Lost dream ~超常の目覚め~   作:傍観者改め、介入者

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これでLost dream編は終了です。

今日中に続編を投稿します。


第三話夢幻願望から読み進んでください。




第六話 産声と願いと

2016年  東京

 

 

「青葉―――――――」

 

殺風景で、あまり人が住んでいるように見えない2LDKの部屋。そこは、青葉と颯が借りている東京のマンションの一室。

 

あれだけ大事にしていた妹の首紐を、どうして今になって自分に預けたのか。それが颯にはわからなかった。

 

―――――なぁ、颯。

 

不意に、どうして彼はあんな自分を刺激するようなことを言ったのか。

 

――――颯は、やっぱりサッカーが楽しい?

 

もう自分ではプレーできない。外から見るだけとなった競技について、尋ねてきた。

 

――――楽しいよ。見るのも、考えるのも。

 

昔の、荒んでいた自分は怒るだろう。けれど怒らないのは彼が数年間一緒にいてくれたからだ。

 

――――けど、舞衣ちゃんと一緒にあのチームに入りたかったなぁ、とやっぱり思っちゃう

 

考えると楽しくなる。そして考え尽くしたら、空しくなる。

 

そんな彼女の様子を見ていた青葉は、じっと颯の顔を見ていた。

 

 

―――――も、もう。そんな真顔で見られたら、恥ずかしいじゃない

 

もじもじしてしまう颯を前に、青葉は笑った。

 

 

―――――そっか。

 

納得した、といった顔だった。その時、青葉は何を思っていたのだろう。

 

 

「うーん、横になろうかな」

考えても仕方ないと、リビングのソファーに倒れこもうと席を立った瞬間、

 

 

「――――――え?」

 

そこは、東京ではなく――――――――

 

 

 

 

2013年 10月 糸守町

 

 

「どうしたのかしら、ちっとも妨害に来ない」

 

学校の放送室から電波ジャックしているにもかかわらず、一向に大人たちが乗り込んでこない。

 

名取早耶香はそんな異常事態に戸惑いを感じていた。

 

 

「あ―――――星が―――――」

 

 

ティアマト彗星が、一番近づいて見られるその日。その彗星の中から赤い光が離れていく。

 

 

―――――うそ、でしょう……!?

 

 

続々と学校に集まる住民の姿を終え、仕事のひと段落下時間。後は本当に彗星が落ちるかどうかというところで不安になっていた彼女は、三葉の与太話が真実であったことを知る。

 

 

 

 

その頃、最寄りの駅からタクシーで糸守町へと向かっていた青葉と颯は、学校の傍で人が集まっている奇妙な光景を目にしていた。

 

「止めてください、運転手さん!!」

 

慌てて呼び止める青葉に、運転手はその指示に従うのだが、

 

「いいのかい、まだ家は遠いぞ」

不思議そうにしている運転手。隣にいる颯もなぜ青葉がここで車を止めるのか、理解が出来なかった。

 

 

「どうしたの、青葉? なんで学校の前で――――でも、なんで学校に灯りがついているの? 今は夏祭りのはずなのに……」

 

 

颯は外を見渡すように車外へと出た。学校の運動場に集まっている町の住民の姿が多数みられ、おそらく町の総人口が今ここにいる。

 

「運転手さん。とりあえずここで止まっていたほうがいいかもしれません。なんだか町の様子がおかしいです」

油断なく、辺りを見回しながら住民の様子を見渡す青葉。

 

「ああ。なんだかこれはただ事ではない。お代はいい。今はこのおかしな現象が何なのかが先だ」

 

 

 

すると――――

 

「―――――青葉!?」

 

 

 

聞きなれた声がするとともに、青葉に強い衝撃が襲う。

 

「―――――みつ姉? どうしたの? なんで?」

 

青葉は訳が分からない。どうして今姉は泣いているのか。どうしてそこまで悲しんでいるのか。

 

 

―――――俺の代わりに、あいつらを、みんなを頼む

 

 

「!?」

声が聞こえた。それは自分以外が発さないはずの声だった。それはもっとも聞いたことのある声であり、ありえないことだったはずだ。

 

 

「青葉!? 無事だったのか!! それにしたってよく無事で―――――」

 

勅使川原もなぜか青葉の今を見て喜んでいる。訳が分からない。

 

「―――――四葉?」

 

そしてなぜ、項垂れている四葉の姿が目の前にいる?

 

 

「―――――そういうこと、か」

そして聞き覚えのある声がすると後ろを振り返ると、父親の俊樹がいた。

 

「―――――父さん!? これは一体。町で何があったんですか!?」

 

そんな息子の様子を見て、喪失感を覚えるような表情をする父の姿を理解できない。

 

――――ま、やれるだけはやった。後はお前に全部やるよ

 

「―――――それにまた声が!? 俺の声があそこから―――――」

 

本能的に声の方向へと走る青葉。それを慌てて追いかける俊樹と勅使川原、そして三葉と四葉。

 

 

 

その先には何かがいる。

 

 

 

 

森の奥では、一葉が青葉と再会を果たしていた。

 

 

「ほら、言ったとおりだよね。約束は破らない」

自身の終わりが刻一刻と近づいていると自覚した彼は、最後の時間を彼らに費やしていた。

 

 

瀧がすべてを動かした。勅使川原を動かし、早耶香を動かし、電力所爆破に電波ジャック。犯罪まがいのことをさせてしまった。

 

しかし、そのおかげで彼らの企みは成功し、自分の悲願も達成できそうだ。

 

 

そうだ。自分は少しだけ融通を利かせただけなのだ。

 

3年後の彼女に、サッカーをしてほしいと強く願った。形見同然の妹の組紐を颯に託した。

 

――――どうか彼女に、“足を失った彼女”に、サッカーをさせてほしいと

 

これが自分の最後の結び。その結果を確かめる術はない。

 

しかし、その世界の颯にも、サッカーをしてほしいと願った。

 

 

「―――――これで、本当に良かったのかい、青葉」

 

心配そうに孫を見つめる一葉。これで彼の悲願は達成されたも同然だ。そして彼は歴史の修正力でこの世界から遠からず消失するだろう。

 

消失した彼がどこへ向かうかはわからない。

 

その事実を、その歴史を覚えている限り、彼はもうどこにも行けないだろう。

 

 

 

「後悔はない。いや、心残りはあるかな」

 

 

ザッ、ザッ、ザッ

 

草むらの中を走る複数の足音。きっと彼が近づいている。彼女が近づいている。それが分かる。

 

 

どうやら、終わりはすぐそこの様だ。

 

 

「お別れだ、おばあちゃん」

 

 

そして振り向いた先に、

 

 

―――――おはよう、3年前の俺

 

 

「―――――お前は――――誰だ―――っ」

一葉を抱きしめる自分によく似た青年。しかし彼は瞬時に分かっただろう。祖母が心をあそこまで許せる存在は限られている。

 

そして、3年前から自分はオカルトに縁がある。すぐに自分の正体に気づくだろう。

 

 

「お前は――――まさか―――――」

驚愕した顔を徐々に消して冷静になる青葉。なぜ彼がそこにいるのか、この騒動に関係する事柄だと確信してしまっていた。

 

 

「さすが俺、というべきかな。正解だよ」

 

 

「――――青葉が、二人?」

勅使川原が、見比べるように3年前の青葉と3年後の青葉を見比べる。

 

 

「―――――まだ星が降るまで時間がある。そんなに肩ひじを張らなくてもいいだろう」

 

 

ズカズカと地面を踏みしめるように近づくのは三葉。今にも泣きそうな顔で、こちらを睨みつけている。

 

 

「これが望みなの? こんな終わりでいいの!?」

怒鳴るように、三葉が聞いてきた。あれから何度も同じ答えを問いただす姉の姿に、苦笑する青葉。

 

「――――俺はね、みつ姉。この夜からみんながいない日々を送るようになった。颯の絶望を見続けてきた。」

 

 

「―――――青、葉」

3年前の颯が、涙を流していた。手が震え、3年後の青葉を見てショックを受けていた。

 

あの後、東京の一室でソファーへと向かっていた颯の意識は、ここに流れ込んでいた。

 

 

3年後に生存し、この場にはいない颯。3年後の颯と意図せずつながったのだろう。記憶の流入が始まったのか、それとも同一化が始まったのか。

 

なぜなら、過去と今を繋いだ四葉の首紐は、颯に託されているのだから。

 

「お兄、ちゃん………」

 

だから、四葉も見えてしまった。銅メダルを手にする青葉の姿、プロチームで活躍する兄の姿を。

 

「私は、貴方の活躍を見続けることが出来るだけでよかった」

 

涙を流しながら、颯の独白が始まった。

 

「私の夢を叶える青葉の姿があるだけで、それだけでよかった」

 

 

「こんな贈り物、受け取れないよ」

 

彼女の足を失ったという歴史が書き換わったのだろう。今頃彼女は、改変されている世界の中で、世界を見つめているのだろう。

 

3年前の颯の姿が、3年後の颯の姿に被って見えた。

 

 

「―――――聞かせてくれ、3年後の俺……っ」

そして今まで黙っていた3年前の青葉が3年後の青葉に問い詰めた。

 

「同じ時間にいる颯を悲しませてまで、これはやり遂げなければならないことだったのか?」

青葉の自問自答。自分自身への問いに対し、青葉は微笑んだ。

 

 

「―――――その現実を認めたくなかった。俺は子供過ぎたのかもしれないな。だから、幼馴染を傷つけてしまった。唯一あの悲劇を生き残ったカタワレを、今度こそ一人にしてしまった」

 

空を見上げる青葉は、赤い光が町の方へと落ちていくのが見えた。

 

 

「青葉っ!!」

それを見たみつ姉が叫ぶ。行くな、と訴えている。消えるなと願っている。

 

 

――――最初に俺がここに来るときに願ったのは、ここまでだ。

 

 

糸守の町の皆が、だれ一人死なず、星が落ちるまでは、見届けたい。

 

 

轟音とともに、街の景色が消滅していく。とてつもない暴風が、威力を弱めながらこちらに向かってきた。

 

「爆風!? いかん、みんな伏せろ!!」

俊樹の一声で、辺りの障害物に隠れる一同。しかし、彼だけは障害物の陰に隠れない。

 

「青葉っ!!」

 

「なにやっとるんや!! お前も隠れぇ!!」

 

「お兄ちゃん!! だめぇぇ!!!」

 

俊樹に腕を掴まれ、飛び出すことが出来ない四葉。三葉とともに、物陰に隠れた颯は、青葉に腕を掴まれていた。

 

 

「どうして止めるの、青葉!! だってそこに、そこに彼が!!」

 

 

「—————————ッ」

 

青葉は、爆風から彼女を守る為に引き留めたのだ。異常事態ばかりが起きる現実の中で、要点だけを抑えていた。

 

しかし、言葉は発せられない。今更彼に何を言えばいいのだ。

 

 

リオ五輪銅メダル。得点王にベストイレブン。高校サッカーで連覇。

 

世代最高と謳われたサイドアタッカーの称号の全てを超えるのは、並以上の努力が必要になる。

 

それを超える重みを背負う覚悟が、果たして自分にはあるのか。

 

「俺は———————」

振り絞るように、現在の青葉が未来の彼に問いかける。何か安心させてやらねばならない。もう彼女は自分で歩けることを伝えないといけない。

 

自分も、彼の様に活躍すると誓わなければならない。

 

「———————」

そんな過去の青葉を見ていた未来の彼は、未熟な彼の様子を見て微笑んだ。

 

 

 

「————————————————」

何かを言っている。その言葉を聞き取れない。現在の青葉は彼の最後の言葉を聞くことが出来なかった。

 

 

爆風と光の奔流の中で、彼の姿が隠されていき―――――

 

 

 

全てが終わった後、彼はどこにもいなかった。

 

 

 

 

そして、彼が消えた瞬間に―――――――

 

 

「みんな無事か!?」

俊樹が辺りに声をかける。

 

「は、はい!! なんとか!!」

三葉が父親の声に反応する。

 

「―――――本当に彗星が落ちるなんてな、まさかまさかだろ」

勅使川原も彗星が落ちたことに、驚いている様子だ。

 

「う、うん。本当に彗星が――――これも瀧君のおかげ、やね」

 

「ホンマ、不思議な体験やわぁ。入れ替わりなんて信じられへんよ」

 

皆が互いに生存を喜び合う中、

 

 

「―――――なんなんだ、なんで―――――」

 

青葉は、なんだか何かを失ったような感覚だけが残り、不気味な感覚に支配されていた。涙が止まらないのだ。何に悲しんでいるかすら忘れ、大事なものを失った、忘れてはならないものを忘れてしまったような感覚。

 

 

 

 

「―――――誰だ、貴方は—————」

動悸がやまない。青葉は今何か重要なことをなくしてしまった感覚に支配されていた。

 

 

「――――――俺は、なんで悲しんでいるんだ……?」

思い出せない苛立たしさに自分への憤りを隠せない青葉。

 

「———————」

そして声もなく涙を流し続ける四葉。あたりを見て、信じられないものを見るかのように、呆然自失となっていた。

 

彼女が知る兄の存在が綺麗に切り取られていた。違和感を覚え、何かを探そうとする兄の姿を見て、彼女は天を恨んだ。

 

 

「――――――」

颯は、そんな兄妹の様子に俯き、何も言わない。

 

颯と四葉以外の人物は、3年後の青葉のことを忘れていた。そして、3年前の彼女が持ち得るはずのなかった宮水四葉の組紐が、彼女の手首に巻かれていたのだ。辛うじて、3年前の青葉だけが、違和感として覚えているだけだ。

 

そして、四葉は完全に余波を受けた形で記憶してしまっていた。

 

 

 

――――前に、ただ前へと進んで?

 

 

————いつか、俺の先を進み続けた、あの頃のように。

 

 

 

—————取り返したから、取り返したよ

 

 

————だから………

 

 

 

 

 

「―――――バカね、ホントバカだよ……」

 

 

「颯?」

 

 

彼女のつぶやきの理由を知る者は、この場にはいなかった。

 

 

 

2016年 10月14日

 

 

「―――――空の色が、変わっていく―――――」

 

司は、祠から出た上空が虹色に輝いているのを見た。

 

「―――――世界が、書き換わっていく――――」

 

奥寺は、過去の世界で歴史が改変されたことを悟る。そして、それに伴いリオ五輪銅メダリストの宮水青葉は完全に消滅するだろう。

 

「―――――――なんで、俺たちはまだ覚えているんだ―――――」

 

瀧は、喪失感を胸に抱きながら、悲願が達成されたことを実感する。歴史が改変され、おそらく自分たちの記憶も書き換わっていく。

 

 

―――――これは罰なのか、世界を勝手に変えた、歴史を変えた―――――

 

 

手首にはめてある組紐を見つめる瀧。

 

「―――――結びがあるから、繋がっている。そうなんだよな、三葉?」

 

自分はまだ、その日々を覚えている。いや、きっと今までで一番鮮明に覚えている。

 

「――――瀧君」

 

「すいません。でも―――――」

 

 

その時、世界を彩る光の奔流がこの祠に殺到したのだ。

 

「「「!!!!」」」

 

何かに気づくよりも先に、三人はその光に飲み込まれていった。

 

 

その光の先に何があるのか、改変の波がこちらにもやってきたのか。

 

 

その答えを理解するよりも先に、

 

 

「――――――――え?」

 

瀧は、自分がよく知るマンションのベランダにいた。それはちょうど、あの日の出来事が起きた夜だ。

 

 

「―――――戻ってる? なんで、なんで、なんで!?」

 

 

一体どういうことだ。入れ替わりが終わった。やれるだけのことはやりつくした。

 

 

その結果が逆行。

 

「――――――俺は、結局何も変えられなかったのか?」

 

悔し涙を見せる瀧。不意に、彼の頭の中に閃いたものがあった。

 

――――三葉の番号―――――!!

 

 

覚えていた。誰一人知らない世界で、自分の記憶の中に彼女の番号が残っていた。すべてのメモはほとんどが消失していた。しかし、自分はあの出来事を覚えている。

 

彼女の人生を垣間見た時に、その番号を記憶していた。記憶が頭の中に入り込んでいた。

 

 

彼女の番号を覚えている。手に取るように彼女の番号を知っている。

 

あの日電話しようとしてつながらなかった。そして、前日に三葉が自分に電話をかけていたこと。

 

 

――――――そうだ、思い出せ。わかるはずだ

 

 

 

それが、彼女とあの世界でつながった、最後の結び。

 

そして、この世界での最初の結び。

 

 

コールする。電話がつながる。電話に出る彼女を想像し、動悸が止まらない。

 

 

「―――――――もしもし?」

 

彼女の声だ、彼女の声がする。

 

 

もう二度と会えないと思っていた人の声が聞けた。

 

「―――――えっと、立花、です」

 

 

 

「――――――瀧、君?」

彼女の声色が変わる。彼女も覚えていてくれた。

 

「―――――無事、なんだよね?」

 

あの彗星の悲劇を町は乗り越えたのだ。その証拠が彼女の声だ。自分の電話から発せられる彼女の生きた声。

 

「――――青葉さんは―――――」

あの人はどうなったのか。自分とともに世界への反逆を成し遂げたあの人は―――――

 

 

「瀧君は、青葉のことを知っているの? 私の弟も有名になったんやねぇ……」

 

 

「――――――え?」

 

その瞬間にすべてを理解した瀧。世界に抗った結果、2016年から世界は巻き戻され、2013年に戻った。

 

恐らく、自分を含むいくつかのバグによって、世界が強制的に自分たちを戻したのだろう。

 

つまり、あの世界の2016年は消滅したのだ。

 

彼に縁の強かった、彼が消失する前に縁のあった人間を除き、その事実に気づかないまま。

 

 

そして、彼の存在と糸守の住民の生存は表裏。前者が消失すれば、後者が生き、前者が存在すれば、後者は死に絶える。

 

なんて残酷な結末だと、瀧は世界を呪った。

 

 

「いや、なんでも、ない―――――」

 

 

「変な瀧君。でも、瀧君のおかげで私たちは明日を生きられる。本当にありがとう」

嘘偽りのない、彼女の感謝の言葉。それに感じ入ることもできない瀧は、歯切れの悪い言葉で、彼女に話す。

 

 

「………ああ。三葉が生きてくれて、みんなが助かって―――――本当に――――」

 

 

その先の言葉を言う際に、一瞬だけ瀧は迷った。自分が認知するたった一人の存在を犠牲に成り立っている彼らの生存。

 

 

「―――――本当に良かった」

 

 

しかし、だからこそ彼女にだけは、彼女だけには知られるわけにはいかない。

 

この秘密はもう、自分が墓場に入るまで秘めるべきだと悟る。

 

――――これが、俺の世界への代価。代償、なんだ

 

 

 

2014年4月 東京

 

 

 

 

あれから半年がたち、立花瀧は最後の中学生生活を迎える前に自分の記憶が知る限りの、彼を知っているであろう知人に連絡を入れた。

 

まだ中学時代で、3年間の付き合いしかないはずの藤井司は、やはり瀧のことを覚えていた。改変が起こった数日後に彼は瀧に電話をかけ、情報交換をしたのだ。

 

「―――――やっぱり、高木は何も覚えていないか」

 

「ああ。けど奥寺先輩は3年後のあの人のことを知っていた」

 

そうなのだ。やはりあの祠に立ち入った人物は青葉の存在を忘れていない。瀧は三葉のあの日の説明の中で矛盾を見つけた。矛盾と言えないほどに修正された綻びにも似た何か。

 

 

入れ替わった瀧の言葉にあの堅物が揺り動かされた。

 

あの時、おそらく彼が先回りしていたのだ。

 

一葉と四葉は避難行動の前に学校に向かっていた。

 

きっと彼が二人に出会ったのだ。

 

 

そして――――――

 

 

「颯さんの立場で考えたら、彼は最低のことをしたわ」

 

吐き捨てるように奥寺は言い放つ。その無責任ともいえる押し付け。善意の押し付けと言っていいほどのことを彼はしてしまったと、彼女は言う。

 

「―――――何が何でも、彼女のそばに居続けるべきだった。なぜ彼が彼女にだけ自分のことを覚えさせていたのか。理由がどうであれ、絶対に許されるべきことではないわ」

 

ここにはいない彼に対し、怒り心頭の奥寺。

 

小野寺颯は、糸守町の中で唯一、3年後の宮水青葉のことを覚えていた。両想いだったはずの彼らは引き裂かれ、永遠にその運命が交わることはない。

 

そう、”その恋”は”永遠になかったこと”にされたのだから。

 

 

サッカーを通じて知り合った二人は、“糸守町消失後の3年間”で恋仲になった。それは偏に、青葉の献身的な支えがあったから。

 

いつしか彼女が彼にとっての一番となっていたのだ。ゆえに改変された世界では、二人が同じように恋仲になることはない。

 

小野寺颯が一番求めていた宮水青葉は消滅したのだ。

 

 

しかし、彼女は瀧を責めるようなことはしなかった。そして、青葉に対して恨み言も言わなかった。

 

「―――――だって、ここに彼がいるのだから」

 

彼女は自分の右足をさする。それは、改変前の世界で失っていたはずの右足首。

 

気丈に笑う彼女は、前を向いて歩き始めていた。

 

「だから私は、あの世界で叶えられなかった夢を必ず叶える」

 

女子ワールドカップで優勝する。エースになる。

 

悲しみを乗り越えた強い女性の姿が、彼らの目の前に存在していた。

 

 

だからこそ、彼らもまた前に歩きださなければならない。

 

「俺は、応援し続けるよ。青葉さんが願いを託した、この世界の青葉さんを。そして、小野寺さんのことも」

 

 

世界を巻き込み、彗星の災厄によって消滅した街を救う物語はここで完結した。

 

しかし彼の闘志は果てず、彼の中にあり続ける。

 

2014年4月。

 

とあるサッカー少年がある高校の門をたたく。

 

海辺近くにある、とある学校。10年前にジャイアントキリングを起こし続け、一躍脚光を浴びた司令塔が去ってから、この古豪のサッカー部は混沌としていた。

 

優れた実力が眠り続け、爆発の予感と機運を未だに目覚めさせないまま、呪縛を解く者の到来を待ち続ける。

 

「―――――ようやく来たか、岐阜から私の声にこたえてくれて本当にありがとう」

 

このサッカー部の監督と思わしき壮年の男。厳格な雰囲気を漂わせる男性は、彼の来訪を歓迎していた。

 

「――――――あそこまで王者打倒を掲げてこられたら、ちょっと火がついてしまいますよ。それに、ここには彼の弟と、面白いパスを出す人がいたみたいなので」

彼は死の直前、青葉に弟のことを託していた。彼こそが、日本にいずれ必要になる存在だと。

 

 

—————王様。俺はアンタの賭けに乗るよ。あんたが最後まで信じた、エリアの騎士を

 

だから安心してほしい。途中まで面倒を見てやると。

 

————騎士の枠に収まるのか。それとも届かないのか。

 

だが、本当に彼はエリアの騎士で収まるのか?

 

サッカー選手はエゴの塊だ。特に、ストライカーや、点取り屋の部類となれば、騎士なんて言う小綺麗な存在になれるのかと疑いもする。

 

————まあ、面白くなればそれでいいか

 

 

 

 

宮水青葉は岐阜にいる家族と別れ、単身で神奈川の古豪、江ノ島高校に入学した。実質推薦同然だった彼だが、一般入試を受けてから入学したいという本人の希望もあり、一般学生とそん色ない試験を受けて堂々の合格。

 

自分の中にある、予感を頼りにこの学校を進学先に選んだ。

 

 

そして――――

 

「クラブチームに入るとはいえ、無理についてこなくてもよかったんだぞ? 東京にも強豪校がいっぱいあったし、なんで蹴球の誘いを断ったんだ、颯?」

 

小野寺颯は、一般学生として入学し、神奈川の女子クラブチームに所属することになる。彼が江ノ島に行くと決めたとたんに、彼女も同じ入学先を希望。

 

改変された青葉には、彼女の機敏を知り得ることが出来なかった。

 

「それは良いじゃない。私の勝手」

 

「??」

 

改変された世界で、まったく新しい青葉のサッカー人生が始まる。

 

 




改変された結果、色々影響を受けた方々。

宮水青葉⇒改変後、夢の中で謎のドリブラーに勝負を挑まれ、毎夜惨敗し続ける

小野寺颯⇒右足が元通りに。色々背負ってなでしこの次期エースを目指す

立花瀧⇒墓場まで持っていく。絶対にだ

宮水四葉⇒兄消失のトラウマ発症。優等生化

糸守町の皆さん⇒全員生存。後に街も復活(青葉らの募金)

なでしこ⇒舞衣ちゃんの安定剤出現。FIFAランク1位に

群咲舞衣⇒後にデレ咲舞衣化。

東京ヴィクトリー⇒至宝に逃げられた(涙)

ETU⇒至宝二人ゲット! 勝てる、勝てるんだ!

江ノ島高校⇒なんか凄い人が来た

磐田⇒勝ち星返してくれ


ホント、どっかの青い子の言う通りだ。

幸せと不幸の差し引きの計算はゼロだ・・・・





ホントの奇跡でも起きない限り(高校篇)
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