【完結】赤のキャスターは蓬莱山輝夜   作:木工用

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トラブルメーカーの置き土産

 

 

 

 

「ふー。今日はここらで宿を探すかのう」

 

 所変わって、ここは富山県の某所、富士山が綺麗に見える宿場町だ。

 一人の大荷物を持った中年の男が、暮れてきた日が山と山の間に沈みゆくのを眺めながら、今日の安宿を探していた。

 その目が、

 

「はぁ......はぁ......はぁ......」

「......ん?」

 

 ボロボロの白い服にツギハギだらけの赤いズボンを着て、地面に着いてしまうほど長い白髪を後ろにまとめて、地面に腰を降ろして肩で息をしている女の子を見つけた。

 

「そこの女の子、どうした?」

「......あ......」

「そんなとこに一人でいては危ない。お金がないなら、警察を頼るなり、子供もちの家族を頼るなりしなさい。ともかく、一人はいけないよ」

 

 至ってまともな感性に立派な良識を持つその男は、女の子に声をかけた。

 長すぎる白い髪に目元が隠れており、幽霊やモノノケを連想させなくもない見た目の女の子。しかし、女の子からは長い道を全力疾走した後のような熱を感じ、人の存在であることが明らかだった。日の暮れる路上に彼女を見捨てることは彼の良心が許さなかった。

 

 男は、自分の大荷物から一つの服を取り出した。

 

「これを着るといい。本来は()()()()()()()()だが、まあ寒さも問題なく防げる女の子用の上着だ。冬にその服一枚では辛かろう、上に着るといい。」

 

 それは、所々に焦げた後のような模様がある厚めの赤い服だった。

 荷物の中から女の子に似合う服を探した結果、どうにもこの服が女の子に似合う気がしてならなかったのだ。それはもう、まるで本来の持ち主のもとへ帰すように。

 

「......これは?」

「駄賃ならいらんわい。その服は売り物だが、どうにも売れ行きが悪い。外国で一着売れただけで、残りの在庫はあえなく処分しようと思ってたものだからな。

 おっと、申し遅れた。わしは阿倍(あべ)、しがない商人だ」

 

 人当たりのいい笑顔を浮かべ、話ができる程度には警戒心を解いてもらおうとする商人の男。

 努力の甲斐あってか、女の子は少し表情を和らげ、とりあえず渡した赤い服は着てもらえた。

 うん、やはり似合う。サイズも悪くはなさそうだ。

 

「ん、暖かいな......これ、なんて服なんだ?」

 

 おそらく女の子からすれば、本当に何気なく言った程度のもの。

 しかし、男には答えづらい質問であった。

 

「うーむ、名前は確かにあるが......誰にも話してくれるなよ?

 その服には、()()()()に因んだ名前がある。しかし、その服は物語にある服では無いんだ。だから、名前を聞いても、本物かどうかを()()()()確認したりはしないでほしい」

「......物語? 燃やす? どういうことだ」

 

 首をひねる女の子。改めて見ると、華奢に見える体にも確かな筋肉がついており、整った体つきからは、漫画かなにかから抜け出してきたかのような美しさを感じさせてくれた。

 もちろん、この男に怪しい気は無い。ただ良心がために、警戒心を解こうと会話しているだけだ。

 

「聞けばわかるさ。

 その服の名はな―――火鼠の皮衣(ひねずみのかわぎぬ)というんだ」

 

 本当に、ただ警戒心を解こうとして、その話をしただけであった。

 のだが、

 

「っ!! おい! 何て言ったッ!!」

「えっ、ちょっ、なんだっ」

 

 それを聞いた途端、女の子を纏う雰囲気が一変した。

 まるで火がついたように女の子は飛びあがり、商人の男に両手で胸倉に掴みかかってきた。

 

「まさか()()か!? そうだろう!? 輝夜だろう!?

 輝夜ああああああ!! どこにいるんだ輝夜あああああ!!」

「待て待て! どういうことだっ」

「輝夜よ! 見てるか!?

 お前が出てくるまでこいつを詰め続けるぞ輝夜あああああ!!」

 

 先ほどまで前髪に隠れて見えなかった赤い瞳をくり剥いて、全身で怒りを燃やす女の子。

 商人の男は動揺する。しかし、女の子の言葉から聞き覚えのある単語が聞こえたのを逃さなかった。

 

「ん? カグヤ......?」

「そうだ! 輝夜だ!! あいつはどこだ!」

 

 カグヤ......火鼠の皮衣......はっ!

 

「思い出した! 君と会う前に、その火鼠の皮衣を買った唯一のお客様がいたんだ」

「そいつが輝夜か!?」

「僕はそのカグヤが誰かわからないけど、男の人だった。

 だが、その人は確かに"カグヤひめ"がどうたらこうたらと言ってた」

「それは真か!?」

「ああ。本当はお客様の情報は守らなきゃなんだけど、お嬢さんには特別な事情がありそうだからね。特別だよ」

 

 胸倉を掴まれながらも、必死に愛想笑いを作る商人の男。

 夕暮れ時に一人ぼっちだったから声をかけたものの、どうやらこの女の子は非力とは無縁の存在だったようだ。胸倉を掴まれ睨まれているだけで、大の男が怯まされるだけの威圧感を持っていた。

 

「そいつはどこだ!? どこにいる!?」

「い、イギリスのロンドンという都市で取引をした。でもそのお客様は、近々()()()()()という国に行くと言っていたから、今ごろはルーマニアにいるかもしれない」

「るーまにあ......るーまにあ......」

 

 女の子は国名を復唱し始めた。

 まさかとは思うが、行くつもりなのだろうか?

 

「わかっていると思うが、行くなら家族と一緒に行くんだよ?

 ルーマニアは君が思うよりずーっと遠いところにある。遠い遠い、海の向こう側だ。お嬢さん一人では無理だ」

 

 商人の男は、あくまで当たり前のことを話す。

 しかし、女の子はどこか上の空だった。

 

「......るーまにあか、わかった。ありがとうおっさん。掴みかかって悪かった」

「礼を言うくらいなら、無事に家族のもとに帰ってほしいかな」

 

 掴んでいた胸倉から手を離し、女の子は礼を言って後ろに振り返った。

 大丈夫かなと心配になった男だったが、流石にあの歳の少女が一人で外国に渡るとは思えない。男の思考はそこまでだった。

 

「じゃあ、元気でね。早く家に帰るんだよ」

「......ああ。ありがとうな」

 

 無事に家まで帰るようにと祈りつつ、男は振り向いてその場を後にした。宿を探さないといけないのは自身も同じだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、商人の男は気になって昨日の出来事があった場所に帰ってきた。

 女の子はその場にいなかった。

 

「ふう。無事に家まで帰ったかな」

 

 もう、男の出る幕はない。

 最後まで事情がわからなかった女の子のことを考えながら、その場を歩いてみる。

 すると、男の目があるものを捉えた。

 

「......?」

 

 アスファルトの上に、()()()()()()()()()()()()がそこについていたのだった。

 

「......数奇なトラブルもあるものだな」

 

 

 

 

 

 男は知らない。知ることは決してない。

 あの女の子に、身寄りなんて無かったことを。

 あの女の子が、本当に単身でルーマニアに向かったことを。

 女の子の名前が、藤原妹紅(ふじわらのもこう)であることを。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

「はっくしょんっ!」

「ナァァァアアア!」

「んも~、しつこいなー!...はっくしょん!」

 

 あーもう、さっきから私の噂をしてるのはどこのもこたんよ!

 コロコロしちゃうぞぉ? へへっ♪

 

「キャスター、もっと距離を稼いでください」

「いやー、なんかこの子、電気ビリビリで弾幕を分解しちゃうんだよね......」

「アァァァアアア!」

「ひえぇ~、可愛いって言ったこと怒ってるのかなぁ......」

 

 うん。撤退しようってんで下がりながら弾幕撃ってるんだけど、電気に弾幕が消されるの。

 ズルいよ~、弾幕消すなんて~。これじゃあ必殺の金閣寺も効かないじゃんよ~。

 

「あなたの魔術はその程度ですか」

「私はお姫様だもん! 魔法使いじゃないもん!」

「あまり真名がバレるような発言はやめてください」

「ナァァァアアア!!」

「うわまた来た!」

 

 今度のバーサーカーちゃんは電気を纏ってるから、接近戦は無理! 勝てない!

 弾幕も無理! 消されちゃう!

 結論、詰み! おしまい! やっぱり敏捷Eの私に撤退戦は無理だったんだ!

 

「仕方ないですね......Anfang(セット)

 そして......壊 れ た 幻 想(ブロークンファンタズム)!」

 

「ムグッ?......ギィ......!」

 

 おお?

 神父さんが投げた短剣がバーサーカーちゃんの足元に刺さった!

 そして爆発した!

 

「逃げますよキャスター、こちらです」

「いえっさ!」

 

 辺りには爆発してできた濃いめの砂埃! そこに私の大玉弾幕をバラまいて、視覚阻害は完了!

 ちょっと情けない方法だけど、これなら逃げれるぜ! あばよ~、とっつぁ~ん♪

 

「ウルァァァアアア!!」

 

 遠くからバーサーカーちゃんの悔しそうな声が聞こえるぜ!

 

「アサシン、位置に来ました。転移を」

『ようやくか。こちらには羽虫が一匹来たのみでな、暇であったぞ』

「ごめん。ここからは君にも活躍してもらうから」

『ふん......それと、みそ汁ならマスターの部屋にある。冷めないうちにいただけ』

「えっ」

『えっ』

「......本当に作ってくれたのですか。ありがとう、セミラミス」

『......さっさと帰れ、マスター』

 

 近くから神父さんの惚気会話が聞こえるぜ! きゃ~♪

 おっと、目の前にこれ見よがしな魔法陣出現! これを通れば帰れるぞ! いざ、のりこめ~^^

 

「ではキャスター、バーサーカーは頼みます」

「うん!......うん?」

 

 うん? 頼みます?

 

「よっと」

 

 魔法陣に入って行った神父さん。

 

『さらばだ、キャスター。またこの世で会えるといいな?』

 

 アサシンさんの言葉と同時に、()()()魔法陣。

 

「......うん?」

 

 置いていかれた私。

 

「ウルアアアァァァ!!」

 

 遠くから聞こえるバーサーカーちゃんの声。

 

 

......これ、死んだんじゃないの~?

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「......ふぅ......ふぅ......!」

「......すぅ......ふぅ......!」

 

 剣と槍の戦場も、終わらず。

 

 

 

「化生に墜ちようとも、弾劾を望むか。なんたる執念か! それでこそ英雄! それでこそ反逆者!」

「ムーッハッハッハー! 愛゛ィ゛!!」

「......並んで戦う気は毛頭ないが......あのような化け物にも、使い道はあると考えよう」

 

 王と反逆者と狩人の戦場も、長引いた。

 

 

 

「自分にできることを見つけよう! 僕は、サーヴァントなんだから!」

 

「くっそおおお! 敵はどこだあ!!」

 

 冒険者と騎士は、会うこともなかった。

 

 

 

「まっ、待ってくれ! ぐっ、ぐああぁぁ......!」

「わあ~♪ この人たち、美味しい!」

 

 殺人鬼は、森の中の戦闘人形をバイキングのように食い漁った。

 

 

 

「ふんっ!」

「がッ!?......くっそ......」

「動きも殺意も甘すぎる! そんなもので敵を倒せるとでも思っているのですか」

「っ......先生......!」

 

 先生と生徒は、拮抗した戦いをし続けた。

 

 

 

「ヴヴヴゥ......!」

(ひえぇ~......! 見つかったらヤバい~......!)

 

 狂った乙女と困った姫は、食うものと食われるものの隠れんぼを演じていた。

 

 

 

「......啓示が降りない......サーヴァント同士の戦いにも問題はない......どうして私は現界させられたのでしょうか......」

 

 裁定者は、何らかの()()()()で降りない啓示に戸惑っていた。

 

 

 

 未だ誰も欠けず、未だ誰も負けず、勝たずの戦場。

 全てが全て、形は違えど拮抗し、停滞したままの大戦場。

 

 

「ふう......ここが、赤と黒の集まる戦場か」

 

 そこに、ライダーの剣を手に一人のホムンクルスの男の子―――アカが到着した。

 ちょうどそのタイミングで、彼の視界の中で"それ"は起こされた。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

令呪ずる―――』

 

 聖杯戦争には、いついかなるときにも切り札となりうるものが存在する。

 マキリが開発した、マスターの手の甲に宿る、サーヴァントへの絶対命令権―――令呪だ。

 

『―――アサシン、空中庭園をユグドミレニア城砦の真上に転移させ、大聖杯を強奪せよ』

 

 

「なっ......!? 先生! 大変です!」

「どうしたマスター?」

「まっ、真上に! 敵の城が出現しました!!」

「......何だと......!?」

 

 

 その赤い光に応えるように、赤の陣営の空中庭園が、サーヴァント過疎のユグドミレニア城砦の真上に瞬間移動した。

 

 

「......どうした神父......わかった。

 悪いな先生! この場は預けたぜ!」

 

 

疾 風 怒 濤 の 不 死 戦 車(トロイアス・トラゴーイディア)!』

 

 

「なっ......!」

 

 

「乗れ! ランサー! アーチャー! ついでにバーサーカー!」

「心得た」

「了解した。お前は俺が持ってくぞ、バーサーカー」

「オオ? オオオオ~......!」

 

「......くっ、斬るに至らず、か......」

「なにっ......邪魔が入ったか。おのれ......!」

 

 

 そして、ライダーの戦車が赤のサーヴァントを回収したことで、地上の戦場も終わりを迎えた。

 

 

『抉れ―――十 と 一 の 黒 棺(ティアムトゥム・ウームー)

 

 そして、空中庭園から照射された三つの巨大なレーザーにユグドミレニア城砦は抉られ、その下にあった大聖杯を丸裸にされた。

 

「......バカな! このままでは、大聖杯が......!

 王よ! 何処にあらせられる!?」

「きゃっ!」

「な、地震か!? なんだ!?」

「...ああもううるさい! 赤のキャスターちゃん人形作りを邪魔するんじゃないわよ!」

「ぐう......! ホムンクルスの貯水槽が......!」

 

「ダーニックか......何!?」

「......まさか、赤の陣営の王手ですか......!」

「ウルァァァアア!!」

「なっ......なんだよそれ! 卑怯だ!」

「......これが、聖杯大戦か......」

 

 あまりにも突然の危機に、黒の陣営はマスターもサーヴァントも大混乱した。

 

 

『聞け!! 黒の陣営の諸君!!』

 

 

 だが、この状況において、ただ一人だけ頭を働かせて指示をできるものがいた。

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

「赤の陣営の狙いは大聖杯だ! 敵の城は大聖杯を魔術によって吸い寄せている! 敵のライダーが地上のサーヴァントを回収したことから、やつらは大聖杯を持ったまま逃げる気であることは間違いない!」

 

 ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。

 自身が一度聖杯戦争を経験していることや、元々の頭がいいこと、何よりも敵のとった行動が()()()()()()()()()()()()()していることから、比較的冷静に頭を働かせることができた。

 

「だが、敵は大聖杯を回収するので精一杯だ! 故にあの空中庭園に乗り込むのは、大聖杯を吸い寄せている今こそが好機!」

 

 大聖杯。

 あの輝きは、ユグドミレニア一族の勝利の象徴。

 絶対に、失われるようなことがあってはならない!

 

「マスター、及びサーヴァント全員に通達する! 戦闘員は今すぐ空中庭園に乗り込み、敵のサーヴァントを退け、大聖杯を奪還せよ!」

 

 ダーニックは一人、大聖杯のあった場所で必死に頭を働かせていた。

 

(くっ......やつらの狙いは始めから大聖杯だったか......! 先ほどの瞬間移動は、間違いなく赤のマスターの令呪。なるほど確かに有効な使い方だ。まるで私のように、一度聖杯戦争を経験しているような慣れを感じさせるな......亜種の経験者でもいるのか......)

 

『王よ、空中庭園には乗り込めましたか』

『ああ。セイバー、アーチャー、キャスターも共にいる。案ずるなダーニック、我が汚名を抹消するためにも、必ずや大聖杯は取り返す。城で待つ臣下のためにもな』

『......よろしくお願いいたします、我が王よ』

 

(戦力は十分だ。先ほどまで戦いを拮抗させていたものは軒並み空中庭園に乗り込めた。ライダーとバーサーカーは......行けたとしても戦力にはなれまい。

 戦場で赤のセイバーを見なかったことが唯一の気がかりだが......遅刻でもしたのだろう)

 

 落ち着いて、腰を据えて現状を捉える。

 そのとき、自分の右手に宿る令呪が見え、ダーニックの顔に悪人の笑みが浮かんだ。

 

()()()は、我が手に......」

 

 そう、ダーニックは一人で思惑に更けていた。

 ()()で。

 

 故に、

 

 

 

 

 

 

 

「ええっと、あなたがダーニックさん?」

 

「っ!?」

 

 令呪で転移してきたのが空中庭園だけだと見誤り、

 今のユグドミレニア城が完全なる無防備だという事実に気づかず、

 聖杯戦争において、頭―――マスターを狙うのは常道という基本的なことも頭から抜けていたダーニックは、

 

「こんにちは♪ 赤のキャスターっていいます! あなたをコロコロするために来ました!」

 

 令呪で転移してきた、ただ一人だけライダーに回収されずに戦場に残っていた赤のサーヴァントに気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、ダーニック。六十年前に自分がしたこと、少しは思い出したか」

 

 ここまでの全ての展開が、部屋で優雅にみそ汁をすすっている神父―――シロウ=コトミネの掌の上であった。

 

 

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