【完結】赤のキャスターは蓬莱山輝夜   作:木工用

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トラブルメーカーの消失

 

 

「順調、ですね」

「そうか? 何かと不測の事態のせいで計画に支障が出ているように見えるが?」

 

 此方で確認できた脱落サーヴァントは、四名。

 赤のキャスター、カグヤ。

 黒のバーサーカー、フランケンシュタインの怪物。

 赤のバーサーカー、スパルタクス。

 黒のランサー、ヴラド三世。

 

「さあ、どうでしょう。戦争にトラブルはつきものですから」

 

 

 へえぇ、冬木の聖杯戦争―――第三次聖杯戦争にルーラーとして参加していた者の言葉となれば、重みが違って聞こえるぜ。

 

 

「ライダー、マスターに向かってその口の利き方はなんだ?」

「そう怒るなよ女帝さん。可愛いお顔が台無しだぜ?」

「っ......!!」

 

 

 その男がオレたちのマスターかどうかを認めるのは、その男の話を聞いてからだ。

 

 

「いいですよ、アサシン。ランサーの言う通り、話し合いをするとしましょう」

「......我もサーヴァントだ。マスターの言うことには従おう」

 

 

 私は別にマスターなぞ誰でもいいのだがな。

 

 

「アーチャーは、以前のマスターに未練はないと?」

「ああ。戦争に参加した身分のくせに、保身の為に顔も見せず言葉も交わさない―――死ぬ覚悟の一つも感じられない惰弱なマスターに、興味などない」

 

 赤のライダー。

 赤のランサー。

 赤のアーチャー。

 そして隣にいる赤のアサシンに、今ごろどこかで最終宝具を起動している黒のキャスター。

 この五名が、今の自分のサーヴァント。

 

 ヴラド三世とスパルタクスが相打ち、同時刻にカグヤとフランケンシュタインの怪物が恐らく相打ちした。

 その間に私は、赤のマスター全員を毒で眠らせ、サーヴァントとの契約の証である令呪を全て貰った。

 その後、予定通り駆けつけてきたジャンヌダルクと他のサーヴァントの前で自らの正体を明かした。

 

「では皆さん、改めまして。私は前回の冬木の聖杯戦争に召喚されたルーラーのサーヴァント、天草四郎時貞です」

 

 赤のセイバーの介入のせいで黒のセイバーとアーチャー、そしてルーラーと、敵に回った赤のセイバーの四名の撤退を許してしまったのは面倒だ。

 しかし、既にこちらが大聖杯を手にいれている以上、黒の陣営はこの空高く浮かぶ空中庭園にどうにかして攻めこんでくる必要がある。

 たとえ高さの壁を越えられたとしても、その先に待ち受ける障碍は強い。アサシンの奮う数多の迎撃魔術、アーチャーの雨のような矢、ライダーの不死戦車、そしてランサーの豪炎豪槍。その全てを攻略して、ようやくこの空中庭園に足をつけられるというのだ。

 こちらの絶対的優位は動かない。

 

 

 

 ただ、一つ。

 本当に一つだけ気がかりなことがある。

 ......あれだけ迷惑極まりなかった赤の姫様が、果たして大人しく棺の中に収まっていてくれるのだろうか?

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「輝夜......どこにいるんだ輝夜......!」

 

 ルーマニア上空に空中庭園が出現している一方、こちら太平洋上空。

 謎の火を纏った一羽の鳥が、何かを求めて彷徨うように翼を広げて飛んでいた。

 言ってしまえば、パゼストバイフェニックスを渡り鳥に応用して憑依している藤原妹紅である。商人の男の話を頼りに、東の空へと飛び出してみたのだ。

 

「おい輝夜......! 一面の青しか見えないぞ輝夜......!」

 

 しかし、千年を妖怪退治の旅に費やし、日本全土を踏破したと言っていい妹紅でも、海の外に出たことは無かった。

 故に妹紅は、知恵を駆使すれば飛行機や船に乗れなくも無かったというのに、手間や待ち時間を嫌って自力で太平洋を渡るという暴挙に出てしまった。

 

「輝夜......! 私はあと何時間飛べばお前のもとに行けるんだ輝夜......!」

 

 熟練の渡り鳥は、五十羽ほどの隊列を成し、先頭や前列の空気抵抗の強いポジションを皆で交代しながら飛ぶことで、長く苦しい旅路を乗り切る。

 

「輝夜......! ちょっと疲れて来ちゃったぞ輝夜......!」

 

 しかし、無謀にも一羽で飛び始めた妹紅鳥に、そんなことをしてくれる鳥仲間はいない。

 全空気抵抗が自分自身にかかる素敵な飛行ライフを、全て遠き北米まで優雅にご堪能。

 

「輝夜......! はあ、はあ......輝夜ァ......!」

 

 広く青い海、太平洋。

 長く苦しい戦いを乗り越えた先の更なる地獄(大西洋)を、妹紅鳥はまだ知らなかった。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「ん、なんだここにいたのか」

「お、よお姐さん。もしかしてデートのお誘いかい? あいにくと今はそんな気分じゃないんだ。許してくれ」

 

 空中庭園、外が見えるバルコニーのような場所。

 昨日の戦争の出発地点でもあるこの場所が、赤のサーヴァント三名は気に入っていた。

 

「......姐さんでもデートでもないが、今はそんな気分じゃないというところには同意せざるを得ないな」

「......ま、何だかんだで集まったんだ。少し話そうぜ。

 ランサー、お前さんもそこで突っ立ってないで、来いよ」

「すまない、オレが行っては邪魔になると思ってな」

 

 戦争が終わり、ここにいる三名の環境は大きく変わってしまった。

 マスターの変更。神父シロウ・コトミネ改め天草四郎時貞への令呪の移植により、サーヴァントたちは強制的に彼の駒になった。以前のマスターがどうこうということではないが、気分的に受け入れられないところが大きい。

 今後の戦略。大聖杯を手にいれたことにより、赤側の絶対的優位が約束された。必然的に赤のサーヴァント三名には、攻めてくる黒のサーヴァントを迎撃するくらいしかやることが無くなる。それが戦略的に最も太い勝ち筋だということくらい、大英雄たる三人は理解している。それでも戦闘がないというのは落ち着かない性分だ。

 そして最後が、この嫌な静けさだ。

 

「......静か、だよな」

「......ああ。落ち着くようで逆に落ち着かん。ライダー、何か話せ」

「おお、んじゃあ俺がまだ子供だったときの話をしようか。俺は物心ついたときから、賢者ケイローンの弟子として......」

「その話、長そうだな」

「お、おう......」

「.....................」

「オレはそれでも構わんぞ」

「いや、姐さんがお気に召さないらしいからな......」

「......嫌というわけではない。すまなかった」

「......謝るな」

「........................」

 

 一人、いないのだ。

 馬鹿みたいにうるさくて、場を搔き乱す天才で、いつも笑顔で楽しそうで、一緒に飯を食べていると自然と皆も笑って話せていた、そんなトラブルメーカーが一人、いないのだ。

 

「......彼の様子が気になる。失礼する」

「ん、ああ、前のマスターか。俺のもついでに頼む」

「心得た」

「......私は少し部屋で考え事をしたい」

「......そうか、行ってら」

「ああ」

「.....................」

 

 最初からこの三名でいたならまだしも、一度は一人を足せば和気藹々と話せていた分、沈黙が余計に気まずく三名を包む。

 結局、話すこともなく、三名は別々に時間を過ごすこととなった。

 

 

 

 

 さて、ここで三名の心情をチラリと覗いてみよう。

 

 

 ~ライダーの場合~

 

(はあ、キャスターの姫さんはやられちまったか。ああいう奴はしぶとく生きてるもんなんだけどなあ。あいつと過ごしてた時間が楽しかっただけに、残念だ)

 

 

 

 ~アーチャーの場合~

 

(はあ、キャスターの奴はやられてしまったか。ああいう奴はしぶとく生き残る厄介なやつだと思っていたがな。あいつの霊核は私の矢で、と思っていただけに、残念だ)

 

 

 

 ~ランサーの場合~

 

(×××が死んだ。ここが戦場である以上、死の不幸は誰にでも降り注がれ得る。日輪の具足を身に付けるオレといえど例外ではないだろう。

 しかし願わくば、オレを召喚せしめた彼だけは例外であってくれと願うばかりだ)

 

 

 

 ~ライダーの場合~

 

(姐さんもランサーも、姫さんのことは悪く思って無かっただろう。特に前の食事会のときの様子を見るに、ランサーは姫さんが好きだったんじゃねーかと思ってる。戦場に血が付き物なのと同じくらい、戦場で恋に取り憑かれる戦士は多い。

 はあ、やりづらい環境になっちまったな)

 

 

 

 ~アーチャーの場合~

 

(ライダーはキャスターに兄貴分のように接していたな。キャスター自身も彼を兄ちゃんと呼んでいたこともある。関係は良好であったに違いない。

 ランサーはどうであろうか......あの堅物が誰かを気にかけるとは思えんな。まさか、な)

 

 

 

 ~ランサーの場合~

 

(セイバーだ。オレを斬るとすれば、セイバー以外あり得ない。

 彼の宝具は威力も強く、隙も少ない。最後までオレの前に立ち塞がる壁となろう。いや、傲慢なことを言えばなってほしいとさえ思う。それほど彼との戦いは楽しいものだった。

 赤の者たちには申し訳ないが、今後もオレは彼との戦いを優先させてもらおう。オレにはもう、彼との戦場しか見えていない)

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「黒のキャスターが......それは本当ですかアーチャー?」

 

 フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 黒のマスターであり、ダーニック不在のときの暫定的指揮者でもある彼女に、サーヴァントである黒のアーチャーから連絡が届いた。

 開口一番に飛び込んできたニュースは、黒のキャスターの裏切り。

 

『そのようです。大至急お願いしたいことがあります! 黒のキャスターのマスターであったロシェ君、彼の安全を今すぐ確保してください!』

 

 吉報とは到底思えぬ張りつめたアーチャーの口調に、フィオレにも緊張が走る。

 そのようなことを言われても、フィオレとロシェにはそこまで繋がりもなく、ロシェがどこにいて何をしているかなどわかるはずもなく―――

 

「アーチャー、大丈夫です。ロシェは今、私たちと一緒にいて、ゴーレム部隊によるダーニック捜索の指揮を執らせています......あ、連絡を替われるようなので、替わりますか?」

『あっ、はい』

「では......」

『もしもしー? 僕、ロシェ・フレイン・ユグドミレニアだよー。何か用ですか?』

 

 ―――などということにはならなかった。

 ユグドミレニアには、城内の戦闘の果てにダーニックが行方不明になったというトラブルが起こっており、現在はセレニケとゴルドを除く全勢力を挙げてダーニックを捜索中だった。

 数にものを言わす上で、ホムンクルス部隊と同じくらいロシェのゴーレム部隊は有力に働いており、ロシェもフィオレの隣で存分にゴーレムを指揮していた。

 

『無事ですか。よかった......』

『それが良くないんですよー。何だか僕の令呪が消えちゃったんです。アーチャーさん何か知ってます?』

『そうですか......そのことは城に帰り次第、お話ししましょう。

 ところで、ゴーレムに何か異常が出たりしていませんか?』

『あー、そういえばさっき急にゴーレムから魔力が抜けちゃったことがあったかな。それが先生の魔力で動いてたゴーレムばかりで、仕方ないから今だけ全部僕の魔力で動かしているんだ』

『そうですか......』

 

 連絡の向こうでアーチャーがほっと胸を撫で下ろす。どうやら上手い具合に彼の無事は確保されていたらしい。

 幸運の女神は彼に微笑んでくれたようだ。

 

『ねえアーチャーさん。先生はそこにいる? 出来れば替わってほしいな。さっきから先生と上手く連絡がとれなくて......全くこんなときに、ついてないなー』

『申し訳ございません。彼とは別行動をとりました。帰り次第説明いたしますので、今しばらくその場でお待ちください』

『そうなんだ......はーい。それじゃフィオレさんに戻すね。ありがとうアーチャーさん』

『いえいえ、こちらこそ』

 

 本当に、感謝するのはこちら側である。

 何せ、師匠が弟子を手にかけるなどという心底胸糞悪い事態を未然に防いでくれたのだから。

 ―――黒のキャスターの裏切り。ロシェ君にはどう報告しようか......

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「黒のキャスター、何をする気なのでしょうか......」

 

 ルーラー、ジャンヌダルク。

 天草四郎に関するあれこれを終えて空中庭園から撤退した彼女は、ルーラーとして天草四郎の目論見を阻止すべく、黒の陣営に入れてもらうことを考えながら、同時に黒のキャスターの動向を気にしていた。

 いや、正確には彼のことは"赤"のキャスターとして呼ぶべきなのだが......非常に紛らわしい。

 

「どちらにせよ、行く場所は決まっていますね」

 

 どのみち自分の目的はそこにある―――彼女が目指している場所はユグドミレニア城だった。

 

 敏捷Aという恵まれたステータスを遺憾無く発揮し、戦争の影響で荒れに荒れた野原を疾走していると、

 

「―――あれは......!?」

 

 野原の中に、自分と同じ方向に歩みを進める存在を目視した。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「......は~ぁ~ぁ」

「ゴルド。そこはもういい、次は地下の方に行け」

「ムキッ、貴様ぁ! 誰に向かって――」

「質問があるなら聞くが?」

「――っっ!......へいへい」

 

 

 ......まるで道化だ。

 

 

 ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 彼はユグドミレニア城内の修復作業の監督を任されていた。

 ......のだが、とある一人の女ホムンクルスが何故か強気で現場を仕切り始め、それが極めて的確で効率よいものだったため、現在ゴルドは一般作業員Gさんとして、自分の生み出したシステム―――ホムンクルスによる魔力供給炉の復旧に尽力させられていた。

 

「サーヴァントに反逆され、黒の者からも信用を失い、酒に明け暮れる内に戦争は終わって、気がつけばボロボロの城と、奪われた大聖杯......」

 

 ゴルドも、昨日の夜の戦争は見ていた。

 見ていたことで、気がついていたことに確信が持てた。

 

「結局、マスターなんて聞こえがいい名前ぶら下げてても、英雄からすれば俺たちは精々が魔力供給炉でしかないわけだ。

 あんな戦い、文字通り戦場だ。魔術師の()()だか()()ある決闘だなんてのは、文字通り()なわけだ」

 

 上手いこと言ったかな、ワッハッハ......一人で笑い、同時にどうしようもなく惨めな気持ちになる。

 

 

 ......まるで道化だ。

 マスターも、サーヴァントも、戦争そのものも、何かを勘違いした連中の哀れな道化に思えて......ゴルドは意気消沈していた。

 

 

「ゴルドさん」

「ああ?」

 

 呼ばれて、振り向いた先にいたのは、一人のホムンクルス。

 

「ここなんですけど、どうしたらいいかわからなくて......」

「ああ、それはだなあ......」

「......はい......はい......」

「ここをこうして......こんなもんだ」

「おー、わかりました!」

 

 彼が聞いてきたのは、ゴルドにとっては何の難しさもないシステムの修復方法。

 

(こんなのもわからんやつらが、この工房を直してるのか......)

 

 普段なら悪態をついて見下すばかりであったかもしれないが......このときのゴルドはそんな気分ではなかった。

 

「おい、お前ら一度集まれ」

 

 そして気まぐれに、ゴルドはホムンクルスを集め、一度この工房に関して説明しようと思い立つ。

 

(もうくそくらえだ。あーあ、もう何だっていい。やるだけやってみるしかねぇ)

 

 ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 彼は今までの下らない一切合切を捨て、やれるだけのことをやる一人の人間に戻ったのだった。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

令呪て、"()()()()()()()()"ず」

 

 そんなユグドミレニア城の横の湖に―――

 

 

宝具『 王 冠:叡 智 の 光 (ゴーレム・ケテルマルクト)炉心となり、これを完成させろ」

 

 

 ―――黒い大魔力の奔流が、形を成して降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中庭園が去っていく中で、益々混乱を極めるユグドミレニア城の黒の陣営。

 

 

 ふっ......ふっ......

 

 

 そんな中、全く誰も予期せず、全く誰も歓迎しないタイミングで、

 

 

 ふっ......! ふっ......!

 

 

 あいつが、帰ってきた。

 

 

「ふっ!.......................

 かーーーーーーーつッ!!」

 

 キャスター、蓬莱山輝夜。

 バーサーカーからの一撃を全身に受け、マスターとの繋がりも途絶した彼女。

 だが、性懲りも断りも無く、ただ宝具()だけは有った彼女は、ここに復活を果たしてしまった。

 

「ここはー......うん、バーサーカーちゃんと戦った場所だね。でも私以外誰も残ってない......ぐすん、ひっぐ、みんな私を置いて行くなんてひどいや。友達だと思ってたのに......」

 

 

 バチッ

 

 

「い゛た゛い゛ッ!?......はいはい、おふざけはここら辺にしておきますよーだ。

 んじゃ、さっさと私の新マスター候補さんを探さないとね!

 行くよ、バーサーカーちゃん!」

 

 

 バチッ

 

 

「い゛た゛い゛ッ!?」

 

 かくして、何かがおかしい......いや元からおかしいがさらに何かがおかしくなったトラブルメーカーは、再び聖杯戦争へと満面の笑みで飛び込んで行くのだった。

 

 

 

 

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