【完結】赤のキャスターは蓬莱山輝夜   作:木工用

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トラブルメーカーと恐怖の協力者

 

 

「たっだいま~♪」

 

 夕日も西の地平に落ち、お腹を刺激する香ばしい匂いが台所からもたらされてくるミレニア城塞の城門前。

 アサシンの襲撃に備えて警備中の殺伐としたホムンクルス兵たちの耳に、場違い極まりない呑気な声が響き渡る。

 

「......ええっと、おかえりなさいませ......」

「......お待ちしておりました......」

 

「ん? どうかした?」

 

 出迎えたホムンクルスの表情に浮かぶ、唖然の一文字。

 それもそのはず、

 

「ねえねえおかあさん、ここ、ミレニア城塞っていうんだよ!」

「そうなの。立派なお城ね」

「うん! ここでお姉ちゃんといっぱい遊んでたんだよ!」

「そうなの。なら今日からもっと遊べるわね」

「うん! おかあさんもいっしょだよ!」

「ええ。ありがとう、ジャック」

 

 何故か敵であったはずの黒のアサシンとそのマスターが、ルーラーやキャスターと共に仲良く歩いてきていて、

 

「...........................」

「......アーチャー、その、頬は大丈夫ですか?」

「......ご心配なく。見た目のわりに痛みはそこまでありませんから......」

「......そうですか......」

 

 その後ろ、どこか居たたまれない雰囲気で歩くアーチャーが、右の頬にデカデカと赤い紅葉形の腫れを刻んでいたからだ。

 

「......みんな、姉ちゃん。何があったんだ?」

「カウレス......実は......」

 

 一足遅れて来たカウレスがフィオレに説明を求める。

 時は少し前、キャスターたちがジャック・ザ・リッパーの世界から戻ったところまでさかのぼる......

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「ふう―――おかえり、ジャックちゃん」

「うん―――ただいま、カグヤお姉ちゃん」

 

 ぷはー、澄んだ空気が気持ちいい!

 あの世界は空気が悪くてねえ。喉がむせるわ目元がむずむずするわで気になって気になって。まあ、全身がジャックちゃんに包まれてるみたいだったからそれはそれでゲフンゲフン

 あ、霧の世界そのものになっちゃったジャックちゃんがこっちに戻って来れないかも疑惑あったけど......良かった、戻ってこれてる。ルーラーさんが首傾げてめっちゃ不思議そうにしてるけど、令呪とか縁とか絆とかその他諸々で何とかなったんでしょ(適当)

 

「もしかして貴女のせいですかキャスター」

「いやいや私は何もしてないですわオホホ」

「............」

 

 めっちゃ疑ってくるやん。

 ルーラーさん私のことめっちゃ疑ってくるやん。

 え、私ルーラーさんに疑われるほど何かしてたっけ?

 いやいや、違う。仮に、仮に何かしてたとしても、やったのは私じゃなくて、聖杯から勝手に付けられたこのトラブルメーカー(身に覚えのないスキル)だから。よって私は悪くない。Q.E.D(証明終わり)

 

「..................」

「マスター、まずはルーラーに話を聞きましょう。何があったのか正確に知るには、彼女と話をする以外に考えられません」

「そうですね......すみません、ルーラー。いったい何があったのか、教えていただけませんか?」

 

 フィオレさんがルーラーさんに近づく。当然、サーヴァントであるパンツライオンさんもそれに続いて、二人が私の前を通ろうとする。

 そのパンツさんの右肩を、私は左手で軽くトントンと叩く。

 

「......? なにk」

 

 

 パシイイイィィィン!!

 

 

「っ!?!?」

 

 

 っっしゃあああああ!! クリィィィィンヒットォォォォォォォォ!!

 右の頬に平手で気持ちいいイッパツをクれてヤッタわ! イイ音したな~♪

 これぞ、もこたんを相手に日々研鑽を積んできた蓬莱山ガ奥義ノ一"飯後の油断しきったもこたんを暗殺する平手打ち"である! 本家本元の体で本気でやれば首があらぬ方向に――(ピー)きれ、根本から――(ピー)とぶこともあれば逆に脳だけ―――(ピーーー)することもあるのだ!

 

「ッッッ......キャスター、なにをする......!?」

 

 まあ、パンツさんがまだ話せているように、この体だと気絶すらさせれなさそうな威力だけどね。でもパンツさんに喰らわせるなら、不意打ちが真骨頂のこれが一番効くと思った。

 どうでもいいけど、引き締まったパンツさんの頬だと平手の感覚が違うなあ。これはこれでイイ音がしてイイかもしれないけど、私はもこたんのあの澄ました顔つきのわりにむにむにしてるほっぺたがやっぱり一番いいかなあ。あ~、やりたくなってきた。次に会ったら問答無用でイッパツかまそう、そうしよう。

 

「アーチャー!?」

「キャスター! 貴女なにを......!?」

「お姉ちゃん......?」

 

 おっと、周りから変な目で見られているぞ。一刻も早く弁明しなければ。

 

「パンツさん」

「その呼び名はやめろ」

「私の右肩の傷を見なさい。これは貴女がジャックちゃんに射掛けたときについた傷です。

 何故貴方がそのようなことをしたのか、敢えてそれは問いません。

 ですが覚えておきなさい。ジャックちゃんを傷つけようとする人は、神や仏が許しても私が許さないということを」

 

 ジャックちゃんに矢を討ちやがったな! 許さないぞぷんすかー!

 という文をルーラーさんフィルターに通すと大体こんなかな? と思って話しました。

 言いたいことは言えてスッキリしたんで、ふんっ!って感じで振り返って―――

 

 

 

 

 

 

「......キャスター、あんたってやつはホントに......」

「カグヤお姉ちゃん、すごいでしょ!」

「うぇ!? く、黒のアサシン......そ、そうだな......」

「えへへ~」

 

―――今に至る。

 

「カウレス、城塞に異変は?」

「無いよ。赤のライダーが来てからは何もなくなった。

 ゴルドとセイバーは工房で復旧作業に詰めていて、セレニケとロシェもさっき会って普通に元気そうだった。アカは見てないけど部屋にいるだろうし、問題ない。

 全員揃ったし、夕食にしないか、姉ちゃん」

 

 もう日が暮れて結構経っている。

 言葉には出さないが、全員お腹がペコペコだった。

 

「そう......ではみんなでお夕飯にしましょうか」

「おっけー! 私はアカ君呼んでくるね~。ルーラーさん一緒に来る?」

「え、私ですか?......わかりました」

「おかあさん! みんなでごはんだ!」

「そうね。皆さんに挨拶しないとね、ジャック」

「アーチャー、ロシェやセレニケへの声掛けをお願いします」

「わかりました、マスター」

「......それと、頬を冷やしてきてください」

「......わかりました、マスター」

 

 こうして皆が食堂に集まる中、

 キャスターとルーラーは、アカの部屋へと向かう。

 恐らく―――焦燥や疑心で酷く取り乱しているだろうアカの元へ。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「......なんで......どうして......!」

 

 人と人は協力して暮らしていると聞いた。

 皆で力を合わせて平和を作っていると聞いた。

 

「おかしい......おかしいだろ......!」

 

 なんだったんだあの世界は。

 どういうことなんだあの光景は。

 

「嘘だったのか?......間違いだったのか?......」

 

 いったい何が正しいんだ。

 いったい誰が本当なんだ。

 

「誰か......誰か......!」

 

 

 トンッ トンッ

 

 

「っ!?」

 

 誰かが来た。

 何かを言っているが、聞き取れない。

 言葉を出したいが、声が出ない。

 扉のもとへ行きたいが、体が脱力していて、立ち上がれない。

 何も、できない。

 

「.....................」

 

 もしかして、黒のアサシンか。

 さっきはカグヤがいたからそちらを狙ったが、今度はこっちに来たんじゃないか。

 いや、もしかすると黒のサーヴァントの誰かか。

 聖杯戦争は全員のバトルロイヤルがそもそもだと聞いた。赤との戦いに不要と思われた僕を誰かが殺しに......

 

『アペリオ』

 

 っ!?

 解錠された!?

 まずいっ、早く逃げないとっ。

 心臓が全力で警鐘を鳴らす。身体中に動けと血液を送る。

 

「はぁ......はぁ......! くっ......!」

 

 なのに、動かない。

 頭では逃げないといけないことがわかっているのに、体に力が入ってくれない。

 なんでだ、どうしてなんだ。

 動け、動けよ。

 動け、動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!!

 

 

 

 ギュッ

 

 

 

「あっ......!?」

「ごめん、マスター。一人ぼっちにさせちゃったね。

 よしよし。ほーら、もう大丈夫だから。落ち着いて、心配しないで」

「あ......カグ......ヤ......?」

「うん、カグヤ。あなたの味方、あなたのサーヴァント」

 

 落ち着いて、ゆっくり振り返ってみれば、そこにいたのは自分のサーヴァントで。

 いつもはどうにも頼りなくて、こっちが不安になることもあるけど、いざというときは絶対に自分に味方して助けてくれるカグヤで。

 入り口のところには、絶対の味方ではないらしいけれど、誰よりも信頼できるルーラーがいて。

 

「あ......あ......!」

「よーしよしよし。泣け泣けー。困ったときは泣いちゃえばいいのよ。我慢とか遠慮とかはいらないわ♪」

「う......うあ.........!」

 

 たまらず、俺は声を上げて泣いた。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「ほい、あーん♪」

「あ......あーー......ん」

「よしよし。よく噛んでお食べなさい。ひとくち30回噛むのがノルマよ」

「ん......カグヤはどうしてそんなに医療関係に詳しいんだ?」

「従者が世界一の名医なのよ♪」

「キャスター、ありがちな嘘をアカ君に言わないでください」

「えー?」

 

 嘘って言うなよぉ。本当のことなんだぞぉ。

 アカ君の部屋を訪ねたら、案の定アカ君がグロッキーでベッドに倒れてました。あの刺激的な世界(ジャックちゃんワールド)に行ってから出るまでずっと視界共有しちゃってたからね。生まれたばかりのこの子には衝撃的だっただろうね。

 それでも何かあったときのためにずっと耐えて視界共有し続けてくれたアカ君を、私は誇りに思うよ。

 私? あんな穢れとか余裕よ、余裕。伊達に覚悟して地上マイライフ選んでないわ。

 

「カグヤ、すまない。いろいろと洗ってくれた上に、食事まで取ってきてもらっちゃって。

 ルーラーもすまない。部屋を借りてしまって」

 

 アカ君の部屋に来たときはなかなかヒドいことになってた。アカ君が我慢できずに戻しちゃったものが散ってたからね。全部ひっぺがして現在ホムンクルスさんたちに洗濯してもらってる。

 部屋も臭いから、今は換気中。ルーラーさんの部屋に集まって三人で食事してるの。およよ、このパスタうまか。

 

「ばーか。そこはありがとうって言うところだわ、アカ君。それにこんなのお安いご用よ。永琳が実験に失敗して一週間寝込んだときに比べればね」

 

 あのときはヒドかったなー。意気揚々と紫色と茶色の薬を混ぜ合わせたらドッカーンといっちゃったらしくてね。爆発音がしたからまーたもこたんがご乱心したかと様子を見に行ったんだけど、見たら黒焦げの永琳が

 

 ( ゚□゚)

 

 こんな顔して立ったまま放心してるんだもの。ほんでしょうがないから永琳を診療用ベッドに寝かせて実験室を掃除。二時間くらいかけて割れたガラスとか散らかった書類とか掃除し終わって

 

「永琳~、起きて~」

 

 って声かけに行ったらまだ

 

 ( ゚□゚)

 

 だったもんでね。

 それで起こして立ち直ったと思ったら今度は大泣きして部屋にこもるし。鈴仙もあわあわして挙げ句泣き始めてたし。私とてゐでそれ見て大爆笑しながら家事やってね。面白かったなー♪

 

「困ったときはお互い様ですよ、アカ君。貴方はもっと人を頼っていいのですよ。人とは協力して生きていくものなのですから」

 

 ルーラーさんがそう言ってアカ君に微笑みかける。人を安心させる笑顔、自然と心に染み込むお言葉、存在そのものがカリスマ、まるで聖女みたいだあ......

 

「......本当に、本当に俺は、人間を頼っても、人間を信じてもいいのだろうか......?」

 

 あー、アカ君の食の手が止まっちゃった。バクバク食べ続けるルーラーさんとは対称的だなあ。

 さてと、人を信じるか、信じないか、ねえ。

 

「黙らっしゃい」

 

 いいからこのパスタを食えと、アカ君の口にフォーク巻きのパスタをねじ込む。おお、ちゃんと30回噛んで食いおった。すばらすばら。

 

「キャスター、貴女何を......!?」

「いい、アカ君。この地上の人間は皆(すべから)く穢れに満ちているわ。そんな人間たちと関わりを持って、傷つかないでいられるなんてこと、どこの幻想にも存在しない。だから人間を頼っていいか、信じていいかなんてことは、聞くのも無意味で答えるのも無価値よ。

 嫌なら、人と関わらないか、穢れを無くすかしてつまらない生活を送ることね」

 

 まあ、私はそっちのほうが嫌だから逃げたのだけれどね。と付け加えて今度はオニオンスープを飲む。いやー薄めの味付けがこれまたニクいね。何杯でもいけるわ。

 

「じゃあ、俺はどうすれば......」

「んー......自分で決めてって言うところだけど......」

「キャスター、流石に酷です」

「だよねー」

 

 意外とここらへん、ルーラーさんと意見が合う。これをキッカケに仲良くなりたいなあ。

 お、いいこと思い付いた......そこ、ルーラーさん。嫌な予感がするみたいな眼で私を見ないで。私の協力が貴女にはそんなに恐怖なのか。

 今回のは極めてまともで危なげないことだから。

 まだまだ不安げなアカ君を見て、私は笑顔でこう言った。

 

「じゃあ、試しに明日、町を散歩でもしてみよっか?」

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「......と、いうことがありまして、黒のアサシン及びそのマスターも、今後は同じ黒の陣営として戦っていただけることになりました」

「以降、よろしくお願いいたします。ジャックのマスターの六導玲霞と申します。娘のジャック共々、お世話になります」

「よろしくおねがいします!」

 

 食堂にて、フィオレの前紹介を挟んでからの、黒のアサシンとマスターの挨拶。

 

「........................」

「はむっ......もぐもぐ......うんっ。はむっ......」

「........................」

「......はあ..........」

 

 案の定、反応は皆無である。

 ロシェは一目見るだけですぐに目の前の食事に戻り、ゴルドは意に介さずに目の前の食事を食べ、セイバーはマスターからリアクションがない限り動かず、それを見てカウレスはため息をつく。なお、セレニケは"黒のアサシン"と聞いた瞬間から血相を変えて工房に引きこもった。

 

「ええっと......それじゃあ黒のアサシンとマスターさんも、ユグドミレニアが誇るディナーの味をお楽しみいただければと存じます。それから、短い付き合いかもしれませんが、これからよろしくお願いいたします」

「はい。よろしくお願いいたします」

「おかあさん! おいしそう!」

「そうねジャック。でもまずはおててを拭いて、いただきます」

「うん! いただきます!」

 

 その様子を見て、フィオレは自分の席、カウレスの隣の席へと戻り、

 

「はぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ~~~......」

 

 それはそれは深いため息をついた。

 

「姉ちゃん、キャスターはどこに行ったんだ?」

「知らないわよ~。たぶんアカ君のところじゃないかしら? も~、こういう取り持ち的なこともキャスターがやりそうだったから、黒のアサシンの仲間入りを渋々了承したのに......」

「あるいはダーニックがいれば、か。何はともあれ、お疲れ姉ちゃん」

「本当よ~......これからどうやって黒のアサシンたちを打ち解けさせていけばいいのよ......」

 

 黒のアサシン及びマスターと、ユグドミレニア陣営メンバーの関係性は、

 

 

 対フィオレ......わりと何度も怖い思いをさせられており、苦手意識が強い。

 対カウレス......奇跡的にノーダメージなため、中立。

 対ゴルド......ホムンクルスを何体も傷つけられ、ご立腹。

 対ロシェ......ゴーレムを何体も傷つけられ、ご立腹。

 対セレニケ......命の危険に晒されて、アストルフォも殺されてで最悪の一言。唯一愛しのカグヤがアサシンと仲が良いのが救い。

 対セイバー......ゴルドが何もしない限り、中立。

 対アーチャー......アサシンに対し警戒心MAX。さらにキャスターにも警戒心MAX。友好関係とかいう次元ではない。

 対ルーラー......アサシン、というよりはアサシンと何か良からぬことをしそうという意味でキャスターの方が気がかり。

 対キャスター......完全に姉妹。最高の一言。

 

 

 と、超イレギュラーな一握りを覗いて基本的に悪い。いくら赤の陣営という共通敵がいるとしても良好な関係を築くには途方もない労苦が予想される。

 

「なあ姉ちゃん。打ち解けさせたいって言うが......」

 

 頭を抱えてばかりのフィオレに、カウレスが助言を言う。

 

「別に、あれと仲良くしなくても構わないんじゃないか?」

「えっ......?」

 

 そう言うカウレスは、なぜか自信に満ち溢れていて、どこかの英雄を思わせた。

 

「所詮、これは聖杯戦争だ。同じ陣営とはいえ、敵と言えば敵だろう。手を取り合って仲良くしようとしていたライダーを否定するわけじゃないが、別に無理して仲良くする必要がないのは確かだろう。

 要は、決戦のときに不和や連絡不足で足並みが揃わないようなことにならなければいいんだ。違うか?」

 

 フィオレは思わず、食事の手を止めてカウレスの話を聞き入ってしまった。話の内容もそうだが、それよりも一番は、自分の知ってる弟はこんなに立派だったっけ? という驚愕であった。

 

「カウレスの言う通りです、マスター」

「アーチャー、貴方まで......」

「戦場では、味方とする者を選べないことも多くあります。それはもう、敵を選べないこと以上に。

 そういうときは、無理に手を取り合わないほうが良いときもあります。多少互いに思うことがありながらも、同じ敵を前にしているのだからと肩を並べる。そういう信頼もあります」

「そうなのですか......」

 

 フィオレは黒のアサシンとマスターのほうを見る。パスタを食べて、マスターがアサシンの汚れた口元を拭き、アサシンがとても嬉しそうにしている。

 うん、彼女らはもう二人で世界を完成させていた。新たに外部から誰かが入れる余地はもうない。ロシェやゴルドだって、アサシンたちには微塵も興味が無いだろう。ホムンクルスバカとゴーレムバカは伊達じゃない。

 

「面倒ごとがあれば全部キャスターにぶん投げちまえばいいんだよ、姉ちゃん」

「それもそうね。悩んで損したわ」

 

 その言葉に今日一番の気楽さを覚えたフィオレは、ようやく目の前の食事を食べ始めた。

 思えば大変な1日だった。キャスターは無茶苦茶な行動をするわ、赤のライダーは突撃してくるわ、黒のアサシンと勝負したと思えば仲間になるわ......その疲れを自覚した途端、フィオレに強烈な食欲が襲いかかった。

 

 

 

 

 

―――もう、どうなってもいいや。

 

 

 

 

 

「姉ちゃん! 正気になれ! 今が立ち止まるチャンスだ!」

「マスター、その、お気を悪くしないでいただきたいのですが、カロリーは......」

「うるさいうるさいうるさい! もうダイエットなんてしてられないわ! ルーラーを見てよ! なにあの食事量に対してあのプロポーション! こっちは足のせいで運動できないから必死に食事制限してるってのに! もう知らない!」

 

 その日のフィオレの食事は、ルーラーを優に越えるウルトラダイナマイト級の量であり、カウレスとアーチャーにドン引きされながら食い続ける姿は、ユグドミレニアの歴史に新たな一ページを生んだ。

 翌朝、フィオレはそのことを思い出し、顔や二の腕に溜まったものを実感して、号泣した。

 

 

 

 

 

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