マスクド・ON   作:梅柴

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すべてを失った糞漏らしは再び立ち上がる。誰かのヒーローになるために。

デスクトップの画面だけが照らす、薄暗い部屋。

 

キーボードをカタカタと打ち込むと、北村シオンはペットボトルに入れた水道水を飲んだ。

「くっだんねぇ…ハハッ」

なんてこともないスレッド、しょうもない会話。

そんなものしか、彼に居場所はない。

 

 

彼が朝から…と言っても10時過ぎだが、からだいたい午後8時になった今までずっとへばりついているのは、若干マイナーな匿名掲示板。

 

ひたすらに時間を空費する掲示板に、一日中。

 

腹が減ればカップ麺を食い、喉が乾けば水道水を飲み、日付が変われば寝る。

 

それがここ数ヶ月の、彼の生活の全てだった。

 

きっかけは数ヶ月前。

 

彼の運命が決まった日、シオンはコンビニで働いていた。

 

「27円のお返しになりまーす、 あざっしたー。」

 

少しだけやる気のない、普通のコンビニ店員。

 

それが数ヶ月前の彼だった。

 

今日は苦手な先輩と同じシフトか、とか、いつもガムと競馬新聞だけ買ってくジジイ、今日は遅いな、とか、今日はちょっと腹の調子が悪いな、とか。

 

その程度のことしか考えていなかった。

 

他のことを考える必要もなかった。

 

そして、それらの考えに、対処すべきだった。

 

 

「いらっしゃいませー。」

いつもの時間より1時間は遅く店に来た、競馬新聞とガムのジジイ。

 

通勤時間だけあり、店内には人も多くなっていた。

 

それもあってか、競馬新聞は売り切れ。 ガムも、今日に限っていつもの銘柄がない。

 

ジジイは怒り始めた。誰に落ち度があるか、誰に当たり散らせばいいのかもわからないまま。

 

そしてその矛先を、レジにいるシオンに向けた。

 

「あのさぁ!ここにあるはずのさぁ!○×△✗さあ!」

頭に血が上りすぎた老人の舌はもつれ、何を言っているのかシオンにはわからなかった。

 

「はい…?」

 

聞き返したことが気に食わなかったのか、老人は激高し始めた。

「ふっ…ざけんなよお前!お前!お前さあ!○×△△△△×!」

言葉ともよべないようなもつれた叫びを上げながら、老人はカウンター越しにシオンの襟首を掴む。

 

「あっ…あの…!」

 

「お前は客に!△×△×○!!!」

 

生臭い息と唾が、シオンにふりかかる。

 

思わずしかめた顔も、老人の怒りに油を注ぐ。

 

「!!!!!! !!!!!」

 

他の客は眉をひそめ、距離を取っている。

 

巻き込まれたくはないらしい。

 

動画を撮っている客もいた。

 

そんな暇があるのなら助けてほしいと思う余裕も、シオンにはなかった。

 

先輩は騒ぎを察知してバックヤードに引き篭もったようだ。

 

そして腹の痛みが、怒りをぶつけられるストレスにより加速していた。

 

「あの…ごめんなさい…ちょっとトイレに…」

 

消え入りそうな声を絞り出したが、激昂する老人には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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