Lost dream ~超常の目覚め~   作:傍観者改め、介入者

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原作主人公が初登場。


第二話 再会と邂逅

立花瀧が彼を知るまでに要した時間は、それほどかからなかった。

 

最初に彼を知ったのは、入れ替わりが起きてから。宮水三葉の体と入れ替わった際に、妙に覚えのある顔をした少年がいた。

 

 

その名を、宮水青葉。糸守町では名の知れたサッカー少年であり、岐阜県下のサッカーチームに所属し、全国の舞台で得点を量産するサイドアタッカーと言われる存在らしい。

 

 

「バスケならわかるんだけどなぁ」

 

三葉の体でつぶやく瀧。サッカーに関しては無知に等しい彼は、彼のすごさがどのくらいなのかはわからない。実際にプレーをしているところを見たことがないのだ。

 

青葉は、糸守町から離れた岐阜市の寮生活をしている為、中々糸守町に戻れないそうだ。

 

そんな彼が久しぶりに帰ってきた。

 

それは9月下旬の時のことだ。

 

 

「あれ、みつ姉髪型変えた? 髪留めをしていないけどどうかしたの?」

 

青葉は髪を止めていないロングヘアー状態の彼女を見て驚いている。

 

「あ、ああ。そうだよ! うん、イメチェンなの!」

言葉遣いが崩れているのを自覚している瀧は、それでも慌てて誤魔化すしかなかった。

 

「???」

 

――――四葉から話は聞いているけど、なんだか様子がおかしい

 

青葉も姉が少し普通ではない状態に陥ることがあるとメールで言ってきており、ある程度覚悟して帰ってきたのだが、その予想をはるかに上回る変貌っぷりだった。

 

――――これ、どう見てもみつ姉の皮を被った何か、だよね……

 

 

「―――――いまはそういうことにしておくよ。早く頭を冷やしてね、みつ姉」

 

 

青葉はそれだけ言うと、朝食の準備をし始める。

 

「あ、青葉兄ぃ! 帰ってきたん!? 結果どうなん?」

 

そこへ、朝食の準備をしている青葉の下へ四葉がやってきた。久しぶりの兄の帰宅に目を輝かせている。

 

「? 結果?」

 

あずかり知らぬ話であることで、思わず口をはさんでしまった瀧。

 

「お姉ちゃん忘れたん? 青葉兄ぃが東京の推薦を受けられそうだって話! お姉ちゃんあんなに羨ましそうにしてたやん!」

 

東京に一人だけ行くの羨ましい~~!!とあんだけ騒いどったのに、と愚痴をこぼす四葉。

 

 

「まあ、まあ。姉ちゃんの異変は置いといて。結果は俺がオーケーすれば決まりも同然かな」

 

嬉しそうに語る青葉。どうやら東京行きが決まったようで、とてもうれしそうにしている。

 

「それに、小野寺の方も推薦の話はどうかって話ももらってきたんだ。10月3日に東京でプレーを見てもらって、それで判断するらしい。だから、まあ疲労も考えて4日の昼ぐらいまでは東京かな」

 

 

「え? それって―――――」

四葉がまじまじと青葉を見る。

 

 

「そりゃあそうだ。小野寺は女の子なんだから。土地勘もない東京を一人で歩かせるのは危ない。俺が付き添いになるよ」

 

小野寺と呼ばれる少女の付き添いとして、また東京へ行くことになった青葉。

 

「なんだかお姉ちゃんの一生分ほど東京にいっとるような気がするわぁ、私」

四葉が姉のほうを見てジト目で見つつ、失礼なことを言う。

 

――――確かに、そんな気がするかもしれないなぁ、三葉は。

 

内心では賛同してしまっている瀧。

 

「へぇ、すごいじゃん。頑張ってきてな」

 

だから、三葉ならありえない回答をしてしまう。四葉は――――

 

 

「お姉ちゃん、ホンマにどうしたん? 頭でも打ったん? 打ち続けてるん?」

 

 

「ほんと、大丈夫だって! 大丈夫!」

東京にあこがれを強く抱いていることを頭で理解しきれていなかった瀧は、彼女にあるまじき言動を口にしてしまった。

 

これが、青葉の疑念を確信に変えた。

 

 

「そうかもね―――――そうだ、久しぶりに神社で話をしない? なんだか大変なことに巻き込まれているような気がしないでもないし、うーん、わからない」

 

青葉は、左手で左頬を触り、右手で左腕の肘を支え、考え込む。

 

「でも、何となく閃いたかな!」

 

そして、突然両手でパン、と音を鳴らし、閃いたように言う。

 

「どっちだよ」

思わず突っ込みたくなるような理由の曖昧さに瀧は突っ込む。

 

 

「――――調子狂うなぁ。標準語のみつ姉も新鮮だけど」

 

しかし、青葉は笑ったまま。その笑顔に抗えるはずもなく、瀧は彼とともに神社へと向かうことになる。

 

 

神社へと向かう途中、

 

 

「あ! 青葉っ!! 東京行きが決まったんだよね! おめでとう!」

 

そこへ、青葉と同年代くらいのサッカーボールを片手に持つ少女と出会う二人。名前呼びで彼のことを呼ぶ辺り、相当仲のいい女友達なのだろう。

 

「まあね。けど小野寺の方にも話は来たみたいだ。今度の10月3日にテストがあるけど、その意思はある?」

 

「え!? 私もぉぉ!? うそうそ! どうしよう! 私、なんだか東京に行くことになったみたいです、三葉さん!!」

 

ダッダッダッ、と階段を駆け上がり、瀧に近づいた小野寺と呼ばれる少女。どうやら相当三葉はこの少女に懐かれているようだ。

 

――――意外だなぁ、こんなにかわいい子に好かれているなんてさぁ

 

「お、おう。よかった、わね」

 

「三葉さん? 具合でも悪いのですか? なんだか最近三葉さんの周りで奇妙な噂を聞くのですが、本当に何もありませんか?」

 

言葉遣いに違和感を覚えた小野寺。その横では、やはり自分の疑念は間違いではないと確信する青葉の姿。

 

――――姉さんを知る人なら疑念を抱いて当然かもしれない。

 

雰囲気が違う。言葉遣いも違う。重心の位置も違う。これは男性に多い重心の位置だ。女性の、特に柔らかな歩き方をしていた姉とは全く違う。

 

まるで男と話をしているような錯覚。いつもは訛り言葉にドギマギしてしまう青葉だが、今はまるで緊張がない。

 

 

「まあ、とにかくだ。小野寺は両親と話し合って、よくよく考えてから東京行きの件を決めてほしいんだ。そうだなぁ、最悪9月の28日ぐらいには決めてほしいな」

ある程度意見がまとまりにはそれぐらいあればいいだろうと考えていた青葉。しかし、

 

「そんなの即決だよ! 私は東京に行く! こんなチャンスめったにないもの!」

 

 

「―――――期限を設けた意味なかったなぁ」

 

苦笑いの青葉。あまりにも積極的な答えに苦笑を禁じ得ない。

 

 

「うん! これから母さんと父さんに話をしてくる! バイバイ~!」

 

 

「ああ、気を付けてね」

 

「三葉さんもその、早く元気になってくださいね? あぁ、違う……もう、どういえばいいの!? えっと、その~三葉さんファイトです!」

 

嵐のように去っていく小野寺という少女。

 

「小野寺って子、本当に嵐のようだったなぁ」

瀧は初めて会う少女を前に圧倒されていた。というより、

 

――――綺麗な子だったなぁ

 

と思わず見とれていたりする。

 

「いつもはもっと凄いんだけどね」

 

ぼそっとつぶやいた言葉を幸運なことに彼は聞き逃した。

 

 

それから少し歩いて神社の近くまで移動した二人。

 

 

 

「遠い昔のことだけどさ、母さんは父さんと不思議な経験をしたそうなんだ」

 

瀧に背を向けて、表情を見せずにしゃべり続ける青葉。

 

 

「それがどうにもこうにも。そんな話があるのかっていうほど嘘くさくて。当時は全く信じていなかった。子供を喜ばせるための物語。父さんも一緒になってそんなことを話すから、まったく理解できなかった」

 

 

“彼女”は息が止まりそうになった。入れ替わりの時間が続いているからこそ、注意しなければならない事柄だったはずだ。

 

“彼女”はこの場を何とか誤魔化そうと考えるが、相手はもう疑念が確信に変わっている。

 

 

「父さんは宮水神社を訪れた際、言いようのない感情に囚われたらしい。まるでこの場所を知っている。お母さんに出会ったことがあるという感情に支配された」

 

まだ顔を向けない青葉。“彼女“はその姿から目を背けることが出来ない。

 

「それは母さんも同じだった。あの奥ゆかしい母さんが初対面の男にどうしてあそこまで気を許せるのか。お婆ちゃんも不思議そうにしていたけれど、なぜか合点がいったという顔をしていた」

 

そこで、青葉は瀧の方を振り向いた。

 

 

「今の貴方は、誰ですか?」

 

――――あ、やばい、三葉。バレちまったかもしれない

 

瀧は、これから三葉と彼にどう言い訳をしようかと考えるのだった。

 

 

 

一方、青葉は相手の反応から自分の予想が正しいものだということを確信する。

 

その疑念は正しかった。相手の驚愕した表情。姉がするはずのない表情。しかし、端正な顔のせいでどんな表情でも美人に見えてしまうところは一緒だ。

 

 

「―――――まあいいや。生霊か亡霊の類かと思ったけど、その線はなさそうかな」

 

 

「どうして、そう言えるんだ?」

隠す必要もなくなったので、言葉を崩してしまっている瀧。

 

「いや、だって無害そうだもん。三姉に指一本触れてなさそうだもん」

 

朗らかに笑う青葉。それを見た瀧は内心申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

――――ごめんな、弟君。お姉ちゃんの胸を何度も揉んでいました

 

 

「けど、困ったなぁ。君が日本のどこにいるかもわからないし―――――」

思案顔でいろいろと考え込む青葉。

 

「えっと、一応東京には住んでいるんだ。その、三葉が憧れている東京に」

 

 

「なるほど。そうだ、こういう不思議な体験をする君もだけど、俺も部外者なりにこういう体験をさせてもらっているんだ。自己紹介をあらためてしようよ!」

 

手を差し伸べる青葉。

 

 

「俺は宮水青葉! 中学三年生で、岐阜FCで一応エースをやっています! 将来の夢は日本代表になって、ワールドカップ制覇! ってところかな!」

 

 

「お、おれは―――――あぁ、コホン。」

 

息を整える瀧。

 

 

「俺は立花瀧。現在青葉の姉と入れ替わっている高校2年生です。趣味は絵画。好きなスポーツはバスケ。いつまで続くかわからないけど、よろしく!」

 

お互いに差し出した手をがっちり握手する瀧と青葉。

 

しかし、この時瀧はとても安心していた。誰にも明かせない秘密を共有できる存在が生まれたこと、色々とフォローしてくれる人が生まれるのは、喜ばしいことだ。

 

「けど、一つ注意。」

 

 

「姉ちゃんが可愛いからって、色々見つめるのはNGだよ。まだ俺はそこのところは認めていないからね!」

 

ビシッ、という効果音が出るほど瀧に向かって指をさす青葉。

 

「お、おう」

 

 

それからだ。それからお婆ちゃんと四葉と一緒に口噛み酒の話や繭五郎の御神体の話も聞かされて―――――――

 

 

 

それから入れ替わり現象が、全くなくなってしまった。

 

 

10月3日を境に、この不思議な現象が途絶えたのだ。

 

 

青葉という少年や、小野寺という少女とも会えない。何より楽しみになってきた三葉との入れ替わりも消えてしまった。

 

 

だから、この記憶があるうちに、その風景を、記憶を紙に残したいと考えるようになった。なぜそんな思いに至ったのかはわからない。しかし、もう一度あの現象が起きてほしいと思う心を偽れなかった。

 

なぜ入れ替わりが終わってしまったのか。最後に伝言で残っていた―――――

 

 

さよなら、瀧君―――――

 

 

突然の言葉だった。それは唐突な別れの言葉。何を思い、何を知ってしまったのか。

 

しかも、その全ての記録が、彼女の記した記録が消え去っていく。

 

 

いったいなぜ、なぜ、なぜ――――――――

 

 

あれから狂ったように糸守町について調べた。そして、その名前に至ったのだ。

 

 

詳しい記憶を忘れるこの入れ替わりの性質の中で、10月3日という指針を得た結果、恐ろしい事実に気づいてしまった。

 

 

2013年10月3日は木曜日

 

2016年10月3日は月曜日

 

――――時間軸が、違う?

 

 

そして、糸守という町について詳しく今まで調べなかったつけがここに来て現れた。それが最悪な事実を彼に告げる。

 

 

2016年現在は存在しない町。なのに、なぜ入れ替わりの中では何度もこの名前を聞いたのか。

 

そして、この入れ替わりは単なる入れ替わりではないという事実を知る。

 

 

やはり3年前に入れ替わったというのか。だとするならすべての説明がつく。

 

入れ替わりの日常が始まってから知ったある人物。

 

 

リオ五輪日本代表、宮水青葉。

 

 

それは、入れ替わった際に出会った三葉の弟。鋭い観察眼で入れ替わり現象に辿り着いた存在。

 

 

3年前の宮水青葉が成長した存在。

 

 

彼はもしかして、糸守町を知っているのかもしれない。彼に聞けば、三葉のことをもっと知ることが出来るかもしれない。

 

日を追うごとに、記憶が薄れ始めている。このままでは彼女に出会った意味が消えてしまう。彼女の生きた記録が失われてしまう。

 

 

このまま、終わりたくない。

 

 

だからこそ、彼に会わなければならない。糸守を知る数少ない人物に。

 

 

 

きっと彼は覚えていないだろう。それでも――――――

 

 

 

 

「―――――3年ぶり、といっていいのかな」

 

不意に、瀧の目の前で青葉は口を開いた。思わず目を見開き、顔を上げる瀧。

 

「―――――そうか、どうも他人のような気がしなかったけれど、そうだったのか。俺が年上で、君が年下だったんだね」

 

朗らかに笑う青葉の笑顔に、瀧は涙した。覚えていてくれた。確かにまだ、彼女との絆は、記録は消えていないのだと確信できた。

 

「俺を、覚えているんですか?」

 

 

「勿論だ。あんな経験を他ではやっていないからね。しかし驚いた。そうか、君にとってはつい最近まであの現象にかかわっていたということなのか」

 

考え込む青葉。そして隣ではわけがわからず混乱する小野寺の姿。

 

「えっと、青葉? これはどういうこと?」

 

戸惑いを隠せない颯。一体どういうことなのかと問いただしてきた。

 

 

「3年前、みつ姉の様子がおかしかっただろ? あれは目の前の瀧君と入れ替わっていたせいなんだよ」

 

 

「―――――そんな与太話、誰が信じるの? あれの話はもう―――――」

表情を、愁いを帯びたモノへと変化させる颯。慕っていた姉貴分を失い、右足首を失った彼女の傷は深い。

 

 

 

「だけど、与太ではなさそうだ。この絵画はまさしく糸守の風景だよ。写真に乗っていないところもある。これを描くには実際あの町にいなければまず不可能。それと、瀧君のセンスが必要なのだろうけどね」

しかし、あくまで青葉は瀧を信じる。彼は3年前に彼と知り合ったのだから。

 

 

 

「改めて自己紹介をしよう。俺は宮水青葉、こっちは幼馴染の小野寺颯。だからもう一度聞こう。君の名は?」

 

 

光が、結びはまだ繋がっていた。

 

「立花、瀧です」

 

 

それから3年間何があったのか、あの当時何が起きたのかを瀧は尋ねた。

 

 

「そうだな、2013年10月3日。あの忌まわしい出来事について、俺たちも多くを知らない。あの時も言ったように、夕方前までは東京だったからね」

 

 

「けど、だからこそ私たちは生きているのかもしれない。もしあの夏祭りに参加していれば、私たちもまた、ここにはいないのかも」

 

 

青葉と颯の回想が始まる。

 

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