Lost dream ~超常の目覚め~   作:傍観者改め、介入者

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メインタイトルにあるように、この小説は前日譚です。

高校篇ではシリアスがほとんど減りますので・・・・




第三話 追憶 夢幻願望

2013年 10月3日 糸守町―――――

 

 

「もう荷物は持ったかな?」

 

「というより、まさか思い切ってみつ姉も東京に行くなんてなぁ」

 

 

「ごめん、約束があるんよ。会わなくちゃいけない人がいるの」

 

久しく見てこなかった姉の真剣な表情。あの時は一体誰が姉にこんな顔をさせるのだろうと青葉は戸惑いを見せた。しかしすぐに思い至った。

 

彼女は恐らく立花瀧という少年に会うのだろうと。自分よりも2つ年上の少年。姉が憧れている東京に住む高校2年生。

 

中々にファンタジーで、いい展開だと思う。

 

「反対されるかと思ったけんど、意外にお婆ちゃんが何も言わんかったのは驚いたなぁ」

 

祖母も恐らく同じような体験をしていたのだろう。だから姉を止めなかった。そして、その先の残酷な事実も知っていたのかもしれない。

 

時間軸のずれ。

 

 

一方、東京で姉と別れた二人は新設された東京蹴球高校に向かっていた。

 

 

「よく来てくれた。君が岐阜のサッカー少女、だったかな?」

 

「はい!! 小野寺颯です! 今日はよろしくお願いします!!」

 

「すいません。都会は何しろ初めてなものでして。」

 

「もう、青葉!」

 

ガッチガチに緊張している颯を弄る青葉。しかし、いつもの則のおかげで緊張も程よく取れてきたような気がする。

 

 

 

早速アップをしていると、今度は金髪の少女が同じくアップを行っていたのだ。

 

「? あれ? 君たちは誰?」

 

気の抜けたような声で尋ねてくる少女。ビブスを着ているということは、同じ目的なのだろうかと考えた。

 

「私は小野寺颯、今日は蹴球高校のセレクションに参加したの、貴女は?」

 

「私は群咲舞衣! 私と一緒だね、颯ちゃん!」

中々にフレンドリーな性格の持ち主なのだろう。フランクな感じを抱かせる人懐っこい性格のようだ。

 

「でも、セレクションといっても一体どういうことをするのかまだ全然わからないんだよね」

 

「私も内容までは……」

 

 

 

「それは私が説明しよう」

そこへ現れたのは、見知らぬ中年の男性だった。しかし、どこかで見たことがあるような人でもある。

 

「貴方は、元日本代表の竹田さん!?」

 

青葉が驚くのも無理はない。目の前にいるのは、かつて日本代表を引っ張ってきた男であったからだ。

 

元日本代表のFWとして活躍し、長年代表を牽引してきた名選手。引退後もサッカー解説者として的確な指摘をするなど、そのサッカー観は微塵も衰えていない。

 

 

「僕も君には一度会ってみたかったんだよね。岐阜のサッカー界にとんでもないサイドアタッカーが現れた、という話が興味深くてね」

 

姿を現したとたんにすべての視線を集中させる彼の姿に注目する3人。

 

「今回のセレクションだけどね。基本スキルのテストの後は、2対1でそこの宮水君に頑張ってもらおうと思っているんだ」

 

 

「――――――ゑ?」

 

 

「いやぁ、今年限りだけど一応選手の選抜を頼むと言われてね。イマイチやる気が起きなかったけど、カズさん以来の逸材に出会えるし、器量よしには出会えるし、僕もハッピーで受けてよかったぁ」

 

ストレートな物言いは悪いのではない。しかし、問題は内容だ。前半はまともだったのに、後半はただのだらしないおっさんだ。

 

「―――――――大丈夫なのかな」

 

「大丈夫だと思いたいです」

 

ジト目で竹田を見つめる群咲と小野寺。

 

 

「――――それはそうと、竹田さん!! 今回のブラジルワールドカップについてぜひご意見を聞きたいんですが、よろしいでしょうか!!」

 

 

 

「お! そうだねぇ、やはりあの陣形が日本の現状のベストだと思うよ。でもね―――」

 

竹田と青葉がセレクション会場のピッチから離れていく。

 

「あの、セレクションは!!」

たまらず小野寺が竹田にセレクションについて尋ねるも、

 

「大丈夫、窓から見ているから!」

 

 

「「えぇ……」」

あまりにも責任放棄な物言いに二人のジト目は継続してしまう。

 

 

 

その後、窓際から二人のスキルを見つめる竹田と青葉。

 

「――――で、どうです。平面ではなく空から見た二人のプレーは」

 

 

「さすがと言っていいね。特にドリブルに関して言えば、なでしこに今までいなかったタイプだ。それに、リザーブメンバーを交えて練習に参加させているけれど、技術面で全く心配がいらないね」

 

リザーブメンバーとパスの交換をする際に、ディフェンスの背後を衝くプレーが上手く、相手を背負いながら躱す術に優れている小野寺。

 

敵陣に切り込む際にそのチェンジオブペースであっさり抜き去る群咲のドリブルテクニック。

 

「そうだねぇ。本来なら小野寺ちゃんをCFWに、群咲ちゃんをST辺りに置くといい感じかもしれないね」

冷静な分析で、竹田は彼女の適性を瞬時に見抜いた。

 

「ですが現実は、群咲さんをトップ下に置くしかない、ということですか?」

 

「もし僕がなでしこの監督なら、エースの一色さんよりも、トップ下の適性の高い舞衣ちゃんに経験をさせたいね。ボールコントロールが抜きんでている。しかし如何せん、まだプレーの幅が狭すぎる。視野が広いようだけど、見ようとしない節がある」

 

そんな話をしていると、ワンツーと思われていた局面で無理やり相手を背負い、難しい体制で強烈なシュートを放つ彼女の姿が。シュートは惜しくもキーパーの手の届かないバーの僅か上に行くが、さすがの彼女でも決めきることは出来なかった。

 

あの場面はシュートコースがファーサイドに限定されていたため、それを嫌った彼女がターンでさらに切り込んでシュートコースを広げようとしたのだ。しかし逆にそれを読んだ相手ディフェンスが追い込み、彼女に難しい態勢でシュートを打たせた。

 

「エゴのある選手はなかなかだと思いますよ。ああいう怖さのある選手は必要です。その手綱を握るのは――――いずれ出てきますよ」

明言はしなかった青葉。舞衣という攻撃的な選手を活かすも殺すも、これからのチームに左右される。そして、最後は本人の資質。

 

そうなのだ。最後は自分が変わりたいと、成長したいと思う気持ちだ。

 

「だけど、この壁にぶつかることでこの子はどちらに進むのか。それが僕は楽しみだね」

 

冷静さを覚えて、プレーの幅を広げるのか。逆にシュートに関して伸びていき、一流クラスのエースストライカーになるのか。

 

「逆に小野寺ちゃんは器用だからどこで起用してもある程度できてしまうだろうね」

 

対照的にリザーブメンバーと上手くパスが連携しているのは小野寺だ。効果的に相手のマークを外す動きを見せたりと、絶えず立ち位置を考えて動いている。

 

「うん。体の強さ、そしてシュートの威力を考えてCFWに推してみたけれど、彼女の適性はそれだけではないみたいだね」

 

「なでしこの実力を考えれば、3バックはもちろん、中盤が薄くなるのは避けたい。ツートップのフラットだとトライアングルが作りにくいからね。ダイヤモンドは守備に問題があるし」

 

 

「そうですね。小野寺はプレーに関しては冷静ですからね。」

 

「それに足も相当速そうだ。一色を真ん中に置いて、サイドに小野寺ちゃん、ワントップに群咲ちゃんだと面白いね。プレッシャーが薄くなるサイドに、起点とターゲットが出来ると、相手は自然と守備陣形が歪になる。そうなれば舞衣ちゃんの本領発揮だ」

 

 

「となると、群咲舞衣はエゴを捨ててはならないということですかね」

 

 

「そもそもエゴを失ったアタッカーに魅力はないよ。あの積極性と前を向く姿勢が染みついているアタッカーは、相手にとっての脅威だからね」

 

「そして対照的に颯にはプレーに幅があるから、サイドでも使えるという判断ですね」

 

 

「ただ、あの舞衣ちゃんがお淑やかになれば、人気はもう不動のものとなるだろうけどね」

本当に一言余計なのだが、男の理性に突き刺さる言動なので、完全には否定できない。

 

 

「最後は残念ですが――――けど、ちょっと見たくはありますね」

 

 

「だろう! そうだよね!」

 

 

 

この話を聞かれることはないだろうと。

 

 

その後――――――

 

 

「もう、むりぃ……」

 

 

「ふ、二人係で奪えないなんて――――」

 

 

リザーブ組との実戦練習でほぼ合格を言い渡されているとはいえ、最後に気まぐれで提案された青葉対舞衣・颯コンビは後者の惨敗だった。

 

「パスコースをカットされながら動かれるし詰められるし、もう、なんなのよ!」

 

「本当にサッカーだと情け容赦ないよ、青葉は」

 

ぐったりしている二人をしり目に。

 

「いやぁ、男子と思ってプレーしないと本当に危なかった。危うく1本通すところだった」

 

青葉としては、一本もパスを通すつもりはなかったという。彼女らの自信をズタボロにする辺り、やはり彼はサディスティックな一面を持っているらしい。

 

「まさかとは思ったけど、本当に一本も通さないとはねぇ~。けど、世代最高のサイドアタッカーを相手にここまでやれる女の子はめったにいない。十分合格点だし、将来パスを通せばいいだけだよ、舞衣ちゃん、颯ちゃん!」

 

 

「悔しい!! 絶対に、絶対にリベンジしようね、颯!」

 

「ええ。今までずっと負かされてきたもん! 絶対にぎゃふんと言わせてやる!!」

 

 

敵愾心というより対抗心をかなり燃やされている青葉。ジト目で竹田に訴えかける。

 

 

「俺の立場がやや不味くなったんですけど、大丈夫なんでしょうかねぇ」

 

 

「美少女に熱視線を向けられる気分はどうかね! 役得だろう!?」

 

 

「まあ、役得ですね。ちょっと、頬の限界を迎えそうです」

 

 

 

「も、もう、本当に調子のいいことを言って――――」

 

 

「青葉ってば、やっぱりドS?」

 

 

 

「―――――ノーマルだよ?」

やや間があった青葉。目を逸らすあたり怪しい。

 

 

そんなこんなでセレクションは終了し、後は東京で三葉と合流するだけなのだが――――

 

 

 

「へぇ、そんなことがあったんだ」

 

 

「はっ!? しまった、つい言う必要のないことをしゃべってしまった!!」

 

 

現代に戻り、回想の途中でアームロックを食らっている青葉。ぐぇ、と情けない悲鳴を出している青葉と、タジタジとなっている瀧。

 

 

「そ、それで、三葉は――――」

 

 

「あ、ああ。みつ姉なんだけど。やっぱり君の予想通りおそらく入れ替わる前の君に出会うか、もしくは会えなかったということになると思う。」

 

 

「電話に出たみつ姉は酷く意気消沈していた。おそらく、時間軸のずれも最後まで認識していなかったんだと思う。だから――――うん、瀧君が気に病むことではないよ」

瀧を気遣うように話す青葉。

 

 

「そう、ですか―――――」

それでも、三葉は自分に会おうとしていた事実を知り、悲しくなった瀧。そしてあの日を迎えたことに、心が締め付けられる。

 

 

その後、三葉だけが東京に帰り、体を休める必要のあった颯とともにホテルに宿泊した青葉。

 

その差が明暗を分けてしまった。

 

しかし、限りなく空想に近い現実を前に、耐え切れなくなった颯が辛そうに口を開いた。

 

「――――ごめんね。少し風に当たってくる」

 

「颯? あんまりここから先のことは良いものではないし――――うん、話が終われば呼ぶよ」

 

颯は青葉に言われるとおりに部屋を後にした。そんな彼女のさびしそうな背中を見て、瀧はやるせない気持ちになった。

 

 

「あの、青葉さん―――――」

 

 

「――――当時は本当にひどかったんだ。故郷は消滅するし、自分はサッカーが出来なくなって。だから、あの当時のことで俺にアームロックするぐらい吹っ切れていたと、思っていたんだけどね……」

 

無念の一言だよ、と力なく笑う青葉。まだまだ彼女はこの現実を乗り越えることが出来ない。

 

 

「舞衣ちゃんともサッカーがしたかった、はずなんだ」

 

 

「群咲舞衣選手、ですよね。なでしこの次世代エースの」

 

 

新聞でも話題沸騰のニューヒロイン。この数年で竹田の予言通りお淑やかに成長した彼女は、不動の人気選手となり、五輪ショックで傷心のなでしこを支える救世主となった。

 

「あの子も頑張っているし、女子はまだまだ這い上がる。この前のリオ五輪で何とかしたかったが、後一歩届かなかった。まだ世界の壁は高いみたいだ」

 

「でも、あんまりサッカー見てなかった俺でも凄いと思いました! ブラジルって世界の強豪ですよね! あの試合でも前を向いてプレーして――――」

 

 

「ドイツ倒していたら満点だったんだけどな。まさかオーストラリアに取られるとは」

 

累積によって次戦出場不可のカールら3名を筆頭に、退場者1名を出した日本戦。延長戦までもつれ込んだ疲労は、サッカー強国に次戦での戦闘力を奪う形となっていた。

 

自慢の守備陣が完全崩壊したドイツは、オーストラリアにまさかの惨敗。

 

1対4という、歴史的敗北を喫し、オーストラリアの栄冠を許してしまったのだ。

 

 

このような経緯もあってか、実はドイツに嫌がられている青葉。ブラジルには比較的好かれているが、それもシルバとの友情があってのこと。

 

シルバの親友に引導を渡されては仕方ないとのことだ。

 

 

「とまあ、サッカーの話はもういいか」

 

 

サッカー談義をいったん終え、青葉は瀧の前に向き直る。

 

要約するとこうだ。

 

「3年前の姉さんと、今の瀧君が入れ替わるきっかけは、間違いなくその組紐だ」

 

 

「―――――えっと、これが、組紐?」

手首に身に着けているよくわからないが付けているアクセサリー。瀧は何となくこれは貰ったとだけ覚えているが、

 

「それは、紛れもなく姉さんの作った組紐。そこに結びが生まれたんだ」

なぜ瀧と入れ替わりが起きたのか。なぜここまでのずれが起きたのか。

 

理由は分かったが、意味は分からない。なぜ起きてしまったのかという意味までは。

 

 

 

「三葉と、俺の――――結びが――――そんな、あれは―――――」

記憶が鮮明になっていく。三葉は自分に巡り合うことが出来ていた。しかし、自分はこの運命が回り始める前だった。

 

あの時の自分は、始まってすらいなかったのだ。

 

 

「―――――責任を感じる必要はないよ、瀧君。君にも事情がある。そして今がある。大事なのは、これからどうするかだ」

 

震え始めていた瀧の手をやさしく握る青葉。優しい子なのだろう、姉と好き合うのも何となくわかった。

 

それほどまでに、瀧は姉を求めている。ならば、オカルトだろうが何だろうが手を伸ばす意味がある。

 

 

 

「現在瀧君とみつ姉の間には結びが確かに存在している。そして、その結びついた記憶が未だに彼の中にあるということは、完全には結びが切れていないということになる」

 

真剣な目で、青葉は瀧のほうを向く。

 

 

「もし、君がこれまで以上に時間軸を逆行し、入れ替わることが出来たのなら、あの歴史を回避することは可能、なのかもしれない」

 

歴史改編という大きな事柄につながっていくことを示唆する青葉。

 

「どうだろう。俺も一緒に、その手掛かりを探させてくれないか?」

 

 




サッカー選手の怪我が、時に選手生命を終わらせることはありますが、

颯の場合は理不尽過ぎますね・・・書いてて思うのは

3年間。幼少のライバルだった存在が夢を断たれ、絶望する様を見せられたら・・・

奇跡に縋りたくなるのも、わかるかもしれません。
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