想定外に話数が多くなるトラブルが発生したためです。おのれ蓬莱山。
「お怪我はございませんか、キャスター」
"
自らの宝具である旗を基点とし、あらゆる攻撃を受け流す防御を為す結界宝具。
......ここ最近はキャスター絡みで使うことが多いと感じるその宝具は、ルーラーとキャスターを球状の結界で包み込み、ジャック・ザ・リッパーの呪いから守りきった。
「う~......眩しくて、目がぁぁぁ~~......」
「......無事のようですね。
ご心配なく、後はお任せを」
そう言ってルーラーはキャスターに背を向け、目線は辺りを囲う怨念体へ。
例えるならキャンプファイヤか、或いは輪唱か。ジャック・ザ・リッパーは円陣を組んでその視線をルーラーへと集中させる。まるで視線で穴でも開けようかというほどに。
しかしルーラーは脅えも怯みもしない。その程度で、鋼鉄とも謡われたその精神はびくともしない。
「ジャック・ザ・リッパー。貴女たちは聖杯戦争を逸脱した行為をしています。今までの分も含め、ルーラーとしてこれ以上貴女を現世に留めておくわけにはいかなくなりました」
ルーラーは、ジャック・ザ・リッパーにとって天敵である。
まず、マスターが存在しない。アサシンの基本戦術であるマスター殺しができない以上、正面切っての戦い以外の道がない。
次に、呪いが効かない。対魔力が規格外のEXランクであるのに加え、結界宝具まであり、一撃必殺の解体聖母が通らない。
そして、ルーラーの持つ聖なる気と言葉。これは邪なるジャック・ザ・リッパーにとっては致死毒に等しい。
「貴女たちの境遇を思えば、情状酌量の余地もあるのかもしれません。ですが、事ここに至ってしまっては仕方がありません。
貴女たちを、祓わせていただきます」
故に、これより紡がれるは"洗礼詠唱"。
これこそが、この怨霊と世界にとって、最上の救いになると信じて......
ルーラーの口が大きく開かれ、息を吸い込―――
「はい召し上がれ♪」
べしょ
―――もうとしたタイミングで、何者かが口元を手で塞いできた。
邪魔をするな、とルーラーは口で抗議を送ろうとして、ジョリ、という不快な音と味が口の中に広がって―――
「――ふなっ(砂っ)!? ゴッホゴッホ!! ぅぅえええ!! ゴッホ!!」
ルーラーはむせ返り、膝から崩れ落ちた。
× × × ×
「あら、お口に合わなかったかしら? オホホホホッ」
「キャスタッ、ゴッホゴホッ、あなたってひとはッゴッホゴッホ!」
ルーラーさん、これだけは言っておく。いや口には出さないけど、内心で大きく叫ばせてもらうわ。
誠に申し訳ございませんッ!!
ただの砂だと侮るなかれ。手に取ってみて気づいたけど、あれは一粒ひと粒にジャックちゃんの呪いが込められた呪詛の塊だ。あれ口に含むとかルーラーさんじゃなかったら確実に汚染されて最悪死ぬくらい危険物。
そんなものを女子の口中に放り込む私の酷さよ。「この外道がッ!」って怒鳴られても「はいそうです!」としか言えないレベル。
でもね、うん。こうするしかないんだよ。ルーラーさん。
君はジャックちゃんトゥルーエンドのための仕方ない犠牲になったんだ......
『えっ......?』
『はえ......?』
『ん......?』
呆けたような顔と声のジャックちゃんたち。当然だよね、だって突然上から敵の増援が来たかと思ったら目の前で仲間割れしたんだもの。4コマ漫画もビックリの急展開だよね。
まあ好都合だし利用させてもらうわ。何せ、ここを逃したらもうジャックちゃん仲間にするチャンス無いだろうからね。うへー、そう思うと緊張してきたぞー。
「ねえ、ジャックちゃん」
よし、頑張ろう輝夜。負けるな輝夜。全国74億人のかぐや姫ファン(永琳調べ)のためにも、一肌脱ごうではないか。
あ、そうだ。折角だからあのいけ好かない妖怪の真似事でもしてみようかしら!
雰囲気はこうかな? 手元、足元、姿勢、腰つき、でもって目つきと口元をこうして......こんな表情だったかな? よっしゃ!
「"幻想郷"って、ご存じかしら?」
やることは至ってシンプル。
その名も、"あつまれげんそうの郷"作戦~♪
× × × ×
「ねえ、ジャックちゃん―――」
あれ、おかしいな。
ルーラーをやっつけたお姉ちゃんが、なんだろう、変わっちゃった。
なんだろう、見た目はお姉ちゃんのままなのに、お姉ちゃんじゃないみたい。
「お姉、ちゃん......?」
ねえねえ、何だか"先生"って言われてる人に似てる気がするよ。
先生? そうなのかな? じゃあ今から何か教えてくれるのかな?
うーん、でも、どことなく信じられないというか。こういうのなんて言うんだっけ......うさんくさい?
「"幻想郷"って、ご存じかしら?」
ゲンソウキョウ?
げんそうきょう、げんそうきょう、げんそうきょう......わかんない。
あ、横で呪いと戦ってるルーラーの人もわからなそうな顔してる。いっしょだね。
「ここから遠く東方の島国、日本という場所にある、忘れられたものの楽園、"幻想郷"。
そこには多くの人と、人にあらざる者―――
じんがい......ちょっとこわそう。
「巫女、魔法使い、妖怪、妖精、メイド、吸血鬼、お侍、亡霊、騒霊、鬼、悪魔、神様......宇宙人や不死身の存在までもが人の形をとって、人と同じように生きているの。お茶を飲んで昼寝して、神社に集まって酒を呑んだくれながら、ね」
ええっと、人じゃない、ひとたちがたくさんいるってこと?
つまり、わたしたちみたいのが、ゲンソウキョウにはたくさんいて、みんな仲良くしてるってこと?
そんな世界があったら、楽しそうだなあ......
「"幻想郷"は全てを受け入れる。寛容に、残酷に。当然貴女のような存在もね。
私もそこに住んでいるのだけど......貴女たちも、どう? "幻想郷"に住んでみない?」
え?
お姉ちゃんって、ゲンソウキョウに住んでるの?
それで、わたしたちを、さそっている......?
『わたしたちを......?』
「ええ。大丈夫、住む場所くらいは手配してあげられるから。
そうね......最初は寺子屋に通うところからかしら。そこで人付き合いと幻想郷のルールを教わって、そしたらもう誰でもいいから紹介しましょう。博麗の巫女に流星の魔法使い、紅魔の吸血鬼とメイドに二刀流の庭師。ああ、永遠亭によく来ているスズランのお人形ちゃんもいいわね。きっとたくさんの人と仲良くなれるわよ」
お姉ちゃんの口からたくさんの、多分だけど人の名前が出てくる。
たくさんの人と仲良くなれる、かあ。うん、そうなれたらいいなあ。友達とベンキョウして、おはなしして、おあそびして、いっしょに笑うんだ。うん、そうなれたらいいなあ......
......でも、いいのかな。
『......いいのかな』
「何か、聞きたいことがあるのかしら?」
『うん。わたしたち、いっぱい悪いことしてきたよ。魔術師も、黒のライダーさんも、ホムンクルスさんたちも、いっぱいいっぱい解体しちゃったよ。
たぶん、これからも続けちゃうよ。ゲンソウキョウでも、きっと悪いことしちゃうよ』
「大丈夫。幻想郷には貴女を止めてくれる人だって大勢いるわ。魔力補充のことなら専門家がいるし、解決してくれるわよ。
それに、悪いことしたら謝ればいいじゃない。寺子屋の先生なら頭突き一つで許してくれるわよ」
ずつき......いたそうだなあ。
でも、ちがうんだよお姉ちゃん。そういうことじゃなくて......
『......あやまっても、ダメだよ。だってわたしたち、もう......』
もう、わかってるんだ。
ルーラーさんが言ってたように、わたしたちはもう許されないんから。許されないことをやってきたから。
お姉ちゃんは優しいから許してくれる。でもそうじゃない人だっていっぱいいる。だから......
「私が認める!」
『っ!?』
え......?
「......貴女たちの行動は全て生きるためだったと聞くわ。人道に背いて手を血に染めて、そうまでしてでも聖杯戦争に勝って、幸せな生が欲しかったのでしょう。まだ満足に生きられてすらいない貴女たちがそれを望むのは当然のことだわ。
それでも多くの命を奪ってしまった。ルーラーさんの言うように、貴女たちには罪がある。それそのものは許されることではないわ。
それでも......幻想郷に来てもいい、そこで幸せになってもいいと、私が認めるわ。
だから......」
もうやめて......
そんな優しいこと、もう言わないでよ......
わたしたちは、わたしたちだから、だから、でも、だから、だけど、でも、だって......
『............さん』
「............?」
『............さん......ま.....たー....』
わからない、わからない、わからない......
たすけて、たすけて、たすけて......
コツッ コツッ コツッ コツッ
「......
「っ......貴女は......」
『......ぁ............』
お、おか......!
「はあい、ジャック。こんなところにいたのね。おかあさん心配したわよ」
『お、かあ、さん......!!』
× × × ×
「アーチャー、様子はどうですか?」
「マスター、わざわざご足労ありがとうございます」
ジャック・ザ・リッパーの世界の外側。つまりはユグドミレニア城塞前の平原にて。
突如現れた霧の塊を見るため、フィオレは
「変化はありません。あれ以来、この霧の塊のことはわからず、こちらからの干渉は一切受け付けない状態です」
「そうですか......」
黒のアサシンの体から噴出した霧は、キャスターとルーラーを巻き込むように展開し、以降は巨大な霧の塊となって静止した。
霧は濃く、中の様子はアーチャーの目をもってしても覗けない。
試しにとアーチャーが中へ入って行っても、気がつけば同じ場所に戻って来てしまった。方向感覚を狂わせる効果は健在なようで、直感などのスキルを持たないアーチャーでは踏破は難しい。
「宝具を放てばあるいは、とも考えたのですが......」
「うっ!?......この強い念の元は、セレニケ?」
霧の中心部へと強力な宝具を放てば、あるいはこの霧を吹き飛ばせるかも......一度はそう考えなくも無かったのだが、城で待つセレニケから「カグヤ様に万が一があったらどうするのよムキーッ」と念で訴えかけてくるので、この案は没。
味方陣営で直感などのスキルを持つのはルーラーと赤のセイバーであるが、赤のセイバーはルーラーの神明裁決くらいでしか呼び出せず、肝心のルーラーが霧の中であるため、これも没。
「悔しいですが、我々はここで様子を見ていることしかできないのかもしれません......」
「......無事でいてください。ルーラー、キャスター」
できることは静観のみ。
フィオレと黒のアーチャーは、霧の塊の近くで、祈るように両手を合わせるのだった......
その時、光が三人を照らした。
「「「!?」」」
はっとなって一斉に空を見上げる二人。しかし空は変わらず日暮れの赤黒さを示すのみ。
よくよく思えば、光は上からではなく横から照らしてきており、光源が近づくと同時に草原を踏みしめ進む機械的で聞き慣れた排気音が―――
ぶうううわあああああああおおおおおんん!!
「って、車ぁ!?」
―――黒塗りのワゴン車が、超スピードで突っ込んできた。
「マスター、伏せてください!」
「はい!」
アーチャーがフィオレを庇い、腰を落として前に出る。パンクラチオンで車を受け流す構えだ。時速140kmを優に超えるだろう巨体を前に、しかしフィオレにとってその背中は全幅を信頼を預けられるものである。
しかし、車は二人の予想の斜め横に向かって一直線走っていき、
「「えっ?」」
話の中心であった霧の塊の中へと、ノーブレーキで突っ込んでいった。
直後、
ぶうううわあああああああおおおおおんん!!
やはり車は、入っていった場所から飛び出てきて、
キキキキキキーーッ!...............
少し離れたところで、けたたましいブレーキ音とともに静止した。
「......何だったのでしょうか」
「......マスターはここに。様子を見てきます」
「ええ、お願いします」
あまりにも突然の来訪者であり、行動も意味不明だ。
これは流石に気になるところなので、アーチャーが弓矢を手に様子を伺う。
「動くなっ......気を失っていますか」
運転席には成人男性が一人。ブレーキを踏みこんだ体制で気を失っていた。
後部座席には何もなく、その後ろには旅行鞄や土産の品、携帯コンロや寝袋、上には釣竿がついていた。
(......おかしい)
車内は一見、ただの旅行人とその物持ちであり、何も不思議なところは無かった。
しかし、アーチャーは気づいていた。
(あの女性......)
車の前にマスターを庇って立ったあの時、後部座席には確かに女性の姿があった。
彼女が、確かにいたはずだった後部座席に、しかし今は誰もいない。
アーチャーとしての目に誓って、見間違いということは断じてあり得ない。そして車内には確かに女性がいたと香りが鼻に主張してくる。
(ということは......)
アーチャーは無意識的に後ろを見やる。
そこには、相も変わらず霧の塊が広がっていた。
× × × ×
「あら、どうしたのジャック。そんな泣きそうな顔をして。お姉さんたちにいじめられたの?」
『ち、ちがうの......わたし、わたしたちが、わたしたちが......!』
「落ち着いて、ジャック。それじゃあお母さんわからないわ。
ゆっくりでいいから、聞かせてジャック。何があったのか。ほらっ」
ポスンッ
『あ......』
おかあさん―――六導玲霞はジャックの前で軽く屈み、ヒョイっと持ち上げ、赤子のように抱き抱える。
それだけ。それだけで抱えられたジャックの表情は解れていき、その感情が伝わったのかジャック・ザ・リッパーたち全員の雰囲気も柔らかくなっていく。
『おかあさん......あのね、わたしたちね......』
「うん。今日のジャックはどんな楽しいことがあったの?」
『えへへ......あのね、おかあさん。今日はね......』
そこからしばらく、キャスターとルーラーは親子の会話を遠くから見守っていた。
あれは、あの二人が作る空間は、部外者立ち入り禁止、絶対不可侵の空間。ましてや話途中で絶対に茶々を入れてしまう(と思われている)キャスターや、纏う雰囲気が血と鉄の戦場そのもの(に悲しくも見えてしまう状態)であるルーラーが近くにいてはならない。
そう思ったルーラーが、キャスターを引きずっていく形で、二人は遠ざかった。
「......あの、ルーラーさん?」
「..................」
「......い、いやー。親子ってのはいいものねー。見ているこっちまで和んでくるわー......あははー......」
「..................」
「ル、ルーラーさん。もしかして、砂のこと怒ってます?」
「怒ってます」
「あ、はい......先ほどの件は誠に申し訳ございませんでした......深く反省しております故、何卒ご寛容なお取り計らいを......」
「..................」
「お、お取り計らいを......」
「.........ふんっ」
「ひえっ......ご、ごめんなさい......」
先ほどまでの雰囲気とは打って変わって、ただのポンコツな姿に戻るキャスター。黙しておかんむりなルーラーを相手に、膝を地について両手を合わせて誠心誠意の謝罪をする始末。この憐れな姿、とてもジャックには見せられない。
呆れたような顔で首を振るルーラー。その様には、許したというより諦めたという言葉が似合う。
「もういいですよ......それより貴女に伺いたいことがあります」
「やったー許してもらったーわーーーい」
「.................................」ブォンブォンブワァンブワァン
「あの、無言で旗を振り回さないで? ブォンブォン音鳴ってるから。当たったら間違いなく私死んじゃうから」
「それが狙いですけど?」
「ごめんなさいもうしません調子に乗りません」
「本当に......?」
「.....................うーn」
「令呪を以て命z」
「絶対にしません! 神に誓います!」
「............ハ~~~...」
ルーラーは、諦めた。
「貴女が語った夢物語の話です」
「夢物語?......なんのこと?」
キャスターに心当たりは皆無だ。唸るキャスターにルーラーは問う。
「"幻想郷"とやらのことです。
私には貴女の真名がわかります。私が知る竹取物語に、そんな土地は存在しません。
貴女は、月から流されて来た姫。物語で貴女が関わっている場所は、平安の都と月の都の二つのみ。そしてその二つを"幻想郷"などという二つ名で呼んだ記載は物語に存在しないはず。
ましてや、妖精? 亡霊? 鬼? 神様? そんなものが現代世界で跳梁跋扈しているだなんてありえません」
ルーラーにはキャスターの真名が"なよ竹のかぐや姫"だとわかる。
もし仮に、仮にであるが、キャスターの話が本当だと言うのなら、ルーラーの知っている竹取物語それそのものが崩壊する。それよりはキャスターの話が夢物語だとした方が断然現実的だ。
「え~? 本当のことなのになあ~。信じてもらえなくてお姉さん悲しいなあ。泣いちゃいそうだなあ~」
「..................」
「ねーねー、ルーラーさーん」
「..................」
やはり、聞くだけ無駄だったか。
そう思い、ルーラーはキャスターに背を向けた。
そんなルーラーを尻目に、キャスターは空を見上げ、口を開く。
ジャック・ザ・リッパーの世界で見上げた空は、星も月も偽りのものであった。
「罪人...異端者...外来人...そんな存在を笑顔で歓迎し、我が子のように育て、日々の成長に一喜一憂してくれる。そんな人たちがいたのだから、そんな世界があってもいいと思わない?」
そんなキャスターの弱々しい独り言が、ルーラーに聞こえたような気がした。
「カグヤお姉ちゃん、おまたせ!」
黒のアサシンだったときの姿に近い、少し痩せ細った肉体に意識を集合させたジャック・ザ・リッパーの元気な声に、ルーラーは現実に呼び戻された。
× × × ×
「どうやら、心は決まったようね」
「うん!」
ジャックちゃん、いい笑顔に戻ってくれた!
それだよ、それなんだよ。私はその顔が見たかったんだよ。ジャックちゃんが笑っていてくれれば今の私は満足なんだよ。
ところでさっき聞き忘れてたけど、横の色めかしい女性はお母さんなのかな?
「初めまして。ジャックのマスターの六導玲霞と申します」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。ほうら......ん゛ん゛、キャスターのかぐや姫です。カグヤと呼んでください」
やっば、本名言いかけちまった。
しかも動揺して真名言っちまった。サーヴァントは真名隠すのが基本って横にいるルーラーさんに教えられたばっかりなのに。
......(/ω・\)チラッ
「......はぁ~......」
案の定ルーラーさんは私を見て頭を抱えてた。穴があったら入りたいよぉ......
ルーラーさん、私の話信じてもらえてないっぽいし、嫌われちゃったのかなあ。
「カグヤさんですね。この度は娘がお世話になっております」
「いえいえ、私のほうこそジャックちゃんとは遊ばせてもらってます......ジャックちゃんから私の話を?」
「はい。何やら楽しい遊びを教えてもらったとか、ゲームがとてもお強いとか」
[悲報]ジャックちゃんのお母さんから見た私、ただの不審な遊び人だった[泣きたいときほど涙は出ない]。
第一印象ただのニートやんけ! しかもめんこい娘を連れ込んで遊んでるとか不審者やんけ!
えっ? 今ってもしかして不審者が保護者に見つかった現場なの? お世話になってるってそういうこと? 呑気に挨拶かましてる場合とちゃいます? 初手土下座しなかった時点で詰んでるバケーション? 六道お母さん激おこぷんぷん丸?
......(/ω・\)チラッ
「......?......」
あ、そうでもなさそう。六道お母さんのほほ~んとしてる。
よ、よし。それならそうとお姉さんはお姉さんを通して見せよう。よしんば実は悪く思われてたとしてもシラを切り続けてればその内丸く収まるって!
「そ、そうですか。娘さんにも楽しんでもらえていたようで何よりです。
ジャックちゃんは笑顔が可愛いもので、ついつい一緒になって遊んでしまうんですよね」
「そうですか。良かったわねジャック、いいお姉さんに遊んでもらって」
「うん! お姉ちゃん大好き!
あ......も、もちろんわたしたちが一番大好きなのは、おかあさんだよ?」
「あらあら、ありがとうジャック。おかあさん嬉しいわ」
お、おう。なんだ、この親子がかもし出す日常的な雰囲気は。眩しいぞ。
あ~、家庭的な雰囲気に中てられちまった~、帰りたくなってきちまったよ~。永琳は泣いてないかしら。イナバたちは元気してるかしら。あの子たちのふわふわをなでなでする時間が恋しいわ~。
あ、言うまでもなく元気なのが向こうに一人いたけど、今なにやってるのかしらね。ふふっ、案外近くまで来てたりして。
「さあ、ジャック。大好きなお姉ちゃんに、貴女たちの思いを言ってごらん」
六道お母さんがジャックちゃんをだっこした。ジャックちゃんの目線の高さが私と同じになる。
「うん! わかった!
カグヤお姉ちゃん! わたしたち、ゲンソウキョウってとこ、行ってみたい!」
ジャックちゃんが笑顔とともに言った言葉は、私が心から聞きたいと欲した言葉だった。
うわぁ、嬉しい。超嬉しい。
「ジャックちゃん、本当にいいのかしら?
貴女の行くことになる幻想郷は、思っていたより殺伐としたところかもしれない。飢えや渇きに苦しむことになるかもしれない。雰囲気が合わなくて馴染めないかもしれない。それでも―――」
「―――それでも! わたしたちはゲンソウキョウに行きたい! 行って、おかあさんとしあわせになりたい!」
......ジャックちゃんの声には、迷いがない。力強くて大きい、真っ直ぐな意思が込められた声だ。
これは、もう大丈夫かな。
「カグヤさん、宜しいのでしょうか。私は、お母さんがいなくても貴女たちは大丈夫だと言ったのですが......」
「ダメだよ、おかあさん......わたしたちはおかあさんと一緒じゃないとヤダよ。おかあさんと一緒に、しあわせになりたいんだよ」
目元をうるうるさせて六道お母さんにそう言うジャックちゃん。かわいすぎか。反則級だよ。ノックダウン不可避。
「ねえ、カグヤお姉ちゃん。おかあさんと一緒じゃダメかな......?」
「いいえ、問題ないわよ。それが貴女の望みであるならば、ね。
そもそも、貴女たちや私は、自分達の好き勝手な願いを叶えるために集まったんじゃなくて? ねえ、ルーラーさん?」
ルーラーさんを見ると、不服という文字が表情に浮かんでいた。この戦争はそういうものだって聞いたのだけれど、違うの?
「聖杯戦争をそんな解釈で考えられるのは、貴女と
聖杯は万能の願望機です。令呪一つでさえ短距離の瞬間移動を可能にするくらいですから、キャスターの言う"幻想郷"が真に存在するのであれば、聖杯はその願いを叶えられるでしょう」
そう、聖杯ならね。
いや、ユグドミレニアの地下からぶっこぬかれるときに一瞬だけ見れたけど、あの魔力の塊は凄いね。知り合いの魔法使いに持っていったら卒倒しちゃうんじゃないかな。永琳に見せたらどんなリアクションするんだろ......見つめたまま無言で半日立ち尽くすってのが一番ありそう。
「監督からのお言葉なら、間違いはないわね。
ジャックちゃん、願いは決まった?」
「うん! おかあさんと"ゲンソウキョウ"に行く!」
「ありがとう、ジャック。お母さんも思いは一緒よ」
「うん! いっしょ! ずっといっしょがいい!」
―――さて、願われてしまったか~。
ならば、やることは一つだね!
「聞き入れたわ、その願い。
そんな貴女たちには、一つ
「なんだい?」
「そう、難題。挑んできた者が尽く敗れ去っていった、なよ竹のかぐや姫の新難題よ」
首を傾げるジャックちゃんに、右手......は傷のせいで動かないから左手を差し出す。
ジャックちゃん、並びに六道お母さん。この二人が私の難題への挑戦者であり、世界で一番新しい竹取物語の登場人物。
物語で紡がれた縁は、現実と幻想の境界を越えるに能うのか。それは私にもわからないけれど。
「"
「―――うん! よろしくね、カグヤお姉ちゃん!」
迷いなく、力強く私の左手を握り返してくる小さな命を見れば、何だかやってくれそうな気がしてきた。
さて! じゃあそろそろ締めくくりと行きますか!
こういう場面は、歌で終わるのが定番だよね!
一番! カグヤ、歌います! 歌って言うより詩だけどね!
『求めよ、挑戦者たち。縁遠かれども、幸薄かれども、道見えざれども、力及ばざれども、欲したものを求め続けよ。究極の一品を、至上の一味を、その果てに辿り着く最高の物語を手にせんと進む貴女たちに―――』
繋いだ手を、ゆっくりと魔力が伝う。それはジャックちゃんから六道お母さんへと続き、一本の縁を作り出す。
「ねえねえおかあさん。ゲンソウキョウは今よりもっと楽しい世界だよ」
「ええ、そうだといいわねジャック」
「うん! わたしたちと仲良くしてくれる子とか、ベンキョウをおしえてくれる先生とか、いーっぱいいるんだよ。
お外に出たら、カグヤお姉ちゃんにゲンソウキョウのこといーっぱいおしえてもらうんだ! いーっぱい!」
「うんうん。嬉しそうねジャック」
「もちろん! おかあさんがいっしょだもん!」
「そう。ありがとう、ジャック」
「うん!」
『―――生あれ。救いあれ。光あれ。生あってこそ人は死ぬに能うのだから。救いあってこそ人は懸命に生きるのだから。光あってこそ人は生きようと進めるのだから』
バチリ、と。
縁は結ばれた。
「宝具―――
願わくば、この子供たちの情景が、こんな暗くて息苦しい都ではなく、明るくて綺麗な郷になってくれますように。