「古今東西、後世に名を残した大英雄が集う戦場か。まさか、私のようなものがここに関わることになるとは、な」
「先生! 僕に何かできることはありますか?」
「マスター......そうだな、引き続きゴーレム作りの調整と、できればこの城付近の警戒の強化を。サーヴァント小数の城を隙と見たアサシンが来るかもしれない」
「わかりました!」
ユグトミレニア城砦、その地下の一室。
ここでは、黒のキャスターとそのマスターが、戦場に繰り出すためのゴーレム作りに励んでいた。
「僕は弱いからね。まだ姿こそ見ていないが、アサシンなんかが来れば、
「でも、先生のゴーレムはアサシンにも負けませんよ!」
「ははっ、そうだといいね」
とはいっても、下準備は既にキャスターが終わらせており、あとはマスターであるロシェだけでも管理は容易い状態だ。
なので、キャスターはそこから目を離し、モニターに映されたいくつかの戦場を見ている。
(こちらのアーチャーと敵のライダーがぶつかっている。ライダーに接近されてもなお優勢とは、彼の強さは末恐ろしいな)
森の中での、アーチャーとライダーの戦い。
こちらとしては、大軍を物ともしないあのサーヴァントは足止めさえできれば御の字だ。それを完璧に足止め、ないしは討ち取れるかというアーチャーの働きは、流石の一言。
(怖いのは、あの出鱈目な耐久を誇るランサーと戦うセイバーと、バーサーカーとアーチャーの二騎と戦わされている我らが王様のほうだね。王様のほうは僕も支援しているが、さて......)
キャスターが不安視しているのは、両軍のエース対決とも言える平原での戦いと、二対一をさせられている我らが王様の戦いだった。
× × × ×
「っ―――」
「はっ―――」
剣と槍。
近距離の白兵戦において代表格とされる二種の武器。
それぞれの術を極めた両者の間に言葉や雑音の介入する余地は無く、ただ金属のぶつかり摩れ合う音と、時折肉が引っ掻かれるような音、そして荒れ狂う暴風とそれに混じる火の粉のみが、この戦場にある全てだった。
「っ―――!」
袈裟横凪ぎ唐竹突き足払い逆袈裟当身突き蹴り上げ唐竹横凪ぎ斬り上げ袈裟―――
一呼吸の内に墜竜の剣を重ねても、流されるか浅い傷を生むか。槍の奥にある体に深い傷を刻むに至らず、深く入らんとすれば忽ち神速の槍が牙を剥く。
「はっ―――!」
突き流し突き凪ぎ突き突き流し防御突き突き魔力放出突き流し突き突き突突突―――
針穴より狭き隙に連撃を撃ち込もうとも、灼熱の穂先は乾いた空を穿つのみ。必勝を期した槍も流され、逆に己が具足に傷をつけられた回数は知れたものではない。
「―――」
「―――」
互いが互いの武を心から称賛し、だからこそ心の中だけに留め、互いに死力を尽くすこの戦いに余計な水を差すまいとしている。
今この瞬間に決着がついてもおかしくない勝負は、しかし以前に戦ったときと同じく、永遠に終わらないものに両者は思い始めた。
「っ―――」
「っ―――」
ガキィィン!!
故に、示し合わしも無く両者は同時に強力な一撃を放ち、その反動で距離をとる。
そして、やはり考えることも同じ。
「剣よ、道を......!」
「マスター、魔力をもらうぞ」
自信の持つ武器に、莫大な魔力を込めて、構える。
その後のサーヴァントのすることといえば、唯一つ。
『
『
宝具の、真名解放だ。
× × × ×
「圧政者よ! 私の腕の中で安らかに眠るがいい!! ムーッハッハッハー!!」
「いいぞ、その名の通り好き勝手に暴れるがいい、バーサーカー。汝が作ったその隙を......射つ!」
数多の竜牙兵の屍、そこに新たにバーサーカーの血と折れた矢、そして幾千もの鋼鉄の杭とゴーレムの残骸に埋め尽くされた戦場が広がる。
「ふん、当たらん......しかし驚いた。キャスターのゴーレムの攻撃のみならず、余の杭に貫かれてもなお畏れず立ち向かうか」
「ムーッハッハッハー!! そうだ! そこに圧政が有る限り! 圧政者の鼓動が聞こえる限り! 私の弾劾の剣が止まることは! 無いッ!!」
「よく言ったぞ、反逆者よ。真実無限に存在する、恐怖の象徴たる余の杭。それを一身に受けながら、露とも畏れぬ気高き者よ!」
王は笑う。
反逆者がそれ以上に高笑う。
狩人は静かに隙を伺う。
それらを、魔術師に見張られているこの戦場。
(心臓を貫かれても、即動き始める耐久力。ならば、以前のように脳を貫く。......しかし、こうもアーチャーに狙われては狙いがつけられんな)
(そうだ。バーサーカーはあくまで囮。精々あやつに構って隙を見せろ。そのときがランサー、汝の最後だ)
(圧政者よ! おお圧政者よ!! 数多の苦難の果てに、我が拳は
(アーチャーは素早く、バーサーカーの片手間に貫くのは困難。魔力供給は良し。キャスターの援護もある)
(神父から指示が無い以上、これを続けるしか無いだろう......ここいらで、こちらから射って出るか)
『
「むっ......!」
......
アーチャーが天に放った光り輝く矢。それが空に達したところから、ランサーに狙いを絞った大量の矢が降り注いだ。
「全く、あのバーサーカーは何なんだ」
この戦場、実は簡単に決着がつく要素が一つ存在していたはずだった。
それは、キャスターのゴーレムによるバーサーカーの無力化だ。昨晩にバーサーカーの動きを完全に止めれたように、先ほどもライダーの戦車を止めれたように、ゴーレムが上手く機能すれば、王の戦場は早期にケリがつくはずだった。
しかし、現実はそう行かない。
「僕が地中に仕掛けたゴーレムの罠を、尽く
そのゴーレムの使用方法は、『地中に用意したゴーレムを溶かして相手にくっ付ける』という地雷のようなもの。
故に、地中のゴーレムのちょうど真上を通るときが最高の好機となる。
あの狩人のようなアーチャーなら、地面に感じる違和感などでその罠を回避できていてもおかしくはない。
しかし、バーサーカーは違うはずだ。アーチャーと違って彼にはこの罠が一度通じたはず。あのときと変わらず、理性を持たぬ獣のはずの彼が、どうやって罠を回避しているというのか。
「わからないね......ただ単に、
黒のキャスターはまだ知らない。
運の拗れた不可思議な戦場の最奥に、聖杯戦争を"旅"と称して紛れ込んだ
既に、[バーサーカーであるはずの彼が、ゴーレムトラップを避けてしまう]というトラブルが発生していることを。
× × × ×
「うわああああ!!」
ボフッ
「痛ったたたた......やられちゃったかー」
主戦場から遠く離れた平原。
ここに、一騎のサーヴァントが空から墜落した。
黒のライダー、アストルフォである。
「何だよあの城は~! 反則級に強いじゃないか~! しかも操ってるのはあの赤のキャスターよりもキャスターっぽい嫌なヤツだったし!
もー! じゃああの赤のキャスターは何だったんだよ~!」
事前の話、あの空飛ぶ城の宝具が赤のキャスターのものだろうという話を聞いて、アストルフォはどうにも納得できていなかった。
アストルフォは、黒のセイバーとともに一度赤のキャスターに会っている。ホムンクルスを外へ逃がしたときだ。
そのときの赤のキャスターは、あんな大層なことをしてきそうな人ではなかった。どちらかといえば、自身のような弱い側のサーヴァントだという印象を持っていたからだ。
「実は本当の赤のキャスターはあの城にいたほうで、あの赤のキャスターのお姉さんは違うクラス......? いや、あのお姉さんは僕の目の前で道具作成スキル使ってたし......でもあの女の魔術は僕の攻略本を破るくらい強かったし......」
それを確認する目的も込めて、アストルフォは空飛ぶ城に攻めいった。
しかし、そこて待ち受けていたのは、知った顔のキャスターではなく、アストルフォが想像するいかにも嫌な女キャスターだった。
はたして、どちらが本物のキャスターなのか。誰もいない平原で頭を悩ますアストルフォ。
......しかしこの英雄、わからないことはわからないと捨て置ける精神の持ち主でして。
「まあいいや! キャスターが二人召喚されたとか、そんなもんでしょ!
さてと、僕には僕にできることをしないとね! マスター、聞こえる? 僕は次は何をすればいいんだい?」
『..............................』
「おーい、マスター?」
『..................ブツッ』
「切られた!? なんで!? 僕なにか悪いことしたかい!?」
城にいた強いキャスターと、以前会った優しいキャスターのこと。
今後の自分の動きと、戦場の現状のこと。
アストルフォにはマスターに聞きたいこと話したいことがあるのに、とある日から彼とマスターの関係は変わり、以前までの熱いにも程があるマスターの執着はどこへやら、白けに白けて会話すら無くなっていた。
以前までのマスターの自分への執着を誰よりも知っているからこそ、アストルフォはマスターの変化にめっちゃ驚愕している。
「う゛に゛ゃ゛~! いいよもう! 勝手に行動しちゃうよ!」
以前より
× × × ×
「ふん、誰がマスターよ。人を勝手に主扱いしないでくれるかしら」
セレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。
ユグドミレニア一族として聖杯大戦に参加した、黒のライダーのマスターである。
「アストルフォ、あなたはもう用済みよ」
サーヴァントのアストルフォに異常な情欲を向けていた彼女だがしかし、既にその心からアストルフォへの興味は失われていた。
理由は、アストルフォが
しかし、それ以上に大きな理由は、
「あ~......どこにいるの~? 何をしているの~? 早くその姿を見せて......」
彼女が次のターゲットを見つけたこと。
「赤の♪ キャスターちゃん♪」
即ち、彼女が黒のライダーの視界を通じて、赤のキャスターの"魅了"スキルに当てられたからであった。
× × × ×
「どうだマスター、この馬動くか?」
「どうもこうもねえ。コンプレッサーが完全にイカれてやがるぜこりゃ。動かんわな」
「なんだって~!? コンプだか昆布だか知らねえが、直せねえのかよマスター!」
「すぐには無理だ。何なら街に戻って、新しい車を探したほうが早い」
正史では、このタイミングで黒のライダーとかち合っていたはずの、赤のセイバーとそのマスター。
彼らもまた、トラブルに巻き込まれていた。
「だぁ~!! 戦場に遅参してる時点で大恥だってのに、馬が動かなくて戦場に行けないとか、ねーわ! くそっ!」
ボゴッ!
「やめてくれ。お前さんの筋力で車を破壊しちまったら、最悪爆発して俺が死ぬんだが」
「うるせぇ! 加減してらあ!」
「何なら、ここから歩いて現地に向かうか?」
「騎士に徒歩で戦場に向かえだと~!?」
「悪いが、今はそれしかねえ。それとも令呪を使うか?」
獅子劫の手に刻まれた、まだ一度も使われていない令呪を、セイバーが見つめる。
令呪の奇跡を借りれば、確かに今すぐにでも戦場に着くだろう。
「あ~..................
そいつは止めとく。そいつを使うのは、聖杯獲得に直接関わるときだけだ」
「賢明だな、王様」
「ったりめーだ! 今すぐ戦場に行こうが、時間をかけて悠然と行こうが、大して変わりないからな」
しかし、セイバーは止まった。
こういうところで、自身のプライドに縛られすぎず、マスターとともに冷静な選択を取ることもできるのが、赤のセイバーの強みであった。
「まあ、そうなると歩いて行ってもらうことになるな」
「......マスター」
「なんだ?」
「魔力、搾り取るぞぉ!」
魔力放出(雷)
「なっ......!? おい! 車にはやめろ!」
「うおおおおおおお............!」
「......ったく、行っちまったよ」
馬が使えないとあっても、一刻も早く戦場に行くのが騎士の勤め。
竜の因子をもつ赤のセイバーは、どこかの誰かとまるで同じように、自身の後方に魔力放出をジェット噴射することによる高速移動でもって、戦場に全力疾走した。
......そして、そんなふうにトラブルメーカー全力全開で戦場をかき乱しまくりな、どこかの困ったちゃんはというと......
× × × ×
「ナァァァァアアア!!」
ブウォオン!
「......っ!......!...っ!......」
「オウッ!!」
ドゴォ!
「......ふう、大振りだから避けやすいとはいえ、怖いですね」
ワホーイ!
リアルタイム戦場だこれ!
さっきまでやってたゲームの中で見てたものが目の前にあるよ! すごーい!
「フニャアアアアアア!!」
「......!
お~!? 神父さんが投げた短剣が、空中で止まってからバーサーカーちゃん狙いで飛んでった!?
神父さんも魔術師さんなんだ。それなんか面白い! そういえば幻想郷にも僧侶兼魔法使いさんがいたっけ? 南無三ッ! とか言う人!
「ナグッ!? ムーッ! ナァァアアア!!」
その剣が刺さっても構わず勇敢にハンマーをぶん回すバーサーカーちゃん! 可愛い! 健気って言うのかな~あの可愛さは♪
「......!......っ......!」
「ナァアアオウッ!」
刺されても斬られても、臆せず立ち向かって来るか~。なーんだろ、どこかで......見たことがあるような、懐かしいような......
......あ。
「ああああああああああ!!」
「ムグッ!?」
「......っ、キャスター、あなたは静かに見てなさいと」
「思い出したよ! バーサーカーちゃん!」
「ヴヴヴ......?」
そうだそうだ! やっとわかった!
「そうそう! その警戒心も敵意もむき出しでこっちを見る姿とか、自傷を気にせず突っ込むところとか! 三百年くらい前の
あ~懐かしい~♪ あの頃の
あ~懐かしい! 懐かしい!
「ねえあなた! 一度自分のことを"オレ"って言ってくれないかしら?」
「ヴヴヴ......!」
「う~ん、ダメか! 残念!」
くぅ~!
言って欲しかった~!
「キャスター」
「はい」
「いい加減にしてください」
「はい。ごめんなさいでした」
怒られちゃった。てへぺろ。これ最近の流行りね♪
さて。
「でも、神父さんも悪いのよ? さっきから代わり映えのない戦闘ばかりしてるもん......つまんなくなって、姫様としてはちょっかいかけたくなるわ」
「だからといって、みだりに体を出しては......」
「ナァァアアア!!」
「あ」
「おっと」
おっと、バーサーカーちゃんこっち来ちゃった。
「ウルァアア!!」
お腹目掛けて横振りに迫る丸っこいハンマー。当たったら痛そうだなあ。
まあ、
「ほいっと、どーん!」
「ムグッ!?」
「もいっちょ、どーん!」
「モガッ!!」
膝でハンマーの先端を下から突き上げて、体を反らしてハンマーを回避。
んで、反らしついでに反動を利用して、隙だらけのバーサーカーちゃんのお腹に拳をどーん!
「グゥ......!」
どうだ! これが"筋力B"の力だ!
でも"敏捷E"だから避けきれなくて掠っちゃった! あーコワイコワイ。
ちなみに、今のはもこたんとの長年の戦いで身に付けた、"対正拳突き用よくばりセット"! 火を纏った突きを決めてきたもこたんの鳩尾に決めてあげると、最高に愉快な悲鳴が聞こえるわ♪
「ふー、怖かった♪」
「........................」
「ん、あ、ごめんごめん。この戦いでは神父さんが活躍しなきゃだよね。どうぞどうぞ」
「........................」
「......ん?」
ん? あら?
なんか、神父さんに凄くウザいものを見る目で見られています......
そんなに勝手に体を出されるの嫌だったの? そうなら私めっちゃ謝るよ? 確かにやっちゃったなーとは思ったし。
「......はぁぁ~~......もういいです。
確かに、代わり映えのしない、大して盛り上がりのない場面を引っ張るのは物語として考えものですね」
お。許してくれた! ありがとう!
んで、どうするん?
「ヴヴヴ......!」
「キャスター、撤退します。支援を」
「よしきた! おまかせ!」
そして来た! 活躍のチャンス!
よーし、やったるで!
× × × ×
「......なんなんだ」
カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。
黒のバーサーカーのマスターである。
現在、ユグドミレニア城砦の一室にて、使い魔の視界を通じてバーサーカーの状況を見ながら指示を出すことに専念している。
その目が、あり得ないものをいくつか見た。
第一に、サーヴァントであるバーサーカーと互角の戦闘を繰り広げていた、神父と自称する謎の人物だ。
神父、というのはわかる。魔術協会から派遣された監督役とかいうやつだろう。
「まさか、代行者か?」
そうだ。相性や条件次第で、サーヴァントに匹敵する戦闘能力を持つ者がいると聞いたことがある。あいつがそれか?......可能性の一つとして念頭に置いた。
というか、そんなこと霞むくらいにあり得ないことがある。
「あいつ......本当にキャスターなのか?」
第二に、前触れなく唐突に現れた赤のキャスターのステータスだ。
"耐久E"、"敏捷E"などいかにもキャスターらしいステータスもあるにはある。"幸運A"もまあまああるかもしれない。
だが、なあ。
"筋力B"はおかしいだろ! あの細い腕と胴のどこにそんな筋肉があるんだ。
そしてだなあ。
"魔力C"はもっとおかしいだろ! それでよくキャスターを名乗れるなあおい。
「大丈夫か、バーサーカー!」
『ヴヴヴ......!』
「......まだやれるか?」
『ヴゥ! ナァァアアア!!』
「よし......いやいやよくないよくない......」
そして最後に、先ほどバーサーカーが赤のキャスターに攻撃したときに見た、異常なほど洗練された身のこなしだ。
「......おかしいだろ。あいつ本当にキャスターなのか?」
あいつのあの動きはおかしいと、その一言に尽きる。
迷いのない回避と、溢れる余裕、恐ろしく後ろに仰け反ってなおその反動を利用する発想と、それを可能にする体......極めつけは彼女の
武道に関係のない人生を送ってきた自分でもわかる。あれは魔術師が一年や二年だけ興味を持った程度で身に付く物ではない。それこそ、
「格闘専門の魔術師か......? なんて邪道な......」
自室にインターネット回線とパソコンをもらった魔術師である自分が言うのがおかしいのはわかってる。
それでも言わせろ。
おまえのその動きはおかしいぞ、赤のキャスター。