になるが、まずは此処を抜け出さねえとな。この先に地下水路に繋がる出口があった。俺が案内するから、ついてきてくれ」

 

 

 

 ブラックドラゴンを倒した後に、時間がなかったことで少しだけしか剥がせなかったとはいえ、紛れもなく青年も目撃していた刺々しい黒い鱗が生え揃った〈ドラゴンの皮〉を見せられて瞠目する

 青年としては、適当に脚などを斬りつけて機動力を潰してから逃げてくるのかと思って逃走経路を予め確認しておいたのだが、まさか倒してくるとは完全に予想外だったようだ

 とはいえ、今回は確かに運が良かったことは否めず、普段ならレイブンも短時間で仕留められるような簡単な相手ではないことは間違いなかった

 

 

 

「全く、驚いたぜ。あんな化け物相手に勝っちまうとはな。〈勇者〉の名は伊達じゃないってことか」

「いや、運が良かっただけだよ」

 

 

 

 気を取り直した一行は、青年が先導するのに従って大きな洞穴のような道を進んで行く

 途中で何度か魔物に襲われることもあったが、2人は危なげなく撃破、または撃退して歩みは止めない。ブラックドラゴンに匹敵するほどの怪物はいないらしく、レイブンたちの道程は順調そのものと言えた。その結果、少し気が抜けたのか、自然と会話も弾んでいた

 青年が案内した先には、確かに地下水路へと続く抜け道が存在した。本能によるものか、感覚的に後もう少しで外に辿り着くと察した2人は小走りで通路に飛び出したところで、右側から松明の火で照らされて硬直した

 

 

 

「見つけたぞ! 悪魔の子だ!」

「おいおい! マジかよ! 逃げるぞ〈勇者〉さま!」

 

 

 

 互いに硬直したのは一瞬、動き出したのは同時だった

 レイブンたちを捕縛するため、ガシャガシャとデルカダール兵たちは鎧を鳴らしながら迫ってくる。後ろの洞穴はブラックドラゴンという脅威もなくなったが、出口に繋がっている保証がない以上は2人が逃げ延びる道は1つしかなかった

 逃げている内に前方に外の光が差し込んでいることに気づいて、レイブンたちは走る速度を上げる。そして、地下水路から飛び出して見えた光景に絶句した

 

 

 

「やられたな……」

 

 

 

 2人が佇む其処は断崖絶壁という言葉が相応しい場所だった。確かに外には出られたが、出口というには余りにもレイブンたちにとって都合が悪い

 呆然と地下水路の水が滝のようにして流れ落ちる様を見ていると、背後から複数の足音が迫って来ていた

 

 

 

「いたぞ! この先だ!」

「くそ! もう追っ手がっ!」

 

 

 

 予想外の光景に意識を奪われていた2人が気を取り直して振り返ると、大勢の兵士たちが大挙して押し寄せてくるのが目に入った

 前方には精強なデルカダール兵、背後には断崖絶壁と遂に進退窮まったかと思うのが普通だろう。だが、レイブンたちは事此処に至っても諦めていなかった

 

 

 

「いいか。よく聞くんだ。此処で捕まったらお前も俺も長くは生きられねえ」

 

 

 

 レイブンの肩を掴んで、青年は言い聞かせるように現状を伝える

 それは正しい認識だった。地下牢獄の最下層に収容されるような犯罪者が逃げ出したとなれば、王国側としては極刑以外の選択肢は持たないだろう。良からぬ考えを持つ者はこうなるのだと、見せしめのように処断するための口実を与えることにもなる

 捕まったら最期、2人に助かる道はなかった

 

 

 

 そうしている間にもデルカダール兵はレイブンたちの姿を見つけて、抜剣してにじり寄ってくる

 実力差で言えば倒せない道理はないが、こんな断崖絶壁で本気を出せばどうなるかなんてことは想像に難くない。仲良く崖の下に転落するのが関の山だ。生き延びる確率は皆無に等しい

 しかし、現状ではレイブンたちが選べる唯一の生存方法であり、そんな博打をしてでも生き延びたいと思う大馬鹿者であることに兵士たちは気づけなかった

 

 

 

「行くぞ、レイブン。俺は信じるぜ。〈勇者〉の奇跡って奴を………」

「おい、貴様ら! なにをするつもりだ!?」

 

 

 

 一縷の望みを託すような青年の言葉に力強くレイブンが頷くのと同時、2人は徐に兵士たちに背を向けて断崖絶壁に向き合った

 部隊長と思われる人物も此処まで来て漸く2人の意図を察すると、狼狽した様子で呼び止めてくるが、それで思い留まるならば初めから脱獄なんてしないだろう

 飛び降りる直前にレイブンたちは再び顔を見合わせると、此処まで頑なに顔を隠していた青年がフードを取って素顔を晒した

 

 

 

 ツンツンと尖った水色っぽい青髪。髪と同色の切れ長の瞳という、レイブンとそう変わらない年頃の男

 落ち着いた面立ちの怜悧な美貌の持ち主で、その見た目に反して瞳の奥には何処か悪戯小僧にも似た稚気が僅かに覗いていた

 そして、これから命さえも賭けた盛大な博打をするにも関わらず、青年は全く自分が死ぬとは思っていないようだった。その表情には確かにレイブンに対する信頼が宿っており、断崖絶壁に挑む覚悟を窺わせた

 

 

 

「俺の名前はカミュ。覚えておいてくれよな………」

 

 

 

 そう言うと、カミュと名乗った青年はニヤリと不敵に笑ってみせた。釣られてレイブンも微笑みながら頷いた

 それも一瞬のことで、すぐに表情を引き締めた2人は兵士たちの制止も聞かずに崖に向かって駆け出すと、怖気付いて止まるようなこともなくそのままの勢いでその身を崖下へと投げ出した

 こうして〈勇者〉の逃走劇が幕を開けたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







誤字報告ありがとうございます

>>修正
あんな化け物に買っちまうとはな→あんな化け物に勝っちまうとはな



これにて8話は終了です
そして、序章もこの話が最後となります
やっと此処まで来たかと思うと少し感慨深いです

9話からは次の章に入ろうと思っているのですが、場合によってはあと1つ閑話を入れるかもしれません
その場合はバレンタイン関連、レイブンが旅立ったイシの村のその後、地下牢から逃げ出したレイブンたちに対するデルカダール側の反応、などの短い小話を纏めた話を書いていこうと思います
幕間を入れるか、さっさと次章に移るかはまだ決めかねているので、もし希望がありましたら感想欄から伝えていただけると助かります

ちなみに、今回の話で本当はブラックドラゴンを倒すつもりはなかったのですが、書いている途中で気がつけば倒していました
不思議と構想から外れましたが、私自身は特に不満のない形には修正できたのでそのまま投稿しました
このような展開が苦手な方もいるかと思いますが、これからも似たようなことがあると思いますのでよろしくお願いします

あっ、今更ですが主人公の名前がイレブンではない理由は、その名前の付け方では主人公がドラクエ11だと気づいてしまうからです
気づいたところでまだ発売していない世界だったので問題ないと言われたらその通りなのですが、シリーズ作品だとわかっているのとそうでないのとでは気の持ちようが変わるかなと思ってレイブンという名前にしてみました
初めの頃に主人公の名前の所為で、どのシリーズかわかり辛いと混乱させてしまった方、申し訳ありませんでした

それでは今週もありがとうございました
来週も火曜か水曜に投稿するので、お待ちいただけると幸いです





ーー転生チート詳細ーー


・魔力放出(火/氷/雷/光)(D/E/A/B)
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。謂わば魔力によるジェット噴射。絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。レイブンの場合は強/弱で使い分けており、特定の技を用いない通常攻撃の威力が強だと2倍〜2.5倍、弱だと1.5倍〜2倍となる。更に転生後にスキルが変異して(炎・氷・雷・光)の4属性に変換することが可能になっている


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