「......では、私はここで」
「ああ。ありがとう、ルーラー」
「いいえ。あなたを助けたサーヴァントの働きに比べれば、大したことではありません」
「......黒のライダー。黒のセイバー。そして赤のキャスター、か」
「はい」
名も無きホムンクルスの男の子である彼は、たくさんの人の尽力を経て、ここに生きている。
人間大の水槽から脱走したところを黒のライダーとアーチャーに助けられ、
城を出た後はセイバーに守られ、命を脅かされたところでは赤のキャスターにも助けられた。
その後は、目の前にいるルーラーに導かれ、戦争から遠く離れた安全なこの農家のおじさんのところに住まわせてもらった。
「彼らにも、貴女にも、感謝の気持ちを伝えきれない。何か俺にできることはないか?」
生きたい。
それは彼の持った唯一の感情であり、同時にただ
それだけのために救われた彼は、その恩にどう報いればよいのかがわからない。
「......サーヴァントの彼ら彼女らは、貴方に人として生きてほしいと思い、貴方を助けました」
そんな迷える子羊に、聖女であるルーラーは言葉を紡ぐ。
「人として生きるということは、ただ単に心臓を鼓動させることではありません。それでは植物やメトロノームと同じであり、貴方が水槽に閉じ込められていたときと何も変わりません。それを、人の生とは呼べません。
何か目標を作り、それに向けて行動し、努力をして鍛えあげ、その結果や過程に何かを見つける......それが、人としての"生"」
「人としての、"生"......」
それは、数えきれないほど多くの者が尊び、求め、守ろうとした宝物。
インドの大英雄は、未来にもそれがあってほしいと願い、その身を燃やした。
ネーデルラントの騎士は、それに望まれたがために剣を握り、邪竜を墜とした。
他にも護国の王将が、トロイアを駆け抜けた英雄が、十二勇士の冒険家が、ローマの反逆の剣闘士が、愛を求めた人造人間が、それぞれの立場でその宝物を願った。
「人の"生"とは、言葉では伝えきれないほど輝かしく美しい宝物。それを、あなたに見つけてほしいと、サーヴァントである彼ら彼女らは望みました。
もし貴方が、貴方を助けてくれた者たちの恩に報いたいと思うのなら、その望みを叶えてあげてください」
「......俺は、生きてくれと望まれたのか......」
生きたいという一心でここまで歩き、多くの者に助けられ、ここに彼は自由を手にいれた。
そしてここからは、彼が生きるということを見つける―――人が願いを叶える物語の始まりだ。
「......ルーラー、一つ頼みを聞いてくれ」
「はい、何でしょうか?」
「黒のライダーと、赤のキャスター。二人の名前を、教えて欲しいんだ」
「.....................」
知って当然の、自分を助けてくれた恩人の名前。当然彼にはそれを聞く権利はある。
しかしルーラーは迷った。サーヴァントの
それを、聖杯戦争を監督する役割を持つ自身が口にするのは
そしてそれを聞けば、彼に危険が及ぶ。
「......それを聞いてしまえば最後......貴方は戦争と無関係ではいられなくなりますよ」
情報を求めた敵のマスターに狙われる。
名前を知られることを怖れたサーヴァントが、口封じのために存在を消す。
あるいは名も知らぬ魔術師が、神秘の秘匿のためにと人殺しの武器を持って現れる。
相手は違えど結果は同じ。彼は必ず、死ぬ。
「構わない」
それを聞いて、理解してなお彼は求めた。
「......黒のライダー、真名をアストルフォ。
赤のキャスター、真名は言語違いが理由で伝えられませんが、かぐや姫という名前を持っています」
周囲に探知の術や使い魔がいないことを確認し、彼以外の誰にも聞こえないようにルーラーは言った。
これが彼女の譲れる最大限である。
「......アストルフォ、カグヤ姫、か。
ありがとう、ルーラー」
彼はその名前を胸に刻んで、笑顔をルーラーに返した。
「......他は、もう大丈夫ですか? その......」
名前を、彼の名前を呼ぼうとした。そこで気づいた。
彼には名前が無い。
「俺には、名前が無かったんだ。戦争のための、部品の一つに過ぎなかった俺には」
「......しかし、今の貴方は違います」
「ああ。皆に助けられ、生きると決めた俺はもう、部品なんかじゃないと思いたい。人として生きる個人なのだと思いたい。
だからこそ、名前が欲しかった。そしてその名前には、是非とも俺を助けてくれた者の名前を使いたかった」
そう言って、名無しだった彼は、自分の名前を言葉にした。
「俺を助けてくれた者の名前は、アストルフォとカグヤ姫。二人の名前の頭文字をいただいた。
俺の名前は―――"アカ"だ」
× × × ×
「来たか......!」
ユグドミレニア城砦、上階の辺りが広く見渡せる場所で、彼ら彼女らは敵を仰ぎ見ながら戦意を高めていた。
王である黒のランサーは誰よりも前に立つ。彼が先頭に出て奮い立つことが、民や臣下に恐れ無くして戦場へと勇んでもらうことに繋がるからだ。
ひとえに王の器の成せる勇姿だ。彼が率いる軍には負けなど存在しないのだと思わせる強さを感じる。
「ライダー......」
軍を指揮する黒のアーチャーはその左に立つ。その賢さから参謀としての役割を兼ねている彼は、昨日の夜に見つけた懐かしい顔を脳裏に浮かべながら、有利地形や敵の配置予想から兵の動かし方を考えている。
彼がいる以上、黒の陣営に弱点はない。
「ヴヴヴゥ~~......!」
その兵隊の一番前に黒のバーサーカーが構えている。力強く唸る姿は闘争心剥き出しで、今にも飛び出して行きそうなほど高まった戦意を、なけなしの理性で堪えている。
確かに彼女はステータスで劣っているだろう。しかしその狂暴さと怪力、そして一発のもつ破壊力からくる威圧感は、決して無視できるものではない。
「後方支援は、僕が担当しよう」
誰よりも後ろで大人しくしているのは、後方支援を担う黒のキャスターだ。個人としての彼は自他共に認める弱い存在だ。
だが、後方からゴーレムを手繰る彼を、たかが後方支援と侮る無かれ。
ゴーレムは土という材質状、その姿形を千変万化させられる。昨晩はその性質でもって、赤のバーサーカーの動きを封じ込めた。つまり、彼の操る千に届く数のゴーレムは、その全てがサーヴァントに届き得る可能性を秘めているということなのだ。
「剣として、立ちはだかる者を倒すのみ。それが俺の望みだ」
ランサーの右側に控えるのは、黒の戦力の要と言える黒のセイバーだ。望みを失い、道を外しかけた彼は、多くの者に救われ、迷いを絶ちきった。今やその剣の冴えたるや、雲一つ無い青空の如く精練されている。
誰かの望みではなく、自らの望みで剣を振るう彼の前に、果たして誰が立ちはだかれるというのだろうか。
「おぉ~! みんな気合十分だね!
僕たちも行くよ~、ヒポグリフ!」
黒のライダーはセイバーの右隣にいる。この陣営唯一の対空戦力である彼には、成さねばならぬ仕事がある。
「まさか、
「ダーニック、あれも魔術とやらの
「はっ。あの空飛ぶ要塞は間違いなく魔術のものと思われます。
しかし、現代にあのような術式があるとは記憶しておりません。恐らく、敵のキャスターの陣地作成スキル。それもあれほどの規模となると、宝具かと」
そう、敵は空から攻めてきたのだ。
× × × ×
「お~! こいつは凄いな~!!」
「空飛ぶ要塞、か。これには黒のやつらも驚くだろうな」
「大した物だ、アサシン」
「然様。この天空に浮かぶ要塞こそ、セミラミスたる我が宝具......"
黒の陣営が見上げる先に構えるは、空を飛ぶ要塞と、そこに立つ赤の陣営のサーヴァント。
最速の大英雄、赤のライダー、アキレウス。
最速の狩人、赤のアーチャー、アタランテ。
最強の大英雄、赤のランサー、カルナ。
最古の毒殺者、赤のアサシン、セミラミス。
後ろには反逆の大英雄、赤のバーサーカー、スパルタクスが解き放たれるときを今か今かと待ちわびており、攻城戦力は十二分に揃っている。
別行動を取っている赤のセイバーも来るとなると、申し分などどこにもない。
「皆さん、準備はよろしいでしょうか?」
そして、彼ら彼女らをまとめている神父にも、不足はない。
「へっ、どんな手を使うのかと思ってたが、まさか城ごと敵陣に攻めこむとはな。
姐さんは大丈夫か? 実は高所恐怖症だったりしたんなら、震えを抑えるために抱きしめてあげてもいいんだぜ? 腕が震えちゃ弓も握れんだろ?」
ライダーはいつも通りだ。いついかなる状況であっても、英雄たる自分ならどうにでもできるという自信、そこからくる余裕がある。
だが慢心はない。彼は真に大英雄だからだ。
「馬鹿者。私を柔な女と一緒にするなライダー。
ところで神父、一つ質問だ。私は空を飛ぶ手段を持ってないのだが、帰りはどうすればいい?」
「必要とあらば令呪を使います。余裕があれば、ライダーの戦車やランサーと共に帰って来てください」
「了解した」
アーチャーは、油断せずにこれからの戦いを始めから終わりまで通して考えている。自分のなすべきことの整理、狩るべき相手、そして撤退時など、狩人として考えられる内に考えておくのだ。
「オレからも質問だ。未だにオレは会ったことはないが、マスターたちの身の安全が大丈夫かを知りたい。
"歩兵"に過ぎぬオレが生きていたところで、"王"であるマスターたちが取られれば意味がない」
「ご安心を。マスターの彼らはこの空中庭園の一室にまとめて待機してもらっています。この空中庭園はアサシンが全てを掌握しているので、例え敵のアサシンでも侵入されれば感知し、迎撃できます。心配は無用です」
「そうか」
ランサーは、己がサーヴァントに過ぎないことをわきまえている。後ろの安全無くして前には進まない心構えだ。
一分の隙も許さず、常に謙虚で高潔である彼は、正しくこの戦場で最強のサーヴァントだ。
「そういうことだ。この空中庭園は虚構にあらず。どんな羽虫が
「頼りにしています、アサシン」
そしてアサシン。
長い年月をかけて万全の準備で迎えられ、ここに女帝として空中庭園に君臨した彼女に、負けはない。
「頼みましたよ、サーヴァントの皆さん」
「おう」
「言われずとも」
「出来る限りのことはしよう」
「ふん。お主も、バーサーカーを放つタイミングを誤るで無いぞ?」
「ええ、わかっています」
黒のユグドミレニア城塞。
そして赤の空中庭園。
二つの陣営の狭間にある広大な平野は、互いのサーヴァントのほぼ全てが揃う大戦場と化す。
× × × ×
「なあマスター! オレの出番はまだか!?」
「安心しろ。俺の予想が正しければ、近いうちにデカイのが始まるはずだ」
「待ちきれねえんだよ!
今まで戦ったのは、雑兵のゴーレムに殺人鬼、それと弓兵だけだ。どいつもこいつも数だ搦め手だ遠距離攻撃だで、面白くねぇんだよ!」
「んなこと言ったって、これは戦争だ。そんなこと、お前さんの時代にもあっただろうに。我慢できないのか」
「待ちきれん! 早くオレに剣を抜かせろ!」
「まあ待てよ。戦争では前に出た奴から死ぬ。だから、赤のやつらが始めた戦争に乗っかるのが合理的だ」
「それじゃあ~つぅまぁらぁねぇえぇ~~!!」
「はぁ~......一服...」
こちら、獅子劫・赤のセイバーチーム。
今まさに始まろうとしている戦争に全く気づくことなく、拠点の墓場にての~んびりと過ごしていた。
「はぁ~......つーか、その傷は大丈夫なのかよ」
「ん? 足のこれか。ちょっと深傷を負ったな。なーに、マスターどうしの戦いなんざもうしねぇし、車の運転はお前さんに任せるから、問題ねえよ」
そんな二人は昨日の夜、黒のアサシンと戦い合っていた。
夜の街を歩いていたところを奇襲されたが、結果は見事な返り討ちでセイバーの戦術的勝利。黒のアーチャーの邪魔が無ければ、セイバーはアサシンの首を獲れていたと確信している。
そう、黒のアーチャーが邪魔をしてきてからは、そのマスターと獅子劫、そしてセイバーとアーチャーによる、マスターどうしとサーヴァントどうしの第二ラウンドが勃発したのだ。
その戦いでもセイバーは敵の首を獲りきれずに逃がしてしまい、またマスターである獅子劫は敵マスターとの戦いで右足に深傷を負ってしまった。
普通ならしないようなミスなのだが......勘が鈍ったか、あるいは
「お、おう、そうか。運転、任せてくれるのか......へへっ」
何はともあれ、その言葉を聞いて嬉しそうな顔になったセイバーを見て、こいつは本当にわかりやすいやつだなぁ、と顔を優しく綻ばせる獅子劫だった。
そんな中、ここまでの全ての歯車を狂わせた元凶である赤の
× × × ×
「ふっ......教えてあげるわ。戦場では、力こそが正義だと言うことっ、あっ、ちょっ、待っ......!
あああああああっ!? そ、そんなあぁ......! 嘘でしょ......? そこで負けるぅ?」
うわあぁぁん! 今回こそは勝ったと思ったのにぃ......。
蛇さんの、バカっ!!
ということで、エンジョイ"ぴーえすぴー"ナウ!
これメッチャ楽しい! ハマる! 時間を忘れる! 止められない止まらない!!
「う~ん......皆のとこに行くべきかなぁ。戦争が始まるぞっ、ってライダーのにいちゃんが言ってたし......でも私呼ばれてないから行かなくても......
うーん、もう一回!」
今は戦争中? 時間を忘れると怒られる?
でも大丈夫! 何故なら私には
[永遠と須臾を操る程度の能力]
があるのだから!!
幻想郷に置いてきたはずのこの能力、な~ぜか使えました! だから時を切り取ってゲームやりたい放題! やったね!
「あーあ、もう夜だから能力使えない~、不便~...」
......とはいかず、能力には制限がかかっちゃってる。
ズバリ、"月が見えている間は使用不可!"。
理由はわかんない。多分永琳が月の民対策とかいろいろ考えて、頭と腕を尽くしたんだと思う。私のことにあれこれできる人なんて永琳とあの子くらいしかいないし!
「プレイ時間いくつだろ......うわ、百時間超えてるわ。この画面見られちゃったら能力がバレちゃうね......」
ちなみに、このゲームの他にも四作品ほどプレイして、それぞれ百時間超えしました。
なので、合計なんと五百時間をゲームに費やしてます! 戦争放ったらかして何やってんだろうね、私。
まあいいや! 楽しいし! 何だか体が軽くなってきてるし!
「よっしゃあ! このワンプレイであいつを倒すぞ~! 行くよ蛇さん!」
ちなみにこのあと三プレイして、どれもあと一歩で負けちゃいましたよ。ええ。
くっ...悔しくなんか......な...なぃ!
......ふえぇ~ん...