Lost dream ~超常の目覚め~   作:傍観者改め、介入者

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連続投稿になります。第三話夢幻願望から読んでください。


第四話 黄昏の誘惑

―――――入れ替わりの日々の中で、私は知ってしまった。

 

憧れていた東京に思いがけずやってきた――――正確には入れ替わり現象を経て東京の生活を体験している宮水三葉はその残酷な事実を知ってしまったのだ。

 

 

その事実を知る少し前、彼女は入れ替わりの生活に慣れ始めていた。

 

現在、三葉は瀧君の代わりにバイトをしている。東京のビル街の中にあるレストランというしゃれた場所ではあるのだが、

 

 

――――華やかな外見の裏に、こういう辛さがあるんやねぇ……

 

バイトというのは大変だった。東京は故郷に比べてせわしなく、1分1秒が惜しいとさえ思えるような場所だった。のどかな環境で育ってきた彼女にとってはまさに忙しい毎日だと強く意識するほどの。

 

何とか瀧の友人たちに助けてもらい、ここまで来るのにどれだけ苦労したか、あまり思い出したくもない。

 

 

「なぁ、やっぱり最近妙にまじめになったよなぁ、瀧」

 

同僚の高木は、丁寧な言葉でしゃべりつつも、どこか中性っぽく、そしてどこかの方言の混じった訛り言葉を使う瀧を前に不思議がっていた。

 

「へ? そ、そうかな?」

 

「そうだぞ。なんかいろいろ細かいところに目が利くし、最初はバイト初心者に戻ったのかよ、と思ったけどさぁ」

 

同じく同僚にして瀧の友人の藤井も、瀧が何か変わっていると感じていた。

 

「奥寺先輩とも、なんか最近いい感じだし。なんか運が向いてきたんじゃねぇか」

 

奥寺先輩というのは、この店の店員のリーダー的な存在だ。

 

「そ、そんなことないよ」

 

「へ、どうだかなぁ」

 

 

しかし、楽しかった。その事実だけは絶対に曲げないし、曲げたくない。

 

 

その事実を知ったのは、突然目に入ったある記事だった。

 

 

 

日本サッカーの将来を担う若きサイドアタッカー、宮水青葉!!

 

 

見間違いだと思った。なぜなら彼はまだ東京に出始めたばかり。全国大会で結果を出しているとはいえ、五輪代表に選ばれるというのは聞いたこともない。

 

 

――――だって、青葉はまだ15歳なんよ。15歳が22歳のいるところにいても――――

 

 

しかし、写真に写っている彼の姿は自分の知る宮水青葉ではなかった。

 

 

「青葉、やよね――――これ」

 

目の前の写真に写る彼は、自分が知る青葉よりも大人びていて、背も高くなっていて。

 

 

何よりこんなに愁いを帯びた表情をするような子供ではなかった。

 

 

――――どういうこと、どういうこと!? どういうことなん!?

 

 

混乱する頭を何とか落ち着けたいのだが、なかなかうまくいかない。なぜここに自分の知らない青葉がいるのか。

 

 

そして―――――すぐに思い至る。なぜ、なぜ思い出すことが出来なかったのか。

 

 

なぜ、そんな事実から目を背けていたのだろうか。

 

 

 

「2016年10月2日―――? うそ、やよね?」

 

 

むしろ、なぜ気づかなかったのか。浮かれていた。その事実を知ろうとしていなかった。

 

 

自分は単純に彼と入れ替わっているわけではなかったのか。だとするなら、この時間軸にいる自分はどこにいるのか。

 

 

そして、2016年の糸守はどうなっているのか、無性に知りたくなった。

 

 

―――――そん、な………

 

 

 

糸守町の悲劇―――――

 

その町は一夜にして消えた――――――

 

 

 

消えた糸守町―――――

 

 

眼をそむけたくなるような内容が、i-Phoneの画面に浮かび上がっていく。

 

「あ――――――」

 

 

夏祭りの最中に隕石が落ちて、それが糸守町の街の真ん中に落ちて―――

 

 

 

『その手首に巻いてある紐は何でしょう?』

 

 

『組紐っていう、故郷にあった伝統芸能の一つです。俺はもちろん、もうあれを作れる人はいないでしょうけど――――』

 

インタビュアーの前で言葉を若干詰まらせた青葉の姿が目に入る。

 

『その――――妹が作ってくれた大切な、大切なお守りなんです』

 

朗らかに笑う彼の心境は、いったいどんなものだったのだろう。

 

 

 

このことを伝えるべきなのだろうか。伝えたら何かが変わるのだろうか。

 

入れ替わっている相手、立花瀧に対し、自分がもしかすれば死んでいるかもしれない。いや、彼の時間軸上ではすでに死んでいることに、気づくだろう。

 

 

しかし、そうすればこの世界はどうなるのだろう?

 

 

恐怖とパニックでいっぱいになっているはずなのに、頭だけは冷静になっていた。

 

もし、自分が10月3日のことを伝えれば、町の皆は動くだろうか。いや、きっと誰も信じないだろう。何より証拠もない。

 

だから最後の瞬間まで気づかずに死んでしまうのだろう。

 

自分だけ生き残ったとしても、家族をすべて失って、町を失って、これから先どうすればいいのかわからない。

 

 

何より、自分が死んだ世界で夢を叶えている弟を壊したくない。

 

 

もうすでに死んでいるという事実が、彼女に理性を働かせているのか。逆に正気ではないから頭が働いているのか。

 

 

――――ごめんね、瀧君。

 

 

彼女は、その残酷な運命を受け入れる覚悟を決めてしまった。あきらめてしまった。

 

 

彼と、3年後に生きる青葉がこの世界にいる。もし、何らかの拍子で世界が変わればどうなるのか。

 

――――だってもう、私は死んで………生きて、いない………

 

心を引き裂かれるような胸の疼きを感じる三葉。

 

 

――――もう私には、未来がないんやね……っ

 

 

確定された死を前にして、諦念が襲い掛かる。

 

 

――――もう……君に会えない……っ!

 

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ。こんな別れ、嫌なのに。

 

 

彼女はその歴史の前に押しつぶされてしまった。

 

 

「でも―――――」

 

未来の彼がなぜか持っていた自分の首紐によく似た紐。当初はどこかの売店で買ったものだと考えていたが、今ならわかる。

 

 

きっとこれからの自分が彼に渡したのだ。時間軸がずれていた事実を知るであろう自分が渡していたものなのかもしれない。

 

 

それが自分と彼を繋ぐ結び。この入れ替わりの現象を引き起こした縁。

 

――――今更気づくなんて、バカやね、私……

 

たとえ、この日々の終わりがこんな形であっても、幸せだった。

 

明確な終わりを突きつけられて、初めて自覚する自分の心。

 

 

――――会いたいよぉ、瀧君。

 

 

好きなんだ。彼のことを、彼に次第に惹かれていったのだ。

 

 

10月3日。それが糸守の町に隕石が落ちた日。それを伝えるわけにはいかない。

 

 

大好きな彼の世界を壊すことにつながる。そして、自分が助かるために相手を、しかも彼の存在を消しかねないことは、できない。

 

 

だからこそ、伝えられる内容をせめて彼に伝えよう。

 

彼は酷く戸惑うかもしれない。彼は怒るかもしれない。

 

そして――――――絶望するかもしれない。

 

 

――――でも、私のことを、忘れないでと思う自分がいる

 

 

ズルいことだと、自分を自嘲する三葉。相手を悲しませるとわかっているのに、おそらく自分が持つ組紐をこれから彼に渡す。

 

 

こんな風に出会わなければ、彼はつらい思いをせずに済んだかもしれないのに。

 

 

――――ごめんね、瀧君、青葉

 

だから、最後に姉として、弟の夢を守る為に。

 

 

初めて出来た、好きな人のために。

 

 

彼女は抗わない選択をした。

 

 

 

そして東京で―――

 

「瀧君?」

 

目の前の、まだ自分を知らないであろう彼に、話しかけてしまった。

 

もっと上手くやれたのではないかと何度思うほど、その時のことは恥ずかしかった。

 

 

「誰? おまえ」

 

やはり彼は何も知らない。知る前の彼なのだから知るわけがない。

 

 

しかし―――――

 

 

「なぁ、お前の名前は?」

 

彼女の様子を見て、居た堪れなくなった彼が、思わず聞いてきた。

 

「!!」

 

 

もう、この場所で彼にこんな思いをさせるのは最後だ。

 

 

「三葉。私の名前は、三葉……!」

 

 

「三、葉……?」

 

不思議そうに、何かに操られるように、瀧は彼女をじっと見つめていた。そして、

 

 

「綺麗、だね。その紐」

 

顔を赤く染めながら、彼はそういった。

 

「組紐、って言うんよ。これは」

 

数秒間、互いに見つめ合ったまま沈黙する二人。

 

「私、家にいっぱいあるから、あげる」

 

恐らく、彼は冷静ではなかったのかもしれない。夢遊病のようにこちらの顔を見て、頬を赤く染めて、言われるがままに組紐を受け取ったのだ。

 

なぜ、彼は最後に自分の組紐を受け取ってくれたのだろうか。

 

それでも―――――

 

 

――――いつかまた、会えるよ。

 

その先に終わりが待っていようとも。

 

 

――――ごめんね、瀧君

 

 

 

 

 

2016年10月13日 東京

 

 

「はぁ!? 14日に岐阜の糸守町に!?」

 

藤井と高木の反応は半信半疑だった。なぜ崩壊した街の跡地に行く必要があるのか。二人には疑問だったのだ。

 

瀧が墓荒らしや、肝試しが好きなタイプの人間ではないことは知っている。だからわからない。

 

なぜ彼をここまで突き動かしているのか。

 

 

「すまん、だからシフトをその日だけは変わってくれ!」

 

頭を下げる瀧を前に、高木が首を縦に頷いた。

 

「なんだか知らねぇけど、お前がそこまで頼むんだ。理由はあとになって聞かせてくれるんだろ?」

 

 

「―――――ごめん、詳しくは言えない。けど、会わなくちゃいけない人がいるんだ」

強い意志を感じる、誰かに会いに行くという言葉。今までの彼には見られない姿だ。

 

 

「なら、俺も心配だからついていくよ。高木に留守を任せて、俺が瀧のお守り」

 

 

「なっ、だめだ。これから行うのは、どうなるかわからないんだ。司、考え直したほうがいい。巻き込みたくないんだ」

 

真剣な瞳で、同行をお勧めしないと言い張る瀧。

 

 

「なら、なおさら見捨てるわけにはいかないだろ? 友人がでっかいことを抱えているんだ。なら、友人として助けるのは当たり前だ。それに」

 

友人の鏡と言えるセリフだ。自分は幸せ者だと思う瀧だが、この場合はあまり喜ばしいことではない。

 

「それに?」

 

そして後に続く言葉は何なのか。

 

「同行すればおのずとその目的もわかるってもんだ」

 

 

「司――――――」

 

 

 

 

 

その後――――――

 

 

 

「瀧君、こんな大所帯になるとは予想していなかったよ」

 

翌日、青葉の目の前には彼の友人と思わしき人物と、年上の女性がいたのだ。

 

「すみません。巻き込むつもりはなかったのですが――――」

 

申し訳なさそうにしている瀧に対し、

 

「いや、バイトのシフトの関係もある。強く言えないのも無理はない。」

 

今度は青葉が彼ら二人に向き直る。

 

「今回の件は本当に俺自身どうなるか予想がつかない。危険な目、というわけではないが、何が起きるか———本当に分からないことが起きる。それでもついていく気はあるのか?」

 

 

「糸守町、宮水――――瀧君がなぜこのキーワードと繋がっていたかはわからないけれど、きっと想像もつかないようなことが起きたんですよね?」

 

奥寺ミキは、青葉に対してその説明困難な事柄に対しての説明を暗に求めていた。

 

「ああ。俺も全く想定外の事柄だ。何しろ3年前に俺は奇妙な形で瀧君と出会っている。そして、瀧君にとっては現在進行形で俺に出会っていた。ここから先の話はある程度の覚悟が必要なのだが、それを持っているかな?」

 

 

「―――――なぞなぞの様な物言い。素直に考えれば3年前の貴方が現在の瀧君にあったと理解したのだけれど、それは与太話ではないのね?」

じっと、青葉の様子をうかがう奥寺。

 

「奥寺先輩、それは―――――」

何かを言いかけようとする瀧だが、青葉に手で制されてしまう。

 

「ああ。少なくとも、俺と彼にとっては与太でもなんでもない。ありえないほど空想的な、残酷な現実でもある」

 

真っ直ぐ奥寺を見つめたまま、自分にとっての事実を述べる青葉。

 

 

「―――――そうね。リオ五輪代表宮水青葉さんが、どうすればここまで深く瀧君と交友を深められるのか。それを理解するよりもあなたの言葉のほうに、説得力があるかもしれない、そう考えただけ」

 

 

「だから、与太かどうかは私の判断で決める。だからあなたの邪魔はしない」

 

 

「その言葉に感謝する。ありがとう、奥寺さん」

 

 

そこから一行は、電車を乗り継ぎ、荒れ果てた廃墟と化した糸守の町に辿り着いた。

 

 

「ここが、彗星の落ちた場所。」

 

「―――――同じだ、壊れてしまっているけれど、間違いない。俺はこの場所を知っている!」

 

 

「あぁ、旅先で見た瀧のスケッチ通りだ。驚くほど、面影が残っている」

 

司も瀧のスケッチとあたりの風景を交互に見て、信じられないといった様子だった。

 

しかし、絵画で見た光景と実際の風景は著しく違う。昔はそうだったのだろうという推測がつくくらいで、時の流れというものを伝えてきた。

 

凄惨な糸守町の現状に言葉をなくす一同。

 

――――まさか、こんな形で戻るとは思わなかったよ

 

その中で、青葉は複雑な心境で廃墟と化した故郷を眺めていた。

 

 

 

 

「で、これからどうするの?」

奥寺が青葉に尋ねる。

 

「ああ。この先の繭五郎の御神体が奉られている場所まで向かう。この先は野道だ。そちらの荷物も少し持とう」

 

「あ、ありがとう」

奥寺の持っていた荷物をすべて持つことになった青葉。礼はいらないと言い、黙々と目的地へと向かう。

 

 

――――宮水選手って、クールだよなぁ

 

――――記憶で見たあの人は、もっと明るい人だった

 

小声で会話する司と瀧。しかし、明るい彼を知っている瀧からすれば、あの悲劇で明るさを失った彼のことを思い、複雑な心境だった。

 

 

そして、草が生え放題となっていた御神体が眠る場所へとたどり着いた一行。

 

 

その時、不意に瀧の組紐が強く一瞬だが光ったのだ。

 

「!?」

 

「今、組紐が――――」

 

彼の近くにいた奥寺と、本人はその光った首紐を見て、御神体の眠る先へと目を向ける。

 

 

「―――――やっぱり引き返したほうがいいのかもしれない。これは――――」

 

本能で感じたのかもしれない。彼女は自分たちに何かが降りかかると感じていた。何か取り返しのつかない事態が彼を襲うのではないかと。

 

 

「青葉さん……」

 

心配そうにこちらに目を向ける瀧。

 

「大丈夫だ、みんなきっと大丈夫さ。特に俺は、あの悲劇に遭いながら、生きているんだから」

 

興味深い目で瀧の組紐を見つめる青葉。そして、

 

「それにしても、より一層信憑性が増してきたな」

やはり、何かがつながっている。見えない糸が存在すると彼は断言する。

 

 

瀧は、彼の回想を思い出す。

 

 

 

「運命の日、俺は颯とともに東京から糸守に戻る途中だった。」

 

眼を閉じながら、その記憶を回想するように彼は語り続ける。

 

「タクシーに乗って、そのまま帰るはずだった」

 

 

「最初に目にしたのは、夜空に輝く彗星。その一部が赤く光りながら分裂し、軌道が変わっていく様子だ」

 

その彗星というワードが出た瞬間に眉間がゆがむ青葉の顔。

 

「次の瞬間、視界を光によって奪われ、強烈な衝撃とともにタクシーが強い揺れに襲われ、俺たちは意識を失った」

 

 

 

「まさか、隕石の落下地点に――――」

 

司が手を口に当てて思わず尋ねた。

 

「蒸発時点、新しくできた隕石湖ではなく、家屋半壊と全壊の境目の場所に、恐らくいたのだろう。不幸中の幸いとはこういうんだろうな」

 

死んだような眼で、なぜ生存できたかの理由について、淡々と語る青葉。

 

 

「しかし、タクシーの運転手は飛来物の直撃を受けて即死。颯は右足首を挟まれ、救助が遅れたことでその部位が完全に壊死した――――二度とサッカーのできない体になったんだ」

 

 

話している最中に、青葉は颯に詳しい事情を言わずに出ていったことを思い出す。

 

――――ちょっと、1日だけ予定が出来た。1泊して帰るよ

 

 

――――え? えぇぇぇ!? どうしてそんな急に?

 

 

――――ちょっと、リーグ復帰前に銅メダルの報告にね

 

――――ん、わかった。でも、無茶はしないでよ。病み上がりなんだから

 

颯は青葉の物言いを疑わない。ただ、野道と化した糸守町への道筋で、再発だけはやめてほしいと懇願した。

 

 

その回想の中で、その場面の中で、青葉は真実を伝えなかったことを少しだけ悔いていた。

 

――――悪い、颯。

 

 

 

回想から帰ってきた一同。まず青葉が意を決し、祠と化した場所へと入り込んだ。そして瀧たちが後に続いた。

 

 

「俺はこの先のことは知らない。彼女の口噛み酒と、その組紐」

 

 

鈍い光がその両方から淡く溢れていた。まるで引き合うかのように。

 

入り込んだ祠の内部には、彗星のレリーフにも似た模様。

 

 

「―――――これ、もしかしてティアマト彗星のこと――――」

奥寺が口に手を当てて、信じがたい光景を見た人間のリアクションをしていた。

 

しかし無理もない。これはまさにあの彗星を現しているといっても過言ではない。

 

 

「青葉さん?」

 

一同が壁画に目を奪われる中、青葉は三葉の口噛み酒を手に取っていた。

 

「おそらく、効果があるのは瀧君と俺だけ、なのかもしれない。彼女と結んだ組紐を持つ君と、この町に縁のあった俺」

 

そして、青葉は一口その3年放置されていたお酒を飲んだのだ。

 

「――――まさか」

 

それに続いて瀧も青葉に続く。

 

「お、おい、瀧。言っちゃあ悪いが、3年放置だぞ。お腹を壊すかも――――」

 

「いや、案外腐っていない。恐らくちゃんと封をされているからなのだろう。未成年だが、緊急を要することでもある、か」

 

その後瀧も三葉の口噛み酒を一口飲み――――――

 

「「!!!」」

 

レリーフが光り、不意に瀧の体から力が抜けたのだ。

 

「瀧!?」

 

慌てて近くにいた司と青葉が彼を支えるも、意識が戻らない瀧。

 

「いったいどういう――――なっ!?」

 

 

目の前に光の膜が突如現れていた。瀧を支える片手間で青葉はその光の膜を見て絶句していた。

 

「――――――あそこの光は一体―――」

 

「光!? 何も見えません」

 

「何処に光が。レリーフが光っているようには見えるけれど」

 

奥寺と司には見えていない。つまり―――――

 

 

それは青葉を誘うように光っているのだ。それに、このタイミングで入れ替わるにしても、どうなるのかわからない。

 

――――確証がない、な

 

組紐という結びのない青葉には、入れ替わりという現象でどうなるかが予想できない。

 

青葉は旅立つ前に、颯に組紐を預けてしまっていたのだ。だからこそ、瀧のようにオカルトを計算できない。

 

そして、そんな無力な青葉の前に現れた光。扉のようなサイズの穴。まるで世界の意志、世界が垣間見せた代価を要求する光景。

 

今になって、頭がさえ始めた。組紐は、この二つの世界を結ぶカギだ。そして、リスクなしで入れ替わりを為し得たのは同じ組紐を持つ二人のみ。そして、もし颯に渡さなければ、自分もリスクなしで恐らく四葉と入れ替わっていたかもしれない。

 

しかし今の青葉には、その道理を無視してまで颯に組紐を託す理由があった。

 

 

―――――いいだろう、その誘いに乗ってやる

 

青葉は光の膜へと進んでいく。そして―――――

 

「「!! 光っ!?」」

 

司と奥寺がその光を認識し、視界を手で覆って眩しさから逃げた次の瞬間には―――――

 

 

「青葉、さん!?」

 

 

青葉の姿が、どこにもいなかったのだ。

 




彼は望みました。

運命に絶望した彼女を、希望で満たせと


彼女は望みました。

彼の歩みを—————

見届けたいと—————

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