【完結】赤のキャスターは蓬莱山輝夜   作:木工用

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トラブルメーカーと不意打ち

 

 

「おや、アーチャーにライダー。お帰りですか、早いですね」

 

 シロウ=コトミネ、真名を天草四郎時貞。

 この日の前日に赤のアーチャーを斥候として送り出した彼は、思っていたより早いアーチャーの帰還を空中庭園で出迎えていた。

 

「神父! すぐにアサシンを呼んでくれっ」

「アサシンを?......何かあったのですか?」

 

 

「ハハッ......この傷を、よりにもよってアサシンに治されるっつーのか......」

 

 

「......ライダー、もしや......」

「ああ......やられた」

 

 出迎えた天草四郎が見たのは、額に汗を浮かべるアーチャーと、その肩に担がれてアーチャー以上の汗を全身から噴出させて、踵から血を流しているライダーの姿であった。

 

 

 何が起きたのか、話は一時間ほど遡る。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「っ......赤のライダー......!」

 

 時刻は少し前、キャスターとアサシンがちょうど地下から出てきた辺りにまで遡った頃。

 

「......いやいや驚いた。まさか中立を謳うルーラーともあろう者が、片方の陣営に与することがあるなんてな」

「赤のライダー......そうですね、確かにこれはおかしいことかもしれません。

 しかし今回の聖杯戦争では、赤の陣営に私ではないルーラーが存在し、聖杯戦争を狂わせている。それに対抗するために、私は一時的に黒の陣営と手を取るべきだと判断しました」

「へぇ、まあルーラーなんて難儀な奴が何を考えていようと俺には関係ねえ。

 大事なのはルーラー、あんたが敵として俺の前に立つか、中立者らしく引っ込むかだ」

 

 ルーラーが、黒のセイバーと戦闘中の赤のライダーと運悪くエンカウントしてしまっていた。

 両脇に、カウレスとセレニケを抱えたままで。

 

 ......二人が危ない。

 

 ルーラーは焦っていた。"仮に"ライダーとの戦闘になるとしても、それは二人を城に置いて安全を確保してからの話である。マスターでもなくなった一般魔術師二人をサーヴァント三人の戦場に放り込むとどうなるか―――どうお料理されてしまうか―――など、考えるまでもない。

 そして今"仮に"と言ったように、ルーラーはルーラーとしての立場上、ここで赤のライダーと戦うべきではない。セイバーとライダーの戦いは公正なものであり、ルーラーである自分が色を加えてはならないものだからだ。

 

「へっ、どうやら来ねえみてえだな、ルーラー。来ねえならこっちから行ってやってもいいんだぜ?」

 

 ライダーがルーラーへと槍の先端を向ける。その余裕のある様子は、セイバーと打ち合っていた消耗を微塵も感じさせない。

 

「待て、ライダー。貴公の相手は私が......」

「セイバーよぉ、そんなボロボロの体で言っても迫力ってもんがないぜ。

 ジークフリート。あんたは決して俺に劣ることのない英雄だ。だが相性が悪かったなあ。竜をやった剣でも、神をやってねえ剣じゃ俺は斬れねえ」

 

 ライダーの後ろでセイバーが剣をとり構える。しかしその体はライダーの言う通りボロボロであった。

 いくら頑丈さが取り柄のセイバーとはいえ、そもそも攻撃が全く効かないライダーとでは消耗の差が生まれるのは至極当然であった。

 それでも背中には一撃ももらうことなく戦い続けたセイバーに、ライダーは称賛さえ覚えている。

 

「ルーラー。先せ―――黒のアーチャーはどうしたよ。わざわざ俺が出てきたってのに顔を見せに来ない人じゃあなかったはずだぜ」

「......黒のアーチャーは......」

 

 そう、セイバーでもルーラーでもない。

 赤のライダーの相手は、黒のアーチャーでなくてはならない。

 それがこの場に来ない。明らかに妙な状況について、ライダーに心当たりがあるとすれば、ただ一つ。

 

「......その様子じゃ、姐さんの仕業か。

 ハハハッ、いざってときにはお膳立てしてくれるんだな。普段はあんなにツンツンしてるってのになあ」

 

―――なお当の赤のアーチャーは、時間稼いでやるから無駄口叩いてないでさっさと帰って欲しい、という思いでいっぱいだったそうな。

 

「............っ......」

「その様子じゃ図星みてえだな。

 そんじゃ、姐さんのお望み通り―――そろそろ派手にいくとしようかい!」

 

 瞬間、跳躍。

 

「「っ!?」」

 

 

 ピュ~!

 

 

 響き渡る口笛の音と共に現れた、天翔る神馬三頭立ての戦車。

 その先にあるのは、ミレニア城塞。

 

「しまっ―――」

 

 優れた直感を持つルーラーが、二人を置き、旗を持って飛び上がるも―――

 

「あばよルーラー、セイバー―――

 疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』!!

 

―――ルーラーは間に合わず、真名解放による超威力の突撃が城塞の一階部分に直撃、ミレニア城塞にまたしても多大なる損害を与えることとなった。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「ライダーのにいちゃん......」

「おう。元気そうじゃないか、カグヤ姫」

 

 

 雪の下 遊べしときを 知らずして......

 梅咲かぬ間に 陽光射しける......

 

 

 訳:賑やかな時が終わって、さあさあ余裕を楽しもうじゃないかって、私は思ってたのに......

   間髪入れず血気盛んに乗り込んで来やがって! 眩しすぎるぜライダーのにいちゃん!

 

 あーあ、まーたお城がボロボロだよー。ロシェくんのゴーレムとかホムンクルスの皆とかが精一杯直してたっていうのにー。

 あ、アサシンちゃんがビックリして隠れちゃったよー。気配まで完璧に消してるしー。お陰で私はライダーのにいちゃんと二人きりじゃんかー。うわー、断りの歌を考えないとなー。すぐ求婚されちゃうからなー。

 

「ん、まあ一度死んじゃったけど、元気で過ごしてるよ。

 それはそうと今さら私をカグヤ姫呼びするのね、アキレス腱のにいちゃん。もしや何か心境の変化でもございまして?」

「アキレス腱のにいちゃん......間違いじゃねーがその呼び方はよしてくれや。

 それはともかく......なあカグヤ姫、俺と一緒に―――

 

「黒桜ッ! ひとたび朱へと交わればッ!

 我も紅にと、舞い落ちりたり! また逆も然りッ!!」

 

―――庭園に......?」

 

 っべーわ......! ライダーのにいちゃん手が早すぎてっべーわ。さすが最速の英雄アキレウスさんだわ。

 不意打ち過ぎて思わず短歌ぶっぱなしたけど......ちょっと待てさっきの短歌、

"我も紅に"と

 なんで突然もこたん出てきた? もこたんどうして? もこたんなんで?

 

 まあ、いいか。

 言いたいことは伝われ(命令形)。

 

「..............................ははっ、なるほどな。

 たとえ元は赤として生まれたとしても、黒のサーヴァントとして再契約したのなら黒として戦うってか」

 

 伝わった(驚愕)。

 

「加えて、姫さんほどの女が誰かの言いなりになるとは到底思えねえからなあ。

 赤の陣営には、姫さんを自由にさせてくれるか、よほど姫さんのお気に召すようなマスターがいたのかい?」

「うん! 楽しくやってるよ♪」

 

 自分で言うのもアレだけど、散々好き勝手やってるからね! これを許してくれているフィオレちゃんとかパンツさ......アーチャーさんにはとっても感謝してる。

 加えてマスターはアカくんだしね! 文句の付け所なし!

 ......うーん、でも確かにライダーのにぃちゃんとか太陽さんとかアチャ子ちゃんとのワイワイも楽しかったしなあ。甲乙付け難い。

 ムッ、ライダーのにぃちゃんの目付きが鋭くなったかな―――

 

「そうかいそうかい―――なら、姫さんは俺の()ってことでいいんだよな?」

 

 

―――ゾクリ。

 

 

 うわ......ライダーのにいちゃん本気だ。

 本気で、私に殺気を向けてきた。

 ヤバい、頭の中が真っ白。目の前が真っ暗。口の中パッサパサ。今攻撃されたら間違いなく死ぬ。まだあの薬飲んでないから本当に死ぬ。退場しちゃう。

 動け、動いてくれ私の体......!

 動けっつッてんだろこのポンコツがぁ!

 

「......とまあ、そういうことだ。次に会ったときは容赦しねえ、今回は見逃してや―――

 

 

 ザクッ!

 

 

―――る......」

 

 刃物が肉体を抉ったような音が聞こえた。

 ああ私終わった、サヨナラ私のルーマニア生活、と思った。

 

「痛............くない?」

 

 なのに、痛みがいつまでたっても来ない。

 よくよく考えたら、音は自分の体より前の方から聞こえた気がする。

 前の方、()()()()()()()()()()()()()から。

 

「あ―――」

 

 反射的に顔を上に向けたら、目をくりむいたライダーのにいちゃんが―――

 

 

「―――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!!!」

 

 

「っ―――」

 

 耳がああああアアああアア

 

......ふえっ。

 

 

 バタンッ

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「ああああアアアアッッ......!!」

 

 踵を、やられた。

 生前にも一度味わったことのある、アキレウスにとって一番死を近くに感じさせるその痛みを、まさか、まさかこんなところで。

 

「ッッ......! 誰だッ、どこのどいつがやりやがったッ」

 

 アキレウスは周囲に目を光らせる。目の前にはいつの間にか地に伏して気絶しているキャスター。こいつではない。いくら未だに手の内知れぬキャスターといえど、目と目を合わせているときに攻撃されて反応できないアキレウスではない。それこそ、アサシンでもないのに。

 

 ()()()()―――

 

 

「あれっ? アキレス腱切ったのに、死んでくれないの?」

 

 

 幼い、舌足らずの声が聞こえ、

 ばっ、と後ろに振り替えった。

 

 

「なーんだ......早く死んでよ、カグヤお姉ちゃんの敵、アキレス腱さん♪」

 

 

 赤い、恐らくは自分の血で塗れたナイフを逆手にして右手に握り、左手で前髪をかきあげ、こてんと頭を傾げたあどけない少女のサーヴァント―――黒のアサシンが、こちらに顔を向けて笑っていた。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「......ふーっ......」

 

 

―――元気そうじゃないか、カグヤ姫。

 

 

 ライダーがミレニア城塞に突っ込んだとき、既にアサシンは気配を遮断して物陰に隠れていた。

 

 

―――アキレス腱のにいちゃん。

 

 

 さてどうするか、と考えていたアサシンの横で、赤のライダーの真名及び弱点を大暴露したキャスターがいた。

 これ幸いにしてチャンスと、アサシンはライダーのアキレス腱を切るための動きを始め、ライダーの死角で武器を構えて準備を完了させる。

 

 

―――姫さんは俺の敵ってことでいいんだよな?

 

 

 そこでライダーが、大英雄に相応しい特大の殺気をキャスターにぶつけた。

 ライダーからすれば、戦場で自分と敵対する覚悟をキャスターに問う、という体で仕掛けたイタズラだった。

 しかし、アサシンからすれば違った。アサシンにとってキャスターは、自分が敵であるというのにご飯をもらい、楽しい遊びを教えてもらい、さらにまた遊ぶことを約束した、大好きなお姉ちゃんだ。

 

 

『......カグヤお姉ちゃんは、私が守ってあげる。

 カグヤお姉ちゃんの敵は、私が解体してあげる......!』

 

 

 "魅了:B"

 相手に、自らへの守護意識や仲間意識を植え付けるキャスターの卑劣なスキルである。

 アサシンはこれをあえて強く受けとめ、キャスターを守ろうとする意識を爆増させた。これにより、アサシンにはこの瞬間だけ能力にプラスの補正が働き、特に幸運がD+にまで上昇、赤のライダーの現在の幸運値を超えた。

 

 そして赤のライダーは今、キャスターに向けて殺気を向けている。それは言い方を変えれば気をとられているということであり、そして足元はがら空きだった。

 

 

 霧夜の殺人:A

 幸運判定......成功

 

 

 赤のライダーに非があるとすれば、それはあのキャスターに深入りしてしまったことに他ならない。

 加害者(アサシン)の構えたナイフは、伝承に相応しき暗殺能力でもって、被害者(ライダー)の踵を切り裂いた。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「......で、帰ってきたと」

 

 その後、赤のライダーは怒り狂って暴れそうになった。しかし、空から矢の豪雨が自分だけを避けるように降り注ぎ、それと同時にライダーの絶叫を聞いて駆け付けた赤のアーチャーによって諌められ、戦車での撤退を決めた。

 

 そして、今に至る。

 

「ライダー、貴方の踵をやったアサシンは何者であったかわかりますか?」

 

 今のところ、ライダーとアーチャーが持ち帰った情報は、ルーラーと"元"赤のキャスターが黒の陣営についたということ。

 天草四郎からすれば、せめて黒のアサシンの情報くらいは追加でほしいところである。

 

「......それが、覚えてねえんだ。

 どういうわけか、あそこから撤退した瞬間に、アサシンに関する情報がすっと抜けちまってな。実を言えば踵をやったのがアサシンかどうかも確証はねえ......まあ俺の不意をつくようなやつはアサシン以外いねえだろうがな」

「情報がない......記憶に干渉する魔術かスキル、もしくは宝具があるのかもしれませんね」

 

 だとすれば厄介極まりないと天草四郎は思った。記憶操作とは恐ろしいもので、最悪"赤のアーチャーとライダーが黒の陣営の者"だという偽りの記憶を植え付けることで、意図的に寝がえりをさせることだってできる。

 

 そのことをライダーに言うと、ライダーはまるで雷に打たれたように目を見開いて、こう続けた。

 

 

「......そういうことか。なるほどな、やられたぜ。

 黒のアサシンのその力が、カグヤを黒に寝がえらせやがったんだ......!」

 

 

 その後、赤の陣営ではライダーの踵を表面だけでも治癒しながらの本格的な会議が開かれ、

 

 ①ルーラーが黒の陣営入りしたこと。

 ②ライダーが踵をやられ、弱体化してしまったこと。なお本人はそれでも負けてやる気はさらさらないこと。

 ③黒のアサシンも黒の陣営入りしたらしいこと。また遠隔で記憶を操作するような力あるらしいこと。

 ④"元"赤のキャスターは、黒のアサシンの記憶操作で黒の陣営入りしてしまったらしいこと。

 

 この四つが周知され、以後はこれを前提として動くことが決定された。

 

 

「なあ、ライダー」

「なんだ、姐さん」

「やはり、汝に斥候は向いてない」

「――――――」

 

 

 そして最後に、ライダーに己の独断によって動くことを堅く禁止させて、斥候から得た情報の話し合いは終了となった。

 

 

 

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