「フミオちゃん、今から俺ん
「えっ?」
アラキは渋るサオリ・フミオを説き伏せ、愛車エブリィに乗せた。
フミオの自転車は難なく後部に載せられた。
軽バンにして良かったと思える瞬間だ。
巧遅は拙速に如かずだった。
「あの……お仕事はいいんですか?」
「遅れるって電話した。フミオちゃんのかーちゃんが頑張ってくれるって」
フミオの表情が少し明るくなる。
夕方の帰宅時間ということもあって道は車で混雑している。
それでも裏道を通り抜け最短の距離で自宅アパートまでたどり着いた。
この時間帯としては最速タイムだっただろう。
二階の部屋に入ると電灯を点け、フミオにソファーを示す。
かしこまってソファーに座る彼女にアラキはコーラを出した。
前にムラヤが持ってきたものだが他にソフトドリンクがないので背に腹は変えられない。
「まず俺は、フミオちゃんに謝らんといかん」
テレビを点けながらアラキは切り出した。
「何を……ですか?」
「実はガンプラバトル世界大会の録画をまだ観てない」
「あ、はい。その……それはだめです。はい」
事情が飲み込めないままフミオはダメ出しをした。
「世界大会にはフミオちゃんがこうなりたいって人が出てたって聞いたけど」
「そう、そうなんです。あの人みたいになりたくって。でも・・・・・・」
「その人が使っていたからフミオちゃんはガンプラをスターゲイザーにしたんだよね」
「……はい」
「だから、その人の戦い方を一緒に見てみよう。強くなれるヒントがあると思う」
アラキの言葉にフミオはようやく合点がいった表情を浮かべた。
「はいっ!」
アラキは録画されている番組リストの中からガンプラバトル世界選手権を選ぶ。
二時間枠だがCMの時間などを考えると番組時間は正味1時間とちょっとだろう。
番組が始まった。
番組は日本人大会出場者をドキュメンタリー風にフィーチャーしたものだった。
少年がガンプラバトルを始めた動機や行きつけの模型店などを紹介している。
アラキはフミオの顔を見る。
「この子……じゃないよね?」
「はい」
「ちょっと早送りしまーす」
フミオは頷いた。
少年の家族や国内大会の様子が高速再生で流れる。
三十分を超えたあたりでようやく世界大会に入ったようだ。
「あ、今……」
「ん」
フミオの洩らしたつぶやきにアラキは早送りを止める。
少し早戻しすると金髪の少女が映っていた。
気の強そうな顔だ、とアラキは思う。
少女は番組の構成によれば、この大会における少年のライバルと称されている参加者だ。
ほんの数秒、少女のガンプラバトルの様子が映った。
「すごいね……こりゃ」
「わかります?」
嬉しそうなフミオの声。
ほんの数秒の映像だったが、その動きの凄さはアラキにも伝わる。
自分のガンプラバトルがライターの火なら、少女のそれは星の輝きだ。
少女のバトルシーンはすぐに終わり、番組は再度少年の行動にフォーカスした。
アラキは早送りボタンを押す。
やがてガンプラバトルの映像になったところで早送りを止めた。
日本人少年と欧州からの出場者のバトルだ。
世界大会ということもあって両者とも流れるような動きを見せる。
番組の編集の甲斐もあってか一進一退の攻防はそれぞれに見せ場がある良いバトルに見えた。
それでも先ほどの少女が見せたような輝きはない。
「ここ、飛ばすよ?」
このバトルは参考にならないとアラキは判断した。
フミオも異論はないようで、アラキを見てうなづく。
超高速早送りでバトルが終了し、少年の喜ぶ顔が映って消える。
気が強そうな少女の顔が映ったところでアラキは通常再生にした。
少女と少年のバトルは準々決勝であるようだ。
番組の残り時間が少ないことに気づいたアラキは悪い予感に眉をひそめる。
少女の優勝が分かっている以上、番組の中心である少年の勝利はない。
案の定、ガンプラバトルが始まると動揺している少年の表情とガンプラの大写しが多く、バトルそのものの映像が少ない。
番組演出上の苦肉の策か時折、別の試合のシーンまで映ってる。
ガンプラバトルが終了し、悔しそうな少年の顔が大写しになる。
女性の番組ナレーションが接戦だったと伝えているが、ほんの少し映った映像だけでも、少年が良いところなく敗れてしまったことが分かった。
その後、決勝戦の映像が流れるが、それを見つめる少年の表情と少年へのインタビューが主で、おまけのような扱いだ。
ライバルの優勝に決意を新たにする少年の心情がナレーションで語られ番組は終了する。
流れるスタッフロールを見ながらアラキは内心頭を抱えた。
番組中に流れたスターゲイザーの映像は正味1分か2分ほどだろうか。
そのわずかな映像で分かった少女が駆るスターゲイザーの動きはいたってシンプルである。
敵の攻撃を避けビームガンで敵を撃つだけ。
ただそれだけを超高速で精密に行う。
シンプルであるがゆえにその姿は美しく観る者を魅了する。
精度を究極にまで高めた機能美である。
この美は今日明日で真似できるものではなく、才能と研鑽によって形作られたものだ。
サオリ・フミオの才能については疑うべくもない。
しかし研鑽についてはまだまだ時間が必要で、明後日までに積み上がる量は高が知れている。
つまり
「ごめん。ちょっと観てて」
アラキはテレビのリモコンをフミオに渡すと居間を出る。
後ろ手にドアを閉め、スマートフォンから電話をかけた。
相手は暇人ムラヤではない。
年配の知人でありガンプラやネットに関する情報を手広く持っているイトウ・コウだ。
事情をざっくり伝えるとイトウは少し間を置いて、
「バーニアを増やしたら? 単純に移動速度は上がるよ」
「できたら今日明日くらいでできる対策がいいんですけど」
「アラキ君なら出来ると思うけど」
高い製作技術を持つイトウは事も無げに言うが、今はそんな場合ではない。
「ま、まあ、俺は出来なくはないんですが、その……作ってあげる、というのは違うかなぁ、と」
「なるほどねぇ……」
アラキの言い訳を聞いたイトウは間を置いて次の提案をする。
「上手い人の動画を参考にしたら? たぶん真似できそうなのあるよ」
「そうなんですよ。それで特番の録画を観たんですけど、プレイヤーばっかり映っててバトルシーンが全然映ってないんですよ」
「……世界大会のバトルよね? ヤジマの公式サイトに動画が上がってるよ」
そう言われてアラキは公式サイトにバトルの映像があることを思い出した。
アラキの思考は基本的にアナログだ。
PCやスマホ、ネットなどの情報が発想から抜け落ちることがある。
たとえばあのムラヤの言動はデジタル寄りなのだが、奴には反発心が先に立って素直に話を聞き辛い。
(イトウさんと違って
そんなアラキのアナログ思考のほころびを繕ってもらうのに年配のイトウは適役であった。
「その動画って保存できますか?」
アラキにとってネット上の動画は録画やDVDなどに比べて扱い辛い代物だ。
「ツールを使えば出来るよ」
「はぁ……」
アラキの気のない返事にイトウは即座に事情を察したようだった。
「それじゃこっちで落としてメールで送るよ。すぐに要るんよね?」
「そうです。助かります」
こんなイリーガルな行為を気軽に引き受けてくれるところも、アラキがイトウを慕う理由のひとつだった。
「なんか思いついたら一緒にメールするから」
イトウに感謝の言葉を告げ、アラキは電話を切った。
部屋に戻ると番組を見ていたフミオが振り返る。
「情報がきた」
「ムラヤ……さんからですか?」
不安そうなフミオの問いをアラキは否定する。
「うんにゃ。別の知り合い。ガンプラバトルの公式サイトに動画があるかもって」
「動画?」
「さっきのバトルの動画よ。その番組じゃ短くてよく分からんから。試合全部が観れたら参考になるところがもっと増えると思うよ」
「はい。確かに」
アラキはノートPCを引っ張り出すと電源を入れた。
しばらくの間があってエレガントな音とともにOSが起動する。
インターネットブラウザを立ち上げて“ガンプラバトル”で検索。
ヤジマの公式サイトはすぐに見つかった。
フミオからも画面が見えるようPCを動かす。
「動画はどこかいな、と……」
「ここじゃないですか?」
カーソルをふらふらさせるアラキと画面を指差すフミオ。
それらしいボタンがあったのでクリックする。
開いた新しいページには動画がカテゴリーごとに並んでいた。
「……ここっぽいね」
フミオがうなづいた。
少女の頬の線がはっきりと見える。
二人でひとつの画面を観るとどうしても顔が近づいてしまう。
娘ほどの年齢の少女と二人きりで部屋にいる事実をアラキは改めて認識した。
“犯罪にならん程度に仲良く”というムラヤの言葉が頭をよぎる。
(俺はヤツのような変態じゃない。ロリコンでもない。ロッコンショージョー、ロッコンショージョー、ハジャケンセー……)
煩悩が渦巻く中、アラキはようやく世界大会の動画を見つけ、その決勝戦を再生した。
◇◆◇
「……ため息しか出ないな」
アラキのつぶやきにフミオは無言でうなづく。
その眼は生気を取り戻し、三連敗のダウンな気持ちから持ち直したように見えた。
チャンピオンの動きには本当に無駄なものがなかった。
アラキは動画を止める。
「どうしました?」
「いや、ちょっと気になるとこがあって」
すれ違いざまに敵機にダメージを与えているシーン。
唯一と思われる武装、ビームガンを撃っていない。
背中のリングを当てているようだ。
「これ。この輪っか。攻撃に使えるんだな」
「本当ですね。動きばかり見てて気がつきませんでした。あ。今、ビームが当たりました」
フミオの言葉に動画を止め、数秒前から再生しなおす。
「うん。ビームが当たってるけどダメージになってない。この輪っか……ビームを吸収できるみたいね」
フミオのスターゲイザーが初戦でアラキのジオングを追い詰めたのも、ムラヤの初見殺しから粘って見せたのも、このリングがビームダメージを抑えていたのだろう。
食い入るように動画を見ているフミオを見ながらアラキは考える。
あのリングがビームを吸収し無効化できることは分かった。
相手に当てた際にダメージが出ているということは、実弾系の攻撃にもある程度は対処できる。
状況に応じたリングの機能の切り替えがスターゲイザーというガンプラの要なのだろう。
チャンピオンの動きを身につけるのは容易ではないが、このリングの使い方は覚えなくてはならない。
ふとPCからメールの受信を知らせるジングルが聞こえた。
フミオに断ってから動画を止めメールを開く。
予想通りイトウからのメールだ。
メールには動画ファイルが保存してあるアドレスと、ガンプラバトルの参考になりそうなサイトの紹介が記載してある。
イトウのイリーガルな行為に感謝しつつ、ファイルをダウンロードした。
サイトのほうは即効性に欠けると判断してスルーする。
「じゃ、これ」
普通のプレイヤーでも再生できるように動画を保存したディスクをフミオに渡す。
「この動画を見ながら出来そうなことを考えよ。俺も考えるから」
「はい、ありがとうございます」
希望が見えて宿題ができた。
これでフミオは落ち込む暇がなくなるだろう。
そしてアラキもガンプラバトルのコーチから書店員に戻らなくてはいけない。
「明日は俺、休みだから迎えに行く。学校が終わったら電話して」
「はい! コーチ!」
フミオがいつもの笑顔に戻った。
(キッカ学園中等部模型部とのガンプラバトルまであと2日)
◇◆◇
金曜日、休みのアラキはガンプラを作りながら、世界大会の動画を観ていた。
昨日はフミオを自宅近くまで送ったあと、結局3時間遅れで書店に到着。
遅れて仕事を開始したアラキは、フミオの母親サオリ・ヒロミに嫌味を言われた。
それはさておき――、
チャンピオンの動きは優雅で美しく、何度見ても驚くほかなかった。
動きながら守り動きながら撃つ。
カンフー映画や合気道で目にする演舞のように流れる美がそこにあった。
調べて分かったことだがスターゲイザーは加速に時間がかかるガンプラだった。
その代わり制動しなければ果てしなく速度が上がる。
そんな特性を生かすため、チャンピオンは全てのアクションを加速しながら行っていた。
射撃精度を上げ、操縦技術を磨きぬく。
戦場全域を把握し瞬時にリング――
これらはおそらくコックピットで操縦するイメージで行うものではない。
自分のガンプラを戦場を俯瞰から眺め、外部から操作する意識で行うものだ。
ビデオゲーム風の客観視であるが、ニュータイプ的な意識開放や空間把握と言えなくもない。
ふとムラヤがカスタムジムで近いことを行っていたのをアラキは思い出す。
機体の前面を完全にシールドで覆い相手に突っ込むことは、コックピット視点ではできない行動である。
それは肉体感覚を是とするアラキには認め辛い意識だった。
(とはいえ俺の趣味を押し付けても仕方がないしな……)
それはそれ、これはこれ、が出来る程度の人生経験は積んでいる。
目的はサオリ・フミオの勝利であって、アラキの哲学貫徹ではない。
ムラヤといえば、あの男のνガンダムはバズーカとファンネルを同時に使って、フミオを攻撃していた。
あの暇人がスターゲイザーのビーム吸収を見越していたとは思えない。
それでもプレイヤーの判断を迷わせる攻撃の可能性は考慮すべきだろう。
そうやって課題を洗い出しているうちに作っていたものの塗装が乾いた。
適度にウェザリングを施して完成とする。
出来たものをチャック袋に入れてとりあえず完了。
今日、持って行くハードは出来たが、ソフト――戦術の方は出来ていない。
課題への対策に頭を悩ませているうちに、フミオから電話があり時間切れになった。
◇◆◇
金曜日夕方のミスターマックス大野城店は今日も貸しきり状態だ。
そしてアラキ・カズとサオリ・フミオがバトルデッキを挟んで相対している。
「アラキコーチ、お願いします」
「よっしゃ」
バトルステージは“都市”。
フミオのガンプラはもちろんスターゲイザーガンダム。
アラキのガンプラはジムスナイパーⅡ。
借りたというか押し付けられたガンプラだ。
貸し主のムラヤは実体弾のロング・ライフルとビーム・ライフルの2丁を装備させていた。
ロング・ライフルはジムスナイパーⅡの標準装備、ビーム・ライフルはガンキャノンのそれだ。
昨日のバトルでムラヤのジムスナイパーⅡが放ったのはビームの方だ。
そのことに疑問を感じながらアラキはジムスナイパーⅡ標準のロング・ライフルでスターゲイザーを狙う。
スターゲイザーは動かない。
アラキは実体弾を発射した。
発射音に反応してスターゲイザーがほんの少し後方に下がる。
スターゲイザーの前方に青い光が生まれジムスナイパーⅡの実体弾が命中し爆発する。
「大丈夫?」
アラキの問いかけにフミオは笑顔を見せる。
煙が晴れ、スターゲイザーは無傷のまま立っていた。
「ちょっと驚きました。でも大丈夫です」
動画を見てフミオが発見したというスターゲイザーのリング――VLの機能チェックだ。
VLから生じた光が攻防どちらにも使えることはアラキも気づいていた。
アラキの渡したディスクの動画を見て、フミオはスターゲイザーの青い光が後方に流れていることに気づく。
そしてその光を盾として使うことを思いついた。
「そんな使い方もできるんやね」
「はい。大成功です」
アラキが見るにスターゲイザー本体に青い光はダメージを与えないようだ。
設定上そういう仕様になっているか、プラフスキー粒子が空気を読んだか。
どちらにせよ本体にダメージが出ないなら、気兼ねなく戦術に組み込むことが出来る。
あとは実戦で使いこなせるかどうかだ。
「そんじゃ始めよっか」
「はい、行きます!」
宣言と同時にスターゲイザーが真っ直ぐジムスナイパーⅡに向かう。
アラキは素早くライフルを放った。
今度はガンキャノンのビーム・ライフルだ。
スターゲイザーはVLでなんなくビームを吸収した。
実体弾とビームの区別はできるようだ。
距離を詰められたアラキは純正ロングライフルに持ち替え、スターゲイザーを撃つ。
実体弾ならVLで対応するためにスピードが鈍るに違いないという判断だ。
ところがスターゲイザーはスピードを緩めることなく、実体弾をビームガンで撃破した。
もはやライフルを使える距離ではなくなってしまった。
アラキは格闘戦に移行するため腰部のビームサーベルを取り出し構える。
スターゲイザーのビームガンの二射。
ジムスナイパーⅡは左右のステップで避ける。
スナイパーの距離を潰すつもりか、さらに近づこうとするスターゲイザー。
ジムスナイパーⅡは素早く前に踏み込みビームサーベルを横に払おうとして――
「あ」
ビームサーベルがスターゲイザーの緑に輝くVLに受け止められている。
VLに吸収されているビームを見て一瞬アラキの動きが止まった。
ジムスナイパーⅡは距離を取ろうとしたがスターゲイザーに蹴り倒された。
体勢を立て直そうと試みたアラキの目にビームガンの銃口が映る。
コックピットを撃ち抜かれてジムスナイパーⅡは沈黙した。
(BATTLE ENDED)
◇◆◇
不慣れなガンプラに位置を特定されたスナイパー。
各種の悪条件が重なったとはいえスターゲイザーの圧勝であった。
「……
搾り出すようにアラキが言う。
「はい。このリングがあればなんとかできそうです」
対するフミオの言葉は明るい。
「とはいえ、本当のバトルだと相手の場所は分からんからね。まず相手を見つける方法を考えんといかんね」
「わかりました」
「次は本番よりでやってみようか。本体とは別のところから攻撃してくるヤツで」
「ファンネル……ですよね?」
「お、よく知ってるね。ファンネルとかビットとかそういうのね」
「へへへ。勉強しました」
「遠隔操作なら俺のジオングでもいいけど、まあ、せっかくムラヤから借りたんだし、これ使ってみるか」
アラキは“ラプラスの箱”からνガンダムを取り出した。
両者がGPベースをセットして、アラキがソロモンをバトルステージに選ぶ。
バトルが始まり、アラキは素早くソロモンの内部に進入した。
(……ファンネル6枚は面倒臭いな)
アラキはほとんどのガンプラバトルでジオングしか使わない。
(ムラヤの奴は4枚と2枚に分けて使っていたか……)
おそらくムラヤも操作が面倒だったのだろう。
いくらゲーム慣れしてるといってもムラヤはムラヤだ。
そうそう自分にできないことが奴にできるわけがない。
そう納得しながらアラキはファンネルを前4枚後ろ2枚のフォーメーションに固定する。
自機の近くに2枚あればとりあえずバリアとしての機能は果たせる筈だ。
モビルスーツの格納庫らしき空間に入ると巨大な物体に目に飛び込んできた。
ソロモンの怪物――待機中の“恐怖、機動ビグ・ザム”である。
あくまでもステージ上のオブジェであり動くものではない。
それが分かっていても禍々しい巨大な佇まいは畏怖の念を抱かずにいられない。
機動戦士ガンダムの物語を知るアラキにとってはなおのことだ。
しばしバトルを忘れたアラキの耳に敵機接近のアラートが聞こえた。
敵機――フミオのスターゲイザーが近づいてきたのだ。
この場所への入口を見つけたようで、その動きには迷いがない。
アラキはニューハイパーバズーカを持ったνガンダムをビグ・ザムの前に仁王立ちさせる。
フィンファンネルを展開し6枚全てで侵入者を迎え撃てるよう準備した。
通路の奥の出口――相手にとっては進入口に、緑の輝きが瞬く。
フミオのスターゲイザーは一直線にνガンダムに向かってきた。
「どうよ!」
アラキは6枚のファンネルから波状攻撃をかけた。
初めのファンネルビーム数射をVLで受けるスターゲイザーを見て、アラキはすぐさまバズーカを放つ。
実体弾を混ぜたらフミオの判断に迷いが出ると考えたからだ。
しかしバズーカ弾はビームガンに迎撃され、ビームは全てVLに吸収される。
6枚のファンネルから2射ずつの計十二発、加えてバズーカ弾3発を受けてなおスターゲイザーはほぼ無傷だ。
ビームとバズーカを同時に撃てば違った状況になったかもしれない。
慣れないガンプラの操作で、それぞれの行動がワンテンポ遅れてしまった。
スターゲイザーがνガンダムの位置を確認する。
アラキは急いでファンネルの位置を初期フォーメーションに戻した。
フィンファンネルの移動は速く、スターゲイザーの移動よりも先に迎撃ポジションに着いてくれる。
スターゲイザーが放つビームガンの攻撃を2枚のファンネルがバリアで受けた。
アラキはファンネルバリアを使うのは初めてだ。
それでも心なしかバリアが普通より弱くビームガンに押されている印象を受ける。
スターゲイザーの背後に4枚のファンネルがあったが、自損の可能性があるためうかつにビームを撃てない。
全てのファンネルを戻しておけば良かったとアラキは後悔した。
下がるか前に出るか一瞬迷いアラキは前に出た。
突き出すようにしてバズーカを発射するがビームガンに簡単に迎撃される。
次の弾は間に合わないと判断して、アラキはそのままバズーカでスターゲイザーに殴りかかった。
(これも実体攻撃!)
スターゲイザー本体に当たる前に青く輝くVLのリングに止められた。
素早くνガンダムはビームサーベルを抜く。
バズーカ自体が爆発する中、ビームサーベルを袈裟切りに振るう。
VLをビーム用に切り替える時間は与えなかったはずだ。が――
爆発の中、スターゲイザーはその身体を沈ませビームサーベルの袈裟切りをぎりぎりで避けていた。
モビルスーツとしては比較的上背のあるνガンダムのサイズが仇になる。
コックピットに向けられたビームガンを避ける術はアラキにはなかった。
(BATTLE ENDED)
◇◆◇
「すごい……ね」
「はい! ありがとうございます」
聞けば例のチャンピオンの戦い方を真似たという。
「前に進めば相手の攻撃が分かるし、相手にも攻撃が当たるって分かったんです」
「最初、特攻してくるのかと思ったよ」
VLがあるとはいえ、ファンネルとバズーカを持ったνガンダムにフミオが真っ直ぐ向かってきたのには驚いた。
攻撃を迎撃できる、あるいは避ける自信があるのだろう。
「へへへ。昨日のムラヤ……さんも似た動きをしてたから」
「あいつのはただの捨て身の戦法だからフミオちゃんとは違うと思うよ。それに、これならもうムラヤに負けることはなさそうやね」
「来るんですか、あの人?」
「約束はしてないけど……あ」
「……どうしたんですか?」
ムラヤの注意を忘れてB設定でバトルしてたことを思い出す。
ジムスナイパーⅡとνガンダムに細かい傷がついていた。
(まあいいか、ムラヤだし)
「……いや、なんでもない。呼ぼう。アイツに勝ってレッスン終了だ」
「はい!」
スマートフォンを取り出すとムラヤの電話番号をタップする。
2コール目でムラヤが出た。
やはりムラヤは暇人だ。
「はい。ムラヤです」
「おつかれー。いきなりだけど今からミスターマックスに来い」
「……なんで?」
「フミオちゃんの練習の成果を確認したくて」
「へー。フミオちゃんってのか、あの子」
(しまった。余計な情報を漏らしたか)
アラキが後悔する中、電話の向こうから気が乗らないムラヤの様子が伝わってくる。
「練習の成果ねぇ……」
「晩飯、奢るぜ」
ムラヤは少しの間考える。
「行かん」
「なんで?」
「負けるもん、オレが」
「そんな、分からんやろ?」
「あの3回が初見殺しなのはアラキさんだって分かっとろ? 練習したピチピチ女子中学生に三十男は勝てんね」
「戦う前から負ける気かよ? それに俺たちはもう
アラキが煽るがムラヤは乗ってこない。
「若さの動体視力は必殺武器よ。他に初見殺しがありゃ考えるけど……今は奇策ができそうなガンプラがないね。てなワケで、椿四十郎は引きこもりまーす」
「……りょーかい、分かった」
(女子中学生相手だから来りゃいいのに……ここまで腰抜けだったか)
ムラヤの評価が3ポイント下がる。
そのまま電話を切ろうとすると、
「そうそう。そういえばスターゲイザーの背中の輪っか」
来ないくせにムラヤは食い下がる。
「あれ攻撃にも防御にも使えるはずよ」
「みたいやね。……なんで先に教えなかった?」
「教えたら俺が負けるじゃん」
ムラヤは悪びれずに言う。
評価がさらに5ポイント下落。
「
ムラヤは電話を切った。
アラキはひとつため息をつく。
「ムラヤ、来ないって。負けるのがイヤで尻尾巻いて逃げやがった」
「そう……ですか」
「ヤツが来ないんじゃしょうがない。卒業試験のガンプラバトルと行くか?」
アラキはジオングを構えて見せる。
「はい! コーチ!」
サオリ・フミオはスターゲイザーガンダムを構えて笑った。