「よおマスター。帰ってきたぜ......うへぇ」
「お疲れさん、セイバー」
「ったく! もっとこう、どうにかできねえのか、マスターの魔術は......」
「悪いな。俺をマスターに引いちまったのがお前さんの運の尽きだ。」
ここは平原、先ほどまで竜牙兵とホムンクルスの激戦区が繰り広げられていた辺り。
ネクロマンサーである獅子劫は、己の魔術の研鑽と高度な研究成果を求め、死体漁りをしていた。
その途中で、ホムンクルスを助けていた珍しいホムンクルスの男の姿を見たが......獅子劫は身を潜め、見つからないように通りすぎた。魔力回路が強く、腰に剣を携えていることから、戦闘用の者の可能性があったからだ。
「それでセイバー、あの空中庭園について何かわかったのか?」
「ん、なんだ知ってたのか」
「これでもマスターとしてサーヴァントを見守る義務があってな......どうだった?」
己の魔術の研鑽と高度な研究成果を求めながら、獅子劫は空中庭園に行かせていた赤のセイバーの様子に気を配っていた。
「ああ、やっぱりオレの勘は正しかった。あのクソ女はマスターとオレの敵だ」
「つーと?」
「あの空中庭園はアサシンのもので、ヤロウはオレとマスターに黙って、大聖杯を黒の連中から奪ってトンズラこいた。
しかも話を聞くに、ヤロウは赤の陣営のマスター全員に手を出して、マスター権を奪い、あの神父に献上したみたいだ」
「それはマズイな......」
獅子劫は想像以上の状況の悪さに歯噛みし、一服入れようと煙草を取り出そうとして、その手を引っ込めた。
セイバーの言うことが本当なら―――いや疑う気持ちは殆どないが―――あの神父は完全に有利な状況で守りを硬めたことになる。
遥か上空の拠点、守りは硬く、四人か五人のサーヴァントが一人の指揮の元に連携して戦力を構築する。これほど攻めがたいことはない。
「移動するぞ、セイバー」
「おう。いつまでもこんなとこにいたくねえよ」
「そうか? イイところだと思うぞ」
「そういうとこがマスターのワルイところだ......」
これは自分たちだけでは勝てないな。
そうと決まったら即行動、獅子劫は次の手を打つことにした。
進む先は、ユグドミレニアの城。
「そうだ。お礼を言っておこう」
「......は?」
獅子劫は隣を歩くセイバーに微笑みかける。
もっとも、セイバーの目には野獣が牙を見せたようにしか映らなかったが。
「俺のサーヴァントがお前さんじゃなかったら、俺もマスター権を奪われてたらしいからな。教会に行った時のお前さんの"直感"がなかったら、今みたいに神父さんと別行動したりしてなかった。
赤のサーヴァントの中でマスターのことを守れたのはただ一人、お前さんだけなんだろ? やっぱり俺は最高のサーヴァントを引き当てたらしいな」
「..............」
セイバー、モードレッドはその言葉を聞いて立ち止まる。獅子劫の言葉は、己に与えられた文句なしの賛辞だった。
「......おうとも」
だが、それも一瞬のこと。
ぴょん、と飛び上がって獅子劫の両肩に太ももから着地―――肩車の形になり、驚いたように見上げてくる獅子劫に向け満面の笑みを返して、こう言った。
「当たりめーだろ! オレは偉大なる父上アーサー王の息子にして、円卓の騎士を超える者、"モードレッド"だからなっ! ハッハッハッハ!」
そのときのモードレッドの顔は、本当に楽しそうだった。と獅子劫は思った。
なお、結局獅子劫は車を調達できなかったので、ここから数キロ離れたユグドミレニア城まで獅子劫は歩きで行くこととなった。
しかも、とある事情で途中から一人旅になってしまい、本当に寂しい思いをした、と後に獅子劫はモードレッドに語ったという。
× × × ×
「......! 大丈夫か!?」
「うぅ......あれ、あんたは......」
「気がついたか。俺のことは城に着いてから話す。あなたは歩けるか?」
「歩ける......そうか、私はサーヴァントにやられて......」
「歩けるのなら、先に城に戻るか、できるなら他のみんなを助けてあげてくれ」
「......わかった。事情は後で聞こう。私は気を失っていただけで、肉体的な損傷はない。手伝おう」
「わかった」
獅子劫の言っていた、ホムンクルスを助けていた珍しいホムンクルスの男、とはこの子のことである。
ただ一人ゴルドの魔力供給槽から逃走し、黒のライダーに助けられ、黒のアーチャーに道を教わり、そして黒のセイバーに守られて、なぜか赤のキャスターに命を救われた男の子―――アカ。
「......何だかお前、たくましくなったか?」
「カグヤという人のおかげだ」
「カグヤ......?」
その体は城にいたころとは比べることもできないほど成長している。少年から成年になったほどに。
これには赤のキャスターの宝具『不死の薬』が関わっている。
キャスタークラスのサーヴァントが手ずから作るあの宝具は、言わば特大の神秘を丸飲みする劇薬。それがアカの体内に供給されたことでトラブルが発生、彼の体は急成長を遂げ、一般の男性に近い体格を手に入れた。
「......よし、歩ける者は早く城に向かえ。歩けない者は肩を借りて向かえ」
「......お前は?」
「俺は......」
「......どうして貴方がここにいるのですか」
「! ルーラー!」
そうして、彼と彼女は二度目の邂逅を果たす。
「どうしてまたこんなところへ......! ここは危険です! 早くあの安全な場所に戻って......!」
「いや、俺はもう聖杯戦争から逃げないと決めた。だから自分の意思で、ここに戻ってきたんだ」
「アカ君......」
せっかく一度逃れられた戦場へと再び身を投じるアカ。カリスマを込めたルーラーの説得ですら効果がない。
アカの決意の強さを感じたルーラーは、それ以上何も言えなかった。
「教えてくれルーラー。ライダーとキャスター、アストルフォとカグヤに会いたい。どこにいる?」
「......今は二人ともユグドミレニアにいます......あれ?」
「どうした?」
「いえ......どうして赤のキャスターが......」
「?」
「......何でもありません」
二人の場所を問われ、ルーラーの感知力を使って場所を割り出してアカに伝える。
ここでルーラーが違和感に気づく。
あれ? キャスター死んでなかったっけ?
と。
何故か復活してるキャスターの反応が、薄っぺらくて消えそうだが確かにそこにあった。
「なら、俺をそこに連れていってくれないか、ルーラー」
「私は構いませんが......貴方はいいのですか、アカ君。あそこに行けば、後戻りはできませんよ?」
「構わない。会いたいんだ」
「......わかりました」
頑固になってしまったなあ、とアカ君を見て思うルーラーである。
こうして、運命に導かれるように二人は再開し、ユグドミレニアへと向かうのである......。
× × × ×
「......あなたは、サーヴァントなのですか」
「ん、そうだよ! "元"赤の陣営のキャスターやってた、カグヤだよ!」
ミレニア城塞、その門前。
黒のアーチャーがキャスターとエンカウントした。
......よりにもよって、このクソ忙しいときに正体不明のサーヴァントですか......と黒のアーチャー、ケイローンは動揺する。
「ねーねーねーねー! 貴方の名前♪ 教えてくれる?」
そしてそのサーヴァントが、無警戒に近づいてきた。
(チャンス!)
機を見るに敏。
ケイローンは弓を手放し、キャスターを両手で掴んだ。
そして、
「ふわっ!?」
「せえいっ!」
東方の国の柔道でいうところの"一本背負い"に似た投げ技で、正体不明自称キャスター女をぶん投げ、
ドゴッ!
土の地面に叩きつけた。
「いったーい!」
「ふう......」
惜しむらくはキャスター女にしっかりと受け身をとられたところ。
受け身をとられなければ、腰か首にダメージを集められたというのに。キャスターを自称しているわりにはそこそこの戦闘経験があるようだなとケイローンは分析する。
「何するのよー......」
「どうです、これが"パンクラチオン"です。これに懲りたら、今は大人しくしていなさい」
当初、ユグドミレニア城にかかっている霧が目の前のキャスターの仕業だと思っていたケイローンは、キャスター女を倒しきることを考えていた。
しかし、どうにも違っていそうだなと、霧の襲撃者は別にいると思ったケイローンは、キャスター女を放置する方向に思考をシフトした。
何より途中から気づいたが、このキャスター女、マスターとのパスが消えて単独行動でのみ動いている状態らしく、ステータスがすこぶる弱かった。勿論、宝具の存在を考えれば無視できる存在ではないが、キャスター女の残り魔力量は微々たるもので、宝具が使えそうな状態でもないように見えた。
「あのっ、私はマスター候補さんを探してて......黒の皆さんに害を与える気は......」
「事情は後で伺います。今は忙しいんです。わかってくれましたか?」
「はっ、はいぃ......」
何だか泣きそうな声で話してきたので、ケイローンは少しだけ申し訳ない気持ちになる。
が、事は一刻を争うのだ。ケイローンはキャスター女から意識をそらし、巨大ゴーレムと謎の霧のことに意識を集中し始めた。
× × × ×
「
ふえぇ......痛いよぉ......
いきなり投げるなんて酷いや......友達になれると思ったのに......
というかあの人、パンツライオンさんか~、面白い名前だね!
ライオンみたいな髪の毛はしてるけど、パンツ? なんでパンツなんだろ。好きなのかな~......えっち。
「ヤバいな~、このままだと限界来ちゃうな~」
別にトイレを我慢してるんじゃないよ? いや厠は見つけられなかったけど......
限界っていうのは、単独行動の限界。復活してから二時間くらいしか経ってないけど、長時間の歩行とさっき投げられた痛みで耐久Eの体が悲鳴をあげてるの。
だからヤバいんだよ~、マスターさんと契約したいんだよ~、わかっておくれよパンツライオンさーん。
「は~あ、魔術師の一人や二人くらい、どこかに居てくれないものかね」
さっき......私が開いている玄関扉から外に飛び出したあたりから、この城全体が霧に包まれちゃったみたい。
も~、見渡しづらいから止めてほしいな~......ん?
「おっ?」
遠くの森から、何だか見覚えのある顔が二つ!
「おっ!」
髪型が永琳似の金髪の女性と......あっ! あの子!
「私のマスターさん、決定!」
懐かしい顔を確認! 前は気にしてなかったけどあの子も魔術師だったっけ!
そうと決まれば、突撃あるのみ!
行くぞ! 魔力放出(雷)!
ガルバニズム
「飛べえええええええええ!!」
バチバチバチバチッ!!
× × × ×
「......着きましたよ。襲撃にあって半壊していますし、宝具によって霧に包まれていますが」
「ああ。ここは間違いなく、俺の生まれた場所、ミレニア城塞だ」
ルーラー、ジャンヌ・ダルク。
そして、ホムンクルスの男の子、アカ。
片や、空中庭園に行って落っこちて走ってと大忙し。道中で見覚えのあるホムンクルスを視認、驚きのあまり憑依しているレティシアの心臓が飛び上がった。
片や、ルーラーに案内された民家を飛び出して長距離を歩いて移動。道中でホムンクルスを助けていたところ、激おこ顔のルーラーに見つかった。
それからはアカの希望でルーラーと行動を共にし、ようやくミレニア城塞に到着した。
「ルーラー、この霧はいったい―――」
「っ!? 下がって!」
「?」
「お久しぶりいいいいいいい!!」
カーン!
「ぶぎっ......! いったーい! おでこがカーンっていった! カーンって!」
「貴女がいきなり突っ込んでくるから、旗に頭からぶつかるんです」
両手を広げて電気を纏った姿ですてみタックルをしてきたキャスターに、ルーラーは宝具で容赦なく対処。
キャスターのおでことルーラーの旗がぶつかり合い、それはそれはいい音がした。
「ぶー! 何よー! 優しく抱き止めてくれてもいいじゃない! ケチー!」
「ケチじゃありません。ルーラーとして当然の防衛行動です。貴女は今の行動が聖杯戦争のルールに違反していることにお気付きですか?」
「知らんわそんにゃもん! 興味にゃい!」
「貴女にサーヴァントとしての常識を求めた私が文盲であったようです......」
そして始まるキャスターとルーラーの喧嘩。といっても、子供のように怒るキャスターを大人のルーラーが諌めるという一方通行の喧嘩であったが。
「なあ......カグヤ、だよな?」
「ん?」
そこに、横からアカが話しかける。
顔には出さなかったが、かなり勇気のいる行動であった。
「そうだよ! "元"赤のキャスター、カグヤだよ! お久しぶり! 元気してた?」
「"元"......?」
「うん。私一回やられちゃって、マスターさんがいなくなっちゃったの!」
「マスターがいない......? どうしてカグヤは生きていられるんだ? サーヴァントなのに」
「単独行動! 私は単独行動ってスキルを持ってて、半日くらいならマスターさんが居なくても生きていられるんだ!」
「そうなのか......」
カグヤは笑顔でアカに話しかける。ルーラーも、かつてアカがカグヤに救われたという話を知っており、彼に手を出したりはしないだろうと思っているので、渋々ながら横で二人を見守っている。
「そう。それで、ものは相談なんだけど......」
「相談......? カグヤが困っていて、俺にできることなら何でも言ってくれ」
「ほんと!? なら貴方! 是非とも私のマスターさんに―――」
「ストォォォォォォォォップ!!」
見守っていたルーラーが大声をあげて二人の話を、正確にはカグヤの暴走を止める。
「うるさーい! なによー!?」
「なによー、じゃありません! そんな形で手を出すとは思っていませんでした! 私の想定が甘かった!」
「手を出す? あらやだ~、そんな平安の貴族どもじゃあるまいし~。
ほんで? だから何なのよー?」
「彼は一般人です! 魔術回路を持っているだけで、令呪も持っていません! マスターになんて......」
「わかった、俺がカグヤのマスターになる」
「は?」
「お!」
ルーラーは必死の説得を試みた。
しかし、カグヤが話を聞く前に、まさかまさかのアカ君がカグヤの難題を受けてしまう始末。
「なんで!? なんでそんなに簡単にこの女の
「世迷言て、世迷言って言ったなオイ金の永琳女」
ルーラーは驚きのあまり怒ってアカに詰め寄る。カグヤが怒っているが知ったこっちゃない。
ルーラーの怒り顔を、しかし真正面から受け止め、アカは言葉を返す。
「俺は黒の陣営であるユグドミレニアに魔力供給用として生まれ、何人ものサーヴァントにこの身を助けられ、安全なところに行ってからも頭はそれらのことばかりだった。俺は片時も聖杯戦争のことを忘れられない」
「だからといっても、マスターになるだなんて......言っては何ですが、死に急ぐようなものです。貴方はもっと生きられるのですから、そんなことしなくても......」
「いや、何度考えても、何度自分と向き合っても、答えは同じだった。
俺は聖杯戦争に生きる
運命、と。
そう彼の口から出たとき、ルーラー、ジャンヌ・ダルクに啓示が降りた。
そこには、赤のサーヴァントと戦うアカ......ではなく、カグヤと共にピコピコするものをいじっているアカの姿があった。
その手には、真っ赤な令呪が二画。
「..................」
「......へ? 何よ、金の永琳女さん」
じとーっと、何かを言いたそうにカグヤをにらみつけるルーラー。
「......別に......というより、その変な呼び方は何ですか」
「ん? あー、嫌?」
「ルーラーと、そう呼んでください」
「わかった、ルーラー
「.....................」
なんで、こんな変な女と。
そう思いつつ、仕方ないと言わんばかりの表情でアカに顔を向く。
そして、非常に、非常に不服そうな顔で言葉を発する。
「......わかりました。アカ君、貴方をカグヤのマスターになることを許可します」
「ありがとう、ルーラー」
「ただし!......話は終わりではないですよ」
ルーラーは言葉を続ける。ここからは聖杯戦争のルールに絡むお話だ。
「聖杯戦争に参加するには、強く何かを願う心が必要です。それがないものには、マスターの証である令呪が与えられません。
アカ君には、それがありますか?」
令呪。
それはマスターの証。
内容はどうあれ何かしらの願いを秘め、血と謀略の聖杯戦争に参加した魔術師である証。
「ああ、ある」
アカは、左の拳を握りしめながら、口を開く。
「俺は知りたい。自分のことも、カグヤのことも、ルーラーのことも、ライダーのことも。
それだけじゃない、人のこと、ホムンクルスのこと、聖杯戦争のこと、世界のこと......生きて、戦って、俺はそれらを知りたいんだ!」
硬い意思と純粋な願いを秘めたその目は、真っ直ぐルーラーを見る。
その視線を受け止め、少しだけルーラーは呆れてから言葉を発する。
「.........どうやら、その願いは本物のようですね」
「......?......っ!? 痛っ......!?」
瞬間、アカの左手にジクッとした痛みが。
見れば、手の甲に刻まれた赤色の痣―――令呪が三画、そこにあった。
「左手、ですか......」
「変なのか?」
「いえ、基本的に令呪は右手に宿るものなので、左手に宿ったことに驚いただけです」
珍しいこともあるものだと、ルーラーは思った。
「それでルーラー、次はどうすればいい?」
「......これ以上進めば、もう戻ることはできません。それでもいいですか?」
「ああ、俺はカグヤのマスターになる」
「......貴方の意思の硬さには、驚かされっぱなしですよ」
やる気に満ちたアカの前で、ルーラーはため息をつく。
しかし、一呼吸入れたことで彼女にも覚悟が据わる。その姿勢と雰囲気も裁定者の者になった。
「後は、思いを乗せて言葉を紡ぐだけです」
「それって、プロポーズみたいなもの?」
「.....................」
「きゃ~! 私って今から求婚されちゃうの~!? も~どうしよ~♪」
「...........................」
「......ぶー、ルーラーちゃん怖い。ちょっとふざけただけじゃん。そんな怒らなくても」
「怒ってません」
「怒ってる」
「怒ってません」
「怒ってる!」
「怒ってません!」
「怒ってません?」
「怒ってます!............ハッ!?」
「怒ってる~、ルーラーちゃん怒ってる~」
「.................焼きますよ?」
「ごめんなさい」
「えっと......再契約の呪文であっているか?」
覚悟を決めた矢先にこのカグヤの悪ふざけ。ルーラーは怒り、アカは戸惑いを隠せない。
ゴホンッと一つ咳払い。ルーラーは話を進める。
「その通りです。ご存知でしたか」
「ああ、知識として知っている」
「へぇ~、そんなのあるんだ......」
「......カグヤ、貴女はキャスターなのですから、そのくらいは知っておきなさい」
「うへぇ、言われちゃった。魔術師って大変だな~」
「......カグヤ、あなたは本当にキャスターなのか?」
「疑っちゃやーよ♪ 私のクラスは、本当の本当にキャスターなんだから~♪」
「そうか......」
無い胸を張ってドヤ顔と共にキャスター宣言をするカグヤ。だが聖杯戦争史上、これほどまでに魔術に疎いキャスターがいただろうか。意外と別の平行世界にはいるかもしれない。
「あ~......何だか体から力が抜けていく~」
「っ!? 大丈夫か!?」
「う~ん、もう単独行動する体力が残ってないのかな......さっきぶん投げられたし、頭と旗とでゴッツンコしたからなあ」
痛そうに両の肩とおでこをさするカグヤ。全身から光の粒子を出しながらのその姿は、確かに今にも消えそうだった。
口振りは今にも元気に走り回りそうなものだが。
「誰に?」
「パンツさん」
「パ、パンツさん?」
「うん、パンツライオンさん」
「パ......パンツライオンさんですか......」
「うん」
(誰だ?)
(誰のことですか......)
心配そうな顔を作るアカと、呆れたように頭を抱えるルーラー。
閑話休題。
「そんなことは後でいいでしょう。とにかく、消えそうだというのならすぐに再契約を!」
「......そうだな。カグヤ、君は俺がマスターで構わないか?」
「構わないも何も私から求めてるんだけど......なら、この
「?」
げふんげふん、と準備するように咳払いし、カグヤは笑顔で口を開く。
『求めよ、さらば与えられん。望めよ、さらば贈られん。願えよ、さらば叶えられん。欲せよ、さらば手にせん。
その全てが貴方の物であり、その全てが貴方を幸せにする。
約束された幸運を信じて......宝具―――』
身から生じる光の粒子に、月の光のような輝きが混ざり、夜を照らす。
そして、カグヤはその名を口にする。
―――
月の光が意識を持つようにアカに集い、その身に吸収される。
その
『―――告げる。
汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!
我に従い、我が言葉に応えよ! その運命、我に預けるか否か!?』
カグヤ、応える。
『―――キャスターの名に懸け、その誓いを受けとります。
私の主は貴方であり、私は貴方のサーヴァント―――アカのキャスターだ!』
『裁定者ルーラー、ジャンヌ・ダルクがここに、サーヴァント"カグヤ"とマスター"アカ"の契約を認めます』
草木も眠る丑三つ時、月に照らされたミレニア城塞の門前。聖なる魔力が三者を優しく包み込む。
ここに、新たな主従が誕生した。
× × × ×
「...............っ............」
.......へぇ? じゃあ......んってとてもおかしいひ......
「............っ.......!......」
誰かがいるはずがない、誰も近づくはずのない地下のこの部屋に近づいてくる、聞いたことのない少女の声。
自分のサーヴァントよりももっと幼く、無垢で舌足らずで......それ故に不気味な、聞こえるはずのない声。
コツッ......コツッ......コツッ......コツッ......
「......っ!.................っ!」
近づいてくる。
確実に近づいてきている。
セレニケは、先ほどまでの狂い様からは想像できないくらい理性的な様子で、必死に声を抑え、音を立てまいとしている。
何故か。理由ははっきりしている。
マスターだからこそわかるのだ。近づいてきているのが、
それも、防衛用の探知魔術には引っ掛かるのに一切の気配がなかったことから、相手が
見つかっては、ならない。
「........................っ......!」
足音が、止まっ......
......あ! みつけた!
「......っ!?............」
黒魔術で恐怖には慣れているはずの心臓が、ドクンと跳ねた。
...........................
ガチャン!!
ガチャンガチャンガチャンガチャンガチャンガチャンガチャンガチャンガチャン!!!
「......っ!?......っ!?」
ドアノブが何度も何度も何度も何度も捻られる。
ドンッ!!
ドンッドンッドンッ!!
「......っ!?..................」
ドアが、何か固いもので打ち付けられる。
しかし、開かない。
ミレニア城塞の扉は全て、キーワードで開閉される。そのキーワードを知らなければ、たとえサーヴァントの力でも開けられないはず。見た目に反してとても頑丈なのだ。
アサシンといえば、敏捷に優れる反面、あまり筋力は高くない側面をもつ。無理矢理開けることはできないはずだ。
......ほんとだ、あかない......うん、わかった。
声が、扉のすぐそこから聞こえる。霧があって見辛いが、開けようとしているのは間違いなくセレニケ本人のいる部屋への扉だ。
しかし、開くはずがないのだ。たとえ城塞内に進入されても、
これで、あってるかな......いくよ......
『 ア ペ リ オ 』
カチッ......ギィ......
―――開くはず、ないのだ。