「用意していたジャンボジェット機は揃っています。今夜にでも出発は可能です」
簡単な朝食の後、フィオレの号令のもと会議室に集まった皆が聞いた第一声は、簡素にわかりやすく、最後の大決戦へと意識を向けさせるものであった。
「以前話していた通り、空中庭園突入にはジャンボジェット機を使用します。
こちらの戦力は、黒のセイバー、赤のセイバー、アーチャー、ルーラー、アサシン、キャスター。そしてそのマスターと、使役するホムンクルスやゴーレムたちとなります。
予定通り、キャスターが唯一の飛行戦力として相手を撹乱し、ルーラーがこちらの防御を担当、アーチャーが赤のライダーを引き付け、黒のセイバーは空中庭園の砲撃を相殺しつつ赤のランサーが来ればそこに集中、赤のセイバー及びマスターの行動はお任せします」
「ねえねえ、わたしたちは?」
「黒のアサシン及びマスターに関しては、保有する能力を伺ってから追々考えさせていただきます」
「だって、おかあさん」
「そうね、ジャック。皆さんとお話しなきゃだね」
「うん!」
椅子に座る六導玲霞と、その膝の上に座って足をパタパタさせている黒のアサシン。新戦力である二人は、どこか楽しそうであり、同時に少し浮いてしまっていた。
そんな彼女らに近づくとびきりデカイ影が一人。それを見てアサシンが横にどき、構える。
「まさかアサシンが仲間入りするとはな。あんたがマスターか、挨拶が遅れた。
赤のセイバーのマスター、獅子劫界離だ。お互い仲間になった以上は、恨みっこ無しでよろしく」
「......フンッ」
獅子劫界離と赤のセイバーも、フィオレの誘いを受けて車で城塞へ急行していた。ちなみに「話し合い?......円卓か!? よっしゃあ今度こそ遅参してたまるかあああああああ」と燃え上がったセイバーが運転したせいで、車はべっこんべっこんで獅子劫はヘロヘロだった。
「六導玲霞と申します......日本の方ですか?」
「......驚きだな。失礼だが日本人には見えなかった」
「お互い様では無くて?」
「それもそうだなあ。俺も日本じゃよく外人と間違われてた。パスポートを見せろと言われても対処できるよう、運転免許証と保険証は肌身離さず持ってたっけな」
「わかります。私も面接のときにいつも国籍か出身地を尋ねられ、日本と言うと怪訝な顔をされたものでした......」
「どうもあんたとは仲良くやれそうだな。これからもよろしく。通訳は任せてくれ」
「まあ。ありがとうございます。長いことジャックに頼りきりでしたから助かるわ」
「安いご用だ。はっはっは」
「ふふふ」
とても仲良くなれそうなお二人である。
「フシャーーー!!」
「ふしゃーーー!!」
「ナーゴゴゴゴゴゴ!!」
「にゃーごごごごごご!!」
「......そこまでにしておけよセイバー。これからは味方なんだ。野良猫の喧嘩みたいな真似はよしてくれ」
「ジャックも、ほら、落ち着いて」
「......フンッ」
「......ふんっ」
「「はぁ~......」」
ひどく仲悪そうなお二人である。
「......話を戻してよろしいでしょうか。
以上、これを我々"黒"の陣営が望める最高戦力とし、次の夜、つまり明日の日没後、空中庭園へと向かいます」
「......フィオレさん、一つ質問していいかな?」
「何でしょう、ロシェ」
ゆっくりとロシェが手を上げる。彼の右手には既に令呪は無いが、ユグドミレニアの一員としてここにいる。
「明日の夜に出発って、結構急な話だと思う。何か理由があるのかな?」
「あっ、それそれー。私も気になってましたー!」
「......カグヤ、ちょっと静かに......」
ロシェの話に乗っかってきたうるさいのがいた気がするがそちらに目を向けないよう、フィオレはロシェを見てこう話す。
「現在、聖杯は赤のアサシンが作った空中庭園の中に格納されて、今もなお空を飛び続けていることはご存知かと思います。その空中庭園がもしルーマニア国外に出ると、我々ユグドミレニアが聖杯の所有権を失ってしまうのです」
「......なるほど。それだと我々が勝ったときでも、願いを叶えられなくなるということですね」
「そう。それに黒のアサシンが赤のライダーへ与えてくれたダメージもあります。アーチャーの見解では到底回復できるものではないということですが、赤のライダーの強さを思えば、治される前に攻めたほうがいいのは当然でしょう」
「なるほどね」
途中からは周りに目を配らせながら、フィオレは自身の出した結論を述べる。
どこか機械的なそれは、しかし―――
「いささか性急だな」
「......獅子劫さん、何故でしょうか」
どこか焦っているように、赤のセイバーのマスターは感じた。
「俺から言わせれば、こっちの陣営の戦闘力が向こうの陣営の戦闘力と拮抗してるとは、お世辞にも言えない。いくら黒のセイバーが強く、俺のセイバーが最強で、ルーラーの防御が堅いものだとしてもだ。
そのへんは、実際に戦ったサーヴァント達が一番わかってると思うが、どうだ、黒のセイバー、あんたの話を聞いてみたい」
突然話を振られ、困惑する黒のセイバー。
ちらと己が主の顔を伺えば、いかにも「好きにしろ」とでも言いそうな顔をしていたので、黒のセイバーは正直に話すことにした。
「赤のランサーは手強い相手だ。恐らく、俺は彼に釘付けにされるだろう。
黒の陣営のサーヴァントが敵と順当に当たるとすれば、俺が赤のランサー、アーチャーが赤のライダー、黒のアサシンとキャスターが赤のアーチャー、ルーラーが赤のアサシン、そして赤のセイバーが本丸に攻め入るということになるだろう。
一見、戦力は十分のように見えるが、それは全て上手く行けばの話であって、誰かがどこかで想定外の一手を打たれたときに、保険が効くものではない」
黒のセイバーは、あえて主観的にものを話した。それが望まれていることだと思ったからだ。
「なるほど。それなら戦う当人達にも話を伺いたいものだ。まずはアーチャー、勝算はどうなんだ?」
「......彼が踵に受けたダメージは甚大のように見えました。恐らく、戦闘力にも少なからず影響があることでしょう。
それでも、私が彼に必ずしも勝てる、とは到底言えません。想定される戦場は空の上で、彼は戦車で空を飛べるからです。まずは戦車をどうにか墜とし、同じ飛行機上という土俵の上に立たせ、それからどうするかということになりますが......あれは正真正銘の大英雄です。勝算は決して高くはない」
黒のアーチャーの表情は、明るいものではなかった。
そもそも、赤のライダーを相手に自身の勝算が高いと言えるサーヴァントなど、今回の聖杯大戦では誰もいないだろう。黒のアーチャーが赤のライダーと戦うのは、唯一
「黒のアサシンはどうだ? 俺は赤のセイバーとあんたが戦ったのを見てたから、聞いた話と合わせて、ある程度あんたの戦闘スタイルはわかるつもりだが」
「わたしたち? うーんと、赤のアーチャーさんは女の人ってカグヤお姉ちゃんに聞いたから、解体するだけだよ?」
「なるほど。じゃあ黒のアサシンは、雨のように降り注ぐ矢を全部かわして、赤のアーチャーに宝具を喰らわせられるのか?」
「えー!? 雨みたいな矢ってなると、きびしいかも。きびしいよね。そうだよね。
それにそれに、矢なんて避けたことないからなあ。上手くできるかなあ、ねえ、おかあさん?」
「あらあら、ジャック、不安になっちゃった?」
「うん。今夜はいっしょに寝てほしい......」
「大丈夫よ、ジャック。お母さんはいつでも一緒よ」
「うん!」
黒のアサシンも、不安の色を隠せない様子だ。
「ルーラーさんよ。防御に関して、あんたの宝具は遠距離攻撃に対してどれだけの堅さと範囲がある?」
「堅さであれば、アサシンの砲撃もアーチャーの狙撃も問題ありません。
しかし、範囲となると難しいですね。この宝具は防ぐというよりは受け流すほうが使い方として適しているので、弾幕のような広範囲の砲撃や、雨のような矢、それら全てを完全に受け止めることはできません」
ルーラーは、聞かれたことに淡々と事実を述べる。
そして段々と、フィオレの顔つきが険しくなってきた。
「で、そこの赤のキャスターさんはどうなんだ?」
「ん、お久しぶり~獅子劫さん。また一緒の陣営だね♪ よろしく!」
「ああ、よろしく頼む。んで、あんたは空中庭園へ攻め入るときの空中戦を一手に担っていると聞いてるんだが、自信はどれくらいあるんだ?」
そして最後に、キャスターだ。
ある意味、空中庭園への突入さえできれば、勝ちの目は決して低いものじゃないと獅子劫は踏んでいた。
故に、突入に際して一番重要な役割を担っているキャスターの思いは、とても大事なものだと獅子劫は考えていた。
「ん~......できれば四日後くらいの新月まで待ってほしいかな~。別に無くても何とかするけど、"竹取飛翔"は月の見えないときじゃないとできないから......」
あははは~......と笑いながら頭をかくキャスター。
それを見て、アカとアサシン以外の面々が一同に右へと首を傾げる。
「ん? みんなどうしたの? 右脳が重くなった? 医者呼ぶ? いい人知ってるよ?」
「結構です......キャスター、聞きたいのですが」
「はいどうぞ」
フィオレが、皆を代表して一言質問する。
「"竹取飛翔"って、何ですか?」
「..........................ねえ、アカ君」
「なんだカグヤ」
「私、竹取飛翔のこと、言ってなかったっけ?」
「俺は言ってないから、カグヤが話してなければ、言ってないと思う」
それを聞いて、キャスターの顔がみるみるうちに青ざめていく。口から「そういえば赤のライダーさん来たりして忙しかったな~」とかいう言葉が漏れ出ている。
やがて気まずそうに口を開くと、
「.................................あーーーーーー。
皆さん、すんません。お伝え忘れてたことがいくつかあります。
まず......
『.....................は??????』
盛大に、爆弾を投下した。
× × × ×
「結局、議論は先送りになってしまいましたね」
「ん~、まあフィオレちゃんどこか切羽詰まってたし、一度冷静に考え直してもいいタイミングだったと思うし、いいんじゃない?」
「カグヤはどう思う? 決戦は今夜になると思うか?」
「ん~、フィオレちゃんに着いていったカウレスくんが何を話すかによるかな」
「ほぼほぼ貴女のせいで考え直しになったというのに、どこか他人事ですねキャスター......」
「でも、ルーラーさんも日付をもう少し伸ばすことには賛成でしょ?」
「............まあ、貴女と一緒と思われるのは不服ですが、即攻めに行くのには反対でしたよ、ええ」
お散歩だああああああああ!
お休憩だああああああああああ!!
お茶会だああああああああああああ!!!
というわけで、約束通り朝からアカ君とのお出かけ中♪ ついでにルーラーさんもいるよ! 日射しがまぶしくて気持ちいい~。
すごいんだよ~ルーラーさん。私がルーラーさんは忙しいと思って無理に着いてこなくてもいいよって声かけしたのに、それでも時間を割いて来てくれたんだから。いくらアカ君のことが不安だからって、私が着いているのにな~。
ほんで、一通り見て回って、今は昼御飯前のティーブレイクタイム♪ ん、このお紅茶美味しいわね♪
......あ、ちなみに竹取飛翔知らせてなかった事件については、習得に至った経緯とできる範囲のことをあの場で事細やかに説明して(永遠と須臾は上手く誤魔化しつつ)、いつも通り変なものを見る眼差しをくらって集束したよ! いやー面白かったなー。だって目を見ただけで言わんとしたいことが大体わかったんだもの。
フィオレさん「こんなの、私の知ってるかぐや姫じゃないわ......」
パンツさん「失礼ですがマスター、今さらかと......」
ゴルドおじ「......なあセイバー、わしは知らんのだが、かぐや姫とやらは空を飛べるのか?」
背中の開いたハンサムさん「........................」
獅子のヤーさん「ほぅ、なかなかやるじゃねぇか」
猫のモーさん「腹へった......」
ママさん「ジャックちゃん、大丈夫?」
ジャックちゃん「おなかすいた......」
カウレスくん「姉ちゃんがまた胃を痛めてる......」
ロシェくん「ゴーレムいじりたい」
セレニケ嬢「カグヤ様いじりたい」
ルーラーさん「アカくん、貴方のせいじゃないですからね」
アカくん「......すまない、変なサーヴァントですまない......」
あれ? ヤーさん以外肯定的じゃないし、なんなら半数くらい私の話聞いてなくなかった?
「ルーラー、どうしてすぐに攻めにいくのはいけないと思ったんだ?」
「あくまで私の考えですがね......度重なる城塞への襲撃での疲労、緻密な作戦も無い状態での強行突撃、天草四郎を止めつつ聖杯の所有権をも守ろうという行きすぎた欲、魔力供給の不足............一応生前はフランスの前線で旗を掲げていた者として、これらの問題点を抱えたまま城攻めなどという無茶はしたくありません」
「お~。軍の人はさすが、経験がものを言うなあ」
「ルーラー、やはり俺たちは負けそうなのか......?」
「いいえ、そうではありません。きちんと時間をかけ、戦力を分配し、緻密に練られた戦略を元に突撃するのであれば、天草四郎の企みは阻止できると私は読んでいます。
ですが、聖杯の所有権については別問題です。焦燥し、細部を考えもせず突っ込んで、勝てる相手ではないですよ」
そんな私を置いて真面目な話が横でされてる。なるほど、さすが戦場のプロだ。違うなあ。
永琳ならどうするんだろ。やっぱりそれらしく理を以て論を成すか......案外、背中から矢の先を突き付けて強引に止めさせるとかやりそうね。永琳ってばわりとダイタンだから♪
もこたんならとりあえず自爆特攻してから考えそう。
「まあ、一番は貴女の扱いについて考え直さないといけなくなった所が大きいのは間違いないと思いますが」
「ん?」
「......許してあげてほしい。カグヤは自由なのが良いところなんだ」
「ん? ん?」
あれ、なんか私、二人にひどい目で見られてないか?
具体的には、仕事中の鈴仙が絶賛サボり中のてゐを見る目とソックリなんだが? ん?
「それはそうとアカくん。だいぶ落ち着きましたか?」
「ん......そうだな。良い経験だった」
あっ、今からはコメディじゃなくてシリアスなのね。りょーかいりょーかい。お姉さん黙って紅茶飲んでます。うまうま。
「町にはたくさんの笑顔があった。でも、苦しそうな人もいた。おいしい食べ物があったり、ちょっと食べられないものもあった。今は綺麗な花屋さんも、昔はそうでもなくてお客が来なかった話も聞いた。
ルーラー、人とはこういう生き物なのか?」
「アカ君、とても良く人を見れましたね。
多様性、と。人の世界では、一人ひとりが違う人間であることをそう呼び、一般的には肯定的に見られています。
アカ君の言うとおり、良い人もいれば、悪い人もいます。アカ君が信じて頼れる人もいれば、アカ君が怖くて近づけない人もいます。
ですから、一概に人とはこうだ、とは言えないのです。アカ君は不安になってしまうかもしれませんが、人は互いに優しく協力して生きているものだ、とも言いきれない。互いに傷つけ合ってしまい、友になれない者もいます」
ルーラーさんは少し悲しそうに話す。
本気で、そういう悲しいことを憂いているのがわかる。
わかるよ。私ももこたんともう少し仲良くしたいもん。まあでもついコロコロしちゃうんだけどねー。紅茶うまうま。
「私は、大事なのは人全体を決めつけるのではなく、目の前の一人ひとりをちゃんと見てあげることだと考えています」
「......そうか。そうだな。ありがとうルーラー」
紅茶うまうま。うまうま。
「......キャスター、他人事だと関心がないのがまるわかりですよ」
「え、いやいや関心あるって。
うーんと、頑張れ、アカ君!」
「お、おう」
「.................................」
いやー、なんだろうな。
お二人だけだと、なんかこうシリアス一直線だからね。お姉さん入りどころなくってね。困ってたってのが本心なんだよね。
しょーがないじゃん! 竹取物語、貴族ざまあ(笑)なコメディ本だもん! そういうお姉さんなんだもん!
「貴女は少し自由とおふざけが多すぎます。真面目に、まずは日頃の行いから改めてください」
「ぴえん......閻魔さまみたいなこと言わないで~」
おうちに帰りたいよぉ......
「......ところでカグヤ。さっきは何を買ったんだ?」
「ん、ああこれ? だってこれからお昼でしょ? だから料理の具材をね?」
「料理?」
「うん! あの子と約束してたからね! 負けたら作るって!」
「あの子?」
「あの子......まさか」
× × × ×
「さあ始まります! 第一回!」
「わたしたちと!」
「お、おかあさんと?」
「カグヤちゃんの!」
「「ドキドキ♪ お料理対決~」」「ど、どんどんぱふぱふ~~......?」
「.............................正気か?」
場所はミレニア城塞のキッチン!
何故かエプロンを装備した黒のアサシンと六導玲霞とキャスター!
手元には備え付けの料理道具一式と、キャスターが買ってきた具材の数々!
テーブルにはアカが一人座らされ、席には『審判員席』と書かれた紙が貼られている!
つまるところこれは、乙女の乙女による乙女のための、料理対決の始まりだったのだ!
「正気か!?」
つづく!?