【完結】赤のキャスターは蓬莱山輝夜   作:木工用

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トラブルメーカーと死の呪い(後編)

 

 

「がっ......はぁ......!」

「......ん?」

 

「..................あーあ、つまんないの」

 

 

 被害者となった魔術師の名は―――セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。

 キャスターを狙った死の呪いがセレニケに当たった理由はただ一つ。

 セレニケが、キャスターを庇ったからだった。

 

「......っ......!」

 

 口から血を吐き出しながら、背中から地面に強かに倒れる。

 

「......今の声は......マスター、か......?」

 

 かろうじて意識を繋いでいるライダーの耳にも、その苦悶の声が届いた。

 

「うぇ? なになに? 何が起こった?」

 

 キャスターは、自分の後ろで何が起こったかわからず、アサシンから体を離して振り返る。

 

 

 再び、千載一遇のチャンスがアサシンに巡ってきた―――かのように思えたが。

 

 

(あ、夜が明けちゃった......)

 

 自分の宝具にとって大切な要素が一つ、失われるのをアサシンは感知した。

 ついてない、と思いながら、アサシンは瞬時に思考する。この場面、退くか否か。

 

「......バイバイ」

 

 迷った末、アサシンは撤退を決めた。

 宝具が必殺でなくなったこと、相手がマスターではなくサーヴァントだということ、目的であるマスターの解体は済ませたこと......

 そして何より、夜が明けても帰らなかったら、おかあさんを心配させてしまうと思った。

 

「えいっ♪」

 

 ライダーの体に刺さっていたナイフを毟り取るように回収する。

 ナイフは、とても深く刺さり―――()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐあぁ......」

 

 体から明らかに危険な量の血が噴出しながら、ライダーはその場に倒れる。

 

 

 気配遮断

 

 

 仕事を終えた殺人鬼は、城を覆っていた霧ごと、どこかへと消えていった。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「霧が、晴れた?」

 

 『王冠、叡智の光(ゴーレム・ケテルマルクト)』をサーヴァント四人が打倒し、遠くの山の頂きから暖かい日が射しはじめたそのとき、ミレニア城塞を覆っていた霧も薄くなり、やがて消えていった。

 

「ルーラー、ライダーのところまで案内してくれ!」

 

 ようやく、ようやく会える。

 はやるアカの気持ちを知って―――しかしルーラーは難色を示した。

 

「......アカ君、ライダーのところに行く前に、二つ()()しておいてほしいことがあります」

「覚悟......?」

「はい......一つは、ライダーのいるところについたとき、そこに何があっても、何が起こっていようとも、取り乱したりしないこと」

「..................」

「もう一つは、彼の......ライダーの意思を尊重してあげてほしいということ、です」

「......どういうことだ、ルーラー」

 

 啓示。

 聖女としてルーラーが持つ、近未来の予知を可能とするスキル。

 それが示したライダーの近未来は、アカにとって......

 

「詳しく話している時間はありません。今はただ、アカ君、君がこの約束を守れるかどうか、それだけをどうか答えていただけますか」

 

 今この場で答えられないのなら、ルーラーはアカを置いていって―――ついてくるようであれば振り切ってまでアカを連れていかないと考えていた。

 今、ここで()()の覚悟を持てないようでは―――

 

「......わかった。何があっても取り乱したりしないし、ライダーを尊重する」

「......ありがとうございます。終わったあと、きちんと話をしますから」

 

 ―――どうやら、見た目だけではなく、中身も成長しているようだ。

 アカの目から、先の再契約のときのように口先だけではない覚悟を見た。

 

「急ぎます。掴まってください」

「え、あ、うわっ」

 

 なら、多少無理をさせても構わないだろう。

 そう思ったルーラーは、アカを筋力Bで右脇に抱え、己の敏捷Aをフルに活用して、ライダーのもとへと走り出した。

 

「ッッ―――」

 

 嵐のように過ぎていく視界。曲がるたびに急ブレーキと急発進をするルーラーと、がくんがくんと音を鳴らすアカの肉体。

 これを体験したアカは内心で思う。

 これも覚悟の中に入れておいて欲しかった、と。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「えっ、ちょ、えっ? みんなどうした?」

 

 アサシン襲撃後の、セレニケの部屋。中の状況は最悪だった。

 アサシンが動き回ったことで全てが散らかり、元からあった血の上から新たに血の海が広がり、辺りは腐臭と鉄の臭いと硫酸が混ざった不快なもので満たされている。

 そして何より―――部屋の主とその従者が、深刻すぎるダメージを受けて倒れていた。

 

「......キャスター......っ!」

「ライダーちゃん! あなたも酷い傷......!」

 

 ようやくライダーの体から流れる血に気がつき、慌てて駆け寄るキャスター。

 

 

「っ......来るなあッ!!」

「むわっ!?」

 

 

 しかし、鋭い目で睨むライダーに拒絶される。

 

「マスターにも近寄るな......!止めを刺すつもりなんだろ......撤退したアサシンに替わって! 僕たちに止めを刺すんだろ!!」

「......あー、そうでしたね」

 

 何事かと思ったキャスターだが、考えてみれば当然のこと。

 キャスターは、赤のキャスターであり、黒のライダーとは敵対関係であった。

 そしてライダーは、キャスターがアカと再契約したことを知らないのだ。

 

「ええっと......よっこらしょ」

 

 

. 『不 死 の 薬(その体苔の蒸すまで月を見よ)

 

 

「......まあ、これ飲んで元気出してよライダーちゃん」

「飲まないよ!......忘れていたが君はキャスターだ! キャスターの攻撃手段と言えば魔術か毒! でも僕には対魔力があるから、毒で倒そうってんだろ!......ゴッフゴッフ......!」

「あばばばば......無理しないで! 傷口が......!」

「近寄るなッ!!」

「――――――」

 

 そうこうしている間にも、ライダーとそのマスターの体からは大量の赤いものが流れ続け、刻一刻と命を枯らそうとしている。

 いつもはヘラヘラしているキャスターも、これには真面目になり、何とかしようと策を練る。

 

(せめてマスターさんのほうだけでも)

 

 そう思ったキャスターはマスターさんのほうに振り返っ―――

 

 

 触 れ れ ば 転 倒!(トラップオブアルガリア)

 

 

「ぐえっ!?」

 

 ―――その足を、馬上槍の投擲が貫いた。

 

「へへっ......僕は足止めだけは得意中の得意でね......! その宝具はサーヴァントの足を一時的に霊体化させ、身動きを封じるんだ......! ゴッフゴッフ!......マスターのもとには、死んでも行かせないよッ!」

 

 血の海に強かに体を打ち付けるキャスター。着ている服が赤に染まる。確かにその脚部は失われていた。

 

「そ、そんなあ......! ライダーちゃん信じてよ! 私はただ二人を助けようと―――」

「そんな言葉で騙そうとしても無駄だぞ......あいにくと僕は理性が蒸発してるって言われててね......一度信じた者は最後まで信じるし、一度疑った者は最後まで疑う......バーサーカーを倒したお前を、誰が信じてやるものかッ!」

「......あー、こりゃダメだ」

 

 万事休す、とはこのことかと、キャスターは痛感する。

 

 助けて永琳~、と遠く幻想の地で見てくれているだろう存在に祈りを送った。

 

 

 

「ここですか......」

「いた! ライダーと......カグヤか?」

 

「本当に来た! 永琳は永琳でも金の永琳だけど!」

「......そのエーリンってのは何なのですか......」

「......その言葉は間違いなくカグヤだな」

 

 祈りが届いた先は聖女だった。

 アカを小脇に抱えたルーラーが、凄いスピードで部屋に駆け込んできた。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「おかあさん、ただいま~」

「あら、お帰りジャック。

 あらあら、ずいぶんと遊んできたのね~。服がベトベトじゃない」

 

 殺人鬼、ジャック・ザ・リッパーはやはり今夜も捕まることなく活動を終え、こうしてマスターの待つところに帰ってこれた。

 

「まずはお風呂にしましょうか」

「うん!」

 

 二人は部屋にあるお風呂へと入り、生まれたままの姿になってお湯を共にする。

 

「おかあさんおかあさん! 今日はね、黒のライダーってやつを倒してきたよ!」

「あらそう! それって、サーヴァントって人たち?」

「うん! 桃色の髪をしてて女の子みたいな見た目だったけど、男の子だった!」

「そうなの~、凄いじゃないジャック。今日はお祝いね」

 

 アサシンの頭を優しく撫でるマスター。しかし、アサシンのほうはそこで表情を暗くする。

 

「ううん。実はもう少しで赤のキャスターも倒せそうだったんだけど、倒せなかったの......」

「赤のキャスター? 強かったの?」

「ううん。力が強いだけで、大した敵じゃないよ。お姉さん()だったし。でも......」

「何かあったの?」

「うん......目と目を合わせたの。そしたら急にふわあってなって、この人は傷つけちゃいけないって思っちゃったの......」

「そうだったの......」

「そうこうしてるうちに夜が明けちゃって......明るいのは苦手だから、帰ってきちゃった......」

 

 悲しい顔をするアサシン。

 事実、たとえ夜が明けようとも、アサシンの戦闘技術と凶器を合わせれば、赤のキャスターなど敵ではないように思った。

 それなのに、アサシンは撤退をした。解体するチャンスを目の前にして逃した。もしいつか、あの女が原因でマスターが傷つくようなことがあったら―――

 

「大丈夫よ、ジャック」

 

 ぎゅっ、と。

 後ろから、アサシンの体が優しく抱かれる。

 

「おかあさんはね、ジャックが無事に帰ってきてくれればそれでいいの。無事に帰ってきて、おかあさんただいま~っていう一言を聞けたら、それでいいの」

「......おかあさん......」

「うん。だからそんな悲しい顔をすることはないのよ、ジャック。あなたはライダーを倒して来たんでしょ? まずはそれを喜ばなくちゃ」

「......うん! そうだね! そうだよね!

 ありがとう、おかあさんっ」

 

 アサシンと、そのマスター。

 二人が赤のキャスターの作るトラブル祭りに巻き込まれるまで、あと数日......

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「カグヤ! ライダー! 無事か!?」

「マスター! 助かったよ~......!」

 

 ライダーとそのマスター、ついでにキャスターがいるところに、アカを抱えたルーラーが到着した。

 ルーラープレゼンツでミレニア城塞内を絶叫アトラクションしたアカは顔を苦痛に歪めているが、キャスターもルーラーも気づこうとしない。

 

「き、君は......! どうして、ここにいるんだ......?」

 

 ライダーからの苦しそうな声が聞こえる。

 

「ライダー!? 凄い傷じゃないか、どうしたんだ!?」

「......アサシンだ。アサシンにやられた。僕も、マスターも......あはは、カッコ悪いところ見せちゃったね......」

「アサシン......」

「......一面が血の海です、相当激しい戦闘が行われていたのでしょうね」

 

 アカやルーラーから見たセレニケの部屋は、悲惨の一言に尽きた。

 家具や調度品は好き放題に荒らされ、壁は小さい足跡の形をした血で斑点模様にさせられ、床は血の海、それも一部は固まって鉄の臭いを発している。

 その血の海の中心部にいるライダーとそのマスター、誰がどう見ても重篤、命が失われようとしているように見えた。

 

「アカ! お願いします私のマスター! ライダーを助けるのに、協力して!」

 

 こちらも全身血まみれのキャスターに頼まれる。ただし彼女には足が霊体化している以外の傷が見当たらないので、その血はライダーやそのマスターの血であると見られた。

 

「カグヤ、俺からも頼む!」

「え......どういうことだ......私のマスター?」

 

「ご覧の通り、ライダーが私の言葉を信じてくれないの! だから事実を教えてあげようと思う!」

「事実......?」

「そう!」

 

 キャスターは立ち上がって、アカの左手をとり、そこにある令呪をライダーに見えるように向ける。

 

「アカ! 私は貴方にとっての何!?」

「あ、ああ。カグヤは、俺にとって命の恩人であり、今は一緒に戦ってくれるサーヴァントだ!」

「うん! で、そのマスターさんがさっき私に令呪を以て命じたことはなに?」

「覚えている。俺の友達、ライダーを助けに行ってくれ、だ」

 

「え......え......?」

 

 一つ一つ。

 アカの口から出てくる言葉に、衝撃を隠せないライダー。

 彼からすれば、信じて送り出したホムンクルス君が、何故か大人になり、キャスターと結ばれて帰ってきたと言うのだから、無理もない。

 

「......いや、まだだ。君はキャスター、催眠魔術かなんかで操ることだって......」

 

 ゆえに、受け入れないライダー。

 その様子に意を決したアカが、鼻と鼻が当たるほどの距離まで近づき、目と目を合わせて口を開く。

 

「ライダー、俺は操られてなんかいない。ここにきたのも、カグヤをキャスターとして俺のサーヴァントにしたのも、俺の意思だ。信じてくれ」

「......は、はいぃ......!」

 

 その言葉に、ライダーは心をうたれ――心なしか顔を赤くし――うんうんと頷く。

 

「よしっ......それでカグヤ、次はどうすればいい?」

「ん、そしたらこの薬を飲ますだけじゃん?」

 

 キャスターが手にしているのは、伝説の不死の薬。

 ゲームでいうところの1upアイテムであり、命を落としたときに一度だけ蘇生する奇跡を起こす。

 たとえ服用するのが死の直前であったとしても、この薬は問題なく対象を復活させる。

 

「あ、でもちょっと待って」

「どうした、カグヤ?」

 

 さっそく薬を受け取ろうとするアカ、しかしキャスターから待ったがかかった。

 

「うーんと、この場合だとライダーとそのマスターのどっちに飲ませればいいのかなーって」

「......どういうことだ? 二人に飲ませればいいんじゃないのか?」

「あー、言ってなかったっけ。

 いやー、実はこの宝具、一日に一個しか作れなくって......」

「..................」

「うん......作り置きもしてないから、一人しか助けられない......」

「「「.......................」」」

 

 カグヤの発言に、全員が固まった。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「終わったな」

「ああ、終わりだ」

 

 巨大なゴーレムだったものが、見る見るうちに生命力を減退させ、土へと還って行く。

 ここに、一つの願いが終わりを迎えたのだった。

 

「つーことだ。おい、そこの小僧。てめえが黒のキャスターのマスターか?」

「.....................」

「んだよ、なんか言えよ......何があったか知らねーけど、その辛気臭い顔をいつまでも続けてねぇで、今日はもう小僧らしく帰って寝ろ」

 

 言うだけ言って、赤のセイバー"モードレッド"は踵を返す。

 去り際にフィオレに一言だけ「マスターがお呼びだ」とだけ言い残し、体を霊体化させて去っていった。

 

「.....................」

 

 残されたのは、神話の戦いでもあったかと思わせる爪痕が痛々しいミレニア城塞と、黒の陣営の者たち。

 その中の一人、屋上に上がって悲痛の表情と共に空を見上げている、ロシェ。

 そこに、黒のアーチャーが近づいていく。

 

「ロシェ君......黒のキャスターからの連絡は?」

「......ないよ。なーんにも、なかった」

「そうですか......少々、お時間をいただけますか?

 黒のキャスターのことを、お話しします」

「......教えてよ。何があったの」

 

 太陽が登り始めるのを眺めつつ、二人は一人の魔術師についての話を始めた。

 

 

 

 

 

「では、城の修復はそのように......それと、セイバーには一つ頼みを聞いてもらいます。

 先ほど、赤のセイバーのマスターから話し合いの機会がほしいと連絡が入りまして、後ほど会うことと致しました。セイバーには、その際の護衛をお願いしたいのです」

「なるほど」

「赤のセイバーのマスターは獅子劫界離。サーヴァント共々油断のならない相手です。ですが、先ほど赤のセイバーと共闘していた貴方なら、問題なく務まる仕事だと思うのですが」

「問題ない。マスターの許可も出た。

 私が、あなたを守ろう」

 

 一方、戦いが終わってもフィオレは忙しいままで。

 ユグドミレニア、黒の陣営の代表として話をするために、城の修復から早々に離れていった。

 

 

 

 

 

『フィオレの護衛だ?......ふんっ、使い魔が、自分のマスターもいない場で他のマスターと話をするとはな』

『すまない』

『......好きにしろ』

『......承知した』

 

 ―――はあぁ~......。

 

 セイバーとの話を終え、ゴルドは復旧を終えたホムンクルス魔力供給装置の前で壮大にため息をつく。

 周りにいる、霧の出現のために城から避難させてきたホムンクルス達から"またため息か"という視線を送られようとも、ゴルドは気にすることはない。

 

「......こいつをこうして......へぇぇぇ......次はあそこだなぁ......」

 

 一つ一つ、できることを積み重ねていく。

 細かく悪態をつきながらも、ゴルドは働いている。

 

 

 

 

 

「ふう......」

「大丈夫か?」

「あ......はい」

「貴様は人間だ。ホムンクルスである我々よりもずっと弱くできている。無理はするな」

「いや......やれるだけのことはやらないと」

 

 カウレスは、ホムンクルス達とともに城の外周の修復を続けていた。

 腕力や体力ではホムンクルスの方が上を行く分、彼にはミレニア城塞への知識があり、頭脳面での働きをしている。

 

「......大変なことになっちまったな......」

 

 見れば見るほど、ミレニア城塞は酷い有り様だった。

 防衛や秘匿のための魔術は尽く吹き飛ばされ、外壁はボロボロ、特に大聖杯のあったあたりの損傷は凄まじく、ほとんど丸裸であった。

 これでは余計な侵入者が入ってもおかしくないな、とカウレスは己のサーヴァントと相討ちにした敵サーヴァントを思い出し―――

 

「......ん?」

 

 ―――待てよ?

 巨大なゴーレムから逃げ、ミレニア城塞にたどり着いたとき......

 

「......見間違いだろ。そんな馬鹿な......」

 

 頭を振り払い、彼は一瞬浮かんだ考えを振り払った。

 そんな、一度やられたサーヴァントが復活するなんて馬鹿なことはない、と。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「馬鹿なんですか貴女は!? そんな大切なことを今まで隠してきて!?」

「ひえぇ~! ごめんなさいぃ!」

 

 地下室に、ルーラーの怒号が響き渡る。

 

「カグヤ......その話は本当なのか?」

「うん......だから、その......一人しか助けられない......です......」

 

 キャスターの声が弱々しい。

 

「......そうなのか......そうだよね、そんな薬を何個でも作れたら、反則ものだもんね」

 

 そして、ライダーの苦し紛れに放った言葉が、一番弱々しく聞こえた。

 

「......ライダー、あなたに質問があります。

 あと何分間、存命できますか?」

 

 ルーラーが、何かを決心したようにライダーに問いかけた。

 

「ん......もってあと五分くらいかな......えへへ、どうやら令呪の力が後押ししてくれているみたいだ。キャスターを守れっていうのと、マスターを助けてっていうのの二つがね。

 一つ目がめちゃくちゃ下らない令呪なのがムカつくけど......うん、五分間は頑張れる」

 

 下らない令呪と言われたときにキャスターがピクンッとしたが気にしない。

 

「そうですか......でしたらその五分間に、自身が思う成すべきことを、お願いしたいのです」

「......驚いたな。ルーラーっていうのは心が読めるのかい?」

「いいえ、心は読めません。

 ただ、先の未来を啓示で見ることができたので......」

「......そっか。うん、わかった。

 自分の成すべきこと......そうだよね、僕はもう......」

 

 その言葉を聞き、ライダーは何かを()()し、同時に何かを()()()かのような顔で、アカを見た。

 

「アカ君、ていうんだよね? 今の君の名前は」

「ああ。アストルフォ、君の名前の頭文字を一つ貰った」

「......そうなんだ。えへへ、ちょっと嬉しいな......で、カのほうは......」

「俺のサーヴァント、カグヤから貰った」

「えっへん! アカのサーヴァントであるカグヤ様だぞっ!」

「......ねえ、なんでこんなやつとサーヴァント契約しちゃったの?」

「ねえねえライダーちゃん私に辛辣なのやめて」

「カグヤが死んでしまいそうになっていた。だから助けてあげたかったんだ」

「......そうか。バーサーカーにやられる前、キャスターはその薬を飲んでいたのか......」

「まあね♪......痛いっ!?」

 

 得意気に胸を張り、何故かビリっとして痛がりだすキャスター。危うく手に持った薬を落としかける。

 

「とっとっと......ふう、まあこの薬がちゃんと効くのは、この体で証明済みってね♪」

「......そうだね。それを僕が飲めば、恐らく僕は助かるんだろう」

 

 ライダーは、マスター不在でも活動できる"単独行動"スキルを、とても高いランクで保有している。その間にキャスターのように新たなマスターを探し出せばいいのだ。

 

「うん。だからライダーちゃん、早くこれを......」

 

 ライダーはキャスターから薬を受けとる。赤と青のカプセルに包まれたそれは何とも胡散臭い。カプセルといえば赤と青という人の集合無意識によるカラーデザインなのだろうか。趣味が悪い。例えばこれを服装にしてしまったら、百人中九十九人に変な服だと思わせるくらいに。残る一人はどこかの変な神くらいだろう。

 しかし、そこから感じる神秘は特上のもの。飲ませば間違いなく奇跡を起こすことができるだろう。

 

「......そうだな」

 

 カプセルを握りしめたライダーはそれを―――

 

 

 

 

 

 

 

「......もう悪いことはするんじゃないぞっ」

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「............へ?」

「...............」

 

 キャスターとアカが呆気に取られ、ルーラーは祈りを捧げるように目を閉じて俯き、ライダーは背を向けたまま動かない。

 

「........................」

「..................ふっ......」

「......ライダーちゃん?」

 

 しばしの静寂を経て、ライダーが振り向いて口を開く。

 

「......いいんだ、これで」

 

 諦めたような吹っ切れたような顔。

 その目からは、一筋の涙が流れていた。

 

「......僕が助かれば、この人が死んでしまう。それではダメだろう? この人を助けるためなら、僕はここで消えてもいいんだ」

「なんでよ、ライダーちゃん。そんな人のこと、気にしなくてもいいじゃん......アカ君も何か言ってやってよ」

「......何となく、その人からは嫌なものを感じている。俺も、その人よりはライダーに助かってほしかったと思っている。

 だってライダーは俺の命の恩人で、大切な友達で―――」

「―――それでもッ!!」

 

 ライダーの怒号が部屋に響き渡る。

 

「......それでも、この人は人間だ。今この時を生きている人間なんだ。

 そして僕はサーヴァント、過去の存在だ。どちらが助かるべきかなんて......比べるまでもないじゃないか」

 

 ライダーは空を仰ぐ。こびり付いた血糊しかない地下の天井の先に、ライダーは今日の朝日を見た。

 

「誰かに言われた気がする言葉を思い出した......僕たち英霊にとって、今を生きる人間たちは、誰であれ宝なんだ。僕たち過去の存在は、今を生きる彼ら彼女らのために走ったんだから......」

 

 ひらひら、と。

 ライダーの体から、脱落を示す青いカケラが舞って落ちる。

 

「......それが、あなたの......」

 

 今まで口を閉じていたルーラーがライダーに問いかける。

 

「うん。僕の、サーヴァント"ライダー"としての、成すべきこと......誰かのために消えるってのは、不思議と悪くない気持ちだ。あいつの気持ちがわかった」

 

 ライダーの脳裏に、鎧を着た大きな背中が思い出される。キャスターがいなければ、自分を犠牲にしてアカを救っていたであろう騎士の背中を。

 

「......ライダー」

「......ということで!......ごめんね、お別れだよアカ君。君を助けることができて、君が生きることの応援ができて、君は生きていいんだって周りも認めてくれて......君に、友達だと言われて、とても嬉しかった!」

「......ああ、ライダーは俺の、最高の友達だ」

 

 ライダーが最後の体力を振り絞り、アカへと近づいて、両肩を掴んで話をする。

 アカも、そのライダーとしっかり目を会わせて話をする。

 

「えへへ、嬉しいな......ねえアカ君、頼みがあるんだけど......?」

「なんだ、俺にできることなら何でも言ってくれ」

「うーん、君にできるかどうかは、君次第なんだけど......」

 

 ちょっと頭をかいてから、ライダーは言葉を口にした。

 

 

 

「勝て。君が、覚悟を持って聖杯戦争に参加した男なんだって言うのなら、絶対に勝つんだ、アカ。

 たとえサーヴァントがこんなやつだろうと、たとえ陣営が既にボロボロだったとしてもだ。そんなこと、負けていい理由にはならないぞ」

「......ああ」

「......ここから先に、僕はいない。これから先は、君が願いを叶える物語だ。君の望みのために動き、知りたいことを知り、挑戦したいことに挑戦し、立ち向かうときに立ち向かって......願いを叶えるんだ。

 ふふっ、もし負けちゃったら、僕は君を呪っちゃうかもしれないからな?」

 

 

 ニカッ、と。

 ライダーは笑い、続いてキャスターを見る。

 

「おい、キャスター」

「はい! キャスターです!」

 

 その目はかなりジトっとしていた。

 

「......おまえがアカ君のサーヴァントであることに、僕は非常に不満がある。疑問もある。不安もある。

......でもこの場では、応援が勝るよ。何とかアカ君と一緒に、この聖杯大戦を勝ち残って、アカ君の望みを叶えてやってほしい」

「......うん」

「できるか?」

「できるよ。私にだってアカ君のサーヴァントになった覚悟はあるんだから。

 見ててねライダーちゃん。私、絶対に、勝つから」

「......ああ、それを聞いて安心した」

 

 ライダーからカケラが溢れ続ける。

 既に彼の体は半透明になっており、残す時間はあと数秒。

 

「......それじゃあ、僕は―――」

「―――ライダー!!」

「おわぁ!? なんだい?」

 

 アカが一歩前に出て、ライダーの手を掴んだ。

 

「......また、どこかで」

「っ......うん。またどこかで会おう! アカ!」

 

 その言葉に、ライダーの両目から涙が溢れだす。

 その涙さえ、地面につく前にカケラとなって。

 

「えへへっ、次に会ったときは、一緒に世界を旅しようね!」

「ああ......約束だ」

「うん......じゃあ、またね―――」

 

 黒のライダー、アストルフォは、いろいろなものを貸しつけて、笑顔のまま消えていった。

 

 

 

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