雁夜おじさんのバオー来訪者 Fake編   作:蜜柑ブタ

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Fake読んでて、椿ちゃんが、不憫すぎる…。って思った今日この頃。


SS1 縁(えにし)

 

 

 聖杯戦争とは、世界を器とした、蠱毒だ。

 

 蠱毒とは、壺の中にあらゆる毒虫を入れ、殺し合わせ、最後に生き残った一匹を用いて行う呪術。

 聖杯戦争は、この蠱毒における毒虫が、英霊(マレビト)と呼ばれ、サーヴァントとして魔術師達に使役される、伝説上の英雄達の魂を、聖杯という願望器に願いを叶えてもらうという条件で呼び寄せ、戦い合せる儀式だ。

 その正体は、英霊達の魂を捧げることで魔術師達が求めてやまない根源への道を開くための儀式だ。

 聖杯と名の付くモノは、決して万能ではなかった。

 事実、東洋の島国で行われた第四次において、儀式の場となった土地に煉獄のごとき災厄をもたらした。

 そして、六十年後に行われるとされていたはずだったのに、第四次から十年少々で起こってしまった第五次において、その汚染が認められ、開催は無期延期となったはずだった。

 その聖杯戦争の兆候と思われる異常が、五回も儀式が行われた島国ではなく、アメリカという広大な土地において起ころうとしていた。

 その異常が確認された土地…、スノーフィールドと呼ばれる場所において、アメリカのとある機関の思惑が動き出したのだ。

 

 偽りの聖杯戦争。

 

 後の魔術師達は、この土地で行われた聖杯戦争という名を架した贋作(がんさく)の儀式を、そう呼んだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「懐かしいね~。」

「しみじみ思い出してる場合じゃねぇよ。」

「だって、あれから数年ちょっとだよ? 巡り合わせの悪さもここまで来ると、いっそ笑えちゃうじゃん? 笑うっきゃないでしょ。」

「だからって、現実逃避するな!」

「だって~。」

 ドレスの残党を探しにアメリカに降り立った雁夜達は、その過程でスノーフィールドという土地に来ていた。

 だが捜索後、スノーフィールドから出ようとしたら、出られなくなったのだ。

「人がいなかったら……、雁夜さんとツツジさんと三人きり…。」

「桜ちゃん…、うっとりと言うことじゃないぞ。」

 うっとりと頬を染めて言う桜に、雁夜がビシッと優しくツッコミを入れた。

「どうすんだよ…。スノーフィールドから出られないなんて……。異常だろコレ。」

「な~んか、変な匂いがするんだよね。ここ来てから、ずっと。」

「その匂いの感知で、出口は見つけられないのかよ?」

「あのね。雁夜でも無理なことは、私でも出来ないの。」

「おまえ、仮にもマザー・バオーだなんて、バオーの上位持ってるくせに…。」

「上位って言っても、あくまで生物学的に見て、生殖機能の上位に当るってだけで、基本的には他のバオーと同じなの。私の中の、コレ(マザー・バオー)は、まだ進化の途中過程で、たぶん次の世代に受け継がれれば、また違う進化を遂げてると思うよ。」

 要約。

 自分に子供が出来たら、その子が更に強いバオーになる可能性アリ。

「まあ、強いて言うなら、女王アリみたいなもんかな。でも、この脱出できないって現象は、どう考えても魔術的な何かが働いてるんじゃないの? それなら、むしろ雁夜の感覚の方が正しいと思うけど。」

「……俺だって、こんな大規模な異常…、原因を突き止めろって方が無理だ。」

「私が“影”を使って、スノーフィールドを見てみる?」

「いや、やめておこう。これが魔術なら、魔術師に悟られたらこっちがマズいかもしれない。」

「それにしても…、変な空気…。なんか、聖杯戦争にも似てるようで、全然違う感じ。」

「聖杯戦争だって!? こんな遠くでか!?」

「聖杯戦争って、元々、御三家って呼ばれてる魔術師さん達が始めたことでしょ? 数年前の第五次聖杯戦争で、大聖杯の解体が決定されたけど、まだ終わったわけじゃないじゃん。それを利用しようって輩がいても不思議じゃない? なんか、そんな匂い。」

「誰かが無理矢理、聖杯戦争をやろうとしてるってことか?」

「簡単に言うと、そうかな? とにかく、変。空気が……。何かの意志的なモノは感じる。」

「それを追跡していけばいいじゃないかしら?」

「……それがね。すごくか細いの。今にも消えそうで消えない。そんな状態。……子供…かも。それも死にそうな。」

「なっ…。」

「は~、なんで、この手の話には、子供が絡むんだろうね…。…ん?」

「どうした?」

「……まさか…。あ~。」

 ツツジが不意に、そう呟き、クスッと笑って、納得したように嬉しそうに笑った。

「どうした?」

「前の聖杯戦争以来だ。また顔を合せることになるかもね。」

「だからなんだよ?」

「成金金ぴかサーヴァントがいる。」

「…ギルガメッシュが?」

 ツツジのその呼び方に、雁夜はすぐに誰なのか分かった。

 ギルガメッシュ。

 第四次、第五次と、聖杯戦争に参じた英霊。

 あのギルガメッシュが再び現界したのなら、このスノーフィールドという土地で聖杯戦争が行われようとしているのは確かとなる。

 またあの惨劇が行われるかもしれない可能性に、ドレスの残党探しどころじゃなくなる。

 っとなれば、雁夜達の選択は二つ。

 ひとつ、この贋作の聖杯戦争からさっさと逃げるために出口を探す。

 ふたつ、贋作の聖杯戦争に挑み、勝ち残ること。

 ふたつめに賭けるとしても、贋作だからこそ、イレギュラーのだらけに決まっている。雁夜のように二回も聖杯戦争を経験した経験者でも、勝ち残れる可能性は微妙なところだ。

 だが、雁夜達は、この偽りの聖杯戦争こそ、真の聖杯戦争を呼び起こすための生け贄にすぎない儀式だと知らない。

 令呪こそないが、本物を知るもの達だかこそ、この偽りの聖杯戦争に巻き込まれることになったのなら、縁という名の運命と言えるかもしれない。

「雁夜さん!」

「どうした、さく…、っ!」

 色々と考えていた雁夜が、急に声をあげた桜の方を見る。

 桜が指差す先。

 そこには、黒い影のようなものがいた。

 腕もなく、足もなく、黒い色の中に、白い模様がちょっとだけある、奇妙な存在。

 それは、桜が使役する影とはまったく異なるモノだった。

 いつからいた?

 気配などしなかった。影のようなモヤのような…、そんな物体だから気配などそもそも持たないのかもしれない。

「なにコレ…? この空気の匂いと同じ匂いがする…。」

 ソレを見て、ツツジがそう呟いた。

 ソレは、ぼんやりとそこに佇んでいたが、1分後、フッと消えた。

「消えた?」

「帰ったんだね…。別に私達に敵意があったとか言うんじゃなくて…、なんだろう? 確かめに来ただけなのかも。」

「なにを?」

「本物の聖杯戦争の残り香……、それにたまたま引っ張られてきたんじゃないかな?」

「じゃあ、今のって、サーヴァント? だとしたら、私達のことをマスターに伝えに行ったってこと?」

「……アレ、喋れるように見える?」

 ツツジの問いに、雁夜と桜は首を横に振った。

「…たぶん、そういうことだと思うよ。」

 ツツジは、先ほどのサーヴァント(?)から、そういう意図や考えなどの匂いが全くなかったので、自分達のところに来たのは、自分達が聖杯戦争の経験者だからその残り香的なモノに引っ張られて来ただけにすぎなかったのだろうと分析した。そして、自分達のことをマスターに伝えることもないだろうとも分析した。

「もしかしたら……、このか細い意思の匂い…、子供のサーヴァントだったりして…?」

 そう見るツツジは、実は正解。

 先ほど現れた黒い影のようなモノ…、その正体は、ライダー。ライダークラスとしてやってきた、この偽りの聖杯戦争の最初のサーヴァントだった。

 しかもただの英霊などではない。そもそも、その存在に形はない。

 それは、概念といえるモノ。

 “病”という、恐れの概念そのもの。それに名を付けるとしたら、黙示録に登場する、病を振りまく四騎士の一人、ペイルライダーである。

 繰丘椿(くろおかつばき)という、昏睡状態になっている、魔術師の血を引いた少女と契約を結び、眠り続ける彼女のためだけに行動するだけの、ロボットのような存在であった。椿は、現在、夢の中に現実を投射する魔術により作り上げた夢の中を一人さまよっている。そんな彼女の望みを叶えてやるのが、ペイルライダーだった。

 夢の中に現実を投射する魔術は、病という形でペイルライダーが現実世界を夢に引きずり込むものへと変わった。それは、椿が意図せず実現化してしまったものだ。

 その最初の犠牲者は、椿の両親だった。

 椿に魔術回路を移植する細菌を使った施術をしまくり、そのくせ魔術師としての将来以外に愛情はなく、次世代に受け継がせるためだけに次世代の繰丘の子ができるなら問題は無いと昏睡状態に陥ってしまった実の娘の人格を見放したような親であった。

 その二人は、偽りの聖杯戦争に参加すべく、娘のことなど念頭におかず準備をしていたが、知らぬ間に昏睡状態の娘の方に令呪が現れ、そしてペイルライダーが召喚されたことで、一変した。

 両親に会いたいと恋しがった椿の望みにより、病という形でペイルライダーに感染させられ、椿の望みを叶えるだけの生きる人形になってしまったのだ。その姿はまさにペストなどの病に感染した病人のような有様であり、偽りの聖杯戦争を監視している者達が家の中を遠目に見て、奇行をしていると見ているほどおかしい状態だった。繰丘夫妻が、必ず偽りの聖杯戦争に参加するものと見られていただけに。

 ゆえに監視者達すら、ペイルライダーの存在を認識できていなかった。

 そもそも、ペイルライダーがサーヴァントとして来てしまったこと自体、まさに異例中の異例。奇跡と言うに他ならない。なぜこんなモノが召喚されたのかあり得ないほどだが、あえて原因をあげるのだとしたら、椿を昏睡に陥らせた原因である、魔術回路の施術に使われた細菌によるものだろう。つまり、椿を侵す細菌という病気が触媒になったのだ。

「どうする? このか細い匂いを辿ってみようか?」

「……今の奴が別に俺達に敵対するわけじゃないなら、無理に関わらなくていいと思う。だからやめとこう。」

 なんとなく、直感で、アレと関わり合いになったら、一番マズいと雁夜は感じていたのでそう言った。

「じゃあ、出口を探しながら、敵が現れたら応戦する。それでいくの?」

「そうだな…。ギルガメッシュも関わっているなら、できる限り避けつつ、出口を探そう。……もしかしたら、さっきの奴のマスターにも会うことになるかもしれないが。」

「ギルガメッシュって、ツツジさんのこと大っ嫌いだもんね。」

 笑って言う桜に、確かにっと、ツツジも笑った。

「笑い事じゃないだろ…。」

 笑い合っている二人に、雁夜はヤレヤレとため息を吐いたのだった。

 

 

 その後間もなく、街にあるオペラハウスで、大爆発が起こった。

 慌てて現場に行ってみて、後悔した……。

 警察に連行されていく時代錯誤な、美しい騎士が手錠を嵌められた状態で民衆達に演説をした。

 一目で分かった。

 

 アレ……、サーヴァントだと……。

 

 

 

 




セイバーが召喚された街にいた雁夜達でした。
自分達の巻き込まれ体質を嘆いて、雁夜がガックーンとなっているのも書こうかなって思いましたが、それだと目立つのでやめました。

ペイルライダー……、なんちゅうもんが現れてんだ!って思いました。
人の中から病に対する恐れが無くならない限り不滅だなんて……。どうやって倒すの?
まだ次の巻が出る予定無いけど、これどうなるの?って続きが気になって仕方ない。
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