・このページは「敗北シナリオ」です。
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きれいなエリザとの戦い。
その始まりは、あまりにも静かだった。
藤丸立香が、霊基グラフから彼女との戦いに適切だと判断したサーヴァントを召喚をする中、マシュは無防備となるマスターの側で攻撃を警戒するように、対峙している彼女の動きに意識を
先程は気を抜いていたとは言え、投げつけられたエリちゃんが衝突するまで、マシュは彼女の動きに反応出来なかった。
そして、それ程の速度で投げつけられて吹き飛ばされたというのに、マシュは怪我をしていない。それは彼女が力任せに投げたのではなく、そうなるように調整して投げたということである。
彼女は最初に自己紹介した時、自身のことを「戦闘能力はヘッポコ」と評していたが、その言葉は本当なのだろうか?
仮に本当だとしても――戦闘能力はヘッポコだが、身体能力がとんでもなく高いから問題無いなど、言葉遊びである可能性を彼らは否定できなかった。
故に、最初は防御という選択肢を取って、サーヴァントを確実に呼ぶ事にした。
その行動が正しかったかどうかは分からない。
しかし、対峙している彼女に、戦闘の準備をする時間を与えてしまったのは確かだった。
―――――
彼女の手元に突如として現れる日本刀。
それは、彼女が教えを
そして次に、立香の前でサーヴァントが召喚される。
彼が、一度に召喚して戦闘する魔力を維持できるサーヴァントの数は、マシュを含めて6人までだ。
故に、彼は5人のサーヴァントを召喚する。
1人目は、人型と人属性に特攻を持っている『岡田以蔵』
2人目は、女性特攻を持っている『ジャック・ザ・リッパー』
3人目は、人属性と中立サーヴァントに特攻を持っている『清少納言』
4人目は、人属性への特攻とクラス相性有利の『へシアン・ロボ』
5人目は、竜への特攻と特防を持っている『ジークフリート』
誰も彼も、きれいなエリザに有利に立ち回る事ができる強力なサーヴァントである。
故に、そのまま戦えば、例え魔力で強化されていようとも彼女を押し切れる。それは純然たる事実だった。
だからこそ………
「―――――ッ!?」
召喚された次の瞬間、彼女は速攻を仕掛けた。
召喚したサーヴァントは、ある程度それぞれが間隔を空けて呼ばれたので、誰が狙われたかはすぐ分かる。
最初に狙われたのは『岡田以蔵』だった。そして、その攻撃方法に問題があった。
―――――陰に機を見出し、陽に活路を開く
その『岡田以蔵』に接近するのに使われた、あまりに早い歩法に、ある存在の面影が見えた。それは、かつて彼が敗走することになった相手の
「―――ナメんッ!?」
一度見た事があるからか、または単なる偶然か?
大量の魔力によって、未熟としか言えない圏境で無理矢理本物に迫る速度を出す彼女からの攻撃の予兆を感じ取った彼だったが、防御しようと刀を抜こうとして―――刀の
―――――
まるで針の穴に糸を通すような繊細な太刀筋――には程遠いが、それでも魔力で強化した彼女の速度は、真に迫っており
―――――続けておろし風
何度も何度も繰り返して、身体に染みついているのだと分かる程、その連撃には迷いが無く
―――――
「(剣筋が――見えんがじゃッ!)」
紛れもない剣の天才である彼の目でも、彼女の剣を捉えることは出来ず。また、とっさの反応が、見えた面影の攻撃への対処に寄ってしまう。
なんとか、身体を後ろに下がらせて致命傷を避けるが、それでも戦闘続行が不可能になるほどの一撃を彼は受けてしまった。
何故、投影魔術を習得した彼女が日本刀を投影したのか?
何故、戦闘を出来る程に投影魔術の完成度を高めることができたのか?
まず前提として投影魔術は、消費する魔力量に見合った結果を得られない魔術だ。
人の想像力で完全な本物を投影するのは不可能であり、すぐに壊れるのに、維持するのにも大量の魔力がいる代物である。
だが、予め設計図を作って置くなど構成を考えることで、多少品質が向上する性質もある。
故に、彼女は教えを請いた相手と手合わせをする際、何度も何度も反復練習をするように刀を投影し続けた。その回数は、もはや彼女自身すら覚えていない程だ。
長い長い繰り返しと、隙間時間に考えた設計図の作成に改良を重ねて、彼女は自分に最も合う刀のみだが、魔力が続く限り何度でも生み出せる様になっていた。
投影する対象が刀だったのは、聖剣のような武器そのモノの強さを必要とせず、また投影魔術である以上どうしても実物より脆くなってしまう武器で立ち回れるのが、使い手の技量に比重が大きい刀だったからである。
そして、教えを請いた中で、彼女に最も合ったのが、繊細な剣技である閻雀裁縫抜刀術であり、他にも二天一流や柳生新陰流など、使えそう剣術が混ぜこぜになった彼女のデタラメな剣技だった。
「(? なんじゃ? なにが起こっちょる?)」
そして、その一撃を受けた岡田以蔵は、自身に起きた不可解な現象を認識した。
間違いなく身体を切られた筈なのに、痛みはおろか、身体のどこにも傷一つ付いていない。その代わりに、全身を襲う強烈な脱力感と倦怠感が、身体の動きを極端に鈍らせていた。
「此よりは地獄。“わたしたち”は炎、雨、ちか――(
流れるような連撃による音から、すぐに他のサーヴァントも戦闘体勢に入り、俊敏が高く彼女の近くに召喚された『ジャック・ザ・リッパー』が、致命となる宝具を発動しようとするが――詠唱の途中で刃状の魔力斬撃を放たれて中断させられてしまう。
―――――
続けて放たれる魔力弾。
直線に飛んでくるだけなら回避は容易いが、その魔力弾は威力ではなく命中重視の散弾だった。
そして、彼女が魔力で強化されている今の状態では、その散弾はクラスター爆撃に等しい威力へと跳ね上がる。
「平安ビーム!」
そんな攻撃を見て、咄嗟にガードしていたジャック・ザ・リッパーに、横から発生した謎の光線が、降り注ごうする散弾を掻き消した。
それは清少納言が発した理屈不明な光の攻撃、通称「平安ビーム」によるものだった。
「ヴォオンッ!」
更に、ここに居るサーヴァントの中で、最も俊敏のステータスが高い『へシアン・ロボ』が突撃する。
風を切り地を駆ける疾走が、彼らに混ぜられた「ジャック・グリフィン博士」の透明化により、その動きを把握することを不可能にした。
―――――
だが、その動きは、たったの一手により止められてしまう。
本来は、敵の足元に魔法陣を張り拘束する魔術を、彼女は自身を含めた、この特異点全体に発動させることで物理的に逃げ場を無くし、罠に掛からないロボの性質を強引に突破して拘束してしまう。
―――――
さらに特異点全体に発動させた拘束魔術を無視して、彼女は空を舞う。彼女はクラススキルとして対魔力EXを持っている事から、自身にも掛けられた魔術を弾いたのだ。
―――――
そして、彼女の周囲に大量の魔法陣が展開され、大出力の魔力砲が地上にいる全員に降り注ぐ。
「真名、凍結展開。これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城───呼応せよ!『
その魔力砲に、この場で一番高いの対魔力スキルを持っているマシュが、宝具を展開する。
へシアン・ロボの復讐者スキルによる味方の弱体耐性ダウンにも問題なく動くことができ、マシュは魔力砲を受け切った。
―――――
だが、彼女の動きはまるで止まらない。
再び投影魔術を発動し、もう一振りの刀を生み出すと、そのまま空中で魔力を足場にして、ミサイルのようにマシュに向かって急降下した。
そして、ほんの一瞬でマシュの前に迫ると、刀を振り上げる。
―――――
「ッ!?」
そこから放たれるのは、湖の騎士が使う光の斬撃。宝具には届かず、剣技で再現されたものだか、その魔力が放つ青い光は、本物同様に湖のように美しかった。
「やらせん!」
そんな2人の間にジークフリートが割り込んで、彼女の刀を受け止める。
―――バキャッ
刀を受け止めると同時に、彼女が振り下ろした刀が砕け散った。
当然だろう。ジークフリートの持つバルムンクに比べれば、彼女が投影したモノなど、木の枝に等しい。
―――――
だが、すぐに新しく刀が投影される。
そもそも
―――――二天一流、水の型
突如として、彼女の剣筋が変化する。
先程までの抜刀術から、投影した2つの刀による二刀流。速度重視であるのは変わらないが、先程までとは手数が段違いに増えた。そして――
「(なんだ? まるで動きを先読みされているようだ……)」
ジークフリートが、殆ど存在しない攻撃の隙間に反撃へ転じようとするが、その初動を
「(させません。貴方の戦い方、癖、心構え――全て貴方から教わりました)」
それは、かつて師事を仰いだ相手との立ち会いによる経験から生み出した戦い方。
ジークフリートという英雄は、間違いなくセイバークラスにおける最強の一角だ。まともに切り合えば、彼女が剣技で勝てる筈はない。
それが分かっているからこそ、彼女は攻撃の手を決して緩めない。
それでも10数秒。それが、剣技で大英雄たるジークフリートと渡りあえた限界だった。
2本目の刀を砕かれ、彼女は大きく後ろに飛んだ。それに追撃しようとジークフリートが動くが……
―――――
飛び退く彼女の背後に水の球体が現れ、彼女を飲み込む。そして次に現れたのは――彼の後方だった。
―――――
そして彼女の頭上から、ジークフリートを取り囲むように放たれる曲線を描いてせまる無数の魔力弾。
本来、セイバークラスの彼には効果の無い攻撃だが、カルデアに召喚されたジークフリートには対魔力スキルがない為、この魔力弾が1つでも背中に直撃すれば、相当なダメージとなってしまう。
「させません!」
だが、そんな攻撃をマシュが通すはずはなかった。
盾でジークフリートの背中を守り、正面をジークフリートがバルムンクで斬り伏せる。
「春はあけぼの、夏は夜。なべてこの世はいとおかし!――」
更に、少し離れた場所で清少納言が宝具を発動させようと詠唱を開始する。
それにエリザは手を向け、魔術を発動しようとし。
▶「ガンド!」
ソレをさせまいと、立香が魔術礼装でガンドを放って、彼女の動きを止めようする。しかし……
―――――ガンド
まったく同じ魔術を、立香が放った直線上に重なるように放たれる。
生身の人間とサーヴァントが放った魔術が、同じ出力の筈はなく。立香のガンドを貫いて、もはや物理的な攻撃力を持ったガンドが彼に迫る。
「させる訳が無いじゃろがッ!」
そのガンドは、いまだに身体が動かしづらい岡田以蔵が、立香を庇う形で直撃した。これ以上、彼が戦うのは不可能だろう。
だが、彼らのおかげで、彼女に致命的な隙が生まれた。
「
清少納言が詠唱を完了し、彼女の世界である固有結界が展開され――
「え? な、なんでッ!?」
展開されなかった。
「(当たり前です。これ以上、世界を塗り潰すようなことを、この土地が許容する訳がありません)」
宝具を発動しようとした者と、発動しても失敗すると思っていた者。そのどちらに隙が生まれるかは明確で……
―――――
「うわぁあッ!?」
エリザがその隙を逃す筈もなく。強大な魔力の爆撃に清少納言は飲み込まれた。
「此よりは地獄。“わたしたち”は炎、雨、力……殺戮をここに……『
だが、そこへ情報抹消で息を潜めていたジャック・ザ・リッパーが、詠唱を完了させて宝具を発動させた。現在、霧こそ出てはいないが、時刻は既に夜であり、エリザは女性サーヴァントだ。
霧が無い以上、回避することは可能であり、その宝具は絶対に受ける訳にはいかないのだが……
「ヴォオオオンッ!!!」
そこにへシアン・ロボが『
2つの宝具による、絶殺の連携が完成した。もはや転移魔術でも、その一撃は避けられない。
………そう。
彼らの連携に問題は無かった。
ただそれは、彼女の動きがこれ以上あがらないという前提が無ければ、成り立たない攻撃だった。
――――
突如として、彼女の姿が消える。
消えたように見えるほど、彼女の動きが加速したのだ。そして――
「あうッ!?」
「ヴォオッ!?」
「グッ!?」
「きゃあッ!?」
ジャック、へシアン・ロボ、ジークフリート、マシュがほぼ同時に攻撃を受けた。
「……ゲームエンド。この戦い、私の勝ちです」
まるで最初から、そこに居たとでも言うように、なんの予兆も見せずに姿を現した彼女が言う。
そして、その言葉に伴うように、立香のサーヴァント全員が膝から崩れ落ちた。
「まだ、戦えます!」
そう言って、立ち上がろうとするマシュ。
しかし、彼女の意志とは別に、彼女の身体は動いてはくれなかった。
「ダメですよ。貴方たちは、私から致命と分類される攻撃を受けた。故に、貴方たちは敗北した。
投影していた刀を消し、この戦闘が終わったことを、彼女は行動で表していた。
「意志の力だとか、譲れないモノがあるとか、そういうモノは関係ありません。
私が支配する場所で、不正は許しません。始まりと終わりを決めるのは、貴方たちではなく私です」
そこまで言って、立香が召喚したサーヴァントたちが光に包まれ、霊基グラフに戻ってしまった。
▶「そんなッ!?」
「勝利条件未達成。敗北したことで、その対価は強制執行されます」
更に、立香とマシュの身体が空中に浮かび上がり始めた。
「これはッ!」
何度も経験した2人だからこそ分かった。今、自分たちはレイシフトをしようとしているのだと。
「ご安心を、カルデアに戻るだけです。聖杯もお届けします。どうか、今日のことは忘れてください」
▶「待ってッ!」
そんな立香の呼び声に応えることなく、彼らはレイシフトして特異点から居なくなった。
「それで、貴方はどうして戦わなかったのですか?」
立香を特異点から追い出したあと、いつの間にか隣に来ていたオリジナルに、私はそう
「……ごめん」
突然、謝れても困る……いったい、何に対しての謝罪なんだ。
「よく分かんないけど、多分アタシが原因なんでしょう?」
「そうですね」
今回に限らず、この特異点で起きる殆どの問題はオリジナルが原因であることが多かった。
「たから、ごめん……」
「許します」
でも、それは同時に私にとっては救いだった。
どれだけ繰り返しても、彼女は必ず私の
私がビーストになっても、絶望して何もかも拒絶していた時も。
彼女は覚えていないとしても、私にとってオリジナルは、終わらない周回の地獄の中にあった、変わらない お星様のような存在だった。
「カルデアに送りましょうか? もうすぐ、ここは無くなります。1人ぐらいなら、まだ逃せますよ」
私はそう言って、しかしオリジナルは首を横に振る。
「最後まで、アンタと一緒に居させて。その為に、子イヌとの戦いに参加しなかったんだから……」
「……やっぱり、気づいていたんですね」
「まあね。一週間、ずっと一緒だった訳だし……」
そう言われて、そりゃそうかと納得する。
いくらなんでも、一週間
「それじゃあ、今までのも全部演技だったのですか?」
「なにが?」
その言葉を聞いて、私は心の中だけで、ため息を吐いた。
想定していたサブプランが、オリジナルの行動によって失敗し掛けてしまった。
もし、マスターさんとの勝負に負けてしまっていたら、私はカルデアに所属することになってしまったかもしれない事態になっていたのだ。
そうなった原因は、これまでにオリジナルが起こしてきた数々のやらかしよるモノだったのだが、アレが全部 素でやっていたというのは、流石オリジナルと言うべきだろうか?
「いえ、なんでもありません。
それより1つだけ、お願いしても構いませんか?」
「? 別にいいけど」
よし♪
「ひざ
「は?」
「ひざ枕です。正直、もう立ってるのもツライんです。だから、ひざ枕してください」
「いやなんで ひざ枕なのよ!?」
まあ、予想通りの反応です。でも、言質をとっているので撤回はしません。
「ひ〜ざ〜ま〜く〜ら〜」
「わ、分かった! 分かったから! ほら、来なさい!」
そう言ってオリジナルは、屋外であるのに座り込んでくれました。やっぱり、優しいですね。
というわけで、遠慮なく寝転びます。
「アンタ……下に何も敷いてないのに、よく寝れるわね」
「どうせ、もう終わりなんですから気にする必要ないです」
今から自爆するのに、汚れとかどうでもいいです。まあ、素足で座っているオリジナルは痛いかもしれないので、そこは申し訳ありませんが、最後のワガママと言うことで
「アンタにも、もっと生きていて欲しかったわ……」
「気にしないでください。私はマスターさんが嫌いだし、カルデアにも行きたくないです」
それに、私はもう充分に生きました。
実際の時間は一週間ですが、私は体感で2112年は生きていたんです。もう、これ以上は望みません。
ただ、最後までちゃんと終わらせられなかったのは、ちょっと残念ですね。
あんなに頑張ったのだから、
「オリジナル。最後に、手を、握ってもらえませんか?」
「…………はい」
そう言って、オリジナルは私の差し出した手を、優しく握り返してくれました。
「………………」
「………………」
後はもう、お互いに何も言いませんでした。
ただ、オリジナルの手は、最後までずっと温かったです。
「(ありがとう……
こうして、今年のハロウィン特異点は消滅しました。
いえ……立香たちを含めて、誰ひとりとして、そんな特異点があったことを覚えていません。
ただ、部屋を留守にしていた立香のマイルームに、突如として聖杯が出現し、そのまま誰に受け止められることもなく床に落ちて、コロコロと転がっただけでした。
敗北シナリオ
「ゲームエンド」
報酬
・聖杯✕1
※シナリオ終了と同時に「特異点」が消滅しました。
本イベントは、ここで終了となります。お疲れ様でした。
追記
・きれいなエリザは、