Lost dream ~超常の目覚め~   作:傍観者改め、介入者

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初登場の逢沢傑君。

青葉がサイドアタッカーに至る理由です。


いきなり話が飛んだと思う方、第三話から読んでくださいね。


四葉ちゃん曇り過ぎ・・・・

早く浄化しないと・・・・


断章 片翼と王様

それはまだ、疾風がそよ風だった頃の話だ。

 

 

小野寺颯との一対一でそこそこの戦績をたたき出していた宮水青葉だが、試合になると、ボールを持っていない時間帯、ゲームから消えてしまうことがあった。

 

愛知県の強豪チームとの練習試合でのことだ。たった数か月で才能の片りんを見せつけた彼だが、早くも壁にぶつかっていた。

 

「——————ボールが、来ないっ」

 

悔しそうにしている青葉。しかしこのピッチにいる者はわかる。万が一彼にボールを持たれると、一気に縦を突破されるというリスクを知っているのだ。

 

 

なら方法は一つ。彼にボールを持てなくすればいい。パスコースを塞ぎ、常にマークを張り付かせる。

 

「くそっ!!」

厳しい寄せに遭い、何とかキープするもファウルで潰される。天性のボールコントロールと脚力、足首の強さを誇る彼でも、

 

 

まだ彼は、サッカー初心者の域を出ない。

 

「ふんっ、お前に乗られると勝負着いちまうからな」

不敵な笑みで、青葉を見下ろす相手チームの選手。カード覚悟のファウルでなければ止められないというのも情けない話だが、それでいい。

 

 

彼の集中力を乱せばいいのだ。

 

「しまっ—————がっ!!」

 

トラップが流れる。いろいろな雑念、主に焦りが彼にボールコントロールする力を失わせる。

 

 

 

体勢が崩れた青葉にプレスをかける相手選手。無防備な背中を晒した彼に逃れる術はない。

 

 

ボールロストからのカウンター。この同点の局面で、中盤でボールを失ってしまう失態。

 

「戻れ、戻れ!! 攻めを遅らせろ!!」

 

主将が何とか声を張り上げるが、前のめりになっていたチームはカウンターをもろに食らう形となっている。

 

 

倒れこんでいた青葉が目にしたのは、自らのボールロストから始まったカウンターで、決勝点を許してしまう自陣のゴール前の光景だった。

 

「———————っ!!」

 

 

自らのドリブルで先制点を奪ったこの試合で、最後の最後、敗戦の一因となってしまった青葉。

 

 

そのまま無情にも試合は終了。結局強豪チームとの試合で競り負けてしまった。

 

「青葉—————」

 

今にも泣きそうなほど、唇を噛んでいる彼を前に、颯はなんて声を掛ければいいかわからなかった。

 

「くそっ、くそっ————もっと鋭く、もっと早く動かないと—————」

 

彼は自分がまだ遅いと考えていた。追いつかれるということは、自分が遅いということだと。

 

 

だが、彼は思い違いをしている。

 

「青葉はまだ、ボールを持っていないときの動きが酷いだけ。一方向ばかりに行くようなら、簡単に見極められるわ」

 

 

ボールを持っていないときの彼は、あまりにも怖くないのだ。

 

「ボールを持っていないときの動き、でも、どうすればいいんだ?」

 

答えを教えるのは簡単だ。だが、ドリブルのように教えるつもりはない、と颯は決めていた。

 

「その答えは、一つではないし、私が答えられるものでもないよ」

 

 

 

負けた翌日、青葉は馬鹿みたいに山を駆け巡っていた。

 

 

もっと強く、もっと力強く、もっと速く。

 

 

今の彼は猪にすら勝る猪突猛進思考に陥っていた。それでも、彼の中で勝つイメージが湧かない。

 

 

2週間、3週間。そして3か月が過ぎた。青葉はひたすら自分を鍛える。止められるのは、自分が弱いからだ。自分の走りがとろいからだと。

 

 

走って、走って、走り続けた。しかし、自分の中であの試合でどうすればよかったのかというイメージが湧いてこない。

 

 

ボールを持てば、相手を圧倒出来た。しかし、それ以外は雑魚同然だった。

 

その間の試合も、自分のボールロストでチームに迷惑をかけることが少なくなかった。だが、指導者である監督は青葉のドリブルを止めるなと言い続ける。

 

 

—————いつかそのドリブルとトライは、報われる

 

 

だから、弱気になるなと。しかしサッカーを始めて半年がたった今、青葉の課題が浮き彫りになっていた。

 

 

 

小学3年生の時、青葉はごり押しのドリブルしかできなかった。しかし、できるようになったことはある。

 

彼は競り合いでほぼ勝てるようになった。相手にファウル無しとはいえ、吹き飛ばしてしまうほど、強烈なフィジカルを得た。

 

いつしか、彼はこのチームのレギュラーになっていた。

 

 

そよ風は突風に変わり始め、パスに頼らず、単独でゴール前をこじ開けるエゴの塊のような選手になっていた。

 

プロの試合ではファウルにすらならないプレーでも、相手選手の痛がる姿でファウルを取られる。情けなく転がる選手を見て、冷ややかな目で見ていた青葉だが、

 

「累積、出場、停止?」

 

痛がっていたくせに、すぐにプレーに戻る選手の嘲笑にも似た視線を向けられ、青葉は体が沸騰するかのような感覚に陥った。

 

————あんな弱い選手に、バカにされた

 

それが腹立たしい。痛がっていたくせに、嬉々としてプレーをする姿が気に入らなかった。わざと転がり、時間稼ぎをする連中もそうだ。

 

 

————あんな奴らに、俺は負けたくない!!

 

怒りのまま、ドリブルで相手自陣を切り裂き、複数得点を決めて見せ、相手選手の泣いている姿を見ていたら、酷く胸が軽くなった。

 

小細工を使う弱い選手には負けない。だが、同時に敵は多かった。理不尽なドリブルでゴールを奪う相手選手。ディフェンスをしようにも、ファウルでしか止められず、ファウルでも止められないときがある。

 

 

自分たちにとって思い通りにいかない存在。精神的に未熟な年代であれば、彼を強烈に敵視する選手も少なくなかった。

 

だが、そんなの関係ない。実力で見返せばいいと青葉は決め込んでいた。

 

だから、曲がりになりにもそれでうまくいっていた。ボールを持っていないときの動きという課題を突き付けられても、彼はそれを解決せずに解決してしまっていた。

 

 

 

同時期、小学4年生の時、全国大会に出た際も、それが原因で準優勝に終わった。相手は世代最高のトップ下と言われる男。

 

後に、伝説のトップ下と言われる逢沢傑。青葉は、彼のプレーをベンチで見ることしかできなかった。彼は累積で出場できなかったのだ。

 

 

————なんで、あの人はマークから逃れているんだ?

 

 

いい位置で、いい態勢で、彼はボールを持っている。仮に詰められても、鮮やかなトラップで躱しきる。無論、トラップで躱すのは自分だってできると、対抗心を露にしていた青葉。

 

 

「くっ、」

 

颯が、傑とのマッチアップを務めていたが、今にも泣きそうな顔で彼を止めようと試みる。しかし、

 

 

一瞬でボールの位置を変えてしまうスルーパスが前線へ。そのままフォワードの選手が得点を奪ってしまう。縦に早いサッカーを体現する存在。

 

自分が必死にドリブルで駆け上がるよりも早く、鮮やかなゴールを演出する彼に嫉妬した。

 

 

 

—————中盤で、体を張らない選手には負けない。

 

足元の上手さに酔い、フィジカルを疎かにした選手にだけは、負けたくない。そんなヒョロヒョロな弱い選手にはなりたくなかった。

 

 

膝の下に置いてある拳の力が自然と強くなる。誰も彼を止めることが出来ない。誰も彼のイメージを壊すことが出来ない。

 

決勝戦とは思えないほど一方的な試合展開。しかし、目を逸らさず、青葉は傑のプレーを見ていた。

 

 

—————不規則な動き、でも、なんでマークが外れて

 

まるで踊るように、不規則なステップを繰り返し、位置を修正し続ける傑。常に首を振り続け、常に周囲に目を向けている。

 

 

ボールだけを見ていた自分とは違い、彼は多くの情報を見透かしていた。

 

—————ボール以外に、見るところがあるのか

 

 

傑の動きは青葉にとってかなり真新しいものだった。久しくベンチに座っていなかったからこそ、分からなかった。

 

 

あそこまで動いてなさそうで、実は相当動いていた傑の動きは、青葉のパサーに対する価値観を変化させた。

 

—————本物のパサーは、一番動いていたのか。

 

 

自分も出来ればいい。自分もあんな風に動きたい。いい態勢、いい位置でボールを受ければ、あれ以上のことはできると断言できる。

 

 

 

その日から、青葉の山岳メニューに新たなものが追加された。

 

 

「じょ、冗談でしょ!? 山の中でそんなことをしているの!?」

興味本位で聞いてきた颯は、顔面蒼白になりながら青葉の練習メニューを聞いていた。

 

 

 

山の中をひたすら駆け巡るのは変わらない。しかし、彼は山の中をやみくもに走り回っているという。

 

 

直線ではなく、ジグザグに。直線では加速できるのは理解している。ゆえに、急な方向転換でどれだけスピードを落とさずに走れるのか。

 

 

最初は転がったり、倒れたり、体勢を崩したりしてしまった。その練習を開始した当初はその進行方向に行くことだけで手いっぱいだった。

 

 

だが———————

 

 

—————弱い心を、全部捨ててやる! もっと! もっと強く!!

 

 

必死な時間が、何よりも貴重だった。上手くいかない、そして自分に出来そうなことだ。急なステップワーク、方向転換。一瞬の加速力。

 

 

同じコースを駆け巡るよりも全身が疲労感に包まれる。山は青葉にとって練習場に等しく、庭のような存在だった。

 

 

ジグザグ山岳ダッシュのトレーニングを積んで3か月。紅白試合でその成果は現れていた。

 

 

—————常に自分の周りを見る、難しいな

 

 

集中力が続かない。こんなにも周りを見るのは難しいのかと、青葉は苦心していたが、山の中で猪から逃げるよりは落ち着くことができる。オオスズメバチの羽音を聞き分け、迂回することだって出来た。

 

 

ならば、このピッチで恐れるものはない。

 

 

————すぐ近くに、張り付かれている。そうだよな、俺対策なら

 

ボールを持たない青葉は怖くない。それはチームの中でも共通の理解だった。

 

 

切り返して、前に。前を向いた青葉は相手が驚いたような顔をしていたのを目撃した。

 

 

—————こんなの、当たり前なんだろ、サッカーなら。どうして驚いているんだよ

 

しかし急な切り返しに対応する相手選手。ここまでは想定通り、青葉はいい態勢、相手は少し崩れた態勢。

 

 

————ワンステップで減速

 

右足で大きく地面をたたく。そして無理やりに減速した青葉。前への前進を警戒していた相手選手と自分の距離が離れる。

 

 

「なっ、青葉がオブ・ザ・ボールの動きを!?」

 

もう理解してからでは遅い。距離を詰めるために最短ルートでマークに入る相手を前に、

 

 

————逆を衝けば、俺とお前の速度で、再び———————

 

 

「逆取り!? 青葉、貴方—————」

 

パスの出し手は奇しくも颯だった。完ぺきな抜け出し。青葉らしからぬプレースタイルが出て、動揺が走っている。

 

まるでその動き出しに合わせるかのように、彼女は彼にパスを出した。完ぺきな動き出しと完璧なパス。

 

 

その二つが合わさり、バイタルエリアで一気に危険な存在へと切り替わった青葉。

 

「ディフェンス寄せろ!! ドリブルコースを消せ!!」

 

「切り込んでくるぞ!!」

 

 

—————俺は、あんたのようなパスセンスはまだない。

 

脳裏に浮かぶのは、自分の前でパスを披露した全国大会優勝を牽引した傑の姿。彼のようなパスセンスも、技術もない自分に残されているのは、ドリブルと——————

 

 

 

—————くらえ、俺の秘密兵器!!

 

 

左足に信念を込める。これが自分の新しい姿なのだと。特訓の成果なのだと。

 

 

「なっ!?」

 

思わず立ち上がる監督。青葉はこの状況でも以前はドリブルで突貫していた。そしてそれで突破してしまうから末恐ろしかった。

 

まるで動きの速さが違う、日本人離れした、子供離れしたスピードが、彼の持ち味だった。

 

そこに、また新たな武器が加わる。

 

 

小さいモーションから、目を疑うようなミドルシュート。強烈に、そして地面から伸びあがるような弾道が、ゴールネットを突き刺したのだ。

 

 

「—————あ、あ—————っ」

キーパーは、今まで見たことがないシュートスピードに腰を抜かし、反応できなかった。無論、ディフェンスをしていた選手たちも同じだ。

 

ざわめきが収まらない。青葉はこの瞬間、選手としての殻を破った。

 

 

—————これが、オブ・ザ・ボール。そうか、俺に足りなかったのは、これか

 

 

真ん中でプレーをしていた時、これが足りなかったのだと。

 

息を呑む周囲をよそに、青葉はひたすら笑っていた。もやもやが消えて、気分は爽快だった。

 

「—————私、本当に天才を掘り起こしたのかも」

そんな彼を連れてきた颯は、この日を境に彼がまた爆発的に伸びるのだと確信していた。

 

失意のうちに終わった、小学4年生のシーズンが終わり、秋にはいる寸前の事だった。

 

 

そこからの2年間は、周囲の小学生を圧倒し続けていた。

 

翌年の試合では、準決勝で傑のチームと戦うことになった青葉と颯。今大会では累積すら気にする必要がなくなった彼を止められる選手は存在せず、

 

 

「くっ!」

 

傑は、初めて目撃する本物の怪物を前に、止めることを諦めてしまう。

 

————このチーム力では、彼を止めるのは困難だ。かといって

 

守備に人数を掛ければ、彼の飛び道具がさく裂する。そうなってくると、ますますドリブルで詰められ、嬲り殺しにされる。

 

今目の前でもステップワークで味方選手を翻弄し、上手くマークを外し、致命傷に迫る攻撃を繰り返す青葉の姿。

 

実際、マッチアップしてすべての面で自分が彼に勝てないことを痛感した傑。一つ下の世代、自分の弟と同じ年代で、こんな怪物がいたことに喜びを感じてしまう。

 

————なんで笑っているんだ、この人

 

右方向へのシザースを連続で繰り出した青葉。一つ目のシザースで軽くプッシュするように前進し、二つ目で鋭いシザースを繰り出し、揺さぶりをかける。が、これでは傑は抜けない。

 

ならばと右へのダブルタッチ。素早く横にスライドし、一瞬の加速力で傑の真横に抜けだした青葉。これには傑も焦りの表情を見せる。

 

 

—————ダブルタッチだけで、なんて切れだ。

 

どんな足首の強さを、どんな体幹の強さを持っているのだろうと、傑は感心してしまう。

 

 

完全に抜け出た青葉は、これをアドバンテージと考え、一気に傑の前に出る。

 

—————スピードを落とすな、抜いたのなら前に出ろ!

 

これだけだった。ここでスピードダウンし、追いつかれるぐらいなら縦に切り込んでいく。そのほうが後悔はない。

 

自分のドリブルが、未熟だった。課題が見つかるのだから。

 

 

どんどんその背中が傑から遠ざかっていく。出鱈目な速さと、出鱈目なフェイント。いい意味で日本人らしくなかった。

 

 

そして、その積極的な仕掛けを前に、傑は完敗を認めた。

 

 

————ここにも、日本の未来を変える存在はいたのか

 

 

エリアの騎士だけではない。ピッチを支配する疾風が、そこにいた。

 

 

王様と騎士に齎される、勝利を運ぶ風。司令塔だけでは潰される。騎士だけでもパスが来なければ何もできない。

 

 

王様と騎士を守り、彼らの力になる存在。それが、傑の想像の先に存在した最後のピース。

 

その存在こそ、エリアの疾風。

 

前半早々にハットトリックを決めてしまった青葉は、後半も猛威を振るい続け、去年の雪辱を果たす大勝を、チームに齎すことになる。

 

 

 

この日から、青葉のサッカー観が変わる。飛び道具も、クロスボールも、傑という見本から生まれた。

 

自分だけで局面を変えることのできる武器。それは多いほどいい。

 

 

 

「あの距離から撃つのか、青葉」

試合後、その主将である傑は、相手チームの青葉に声をかける。ようやく、初めて会話を交わした存在とのやり取りに、青葉は少し緊張した。

 

「シュートコース開いていたし、何しろみんな油断していたから」

朗らかに言ってのける青葉を見て、傑は思う。

 

エリアの外でフィールドを駆け巡り、エリア付近でいつも決定的な仕事をする。

 

フィールドを疾走するその姿に、かつての怪物の名を連想する。

 

 

フェノーメノ。ポルトガル語で超常現象、怪物という意味を持つ言葉。

 

 

実際、彼がボールを持てばどのポジションでも何かを起こしてしまう。相手チームの度肝を抜くようなプレーをしてしまう。

 

――――いつかお前が前線で、俺が中盤で―――――

 

その未来は、そう難しいものではないと思っていた。

 

 

 

試合に負けたことは悔しいが、彼という存在に巡り合えた。恐らく、今後彼とは何度も会うことになるだろうと。

 

 

それからだ。彼と傑の交流が始まったのは。

 

逢沢傑は青葉の脚力はサイドでより活きてくるとアドバイスを送る。後の最速サイドアタッカー誕生秘話だ。

 

 

「エースストライカーを目指しているんだけど。サイドっていうと、ウイングっていうポジション? 4-4-2が主流の日本サッカーにウイングの余地なんて――――MFは嫌だよ。ゴールに近い場所でプレーしたいもん」

 

知識を身に着けて、駄々をこねるようになった青葉。傑の助言に対して嫌そうな顔をする。

 

「お前の脚力は、スピードに乗せると止めるのが困難になる。だから相手チームはお前にスピードに乗らせないことをさせてくるはずだ。プレッシャーの薄いサイドでこそ、お前の突破力は活きる」

 

それに、傑は試合中で見せた青葉のある特技といってもいいスキルに着目していた。

 

――――強さだけではない。その自在なフェイントを支える足首が

 

繊細なボールコントロールを生み、良質なクロスを上げられる稀有な選手であるということだ。

 

「でも――――」

クロスボールで得点を演出しているところまで見ている傑に、青葉は押し黙ってしまう。

 

 

「カットインというプレーを知っているのか?」

 

 

「うん。他の人がいつも失敗する奴だよね? 真ん中でプレーしていても思うけど、何も見ていないよね。」

 

ただ目的地に行こうとしているだけ。見せかけのフェイント。見え見えなのだ。

 

フェイントは相手の反応を見てやるものだ。ボールしか見ていないフェイントは、技を見ればどこに行くかも簡単に分かってしまう。

 

 

「――――できるようになれば、それがお前の十八番になる」

真剣な目で語る傑に従い、以降サイドでプレーするようになった彼は、これまで以上にゴール前を蹂躙するようになる。

 

結果的に彼の助言が活き、チームにとって攻撃を支える欠かせない存在へとなった。

 

「けど、真ん中で戦えるフィジカルを持っている選手なんて、うちにはいないよ」

 

「それはそうだが—————」

 

 

「意識が高いのはいいことだと思う。けど、やっぱり合わせられる人がいないとね。ん?」

青葉は、視線を感じたので会話を止める。誰かに見られているような気がした。

 

背後を見ると、傑の面影を感じさせる少年が走り去っていくのが見えた。

 

「————はぁ、あいつもお前の前に出てくればいいのにな」

ため息とともに、傑は疲れたような顔をする。

 

「おっ、あの子は。中々いい場所に位置取りする子じゃないか」

なぜかゴール前の決定的な場所にいる。対戦する機会はなかったが、なぜかボールが転がり込んで、押し込むことが妙に多い選手。

 

ペナルティエリアで、何かをかぎ分けているかのような存在。他者には見えない、彼だけの世界を見据える者。

 

青葉は、それほどのスケールを彼に感じていた。

 

 

「俺の弟だ。いいものは持っているんだが、如何せん精神面でいろいろ課題があってな。何とかしてやりたいんだが」

 

「—————けど、俺は助けるつもりはないよ。精神的なものは、自分の中で答えを見つけるしかない。俺は実体験で経験したし」

 

敢えて厳しいことを言う青葉。甘い言葉を言わない彼の言動に、満足げな傑。

 

「お前がせめて県内だったらな。甘い言葉を言うばかりの中に、お前の言葉はよく効くんだがなぁ」

 

周りは甘すぎると、傑はお冠だった。意識が高いと、こうも気苦労が絶えないのだと青葉は聞いて損した。

 

しかし話を聞く限り、色々と精神的弱すぎるなぁ、と思う青葉。

 

————まあ、いくら才能があっても大成しない選手はざらだし

 

 

この時はまだ、彼に会う価値もないと考えていた。取るに足らない存在で、高校サッカーまで生き残るかすら分からない奴だと考えていた。

 

一度目の世界では知らず知らずのうちに彼の心を折り、二度目の世界では彼に巡り合う。

 

 

真・黄金世代と言われる日本サッカーを支えることになる——————

 

この時はまだ、知る由もなかった。

 

 

「なぁ、青葉」

傑は、青葉に語り掛ける。彼がこんな風に他者に対して馴れ馴れしい言葉を使うのは、弟以外にいないかもしれない。

 

「—————どうしたよ、王様」

いつもの彼らしくない。青葉は怪訝そうに尋ねる。いつもの君らしくないと。

 

「俺も、プロとして、日本代表を目指す者として、いつまでもアイツの面倒は見切れない。だから、お前には弟の道標であってほしいんだ」

 

 

「—————傑がやればいいだろ? 王様なら他者を魅了するなんて造作もないだろ?」

どうしたんだ、いつもの彼らしくないぞ、と不安になる青葉。

 

「分からない。けど、お前はなんだかんだ、弟の才能を信じてくれた。誰もまだ信じていない、あいつの才能を」

それは、傑らしくない弱音だった。自分では、弟の才能を目覚めさせることは出来ない。その気にさせることが出来ないと、弱いところを見せていた。

 

 

「まあ、偶然にしては出来過ぎだからな。フィジカルのなさを理由に、フォワード失格なんて周りは言うが。背の高さは知らないけど、フィジカルをある程度鍛えることだって出来る」

青葉は、あれを偶然と片付けるには不自然だと断言する。同じフォワードとして、あれは明らかに計算して場所取りをしている。彼には確かな確信が存在していると言っていい。

 

 

「—————だからだ。万が一、俺に何かあったら—————」

 

 

「おいおい。縁起でもないことを言わないでくれよ、王様。日の丸背負うんだろ? 俺とあいつと王様で、世界制覇するのが、野望なんだろ? ったく、わかりましたよ。けど、俺はスパルタだからな。弱音を吐いても、聞く耳持たないぞ?」

あんまりにも必死な願いに、弟の才能を本気で目覚めさせてやると約束する青葉。

 

 

「ありがとう、青葉。やはりお前は、俺が最も信頼できる、片翼だ」

 

 

 

そして、王様は運命の日を迎えた。

 

 

 

 

—————お前に、全部託す。

 

 

一人のサポーターとして、彼の成長を祈る。

 

 

—————もしお前が、少しだけ我儘になったら

 

 

それでも、思い描いた絵にはなるとは限らない。王様にとって、彼は理想の騎士になり得る存在だった。しかし、彼はどんな理想を思い描いているのか、さすがの王様も完璧に推し量ることは出来ない。

 

 

ほんの少し、彼の理想が、王様の理想と違っていたのなら

 

 

————王様に従うだけの騎士で、満足するなよ、駆

 

 

その先の未来、駆がどんなプレーヤーになるのか。

 

 

————俺は、あいつと仲良く、お前らの成長を見守るだけだ。

 

 

王様は暗闇の中で光る、彼の未来を見守り続ける。すると、その隣に現れたのは、片翼と瓜二つの存在。

 

 

—————もういいのか?

 

 

————ああ。今はあいつらをただ見ていたい。

 

 

自分たちの想像を超えた姿を、見ているだけでいい。

 

 

 

 

―———————————————————————————————————

 

 

 

 

 

 

宮水四葉は覚えている。岐阜市内の学校に通うことになっても。兄の想い人だった女性に渡った、首紐を想いながら。

 

「—————四葉ちゃんって、すごい綺麗だよねぇ」

 

「というか、凄い大人~」

 

岐阜県下の進学校に通う少女は、その機転の早さと兄譲りの洞察力で、圧倒今にクラスの中心人物になっていた。

 

同性からは尊敬の念を。異性からは、時々告白をされるほどに。頭脳明晰で、器量よし。スポーツ万能ではないがそこそこ。しかしそれが逆にいい。

 

さらには時折夕日を見て愁いを帯びた表情をする彼女の姿は、何か目を奪われるものであると、同級生たちは語る。

 

「四葉ちゃんって、誰かを待っているの?」

 

ある友達に、そんなことを言われた。その際彼女は、核心を突かれたことにどきりとした。

 

「—————ううん。待っても意味がないってわかっているから」

割り切れない思いは、にじみ出てしまう。彼女はまだそこまで大人ではなかった。

 

「もしかして、四葉が言ってた神奈川にいるお兄ちゃんの事? すごいよねぇ、岐阜県下じゃ、知らぬ者はいないほどのサッカー選手。サイン貰っちゃったときは、感動したかも」

 

「—————」

四葉は何も言わない。答えられないのか、図星を突かれて言葉に詰まっているのか。

 

「世間体だと兄妹の恋愛って、禁断の領域とか言われるけど、あの人なら仕方ないかも」

 

「まあ、そうだよね!」

 

友人たちは兄の話で盛り上がる。彼女にとって彼は自慢の兄だ。器量よしで、サッカーの天才、性格もいい。

 

思春期の女の子たちにとって、憧れのお兄さんといったところか。

 

————お兄ちゃんは、まっすぐ過ぎるんよ

 

想い人の夢を取り戻すために、世界一つ壊したのだから。恐らく、自分が記憶を持ってしまったことは、想定外だったのかもしれない。

 

————でも、悟らせないから。

 

今いるお兄ちゃんには、今の自分は隠し通すから。考えても意味のないことで、悩む必要がないくらい、色々なことに挑戦しようと心に決めたから。

 

————お兄ちゃんがどうなっていくのか、家族として、見守り続けるから

 

兄の駆け抜けた3年を胸の奥にしまい、今日も宮水四葉は優等生を演じる。

 

その思いが彼に届くまで。

 

 

 

 




なお、江ノ島では二列目、中盤とあらゆる場所をたらい回しにされる模様。

青葉「俺、サイドアタッカー志望なのに。仕方ないかぁ・・・」

世代別代表監督桜井「いつまでサイドアタッカー縛りしてやがる」

岩城「他の人も育成したいんです。ごめんなさい」

達海「ん? サイド(SB)やりたい? 実力見せてくんねぇとなぁ?」

青葉「タ、タツミサン・・・・」

果たしてプロ編で青葉の運命は・・・・
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