アラキはバトルデッキを起動した。
ダメージ設定はもちろんCである。
(Please set your GP Base)
アラキとフミオがそれぞれGPベースをセットする。
(Beginning Plavsky-Particles dispersal)
バトルデッキがプラフスキー粒子の輝きに満たされステージを形作った。
(STAGE 10 A BAOA QU)
(Please set your Gunpla)
アラキはジオングをフミオはスターゲイザーガンダムをベースの前にセットした。
(Battle START)
「サオリ・フミオ、スターゲイザーガンダム行きます!」
「アラキ・カズ、ジオング出る」
勢いよく飛び出すスターゲイザーと静かにフィールドに姿を現すジオング。
アラキはある種の感慨を感じていた。
(ア・バオア・クーでジオングを操る……。プラフスキー粒子が生み出した浪漫やね)
いきなりビームがジオングをかすめた。
「おおっ!」
バトル開始直後である。
お互いレーダーの範囲外のはずだが、フミオはアラキの位置を読んで撃ってきたようだ。
射程外で減衰したビームは大したダメージではない。
それでも居場所を悟られたと相手に感じさせればプレッシャーとなり、プレッシャーは大きなアドバンテージになる。
二射目のビームがジオングの右側にあった隕石に当たる。
初弾より離れていたものの、アラキのジオングにかなり近い位置を狙ってきた。
「なるほど。いい腕してる」
「いいコーチに鍛えられましたから!」
「そういうお世辞は教えてないけどね。今度はこっち!」
スターゲイザーが射程に入った位置で、アラキはジオングの移動を止める。
両腕のメガ粒子砲を発射。
ジオングのメガ粒子砲はスターゲイザーのビームガンより射程が長い。
「こっちは射程外。でもビームは効きませんよ」
フミオの宣言どおり、スターゲイザー攻防の要、
基本武装がメガ粒子砲だけのジオングである。
遠距離ではビームを吸収無効化できるスターゲイザーへの攻撃手段はないように見える。
「武器はビームだけじゃないぞ、と」
そうつぶやくとアラキはスターゲイザー近くある隕石を撃った。
隕石が破裂し無数の破片がスターゲイザーを襲う。
隕石の破片はVLで吸収できない。
避けるかVLのエネルギーを使って破壊するしかない。
そして隕石やデブリの多いア・バオア・クー
慣れたガンプラの操作は考えなくとも身体が動く。
生まれた思考の余裕は戦略の幅を広げてくれる。
破片の弾幕にフミオは翻弄されている。
少しずつではあるが、それでも確実にスターゲイザーはダメージを負っているように見えた。
「どうした? そんなもんかサオリ・フミオ!」
「負けません!」
スターゲイザーは加速し、隕石の前に移動した。
隕石を狙ったメガ粒子砲を先回りしてVLで受ける。
「そうきたか……」
アラキは狙い撃つデブリの位置を調整する。
しかしスターゲイザーから離れ過ぎると破片が当たらず、近すぎると先回りされてVLで吸収される。
数回の射撃でデブリを使った間接攻撃がほとんど封じられたことをアラキは思い知った。
そして――、
「チャージ完了。いきます!」
VLで吸収したエネルギーでスターゲイザーが加速する。
アラキは一瞬距離を取ろう思ったが、そのスピード差は明らかだ。
「だったら」
ジオングの両腕を伸ばしてスターゲイザーに向け加速する。
フミオの言葉ではないが、前に進めば敵の狙いが分かる。
狙いが分かれば攻撃も当てられるものだ。
スターゲイザーのビームガン。
二射セットで迫るビームをジオングは二度避けた。
腕を飛ばしてポイントに配置。
そして、すれ違いざまの三方同時攻撃。
初戦でスターゲイザーに大ダメージを与えた攻撃だ。
「どうよ!」
スターゲイザーはジオングのメガ粒子砲を全て避けた。
それがあたかも自然なことであるかのように。
(凄いな、この中学生は)
少女の才能にアラキが驚いているうちに、スターゲイザーは超スピードでUターン。
ジオングはスターゲイザーに後ろを取られた。
驚く暇さえアラキはもらえない。
機体には性能差がある。
ジオングは一年戦争の機体であり、初期に発売されたガンプラだ。
劇中設定はどうあれガンプラバトルにおいては、より新しいシリーズ、より新しいガンプラほど小回りが利かない。
その上、スターゲイザーの機体特性は、時間をかけるだけ速度が増す。
両腕を飛ばし背後に向かってメガ粒子砲を放つも、VLを持つスターゲイザーはなんなく無効化吸収してしまう。
フミオのスターゲイザーから生じるプレッシャー。
アラキはプロレススーパースター列伝のアンドレ・ザ・ジャイアント編のコーチ、バーン・ガニアの台詞を思い出した。
『私はフランケンシュタインを作ってしまった科学者の心境だよ』
(フランケンシュタインは怪物じゃなくて科学者の名前だけどね……)
アラキが脳内で昔の漫画に突っ込みを入れたとき、スターゲイザーのビームガンの照準がジオングをロックした。
フミオの目に迷いはない。
「終わりです!」
「まだ終わらんよ!」
フミオの視界からジオングが消えた。
ビームが虚空を通り過ぎる。
「えっ!?」
素早く周囲に視線を走らせ、フミオはジオングを探す。
アラート音が敵の位置を知らせる。
アラキのジオングは後ろにいた。
「っ!? なんで?」
ジオングの両腕を引き戻すアラキ。
アラキは飛ばしていたジオングの腕で隕石を掴み急カーブしたのだ。
アニメ「装甲騎兵ボトムズ」で使われたターンピックのように。
不惑を超えたアニメ知識で窮地を脱し、アラキはスターゲイザーの背後を押さえることに成功した。
「攻守交替。今度はこっちの番よ」
アラキは背後からスターゲイザーを狙い撃つ。
発射数が多いジオングのメガ粒子砲をVLでしのぐスターゲイザー。
しかし攻撃の全てを無効化吸収できてはいない。
致命的なダメージだけを辛うじて防いでいる状況だ。
攻勢に転じてもなお、アラキは焦りを感じている。
わずかずつダメージを与えてはいるが致命傷はなく、撃墜するより先に足の速いスターゲイザーに逃げられるだろう。
そしてアラキは次の手を打つ。
ジオングの右腕を前方に飛ばした。
本体は無理でも腕だけならまだスターゲイザーに追いつける。
ジオングの腕がスターゲイザーの左腕を掴んだ。
「っ!」
そのまま引き寄せる。
フミオはこの展開を予想していたようでスターゲイザーは逆らう動きをしなかった。
二体の距離が一気に詰まる。
ジオングが懐にスターゲイザーを引き込んだ。
スターゲイザーがジオングの懐に入り込んだ。
『この距離なら!』
アラキとフミオの声が
アニメ「機動戦士ガンダム」で懐に入られたジオングはガンダムを攻撃出来なかった。
そして誰もが考えた方法をアラキは選んだ。
腹部のメガ粒子砲を放つ。
しかし――、
「いただきます!」
超至近距離のメガ粒子砲をフミオはVLで完全に吸収した。
「ヴォワチュール・リュミエール!?」
スターゲイザーのビームガンがジオングの胸元に突きつけられる。
この距離では避けようがない。
「密接射撃ですっ!」
「そっちだけじゃないっ!!」
アラキはスターゲイザーの腕を掴んでいたジオングの腕からメガ粒子砲を発射した。
フミオはジオングの胸元に突きつけたビームガンの引き金を引いた。
スターゲイザーの腕とVLの基部が破壊された。
ジオングの胴体が破壊された
「やったっ!」
「甘いぞサオリ・フミオっ!!」
ジオングの頭部が胴体から離れる。
「え!?」
頭だけになったジオングの口からメガ粒子砲が放たれる。
スターゲイザーの頭部が吹き飛んだ。
「ちぃっ! 外したっ!!」
アラキが吼えた。
離脱を優先したため照準が甘くなりコックピットに当てられなかった。
下がりながら二射三射とメガ粒子砲を放つが、フミオのスターゲイザーには当らない。
スターゲイザーもまたビームガンを撃つが、逃げに徹したジオングには当たらなかった。
隕石の陰に隠れるジオングの頭をスターゲイザーが追う。
VLは失ったものの通常移動はまだ可能だ。
残るわずかなエネルギーで最後の射撃をしなければならない。
頭部と左腕を失ったスターゲイザーガンダムと頭部だけになったジオング。
世代を超えた「機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい
(こんなことがあるんだな……)
ア・バオア・クー内部で有利なポジションを探しながら、アラキは恍惚感に浸っていた。
子供の頃から愛し親しんできたアニメ作品「機動戦士ガンダム」。
そのクライマックスシーンを自ら演じている。
ガンプラバトルが実用化され手が届くものになって何度もバトルした。
どうしてガンプラバトルをするのか?
自分で作ったガンプラが傷つき壊れるリスクを負ってまで。
勝利への欲求はもちろんある。
でも、それだけじゃない。
(これだ。これを感じたかったんだ俺は。ガンプラバトルで!)
フミオのスターゲイザーもまたア・バオア・クー内部を進んでいる。
レーダーが敵の方向と距離を教えてくれる。
「頭にコックピットがあるんですね、そのガンプラ」
「そう。奥の手だったけどね」
「コーチに勝てたと思っちゃいました」
「いろんなガンプラがあるよ。どんなガンプラがあるか知らんといかんね」
「もっともっと勉強します、コーチ!」
「よし、その意気だ!」
そして――。
◇◆◇
ガンプラバトルの後、アラキはフミオを連れて中華レストランで夕食をとることにした。
ムラヤが来なかったので少し高級な店を選ぶ。
(ざまあ見ろだ)
アラキは心の中でムラヤに毒づく。
行きつけの中華レストランの料理はどれも美味しく、フミオとの会話は楽しかった。
貸したガンダムのディスクや中学校の話で盛り上がった。
やるだけのことをやって安心したのかフミオはガンプラバトルを始めようとした詳しい動機を口にした。
「お父さんはお父さんなんですけど、本当のお父さんじゃないんです」
「弟はお母さんとお父さんの子供だけど……」
「私は弟より年上だから」
「お姉ちゃんだから」
「がんばろうって」
「叩かれたりとかはないですよ」
「ただちょっと冷たい感じがして」
「お母さんは前よりきつくなったかなー」
「趣味とか部活とかやればいいのかなぁと思って」
「たまたま観たのがあのガンプラバトルの世界大会だったんです」
「自分と変わらないくらいの子が凄い活躍をしてて、それで――」
フミオの独白を余計な言葉でさえぎらず、アラキは頷きながら聞いていた。
「もし模型部に入部できなくても、ガンプラバトルは続けます」
「ガンプラの勉強し続けます」
「そのときはアラキさん、コーチやってくれますか?」
アラキは大きく頷いた。
食事が終わって店を出てから、アラキはフミオに小さな袋を手渡した
「これ……ガンプラ? ビームライフルですか?」
「卒業の記念やね」
アラキが作った出来立てのRX-78用ビームライフルだ。
「フミオちゃんのスターゲイザー。標準のビームガンだと射程と威力が足りんときがあったからね。使いにくかったら元のビームガンと使い分けて」
「分かりました、大切に使いますコーチ!」
信頼と自信に溢れたフミオの晴れやかな表情にアラキは満足する。
(コーチって呼ばれるのも今日までかな……)
明日のフミオの勝利を確信し、アラキは
(キッカ学園中等部模型部とのガンプラバトルは明日)
◇◆◇
フミオからの電話は夜にかかってきた。
書店員としての仕事が終わって、ちょうど帰宅したところだった。
「どうだった?」
部屋の電灯を点けながらアラキはストレートに聞く。
「カンノに負けました」
フミオもまたストレートに答えた。
アラキは驚き、テレビの電源を入れようとした手が止まる。
「……そっかー。あの子、そんなに強かった?」
「はい。操縦もですけど、ガンプラの作り込みが凄くって」
「ガンプラの差かぁ……」
ガンプラバトルにおけるフミオの操縦技術は自分と同じレベルに達しているとアラキは思う。
しかしガンプラの製作技術の向上については一週間で出来ることはなかった。
これはカンノ少年の腕前を見誤ったコーチの責任であろう。
反省の念が渦巻くアラキにフミオは楽しそうに言った。
「今度、部活で教えてもらいます、作り方」
「……部活ぅ?」
「はい! 入部できました。模型部に」
フミオはころころと笑う。
「最初に入部できたって教えてくれたらいいのに。フミオちゃん意地悪だな~」
「だって、すぐに教えたら面白くないじゃないですか~」
フミオは悪戯っぽい口調でいきさつを説明し始めた。
「二勝一敗だったんです。ガンプラバトル」
「やっぱり、最初は女だからって甘く見られてたんだと思います」
「イシイに勝ったところで雰囲気が変わって」
「トガシにも勝ったら友達も超盛り上がっちゃって」
「そしたらカンノが出てきたんです」
「カンノが模型部で一番強いって言ってました、ガンプラバトル」
「でもでも結構いいとこまで行ったんですよ。コーチにもらったビームライフルも当たったし」
「接近戦でやられちゃいました」
充実感に溢れていたらしいガンプラバトルにサオリ・フミオの口調はどこまでも明るかった。
「カンノ……くんだっけ。さすがに強かった?」
「次は勝ちます」
力強いフミオの言葉。
少女はもう前を見ていた。
これなら部活でも腐らずにやっていけるだろう。
「どうしたんですか、コーチ?」
言葉の途切れたアラキにフミオが訊ねる。
「いや。なんでもない。良かったよ。俺もほっとした」
「全部コーチのおかげです」
「いや。フミオちゃんが頑張ったからよ」
「へへへ」
その後のこともフミオがアラキに教えてくれた。
「みんなに聞かれたんです、強くなった理由」
「アラキコーチのこと話したら模型部の人たち興味を持って」
「良かったら今度会ってもらえませんか?」
アラキは呟く。
「男には興味ないなぁ」
「え?」
思わず本音がこぼれ出てしまった。
「あ、いや、その、まあ休みが合えば、そういうのもいいね、うん」
アラキは慌てて取り繕った。
「大丈夫。その時はクラスの友達も呼びますよー」
「あ、ありがと。……いやぁ悪いねぇ」
フミオには聞こえていたようだった。
(キッカ学園中等部模型部とのガンプラバトル終了)
◇◆◇
「もしもし、おつかれさん。突然だけどガンプラバトルやろうぜ? いやなにね、お互いの今の位置を確認しておこうと思って。フミオちゃん? うん。結果は来たとき話すわ。とりあえず、本当にとりあえずだけどムラヤに感謝してたよ、フミオちゃん。んで借りてたガンプラも返さんといかんし。……それがねぇ気づいたらB設定で。ああ、でも、大丈夫だいじょうぶ。ちょっとだけだから。そんなに大きい傷じゃない。ムラヤだったらすぐに直せる直せる。ま、じゃま、とにかく大野城のミスターマックスだから。すぐに来いよー」
急いで電話を切るとアラキはひとつため息をついた。
これで準備完了だ。
「その人、強いんですか?」
カンノ少年がアラキに尋ねる。
「ああ、うん。あのフミオちゃんが手も足も出せずに三連敗したからね」
「それは楽しみ、です」
(……このくらいフカしておいたほうがいいだろう。嘘じゃないし)
三十分ほど経って、ムラヤがミスターマックスのガンプラバトルコーナーに姿を現した。
『いらっしゃ~い』
フミオとアラキの声が
ムラヤはアラキとその周りを見るなり苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。
(……ヤツには未来ある中学生の踏み台になってもらおうかね)
アラキとフミオとその友達、そしてキッカ中学模型部のメンバーがムラヤを待ち構えていた。
『星を仰ぐ少女』(終)