「ねえ
「ん...どうした、アサシン」
「おねえちゃん、大丈夫かなぁ」
戦いの痕が残る、元・玉座の間。
アカと黒のアサシンは、手頃な瓦礫に腰を掛け休んでいた。
未だ体は回復せず、外傷すら治りきっていない。毒による影響はなくなったが、対サーヴァント戦闘には耐えられない。
「...カグヤなら大丈夫だろう。きっと」
アカは考える。カグヤは大丈夫か。獅子劫たちは無事に脱出できただろうか。自分にできることはないか...
「...魔力はずっと消費し続けている。きっと戦闘中だ」
「...うん」
祭りの聖火も鎮まる、そんな聖杯戦争は佳境も佳境。二人はただただ友の無事を祈っていた。
ヒュゥゥゥ...
「っ!?
「何が...!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
「うわっ!?」
天から、隕石でも降ってきたのかとアカは思った。
玉座の間、黒のアーチャーが破壊した天窓の穴から、炎の塊が墜落した。
煙が晴れたそこに、何者かが
「...そこのお前」
「...お、俺か?」
「誰でもいい。
完全にひるんだアカと、彼を瓦礫から必死に守った黒のアサシン。
そこに問いかける、謎の人影。
格好は、ススだらけでボロボロの白い服とに長い白髪。それと赤色のズボンのようなもの。
「
と、彼は反射的に目で彼女が向かった方を見てしまう。
しまった、と思ったが時すでに遅し。
「なるほど、そっちか? そっちなんだろう!?
ウオオオオオオオ!! 輝夜アアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオン!!!
「またか!?」
降ってきたときと同じ衝撃を残し、正体不明の人間はカグヤのほうへ向かってしまった。
また飛来した瓦礫からアカを守りつつ、黒のアサシンは彼の服を引っ張る。
「
「ありがとうアサシン。急ごう! 掴まって!」
「うん!」
誰がどう見ても、先ほどの人影はカグヤにとって危険人物に違いない。
ここにきて全くの知らない人物の登場に、ああまたカグヤが何かしたのかと頭を悩ませながら、消耗でまだ動けないアサシンを抱えてアカは必死に走り出した。
× × × ×
「エ...お前、輝夜? でも輝夜じゃない...いや輝夜か?...ん~...?」
己が悲願を懸けた、赤のキャスターとの最終戦。
隻腕ながら、あと数回斬りつければというところまで追いつめることができた。
体の調子が良かった。二度目の生を受けてから一番。恐らくセミラミスが何かしてくれたのだと思う。最後の最後まで、本当に、僕にはもったいない優秀なサーヴァントであった。
だというのに...
「えー? どなた様~? ススが凄くてわかんないな~? 足やら首やら洗って出直してきてもらえる~?」
「いやその煽りやら何やら絶ッ対に輝夜だろ。私の知ってるお前だろオイ」
突如現れた第三者。炎を纏って突撃してきたかと思えば、目の前で背を向けて何やら喧嘩? し始めた。
味方...? いやこんな摩訶不思議な生命体の知り合いはいない。
正体不明の乱入者。これもまたどうせ赤のキャスターの仕業なのだろう。
「本当に...!」
捨てたはずの感情が、左腕の剣を強く握らせる。
「ふざけるなっ!!」
しかしとて剣筋に感情は乗せず、極めて残酷な軌跡を描き、
「ぐわーーーーーっ!?」
その勢いのまま、正体不明の人物の胴を真っ二つに切り捨てた。
正体不明ながら、あっけない最期であった。
「もこたんが死んだ!?」
刀にべっとり付いた血を一振り、地面に生きていた人の血と肉が舞った。
「どなたかは存じ上げませんでしたが関係ありません。
救済への道を邪魔する者ならば、全て切り捨てて私は進みます」
気を取り直し、赤のキャスターに歩み寄る。
正体不明だった者の横を通りすぎ、未だそちらを見ている姿に刀の先端を向け、駆けた。
「心配せずとも、全ては私が救済してあげます。不安に思うことはありません。貴女も、先ほどの彼女も、この戦争に参加した者も全て。主の導きの許に不老不死となりて、永遠の命として復活するのですから―――」
「―――おい、今なんつった?」
ガシッ
聞こえるはずのない声が聞こえた。
捕まれるはずのない足が捕まれた。
瞬間、猛烈な炎に焼かれ、振り向き様の刀の一閃は空を切り、強かに投げ飛ばされた。
「がはっ!?」
勢いのまま地面を転がり、何とか姿勢を整えて立ち上がるが、眼前の光景に混乱が収まらない。
だって、そんなはずがない。
あそこで五体満足で立ち上がっているのは...
全くの無傷でこちらを睨んでいるのは...!
「その言葉を吐かれたら、黙って死んでるわけにはいかないよ。ま、ご覧の通り死ねないんだけどさ。
確かに聞こえたぞ、
いつでも何回でも殺せる輝夜は後回しだ。殺してくれた分、熨斗つけて殺し返してやるから、覚悟しろ」
× × × ×
「ヒュー! もこたんカッコいい!」
「もこたん言うな。焼くぞ」
とりあえず私のことをふざけた名前で呼ぶあいつは輝夜確定ってことで、後で丁寧に殺すからいいとして。
容赦なく私を切りつけてくるこいつの言葉に、何とか耳を傾ける。
「お前、不老不死が救済だとか、永遠の命がどうのとほざいたな?」
「ええ、言いましたよ!」
力がやけに強く、速い。妙な術で小剣のようなものを飛ばしてくる。こんな奴を相手に、話を聞くために喉や気管を焼かないよう炎を調節していなし続けている。
はっきり言ってめちゃめちゃ疲れる。しかも斬られた感覚から刀に毒があるのがわかる。その再生にも体力を持ってかれる。
「教えろ。不老不死を求める理由はなんだ?」
ただ、聞き捨てならない言葉が聞こえちまったもんで、状況を知るためにも、こやつから話を聞かないわけにはいかない。
「いいでしょう。お答えしますよ。
私の目的は、全人類を不老不死にすることだ。飢餓も苦しみも憎しみも生まれない、格差も妬みも無い、そんな理想の世界のために。
安らかに満たされ、争う理由のない、完璧な恒久的世界平和の完成だ。人類は、救済される!」
.........なるほど。
「お前は不老不死に会ったことがあるのか? んで、不老不死はいいぞって言われたとかってことか?」
「この世に真の不老不死を成し遂げた者なんていないことくらい知ってるだろう。だがそれがどうした。不老不死で救われない者などいない。いるものか。死の恐怖から解放され、病苦や飢えにも縁がない。それでも他者を憎むことなどあるものか!」
コイツの目的、人となりは理解できた。
同時に、呆れた。
「なるほどな...悪いがちょいと歯ぁ食いしばれ!」
「何を...!?」
ゴツッ
「かはっ!!」
「がっ!?」
頭突きをかました。全力で。
やった私だけが死んだ。
× × × ×
「ッッ...! 何をする!?」
突然のことで反応できなかった。
先程まで、何となく加減されている感覚のある攻撃が続いていたが、今くらった頭突きは本気の本気だった気がした。何とか食いしばって意識を持ちこたえるも、足元が若干覚束なくなっている。
「私の友達にさ、頭がめっっっっちゃ堅い先生がいるんだけどよ...あんたそいつより頭堅いよ」
「ふざけるな...! 何がおかしい...!」
現にこの燃える―――赤のキャスター曰く"もこたん"―――とやらは、やってきた側だというのに盛大にぶっ倒れ、絶命したように見えたのに、また息を吹き替えしてきた。
何度見ても、これはまるで、私が人生をかけて追い求めた存在そのもののようで–––
「いい加減わかっただろ? 私がどんな存在かって。
そんで、お堅い聖人様に何を言ってもムダかもだけどさ...
私は恨んだし、憎んだ。こんな体になった原因全てを。私から死を永遠に奪った全てを」
復活した"それ"が、俯き、脱力し、一歩、一歩と歩いてくる。
あまつさえ、両手はポケットの中だ。
体が震える―――怖い。
「あんたの言う通りな、痛いのがどうでもよくなった。飢えも気にならなくなった。死なないし。
それで何百年と過ごして感じるのは、何もすることが無くなった退屈と、進むことも戻ることもない虚無。何をしても死なない。始まったようで全てが終わっただけ」
こいつの言葉を聞きたくない。
恐れるままに、両の腕を切り落とした。
抵抗もなく落ち、血をバラまいて弾けた。
そして、再生する。
「憎み恨み怒り嘆き、その始りに永遠と涙し。
焼けて駆けて裂けて砕けて、その終りは無間に訪し。
このまま、何も変わらないんだよ」
死んでも、死なない。
死を恐れない。どころか、嬉々として死んでいるようにさえこの目に映る。
―――"化け物"
一瞬でも、そう思ってしまった。
これが、私が追い求めた存在の、やがて行き着く先なのかと。
もしそうなのだとしたら、私は―――
「これは、この私が飲んだ呪いは、知らなかったとはいえ自分の意思で飲んだ物だから、まだ私と
だが、お前はそれを、何の許可もなく、全人類にばらまこうってんだろ?」
服には無数の裂傷と血の痕。だがその先の肌には傷一つ見えない。
切り飛ばした両腕も、袈裟懸けに裂いた胴体にも、傷痕一つすらない。
これが―――俺の求めた存在。
「不老不死を代表して言わせてもらう...いっぺん死んで考え直せ」
苦し紛れに放った突きの刀が、蹴り上げによって高く吹き飛ばされ、「きゃっ!?」...赤のキャスターの真横に突き刺さった。
眼前に迫る焔の拳に、俺はもう抵抗できなかった。
× × × ×
「ちょっと! 危ないじゃん! 刀! これ! 当たったらどうしてくれんのさ!」
「チッ、外れたか」
「確信犯!?」
この藤原なる不届き者。いとふてぶてしゅうていたり。生かしてはおけぬ。
とまぁ、不老不死ジョークはさておき。
もこたんは無事に天草くんを倒した。どうやらコロコロしてはないらしく、顔面に×印が焼き印された状態で転がされている。
「心を折った挙げ句に顔面パンチだなんて、ひどいことするね」
「殺されたんだ。殺してないだけ優しいだろ?」
「ヒュー! もこたんカッコい「ふんっ!!」マジ裏拳!? 当たったらどうしてくれんのさ!」
「チッ、外れたか」
「天丼!?」
不老不死ジョークはさておき(2回目)
いやぁ、死ぬ体になって久しかったから忘れかけてたけど、やっぱ不老不死ってエグイわ。普通なら負けないもんね。
でももこたんはふらふらしてる。さっきの裏拳も力が抜けてるし、本調子なら掴んでからの膝蹴りとか飛んでくる場面だったかな。
「さてもこたんくん。察してるかもしれないけど、これが願いを叶える大聖杯です! 綺麗だね~」
「ふんっ。不老不死を全人類に降り注ぐ呪いの壺なんだろ? 綺麗な見た目して最低だ。まるでどこかの誰かみたいだな」
「ん~? 自分のこと「せいっ!!」3回目はやめましょうよ!」
しかもガチもこキック!?
大聖杯を背にわりと大きく後退っちゃった。怖い怖い...
「んで? なんでお前がここにいるのかは知らんけど...
後はそれを壊せばいいのか? 結構骨が折れるなぁ」
もこたんが大聖杯を見上げ、指を鳴らしながら近づいてくる。
心なしか、いつもより音が小さいよ~。
まあ、これだけ疲れきったもこたんなら、
「ダメよ、そんなことしちゃ」
「ん、そうなの? んじゃどうしろと」
うんうん。無垢なもこたんはかわいいね♪
そんなもこたんのために、ニッコニコの笑顔で答えてしんぜよう。
「そんなことしたら、
「は?」
× × × ×
「すまん、よく聞こえなかった。もういっぺん言うか、それとももういっぺん死ぬか選んでくれ」
こいつ今なんつった?
「だから~、
「よし、もういっぺん死ぬか。多分頭の病気だろうから、治してやるから感謝しろ」
もしくは私の耳が死んだかもしれない。いや無いな。死ねないんだから。
「まあ待ちなって。深呼吸、深呼吸」
ヘラヘラ笑いながら話す輝夜。いつも以上に腹が立つ。
そして、胸騒ぎがする。
「もこたんはさ、こんな未来になったらいいな~とか、考えたことない?」
「あ? 何の関係が...んなもんこんな体になっちまったんだから、考えても無駄だし」
考えていた時期はある。でも遠い昔の話だ。
今はもう、ない。未来を考えるには、あまりに多くを過去に置いていきすぎた–––多くに置いていかれすぎた。そういう存在なのだ、私達は。
なのに、あいつは語る。
「この聖杯ちゃんが、全人類を不老不死にするかもって知ったのは、実は私もつい最近なの。
最初は私も、そんなふざけた話って思った。ぶっ壊してやる! ってね。
けど、よくよく考えたら、それって私たちにとって悪くない–––むしろ、とっっっっても素晴らしいことなんじゃないかなって♪」
「素晴らしいこと、だと?」
威圧の意も含め、ガンをつけながら拳に火を灯す。
次にあいつが吐く言葉によっちゃ、冗談では済まさない。
「そう! だって全人類ごと不老不死になれば、私たちだって、ずっと孤独じゃなくなるじゃない?」
ドゴン!!
ザシュッ!!
今出せる最高速で、輝夜に燃える拳を振り抜いた。
けど、いつの間にか持っていたあの小僧の刀で腕を切り落とされる。
こいつ、本気ってことか。
「がッ!?...輝夜てめぇ、自分が言ってる意味わかってんのか!?」
「わかってるわよ? それで起こる奇跡も、惨劇も。全部。
でもダメ。私はもう耐えられない。孤独じゃ嫌になっちゃった。永琳と妹紅だけじゃ寂しい。幻想郷の皆や、この旅で出会った皆と、死んじゃったらもう絶対に会えないなんて...そんな未来、いらなくなっちゃった。
皆で、永遠の夜を過ごす。そんな未来が、私は欲しい。」
―――何たる傲慢さ。何たる自己中心的思考。
それだけのために、全人類を巻き込むのか。
「ふざけるなッ!!
私という永遠の罪を生み出す一因を生み出しておいて! お前はそんなことを言うのか!?
死ぬ人間の尊さを! 花火のような美しさを! 忘れたと言うのか輝夜ッ!!」
「花火のような美しき物もあれば、爆弾のように争いを呼んでしまう物もあるわ。
それが無くなるのなら、そこの彼が言っていた世界平和も、もしかしたら叶うかもしれない」
「だったらあの小僧が負けるのは!? 何故黙って見てた!?」
「まあ、私達の話には邪魔な存在ではあったから。代わりに倒してくれてありがとうってところね♪
あと、どうせなら自分の手で叶えたいことではあるから。この戦争の勝利者としてね!」
―――こいつは、本当に輝夜か?
いつからこいつは、こんな奴になった? この脱走がこいつをおかしくしたのか?
いや...そういう奴だったかもしれない。
何だか、混乱しすぎて、急激に頭が冷めた。思考も、心も、思いさえも、全部が。
「...ああ、お前はそういう奴だったか、
何をしでかすか、何をやらかすか。どんな厄ネタを持ってくるか、何に巻き込んでくるのか。
一切合切予想できない、トラブルメーカーのお姫様。それがお前だったな」
「ふふっ、今頃気づいたの?」
気付きたくはなかった。思いたくなかった。
何度も殺しあった。その度に話すことは話した。恨みも、憎しみも、悔いも怒りも悲しみも憂いも、こいつには全部ぶつけてきた。焼き付けた傷が治る度にまた傷をつけ合い、永遠不変の肉体に治らない傷を刻み込もうと、何度も何度も何度も。
だから―――仲間だと、そう思ってたのに。
「わかった...私はお前を、殺す」
復活した両の拳に火を灯し、背中に焔の翼を形作る。
本気で、殺す。
「あら、まだそんな元気だったの。残念ね。
とはいえあなたの体。ここに来るまでに散々無理してきたようだし、この刀の毒も思いの外に効いているでしょう?
そうね、私と満足に戦えるほどの体力で復活できるのも、あと
「へっ、知ったようなことを!」
...事実である。
正直、空を全力で飛んで、バカみたいに叫びながら来て、からのさっきの戦いだったから、気を抜いたら倒れそうな体力ではある。
でも、ようやく見つけたあいつを一発ぶん殴るまでは、倒れない。倒れられない。倒れてたまるか。
「こんだけ何度も殺しあってればわかるわ。せっかくだからその二回を残機にしましょう。
私の残機だけど、実は今の私って、一回殺されたら死んじゃう体なの。軟弱よねぇ~。だから一回でも私を殺せたら、あなたの勝ちってことにしてあげる。
そうしたら、残念だけどこの大聖杯を止めてあげてもいいわ。敗者に願いを叶える権利はないもの」
「言ったな? 待ってろ、直ぐに殺してやる」
いつもと違う体なのは何故か。あの金色の大聖杯とやらが何なのか。そんなの何もわからない。
けれど、それならこれは、いつも通りの殺し合いだ。今まで負けていいと思ってやった殺し合いが一つもなかったように。今回も負けず、私が輝夜を殺すだけ。
ただ―――今回は、
『剣と槍の演劇に、御輿も巡り、射的の後は林檎飴に心狂わせ、暗闇は魔法のように照らされて。
さあさあ、祭りは終わりへと向かう。
囃しは不老不死のお伽。
演者は歩みを失くす夜の北風と、時を進める朝の太陽。
老若男女がお空を見上げる。
憧憬も哀愁も杯に注いだ。
今ここに、大輪の花を咲かせましょう』
立ち塞がるは、妖しき魔力の繰り手。
赤のキャスター、カグヤ。
それに挑むは、猛き炎の操り手。
蓬莱人、藤原妹紅。
「始めましょう。全人類の永夜抄を!」
「終わりになんてさせない。私達の未来を!」
次回、最終話。