「ねえ、おかあさん」
「ん? なあに、ジャック」
ルーマニアの、とある街にある宿の一室。
そこでは、ある親子が話をしていた。
「なんだか、遠くのほうで戦争が始まったみたい」
「あら、本当? それってジャックが関係してるっていうあの戦争?」
「うん。魔術師たちが戦うっていう、あの戦争」
白髪の子供―――黒のアサシンは、サーヴァントたちのぶつかり合いを察知し、緑髪の母親らしき人に教えた。
「なら、ご飯いっぱい食べれるかも?」
「うん! たくさんのハンバーグさんがいるよ!」
「あら~、良かったわねジャック。ちょうどお腹空いてたものね」
「うん。わたしたちもうお腹ペコペコ~」
「ごめんね~。私が魔術師だったら、魔力を分けてあげられるのだけれど......」
「ううん。おかあさんは何も悪く思うことはないよ! 悪いのは、魔術師さんたちなんだから」
「そうね。なら、悪い魔術師さんたちの料理は任せてね」
「うん♪ わたしたち、おかあさんの作るハンバーグ、だ~い好き♪」
一見すると微笑ましい親子の会話である。
しかし、だ。
両手にナイフ、腰回りにも大型ナイフと小型のメス、さらに大腿に投擲武器まで完全武装した少女が、果たしてただのあどけない少女に見えれば、の話だが。
「今度は本当の戦争だから、おかあさんは着いてきちゃダメだよ?」
「わかった。おかあさんはここで、ジャックの帰りを待ってるから」
「うん♪ それじゃあ、行ってきます!」
「はい。行ってらっしゃい」
黒のアサシン―――ジャック・ザ・リッパーという
赤と黒の入り乱れる戦場は、黒赤血祭の結末へと加速した。
× × × ×
「っ―――」
「ふっ―――」
ガキィン!!
「久しぶりだな、黒のセイバー。再びお前と戦場で会う約束を果たせたことを嬉しく思う」
「ああ」
赤のランサー、黒のセイバー。
聖杯戦において一番に真っ向勝負をした両者は、惹かれ合うように再び戦場で再会した。
「そして黒のセイバーよ。どうやら以前会ったときのお前と今のお前とは、似て非なる存在らしい。
真なる望みを見つけたか、或いは迷いが斬れたか」
「......そうかもしれない」
「事情はどうあれ、お前の目は以前会ったときよりも英雄のそれになっている。そのようなお前とこの槍を交わせることに、心から感謝しよう」
「俺も、貴殿のような高潔な戦士と戦い、その身を斬れることを誇りに思う......!」
「よく言った。ならばオレを斬るのはお前の剣であり、お前の身を貫くのはオレの槍だ......!」
大英雄がぶつかり合うには少し寂しい、名もなき平原の中心。
黒の剣と赤の槍が、同時に強く地を蹴った。
「その首! 戴いたッ!!」
「..................」
「なっ......!?.......」
「それが君の弱点です」
平原を大きく外れた森の中。
先生と生徒が、鉄と土のもとに再会した。
「我が弓と矢を以って
「........................」
ドズン...ドズン...ドズン...ドズン...
「........................」
「.....................ミツケタゾ...!」
ドズンッ ドズンッ ドズンッ ドズンッ
「.........『
ドズン!ドズン!ドズン!ドズン!!
「圧政者ああああああああ!!!」
「――
「
杭に貫かれた、夥しい数の竜牙兵の屍が広がる高原。
黒の王と、圧政への反逆者と、百獣の狩人がぶつかり合った。
「うへ~、ありゃ様子を見るだけでも命がけだねー。どんな手厚い歓迎をしてくれるのか、どんなやつが待っているのか......楽しみだね! ヒポグリフ!」
月明かりのみが照らす夜の空。
一人の冒険家が、未踏の空中庭園へと羽ばたいた。
そして、ここにも参戦者が一人。
「キャスター。貴女は戦えませんか?」
「うーん、一応戦いの経験はあるけど、ライダーのにいちゃんたちがいるような戦場だと足手まといになっちゃうかなー」
「やはりそうですか。ではこれから私のサポートをお願いします」
「ん? 神父さん行くの?」
「はい。この戦場から私が生きて帰れたのなら、それは私の願いが神に認められたということになりますから」
神父。自称、シロウ=コトミネ。
アサシンのマスターに過ぎないはずの彼が、サーヴァントの戦場に赴くと言うのか。
余りにも無謀だ。
「キャスター、お前に誰かを補助するスキルはないのか? いくら貴様が弱いサーヴァントとはいえ、仮にもキャスターなら、その程度は持っているだろう?」
アサシンが問いかけるようにキャスターを煽る。
それに対し、うーん......と眉を寄せて困り顔のキャスター。煽りの効き目は弱そうだ。
「そういう宝具、あるにはあるんだけど、どうなるかわかんないんだよね~♪」
「何だと? ふざけているのか、キャスター。間違ってもマスターに不利なようにはするなよ? そのときには我が杯を喉に通して貰うぞ?」
「わあ、恐い恐い♪」
そしてこの味方を不安にさせる言い様である。
そんな未知で運頼みの不安要素、誰が好きこのんで貰うものか。
「構いません。元より、どうなるかなどは考えておりません。
しかし、私は信じています。貴女からいただくものが幸運だろうと不幸だろうと、私の進む道の途中に、神は乗り越えられる試練しか与えないと」
貰うものがいた。
「ん~、じゃあいくよ?」
「はい、お願いします」
「......正気か、マスター」
不安そうにアサシンが問いかける。当たり前だ。こんなトラブルメーカーの不安宝具に身を委ねるなど、正気の沙汰ではない。
「ここで負けるようなら、それまでということでしょう。それならば、私の夢にも諦めがつきます。しかし、ここで私が試しもせずに逃げるようなら、神の手によってこの先どこかで否定されるはずです。
心配は無用です、アサシン。神が与えてくれたこの体と、君が強化してくれたこの"三池典太"なら、サーヴァントが相手でも負けませんよ」
その心にあるのは、強がりか、自信か、あるいは尊大な信仰心か。
シロウ神父の目と言葉には、確たる決意があった。
「わかった。じゃあ行くよ~」
その決意を知ってか、心を打たれてか、あるいは脳ミソが空っぽなだけか。
キャスターは、宝具の詠唱に入った。
「ん゛ん゛っ―――あなたが語ったその望み、成せると言うなら成してみよ。あらゆる苦難、あらゆる障碍の先に手にいれたものを、是非とも私は見てみたいのだ」
言葉を紡ぐたび、キャスターから溢れる月の光が、夜の闇を妖しく照らす。
それは、平安の有力貴族の尽くを墜とした魔性の光。
「宝具―――
―――『
キャスターの詠唱に呼応して、光はシロウ神父に集い、その体の中に入っていった。
それを合図に、神父シロウ=コトミネはキャスターとアサシンに背を向け、大地をその目に捉えた。
「......帰りは出迎えてやる。せいぜい働いてこい、マスター」
「ありがとう。帰ってきたら温かい味噌汁をお願いしますね、アサシン」
そう言い残し、神父はアサシンの転移魔術の中に消えていった。
「神父さん行ってらっしゃ~い♪」
「ん? 何を他人事のように言う。貴様も行くのだキャスターの紛い物。ほれ」
「へ? ぐはっ」
ついでにその中に、アサシンに蹴り飛ばされたキャスターも入った。
「ふん。せいぜいもがけ。帰って来たいのならな。
......さて、こちらに近づく羽虫が一匹。この荘厳な庭園に大して、何とも可愛い者が来たものよな。いいだろう、遊んでやろう。何秒持つやもわからんがな......」
英雄豪傑の集う、ルーマニアの大戦場。
そこに、何か大きな望みを抱く神父と、何か大きなことをしでかすキャスターが参戦したのだった。
× × × ×
「いったーい!!」
「行きますよ、キャスター」
「あー、わかりました。着いていきまーす。
もー! お姫さまはもっと丁寧に扱ってよねっ」
がーっ! せっかく初めて戦場にお邪魔するんだから、馬に跨がって格好よく参上! とかしたかったよぅ......。
「キャスター、戦闘はどの程度できますか?」
「んー......人並み!」
「では、後ろに逃げながら戦うのはどうでしょう?」
「あ、それは得意! 待て待て~って来るやつを、ここまでおいで~って弾幕ばらまきながら下がればいいんでしょ?」
「弾幕......主な武器は魔力弾ですか」
「そうかも。距離が遠かったら弾幕で、近いときは直接殴るかな」
ステータスを見たら、魔力はCで、筋力がB。
筋 力 が B !
あれれ~、おかしいぞ~? なんでかぐや姫にそんなステータスなの~? まあ実際私そこそこ力もちだからいいんだけどね~。なんか複雑~。
「そうですか、わかりました。キャスターには撤退のときの支援をお願いします」
「ん? 戦わなくていいの? サーヴァントが来ても?」
「サーヴァントが来てもです。この先にいるはずのサーヴァントは、私が一人で相手します。
撤退のときは指示しますので、それまで待機しててください」
「りょーかい!」
なーんだ、簡単じゃん!
ライダーのにいちゃんみたいな無茶を要求されたら......みたいにドキドキしてたけど、普通に易しいものでした。
「そろそろサーヴァントが来ます。隠れていてください」
「見学してていい?」
「構いませんが、見つからないようにお願いします」
「はーい!」
うっしゃ! 初めて生で見るサーヴァントとの戦い! 楽しみ!
もしかしたら私も参加させてくれるかもしれない! 幻想郷に来てからというもの、両拳を唸らせてガチで戦うのはあの子との"コロコロごっこ"だけだったから、あの子以外の人とも戦いたかったんだ! 戦いたいなー♪
あー、でも撤退戦だと弾幕使うべきなのよねー。神父さーん、私にも戦わせて欲しいナー。チラッチラッ。
「......キャスター、こっちを見てないで早く隠れてください」
「......はーい」
がっ、ダメ......!
まあいいや。大人しく見てよーっと。
ん、遠くから元気に来たあのサーヴァントは......女の子?