【完結】Lostbelt No.10033 黄金少女迷宮 ゲスタ・ダノールム   作:388859

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※Fate/Grand Orderで新約とある魔術の禁書目録 9巻パロみたいなお話です。なのでどっかで見たことある展開があるかと思いますがご了承ください。



つまらなくて、平穏な世界 Unknown_World

 

 

 人理、というモノがある。

 神々の時代から脱却し、人の時代となった現代。人類をより長く、人類をより確かに、より強く繁栄させるための理。

 人類の航海図。

 これを魔術世界では、人理と呼ぶ。

 その人理が焼却されるという異常事態に、人理継続保障機関フィニス・カルデアは聖杯探索、グランドオーダーを発令した。

 世界を救うマスターとして選ばれたのは、たった一人の少年。

 恐らく特異点で真っ先に死ぬだろうと予想される存在しか、マスターとしての資格を持っていなかった。

 その少年の両肩に載った重圧は、一体どれほどのものだっただろう。

 何の力も持たず、されど後ろで怯えることも、無謀に前に出ることも許されず。犠牲が出る度に、前に進めと、必ず世界を救えと、様々な想いを託されてきた。

 少年は、別に特異な精神を持っていたわけではない。

 ごく当たり前に恐怖を抱き、当たり前のように寂しくなり、当たり前のように平穏に恋い焦がれた。

 ただ、それを表に出さなかっただけで。

 誰もそれに気付かないふりをして。

……だとしたら、少年の底に蟠っている感情は、一体どれだけ押し潰されてきただろうか?

 人理修復という偉業を横から塗り潰され、再び世界を救えと命じられた少年は、今度こそ壊れたりしないのだろうか?

 

 これは。

 ただの少年が、当たり前のように、人の善意に潰されていくお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、暗いところは嫌いだ。

 迷路のように入り組んだ闇が、頭蓋に染み込んできて、甘い記憶が犯されるから。

 ああ、明るいところは嫌いだ。

 ゴチャゴチャとした喧騒が、太陽の光のように鼓膜を通して、脳を蕩けさせてしまうから。

 嫌いだ。

 全てが嫌いだ。

 いつか来る明日という奴も、かつて過ごした過去も、全て消えてしまえばいいのに。

 世界は今も全てがあって、自分勝手に全てが回っている。

 だから、切り落としてみたりした。

 嫌な奴とか、負の感情とか。楽しいことだけが世界にあれば、それは何者にも勝る宝石のハズだった。

 けれど、世界はそう単純じゃない。

 何度か失敗して、何度も切り落として、時には付け加えて完成したモノに、自分は納得出来なかった。

 結局のところ、自分には理想の世界なんてモノが分からなかったのだ。

 人類史が成立し、幾星霜。

 理想の世界という根が伸びたことも、樹立したこともない。

 なら、理想なんて分からなくて当然。

 恒久的平和なんて陳腐な願いを、一体誰が叶えられるのか。

 初めからその願いは、叶うわけがない。

 神すら成し遂げられないなら、自分に叶えられるハズがない。

 なのに。

 だから。

 それが分かっても、世界を変える行為を辞めなかった理由はたった一つ。

 それでも。

 ()は、あの人にーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た、気がする。

……見た気がする、だけなので何とも言えないのだが。余りに抽象的な夢だったが、夢とはトンチキなモノだとここ三年で思い知った。それが他人の夢となれば尚更。

 この少年ーー藤丸立香にとって、夢とはそんな感じのモノだったりする。

 

「……夢……というか」

 

 今のはどっちかというと、正夢、的な? これまでの経験則で、何となーく藤丸の勘は何かを訴えていた。

 つまりなんかやべえ。

 えらく大雑把な勘なのだが、それも間違いではなかったりする。

 

「……なんだ、それ?」

 

 藤丸の前に広がっていたのは、個室だった。部屋の間取りは一般的なマンションのそれと酷似している。違いなんかもほとんどない。

 しかし藤丸にはこの部屋に見覚えがなかった。こうやって体を預けているベッドも、フローリングの上に鎮座するガラスのテーブルも。背後にあるキッチンも、やや黄ばんでいる壁も、全てに見覚えがない。

 そして何より、藤丸の視線の先ーー大きな窓には、あり得ない光景が映っていた。

 和気藹々と人々が往来する、日本の町並み。太陽の光を反射した建物はギラギラと輝いて、黄金色の星屑のようになって網膜を焼く。

 もう三年以上も肉眼で見ていなかった光景に、藤丸は脳まで痺れていた。

 半ば呆けたように、

 

「……ここ、日本なのか? いやいや。いやいやいやいやいや、あり得ないでしょ。というか都合が良すぎる。夢だ夢、こんなの」

 

 藤丸が念入りに否定するのも仕方がない。

 何せ今、世界で原形を留めている人工物、自然は一切ない。地球は漂白という馬鹿げた現象によってこの世界は今、滅亡の真っ只中なのだ。

 無論、日本も例外ではない。瓦礫の少しが残っていればマシ、という最悪な状況なのである。

 それに、この三年で藤丸はこんな光景を何度も夢見てきた。いつ終わるとも分からない世界を救う戦いで、気が狂うようなプレッシャーに揉まれて何度も故郷の夢を見てきた。

 だから慣れている。

 現実に裏切られることも。

 両手で頬を思いっきりつねる。ぐいっ、と景気よく行ってみれば、あら不思議。いつの間にか夢の世界からおさらばだ。

 しかし困ったことに、今回はそんな次元のお話じゃなかったらしい。

 

「いひゃい……」

 

 びり、と鋭い痛み。ちょっと唇が裂けた。その上夢から覚めない。ということは……?

 

「現実なのかなあ……マジでか」

 

 覚めない夢、ということは特異点だろうか。時々あるのだ、突拍子のないレイシフト紛いの拉致から特異点にダイブイン。そして意味わからんまま何か胡乱なトリプルトゥループをやらされるのだ。そうに違いない。

 とりあえずベッドなんかに入っていては、いざというときの対応が出来ない。おっかなびっくり起き上がる藤丸。いそいそと近くにかけられていた極地用のカルデア制服に着替える。

 と、そのときだった。

 ぴんぽーん、とインターホンが鳴った。大人しい始まり方に窓から正体不明のアルトリアとかエントリーとかしないだろうな、と不信感マックスでモニターに顔を寄せる。

 そこには。

 白衣の下にセーラー服の、いつも見ている後輩ーーマシュ・キリエライトの姿があった。

 

「……マシュ?」

 

 首を傾げる藤丸。今回のように、一人でレイシフトした場合、マシュまで共に拉致されたという記憶はほとんどない。というか、何でもじもじしてるのだろう。知らない仲でもないのに。戦闘の時は滅茶苦茶破廉恥な格好してるのに。というかやっぱりマシュは眼鏡だよね。

 思考が明後日の方向に逃げかけるのを抑え、とりあえずモニターの下にあるボタンをぽちっとな。

 

「おはよう、マシュ」

 

「お、おはようございます、先輩。午前七時三十分。今日も晴天、絶好の散歩日和ですね」

 

 おや?、と藤丸は再度首を傾げる。

 こんな異常事態、自分はともかくマシュが黙っていない。むしろ慌ててこの部屋に入って、自分の身を守ろうとするだろう。なのにどうだろう、この可愛い後輩はいつもの二割増しで女の子らしくなっている。

 

 

「それでですね……あの、こうしてモーニングコールならぬモーニングピンポンをしたわけで、よろしければ……。

 

 

 

 一緒に、学校へ行きませんか……?」

 

 

 

「……………………はい?」

 

 

 

 どういうことだってばよ。

 思わずそう返せなかった自分に、藤丸はマジで自分がびっくりしてることを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやほんとにどういうことだってばよ」

 

 若葉が生い茂る街路樹の列。舗装されたコンクリートの歩道は、毎日人が通るからか、タイルが擦れて灰色になっている。

 朝の通勤ラッシュもあって、横の車道は満杯だ。エンジン音の間を縫うように、通行人の足音が耳へ届く。

 至って普通。普通の、日本の通勤通学の光景である。

……これが特異点でなければ。

 

「? 何か不都合なことがありましたか、先輩? もしや今日は掃除当番でしたか? 大丈夫ですよ、それなら私も手伝います。掃除のコツなら先輩方から会得してますので」

 

「あ、うん。そういうことじゃ全くなくてね、うん」

 

 何処かも分からぬマンションから出て、マシュと共に歩き出し早五分。何故かあったお揃いの学生鞄を片手に、藤丸は混乱状態にあった。

 マシュと二人、通学路を歩く。うむ、なーんら可笑しくない。ここが特異点でなかったらの話だが。

 

(……どういうことなんだ……? いつもならほら、ナビ役のサーヴァントがいたりするじゃん。横から訳知り顔で来るじゃん。なのにそれすらなし? 何でここに呼ばれたんだ、俺?)

 

 大抵カルデアのマスターという役割を期待されて、藤丸は特異点に赴く。しかしあくまで重要なのはマスターという権利だけ。それ以外に藤丸立香の価値は魔術世界においてない。言わば事態解決のための楔、命綱というわけだ。

 だが、助け船の欲しいサーヴァントはいつまで経っても現れない。それどころか、マシュと一緒に学校へGO!している。未成年の主張が許されるなら、こんなんどうせいっちゅうねん。

 

「……うーん。マシュ、この町の名前は?」

 

「唐突にどうしました? ここは冬木市じゃないですか」

 

「冬木……特異点Fか」

 

 一番最初に修復した特異点。それが特異点F、炎上汚染都市冬木。赤く燃え上がる町並みは崩壊し、空は毒に侵されたかのように黒ずみ、淀んでいたあの世界。

 よく見れば面影がなくもない。遠くに見える都市部。あれは確か最初に特異点にレイシフトした地点に似ている。学校への道も、何処と無く見覚えがあるような……無いような。

 ともかく、

 

「……マシュはこの状況を可笑しいと思わないの?」

 

「え? 何故ですか?」

 

「何故ですかって……」

 

 だって、こんなこと今の地球じゃあり得ない。日本という国どころか、惑星そのものが洗い流された世界に変わり果てたハズだ。それがあり得てしまうということは、ここは藤丸の知る地球ではなく、特異点……それか……。

 そんな疑問を彼女に直接ぶつけようとしたときだった。

 

 

「朝から道の真ん中で突っ立って何してるんだ、お前達?」

 

「邪魔しちゃダメよ。ほら、大事な話をしてるじゃない。男女だからきっと色々あるのよ」

 

 

 聞き覚えのある二つの声が、背後からした。

 

「、マシュ!!」

 

「え? わっ!?」

 

 後輩をかばう形で藤丸が前に出る。既にカルデア制服を起動し、回避のための魔術を装填した。

 背後で並んでいたのは、真っ白な二人だった。

 一人は藤丸と同年代の少年。隈を浮き上がらせ、青白い肌をした顔はややゾンビにも似ている。自分を威圧的に見せるためか、ピアスをしているが、雰囲気から劣等感が滲み出ていた。

 二人目はこの場の誰より年上の少女だった。少年とは真反対の清純の白。ブルーの瞳は氷を思わせるほど透き通っていた。

 カドック・ゼムルプス。

 アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。

 元Aチームのクリプターと、そのサーヴァント。かつて一番目のロストベルトで相対し、くだした相手。

 最大級の警戒をしなければならない、和解などあり得ない汎人類史の敵。

……なのだが、

 

「……何してる藤丸。学校(・・)に遅れても知らないぞ」

 

「ほら、マシュ。あなたも彼の言いなりになっているだけではダメよ? 時には厳しく言い付けないと」

 

 なんか、制服着てた。

 もう一度言おう。

 クリプターと、そのサーヴァントが。なんか、制服着てた。

 

 

「……ハァッッッッ!?!!??」

 

 

 奇想天外に次ぐ奇想天外。

 藤丸立香の受難は、まだ始まってすらいないのだった。

 

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