トラブルメーカーと死の呪い(前編)
「というわけで! 私は貴方のサーヴァント!」
「ああ、俺は貴女のマスターだ」
復ッ活ッ!
カグヤ、復活ッッ!!
あ~、死ぬかと思った。生きているってなんて素晴らしいんだろう! わーい! 人生万歳!
「それはそうとマスター、アカって名前だったんだ~、いい名前だね!」
「ああ。この名前は、カグヤ、貴女と会ってから自分でつけたものだ」
「自分に? アカって?」
「ああ、そうだ」
「え......紅くなりたいの?」
「......いや、そうじゃない」
あ、違うんだ。
いやー、何故そう聞いたのかと申しますと。
全く同じ"我も紅に!"なんて理由で自分の名前を決めた可愛い存在を一名知ってる者ですから、つい貴方もそうなのかと思いましてね。
元気でやってるかなーあの子。まあ元気じゃないわけないんだけどねっ。ふふふっ♪
「俺は、ライダーのアストルフォと、カグヤに生かしてもらった。だからこの体の名前には、貴女たちの名前から一文字ずついただいた。だから"アカ"なんだ」
ライダーちゃん? ええっとア、ア、ア......
「アルフォ○ト?」
「アストルフォです」
あー、そうだったそうだった。○ルフォートね。教えてくれてありがとう金の永琳さん。カタカナは苦手なの、許してア○フォートちゃん。
というか、金の永琳さんまだいたのね。忘れてた。
「それでカグヤ。ライダーがどこにいるかわかるか?」
「ん、いや、わかんない......あーでも、この城のどこかにいるかも」
「それはわかっています」
「へ? そうなの?」
「はい。ルーラーですから」
「ほへ~、せこっ」
「はいぃ?」
ずるいぞ、ルーラー。一人だけ便利なスキル持っちゃって。こっちは大して何も起こせないチンケなトラブルメーカーと魅了、それと蓬莱の薬の下位互換のアイテムくらいしか無いのに......。
でも、それだけ便利なスキルをもらえるほど、この金の永琳さんは生きてる頃に頑張ってたってことだよね。すごいなー憧れちゃうなー。
「それでルーラー。ライダーは無事なのか?」
「......わかりません。この霧は結界宝具、本来ならば直接的にサーヴァントを攻撃する物ではないはずなのですが、これほど強い呪いが込められているとなると......」
え、マジで? この霧ヤバいやつなん?
それってつまり、私は危うく呪いの霧に包まれちゃうところだったってこと?
こっわ。今日一日で何度死にかけてるのかな私の体。まったく......
......ドキドキしちゃう! えへへ♪
「......助けには行けないのか?」
「私はルーラーですから、民間人を巻き込まないサーヴァントの戦いに介入することはできません......」
「へー、大変そうね」
「.....................」
「心配だなーライダーちゃん」
「.....................」
「はあ、どこかに誰かライダーちゃんを助けてくれる、元気で可愛くて頼りになるキャスターちゃんはいないかな~?」
チラッチラッ、なんてね♪
うん、せっかくだしもう一回くらい死にかけてやりますよ。
アカくんがやりやすいように小芝居してみちゃったら金の永琳さんに呆れた目で見られてるけど気にしない!
「頼むカグヤ、我がサーヴァント―――令呪を以て命ずる!」
「おおっと!」
うわ、令呪使っちゃうんだ!
思いきったねえ。そんなにライダーちゃんのことが気になるのかな。まさか好きだったりして! アオハルだねアオハル!
「俺の友達、ライダーを助けに行ってくれ!」
これは、転移するね! 間違いない! 前の転移のときと感覚が同じだからね!
「はいよっ! 行ってきます!」
敵は誰さんだろ? あ、可愛い女の子だといいなあ! 美女さんと美男さんはたくさん見たけど、可愛い女の子はまだだもん!
「......ライダー、無事でいてくれ。もう一度会いたいんだ」
「..................」
少年、アカの呟きは、霧がかった夜の闇と、
「アーチャー! 到着しました!」
「くっそー! 着いてくんなー!」
「......っ......先生っ......!」
「っ!?......あなたたちは?」
「同じ黒陣営のマスターが三人......っ! 来ますよアカ君!」
「......っ!?」
森の奥から感じる大魔力の波の中に消えていった。
× × × ×
「えへへっ......こ、ん、ば、ん、わ♪」
「......っ......」
暗い、暗い、地下の部屋の入り口で、
ゆらり、ゆらりと人影が動く。
「うん! もうハンバーグさんにやってほしいことは終わり! それじゃあ―――いただきます!」
人影―――少女が、手にしていた
モキュモキュ、モキュモキュと咀嚼し、ゴクリと呑み込む。
一瞬照らされたその
「......うん、ごちそうさまでした! これで一人目だね!」
一人目、とはどういうことか。
自分は二人目なのだろうか。
「そうだよ......貴女が二人目だよ、おねえさん♪」
心を見透かされた。
ともすれば、私の中にある大事なものの―――心臓の鼓動も、聞こえてしまっているのだろうか。
「貴女で二人目。そしたら、あと四人。それが終わったら、七人を探しに行くの♪」
その数字が意味するところは。
まさかマスターの数というわけではないだろうな。
全員、殺すつもりか。
そして。先ほどのように、モキュモキュと、モキュモキュと......。
「ねえおねえさん。この部屋からわたしたちに似てるニオイがするんだけど、どうして?」
「ねえおねえさん。あなたからわたしたちの気配を感じるのだけれど、どうして?」
「ねえおねえさん。おねえさん。おねえさん。おねえさん」
ひたっ ひたっ ひたっ
人影は揺らめきながら、一歩、一歩と近づいてくる。
元から部屋を占めていた血と体液の臭いなど、まるで比にならないほどの死の臭いを撒き散らしながら。
「ねえ―――」
ひたっ、と。
何かが、自身の下顎に触れた。
「―――ど、う、し、て?」
「......たすけて」
それが、先ほどまで見ていたはずの少女の―――アサシンの手だと理解したときには、すでにセレニケは―――
× × × ×
「くそっ、何なんだこの霧は......」
黒のライダー、アストルフォ。
霧が出始めた頃、赤のキャスターの争いで令呪に抗い続けて疲労した彼は、与えられた自室で休憩していた。
かつてホムンクルスの男の子を寝させていたベッドに横になり、今ごろ彼は何をしているのだろうと思いを馳せていたとき、霧はミレニア城塞を包み込んだ。
「確かに地下への階段はこっちだったはずなのに......どうして?」
しかし人間、即ちマスターはそうもいかないはず。すぐさま彼はマスターのいる地下へと向かった。
......はずだった。
「また同じところに......くそっ、何なんだこの霧は......!」
急げども、急げども、同じところを走り回るのみで、地下に行くことができない。広いといえども一城であったはずのミレニア城塞が、今の彼にはかつて冒険した大陸よりも広いんじゃないかという錯覚さえ覚えるほど広く複雑な大迷宮に思えた。
対魔力を有していても、直感を持たない彼では、方向感覚を狂わせる霧の中を自由に動くことができないのだ。
急げ、急げ、早くマスターのもとに―――
―――いや、急ぐ必要はあるか? あんなマスターに。思い出してみろ、マスターが自分を見るときの目を......
「あるに決まってるだろ......!」
それでも、ライダーは、
理性が蒸発していても、アストルフォは、
人間への希望を、失うことなどない。
その体を、令呪の赤い光が包み込んだ。
× × × ×
「っ!?」
「やめろおおおおお!!」
セレニケは―――最後の令呪を発動していた。
「マスター、無事かい!?」
「あ......ライダー......」
今まさにセレニケの命を奪おうとしていた凶刃のアサシンは、真上からの怒号と敵意に飛び退き、現れた敵に油断なく構える。
「......あれ?」
敵の姿を正面から一瞥した。
小柄な体型に不釣り合いなほど巨大な槍を握り、綺麗な戦闘衣装に身を包むピンクの短髪の男の子。
「......女の子じゃないんだ......」
そう、見た目に反して彼は男の子であった。
アサシンの持つ胎内への回帰本能が、彼には働かなかったのだ。
「僕を初対面で男と気づいてくれたことに感謝! だけど僕は手加減はしないよ!
僕はライダー、後ろの人間のサーヴァントだ! 尋常に戦うようなやつには見えないけど、勝負!」
マスターを背に庇い、高らかにそう宣言する姿は、まるで姫を守護する騎士のようで格好よく見える。
「そう......女の人じゃないけど」
対するは、物語の姫や誇りに満ちた騎士様など欠片も登場しない世界の住人―――殺人鬼のサーヴァント、アサシン。
「解体しちゃおう、そうしよう! そうだよね! 殺っちゃおう!」
血に濡れた両手に血に飢えた暗器を一丁ずつ握り、加害者は対象を解体するべく行動を開始した。
「あははっ♪ あはっ♪」
「ぐうぅ......!」
「ほらぁ、こっちこっち!」
「っ! てやぁ!」
「残念♪ 当たらなかったね~♪」
「いだいっ!?」
アサシンとライダーの戦いは、一方的であった。
片や、暗い部屋の中での暗殺という本業も本業な戦闘をしているアサシンと、
片や、乗る馬もなく、身の丈に合わない縦長の馬上槍を使って狭い室内で戦闘をさせられているライダー。
勝負と呼べるものにならないほど、あまりにも地の利という差がありすぎた。
「あははははっ、ライダーくん血だらけのぼろぼろ~♪」
「くそっ......マスター、無事かい?」
ライダーの声に応える者は、いない。
最初の位置から変わらず、ライダーのマスターは椅子に持たれている。
気を失っているようだ。
「っ......!?」
「えへへっ......安心して、まだ死んでないから。そういう霧に調節したから」
もはやただ遊んでいるだけの子供のようにはしゃぐアサシン。
怒ったライダーは逆に攻撃をしかける。しかし部屋を自在に動き回るアサシンには掠りもせず、逆に顔に傷をつけられる。
「くっ......」
「あはは、あはは! ねえねえねえねえ! どうしてそんなマスターを守るの?」
まるで遊びのような加虐を楽しみつつ、アサシンはライダーに問いかける。
「その人は悪い人だよ? わたしたちにはわかる。そのおねえさんは小さな子供たちをいっぱい、いーっぱいいじめてるの!」
「..................」
「もしかして、あなたも
「......ッッ! もうやめろ! それ以上マスターを侮辱するなッ!!」
「えー?? だってその人、
「......ッ!! ああああああ!!」
怒り心頭のライダーはがむしゃらに馬上槍を振るう。しかしそんな攻撃がアサシンに当たるはずもなく、全てが空振りか、部屋の物に当たるかだった。
「あははは! あははは!」
楽しくてたまらないといった感情を全身で現しながら、ライダーの攻撃を完璧に避け続けるアサシン。
なおもアサシンは言葉を発し続ける。精神を汚染し、加虐し、凌辱する、原初の
「それでも!!」
―――しかし、ここまで圧倒的優位に立ち回っていたアサシンも、このときばかりは、相手が悪かった。
「彼女は僕のマスターだッ! そして僕の大好きな大好きな人間なんだッ!」
とある森の中でのことだ。
一人のホムンクルスのために、自分の命を与えようとした剣士がいた。
一人のホムンクルスのために、陣営への裏切りと取られかねない行動を起こし、宝具を与えた魔術師がいた。
そこにいたライダーには、何もできなかった。
「僕はもう誰も失いたくない! 誰も見捨てたくない! だから戦うんだ! だから頑張るんだ!
君みたいな......人を傷つけ、殺すだけが取り柄のアサシンに! そんなやつらに!
理性蒸発
どんなことがあろうとも、何を目の当たりにしようとも、どのような罰を受けようと、天地がひっくり返ろうと―――彼が自分の精神を曲げることはない。
「僕の命に替えてでも、君に僕の大切な人を殺させはしないッッ!!」
ライダーの意思の強さと、彼にかけられた令呪が反応してか、霧に包まれた部屋が一瞬だけ赤く光った。
戦意を剥き出しに、敵意を目の前の存在のみに向けたライダーの守りは、まるで難攻不落の要塞に思えて―――
「......く、くあっ......
くわああああああぁぁぁ~~~ぁっ」
―――それでも彼は、たった一人の弱小サーヴァントでしかなかった。
アサシンの幼い口から、とても可愛らしいあくびがもれた。瞼からも涙が一粒だけ顔を覗かせる。
「とりゃああ!!」
「うーん、眠くなってきちゃった......おかあさんからも、お天道様が出るまえに帰ってきてって言われてるし......」
それを隙と見たライダー渾身の一撃も、やはりあっさりと回避して、なおも一人喋り続けるアサシン。
「それに―――」
気配遮断
「なっ......! しまった!!」
ここにきて、アサシンはここまで使ってこなかった気配遮断を使い、姿を霧の中へと消す。
使ってこなかったのには、戦術的な意味も策もなく"
「―――飽きちゃった、サツジンゴッコ。
バイバイ♪」
即ち、一瞬で勝負がついてしまうから、だった。
「っ!?」
声は、左から聞こえた。
しかし、刃は右から顔を出した。
そしてその
「が.........あ......」
目から光が失せていくライダー。
そこに、もう一本の光る暗器が向けられる。
「とどめ♪ 行っきま~す!」
右手をライダーに突き出しながら、アサシンはもう片方の手に持つ暗器を振りかぶり―――
バチバチバチバチバチバチッッ!!
ガシッ!!
「......え?」
―――そのまま、止まった。
何者かが、放電とともに現れ、アサシンの左腕をガシッと掴んだからだ。
× × × ×
「よっしゃあ! 黒のセイバー、準備はいいか!? アーチャーはさっさと指示をよこせ! てめえも戦えよルーラー!?」
「......あいつが仕切るのか......」
一方そのころ。
ミレニア城塞の表では、英霊豪傑による巨人狩りが行われようとしていた。
正史とは違い、黒のセイバーは十全にその力を発揮でき、赤のセイバーも召喚に応じて参戦、ルーラーも健在。
アーチャーが一日一射限りの切り札を使ってしまっているのも気にならないほどに戦力は充実しており、例え黒のライダーが不在でも、巨人を倒しきるのに不足はない。勝負は一瞬でつくだろう。
「剣よ」
黒のセイバーの剣に内包されたエーテルが解き放たれ、一つの巨大な魔剣を造り上げる。
「ちゅおおおおおらあああ!!」
そのセイバーに迫る巨人の拳を、赤のセイバーの嵐のような剣が弾き飛ばし、
「せやあ!」
その隙をついてルーラーが突撃し、その拳で巨人を突き飛ばし、体勢を崩す。
「今です! 足を狙ってください!」
『
そこに黒のセイバーの剣が真横に振られ、巨人は両足を斬り飛ばされた。
「赤のセイバー......!」
「おうとも黒のセイバー!」
畳み掛けるように、赤のセイバーも剣を解放する。
黒のセイバーの魔剣も未だ健在。彼のマスターはとんでもない魔力を用意しているものだと感心する。
「狙いは脳と心臓、二つの霊核を同時に撃ち抜いてください!」
「同時だとよ。なあ黒のセイバー」
「ああ」
「簡単だな!」
「問題ない」
軽口を飛ばし合い、二人のセイバーは全く同じタイミングで飛び上がる。
赤のセイバーの狙いは頭。
黒のセイバーの狙いは心臓。
『
『
一切の容赦なく。微塵も可能性を残さず。
黒のキャスターが造りし巨人は、木っ端微塵に砕かれた。
「......サーヴァントの力は、凄いな」
それを、黒のマスターたちと安全なところから眺めていたアカは、サーヴァントの規格外さを改めて認識した。
「......サーヴァントの力は、人間や魔術師、そして我々ホムンクルスの想像の及ぶところではない」
「......? あなたは、さっき......」
そんな彼に話しかける女性が一人。
アカの手当てを受け、戦場から生かされたホムンクルスとして、先程まで城の修繕を指揮していた者だ。
「アカ、などという名を持ったそうだな」
「......ああ、あなたは元気そうだな」
「......ホムンクルスの躰は丈夫にできているからな」
女ホムンクルスはアカから目線を外し、ミレニア城塞を見る。
「なぜ貴様がまたここに戻ってきたかは聞かないし、知ったことでもないが......」
「......俺は」
「黒のライダーなら、彼の自室にいるとの情報を聞いている」
アカの発言に食い気味になって話す。心なしか機嫌が悪そうだ。
「! 本当か!?」
「ああ。だがこの霧だ。サーヴァントとして、彼はマスターの安全を心配するだろう。
ライダーのマスターは向こうのほうの地下に部屋を構えている。霧が晴れたら行け」
「ああ、わかった。ありがとう」
そう言い残し、アカはルーラーのもとへと走っていった。
「......ありがとう、か」
その場に残ったホムンクルスの女は、難しい表情を浮かべていた。
× × × ×
「......え?」
突然の放電とともに、アサシンの左腕を強い力でガシッと掴んだ者、それは......
「あなた、こんな危ないもの持っちゃダメでしょ! 捨てなさい! メッ!」
「えっ、あ、はい......」
カランカラン......
......言うまでもない。
こんな奴の言葉でも、アサシンは動揺して素直に暗器を手放してしまう。床に落ちる音が聞こえた。
しかもこいつの放電により、部屋の中の霧が吹き飛ばされ、全員の姿が鮮明に見えるようになっていた。
「あ、ライダーちゃん! 久しぶり♪ 赤の、じゃなかった......アカのキャスター、カグヤちゃんです!
あれ、顔色悪いけど、大丈夫? というかこの部屋臭くない?」
アサシンが障害物となり、キャスターからはライダーの体が見えない。
ゆえにキャスターは、目の前の子供が加害者だと、アサシンだと気づかない。先ほどの放電はアサシンを攻撃しようとして発したものではなく、ただちょっとカッコよく登場したかっただけだった。
んで、とさらにキャスターは呑気に続ける。
「そんでもって貴女は......」
そう言って、腕を掴んだままのアサシンと目を合わす―――
「かっ......!」
―――そしてあろうことか、せっかく掴んだ腕を離し―――
「可愛いいいいいいいい!!!」
―――全身で抱きついた。
「........................」
抱きつかれたアサシンは、頭にハテナを浮かべて動かない。
否、その顔は、少しばかり惚けていた。
キャスターと目と目を合わせたときから......
「........................」
魅了
「......う、ゴホッ、ゴホッ......」
「あ、ええっと、ライダーちゃんのマスターさん、かな? おはようございます!」
恐らく、霧が吹き飛ばされたことで呼吸が楽になったのだろう。ライダーのマスターが目を覚ました。
「それにしても......可愛いいぃぃ~♪ ねえあなた、お名前は?」
そして、なおも抱きつかれたままのアサシンは、キャスターの言葉に無意識に口を開いて......
「―――おかあさん」
しかし、そこから出たのは自身の真名ではなく、愛する者を呼ぶ言葉であった。
"マスター"、その言葉を聞いてとある存在を思い出したアサシンは、わずかながらに意識を取り戻した。
「お、おかあさん!?......おっ、お持ち帰......」
頭上からキャスターの油断しきった声が続く。
ライダーは倒した。
おねえさんは目を覚ましたみたいだが、脅威にならない。
この状況は、
今はまだ
「......バイバイ」
アサシンは抱きつかれたままで唯一手にできる凶器、腰にある大型ナイフを取り出し、
『
死の呪いを、発動した。
「へ?」
まずは、目の上のこいつ。
魅了で動きが鈍りつつも、ナイフを持った左手はキャスターの無防備な背中に向かって伸び―――
「がっ......はぁ......っ!!」
―――哀れな魔術師がまた一人、被害者となった。