【完結】赤のキャスターは蓬莱山輝夜   作:木工用

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トラブルメーカーと黒の休息(後編)

 

  ~~寝静まる夜~~

 

 

「へっへっへ。呑気に寝ちまいやがってなあ。これから自分がどんな目にあうかも知らないで。かわいそうなヤツだ」

 

 密閉された声も届かない空間で、寝かされた男に忍び寄る者が一人。

 その手に握られた得物が、今まさに男の顔を染め上げようと迫り来る。

 

「さ~て、絶望させてやろう。まずは目元からだ。そ~れ......」

「やめておけセイバー。そいつは曲がりなりにも大切なお届けものだ。これ以上傷のつかないよう丁重に送り届けろとのユグドミレニアからのご命令だろう」

「でもよぉ、ちょっとくらいいいだろ? な? な?」

「......寝てる人の顔に嬉々としてマッキーで落書きしたせいで聖杯戦争から脱落なんて、俺は御免だぞ。そんなことして楽しいか?」

「楽しいに決まってるだろ!」

「......はぁ、参ったな」

 

 ため息をつく獅子劫が車内のライトを付ける。照らされた後部座席には、心底楽しそうにマッキーを握りしめる赤のセイバーがいた。

 そして助手席には、ルーラーをヒッチハイクし、六道玲霞に拳銃を突きつけられてユグドミレニアまで運転させられ、挙げ句気絶したあの男がシートベルトに縛り付けられていた。

 

「冗談だよジョーダン! でもなあ、こいつの寝顔みてるとさ、なんかこう無性にイタズラしたくなってよぉ」

「残念だな、もう時間切れだ」ピーッピーッピーッ

「バック駐車? ってことはもう着いちまったのか!?」

「ああ、ユグドミレニアお抱えのホテルだ。遠方から来た魔術師を泊めるために、当然従業員にも魔術師がいる。魔術と関わったこの男を安全に泊まらせて帰すには、まあ最適な環境だな」

「んだよちくしょー! せめて最後に......!」

「ほらセイバー。運ぶの手伝ってくれ」

「ちぇっ......裏口はどっちだ?」

「そっちだ」

 

 その男を、今度は二人でホテル内まで運ぶ。左足を右足の上に交差させた先をセイバーが持ち、獅子劫は後ろから両脇を持ち上げる形だ。どことなく犯罪を連想させる。

 向かった裏口にはすでに連絡済みのホテルマンが待機していた。

 簡単な暗号を言うと、裏口を開け、部屋の番号がタグに書かれた鍵を渡してきた。

 

「ういっす......へへっ、まるで誘拐犯にでもなった気分だぜ」

「まるでじゃなくて、実際にそうなんだがなあ」

「なあなあ、この前テレビでやってたギンコウゴウトウってやつ! あれオレも一度やってみたい!」

「やめておけ。そういうのは本当に資金が必要になったときだけだ。これ以上魔術協会に目をつけられるのは御免被る。それに......」

「それに?」

「......お前さんと俺で銀行強盗なんてしてみろ。上手くいきすぎてつまらんぞ?」

「......ック、ッハッハッハッハッハ!!」

「馬鹿。大声を出してくれるなよ」

「フフフッ、すまんすまん。面白くってなあ」

「はぁ......」

 

 とかなんとか言いつつも、二人は男の体を部屋のベッドに寝かせ、訪れた証拠やらを魔術で消し、その他必要な処理を魔術で施し、後を先ほどのホテルマン(魔術師)に任せ、その場を後にする。

 

「魔術ってのは便利だなあ。母上も使ってたから嫌ってたけど、オレの好きな魔術もありそうだな!」

「どうだか。お前さんは最終的にぶった切るほうが早いとか言い出しそうだ」

「そうでもねぇ......とは言いきれねぇな......」

「ほら。後ろ乗れ。お待ちかねだ」

「おっ!! きたきたきた!!」

 

 獅子劫が車から取り出したのは、黒塗りのハーレーダビッドソン1745cc。ユグドミレニアのもつバイクの中から獅子劫が選んだ"いかにも"な逸品だ。

 

「ほれ。サーヴァントとはいえ、一応被れ。警官に呼び止められたら面倒だ」

「へいよ......よいしょ、これでいいか?」

「ああ。顎ひももしっかりな」

「ブッ、声が籠って変だぜ」

「そう言うお前さんもな......出すぞ、掴まれ」

「うぃーっす」

 

 獅子劫がハンドルを握り後ろにセイバーが座って、獅子劫の両肩を掴む。ハーレーが独特の音を響かせて発進するが、騎乗スキルのおかげで振り落とされる心配は全く無く、獅子劫の運転にも淀みはない。

 ちなみに最初はオレが運転すると聞かなかったセイバーなのだが、絶対にハーレーと獅子劫がお釈迦になると言って聞かせ、城塞に帰ったら一人でいくらでも乗るといいと提案してようやく折れた。

 

「早く帰ろうぜ! アクセル全開!」

「早くバイクに乗りたいからってそう急かすな......まあ、少しくらいいいか。飛ばすぞ」

「イヤッホーーー!!! サイコーーーー!!」

 

 草木も眠る丑三つ時。エンジンの音とセイバーの絶叫が響き渡った。

 余談だが、次の日の朝方、ユグドミレニアの保有するバイク全てが傷だらけの状態で見つかったという。獅子劫は頭を抱えながら全額を弁償し、墓地に帰ったという。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「......で、僕とフィオレさんを呼んだのはどうしてですか、カグヤ姫さん?」

「私も聞いてないのですが、用件は何ですか」

「ロシェくん、フィオレさん。お二人とも集まっていただきまして、誠にありがとうございます」

 

 アカくんとルーラーさんとお出かけして、帰ってきた!

 台所をホムンクルスの皆に整理してもらっている間が暇になったので、かねてより考えてたことをお願いしちゃう。

 ズバリ―――

 

 

「グローブが欲しい!!」

 

 

「「............え?」」

 

 グローブが欲しい!

 

「この体ね、筋力はめっちゃ高いんだけど、耐久が無くてさ......パンチすると手が痛いんだよね......」

「............で?」

「んで、聞くところによると私は来たる決戦の日に、敵のアサシンさんの魔力砲台なる岩盤をぶっ壊さないといけないわけじゃん?私、キャスターだけど、魔術でそんなことはできないんだよね」

 

 決戦の日に私が担当するのは、竹取飛翔を生かした突撃係なのだ。敵のアーチャーの射程にちょうど入ったあたりで飛び出し、先制攻撃を入れてから相手の場を乱しに乱して、パンツさんvsアキレスさんの下半身対決とかの場を整えつつ、敵アサシンの砲台である岩盤をぶち壊すのが役目なんだけど......

 魔術という魔術は弾幕くらいしか得意なの無いし、低威力広範囲で見映え重視な私の弾幕はそういうのには不向きなんだよねぇ。永琳なら矢でぶち抜いたり、もこたんなら自爆したりで何とかできそうだけど、私にはできぬぇ......

 

「たがら必然的に拳で岩盤をぶち抜くことになるだろうから、グローブが欲しいのだけれど......」

「......ねえフィオレ、魔術と魔術の決闘とも呼ばれる聖杯戦争で、積極的に拳を振っていくキャスターがいるって聞いたんだけど、空耳だよね?」

「あらロシェ、奇遇ですね。私も姫と名前に付いていながらに物理で殴ることしか頭に無い脳筋キャスターがいると聞いたの。ジョークにしても面白みがない話だけれども......」

「ね、信じられないよね」

「ええ、信じられません」

「........................」

 

 拝啓、マイマスターアカくんへ

 おかしいと思うとです。私はただ、皆の役に立つために、精一杯自分の力を発揮するために頼み事をしたとです。そんなのにぃ、信じられないようなものを見る目でじぃーっと見られたら、私も傷つくとです。

 今度、一緒に付き合ってください。お酒が呑みたいとです。

 赤のキャスターより

 

 うーん、近接物理型キャスターは流行らないかなあ。絶対歴史上に一人くらいはいると思うんだけどなあ。

 教えてG◯◯gle先生。

 

「......ロシェ、あなたは時間などご都合よろしいですか?」

「ん、僕は平気。時間ならたくさんあるよ......先生とのことも、心の整理ついたし」

「......そうですか。では一緒にやりましょう。素材に心当たりがあります」

「ん?」

 

 ん?

 

「作ってくれるの!?」

「ええ、まあ」

 

 え、本当に!?

 ここは断られる流れかなと思ったのに!?

 頭の中では両腕がバキバキになりながらも必死に戦う涙目の自分まで想像してたのに!?

 

「ありがとー♪ フィオレちゃん大好きー♪」

「......貴女に好かれても、出典を考えると複雑な気持ちになります。そういう思いは殿方に向けてあげればいいのでは?」

「やだ♪」

「......はぁ~」

 

 私に好かれたいのならアカ君ぐらいの純真さを携えてから来い! そしたら相手になってやる!

 もこたんがね!

 

 何はともあれ、これで決戦当日も何とかなりそう!

 カグヤ、頑張っちゃうぞ!

 

 

 

 あ、やば! もうひとつの決戦がもうすぐ始まっちゃう時間!?

 うおー、キッチンに急げー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...........................

 

 

「それでフィオレ、素材に心当たりがあるって言うから引き受けたけど......筋力Bのサーヴァントが身に付けられるほどのグローブの素材って何? 全くわからないんだけど......」

「あらロシェ。むしろ貴方が一番わかりそうなものですけどね。

 グローブ、それも私の魔術と合わせて、拳の形・動きで自動制御できて、かつ硬度は最高峰、魔術との親和性も恐らく申し分ない、まるで()()()()()()()()()()()とも思えるような、そんな素材に、心当たりは?」

「キャスターのための素材って......まさか......えー......僕にそんなことさせるんですか?」

「あら、むしろ私は、貴方にしかできないと思います。貴方にとっても光栄なことなのでは?」

「......まあ確かに、あれの後処理に困ってないと言えば嘘になるけど......わかったよ、やればいいんでしょ」

「助かります。任せましたけど、取り扱いには注意してくださいね―――

 

 

―――()()()()()()()()()()は」

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 そして時は前編ラストに戻り、

 

 

 

 

「なあカグ―――」

「審査員の方は料理が来るまでお静かに」

「......はい」

 

 突如始まった料理対決。

 アカは席に座らされ、何をするでもなくただじーっと三人の料理風景を、横の彼女と共に見させられていた。

 

「......というか、誰だ?」

「トゥール。お前と同じだ」

「......ホムンクルス」

 

 そう。何故かホムンクルスの彼女、トゥールもこの場に来ていた。それもどこからともなく、気づいたらそこに立っていた。

 

「ルーラーから、手が離せないから代わりに見てきてとのことで、監視をしている」

「ルーラーが?」

「ああ。くそおや―――ゴルドと話をしていた」

「............そうか」

 

 二人の会話はそれっきりだった。

 アカはトゥールから目線を外して厨房を見る。そこには三者三様の姿があった。

 

 

 えへへっ、と無邪気に笑うジャック。しかしその口にはマスクがついており、衛生は健全に保たれた。そのマスクには【暗殺】とミンチョ書きがなされている。

 ンフー、と自慢げに無い胸を張るカグヤ。しかしその口にはマスクがついており、衛生は健全に保たれた。そのマスクには【月姫】とミンチョ書きがなされている。

 その二人の横で穏やかに、しかして慣れた手腕で料理を進める玲霞ママ。口にはマスクがついており、衛生は健全に保たれている。マスクに【ママ】とミンチョ書きがなされていることに本人は気づいていない。

 そして、流石にユグドミレニアが誇る厨房。その広さと設備は三人が同時にハンバーグを作って余りあるものがあるのだ。

 

 

 本当に、どうしてこうなった?

 

 

「いやー、ジャックちゃんと負けたらハンバーグあげるって約束しちゃったから、作らないといけなくてねー」

「ねー」

「折角だし、玲霞お母さんもやろうねー」

「ねー」

「............え?」

 

 

 いや、理由は意外と単純だった。

 

 

「アカくん! お腹空いたまま待ってもらっちゃってごめんね! もうすぐ終わるから!」

「あ、ああ。気を付けてな」

「アカさん! おいしい、おいしいよ! おいしいから! おいしいからね!」

「あ、ああ。わかった」

「ふふっ。大丈夫よ。二人のがダメでも、私のがあるから、安心してね」

「あ、ああ。頼む」

 

 こんな調子で、待つこと十分......

 

「「「完成~!」」」

 

 アカのテーブルに、三皿三つ、できたてほっかほかのハンバーグが置かれた。

 

「「「めしあがれ~」」」

「い、いただきます......」

 

 これ見よがしに手元に置かれていたナイフとフォークを手に取り、以前キャスターに教えてもらった使い方通りにハンバーグを切り分け、口に運ぶ。

 奇しくも最初に食べたのは、キャスターのハンバーグだった。

 

「どうどう? おいしい? おいしい?」

 

 ニッコニコで聞いてくるキャスターはさておき、確かにキャスターのハンバーグは美味しかった。

 ところどころがデコボコして雑に見えるハンバーグはその実、焼き加減、味の濃さ共にアカの好みであり、舌から喉まで一切抵抗無く飲み込めるものだった。

 

「......俺の好み、知ってたのか?」

「ん? いやまあ、何となくこのくらいが良いかなーって思ってたけど、合ってた? 嬉しい! やったね!」

 

 右腕を上から下にぶんぶん振って喜びを表すキャスター。

 さて次は、とアカは隣のハンバーグを見る。

 明らかに他の二つより小さくてかわいいハンバーグがそこにあった。

 

「........................(じーっ)」

「........................(じーっ)」

 

 推定製作主と思われる者とその保護者の視線が刺さっているのを感じつつ、アカは極力そっちを見ないようにして、ハンバーグを一口。

 

 ぱくり。

 

 

「...............ぐずっ......」

 

 

「えっ?」

「アカさん?」

「......大丈夫か?」

 

 ジャック、玲霞、トゥールが見守り、キャスターが気にせず腕をぶんぶん振ってる中、アカは一人泣き出してしまった。

 ハンバーグを食べた瞬間に感じてしまったのだ。ジャックは自分の中にいる数多の子供たちの知識と経験を総動員してこの小さいハンバーグを完成させたのだ。

 日々の食糧のために他人の肉を料理していた者、流れ作業の一員として肉を扱っていた者、あるいは親との別れ間際に最後だけと美味しい肉を食べ、その忘れられない味を込めた者―――様々な者の思いが、この小さなハンバーグにぎゅうぎゅうに詰められていた。ジャックは、一人ではなかった。

 

「ぐずっ......アサシン」

「なに? おいしくなかった?」

「大丈夫だ......おいしいよ、ありがとう、()()()()()()()

「ほんと?」

「ああ、本当だ」

 

 その証拠にと、アカは小さなハンバーグをゆっくりと丁寧に、大切に味わうように咀嚼した。

 一噛み一噛み感謝を込め、食べていった。

 

「......わたしたち、一人じゃ作れなかったから、みんなにたすけてもらって......でもでも、わたしたち手が小さいから、おかあさんやおねえちゃんみたいに大きいのは作れなくて......」

「うん。そうだね」

「あのねあのね? わたしたち、アカさんがおねえちゃんのともだちって知らなくて、ライダーの男の子とか、他のホムンクルスの人とかいっぱい解体しちゃったから、ごめんなさいしたくて......だから、おねえちゃんに聞いたら、じゃあおいしいハンバーグ作ろうかって......」

「......そうだったのか」

 

 食べ終わる頃には、事情を察した。

 つまり、やっぱりこの料理対決染みた話の原因も、だいたいあいつのせい(キャスター)にあったわけだ。

 アカは依然として腕を振っているあいつを無視して、ジャックの頭を撫でる。

 

「ごちそうさま。美味しかったよ、ありがとう」

「......! うん! おそまつさまでした!!」

 

 本当は、アカはライダーを血に染めたアサシンを恨んでいた。キャスターを通じて見たアサシンの世界は恐ろしかった。震えて声も出せず、胃の中の物が込み上げて出してしまった。

 全てが終わったあと、見に来てくれたキャスターの腕の中で、俺は涙を堪えられなかった。それくらい、得体の知れない目の前の少女が、怖くて、恐ろしかった。心が冷たくなって、震えが止まらなかった。

 でも、今この少女に感じるものは、恐怖とは正反対のもので、とても暖かい。

 

「また、ハンバーグ、作ってくれるかな?」

「うん!!」

 

 少なくとも、目の前で満面の笑みを浮かべてくれる少女を、もう怖いとは思わなくなった。

 

「もぐもぐ......お、話終わった?」

「カグヤ......ちょっと待て、何を食べている?」

 

 ジャックちゃんとの一幕の後、気がつけばキャスターがアカの左隣に座ってナイフとフォークを握ってた。

 

「ん?......ゴックン......玲霞さんのハンバーグ♪」

「おいいいぃぃぃ!? 何勝手に食べてるんだ!?」

「ずるーい! お姉ちゃんだけ! わたしたちも食べたい! 食べたい!」

 

 フォークに刺さるはハンバーグ、作り手は玲霞お母さん。

 つまりこのバカ、企画の発案者の癖に企画を無視して玲霞さんのハンバーグを勝手に食いやがったのである。

 しかも、もう目の前のハンバーグはほぼ残ってない。

 

「おかわり!」

「あらあら、そんなに急がなくても大丈夫よ」

「いやいやいや、えぇ......トゥール! 止めないのか!?」

 

 あまりにもあんまりな状況で、アカは唯一頼れそうなトゥールに声をかける。

 が、

 

「心配いらん。ちゃんとお前の分はある」

「ん?」

 

 スッ、と。

 普通に、自分の分のハンバーグが目の前に置かれた。

 

「さあ、召し上がれ?」

「おかあさんのハンバーグだ! わーい! いただきまーーす!!」

「えぇ......?」

 

 横を見れば、ジャックにも同じようにハンバーグが渡されている。

 

「な、何個も作ったのか?」

「どうもそうらしい。モグモグ」

「トゥールも食ってる!?」

 

 トゥールも既に食ってた。

 

「ああ、ちょっと待っててね」

 

 人数分を、ここにいる全員分を、カグヤとジャックが作っている間に作ったのか。

 アカがそう戦慄していると、目の前にお椀に盛られた白いものが置かれた。

 ほかほかとしていて、どことなくお腹が空く香りがする。

 

「宿にいるときは買えなかったけど、日本人として、やっぱりお肉にはこれがないとね」

「こ、これは......」

 

 

「おっ、お米だああああああああああ!?!?」

 

 

 キャスターが発狂するのも無理はない。

 米だ。

 白米だ。

 炊飯器じゃ遅いからと圧力鍋で超速炊飯されたそれは、日本人が1万年以上愛して止まない食卓の宝。農家の翁・嫗によって丹精込めて作られたそれが、炊き立てのいい香りとツヤを遺憾なく放ち、胃袋を刺激する。

 

「おかあさん、これなに?」

「いいから、ハンバーグと一緒に食べてみて」

「う、うん。いただきます」

 

 ジャックも、アカも、カグヤも、トゥールも。

 皆、一斉にハンバーグを口の中に入れ、そのままお米も口に入れ、

 一噛み、二噛み。

 

「「「「!?!?!?!?」」」」

 

 

 完成した。

 湯気に運ばれた香りを鼻にもたらしながら、それらは口の中に放り込まれ、味の染み込んだハンバーグを全く邪魔することなく混ざりあう。

 瞬間、ハンバーグの肉々しさを、優しい甘みが包み込んだ。それは噛めば噛むほど勢いを増して口全体にまで広がり、舌を覆い尽くす。デンプンとアミラーゼが醸し出す食の奇跡に、彼ら彼女らは―――

 

 

 

「「「おいひい(おいしい)!!!」」」

「......美味しい」

「ふふふっ、上手くできてよかったわ」

 

 

 

―――否、蛇足なる言葉など不要。

 美味しい、ただそれだけでよいのだ。

 それこそが、食べ物と料理人に対する何よりの賛辞である。

 

「よかったらこれも召し上がれ、濃い味に慣れたあたりで摘まむといいわよ」

「ん! おやさい!」

 

 さらに、玲霞お母さんはもう一皿をみんなの前に並べる。

 そこにはもやしをメインに据えて色とりどりの野菜が細く切り揃えられた野菜炒めがあった。

 

「いただきまーす!」

「ん~、これもこれで健康的♪」

「それで、お野菜を食べて恋しくなったころにまたハンバーグを口に運ぶと......」

 

 

 

「「「おいひいいいい!!」」」

「......美味しい」

 

 

「......良かった」

 

 ほっと胸を撫で下ろす玲霞お母さん。内心、東方の独り暮らしの経験が西方の食材に通用するか、彼女は不安であった。

 しかし、ジャックも、キャスターも、アカも、なんとトゥールでさえ、蕩けきった顔をしているのだ。これは料理人冥利につきるというものである。

 

「おかあさん! ごはんおかわり!」

「おかあさん! 私も私も!」

「カグヤ、玲霞さんはいつから貴女のお母さんになったんだ......」

「焦らなくても、いっぱい炊いたから大丈夫よ」

「「わーい!!」」

 

 この後、なんやかんやで皆はお腹いっぱいになるまで食べまくり、全てのお皿を空にしてご馳走さまと相成った。

 そこでようやくこれが乙女の料理対決だったことを思い出すも、ジャックが「全部おいしかった!」とニコニコ笑顔で万歳して発言したことで、判定:引き分けが確定した。

 なお、気づいたら全部のお皿をトゥールが洗いきっており、「全て洗い終わりましたが、何か?」と後方腕組みで流し場から登場した際、真に乙女力が高いのはトゥールなのではとキャスターがウザめに囃し立てたせいで、トゥールはそそくさと先に出ていってしまった。

 なお、その顔が若干赤くなっているように見えたのは、怒りのせいなのかなとアカは思い、黙っていることにしたようである。

 かくして、乙女の料理対決は、ここに幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「赤のランサーから書状が届いた」

「なにぃ?」

 

 そんな楽しい料理対決が終わった最中、ルーラーと魔力供給についての話が終わったゴルドのもとに来たセイバーが、一つの手紙を手に現れた。

 手紙には、赤のランサーの炎によるものと思われる焼き付け跡で刻まれた文字が記されていた。

 内容はシンプルに、

 

あの場所で待つ......か」

「あの場所? どこだ、セイバー」

「.....................」

 

 あの場所、とランサーから送られてきた。

 戦士が戦士を待つ場所といえば、それは決戦の地に他ならない。宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島などが最たるものであろうか。セイバーは考える、あのランサーが示す決戦の地とはどこだろうか。

 

「......マスター、バイクを一台貸していただきたい」

「......ユグドミレニアのバイクは全て、赤のセイバーが傷だらけにしたとフィオレから聞いたぞ」

「傷くらいなら問題ない」

「......何処へ行く?」

 

 否、答えはすぐに出た。

 考えるまでもないことだった。

 

「無論、あの場所に」

 

―――セイバーの眼には、未だあのときの夜明けの太陽と、赤のランサーの横顔が焼き付いたままであった。

 

 

 

 

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