「こちらですね......!」
ルーラーは、啓示の力で聖杯までの最短距離を最速で進む。
「ご武運を、アーチャー!」
「はい!」
フィオレと黒のアーチャーは、赤のライダーを追って戦闘を開始した。
「いっててて......大丈夫か、アサシン」
「う、うん。ありがとう、マスター......」
黒のアサシンがアカに抱えられる形で、不恰好ながら二人も空中要塞に乗り込んだ。
「くそっ、姉さんたちに先行かれちまったなぁ......」
そして、一人遅れて降下してしまったカウレスは、身を隠しながら周囲を見渡す。とりあえず敵影はなさそうで一安心した。マスターでもない、どころか一介の魔術師と呼べる戦闘力さえ満足に持っていない自身は、狙われたら十秒と持たないだろう。それくらいわかっている。
わかっていて、それでもカウレスはこの戦いに最後まで付き合うと決めた。ユグドミレニアの人間であると同時に、流れでとはいえ一度はマスターになった以上、最後まで、という気持ちがあった。
「それに姉さんと......あいつも、いるしな」
カウレスは右手の甲をそっと撫でる。
そこには、たった一画だけ、令呪があった。
「カウレス、頼みがある」
「ん、なんだ」
アカは左手の二画の令呪を見せながら、話した。
「俺はアサシンのマスターになった。とはいえ、魔力的にはまだ余裕がある。
だけど、令呪の繋がりが切れた以上、復活しているだろうカグヤがどこにいるのかわからない。だから、またカグヤを見つけてマスターになれるか、わからない。
あなたは魔術師であり、マスターだった人だ。俺よりもサーヴァントを見つけられるかもしれない。だからもしカグヤを見つけたときは、彼女のマスターになってあげてほしいんだ」
「......でも俺には令呪が......ああ、そういうことか」
「ああ。この二画の令呪の内、一画を持ってほしい。アサシンもいいか?」
「うん、いいよ。おかあさんがお姉ちゃんに渡した令呪だもん。お姉ちゃんのためになるなら、わたしたちもうれしい!」
なるほどな、とカウレスは納得する。確かにそのほうが勝算が高い。先ほどの暴れっぷりを見ればわかるように、赤のキャスターも戦力として十分に期待できる力を持っていた。見つけて、再契約ができれば、また暴れてくれることだろう。自陣で散々暴れてくれた分、まだまだ敵陣で暴れてくれないと割に合わない。
「......マスター、か」
とはいえ、自身は一度敗退した身。果たしてその資格があるのか。
そして忘れもしない。彼女の中には、
「......わかった。頼まれよう」
「ありがとう。もし見つけたら、彼女のことを頼む」
―――否。俺はユグドミレニアのマスターだ。
資格とか、そんなこと考えるなら最初から参加しなければ良かっただけのこと。そして一度参加した以上、何が何でも勝ち残ってやろうと、決意していたはずだ。
......いや、以前までの俺はもう少し臆病で気弱だったかもしれない。でも少なくとも、今の俺の決意は強固で、本物だった。
「......令呪、確かに受け取ったが、果たしてそう上手い事キャスターを見つけられるものかぁ?」
とはいえ、カウレスは赤のキャスターを見つけられる可能性は低いと考えていた。
契約していないサーヴァントの反応は微弱だし、元よりあいつはキャスターのくせに魔力量がそんなに無かった。魔力が欲しいからと三千食分の食べ物を集めさせられたのも記憶に新しい。だんだん腹が立ってきた。再契約するのやめてやろうかな。
「まあ、頑張ってみるか......それで、ここはどこだ......?」
降下早々に姉とはぐれたカウレスである。現在地がまるでわからなくなっていた。
周囲を見たところ砲台の一つが破壊されたところのようで、巨大な岩が散乱しており、身を隠すには向いている。
しばらくはここでやり過ごして、サーヴァント連中が戦闘を開始した隙に動きだそうかなと考えていた彼だが、
「ゥ......ゥゥ......」
「っ!?」
誰かの声を聞いた。
いや、それは間違いなく最近まで聞いていた声だ。
うるさくて、迷惑で、手間がかかって、かつては敵だったのに何故かユグドミレニアに馴染んでた奴の声だ。
「ァ......ァァ......」
なのに。そのはずなのに。
カウレスは違和感と、同時に
それは、傍迷惑なキャスターなんかより、ずっと前から知っていたような。
―――まさか、
ジクリ、と右手に一画だけ刻まれた令呪が、
「......バー、サー、カー?」
自然と口から漏れ出た声に、彼女は反応し、体を起こし、顔を上げた。
姿形は赤のキャスターのものだ。
だが、記憶の彼女よりうつむき気味な姿勢、自信の無さそうな表情。
その顔を、覚えている。
「......ウ......ウゥ......」
何かを話したいのに、言葉は出ない。でも、本当はとても思慮深い。
その事も、覚えている。
「......話すことは沢山あるのかもしれない。でも、お前はキャスターの中でずっと見ていてくれたと信じて、今は後回しにする。聞きたいことはたった一つだ。
......もう一度、俺のサーヴァントになってくれるか?」
相変わらず何を考えているかは分かりづらい。
でも、例え姿形が違っていようとも、カウレスには彼女の気持ちがわかり始めていた。
「俺さ、不安なんだ。またお前のマスターになっていいのかって。だって、一度失敗しちゃってるんだからな。一緒に戦おうって話したサーヴァントを、守ってやれなかった。負けちまったんだ。こんな弱い俺に、本当はマスターの資格なんて無いはずなんだ。
それでも、この戦争を戦おうって、令呪が発現したからっていう成り行きじゃなくて、自分の意志で最後まで頑張ってやろうって、思ったんだ。
そして、それはきっと―――」
カウレスは、バーサーカーに近づき、右手を出した。
「―――お前も同じような気持ちなんだろう、バーサーカー。
俺はちっぽけな存在で、すぐに傷つくくせに、役に立ちたいからって、できもしないことを頑張りたくなる。本当は平凡で気楽な毎日が好きなのにな。
こんな俺だけど......またお前といられたら、とても嬉しい。
どうか俺と、また戦ってくれないか。バーサーカー」
バーサーカーの表情は未だ見えない。でも心なしか、震えているように見える。
恐る恐る伸ばされた右手も、やはり震えていた。でもそれがカウレスの右手と繋がったとき、
「......ッ......ウ゛ン゛!!」
震えは止まり、大きく頷いた彼女は、カウレスがよく知る力強く誰よりも頼もしいサーヴァント。
その名は、フランケンシュタインの怪物。黒のバーサーカー。
「告げる! 汝の身は我が許に、我が命運は汝の剣に―――!」
ここに今、最高の二人が再会した。
× × × ×
「聖杯に集る黒の虫どもめ。我の空中庭園に乗り込んできたか」
赤のアサシン、セミラミス。
マスターの天草四郎から空中要塞の防衛を一身に任された彼女だが、赤のキャスターの予想外で奇想天外な攻撃に苦戦し、なんと上陸を許してしまった。赤のキャスターは打倒したと思われるが、腹立たしいことである。
「ランサーは黒のセイバーと相討ち。ライダーは黒のアーチャーを仕損じていたため交戦中との報告。アーチャーはあの場所で傷を治癒しつつ迎撃の準備......おやおや、まともな駒が残っておらぬではないか」
赤の陣営から見た戦況は彼らが劣勢のように思えるだろう。恐らくライダーは良くて黒のアーチャーと相討ちで突破される。赤のアーチャーは裏切った赤のセイバーに勝ちの目が無く、さらには黒のアサシンやルーラーまでいる。数の上では絶対的に負けているのが現状だ。
加えて、やはりマスターは第三魔法の起動に時間を要している。一番に来るであろうルーラーの到着に果たして間に合うかどうかというところだ。
玉座に座すは留守を任されし自分。今後の展開を用意しなくてはならない。
「まあ......暫しごっこ遊びに興じるとするか」
ルーラーを鎖やら罠やらで妨害しつつ、追い詰められているはずのアサシンはしかし、一人玉座にて笑みを浮かべていた。
× × × ×
「待たせたな。セイバー」
「大丈夫だ、今ちょうど見回りが終わったとこだ」
同時刻。
獅子劫と赤のセイバーも空中要塞にたどり着いた。
空中での戦闘も想定していた獅子劫であったが、特に何の妨害もなくここまで来れた。黒の陣営が善戦している証拠であろう。
「そうか。もしかしたら赤の陣営は、思ったよりも苦戦しているのかもな」
「良くもまあこんな堅牢そうな城に乗り込めたもんだ。
つーか、黒の陣営が善戦してるなら急がなきゃやべーじゃねぇか! 聖杯取られちまうよぉ」
事実、この段階でルーラーは赤のアサシンの手前まで、黒のアーチャーは赤のライダーと戦闘を開始し、カウレスと黒のバーサーカー(赤のキャスター)は再契約を完了、アカと黒のアサシンもゆっくりとだが歩き始めていた。
「かもな......だがここは敵の城だぜ王様。どうするよ?」
「んなもん言わなくたってわかってるだろ?
慎重に最速で行く。遅れんなよ、マスター!?」
「おう!」
そしてこの二人も、要塞の侵攻を開始した。
狙うは、聖杯のみ。
× × × ×
「ゼーー-、ハーーー......つ、つかれた......」
また同時刻。
紅白のもんぺ少女が、というか藤原妹紅が、海岸で疲れ果ててへばっていた。
「ちょっと休んでから行こう......前みたいに溺れて海水飲みたくない......」
赤のセイバー組に戦闘機で先を行かれてから精神的に参った彼女が要塞に着くのは、まだ先の話。
狙うは、カグヤのみ。