Lost dream ~超常の目覚め~   作:傍観者改め、介入者

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お久しぶりです。年内に何とか投稿することが出来ました。

サッカー小説は初めてですが、挑戦したいと考えていました。




超常に至る
プロローグ Restart


2015年  隅田川スタジアム  リーグジャパン 開幕戦

 

 

超満員の隅田川スタジアム。

 

 

万年降格争いに巻き込まれるお荷物クラブチーム、イースト東京ユナイテッドは、昨年オフに驚愕の補強を断行していた。

 

若き日本のエースにして、U-17代表の背番号10番。神童と謳われ、その才覚を世界に見せつける前に早逝した兄に代わり、夢を追い続けるニューヒーロー。

 

今年の選手権では大会ベストイレブンにして、得点王に輝くなど、16歳にして輝きを放つ。

 

 

もう一人は、その司令塔と共に高校サッカーを席巻した、超常現象。

 

その強靭な脚力は、突風を想起させる速さと力強さを誇り、トリッキーなフェイントは相手ディフェンスを瞬く間にかき乱してしまう。

 

その両足から繰り出される正確なキックは、彼のチームに何度も歓喜の瞬間を届け続けた。

 

—————彼のプレーは、あまりにも速過ぎた

 

 

すでに高校レベルを超越した二人の動向に注目するクラブはいたが、まさかこの早い段階での接触と、彼らに椅子を用意してしまうチームはいなかった。

 

————彼らは、あまりにも速く、決断してしまった。

 

 

それでも彼らは高校1年生、そして2年生になる直前。トップチーム昇格はまだまだフィジカルが出来ていないなどといった理由で見送られることが多かった。

 

 

「うわぁぁぁ……こんなにスタジアムが埋まるなんて」

 

イースト東京ユナイテッド広報、永田有理は、新監督就任と、期待の強化指定選手という大きな話題をひっさげていたとはいえ、ギリギリどころか座席が完全に埋まるような状況に目を白黒させていた。

 

 

「ああ。これは予想外だ。近年稀に見る観客動員数だ。しかし、ここにウチを純粋に応援しているサポーターの数はまだまだ少ないだろう」

 

しかし、驚異的な観客動員数を前に冷静な見解を述べるのは後藤GM。弱小と言われたイースト東京ユナイテッドのGMを務める中年の男性だ。

 

確かに話題性は一番だっただろう。往年の大スター選手が、今度は監督として帰ってきた。

 

 

その彼の就任に間に合わせるかのように、かつての彼を彷彿とさせる「ボールを持てば、流れを変えられる」選手が二人も加入してきた。

 

 

開幕前のプレシーズンマッチでは、あの昨年王者東京ヴィクトリー相手に3対2で競り勝った。いくらプレシーズンマッチとはいえ、下位チームがあの王者を破ったことは大きな話題を生んだ。

 

続く昇格組のFC札幌戦では、ETU既存攻撃陣が奮起。二人の16歳に感化されるように司令塔吉田、ベテランフォワード堺が奮起。5対0の圧勝劇を演じた。今年の彼らは違う、今年就任した彼の言葉は出任せではないと知らしめるマッチとなった。

 

 

 

 

大きな期待を背負い、彼らはホーム開幕戦で大旋風の序章を演じ切ろうとしていた。

 

 

『さぁ、この試合撃ち合いの様相を呈してきましたが、イースト東京ユナイテッドの攻撃陣が大爆発!! 若き黄金コンビが躍動しています!!』

 

 

後半40分。スコアは4対2。しかし、このゲームは現在のスコアが想像できないスタートとなっていた。

 

 

前半早々に不運なループシュートに先制点を奪われてしまい、さらに————

 

 

「うおっ!?」

 

ディフェンスの黒田が振り切られる。中盤のスペースを使われたETUが反撃に遭い、そのまま失点。

 

『磐田早くも2点目!! 前半18分!! ETUは攻守がチグハグですね。攻撃陣が上がり過ぎているのか、守備陣が下がり過ぎているのかさえ、わかりません。空いたスペースを中盤とサイドが埋めようとしていますが、中々厳しいですよこれは』

 

 

 

しかし、3分後————————

 

 

ついにあの男の一撃がさく裂する。

 

 

「青葉ッ!」

 

中盤でボールカットした村越からのパスを受けた背番号17のドリブル。右サイドでプレーする彼は、彼の声よりも先にパスを受ける態勢に入っており、マークとして張り付いていた相手選手の背後に回り込み、そのまま一気に加速。

 

 

難なくマークを振り切り、ボールをいい位置で受けるどころか、前を向いた状態となり、得意なプレーに専念する形となった。

 

「このガキ!! なんて足してやがる!!」

 

一歩遅れれば追いつけない。スペースがあると判断すれば、迷いなくドリブルを開始するその積極性は、開幕戦の相手、ジャベリン磐田を翻弄する。

 

 

そして—————

 

 

『クロス頭で合わせたァァァ!! ETU反撃の一発!! 決めたのは先発出場の21歳の世良!! 今シーズンチーム第一号を決めました!』

 

 

「ナイスクロス青葉!」

 

「おっしゃぁぁぁ!! 反撃開始だァァァ!!」

 

世良が抱き着き、黒田からの激励を食らうのは16歳の超常現象。そんな彼は、このプレーで乗ってきたのか、磐田が次第に止めることが出来ない存在になっていく。

 

 

しかし、尚も磐田は支配率で上回り、ETUを押し込む展開に。だが、その上げ過ぎたラインが命取りとなる。

 

 

『ああっと、左サイドの逢沢がボールをカット! そして吉田へ! 宮水走り始めている、すでにトップスピード! 縦にパスが入る!!』

 

ツートップの一角を担う逢沢のプレスが、パスワークでスキを窺う磐田の急所を突いたのだ。反転しながらボールを奪い、前に走り始めていた吉田にパスを供給。

 

 

そして、逢沢がボールを奪った瞬間から、超常現象は動き始めていたのだ。

 

 

『裏に抜け出したァァァ!! さぁ、完全な一対一! 決められるか!? 振り抜いたぁァァァ!!! 同点ぇぇぇぇ!!! 同点だ!! 前半終了間際!! ETU同点に追いつきます!! 高速カウンターから決めたのは、若き日本の韋駄天! 宮水青葉!! 完璧な動き出しでしたね!』

 

『左サイドからのダッシュは見事ですね。ボールを貰う前からイメージ出来ていたんでしょうね。しかし最後は振り抜きましたね』

 

 

宮水の裏抜けを警戒した磐田は少しずつラインを下げてしまい、ETUを苦しめたパスワークが崩壊。試合は切り札を隠し持つETUペースに代わる。

 

 

そして後半10分——————

 

『ああっと、仕掛ける、仕掛けていく、躱す!! 逢沢二人目も抜いた!! 抜け出した!!』

 

 

するするとサイドからドリブルで寄ってくる相手を切り返しで躱していく逢沢。バイタルエリアで、吉田へのパスを選択したかに見えた。

 

『横パス————ワンツー!? ああっとシュートぉぉぉぉ!!!』

 

吉田へのパスと思われたボールは、吉田を使ったワンツーだった。そのパスをダイレクトではたいた吉田のパスの先には走りこんでいた逢沢の姿が。

 

逢沢、吉田のゴール前での動きに翻弄された磐田ディフェンスはこのプレーで崩壊した。

 

『こぼれ球、押し込むゥゥゥ!!! 勝ち越しぃぃぃ!!! 逢沢のミドルシュートのこぼれ球、押し込んだのは背番号20 世良!! 今日2点目!』

 

チームメイトに押し倒される世良とサムズアップを送る逢沢。これで勝ち越し。ミラクルな展開にサポーターも興奮状態だった。

 

「おらぁぁぁ!!!もっと盛り上げろ!! ホーム開幕戦での逆転劇だ!!」

 

「声出せぇぇぇ!!!」

 

 

磐田にとってみれば想定外が続くリーグ初戦。最も大きな誤算は、16歳が期待の若手を蹂躙する光景だろう。

 

実績十分のレギュラーが、16歳の小僧にすべての面で敗北しているということだ。

 

左サイドバック若手の山田は歯噛みするしかない。しかし、そんな彼が16歳の少年に無様な姿をさらし続けている。

 

————化け物め、どうすればこんな日本人が現れる!?

 

何度もサイドを突破され、オーバーラップを封殺されている。自慢のクロスボールを上げる前に潰される。

 

————なんでこいつの相手をしなきゃなんないんだ!!!

 

 

今年加入したばかりとは思えない連携で、右サイドで圧倒的な優位を保つ少年と、

 

—————青葉の奴、ホントカバーリングが上手いなぁ

 

右サイドでコンビを組む石浜は、オーバーラップの際にリスク管理を徹底してくれる彼のおかげで自信を深めていた。

 

—————守備の選手が攻めあがってくれた。なら、その時は攻守交代だ

 

保守的と思われるような発言だが、フォア・ザ・チームの精神を捨てない熱い心にも思えなくはない。

 

 

日本代表を軽く圧倒した彼は、そのままバイタルエリアに進んでいく。

 

 

「コース塞げ!! 背後を取ってくるぞ!!」

 

クロスボールで勝ち越しゴールを奪われてしまった磐田。シュート性のクロスボールに合わせた世良の決勝ゴールを思い出した彼らは、少年のクロスボールを警戒し、中を固めてきた。

 

「一人いけ、簡単に上げさせるな!!」

 

そして、フォアチェックに向かうボランチ。サイドバックが完全に振り切られ、枚数に不安のある磐田の決死のディフェンス。これ以上の失点は勝敗を決するものとなる。

 

————こいっ!! もう一度押し込んでやる!! 青葉ッ、俺にくれ!!

 

眼で語るのは世良。もう一度ゴールを奪うと鼻息が荒い。

 

 

右足でのクロスボールを上げる態勢となった少年。それを見たボランチの選手はクロスボールを警戒する。彼の右足からの速いクロスで失点を喫したのだ。それもドリブルしながらのクロスボール。あれほど正確なボールを蹴られる彼が、やや速度を落としたうえでのクロス態勢。

 

 

—————上げたら、やられる!

 

 

だが、

 

「————————」

 

 

左足の足裏でボールをストップさせ、さらに左右へのボディフェイント。

 

足が止まり始めた状況下での気迫のディフェンスは、最悪の状況を生み出した。

 

 

身を投げ出してしまったボランチ。我慢することが出来なかった磐田のディフェンス。少年一人にプロクラブのチームが翻弄され続ける異常事態。

 

キックフェイントに対応できたボランチは、左右のボディフェイントでひとりでに体勢を崩してしまう。まるで、少年に道を明け渡すかのように。絶望的な表情で、プレーを続行する少年を見ることしかできない。

 

 

少年に対するプレッシャーは皆無となった。

 

 

世良の動きで綻んだディフェンスを見逃すほど、彼は甘くもなく、容赦もなかった。

 

「さすがだね、青葉」

 

中央右寄りの位置へとポジショニングしていた左サイドの選手、同じく16歳のエースが彼のクロスボールを胸トラップ。

 

「この、ちょこまかとっ!!」

 

センターバックを背負いながらのポストプレー。体格に劣るはずの彼は、そのプレッシャーを受け流しながらボールをキープし、バックパス。

 

「あっ!!」

 

弱気なバックパスに見えただろう。切り込んでいく勇気を見せなかった消極的なプレーに見えただろう。しかし、彼のパスした相手は、中央から走りこんできた司令塔だ。

 

「僕を走らせるなんて、生意気だね」

 

涼し気な笑みを浮かべながら、ダイレクトでそのボールを蹴りこんだのだ。

 

 

————あっ!? 俺の背後!? やべっ、走りこみ過ぎた!!

 

世良はパスがずれたことを悟り、慌てて戻ろうとするが急には止まれない。空いたスペースへとボールが向かってくるのを背中越しで見ることしかできない。

 

 

「—————さすがです、王子」

 

全ての視線が司令塔に集まった瞬間、彼は影となり、その突然空いたスペースを見逃さなかった。

 

背番号19の少年は、この絶好機でボールを保持していた。そして—————

 

 

『ダイレクトぉぉぉぉ!! ゴォォォォル!!! 何ということだ、何ということだァァァ!! 16歳になったばかりの新星が、揃って開幕戦でゴール!! 逢沢駆、リーグジャパン初ゴール!! アンダー世代のエースストライカー、最後の最後にダメ押しの一撃! 磐田にとどめを刺しました!!』

 

背番号10の吉田からのダイレクトパスにダイレクトボレーシュートでゴールに叩き込んだ駆。キーパーが反応できないゴラッソであり、磐田の闘志を完全に折る一撃だった。

 

 

そして——————

 

 

『ここでホイッスル!! 4対2!! ホーム開幕戦を白星スタートのETU!! 不運な形での先制点を奪われ、さらに追加点も奪われる苦しい展開の中、2点差をひっくり返す大逆転勝利!! 今年のETUは何かが違う!!』

 

 

『前半終了間際のカウンターは凄かったですね。4対2の局面で、サイドからの強烈な走り込み。一気にサイドから抜けた宮水選手のスピードは、磐田サイドに強烈な印象を与えたでしょう』

 

 

サイドにスピードのある彼がいることは承知していた。しかし、あの高速カウンターで身をもって知ったのだ。

 

彼を相手にこれ以上ディフェンスラインを上げるのは危険だと。

 

失点後、守備的な戦術を取った磐田だったが、それすら無意味。怒涛の攻撃を見せるETUと、その勢いに完全に飲み込まれ、世良に勝ち越しゴールを決められてしまった。

 

 

 

 

綻んでしまった流れと、手放した主導権はもはや元には戻らない。上位クラブチームの面影を完全に破壊しつくされた磐田は、戦意を叩き折られたうえで惨敗した。

 

たった二人のサッカー少年によって運命が大きく変わった磐田。この開幕戦での惨敗があったものの上位争いを演じる地力はさすがだが、達海監督の言う、最初の赤っ恥を晒してしまった。

 

 

『リーグ・ジャパン開幕戦で、1ゴール1アシストと1ゴール、ですか。宮水選手もすごかったですが、前半の反撃の狼煙を上げる得点シーン、逢沢選手のプレスからボールが奪えたんですよね。あのカウンターの際に吉田選手と宮水選手を認識できていたことは、さすがの冷静さでしたね』

 

 

『普通はドリブルしたがるはずですよね。そして、そんな前線の二人をサポートするかのようなフリーランニング。あれで磐田の守備は完全に崩されていましたね』

 

冷静にどうすれば得点が生まれるかを考えた駆から生まれた、起点だった。

 

『ゴールを奪うというビジョンが共有できていた、というより、逢沢選手の動き出しで二人が共有できた、と言っても過言ではないですね。とはいえ、二人もプレーのレベルが高いですよ』

 

 

 

 

「いやぁぁ、こりゃあ嬉しい誤算だねぇ!」

 

 

—————倉茂のおっちゃんとは、開幕で当たりたくなかったが、俺の予想以上だな

 

あの不運な形でゴールを奪われた際、ディフェンス陣は消極的ともいえるほどディフェンスラインを下げていた。確かにあのゴールは予想外だが、センターバックの二人は切り替えが出来ていなかった。

 

その後前半はプランが崩壊して、追加点を奪われる最悪の展開。これには達海猛監督も苦笑い。

 

しかし、そんな中世良の得点で一点を返すと、終了間際でのカウンターで同点に追いつく。

 

逢沢、吉田、宮水、高速カウンターだ。これにより、宮水の突破を警戒した磐田が下がることで、この問題は前半程指摘されるような弱点とはならなかった。

 

————まあ、あんな日本人離れした突破を見せられたら、誰だってああなる。運がなかったな、おっちゃん

 

 

類稀な脚力とクロスボール、フィジカルを備え、さらには決定力。そんな選手がフォア・ザ・チームを遵守する。

 

そんな選手が相手だったのであれば、打てる手は限られてくるだろう。あれは突風や台風のようなものだ。嵐が過ぎ去るまで、立ち向かう選手は凌ぐしかない。

 

 

「——————聞いていないぞ、あんな化け物を二匹も飼っているなんてな」

 

苦々しい顔で、試合後の握手をする倉茂監督。勝てるはずだったゲームを叩き壊された彼は、悔しさを隠そうとしない。

 

「俺も驚いたね。あの年齢で、ああいうプレーのできる奴らが日本にいたのかぁ、って。ま、俺の言葉が真実になるし、こっちとしたら助かるんだけどねぇ」

 

ニヒヒ、と笑う達海。

 

「またカモにするからよろしくね、倉茂のおっちゃん」

 

 

「ふん。なら精々足を掬われないようにな、達海」

 

 

 

ベンチ裏へと引き下がる両軍監督。こうして、開幕戦を最高とはいかないものの、勝利で飾ることになったETU。

 

開幕戦に勝利した選手たちは様々な顔を見せていた。

 

「な、何とか勝てた—————」

嬉しさよりも、疲れ切った表情の逢沢。勝てた嬉しさよりも、ほっとしたという要素が大部分を占めている。

 

「なんだよなんだよ!! カウンターからの得点の起点だったり、ダメ押しゴールだったり、大活躍だったじゃん!! 可愛くねぇなぁ、もう!」

 

世良に肩を組まされ、苦笑いの駆。この試合は2得点といきなり活躍の彼は、とても上機嫌だった。サイドやトップ下は、まずは自分を見てくれるという安心感が、彼のモチベーションを上げていた。

 

 

「2点を先行されるのは悪い形だ。もっとディフェンスに関しては修正するべきところがあるな」

 

村越は、勝利よりもこの失点の仕方について、そしてその後のプレーについて見直すべきだと考えた。

 

「そうだねぇ。前半、中々ボールに触れなかったのは、優雅ではなかったよ」

その視線は勝利に騒いでいる黒田とそれを宥める杉江に向けられていた。

 

「——————」

そして、悔しそうにしている椿の姿も。スターターとしてプレーシーズンの途中までは好調をキープしていたが、何か自分に物足りなさを覚えており、自分の課題と向き合うことになる。

 

このいきなり層の厚くなった前線と中盤で自分を見せるにはどうすればいいのか。

 

————このままじゃ、このままじゃ、いつか試合に出られなくなる

 

 

そして、宮水青葉は厳しい表情を浮かべていた。

 

 

勝利に騒ぐ者、危機感に駆られる者、課題を冷静に受け止めている者、課題を探す者。

 

 

彼らが本当の強豪になるために、一つのチームになるためには、まだまだ時間が必要だった。

 

 

 

そんな彼ら選手の様子を黙って観察していたのは、達海猛監督。

 

————なるほど、重傷だ。

 

 

達海の脳裏に浮かぶのは、開幕戦の失点の仕方とそれ以降の絶望的な前半の戦いぶり。宮水のゴールがなければ、嬲り殺しにされていただろう。

 

開幕戦での大敗。無論、達海は勝利を目指してはいるが、目先の勝利を掴んだままではこのチームは成長できないと考えていた。

 

—————勝利しながら課題を見つけ、成長できるんなら、言うこと無いんだけどなぁ

 

 

中盤の層は厚くなった。攻撃陣は決定力のある選手が増え、何より世良の運動量を活かせるパサーが三人に増えた。

 

実際、左サイドの逢沢がいい位置にいるおかげで世良へのマークが分散する。サイドからは逢沢と宮水がデュエルで勝利していた。

 

スターターとして、ボランチで上下運動を繰り返し続けた椿は、攻守に貢献していたとはいえ、まだ本来の能力を半分も出せていないように思えた。何か、不慣れな様子で、判断が遅い。その上釣りだされやすい。経験の浅さが悪い方向に出ることがあるかもしれない。が、センスのあるパスやプレーが随所で見られる時間帯もあり、何か彼の可能性に賭けてみたいと思えるのだ。

 

 

—————何かあいつのメンタルがハマった時、あいつはすげぇ選手になる。

 

そうなれば、いよいよ攻撃陣に隙がなくなっていくだろう。俊足の選手が前線に二枚。サイドにも足の速い選手が推進力となり、中盤はパスを左右に散らし、落ち着かせることのできる選手とジョーカーになり得る存在。控えも悪くない。

 

—————だが、早いところ失点からの悪癖を何とかしなきゃいけねぇな

 

 

前半の運動量は、過剰ともいえた。サイドでは日本代表を気迫で封殺した逢沢。常にボールホルダーにチェイシングし続ける世良。実際彼らの動きは、中盤が忙殺されていなければショートカウンターにつながるシーンがあった。

 

なのに、それが出来なかった。

 

 

—————俺は平等にチャンスを与える。スコアは0と0。控えの選手が、大物食いをするか、それともそれを許さないか

 

気づく、気づかないは、彼らの選択次第だろう。

 

しかし、このままでは変わった気でいる奴らが本当に変わらない。何となく勝ってしまう状況では、いつ連敗がスタートするか分からない。

 

 

「まっちゃん。次戦のスタメン、ちょっと考えないといけないかもな」

 

「は、はぁ!? せっかくいい流れで勝てたのに、ですかぁ!? か、監督ぅ!?」

 

驚いた顔をするのは、コーチの松原。かつての黄金期の時代からその役目を務めている古株の一人だ。

 

他のコーチ陣も、大きく目を見開いていた。見事な大逆転勝利で勢いに乗る必要がある。ならば、スタメンは出来るだけ弄らないほうがいいと思っていたのだ。

 

————こっちも重症だな。本質が見えてねぇか

 

それが当たり前になっている。去年まで続いていた負け癖が、まだこのチームにへばりついている。一部の選手が切り替えをきっちりして、良いプレーを続けたことで流れを引き戻したが、このままでは危うい。

 

一つのきっかけで、チームはガタガタになるだろう。

 

 

本来、一から十まで教えるのはあまり好きではない達海だが、自分と同じ末路を歩んでほしくなかった選手が二人いたので、真正面からセンターバックのところへ行くことにした。

 

—————逢沢がつぶれる前に、何とかしねぇとな

 

 

 

そして、その試合を観客席から見ていたのは、

 

 

「うーん、前半はとてもつまらなかったよ~。得点シーンだけ。ワンチャンスをものに出来たのがすべて。でもってディフェンスライン下げ過ぎ、ビビり過ぎ。おかげで中盤のおじさんが死にかけだったし」

 

おじさん呼ばわりの村越。金髪の少女は快活な声で感想を述べつつ、その課題を容赦なく抉る。

 

「おじさん、サポーターだけど戦術的な話はよく分からんなぁ。けど、嬢ちゃんの言う通りなんだな?」

 

サポーターの一人である田沼吾郎は、大逆転勝利に酔っていたままだったが、黄金ルーキーの知り合いと称する美少女の指摘に耳を傾けていた。

 

「そうだよ。あの後、アー君のカウンターで磐田のラインが下がってくれたから、致命傷にはならなかったけど、あの得点がなかったら惨敗よりもひどいよ」

 

 

「まあまあ、舞衣ちゃん。勝ったからこそ、課題に取り組めるわけだし、次節までに修正できれば問題ないと思うよ」

 

隣にいた茶髪の美少女は、次節までに修正する時間はあると断言する。プロクラブのチームなのだから、それぐらいできると。

 

「甘いわ、ウィッチィ! あのチームは去年まで下位チームで、ドン引きサッカーしか取り柄のないチームなのよ。監督一人で短期間に変われるわけがないわ」

 

アー君と駆っちがいてもね、と舞衣は補足する。

 

「お、おう。色々サポーターに突き刺さる言葉だなぁ————」

田沼と同じくサポーターの一人であるシゲは、贔屓の課題を突かれまくり、顔が引き攣っていた。

 

「でも事実よ。実際、逢沢君が中盤の守備に忙殺されていたわ。カウンターの時も、相当無理をしていたでしょうに」

 

必死に走りながら敵を引きつける動きをしていた駆のことを案じる黒髪の少女。

 

「薄氷の勝利なんだなぁ、今回」

 

「ヤングなでしこの面々が来るのは想定外だったけど、いい勉強になったよ。見方変わったぜ」

 

他のサポーターも彼女らの話を聞いて納得していた。

 

 

その後、サポーターたちと別れたヤングなでしこ組は、それぞれ帰路についていた。

 

 

その中の一人であった、黒髪の少女、小野寺颯は物思いにふけっていた。

 

 

————ユニフォームは違うけど、歩んだ道のりは違うけど、

 

彼女が見た景色と彼は少し違っていた。

 

 

—————それでも、もう一度ピッチに立っている貴方を見て、ズルいと思った。

 

忘れるはずだった。覚えていられるはずがなかった。“ETU以外のユニフォーム”を着た彼を、知るはずがないのに。

 

 

 

なのに、彼はとんでもない置き土産を残して、自分の下を去った。彼が取り戻してくれたものを見つめる颯。

 

自分にもう一度サッカーをさせてくれるチャンスをくれた彼に感謝を、

 

今の自分にこんなにもむなしい思いをさせている彼に恨み言を。

 

――――貴方のいない世界で、どうすれば楽しくサッカーができるのかしら……

 

一番見てほしいファンがいない。一番褒めてほしかった人がいないのに。

 

 

――――私は絶対に貴方を許さないわ。

 

 

その始まりはあまりにも唐突で、いつの間にか手遅れになっていた。

 

 

小野寺颯は自分の右足をもう一度見る。まるで、その右足が無事なことに違和感を覚えているかのような様子の彼女は、観客に祝福されるヤングルーキーたちを見据える。

 

————でも、彼は今、頑張っているわよ。貴方が夢を託した、”貴方”が————

 




今回の小説の構成については、追々発表していきます。


今回の主人公はメインポジションがウィングです。しかし、ポリバレントな選手でもあるので、攻撃のポジションならどこでもできます。

作品構成としては、君の名は篇をやってから、エリアの騎士篇にいきます。


また読者から筆者に戻りましたが、やはり緊張しますね。


最後に、プロ編に到達する前に大逆転負けが確定の磐田・・・・

磐田ファンの皆さんすいません。
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