トラブルメーカーの凱旋
~~永遠亭、最上階~~
「春越えて 夏も過ぎにし 紅葉落ちて
徒然なられど また梅を呼ぶ」
訳:この一年は退屈であったし、また次の一年も変わることなく退屈であろう。
「塵一つ 数えて楽しむ 我が身さへ
量り尽きれば 心冷えたり」
訳:日常のほんの僅かな変化でも楽しめる自分だが、知り尽くして変化のないままではそれも叶わない。
「徒然なり あゝ徒然なり 徒然なり」
訳:暇だ。暇だ。暇だ。
「暇じゃあ~~~~~~~!!!」
.....................。
「.........ごほんっ! ごほんっ!
ううぅ......ごっほおおおんんっっ!!」
.....................。
「......咳をしても一人、か」
部屋で一人俳句を詠んで退屈を紛らわしている彼女こそ、月より舞い降りた竹取物語の主人公にして、面倒ごと厄介ごと八意永琳その他もろもろを引き連れて幻想郷に移住した永久不滅の困ったちゃんである。
彼女は今、モーレツに退屈していた。
月のやつらからの追跡も丸くなり、鈴仙は異変で私が与えた折檻を気にしてかこちらに来ず、永琳は薬の研究で忙しくしてて、てゐはお金稼ぎに出ていき、殺しあい相手のもこたんは最近張り合いが無くなってきて。
「何か、が」
退屈な日常、退屈な生活、退屈な殺しあい―――贅沢を言えば、
「無いものかしら、ね」
暇で暇で、死にそうになっていた―――その心を、聖杯が見つけた。
「ん......こんにちは、初めまして、誰かさん?」
何かしらの術が、永琳の防衛術をすり抜けて私のもとに訪れた。
「召喚魔術、ねぇ......」
その術が何か、輝夜は断片的にだが理解した。
月のやつらからのものにしては余りにも非力だったそれは、強制的に引っ張っていくものではなく、トントンっと肩を叩いて『来ていただけますか?』と聞いているような魔術であった。
垂らされた蜘蛛の糸を引くも引かないも自由、ということだ。
「自由って、いいわよね♪」
ドゴッ
「姫様っ! ご無事ですか!?」
「あら永琳。床を突き破って来るなんて、品が無いわね」
「お許しください......それで、何かお怪我や不都合などはありませんか!?」
「ん~、無い!」
「そうですか......お騒がせしました」
永琳、グッドタイミング~♪
「ねえ永琳。今の術から術者の場所と情報、逆探知できてる?」
「はい。術者の場所は西洋のロンドン、術者は外の世界の一般的な魔術師のようです。
そしてその術の中継地点となって実際にこの地まで術を飛ばしてきたのが、西洋はルーマニアにございます大きな魔術集合体――名を、大聖杯」
「大聖杯、ね」
知らない名前だ。
芽生えて当然の好奇心が、輝夜の退屈で冷えきっていた心を満たしていく。
輝夜が召喚魔術から知ることができたのは、召喚する理由と召喚方法だ。
その内容は、まさに肩を叩いて呼ぶが如きものだった。
曰く、聖杯大戦、赤のサーヴァント、かぐや姫、とのことだ。
「その体で行っては行けませんよ?」
「大丈夫。なんか、向こうで体は作ってくれるみたいだから」
「体を作る......?」
「そう。私は魔力でできたデク人形の操縦席に乗るだけなの。明らかに偽者だから、むしろ月のやつらも関わって来なくて安心なの」
聖杯が輝夜に求めたものは、現在のこの体の召喚ではなく、聖杯が用意した"かぐや姫"の体に乗ってもらうことだったのだ。
それも、日本に伝わる物語を原典とした存在の召喚ということで、少々懐かしき"かぐや姫"の体を操ることになるらしい。
「......有事になれば、即姫様の身に危険が及ばぬようにと動かせていただくことを、条件とさせていただきます」
「もちろんいいわ。できれば私の勇姿を見ていてくれていると嬉しいな♪」
「......子供のように喜ばれて......わかりました。私も従者として、姫様のお気の済むまでお付き合いします」
「やった♪ ありがとう永琳♪」
やった~♪
これで暫く、暇とはおさらばできそうね!
「あ、そうだ」
「どうかなさいましたか?」
「ん、暫く家を空けることになったでしょ? だから、手紙を書いておく相手がいてね」
ついでにいいこと思いついちゃった~♪
さ~て、紙とペンは~♪
「渡しておきます。お相手はどなたに?
まさか、あの子ですか?」
「そんな詰まらないことしないわ♪
もっと残酷に、富士山が爆発しちゃうほど怒らせなきゃ、ね♪」
「......ほどほどにしてくださいよ」
「えへへっ♪」
よし、できあがり!
あとはー......特に何もいらないか。
「じゃ、留守は任せたわ♪」
「はい。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
そう言い残して。
輝夜は、その場に体を投げ出して、呼ばれた先へと”心”を向かわせていったのだった。
後に永琳は語る。このとき止めておけばよかったけど、このときの輝夜は誰にも止められなかった、と。
× × × ×
「ようこそいらっしゃいました。私がこの度の聖杯戦争の監督役を務めさせていただく、シロウコトミネです。赤の陣営の仲間として、共に協力しましょう」
マスターさんは、このシロウとかいう神父に着いていくらしい。
ならば、サーヴァントである私も、そうすることになるのだろう。まあ、家があるのはいいことだ。
「マスターとサーヴァントで別々にお部屋をご用意させていただきました。どうぞこちらへ」
ま、なかなかサービスの良さそうな神父だし、しばらくはこいつに従ってれば良さそうね。楽でいいわ。
「ああ、忘れていました......部屋をご用意するにあたり、貴方のサーヴァントのことを教えていただかないと、適切な設備がご用意できません。よろしければ、お聞かせ願えますか?貴方のサーヴァントの名前を」
ん? 雲行きが怪しいわね。この神父、悪いやつみたい。
マスターさんは......あー、疑ってないようね。まあそんなもんか。
姿を現して真名を言えって? はーい。言いまーす。
「こんにちは、シロウコトミネさん。
私は赤のキャスターです! 呼ぶときは、キャスターか、親しげに"カグヤ"って呼んでね♪」
カグヤの部分に姫様スマイルを乗せておいた。
かぐや姫とか、なよ竹のかぐやとか、思いきってバニーイヤー装備してイナバを自称しようとかいろいろ考えたけど、シンプル・イズ・ベストの精神を重んじてカグヤにしました!
どや?
「......東洋の英霊、ですか? 冬木の大聖杯では、原則として聖杯戦争に東洋の英霊は召喚できないはずですが......」
そうなのよね。
その制約のせいで、こんな体で呼ばれちゃったのよ~。懐かしいったらないわ~。
「東洋の英霊としての私では、召喚に応じることができませんでした。なのでこの体は、月に住んでいたころの私の体を再現して作られた、月の姫としてのカグヤに平安の衣装をもらい受けたものです」
「......なるほど、だから真名が......」
「?」
「いえ、ありがとうございます。そういうことなら、女性用の、高貴さを重視したお部屋をご用意させていただきます」
「よろしくね~」
この後は、部屋を整理して、お風呂に入って......暫くのんびりした後に、神父さんからいろいろ説明を聞いた。
曰く、キャスターには元々他の人物を用意していたが、『せっかくサーヴァントを召喚するなら、女の子がいい!』と言った私のマスターさんが勝手に自分で触媒を用意して召喚したらしい。はあ、いつの時代も男はろくでもない面白いやつらだわ~。
曰く、キャスターとしての役割を担うサーヴァントは、すでに神父さんがセミラミスとかいうアサシンを召喚できているらしいので、私の担う役割は軽くていいらしい。楽ができるよやったね! まあ私のステータスがパッと見でも低く見えるから、期待されてないところもあるんでしょうけどね。まあいいでしょ。楽なもんは楽だ。観光しちゃうもんね!
曰く、しばらくはマスターも関係なく自由にしてていいとのことだ。外の世界を堪能できるよ、やったね! なんかここの街並みは中世のヨーロッパを再現したものとか言ってたから、近代のとはまた違った趣がありそうね。 よーし、服買っちゃうぞ! 月にいたころの服なんて着てられるかってね!
早速マスターさんにお駄賃もらって、いざ! しゅっぱーつ!!
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「......あのキャスターをどう見ます? セミラミス」
「どうもなんも、ペットにこそなれど、お前の計画を阻害するものではあるまい?」
「そうなんですけどね......」
聖杯戦争の監督役、シロウコトミネは、小遣いを握りしめて教会の扉を大きく開けて出ていった者の背中を眺めて言った。小気味よくスキップして、着物の十二単をぶわぁんぶわぁんと豪快に跳ねさせながら楽しそうに進む姿は、戦士や闘士とは無縁のものに見えて他ならない。
「カグヤ姫。真名はこの地上の言葉で発音できない言葉でしたが、彼女のマスターが使った触媒で召喚されるなら、間違いないでしょう」
カグヤ姫のマスターが用いた触媒は、偶然近くを通った商人から買い叩いたらしい"
カグヤ姫の原典である"竹取物語"に出てきたその物ではなく、むしろその皮衣も火をつければ敢え無く燃える偽物であったらしいが、原典通りの"火鼠の皮衣とされた偽物"という概念でもって、カグヤ姫を呼び寄せることは可能だった。しかも、原典でもカグヤ姫は皮衣を持ってきたという貴族の呼び掛けに応じて顔を出していることから、可能性は決して低くはない。
「彼女に戦いを行った逸話は無く、故にステータスも元々召喚を予定していたシェイクスピアに毛が生えた程度。宝具やスキルもありきたりのものばかりです。まだ顔を見ていないセイバーを含めても、何がどう転んでも間違いなく、彼女はこちらの陣営では最弱でしょう」
「ならば、何を気にしているのだ? マスターよ。まさか、あやつに惚れたか? 求婚でもするのか?」
「まさか、そのようなお遊びは致しませんよ」
しかし、とシロウは思うのだ。
思うのだ、が、
「まあ確かに、思い違い、考えすぎでしょうか。もしかしたら本当に彼女の"魅了"のスキルに当てられてたのかもしれません」
「あっははははは! マスターが魅了されるとはな! 冗談も大概にしろ? うっかり殺してしまいそうになるわ」
「貴女にも魅了されてますよ? セミラミス」
「っ......世迷い言はよせ、そんなことを言う暇があったら、早く準備を進めるがよい。早いに越したことはないのだろう?」
「まあ、それは追々。
今は、最後の来客を出迎えるときです」
「ふん。セイバーとそのマスターの接近に気づかぬほどには、腑抜けてなさそうで安心した」
「殺さずにすむからですか?」
「ああそうだ。私の手でお前に死なれると、困るからな」
聖杯戦争――否、聖杯大戦はまだ始まったばかり。
これまではすこぶる順調にことを運べている。当然だ。
「このときを六十年待ったぞ、ダーニック」
我が短き生涯、それと六十年の歳月が経った。
主の天啓の導きの元に、この願いを叶えてみせよう。
ドンッ
「ただいま! ここを探してる人がいたから、連れてきちゃった♪ あとはよろしくー」
「道案内ありがとう、赤のキャスター。
さて、赤のマスターとして参加することになった者だが――」
......あのキャスターが私の計画の歯車を狂わせる異物でないことを、願うばかりだ。
「はい。私がこの度の聖杯大戦の監督役を務めさせていただく、シロウコトミネです」
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「拝啓、慧音様。梅がその花を急ぎ咲かせること無く、根に蓄えた養分を解き放つ日を今か今かと待ちわびているような今日の良き日に......」
輝夜が、姿を見せない。
いつも通り永遠亭まで来て、かぐやあああああと大声で叫んだってのに(何なら永遠亭の隅に火をつけて脅したってのに)、あいつは姿を見せなかった。
普通に火を消しに来たあいつの従者である永琳に話を聞けば、慧音には話をしたとのこと。
「おっす慧音。元気か?」
「おお、妹紅か。いらっしゃい、元気だぞ」
「なあ、輝夜がお前さんに”手紙”を送ったらしいんだが......」
「ん、ああ、確かに受け取った。三日前ほどだったかな」
「それ、読ませてもらえる?」
「人への手紙を読むとは感心しないが......まあ妹紅と輝夜の仲ならいいか。
ほら、これがその手紙だ」
――そこには、あいつが姿を見せなくなったこととその理由が、まざまざと書かれていた。
曰く、暫くは人里の子供らへの読み聞かせ教室を休むとのこと。
曰く、理由は外の世界の西のほうで観光をしてくるからとのこと。
曰く、お土産話を子供らにするつもりだから、楽しみにしてて......
「ザッケンナオラアアアアア!!!」
「わああああ!? 妹紅! 火はダメだ火は! せめて外でんああいや外もダメだ! ああとにかく落ち着くんだ妹紅!!」
落ち着く?
ああ私は落ち着いているよ!!
あの野郎一人で勝手にどこか行きやがって!!
「待ってろ輝夜ああ!! 今すぐ会いに行って(殺して)やるからなああああ!!!」
いてもたってもいられずに、私は家を飛び出して、外の世界を目指して炎の翼を飛翔させた。
「あー......行ってしまった......」
「慧音先生......」
「ん? ああ、君、いたのか」
「先生、妹紅さんと輝夜さんって、付き合ってるんですか?」
「ん~......そうかもしれんな」
後に残された慧音は、ただ煙混じりの青空を眺めるばかり......
「って、煙!? 火!? 火事じゃないか!? すまない、君は誰か大人を呼んできてくれ!」
「! わ、わかった!」
「ああもう! 帰ってきたら二人とも頭突きだからな!」
―――その日、博麗大結界に人の形をした小さな穴が空けられた。
傷口とその周囲に見える焦げ付いた跡、そして慧音の証言から、穴を開けて外に出ていった者の名前は、藤原妹紅で決まりだった。
”赤のキャスター”
【マスター】男(魔術協会の雇われ)
【クラス】キャスター
【真名】:×××(地上の言葉で発音不可能)
【中身】:蓬莱山輝夜
【属性】中立・狂
【ステータス】
筋力:B 耐久:E 敏捷:E 魔力:C 幸運:A 宝具:A
【クラス別能力】
陣地作成:ー キャスターとしての能力だが、自らの手で住み処を作ったことがないことから適用されず、失われている。
道具作成:ー(A)キャスターとしての能力。自らの手で道具を作ったという話が無いので失われているが、下記宝具を作成するときに限り、Aランク相当の力を発揮する。
単独行動:D 姫としての自由さ、貴族に言い寄られても結婚しなかったことなどからアーチャーでないが獲得している。マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。Dランクなら一日の半分ほどは現界可能。
【固有スキル】
成長:C 子供だったカグヤが竹のように急成長したことから獲得。時と共に自身のステータスが上昇する。使用する魔力量に比例して上昇速度が上下し、現在はおおよそ千日でワンランクアップ。もしイリヤがマスターだと百日程度まで速くなる。
魅了:B 平安中の貴族をたちまち虜にしたことから獲得。異性からの敵意を和らげ、自分への守護意識と仲間意識を植え付ける。悪化すれば言うことを何でも聞く下僕と化す。幸運判定で回避可能。
トラブルメーカー:A 彼女に関わったもの全てが何らかのトラブルに巻き込まれていることから獲得。意図してかせずかに関わらず、接した者は近いうちに何らかのトラブルに巻き込まれる。幸運判定で回避可能だが、カグヤのスキル"魅了"に当てられている者は回避不可能。
【宝具】
『天の羽衣(口惜しや心有りける地の都)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~40
真名開放して現界させることで発動。カグヤの頭上に月の馬車が現れ、同時に周囲を月の光で照らす。光に触れたものは瞬く間に石化し、行動不能になる。
しかし原典通り、これは自滅宝具であり、この衣を着たカグヤは月の使者の手によって強制的に霊核を失い、脱落扱いとなる。
『不死の薬(その体苔の蒸すまで月を見よ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1
月の見える日の夜に一度だけ、真名開放しながら道具作成することで発動。カグヤが致命の一撃を受けても一度だけ復活できるようになる薬を作成する。重ね掛け不可。えくすてんどあいてむ。
ただし、一度死ぬことには抗えないという特性上、マスターとの魔力の繋がりやサーヴァント契約は失われ、カグヤは単独行動スキルによってのみ現界するはぐれサーヴァントとなる。このときを狙われれば当然やられる。耐久Eのカグヤならデコピン一つで命が危ない。
物理的な死や毒殺、呪殺、また令呪による強制自害などにも効果を発揮できる。が、自身の宝具である『天の羽衣』には効果を発揮しない。また不死殺しの概念を持つ宝具や技なら、これを貫通してカグヤを倒しきることができる。
『五つの難題(さあ惑へ夜這い求める俗どもよ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~5
真名開放することで発動。五回に限り、固有スキルの"トラブルメーカー"を、幸運判定を無視して強制的に引き起こす。"魅了"に当てられている者ほど、不幸な結末を迎える。同性には効き目が弱くなる。カグヤちゃんマジ困ったちゃん。