あまり勝負になりません。
死徒とバオーの相性は、完全に捏造ですので注意。
「とっととくたばってくれないか、血袋ども。」
この場にいる者達への死の宣告を、死徒が吐いた。
マズい!っと雁夜は思い、早くこの場から逃れようと考えた。
しかし…、この場にいる警官達を残して、あの死徒という怪物に殺させていいのかという念がわく。
そうこうしているうちに、弓矢を手にしている警官が矢を射った。
しかし、建物の壁をも破壊するその矢は、死徒・ジェスターの肌に刺さることはなかった。
鋼鉄化しているわけでも、鱗があるわけでもない。どうみても人間と変わらない柔肌が、建造物の壁を破壊する矢を弾いたのだ。
「念のため言っておくが…、お前達に宝具を与えたサーヴァントは呼ばなくていいのか? もっともその宝具を作ること自体がメインの能力なら、荒事にさほど期待はできないだろうがね。」
そういうジェスターの周りには、近接武器の宝具を持っていた警官達が倒れていた。
ジェスターは、最初からいる位置から一歩も動いていない。それどころか髪の毛ひとつ揺るがせることもせず、宝具の力を引き出し始めている警官達を次々に倒している。
ジェスターは、ニヤニヤと笑いながら、語り始める。
自分は、英霊より強いわけではないのだと。しかし、実際のところあの女アサシンと、宝具と手にしている警官達は結構いい勝負をしていた。それを真っ向から否定している。
つまるところ…っと、一息おいて言った。
英霊とは、人類史を肯定するモノ。人間世界の秩序(ルール)を護るものだ。っと。
そして自分達、死徒と呼ばれるモノは、逆に人類史を否定するモノであり、人間世界の秩序(ルール)を汚すために存在してきたのだと語る。
故に、人が創りし宝具、あるいは神が人の為に用意した宝具の加護を、死徒である自分達は否定できるのだと。
神が神のために創った宝具ならば、また別かもしれないが、そんなものはそうそう用意できないだろうと。
これは、純粋に相性の問題だと言った。つまり、自分(死徒)は、蛇で、君達(人間)は、カエル。ただそれだけの単純な話なのだと。
もちろん、同じ宝具でも、座の使者たる英霊が使うならば話は別だと。英霊なら自分に勝てただろうと。
それは希望でも何でもなく、宝具を手にしているだけの人間達には絶望の言葉だった。
「しかし……。」
ジェスターは、ふいに雁夜を見た。
「人が人であることを捨てた者ならば…、あるいは…か。」
「なに…?」
署長が眉を寄せた。
雁夜は、舌打ちした。
そして、ずっと膝をついていたが、ゆっくりと立ち上がった。
そして、スッと人差し指を立てた。
「ひとつ、訂正しろ。」
「ほう? 何をだね?」
「俺は、望んで、人を、捨てたわけじゃない!」
次の瞬間、バリッと雁夜の額が裂けた。
そして、髪の毛が、肌が変色する。肌がひび割れ、砕けた一部が大理石の床にパラパラと落ちた。
署長は、その変化に目を大きく見開き、警官達は驚愕、あるいは戦慄した。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
バオー・武装現象を発動した雁夜の咆吼がロビーにビリビリと響き渡った。
「ほー。」
っと、ジェスターは、感心したように声を漏らした。
次の瞬間、雁夜がフッと消えた。
そしてジェスターがバッと手を顔の前に出したとき、その掌に雁夜の拳が入っていた。
「!」
触れた瞬間、ジュウッとジェスターの掌が溶け、ジェスターが後ろへ大きく跳んだ。
片膝をつくような形で後ろへ跳んだジェスターは、先ほど雁夜の拳を受け止めた手を見た。
その手は、グジュグジュに溶け、辛うじて手の原型が分かる程度に変形していた。
「ハハ…、これはこれは、思っていた以上だよ。たいしたもの…、っ!」
そう言って余裕そうに立ち上がったジェスターだったが、その余裕に満ちていた顔が一変した。
死徒としての細胞の再生なのか、グジュグジュに溶けていた手が奇妙に蠢いていたが、中々元通りにならないのだ。それどころか、まるで細胞が狂ったように変な再生すらしている。
ジェスターを見据える雁夜が、一歩一歩進んでくる。ジェスターは、溶かされた方の腕を押さえて、同じだけ下がった。
先ほどまで宝具を手にしていた警官達を圧倒し、手を溶かされるまで余裕を見せていたジェスターの顔に、明らかな焦りの色が浮かんでいた。
「……油断したぞ。油断したなぁ…。」
クックッとジェスターが笑いながら汗をかく。
「ああ! 断言しよう! 俺は、今、油断したよ! 貴様を侮っていたよ! これが慢心という奴か! まったくいい経験になった! 強者の寿命を縮める最上の毒薬は、『慢心』というのは本当だなぁ!」
雁夜は、黙ったままジェスターを見つめていた。
何もしてこない雁夜に、苦し紛れに笑っていたジェスターが、ギリッと歯を食いしばった。
相性。
それは、先ほどジェスターが散々言っていたことだ。
もし死徒とバオーの相性が悪いとしたら、その生まれ持った生命として質だ。
バオーの持つ特有の体液は、とてつもない再生能力を宿主に与え、その体液が混じった血液は、死に瀕した者(ただしまだ細胞が生きている状態であること)を生き返らせるほどだ。
死徒と呼ばれるだけに、生命の理から離れ、人を食らい死を振りまく死徒の細胞に、バオーの生命に満ちた体液は相性が異様なほど悪かった。それは本当に偶然の一致であった。
おまけに雁夜は、魔術師だ。
体内の魔力回路は、バオーによってすべて活性化し、武装現象を発動したなら、枯渇することなく魔力がバオーとしての力に上乗せされる。
それは、奇しくも教会の代行者が使う黒鍵(こつけん)と非常によく似た性能を全身にまとうこととなり、すべてのバオーの攻撃がそれと同じ威力と性能を持つことになってしまった。
ジェスターは、完全に雁夜を敵とすること自体を見誤ってしまったのだ。
全てにおいて、バオーの力を持つ魔術師である雁夜は、死徒にとって天敵だったのだ。
ジェスターは、何もしてこない雁夜に業を煮やして、やがて跳躍し、窓を破って逃げていった。
ジェスターは、雁夜に触ることすら出来ない。そして雁夜側が何もしてこない。おそらく攻撃すれば、反撃が来るだろう。
ならば、取るべき行動はひとつしなかったのだ。生きて、あの女アサシンを陵辱の限りを尽くして味わうために、なおかつ聖杯を手に入れるために、逃げること……、それだけだ。
ジェスターが去った後、ロビーに静寂が訪れ、ジェスターが逃げていった窓を見上げていた雁夜の姿が、やがて変身前に戻った。
そして、雁夜の周囲に、宝具を手にしている警官達が包囲を固めた。
「アレを追い払ってもらって申し訳ないが…、大人しくしてもらえるかね?」
「…俺は、長居するつもりはない。」
大人しく捕まれと言う署長に、雁夜は、疲れたように言った。
「そうはいかない。君は、明らかに異常だ。それは君自身がよく分かっているはずだが?」
「不法侵入したことは、謝る。けど……。」
「ごめんねー。」
その直後、どこか場違いな声色の、少年のような少女の声が聞こえた。
すると、この場にいた雁夜以外の人間達の足に影から伸びてきた一本の帯のような影が足に絡みついた。
警官達は、突然のことに悲鳴を上げたり、帯を外そうと足を引っ張ったり、宝具を使って切ろうと躍起になった。
そのすきに、雁夜は、警官達を軽々飛び越え、ジェスターが開いていた扉の外へと逃げていった。
雁夜がいなくなった後、フッと影の帯が消えて警官達は解放された。
残された者達は、ポカーンと、していたが、やがて署長の一喝を受け正気に戻ったのだった。
そして雁夜の情報を集めるべく、目撃者を招集し、似顔絵を描いて、街に警官を放った。
***
「雁夜さん、無事でよかった!」
「桜ちゃん、ありがとう。」
ホテルの部屋から荷物を持って、屋上に移動し、別の建物へと移動してビルの屋上の通風口の影に隠れた三人は、とりあえずお互いの無事を確認した。
雁夜が、ペイルライダーの匂いと、セイバーと女アサシンの匂いを間違えて移動したことは、窓からペイルライダーを見ていたツツジがすぐに気づいていた。
だが、まあいつものことだし…っと放っておいたのだ。この手のドジは、今に始まったことじゃないので。
やがて桜が目を覚まし、雁夜に危険が迫っていると直感したらしく、ツツジに頼み込んで一緒に警察署に向かったのだ。
そして窓を割って逃げていくジェスターを目撃した後、結界内で警官達に囲まれている雁夜を見つけ、桜が影を使って足止めをしたのだ。
すぐに警官達が雁夜を追って来ることは匂いで感じたので、すぐにホテルに戻り、代金だけ部屋に置いておいて、荷物をまとめて屋上に移動して、高所から高所へ移動して、今、ビルの大きな通風口の影に座っていた。
「もう、なにも武装現象を使わなくたって。」
「そう言われても…。」
「まあ、変なのがいたんなら、仕方なかったね。」
変なの扱いされる、死徒・ジェスターだった。
……俺らの方がよっぽど変だとは、言えなかった雁夜だった。
人のカルマが生み出したと言ってもいい、不自然な生命体バオーをその身に宿す雁夜とツツジという存在は、ある意味で死徒よりも業が深いかもしれない。
バオーを生み出した秘密機関ドレスが、滅んだ今となっては、生殖の上位にあたるため他者へ寄生虫バオーを与えられる能力を持ったマザー・バオーを持ったツツジから、宿主に卵を産み付けるという生殖機能を失っている通常種の寄生虫バオーを移植する以外にバオーを増やす方法は無い。かつてバオーの生みの親である霞の目が、バオーを外に出すことは核弾頭レベルの危険だと言っていた伝染力は、人の体質に遺伝するよう生態系を進化させたマザー・バオーの誕生により失われた。
そういう意味では、吸血しただけで感染させて仲間を増やせてしまう死徒よりは、多少は…マシ?かもしれない。
しかし、それでも、マザー・バオーの特性である、バオーに支配された宿主を操れてしまうという能力により、その気になればバオーの軍団を作れてしまうという点は、雁夜は知らないことであるが……、ツツジ自身もさほど重要視していない。第四次聖杯戦争の時に、一回二回程度、雁夜のバオー化を強制解除しただけだ。
「どうした、ツツジ?」
「ん…、なんでもない。」
ちょっと考え事をしてたツツジに雁夜が声をかけると、ツツジは、フルフルと首を振って答えた。
なんとなしに、ビルから下を見ると、通行人に混じって、雁夜を探しているらしい警官が何人かいたが、ビルの上にいる自分達の存在には全然気づいていないようだった。
「ん?」
ツツジは、あの時見た騎士のサーヴァント・セイバーと共にいる少女を匂いで見つけた。
どうやら混乱に乗じて警察署から逃げ出したらしく、教会の人間に声をかけられていたようだ。
セイバーとパスが繋がっているが、マスターとなることを断っているらしいその少女は、教会の人間のその女から近いうちに監督役からお話があるはずだと言われ、自分には関係ないという態度で自分はマスターじゃないと言っていた。
少女の年頃は、女子高生ぐらいの年代だろうか。第五次聖杯戦争の時といい、どうして若い世代の魔術師は、こうも聖杯戦争に巻き込まれやすいのか…、巡り合わせの悪さというか見えない縁の線を感じた。
ツツジのマザー・バオーの設定は、あれですね……バイオ4のプラーガに似てるかも。
支配種が下位の種を支配するアレです。でも意識してそう設定したわけじゃない……本当です。
死徒のジェスターに人間が使う宝具が効き目薄いなら、生命に満ちあふれた力を持つバオーとの相性ってどうなの?って思いながら書いたらこうなった。
バオーの体液の回復力と死徒の細胞の質が全然違うため、再生が上手くいかず、結果再生不全を起こして手がグジュグジュのまま……。さらにそこに魔力が上乗せされているため、代行者が使う黒鍵と同等の効果を全身にまとっているバオー雁夜。
それに早々に気づいたジェスターは、バオー化した雁夜と戦ったら確実に死ぬと分かって誇りを捨てて逃げるしかなかったということにしました。
人がカエルで、死徒が蛇なら、バオーは、その蛇を食べるマングースか?(生物学的には、捕食対象ではないが、偶然の一致で相性が最悪だった)