星を仰ぐ少女【完結】   作:gohwave

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第2話「戦いの始まり」

 翌日、火曜日の午前にアラキのスマートフォンにフミオからメールがきた。

 スターゲイザーガンダムが組み上がったらしい。

 夕方の練習場所と大体の時間をフミオにメールする。

 

 練習場所はアラキの職場であるCブックの近くにあるミスターマックス大野城店にした。

 フミオの自宅からは離れていたがキッカ中学模型部と遭遇することを避けるためだ。

 

 中学校終了後にフミオが自転車、アラキは車でそれぞれ移動。

 ミスターマックスで落ち合ってガンプラバトルの特訓をする。

 アラキの勤務時間が近づいたら特訓は終了。

 フミオは帰宅し、アラキは仕事に向かうという流れだ。

 

 夕方、ミスターマックスの駐車場でアラキはフミオを待っていた。

 待ち合わせ時間10分前に勢い良く駐車場に自転車が走りこんでくる。

 キッカ中学校制服姿のフミオだった。

 駐輪場に自転車を停めてアラキの車に走ってくる。

 

「ガンプラできた?」

「はい! これが私のスターゲイザーガンダムです」

 

 息を切らせながらフミオがガンプラを見せる。

 昨日アラキが買い渡したものだ。

 

「どうですか?」

 

 接着剤も塗料も使っていない、いわゆる素組みだ。

 ゲートの処理が不十分なところはあるが、丁寧に組まれ初めて組んだとは思えない出来栄えだ。

 

「俺はこのガンダムはよく知らんけど」

 

 アラキはそう前置きする。

 

「組み間違ってるところはなさそうね。あと、こういう切り残しをニッパーとか紙やすりとかで綺麗にするといいね。やりにくかったら一度バラしてもいい」

「はい」

 

 カンノ少年のガンプラの出来には届かなくとも、その距離は詰めておくに越したことはない。

 カンノ少年とバトルするとは限らないのだけれど。

 

「それにしても……ガンプラ作ったの初めてよね?昨日の今日で、よく出来上がったね」

「へへへ。夜更かししちゃいました」

 

 フミオはいたずらっぽく笑った。

 

「あんまり無理せんようにね。さっき言ったのもバトルに間に合えばいいよ。とりあえず素組みでも丁寧に組んでおけば、いいとこ行けるらしいし」

「はい! 分かりましたコーチ。じゃあこのガンプラ、アドバイス通りに直しておきます」

 

 そう言って帰ろうとするフミオをアラキが止めた。

 

「それと今日は、登録も済ませておこうや」

「登録……ですか?」

「そ。ガンプラバトルはガンプラでやるもんだけど、ガンプラをこれに登録しとかんといかんのよ」

 

 アラキはスマートフォンにも似たモジュールを取り出した。

 

「これがガンプラバトルデッキのメーカー、ヤジマのGPベース。これにガンプラを登録するわけ」

 

 フミオは興味津々でGPベースを見つめる。

 

「で、これがフミオちゃんのGPベース」

 

 同じものをフミオに手渡す。

 先にミスターマックスのバトルデッキコーナーで買っておいたものだ。

 

「これ……いくらするんですか?お金払います」

「気にせんでいいって。高いものじゃないし」

「そんな……悪いですよ」

 

 何度かの押し問答の末にフミオが折れた。

 懐具合は厳しかったがムラヤに奢るくらいなら以下略。

 

 それからアラキはフミオと一緒にバトルデッキコーナーに行った。

 バトルデッキを使ってGPベースにフミオのスターゲイザーガンダムを登録させる。

 自宅でも出来るがバトルデッキを使ったほうが色々と手間が少ない。

 

「フミオちゃんの名前とかメアドとかは帰ってから入力しとき」

「はい。了解です」

 

 あとガンプラバトルの操作手順が書かれた小冊子があったので、それを渡して読んでおくように言う。

 

「そういえばフミオちゃんの母ちゃん、なんか言ってた?」

「アラキコーチにガンプラ買ってもらったこと言ったら凄く感謝してました」

「へー、あの母ちゃんがねぇ」

 

 話を聞かないサオリ・ヒロミの澄ました顔を思い出す。

 

「友だちにガンプラバトルとコーチのこと話したんですよ。そしたらみんな興味持っちゃって」

 

 フミオが嬉しそうに話す。

 

「ガンプラバトルしたいって子もふたりいて、コーチに会ってみたいって言ってました」

「会ったらガッカリするね」

「そんなことないですよー。みんな土曜日の模型部とのガンプラバトル、応援しにくるって」

 

 コーチとはいってもアラキは部外者である。

 中学校の中まで応援には行けない。

 男ばかりと思われる模型部とのバトルに、同性の友だちの応援があるのは心強いだろう。

 それから担任の顔が面白いとか、クラスに絵が上手い男子がいるとか、フミオが話をしているうちに、アラキの就業時間が近づいた。

 

「ほんじゃ明日からいよいよ戦闘訓練だから。準備よろしくね」

「はい。分かりましたコーチ!」

 

 打てば響くフミオの返答がアラキに心地良い。

 この後の書店員としての仕事にも精が出るというものだ。

 

 Cブックにはサオリ・ヒロミがいて何度か言葉を交わしたが、特に感謝の言葉は聞かれなかった。

 

(キッカ学園中等部模型部とのガンプラバトルまであと4日)

 

◇◆◇

 

 平日水曜日夕方にミスターマックス大野城店のガンプラバトルコーナーを利用する客は少ない。

 中年書店員と女子中学生の2人だけだ。

 

「いよいよ今日からガンプラバトルの実技だ」

 

 腰に手を当て芝居気たっぷりの厳しい表情で話すアラキ。

 直立不動の姿勢でそれに応じるフミオ。

 

「GPベースへの登録は済んだか」

「はい、完了しました!」

「冊子は読んできたか」

「はい、読んできました!」

 

 表情をゆるめ、相好を崩したアラキにフミオも笑顔になる。

 

「そんじゃま、俺のガンプラとバトルしながら動作を覚えていこか」

「はい、コーチ!」

 

 アラキが箱から自分のガンプラを取り出した。

 それはMSN-02ジオングのHG(ハイグレード)モデルだ。

 興味深そうにジオングを見つめるフミオ。

 

「アラキコーチのガンプラ、足が無いんですね」

「足なんて飾りだよ」

「飾りですか? スターゲイザーも足をもいだほうがいいですかね?」

「あ、いや、違う、その……もがなくていい。そういうネタ」

「?」

 

 ガンダム鉄板ネタが通じないことに憮然となりながら、アラキは取り外していたジオングの頭と腕を取り付け、気持ちを切り替えた。

 

「よっし始めようか。フミオちゃんはそっちね」

 

 アラキとフミオはバトルデッキを挟んで相対した。

 バトルデッキをアラキが起動させる。

 

(Please set your GP Base)

 

「そんじゃGPベースをセットして」

「はい。ベースをセットします」

 

(Beginning Plavsky-Particles dispersal)

(Field Two "DESERT")

 

 バトルデッキからブルーに輝くプラフスキー粒子が放出される。

 フミオの回りにコンソールが生じ砂漠が映し出された。

 本物と同様の、風と匂いと暑ささえも感じられそうな景色にフミオは圧倒される。

 

「はああぁっ!」

「実際に見ると臨場感が違うよね」

「はい! すごいです!」

 

(Please set your Gunpla)

 

「次はガンプラね。ベースの前にセットして」

「はい。ベースの前にガンプラを置きます」

 

 バトルデッキがガンプラを素早くスキャンした。

 命を吹き込まれたフミオのスターゲイザーガンダムが身じろぎする。

 

「フミオちゃん、コントローラーに手を置いて」

「はい。このボールで操作するんですよね」

「じゃ、行ってみよう!」

 

(Battle START)

 

「はい! ……サオリ・フミオ、スターゲイザーガンダム行きます!」

 

 細身の機体がカタパルトから射出され、粒子で作られた砂漠の空に舞い上がった。

 

「!!! ……わあああぁっ!!」

 

フミオは歓喜の声を上げた。

 

「私、飛んでる! 飛んでます!」

 

 プラフスキー粒子が見せる景色は現実のものと変わりない。

 フミオはスターゲイザーガンダムに乗って大空を駆けているのだ。

 

「アラキ・カズ、ジオング出る」

 

 アラキはジオングを静かにフィールドに進めた。

 砂漠の空を飛ぶジオングという設定的に奇妙な姿もまた粒子が作り出す夢の光景だ。

 

 ジオングはスターゲイザーの警戒範囲に入ると崖の上に降り立った。

 アラキはフミオの操るスターゲイザーを見守る。

 

 フミオはコントロールボールを右に左に動かして、自分が組み立てたガンプラの挙動を確かめている。

 

「あははっ! すごい! すごいです!」

 

 山や崖などの障害物を苦もなく避け、踊るように飛ぶ姿はさながらアクロバット飛行のようだ。

 

「ほう」

 

 アラキはフミオの流麗な初飛行に感心した。そして、

 

「飛ぶだけじゃないぞ。地面に降りたら走ることもできる」

 

 アラキのジオングは腕を組みコーチらしくアドバイスする。

 

「地面に近づいて速度を落として」

 

 フミオが高度を下げると、スターゲイザーは自動的に地面を走り出した。

 

「ホントだ!」

 

 スターゲイザーはしばらく大地を駆けてから、もう一度空に飛び上がる。

 

 十分な高度まで上昇したところで、腕組したジオングがスターゲイザーに近寄った。

 

「よし。次は武器を使ってみよう」

「はい!」

 

 フミオは簡易マニュアルに載っていた武器の使い方を思い出す。

 

「コントロールボールのスロットから使う武器を選択して……発射!」

 

 大空に向けられたスターゲイザーのビームガンが発射され、ビームの粒子が虚空に消えた。

 

「ああ! これ、この武器。大会であの人が使ってました!」

「そっか。改造してないノーマルのガンプラだったんやね」

「これで、あの人みたいにできるんですね」

「時間をかけてガンプラを作りこんで、しっかりバトルの練習すればね」

「はいっ! 頑張ります!」

「とにかく身近な目標から順々に達成していこうぜ」

「分かりました!」

 

 アラキのジオングが右側の奥にある山を指差した。

 

「そのビーム、あの山に当てられる?」

「やってみます」

「照準が出るから、それを見て」

「照準を見て……行っけーっ!!」

 

 フミオが放ったビームが山の頂上付近を吹き飛ばした。

 

「あ、当たった……」

「やった!当たった当たりましたよコーチ!」

「……一発で当てるのはスゴイね。一歩前進やな」

「へへへ」

 

 射撃のコツを教える目論見は雲散霧消してしまったが、すぐに次の段階をアラキは考える。

 なんといってもバトルまでの時間は限られているのだ。

 

「そんでもって――」

 

 アラキのジオングが山を指差す。

 

「バトルのときは一発で当てるのは難しいからね。当たる確率を上げるためには連射するといい」

 

 ジオングの指から素早く二射、メガ粒子砲が放たれた。

 スターゲイザーのビームガンが吹き飛ばした山の端、切り立った部分が吹き飛び、さらにその破片が四散する。

 

「すごいです、コーチ」

「相手は動くからね。移動方向を予測して撃てればもっといい」

「なるほど」

「そのビームガンは大丈夫そうだけど、連射が利かない銃のときは射撃は慎重に撃つこと」

「慎重に、ですか?」

「射撃は相手を攻撃するけど、同時に自分の位置を教えることにもなるからね」

「ということは、撃った後のことも考えないといけませんね」

 

 打てば響くようなフミオの言葉は心地良い。

 なんとなくだが学校の成績も良いのだろうとアラキは思った。

 

「そ。撃ったら直ぐに動く。だいたい攻撃はこっちが動くより速いからね。相手の射撃が届くころには、その場所にフミオちゃんは居ない感じで」

「はい。分かりました」

「ただし……」

「はい?」

「ガンプラバトルって条件は同じでしょ? 相手もこっちと同じに移動先を予測して撃つのよ」

「そう……。そうですよね。相手も人間ですからね」

「そんなんだから、相手に読まれない動き方ができるといいね」

「相手に読まれない動き……どんな動きですか?

「いろいろあるんだけど……そうねぇ……たとえば真っ直ぐ飛んでる途中に急に曲がったり、急に止まったり……」

「……」

 

 説明が得意でないアラキの出した例は少々ぼんやりしていた。

 

「要するに相手の意表をつく動きってことやね」

「はあ……」

 

 よく分からないのかフミオも生返事を返す。

 こればかりは相手次第で臨機応変に対応していくものであり、これといった正解はない。

 そのあたりは練習しながらやろうとアラキは流した。

 

 そうこうしているうちにフミオの初プレイ時間が終わる。

 アラキとフミオはもう一度ガンプラをセットした。

 客の多い店や時間帯だとマナー違反であるが、幸いプレイ待ちのガンプラファイターは居ない。

 

「次に接近戦を教えたいんだけど……」

「相手と近づいて戦う方法ですね」

「そのとおり。で、接近戦の基本武器はビームサーベルなんだけど……」

「ビビーッて光ってる剣ですね」

「そう、あの“ビビーッ”ってヤツ。あの光ってる部分で相手を切るんだけど……」

「はい。見たことあります。カッコいいですよね」

「フミオちゃんのガンダム、ビームサーベルがないのよね」

 

 慌ててフミオは武器スロットを確認する。

 

「あ、えーっと、その、はい。ありません」

「俺のジオングも遠くから撃つのがメインなんで接近戦は教えにくいのよ。手はメガ粒子砲だし、足は無いから蹴りも出せないし……」

「足って飾りじゃなかったんですか?」

「あれはそういうネタなの」

「はい! す、すいません!」

 

 素直に謝るフミオにアラキは時の涙(ジェネレーション・ギャップ)を見た。

 

「……ま、とにかく、接近戦はビームガンを使ったり殴ったり蹴ったりでやるしかないね」

「殴ったり蹴ったり、ですか?」

「モビルスーツは人型だからね。人ができる動きはだいたいできるし」

「うーん。えいっ! やっ!」

 

 フミオはスターゲイザーの左右の手足を振り回してみる。

 腰の入っていない女の子パンチと女の子キックだ。

 

「それと機体が浮いてるときは手や足での踏ん張りがきかんからね」

 

 アラキはステージを強制的に宇宙に変更した。

 トレーニングモードではプレイ時間内に何回でもステージの変更が出来るのだ。

 

「バーニアなんかの推進力を上手く使って」

 

 ジオングが前進しながら拳で隕石を砕いてみせる。

 アニメでは観たことのないジオングの打撃だ。

 

「そんで、そのガンダムオリジナルの攻撃方法はフミオちゃんが自分で見つけてちょうだい」

「はい!」

 

 宇宙空間でのモビルスーツの挙動を、フミオはいろいろ試してみる。

 

 作用反作用の感覚、手足を動かすことによる姿勢制御――いわゆるAMBAC、オートマチックの動きとマニュアル操作が必要な動きなど、完全に把握するにはまだまだ時間がかかりそうに見える。

 それでも若さゆえののびしろか本人の才覚か、プレイ時間が終わる頃には、それらしい動きができるようになった。

 

「だいたい動かせるようになったみたいね」

「まだまだですけど……」

「いやいや。2回でそこまで動けたら大したもんよ。知り合いは動くだけの練習に1週間かけてたらしいし」

「あの……アラキコーチは最初、どんな感じだったんですか?」

「俺はどうやったかな……最初から実戦をだったかね。もちろんグダグダですぐにやられたけど」

 

 アラキは曖昧にお茶を濁した。

 実のところ初プレイは動く練習一週間の知り合いムラヤに接待プレイをしてもらったのだが、それを口にはしなかった。

 

「そんじゃ軽く実戦形式でやって、今日は最後にしよう」

「はい!」

 

 アラキはバトルモードでデッキを起動する。

 ダメージレベルはガンプラ破損のないC設定である。

 

「サオリ・フミオ、スターゲイザーガンダム行きます!」

「アラキ・カズ、ジオング出る」

 

 選ばれたフィールド――宇宙空間にジオングとスターゲイザーガンダムが射出された。

 

 アラキは素早くフィールドを索敵しスターゲイザーを発見した。

 その名前の通り、星が散らばるフィールド全天を見渡しているフミオのガンプラ。

 ゆっくり、急に加速したかと思うと止まったりと、ガンプラが自在に動くことの喜びと、自在に動かせないことの戸惑いがない交ぜになった気持ちが、その動きに見てとれる。

 それはガンプラバトルを始めたばかりのアラキ自身を思い起こさせた。

 

 アラキはジオングの両腕を飛ばすと、直撃を避けるようにスターゲイザーに向けてメガ粒子砲を放つ。

 当てないように、それでいて相手に緊張感を与えるような射撃は難しい。

 向上心にあふれた初心者を即座に撃墜するような真似を、アラキはしたくなかった。

 

 フミオはメガ粒子砲に反応してビームガンを撃つ。

 有線サイコミュのジオングの腕は、すでにそこにはない。

 もう一方の腕で背後からスターゲイザーを撃つ。

 慌てて加速したフミオは漂流隕石にぶつかりそうになる。

 

 前後左右、反対方向から放たれるメガ粒子砲にスターゲイザーは翻弄されていた。

 

 それでもメガ粒子砲の進行方向にビームを撃ってみたり、隕石の影に隠れてみたりと、アラキの攻撃に少しずつ対応してきている。

 プレイ3回目で、まだまだ余裕もないであろう状況でフミオはよく考えていた。

 その考えられるという点だけで、アラキはフミオに感心する。

 

 アラキがガンプラバトルを始めたころは、初期バトルデッキの不自由さもあり、ガンプラの動きそのものがギクシャクしていた。

 その後、管理企業の変更、ソフトウェアの熟成、アラキ自身の慣れもあって、今では女子中学生にコーチをするまでになっている。

 そのような中で黎明期の苦労を知らない二十一世紀人が、一足飛びにアラキと同じレベルでガンプラを操作しようとしていた。

 

「これが若さというヤツか……」

 

 アラキは嫉妬にも似た感情を抱いいていた。

 

 ふと腕時計を見る。

 就業時間が迫っていた。

 

(今日はこれで終わりか……)

 

 ジオングの右手でメガ粒子砲を放った。

 手加減の無い射撃で、今度は当たるように、だ。

 

(さて、明日は何を教え――)

 

「んなにぃっ!!」

 

 アラキの口から思わず池田秀一風の驚愕の声が洩れた。

 

 スターゲイザーは、いやフミオはアラキのとどめを避けた。

 その移動はアラキの予測を超え、一瞬スターゲイザーを見失わせる。

 次にアラキがスターゲイザーを補足したのは、ジオングのスカートにビームの直撃を受けてからだ。

 フミオの武器が素組みのビームガンだったのはアラキにとって幸いだった。

 ビームライフル、あるいは作り込まれた武器だったら、この一撃でアラキのジオングは爆散していただろう。

 

 緑の光跡を描きながらスターゲイザーがジオングに接近している。

 フミオはアラキのジオングを完全に補足したようだ。

 落ち着いたアラキはその動きを認識するや、機能する推進力全てを使って、ジオングをスターゲイザーに向かわせる。

 2射目以降のビームガンは全て避けた。

 正確な射撃は避けやすい。

 

 移動しながらジオングの両腕を切り離す。

 機体同士が高速ですれ違う刹那、両腕と腰のメガ粒子砲をスターゲイザーに向けて放つ。

 

(三方同時!)

 

 知人のムラヤを倒すために温めておいた戦術だった。

 

 しかし――、

 

 スターゲイザーは動いていた。

 いくつかのビームを食らいながらも致命傷だけは避け切ったようだ。

 

(あれでも終わらないのか……)

 

 フミオの粘り強さに舌を巻く。

 とはいうもののダメージは大きく、おそらく次がとどめの一撃となるだろう。

 アラキは切り離してたジオングの両腕を本体に戻した。

 

 動きの鈍ったスターゲイザーがビームガンを構えようとする。

 そこには戦おうとする強い意思が感じられた。

 

 今度は油断しない。

 ジオングは指の角度を調整しつつ両手を構える。

 スターゲイザーの移動範囲にビームを置くためだ。

 逃げ道はない。

 

 なおも生き残ろうともがく機体をビームが貫き、スターゲイザーは四散した

 

(BATTLE ENDED)

 

「すごいですコーチ。やっぱり負けちゃいました」

「まあ一応コーチだからね」

 

 フミオは腕をプラプラさせる。

 

「疲れた?」

「疲れました。力を使いますね。腕が痛いです」

「どうしても腕に力が入るけんね」

 

 アラキはポケットに手を入れる。

 腕のこわばりがフミオに悟られないようにだ。

 フミオはスターゲイザーとバトルデッキを見比べながらつぶやくように言う。

 

「本気のアラキコーチとバトルしたかったです」

 

 アラキは苦笑する。

 

「最終日の卒業試験のとき、だね」

 

 フミオは憂いを帯びた笑顔を浮かべる。

 

「それにしても」

 

 フミオは振り向いてバトルデッキを見た。

 

「ガンプラバトルって体力使うんですね」

「腕力使うね。それに立ちっぱなしだし。本格的にやるなら身体も鍛えんといかんね」

 

 アラキはポケットの中で手のひらの汗をぬぐう。

 

「基本動作は大丈夫そうだし、明日からは応用をやっていこうぜ」

「はい、コーチ!」

 

(これからが大変だな)

 

 フミオの屈託のない笑顔を見ながら、アラキは知人で暇人ムラヤのメール“子供はすぐ強くなる”を思い出していた。

 

(キッカ学園中等部模型部とのガンプラバトルまであと3日)

 

◇◆◇

 

 木曜日の夕方もミスターマックス大野城店のガンプラデッキは空いていた。

 

 アラキとフミオトレーニングモードでのコーチを行っている。

 

 コンソールの見方を教え、索敵のコツを伝え、スターゲイザーガンダムの装備武装の射程や移動速度の確認をした。

 接近戦対策はまだ出来上がってなかったが、スターゲイザーの移動速度なら接近しない方が勝負できるだろうとアラキは思う。

 

「おつかれー」

 

 1回目のプレイ時間が終わったところで、アラキは背後から声をかけられた。

 黒縁のメガネをかけた中年男がそこにいる。

 知人で暇人のムラヤだった。

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