【完結】赤のキャスターは蓬莱山輝夜   作:木工用

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トラブルメーカーの復活

 

 

 

「迷った......」

 

 迷子の♪ 迷子の♪ カグヤちゃん♪

 困ってしまって、さあ大変♪ へいっ!

 

 はあ......、ここどこー? 一丁目?

 厠は? お風呂は? 物置は?

 てなわけで、『不死の薬(笑)』のおかげでキャスターとして生き返ったまでは良かったものの、マスターを失ったことで"はぐれサーヴァント"となり、宛もなく彷徨うカグヤちゃんです......ここどこですかー。誰かいませんかー。

 

「バーサーカーちゃん何かわからない?」

 

 

 シーン......

 

 

「そっかー......あー、また同じところに戻ってきちゃった......」

 

 うがー!

 西洋の城の構造なんて知らないよー!

 扉は鍵がかかってて一つも開かないし! 何よ、一つくらい開けてくれてもいいじゃない! この城の警備は用心が過ぎるよ! 永琳が誰かかよ!

 

「誰かいませんかー......? 誰かいませんかー?」

 

 えー? ここって本当にダーニックさんの城なんだよね?

 人全然いなくない? 影も形も無いよ?

 もしかして......ダーニックさん人望薄いの? 長話に飽きてみんな逃げちゃったの?

 

「う~、せめて一度お外に出たい......」

 

 窓を筋力Bで突き破れば外に出れるけど、警報とか鳴ったらイヤだしなあ。

 ただでさえ"元"赤の者だったワケだし、余計に敵視されちゃうもん。

 

「ダーニックさんの案内、受けておけば良かったかなあ......」

 

 ちなみに今、私は超危機的状況下におります。

 ちょっと私の現状を整理しつつ、この先生き残るための方法を言っておこうか。

 "単独行動できるあと半日の間"に"敵だった人たちの本拠地のど真ん中"で、"はぐれサーヴァント(耐久E)のまま生き残って"、"もう赤の陣営じゃないことを認めてもらい"、"黒の陣営で私とサーヴァント契約してくれるマスターさんを探して契約する"、だよ~。

 うん、絶望的だね! 幸運Aセンパイがどうにかできる範囲を越えてる気がするもん!

 

「はあ......お、あれは......!?」

 

 見えたッ!

 間違いない!

 

「玄関扉あああああああああああ!!」

 

 やっと出会えたあああああああ!!

 しかも開いてるううううううう!!

 貴方を慈しんでおります結婚してえええええええええ!!

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「感謝する。我がマスターよ」

「当然だ、"元"黒のキャスター、アヴィケブロンよ。マスターはお前の為にわざわざ令呪を用意してくれたのだぞ。その恩を忘れるな」

 

 時を遡ること数十分。

 赤側に寝返った黒のキャスターは、彼の現マスターである天草四郎時貞と交渉をし、主張を通して見せた。

 

「いえいえ、聞けば貴方の願望も私のそれに近いもの。志を近しくするものに手を差し伸べるのは当然のことですよ」

 

 その主張の内容は、彼の願望である『 王 冠 : 叡 智 の 光 』(ゴーレム・ケテルマルクト) の完成の助力要請。

 そのために、サーヴァントであるその体を聖杯の力で()()させ、さらに令呪を一画進呈してくれとのこと。

 全ては、彼の宝具を発動し、完成させるため。

 

「サーヴァントが自身に令呪を使うか。どうなるかわからんぞ?」

「ご心配なく。僕だって一応キャスターだ。神代の女帝様ほどにはなくとも、魔術を扱う能はある。

 それに―――どのみち僕の(からだ)は、宝具を発動した時点で不要になる。だから、心配には及ばない」

 

 "元"黒のキャスターのマスター、ロシェ君。

 キャスターの頭の中では、彼ほどゴーレムの炉心に相応しい者はいないと考えていた。

 しかし、様々な廻り合わせを経て、赤の陣営に潜り込み、恵まれた環境を手にいれたことで、黒の陣営にいては叶えられなかった方法が可能になった。

 

 即ち、()()()()()()()()とし、宝具を発動すること。

 

 黒の陣営にいるときは、自身が戦力として期待されていたために使えなかった。自害ともとれるその行動を、マスターであるロシェ君延いてはダーニックが許すと思えなかった。

 しかし、今は違う。ゴーレム工場がない彼を戦力として思う者は赤の陣営にはおらず、また彼の自害を阻止するマスターもいない。

 故に、この世の誰よりも炉心に相応しい者、生涯に渡ってカバラを求め続けた英雄アヴィケブロンの肉体を炉心にできる。

 

 残るはサーヴァントの肉体で炉心になれないという問題だけだったが―――こちらには万能の願望機である大聖杯がある。受肉してしまえばいい。

 

 後は、自分を受肉するための聖杯の使用、そして令呪の進呈を、マスターである天草四郎に認めてもらえるか。そこだけは交渉を必要としたということだ。

 

 そして今宵―――条件は全てクリアされた。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「なんてことだ......」

「叔父様......」

「........................」

 

 フィオレ達の必死の捜索は実を結び、ダーニックを見つけ出すことに成功した。

 ただし、既に手後れであったのだが。

 

「なんで惨たらしい......誰がこんなことを......」

 

 赤のキャスターの連打を受け、ボロボロになった体を引きずり、自らの城を捨てるようなことをしてまで逃走を図った男の、無惨な死体がそこにあった。

 それもただ切り裂かれてのものではなく、丁寧に、丁寧にその身をいたぶられて切り離され―――()()されていた。

 そして、解体という言葉を使えば、ダーニックの体から抜き取られたパーツが一つ。

 

「心臓が、取られたのか......」

 

 そこにあるはずのものが、なくなっていた。

 心臓周辺の皮膚が、まるで医術の手にかかったように綺麗な円形に切り抜かれ、その奥にあるはずの、人の中で絶えず鼓動を鳴らしているはずの"それ"が、ダーニックの体から消失していた。

 

「姉ちゃん、大丈夫か?」

「......余計な心配は無用です、カウレス。

 仕方がありません。今後は私、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアが黒の陣営の代表として指揮をとります。

 早速ですがカウレス、貴方はホムンクルス達を城に撤収させ、修復作業にあててください」

「......承知した」

「ロシェ、貴方もゴーレムを引き上げさせて、城にある重い瓦礫の撤去作業をさせてください」

「わかりましたー」

「形跡からして、アサシンが近くにいる可能性も考えられます。注意してください。いざとなったら私が令呪でアーチャーを呼びます」

「頼む」

「はいよー」

 

 これは聖杯戦争、そういうこともあるのだ。

 亡くなってしまったものは仕方がない。

 

 そうして気丈にも、ユグドミレニア暫定当主として振る舞うフィオレ。

 しかし、弟のカウレスには、姉が無理をしていることなど一目瞭然であった。

 そうだとわかっていながら、カウレスはフィオレの指示に従う。弟として、姉の努力に報いることを選んだのだ。

 

 

 ドシッ...ドシッ...ドシッ...ドシッ...

 

 

「......なんだ、この揺れは?」

 

 そんな彼らの足元に、時を刻むように規則正しい揺れが近づく。

 

 

 ドシッ...ドシッ...ドシッ...ドシッ...

 

 

「魔力......? それもかなりの量と質......!」

 

 

 ザァァァァァァァァ......ザァァァァァァァァァ......

 

 

 揺れの接近に呼応するように、周囲の木々が不気味な音を立てる。

 ひたっ とカウレスの肩に何かが触れる。心臓が破裂しそうになりながら振り替えると―――そこにあったのは、ただの一枚の葉っぱであった。

 

 

 ドシッ ドシッ ドシッ ドシッ

 

 

「きゃぁっ」

「姉さん!」

「......ありがとう、カウレス」

 

 揺れの大きさのあまり、フィオレが車椅子から転げ落ちそうになり、カウレスに助けられる。

 そこまでしてから、フィオレは自身が"接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)"を起動していないことに気づき、慌てて起動した。

 

 

 ドシッ ドシッ ドシッ ドシッ

 

 ゴォォォォォォォォォ......!!

 

 

「......この魔力は、まさかっ」

 

 ロシェがはっとして後ろを振り返り、簡単な照明としてガンド―――魔術師なら誰でも使える呪詛の弾―――を夜空に打ち出した。

 

 

 

 

 暗い夜空に一瞬だけ、

 黒い大型巨人が、目を光らせて姿を現した。

 

 

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』

 

 

 

「っ――――――」

「あ――――――」

「――――――」

 

 巨人が、右手を振りかぶる。

 フィオレたちは、動けない。

 彼女らに向けて、魔力を欲する巨人の救済の手のひらが迫る。

 

 フィオレたちは、動けない。

 

 

 

 大地に、大きなものが叩きつけられる音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...............? 私、生きて......?」

 

 生きている。

 恐る恐る、フィオレは瞑っていた目を開き、顔を上げる。

 

 

「お怪我はありませんか、マスター」

「遅れてしまって、すまない」

 

 

 褐色の長髪を風に揺らす、大弓の賢者。

 背中が開いた鎧を身に付けた、大剣の騎士。

 二人のサーヴァントの後ろ姿が、そこにあった。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「あの巨人は......まさか、黒のキャスターの宝具!?」

 

 数刻ほど前のこと。

 キャスターの宝具を真っ先に見つけたのは、黒のアーチャー、ケイローンであった。

 空中庭園からユグドミレニア城へと戻る途中、彼はその目で巨人の影を暗闇に見た。

 圧倒的な背丈、圧倒的な質量、そして圧倒的な魔力を内包したゴーレムが、森を蹴散らしながらユグドミレニア城へと歩みを進めるその姿を。

 

 "ダーニックの捜索中" "真夜中" "ロシェ"

 黒のアーチャーは最悪の想像をした。

 

『セイバー! 貴方はあの巨人が見えますか!?』

『ああ、今向かっているが』

『ならば大至急! 私のマスターやカウレス君が、あれの向かう先にいる可能性があります!!』

『っ!?』

 

 頼む、間に合ってくれっ。

 黒のアーチャーもその足に全力を注ぐ。

 自身のマスターも当然だが―――誰よりも、ロシェ君だけはあれに殺されて欲しくない......!

 

 

 未来視

 

 

 っ!?

 巨人が右手を振り上げて......!

 マスターとロシェ君たちは、あそこですか......!

 

「―――出し惜しみは、いけませんね......!」

 

 然るべき時。

 然るべき座標。

 然るべき速度。

 そして上を見上げれば、星空。

 必要なものは、全て揃っている。

 

 

「座したる手より、射よ......!」

 

 

      天 蠍 一 射 (アンタレス・スナイプ)

 

 

 果たして黒のアーチャーの天からの狙撃は、巨人の攻撃からフィオレたち三人を守った。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「ぐへへっ、赤のキャスターちゃん......ぐへへっ」

 

 一方こちら、ユグドミレニア城地下、セレニケの工房もとい玩具箱。

 アイスコル家の技術を集結して作られた、一寸も違わぬ"等身大赤のキャスターちゃん人形"を全裸で抱き締める一人の魔術師がいた。

 

「私だけの赤のキャスターちゃん......! ゴホッゴホッ!......ずっと一緒、永遠に一緒......! ゴホッ......! フヒヒハハッ......!」

 

 というのも、ライダーの視界を通じて赤のキャスターの最期を見てしまった結果、セレニケは精神に深刻なダメージをきたし、錯乱してしまったのだ。

 

「フフフ......ゴホッゴホッ!......フフ......ゴホッゴホッ!」

 

 それ故、性格や人格はともかく魔術師としての才覚は優秀であったはずの彼女でも、ミレニア城塞に起こり始めた異変―――謎の()()()()と、

 

 

 ふーん、ふふんっ、ふんふんふーーん♪

 

 

 今はまだ遠くで、幼い声で歌う()()の存在に気づけなかったのだ。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 へー......あの......ダーニ......って人だ.........

 

 

 霧に包まれたミレニア城塞に、舌足らずで幼さを感じさせる声が乾いて響く。

 

 

 おかあ......どんなひと............

 

 じゃ.........おとうさん.........

 

 そっかー......えへへ......たしたちのなかにも......たくさんいるよ!

 

 うん!......したちといっしょ!............だね!

 

 

 会話をしているような言葉だがしかし、声の種類はその幼い声一つのみ。

 血で赤黒く染まった声の主は、右手で()()を大事そうに持っている。どうやら少女はそれに向けて語りかけているようだ。

 

 

 ありがと!............にいろいろお......えてくれ......

 

 うん! あと............たべてあげる!

 

 だい......だよ!......もう......まってて............

 

 

 コツッ、コツッ、コツッ、と。

 べたっ、べたっ、べたっ、と。

 一階から地下への階段を、血の足跡を刻んでゆっくりと歩きながら、少女は口を大きく開け、犬歯を覗かせてそれに語りかける。

 

 

 ―――ハンバーグちゃん♪」

 

 

 それ即ち、()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

『マスター、私はミレニア城塞に帰還しました』

『私も今向かっているところです。カウレスとロシェと、ホムンクルスとゴーレムたちと共に』

『全員無事ですね、良かった......』

『ええ。貴方の指示通り、セイバーが時間を稼いでくれています。しかし、あまり長くは......』

『ご安心を。彼には無理をして倒されることは無いようにと指示しています。彼の仕事はマスターたちの無事が確保されるまでの時間稼ぎです』

 

 アーチャーとセイバーがフィオレたち三人のもとに駆け付けてからは、アーチャーが作戦の指示をした。

 内容は、[近接戦闘に優れるセイバーが巨人を足止めし、その間にアーチャーの護衛のもとでフィオレたちが城に戻る]、というもの。

 

『......マスター、城には誰が残っているのですか?』

『はい。ゴルドとセレニケ、護衛のホムンクルスたちと、あとは......ライダーがいるはずです』

 

 護衛とはいうものの、アーチャーがフィオレの横に張り付いている必要はない。

 千里眼があるアーチャーなら、たとえ遥か先行しながらでもフィオレたちへ攻撃する者を射貫くことができるからだ。

 

『ライダーですか......無事だと良いのですが......』

『アーチャー、どうかしましたか?』

 

 そして、彼は敏捷A+を存分に発揮し、一足先にミレニア城塞に着いたのだが―――

 

 

『城が、何者かに襲撃されています......!』

 

 

 ―――彼が見たのは、上から下まで全てが()()()()に覆われたミレニア城塞の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 無論、彼はこのような状況でも考えることから逃げたりしない。

 頭をフル回転させ、するべきこと、しなければならないことを整理する。彼だけは頭を停止させるわけにはいかない。彼が黒の陣営の頭脳である、数多の英雄を教唆した大賢者ケイローンだからだ。

 

 この霧は何者の仕業か。裏切った黒のキャスターか、アサシンか、はたまた知らない何者かか。

 霧の特徴は。硫酸らしき臭いを感じる、何かしら呪いのようなものも混ざっている、まさか宝具か。

 考えうる実害は。

 ゴルドとセレニケの二人はどこに。

 ライダーは。

 最優先事項は―――

 

 

 

 

 

「こんにちわ!」

「は?......」

 

 そんな彼に、果てしなく気楽な大声がかけられた。

 

「物見さんかな!? 私はキャスターっていいます! 未来のマスター候補さんを探しに来ました! 赤の陣営にいたときはカグヤって名乗ってました! よろしくお願いしまーす!!」

 

 ケイローンの思考は停止した。

 

 

 

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