「ん~! やっぱりお外の服は動きやすいわねー! お出かけなんだからこうでなくちゃ♪」
マスターさんの小遣いで服を買ってきました!
上は黒の"きゃみそーる"に白いシャツを着て茶色の"ぱーかー"、下に"しちぶたけでにむ"を着て、足下は黒の靴下に茶色の運動向きブーツ。こんな感じで揃えてみたよ!
ただこれだと私の黒い長髪が似合わないなーと思った。
「頭も軽くなったし、いい感じ♪」
だから思いきって、
頭が軽くなりすぎて違和感があるから、追加で帽子も買いました。茶色の"うぇすたんはっと"とかいうやつ。
我ながら、そこそこオシャレになったかな? カッコいい系だね!
「よーし! 行くぞー♪」
見た目を整えたところで、向かう先は一つ!
「突撃! 隣の昼ごはん!」
「おお? なんだなんだ?」
「ライダーさん、こんちには!」
「おう。なんか用か?」
サーヴァント仲間に、ご挨拶だ!
× × × ×
「こんにちは! 赤のキャスターです! 今日からお仲間さんということで、挨拶に来ました! あなたのお名前は?」
一軒目!
背の高いライダーのにいちゃん!
「へぇ、挨拶まわりか、感心だな嬢さん。
俺は赤のライダー、真名は伏せさせてもらうぜ」
「なんか、真名は隠しておいたほうがいいらしいですね。神父さんには聞かれたので教えましたけど」
「さっきから思ってたが、俺とはタメ口で構わねえからな。
ああ、そうだな。真名はそいつの特徴、特に弱点を探るための大きなヒントになる。そういうのがある奴は特に隠すべきだな」
「ん~、でもなー......」
「どうした、不満か?」
だって、名前で呼び合えないのって、不便だし距離遠いしでね。
「そうか......じゃあ、俺はあんたのことを”姫さん”と呼ばせていただこうか」
「お!」
「それでいいか?」
「うん! それ気に入ったわ!」
お~。このにいちゃん、見る目があるようね。驚き。
「それと、やっぱり姫さんもあの神父が気にくわないか?」
「ふんっ、私にも人を見る目はあってよ?」
「ははっ、違いねえな。
あの神父は気に食わねえが、協力するしかねえだろうさ。どうにも、マスターからの指示も、あの神父を通じて俺らに伝えられるみたいだぜ」
「そうなの?」
え、初耳。なにそれ、いと怪しい。
うちで言えばわかりやすいかな。永琳からの指示だよ~って、てゐが薬入りの試験管を飲ましてくるようなものよ。めっちゃ怪しい。
それで飲まされた鈴仙は爆発したり小さくなったり赤くなって鼻血出したりしちゃうの。鈴仙良く生きてるわね。
「ああそうだ。七人のマスターが思い思いでバラバラに動くよりも足並みが良くなるって言ってな。胡散臭いことこの上ないが......マスターがそれを認めちまった以上、俺らサーヴァントは従うだけだ」
「あら、従順なのね、ライダーさん」
「ふん、心まで許す気は毛頭ないがな......用事は済んだか? 実は俺は今、食事中でな。あまり長居はできないんだが......」
うん。知ってる♪
さっきからお肉の匂いがお腹をくすぐってるもの。
「だからこそよ。挨拶まわりついでに、お仲間サーヴァントさんたちがどんな食事をしているか調べ回って、ついでに少しいただこうっていうことをしてるの」
名付けて、隣の昼ごはん作戦! どんどんぱふぱふっ♪
「なんだそれ、そういうことならこんな場所じゃなく、ちゃんとしたところに呼びたいものだぜ」
「ん~、ダメ?」
「ダメっつーか、場所を変えようぜって話だ。だが今日の俺のメシは変えられないんでな。
つーことで明日の昼でどうだ? 俺の好きな店でいいんだろ?」
「おー! わかった! 明日ね!」
「おう、楽しみに待ってろ。んじゃそういうことで」
「はーい! よろしくねライダー♪」
「......おう、姫さん」
ガチャっと、扉が閉まった。
挨拶まわり一軒目終わり! わーい! 明日はライダーとご飯だ~♪ 仲良くなりたいな~。
よーし! この調子で、次!
「......行ったか」
赤のライダー、アキレウスは閉まった扉の向こうを走っていく気配を感じながら、一人、昼メシの席に戻る。
「..................」
その手には、自身の武器である手槍が一筋。生涯を共にした、半身とも呼べる槍だ。
『いつかその槍は、お前が愛しいと思った誰かを穿つ』
「......ペンテシレイア......」
その言葉を覚えている。
試されたのか、呪われたのか、からかわれただけなのか......言葉の真意は、アキレウスにはわからない。
ただ一つ、アキレウスにわかることは、
「上等だ......!」
自身が、最速最高の英雄であるということだ。
× × × ×
「突撃! 隣の昼――
ヒュッ
ザシュッ
――ごはん?」
「ノックもせずに入るな。無礼者と思って射抜いてしまうだろ」
「おっとっと、ごめんなさい」
二軒目!
今度の人はちょっと物騒な女の方! アーチャーさん!
ていうか、人なのかな? 耳がにゃーにゃーになってるから、もしかして妖怪さん? 同郷の方?
「......まあいい。同じ赤の陣営の者だな」
「うん! 挨拶まわりに来た♪」
「そうか。我が名は赤のアーチャー、"アタランテ"だ。よろしく頼む」
「はーい! 真名言っちゃっていいの?」
「構わん。適当に顔を会わせてみたが、バーサーカーとあのアサシン以外は、信用に値すると私は見た。汝も悪人には見えない。それに私は、真名を知られて困ることもないしな」
へー。そんな考えの人もいるんだ。
「私を信じてくれたんだ! ありがとね!
じゃあ私もお返ししちゃうわ。私は赤のキャスター、真名は”×××”」
「......ん? 今なんと言った?」
「これ月の言葉だから、地上の人にはわからないのよね。この世界には"かぐや姫"って名前で伝わっているわ」
「そうなのか。難儀なものだな」
「うん。同じ女同士、仲良くお願いします!」
「ああ、よろしく頼む」
右手を差し出された。こ、これは、じゃぱにーず握手!
ということで、アタランテさんと挨拶できました! おててにぎにぎっ。あっ柔らかい♪
「ところで、今お食事中ですか?」
「ああ。軽食だがな」
この匂いは......木の実?
「なんだ、気になるか?」
「うん。一ついただけるかしら?」
「構わん。ほれ」
「あーん」
「.............手を出せ......」
「あーん」
「...............はあ、ほれ」
「んっ......ん、おいし♪ ありがと!」
「......ああ。用件は終わりか?」
「うん。ありがと! じゃあね、よろしく!」
「ああ、よろしく頼む」
ガチャっと、扉が閉まった。
よし、二軒制覇完了!
残るは~、ランサーとバーサーカーとアサシンとセイバーね。ただ、セイバーさんはマスターが『教会とは別行動をとる』って言ってどこか行ったらしいし、アサシンには近づきたくないから、あと二軒にしましょうか。
「よし! 次はランサーさんのとこに行こう!」
早くしないと昼飯が終わってしまう!
走れ~♪
「........................」
ブチッ
アーチャー、アタランテはキャスターから逸れて壁に刺さった矢を引き抜いた。
昼飯を食べていた姿勢から咄嗟に弓に矢をつがえて射ったとはいえ、それは最高の狩人と言われし自身の放った矢。ただの、と言わず一流の戦士にも反応できるかどうかという至高の一撃だった。
だった、のだが。
「反応、できていたな......」
あのかぐや姫と名乗ったキャスターは、不意の一撃にも関わらず完璧に反応していた。もし私が彼女の眉間を狙ったとしても、矢が届く前に顔を反らすことができるだろう。
「......面白い女だな」
次に彼女を狙うときには、もう少し腕を上げておかねば。
そう、彼女は心に決め、昼メシの席に戻――
バンッ
「アーチャーさ―――ヒュッ―――。明日の昼飯、一緒に行かない?」
「......わかった。お願いしよう」
「やった♪ じゃあね!」
バタンッ
「......また、避けられたか」
プチッ
アーチャー、アタランテは壁に刺さった矢を引抜き、
メキュッ
何かを込めた片手の握力で、矢の中間点を握りしめてへし折った。
× × × ×
「突撃! こんにちは、ランサーさん! 赤のキャスターです! お仲間として挨拶に来ました!」
「そうか。月から降りた姫よ。こちらから伺う礼を尽くさず、ご足労をさせてしまったことを謝罪する。
我が名は赤のランサー、カルナ。太陽神の子。槍に過ぎない我が身だが、これからよろしく頼む」
三軒目! ド派手なランサーさん!
こちらもアタランテさんと同じで真名を名乗る人だ。カルナさんかー、わかってたけど外国の人ばかりだね。というかこの人まだ昼ごはん食べてないみたい。突撃は失敗かー。
ん? 月から降りた姫? 私自分の名前言ったっけ?
「あれ? 私の真名、知ってたの? もしかして昔会ったことある?」
「いや、誰かから情報を得たわけではない。
月の姫よ。その身は常に光を発している。オレも太陽神の子として似たようなものを持っているが、この二つの光は正反対の性質だ。
加えて、その高貴な身のこなしと、綺麗な竹のような背格好。
ここまでくれば、必然的に答えは出てくるものだ」
「へー」
途中から求婚でもされてるのかと思って断りの短歌を五個くらい考えてたけど、どうもこれが素の彼のようだ。
変な人。でも面白いからおっけー♪
「ま、一応言っておくわ。私の真名は”×××”」
「”×××”か、よろしく頼む」
「地上の言葉じゃないから......あれ?」
え、普通に返された?
「話せるの? 月の言葉?」
「太陽神の子として、月に関しても一応の知識は身に付けている。下手に聞こえるだろうが、許して欲しい」
へー! 何だかこの名前を誰かに呼ばれたの千年ぶりくらいだから、懐かしい!
「すごーい! じゃあ今日から私を呼ぶときはそう呼んで♪」
「わかった、慣れるように努めよう」
「そうだ、お近づきの機会として、明日の昼ごはんを一緒に食べない?」
「マスターの判断無しには、オレは動かない」
「じゃあ、いいよって言われたら?」
「断る理由がない。ご一緒しよう」
「やった♪ そこでも私のことは、ね?」
「わかった。”×××”と呼ぼう」
「うんうん♪ えへへっ」
やったー! なんか変だけど近そうな人の仲間がいた!
この人とも仲良くなれそうだ! なんだー戦争仲間だと思って身構えてたけど大丈夫じゃ~ん♪ むしろ楽しい~♪
「じゃあねランサーさん!」
「ああ」
バタンっと、扉が閉まった。
三軒目終わり! 面白い人が多い!
よーし最後! 四軒目!
「行ったか」
ランサー、カルナは先ほどまでの会話を思い出していた。
自分の真名の開示。
相手の真名がわかった理由の説明。
明日の昼飯の同行。
「恐らく、マスターの意向に背くものは無かったはずだ」
サーヴァント、カルナ。
施しの英雄たる彼は、トラブルメーカーが相手でも一切ブレなかった。
そしてブレないが故に、後々の混乱を生むこととなる......。
× × × ×
「お城? 確かあっちのほうだったような......」
「おおそうか! キャスターよ御協力感謝する!!
さあさあ圧政者よ!! その首に! 我が弾劾の剣が刺さるときを! 首を洗って待つがよい!!
ムーッハハハハハ!!!」
ドガアアアアン!!
× × × ×
「バーサーカーが暴走して要塞に攻めいったぁ? アハハッ」
「あぁ......」
連絡を受け、獰猛な笑みを浮かべる赤の従者と、その隣で天を仰ぐ主人。
期待は裏切らず、懸念は解消せず。常に想定の上を行く。
やっぱり、トラブルメーカーはトラブルメーカーだった。
× × × ×
「ランサーはあのルーラーを倒すのに失敗したようだな」
「仕方のないことです。加勢として黒のセイバーが現れ、やはり最優に相応しい強敵だったという話でした。そんなセイバーを退けて、かつ能力が高めに召喚されるルーラーを倒すというのは難しいでしょう。ランサーの働きを疑うものではありません」
「マスターがそう言うのならいいだろう。
それで、バーサーカーはどうする? あのカグヤとかいうやつの仕業のようだが?」
「......責任の所在は後で構わないでしょう。悪気は無かったようですし。
アーチャーとライダーを向かわせたので、動向はこちらが把握できています。必要になれば、バーサーカーのマスターに令呪を使ってもらい、強制帰還させます」
今は早朝、朝日が差して間もないころ。
昨晩にランサーがルーラーを倒すのに失敗し、黒のセイバーはやはり強敵だということがわかった。
そして、昨日の昼頃に突然暴走して敵地のミレニア要塞めがけて単身突っ込んで行ったバーサーカーが今の問題だった。暴走はあのキャスターの仕業で、挨拶がてら話していたら突然壁を破壊して笑いながら走り去っていったとのこと。
「まあ、バーサーカーですし、そういうこともありますよ」
もともと"戦力"としては期待していなかったバーサーカーだ。たとえ黒の陣営に囚われ、戦場で敵として会おうとも、役割を果たしてくれればそれでいい。
「........................」
「......? どうした、マスターよ」
「......いえ、何でもありません」
「バーサーカーのマスターはどちらに?」
「自分の部屋に待機させている」
「行きましょう。バーサーカーの真名を考えるに、帰還の令呪を使うタイミングは考えなければなりません」
キャスターの影が、シロウの脳裏にちらついた。
この後、バーサーカーは要塞めがけて走り続け、思っていた通りに黒の陣営と武力衝突。ゴーレムの大群や、敵のライダーとランサー相手に気高き闘志を示しつつも敗北して気絶させられた。
ここまでは正史と同じだった。
しかし、
『令呪二画をもって命ずる。バーサーカーよ、直ちにマスターのもとに帰還せよ』
無かったはずのことが起こり、バーサーカーは光に包まれて姿を消した。令呪か、とその場にいたダーニックは気づいたが、気づいたところでバーサーカーは帰ってこない。
こうして、正史では囚われ敵の手に落ちたバーサーカーが、傷を負い令呪を失いながらも赤の陣営へと帰還を果たした。
赤のトラブルメーカーの存在がために起こった、この小さな変化。これが引き起こすのは、清流か、濁流か。
× × × ×
「あ! ライダー♪ こっちこっち!」
「おう姫さん。って、ランサー!? それに姐さんも!?」
「オレも呼ばれた身だ」
「なんだ、お前も呼ばれていたのか、ライダー。それと我が名はアタランテだ」
「......こうなったか......」
「あはは、ちょっと私たち目立つわね」
「無理もない、月の姫よ。その身から発している光は、到底隠せるものではあるまい」
「いや、汝が一番目立つぞ、ランサー」
「ケモ耳しっぽの姐さんも、な?」
「我が名はアタランテだ」
「ライダーのにいちゃんはあれね、ドラマー?」
「えっ」
「おいランサー、この鎧はどうにかならんのか。邪魔くさいぞ」
「すまない。この具足はオレの一存でどうにかできるものではない」
「その鎧、脱げないの?」
「この鎧はオレの肌に癒着している。あることをすれば脱ぐことができるが、そのときはこの辺り一帯が焼け野原になる。恐らく地図からルーマニアが消える」
「......は?」
「ん、キャスター」
「ん、な―――ヒュッ―――に?」
「............くっ」
「どうした姐さん? 赤のキャスターに何かあったか?」
「......何でもない。それと我が名はアタランテだ」
「?」
「すまない”×××”、塩が欲しい」
「ん、はい♪」
「ん?」
「お?」
「......なんだ、オレの顔に何かついてるか?」
「......いや」
「......なんでもない」
「ん、特に何も無さそうだけど......?」
「そうか。悪いが”×××”、戻すのも頼む」
「はーい♪」
「「!?!?!?」」
余談だが、翌日行われたサーヴァント四騎による豪華絢爛な昼飯会場は、主催者のトラブルメーカーっぷりに相応しく楽しくて賑やかなものになったという。
8/14:ペンテレイシア→ペンテシレイア