~~空中庭園、玉座の間~~
「地上の魔術師やら何やらに一切感知されぬよう、それはそれは丁寧に送り届けてやった。
これで気はすんだか、ランサー」
「天草四郎、お前の口からも聞きたい。オレらサーヴァントを呼んだ彼らは、無事に、聖杯戦争とは関係ない所に送られたのか」
「確かに。神に誓って」
「そうか......ああ、これでオレも肩の荷が降りた」
ランサーは、本当に肩から力が抜けたように、私には見えました。
赤のアサシン、セミラミスが座す空中庭園の玉座。そこで私は、赤のランサーから話を持ちかけられました。
曰く、彼は本気で黒のセイバーと打ち合いたいと。
黒のセイバーと縁あって、一度ならず二度までもぶつかり合って、二度とも外部の要因で戦闘を中止せざるを得ない状況で撤退させられた彼は、今度こそ黒のセイバーと本気でやりあいたいと、溜まるものが溜まっていたのでしょうか。
「オレが全力でやれば、この庭園では長くは持たないだろう。専用の部屋があるとは聞いているが、信用ならない。
オレは、地上で戦いたい。黒のセイバーとな」
ランサーは、私とセミラミスに交渉を持ちかけてきました。
彼は地上で戦いたい。しかしそれには、空中庭園に残すことになる自身を呼んでくれた元マスターが気がかりだ。
だから、どうにか彼らを空中庭園―――今後確実に戦場となるこの場所から、ひいては聖杯戦争そのものから、安全に遠ざけてほしいと。
そしてその要求に対して私は、一つの条件をつけ、これを全面的に呑みました。
「黒のセイバーに書状を一筆認める。アサシン、使い魔を一体もらえるか」
「ふんっ、注文の多い奴よ。既に窓辺に一羽侍らせておるわ」
「感謝する。では」
隣ではアサシンが明らかに苛立っていますが......ごめんよ、そんなに怒らないでほしいな。
「追加で言いますが、使い魔に細工は不要ですよ、アサシン。鳩一羽程度では流石にユグドミレニアも動じないでしょうし、むしろ何も細工が無いほうが不自然で不気味というものです」
「......ふんっ。そんなことより、いいのか? あの戦力、庭園から手放すには惜しいぞ」
あの戦力、とはランサーのことですね。
確かに、来るべき黒の陣営襲来の日に、魔力放出による飛行能力を有する彼がいないのは、ちょっとした不安要素かもしれません。
ですが、考えはあります。
「問題ありません。条件として話しましたが、彼には黒のセイバーを倒していただいた後、ユグドミレニアの城を強襲していただきます。恐らく彼らは聖杯に必死で、本陣がガラ空きになることでしょうから。
彼ら黒の陣営も、大半のサーヴァントがこちらへ向けて離れている中、城の近くで赤のランサーが暴れている状況は、相当なプレッシャーになるはずです」
その場合、彼らは択を迫られるでしょう。
まず不安要素である赤のランサーを、多大な時間をかけて倒してからこちらへ来るか。
赤のランサーの書状にある通り、黒のセイバーが勝つと信じて赤のランサーを任せるか。
赤のランサーを無視し、城を放棄して全員でこちらに来るか。ただしその場合、黒のセイバーをこちらのアーチャーが視認したタイミングで、城を破壊後に私が令呪でランサーを戻しますし、それは彼らにもわかること。
そしてどの択であれ、私たちにとって不利なものではありません。
「聖杯戦争とは元からマスターを狙うべきルール。どうやらダーニックを失ったらしい黒の陣営に、そこを強く警戒する者は少ないでしょう。
そこを攻めるのも常道ではあると、ランサーもそれで良いと納得してくれました」
「魔力供給は問題ないな?
「先に斥候を経験したアーチャーとライダーから問題なかったと聞いています。聖杯の魔力が尽きでもしない限り、問題ないでしょう」
問題があるとすれば、何でしょうね。
「アサシン。貴女からみて、不安要素などはございますか」
「そうだな......やはり大聖杯への接続ではないか? お前が予定していたのは、作家系サーヴァントの協力を得ての磐石なものだったのだろう? そのマスターが、あろうことか
確かにそうですね。
アサシンの指摘はもっともです。本来は例のあの女ではなく、ウィリアム・シェイクスピアという作家系サーヴァントを赤のキャスターとして迎え、物語をお見せする代わりにこちらの計画に協力していただく予定でした。
例のあの女......以前観測したときに、確か黒のランサーやバーサーカーと同タイミングで敗退していたはずなのですが、ライダー曰く彼女は平然と生きていたらしいですね......観測ミス、あるいは彼女自身の幻惑系スキルか宝具か。原典には不死の薬に関わる話もありますし、そのへんですかね。
ライダーは、キャスターは黒のアサシンに記憶を操作されたのではないかと言っていましたね。確かにこちらのアサシンもそういうことが可能な以上、否定はできません。もしかしたら再度仲間に戻ってもらえるかもしれませんね。
ただもしそれが可能だとして、ライダーには悪いですが、大した戦力ではないでしょう。ここに来られたとして、何ができるのでしょうか。精々がライダー相手の時間稼ぎか、あの弾幕のような攻撃での攪乱攻撃か。
もしかしたら城でお留守番でもさせられるのでないでしょうか。
「予定していたサーヴァント、シェイクスピアが不在なのは大変な痛手です。彼無しでは、少々時間のかかる強引な歩みをとらざるを得ませんから」
無いものねだりは考えないこととしましょう。プランBです。
具体的には、この両手で大聖杯に自力で接続し、自力で最奥までたどり着くということになります。
話の後に大聖杯の所へ行っておきましょう。早めに手を打っておくに越したことはないでしょうから。
「......時間のかかる、か。
お前が大聖杯と接続するのは、ちょうど次の新月の日だと言っていたな。そしてその日に、黒の奴らがここに集りに来るだろうとも」
「ええ」
「その間、マスターとしての役割はどうする? 特に令呪だ。
お前が、我に言ったのだろう? 令呪は強い、令呪には気を付けろ、令呪への対抗策は、とな。耳にタコができるかと思っておったわ」
......ふむ。そこは盲点だったと言わざるを得ませんね。
確かに、赤のランサーやライダー、アーチャーが強力な英雄であるとはいえ、相手に令呪を使われれば、不意の一手でやられないとは限らない。
特に、ライダーの踵を切ったらしい黒のアサシンには要注意です。アサシンには令呪で対抗するのが肝要であり、しかしマスターたる私は大聖杯の接続で動けない、か。
ふむ。
「セミラミス。貴女、
「はいぃ!?」
× × × ×
「うおっ!?」
「......庭園が揺れたな。操縦に支障をきたすような事態が起きたのか」
『いや、こちらは問題ない。少々手元がな。こう、なんだ......ええいっ、問題はないのだ! よいな!』
「......ああ、あの二人か」
「あの二人だな。先ほどオレが去ってからも、何かを話していたようだった」
「おいアサシン。好きにすればいいとは思うがな、惚気で城が落ちるなんて笑い話で負けたくはねぇぜ」
バゴォン!
「っとぉ、あぶねえ」
「そこまでにしておけよライダー」
ランサーが呆れ顔で廊下に立ち、こちらを見ている。
空中庭園の中、そういやあ黒のランサーと
黒のランサーの残した十字傷の上に、今は
「可愛い子ちゃんは置いとくとして......なあランサー、この後いいか」
「別にいいが。何用だ、ライダー」
ちょうどいい。相手はこういう奴が一番だと思ってたところだった。
「なあに、恐らく明日の夜あたりが戦闘日なんだろ。消耗のことを考えると、ちょうど今辺りが暴れられる最後の瞬間かと思っていてな。
ちょいと本気で模擬戦でもやっとかねぇかって相談なんだが」
「なるほどな。その足か」
「......ああ、まあな」
ああ、そうだよ。この足だよ。
姐さんにこっぴどく怒られてんだから、これ以上は言葉で責めてくれるなよ、ランサー。
「俺は数日前、黒の陣営に単身攻め入った。それで、恐らく敵のアサシンに踵をやられちまった。
非常に情けねえことだが、この際それは置いておいて、
生前も、踵と心臓をやられてから大暴れしてやった記憶があるが、この体でそれができるかはわからねえからな。
ランサーには付き合わせて悪いが、やってはもらえるだろうか。
「ライダー」
「なんだ......」
「随分と、弱気になっているように見える。トロイア戦争の大英雄とはその程度か」
「なッ!?」
あぁ!?
「オレの知るライダーは、そんな物言いで戦いを持ちかけたりはしない男だった」
「てめっ......何を!」
思わず掴みかかろうとした手を、しかしランサーの灼熱を帯びた槍先が制す。
「弱体化した体がどうか、今の自分は何ができて何ができないのか、それを知ろうとする気持ちは、オレにもよくわかる」
「何言ってやがる......俺はただ......!」
「だが、それは関係がない。疾風怒濤の大英雄よ、足を理由にするな」
「......何が言いたい!?」
怒られてんのか? 責められてんのか? 断られているみたいで強くも出れねえじゃねぇか......
「......すまない。オレは一言少ないのだった。
ライダー、戦士と戦士が戦うのに、理由や動機は不要だと。ただ、戦いたいと言えば、それでよいのだと思うと伝えたかったのだが、どうだ」
「は......?」
最後は、ただ呆気にとられた。
言葉を、察すれば少なかった一言を言い終えたであろうランサーは、ただ槍の先をこちらに向けるのみだ。
へっ。
「上等だッッ!!」
こちらも槍を取り出し、ランサーの槍に強かにぶつける。
さしずめ、手と手を平でタッチするみてぇなやり取りだ。嫌いじゃねえ。むしろ大好きだぜ。
なんだこいつ、前から変な言葉ばかりで取っつきにくいとこがあったが、単に言葉足らずなだけか。そういえばカグヤのやつも『ランサーさんはコミュ障(コミュニケーション障害)なとこあるから......』とか言ってたな。全く、どいつもこいつも変人ばっかだぜ。
「だがこちらも用事がある。三十分後、会おう。アサシンから戦闘用の部屋のことは聞いているか」
「あのひたすらにだだっ広いとこか。了解。待ってるぜ。遅れんなよ」
「心得た」
うし、じゃあやるとするか!
使うのは槍と戦車と......ああ、あれも使ってみるとしようかい。真名解放しなきゃ大丈夫だろ。
へへっ、楽しみだぜ。
× × × ×
~~空中庭園、玉座の間~~
「ハッ!」
目標を捉え、矢を持ち、番え、弓を引き、打つ。
その動作を、私は何度しただろうか。
「いやはや、本物の獣と何度見間違えたかわからんなぁ。そら、次が来るぞ。もっと踊れ、アーチャー」
「そりゃどうもっ......! 頼んでおいてなんだが、その上からの物言いはどうにかならんのか、アサシン」
迫り来る、強力な魔力を帯びた紫色の鎖と魔の弾幕。それらに対して、玉座の間を走り、跳び、駆け回り、そして矢を放ち、迎撃する。
一発一発、そこそこの力をもって放たなければ迎撃できないそれらが、刹那に十と少しほど迫り来る状況が常に続く。
上から、横から、後ろから、跳んでいるときは足を狙って下からも飛来する脅威を、視覚、聴覚、気配、さらには嗅覚さえも総動員して捉え、正確に狙い打つ。
この部屋に、鎖と魔弾の射出音と、矢先とそれらがかち合う音、それとアサシンの無駄話しか響かなくなって、一時間は経っただろうか。
「む......刻限だ」
アサシンが一言、先ほどまで襲いかかってきていた鎖やら魔弾やらが忽然と消える。
タイムオーバー、アサシンが事前に定めていた時間制限を迎えたのだった。
「上出来ではないか? アーチャー。お前の想定する黒のアサシンとあの女の戦闘能力の程はわからんが、お前の動きを見るに負けることなどないように思うぞ?」
「......だといいのだがな」
「ふん、では我はマスターのもとに行く。汗をかいておろう? 風呂にでも入ったらどうだ?」
「.......アサシン、またあとで時間をもらいたい。汝の毒の力を借りたい」
「......我も暇ではないのだがな。まあ好きにするがよい」
「感謝する」
「ふんっ」
やり取りが終わったとみると、アサシンは転移した。マスターのもとに向かったのだろう。
言われた通り、自分も部屋に戻るとする。
......部屋に戻る道を行きながら、以前から考えていた自身の仮想敵を今一度思い浮かべる。
(ランサーは黒のセイバー。恐らく長引くだろう。終わったとしても距離が距離だ。令呪があってもそう早くは戻ってこれまい。
ライダーは黒のアーチャーだ。あれは因果がありそうだからな。決着は読めんが、まあそうあっさりとやられはしまい。
残る敵陣営は、寝返った赤のセイバー、正体不明のアサシン、意味不明のキャスター、それとルーラーだ。
セイバーはアサシンが誘い込むだろう。ルーラーには啓示がある以上、どうあっても聖杯のもとにはたどり着くだろうから、私の相手は黒のアサシンとあの女が筆頭になる)
ここまで考えたところで、自室にたどり着く。
その自室の扉の横。そこには、深々と矢が刺さった痕が二ヶ所。
紛れもなく、最初にあの女と邂逅した折、自身があの女の眉間を狙って射った矢がかわされて刺さった痕だった。
(何らかの加護か、あるいはよほどの幸運か......)
聞いたところによると、有名なケルト神話の英雄の他に、あの女と出身を同じくした者にも矢避けの加護を持つものがいるらしい。しかしそれも武功に関わるもので、例外的なものらしい。
あの女が武功に関わる逸話を持つとは思えない。つまり、生まれからして月からの加護か、あるいは本当に規格外の幸運によるものか。
(何にせよ、矢とは別の手段を持っておいて、損は無いだろう)
故のアサシンへの提案なのだ。
対価として何かを要求されないかと不安なところはあるが......マスターの願いを叶えるためには全力を尽くすべきなのではとでも脅してみようか。こちらとて好きにこの戦術をとりたいわけでは決してないのだから。
(私は確かにアーチャー、弓兵として呼ばれた。ただこの身は弓兵に非ず。私は、狩人だ)
例えば黒のアーチャーなどは非常に戦士としての弓兵らしい弓兵だろう。いささか近接戦闘が好きそうなきらいはあるがな。
対して、私は狩人。弓を使うというだけで、戦士とは少し違う。そこが戦士と狩人の決定的な差だ。
(覚えているか、キャスター。お前は、必ず私が討つ)
決意をここに。
思いを新たに。
まあ、まずはお風呂に入って疲れを取り、明日に備えるとしよう。温かいお湯が私を待ってい―――
「ち゛へ゛た゛い゛!?!?」
―――お湯にし忘れた、だと......
頭を使っていたからなのか? いやそんなミスするか普通? いや普通じゃない普通じゃない普通じゃない。
そうだ、これもきっとあの女の仕業だ。思えば考え事の遠因もあの女だし。きっとそうだ、そうに違いない。
スゥゥゥゥゥ......
「お゛の゛れ゛キ゛ャ゛ス゛タ゛ー゛!!!
は゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛く゛し゛ょ゛お゛お゛ん゛!!!」
× × × ×
「くちゅん!」
「んぁ? どうしたキャスター、風邪か?」
「かぐやお姉ちゃん、大丈夫?」
「だいじょぶ! 多分誰かが噂でもしているんじゃないかしら......」
「......私たちと同じく、赤の陣営も昼飯どきと思われます。作戦会議でもしているのではないでしょうか」
「それだルーラーさん! 私の対策の話とかしているんだきっと!」
キャスターは相変わらずうっせぇな。
東国の姫っつー存在には疎いが、みんなあんなんなのか?
今日も昼間にふらついてたら突然こいつの一団に遭遇して巻き込まれたし......つーかここにいる全員そうなんじゃねえか疑惑まであるな。
キャスター、アサシンとそのマスター、ルーラー、私じゃないほうのセイバー......バルムンクとか言ってたしジークフリートか? アーチャー以外全員いるじゃねぇか。へへっ、このままカチコミでも仕掛けられそうなメンバーだな。
「......貴女の対策なんて、理解不能すぎて不可能と言わざるを得ません。バーサーカーと同一化した挙げ句に電光石火の理論で空を飛んでくるなんて誰が想像できると言うのですか......」
「ふふんっ。ルーラーさんにはこのハンバーグをあげよう」
「誉めているわけではないのですが......それはそれとしてお腹はすいているのでいただきます」
「お姉ちゃん速いよね。わたしたちのナイフ、掠りもしなかったもん。すごいすごーい!」
「あら、ジャックはカグヤさんと戦ったことがあるの」
「うん! 地下室みたいなとこでね、ほんとに雷みたいで速かった! ぜんぜん解体させてくれなかった! あと、ゲームもスゴく上手かった! ぶよぶよでどーんどーんて押し潰されて負けちゃった......」
「......ええと、本当に同じ日の出来事で?」
ダメだ。こいつらの話聞いてると頭がおかしくなる。
そう思って背中がん開き野郎のセイバーを見ると、何やら私になにか言いたげな様子。
「あンだ?」
「......すまない」
「いや、謝るなよ。言いたいことあンなら言っとけ。正直あんたとはでかい土くれ人形ぶっ倒したときくらいしか一緒にいる記憶ねぇから、何が言いたいか何考えてるのかとかオレにはサッパリわからん」
うん。そうなんだよな。
基本オレってマスターとしかつるんでねぇから、皆のこと知らねぇんだよな。
「......頼みがある。都合が合うならばで構わないし、断ってくれても問題ない」
「いいから言え。そういう判断はオレがすることだ」
薄々気づいてはいたが、実直で溜めが長いやつだなコイツ。
不器用。まあキライじゃねえがな。
「......実は――――――
――――――というわけなのだが」
......へぇ。
「それは、勘か?」
「......勘だ」
なるほどな。
「そういうことなら、マスターにも頼んでおいてやるよ」
「すまない」
「いいってことよ。追って細けぇことが決まったら連絡しろ」
こりゃ、面白くなりそうな話だな。
「なになになに!? もしかして二人でおデーt」
ギロッ!!!!!!!!
「ひいいいいぃぃぃぃぃ!!!」
「次にオレを女扱いしたら、潰す」
「へああぁぁぁ......あー、その、あれなんですよ、黒のほうのセイバーさんが女の子のほうで......」
「......それは無理がありますよ、キャスター......」
「......すまない、女性扱いを受けたのは初めてだ」
「ごめんなさーーーーい!! もうしません!!」
謝るくらいなら最初からするなっての。
「え? 黒のセイバーさん、解体できるの?」
「大丈夫よジャック。今は美味しい料理があるでしょ。ほら、あーん」
「あーーーん♪ んー! おいひい! おいひい!」
「チッ......」
そんでもってお前らはファミレスに来た親子かっての。
......親子、か。
ハァ。
食うか......
ごちそうさん。
ちなみに、支払いはルーラーがしてた。
あいつは保護者か何かか?
× × × ×
× × × ×
こうして、聖杯大戦は最後の休息を終え、舞台は最終日、クライマックスへと。
著者不在の演者たちは、より混沌とした結末へと誘われゆく。
そして、あと一人も......
× × × ×
× × × ×
~翌日、つまり決戦当日、その早朝~
「ふんふんふふん、ふんふふんふふーーん。
いやー、よく覚えていないが、酷く疲れちまったからなあ。休日を一日増やしちまったぜ。
やっぱ、男の休日と言えばこれ、早朝からの海釣りだよなあ!」
ここは、聖杯戦争から遠くはなれたヨーロッパの最西端の沖合いである。
ちょっとした防波堤にドスンと構え、朝から竿を垂らす男がいた。
彼は魔術となんの関わりもない完全な一般人でありながら、さまよえるルーラーを乗せて運転したり、六導玲霞に拳銃でジャックされて運転させられたりと、聖杯大戦に何かと縁がある男だった(ただしその記憶は、フィオレと獅子劫の手によって隅から隅まで丁寧に消却されており、彼にはただ疲れたという感想だけが残っている)。
朝、知らないホテルで目が覚めた男は、まあいいかと現実認識を諦め、仕事先に体調不良のていで休暇の連絡をし、こうして釣りスポットに来ていた。
「ほーらどおした、朝一の大物よ。我が竿と勝負せんかい!」
男の垂らす竿は非常に太く、そしてそこそこ長い。男は船の上からでも使える極太の竿を、浜で使える長さまで改造させた特注の竿を使用していた。その竿は非常に強靭で、60kgほどの獲物でも問題なく釣り上げられる強さを持っている。
船舶の運転免許を有しない彼の夢は、いつかこの防波堤から船釣りに負けない特大の大物を釣り上げることだった。
その夢を胸に、彼は今日も防波堤から200m以上もの異様な距離まで釣糸を飛ばし、ドスンと構える。
クンッ
「おっ?」
数匹釣り上げた後、何か大きいものに針が引っ掛かったような手応えを感じた。
まずは静観しようと男は構えて待つ。だが、竿はそれ以降引っ張られるような気配はない。
「何か、タイヤにでも引っ掛かっちまったかな」
似たような感覚は、タイヤのように水を吸って重たくなったものに引っ掛かかったときだ。
「しゃーない、引くか......せーのっ」
こういう手合いは面倒だが一度釣り上げて外すのが早いと、男は精一杯の力を込めて、
「どっこらしょおおおおお!!」
引っ掛かかった物ごと、竿をおもいっきり釣り上げた。
「......うっ、ゴボッ......」
......体が重い。
......酷く寒い。
......どこだ、ここは。
......水の、中。
......そうか、私。
......力尽きて、海に。
チクッ
「え゛、釣り針ッ......ぐえぇ!」
バッシャアアアアアアン!!
からの、
ゴッツゥウウウウウウン!!
「いってぇ!!」
「□△○!?」
頭いってぇ!!
太陽まぶっしい!!
「目ぇ、明けられないわ......」
「□□、○△○□□○、△△△?」
「ええ......そーりー、あい、どんと......すぴーく、いんぐりっしゅ」
「□□......」
あー......とりあえず、だ。
ここがどこかさえ、わかれば......
けーね。教えてもらった英語、使わせてもらうよ。
「あ~......ぷりーず、てぃーち、みー。
うぇあ、いず、ひあ?」
あれ、場所ってウェアであってるよな。ウェンじゃないよな。
「□□......⑨⑨⑨⑨⑨⑨⑨⑨⑨」
ダメだ。聞き取れない。わからなさすぎて頭がチルノになってくる。
んーと......場所聞いてもわかんねえから、いっそイエスかノーかで答えてもらえば......
「ぷりーず、あんさー、いえす、おあ、のー。
いず、ひあ......にありー、るーまにあ?」
「△△、yes!! ○□○△凸凹凸凹、○π○、⑨⑨⑨......」
「いえす? おーけー! いえす!」
ルーマニアが近い! らしい! 恐らく!
つまり、あとはどうにかすれば行けるだろうよ!
私は勝った!! 人生という荒波を乗り越えてたどり着いたんだ!!
待ってろ―――
「かぐやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「凸凹凸凹凸凹凸凹凸凹凸凹!?!?!?」
あ、ふらっときた―――
「―――ああああぁぁぁぁぁ......」
ドボォォォン...............
―――この後、またこのおっさんに釣り上げられ、でかい車の中に寝かされた。言葉わからんけどルーマニアに連れてってくれるらしく、海を漂ってくったくたの私はすぐに寝た。
......待ってろ、輝夜。もう少しで着くからなぁ......!
次回、設定まとめ回。