「え~......?」
さっきまで頭上にあった空中庭園が、相手さんの城の上にワープして、極太ビームをドカーンして、綺麗な丸いものを盗み出した!
......何だろう、この既知感は。
魔法......極太ビーム......死ぬまで借りてく......うっ、頭が...!
『令呪を以て命ずる―――』
ん、マスターさんの令呪? なんだろ~......
あ、転移がいいな! 電気ビリビリのバーサーカーちゃんから逃げたいもん!
転移来い! 転移来い! 転移来い!!
『ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアのもとに"転移"し、彼を今夜中に始末せよ』
イヤッッホォォォオオォオウ!
× × × ×
「赤の......キャスター......か......」
「うん、そうだよ♪」
マズイ。
マズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!
「......ご丁寧にどうも。いかにも、私がダーニック・プレストーン・ユグドミレニア、この城のオーナーでございます」
「へ~! あなた、この城の持ち主さんなんだ!」
「はい。いかがでしょうか? この城は。あなたのお目に適うものでございましょうか?」
「そうね~。私の家とは違って西洋チックな雰囲気で、なかなか見る機会が無かったけど、あの目に悪い色の館よりはこっちのほうが好きだな~」
黒の陣営のサーヴァントは、主力が全て空中の城を攻めに出払っている状況。故にこちらの守りが薄くなるのは必然。
その隙を突いてくる、最悪の一手だ......!
「そうですか―――物は相談なのですが」
「ん?」
令呪でヴラドを呼び戻すことは、叶わない。
ただでさえ戦力に不安がある攻城部隊からヴラドまで抜けてしまえば、勝利は絶望的になる。そうなれば大聖杯を失い、我が一族の悲願も、ここで終わってしまう。それだけは避けなければならない。ヴラドは呼び戻せない。
他のサーヴァントやマスターと連絡を取ろうにも、目の前にいる敵サーヴァントがその隙を見逃すわけがない。
戦う、というのは論外だ。魔術師が、
こうなったら......己にできることは一つ。
「私の陣営に来る気は、ありませんか?」
「...........................」
口八丁に、八十罠と嘘八百を絡めて贈る。
"八枚舌のダーニック"による、命と名誉と一族を賭けた交渉だ。
「怪しむお気持ちもわかります。ですが私は、貴女にも聖杯を手にいれて欲しいだけなのです」
「...........................」
相手のキャスターは、返事こそないものの、一応こちらの話を聞く素振りを見せている。
これがバーサーカーやアサシン相手で無くて本当に良かった。もしそうなら今ごろ自分の命はない。
「考えてみてほしい。あなたは赤の陣営の皆が全員空中の城にいるなか、たった一人でこの城に攻めに行くように命ぜられた。
それって、おかしいことだとは思いませんか? 赤の陣営は我々黒の陣営のサーヴァントを退ければ、直ぐに撤退できる。聖杯も何もかも持って、皆仲良くですね」
「..............................」
「ですが、貴女は違う。一人で、生きて帰れるか判らぬ敵地のど真ん中に、キャスターという非戦闘向きクラスであるにも関わらず放り出された。
―――包み隠さず言います。貴女は赤の陣営に捨てられたのです」
「..............................」
自分の持っている情報、持っている能力、持っている知恵。
その全てを、この場に。
「他の赤のサーヴァントに比べれば劣ってしまう能力、そしてステータス。今のところ大きな武功も立てられず、逆に敵のサーヴァントの救いたい相手を救ってしまうという破天荒な行動。
ここに来て、貴女のマスターは恐れたのでしょう。自分がそれらを理由に、戦いの後の利益交渉で他の赤のマスターに比べて不利益を被ることを」
「...........................」
「よくあることじゃないですか。自分のサーヴァントの命を差し出すから、役立たずな自分のことも大目に見てくれ、周りと同じ待遇にしてくれってやつです。
貴女は、自らのことしか考えないマスターにその身を売られ、哀れにもその仕事を全うすることしかできない"捨て駒"にされたのだということを......理解していただけたでしょうか?」
「...........................」
主張するのは、相手の境遇の悪さ。
そして続けるはこちらの待遇の良さだ。
あわゆくば、寝返りを狙う。
「我々は、貴女にそのようなことはしない。サーヴァントとして召喚に応じてくれたことへの敬意を払い、思いを尊重する。してくれということには直ちに応じ、するなということは絶対に守る、約束します。
貴女の協力を経て聖杯を取り戻した暁には、当然貴女にも望みを叶えてもらいましょう。陣営を変える、という危険で勇気の必要な行動をとってくれた貴女には、もちろん優先的に」
「........................」
「部屋も当然個室を用意いたします。空き部屋はいくつもございますので、直ぐにご用意できるでしょう。欲しいものは早急に取り寄せさせていただきます。
代わりとなるマスターには、絶対に貴女に口出ししない利口な者を派遣します。我が陣営には無尽蔵の魔力供給装置がありますので、そちらも心配要りません。今まで魔力供給が不安でできなかったスキルや宝具も、存分にご使用ください」
「...........................」
......締めだ。
「......地下で立ち話というのも難ですね。客間に移るとしましょう―――ご案内いたします」
「..............................」
無言でこちらを見て立ち尽くすのみのキャスターに近づき、笑顔で手を差し出す。
一見ただの案内の誘いだが―――これに乗るということは、黒に寝返るということ。それを感じさせぬように、されど気づいたときには逃げられないところまで誘い込んだ。
この手腕で、幾度も魔術協会のクソじじいどもを欺いてきたのだ。
八枚舌に滞り無し。その手腕に陰り無し。
あとは、この手を掴んでさえくれれば、こっちの―――
「―――一昨日来やがれ☆」
バコオォン!!
「がッ......ぅあッ!」
な......にが......おきた......?
どうして、私は、天井を見ているんだ。
どうして、こんなにも世界が、波打つんだ。
どうして、こんなにも顎と舌が、痛い............ッ!?
「ああああああああああッッ!!」
痛い!
痛い痛いいたいいたいイタイイタイ!!
舌がッ! 舌がアアアアアアアアッッ!!
「そーれっ♪ もこたんぱんち!」
「グフッ!?」
......なぜ......!
「もこたんきっく!」
「グハァ!?」
......なぜ......だ......!
「もこたんちょっぷ!」
「ガッ!?」
......グッ......!
「ナゼ......なんだ......っ!」
「もこっ...あら、まだ喋れるの。すごーい♪」
......はあ......はあ......はあ......まだ、生きているか? 生きているな......なら、まだだ。
丈夫なのには訳がある......魔術師は、一族の魔術を後世に残すため、己の体に刻まれている魔術刻印に肉体強化の魔術を仕込んでいるからだ。
そして自身は、恐らく今回の聖杯戦争における最強のマスターだ。自分の魔術師としての腕にはそれくらいの自信がある。故に、それ相応の耐久力も備えているわけだ。
だが、このキャスターの攻撃の重さ、どう考えてもキャスタークラスの筋力ではないステータス......まさかクラス騙りか何かか......?
「お前は......!」
「うん」
......わからない。
「死ぬのが、怖くないのか......っ!?」
目の前の、自称キャスター女のことが、何一つとしてわからない!
「えー? だってー」
キャスターは、そう言いながら、右の拳を高々と振り上げて―――
「そのほうが、楽し―――」
振り下ろ―――
「バーサーカーッッ!!」
「ウルゥゥウアアアア!!!」
―――されなかった。
× × × ×
「ふっ......!」
「はっ......!」
平原から空中庭園の中へと場所を移した戦場。
狭い空間の中でも、剣と槍の両者は変わらず打ち合い、
「はあ!」
「ぐっ......!」
先生と生徒はぶつかり合い、
「......どこから来るのだろうね」
ゴーレム使いは、アサシンやキャスターからの不意打ちを警戒して備えていた。
しかし、
「オオオオオオオオォォゥゥ!!」
「ぐっ......馬鹿な! 何故......!?」
「ふん、まさかバーサーカー如きに封じ込められるほどに弱ろうとはな、黒のランサーよ」
黒のランサー、ヴラド三世だけは、そのスキルや知名度の圧倒的な差から、著しい弱体化を受けていた。
その参事たるや、化け物のような絵面のバーサーカー一騎に完封されている現状だ。
「圧政に反逆を! 圧政に痛打を!!
ムーッハッハッハー!!」
「小癪な......!」
「どうした!? 動きが鈍いぞ圧政者!!」
「ぐっ......『
苦しみながら、無理矢理に反撃に出るも、
「オオウ......ムッフフフ......!」
「っ!?」
"耐久EX"を誇るバーサーカーから、効いている気配は感じられない。
「痒い゛ィ゛!!」
「ぐおああっ!」
ついにバーサーカーの強烈な一撃をもろに受け、背中から壁に衝突してしまう。
ヒュンッ!
その瞬間を狙ったように、赤のアーチャーの矢が飛来する。
矢先にあるのは、黒のランサーの頭蓋。
「っ......!」
「......ちっ」
辛うじてその矢を避けたヴラド。
だがそこに、再びバーサーカーの拳が迫る。
「愛゛ィ゛ィ゛!!」
「ぐうっ!」
杭を全力展開し、自身の槍も使ってその拳を受け止める。
だが、バーサーカーの重量と筋力は凄まじく、徐々に押し潰されていく。
後ろは壁で、下手に逃げればアーチャーの矢が待っているであろうこの状況。
絶体絶命とはこのことだ。
(万事休す、か......?)
× × × ×
「はあ......! はあ......! はあ......!」
キャスターに止めの一撃を喰らいそうなところで、カウレス君の黒のバーサーカーに助けられ、辛くもその場を脱出したダーニック。
専門ではないが、聖杯戦争に参加したマスターとして当然の治癒魔術は習得しており、舌を始めとする各種重要部位の治療は終えていた。
「いかんな......ヴラド三世もピンチか......!」
その目の奥に映るのは、サーヴァントと魔力のパスを通じて共有している視界。
即ち、己のサーヴァントが巨大化したバーサーカーに押し潰されそうになっている危機的状況だ。やはり知名度補正が失われ、弱体化したか。
もはや一刻の猶予もない。すぐに何かしらの対処をしなければ。
しかし......だ。
「"
ヴラド三世には、ある宝具が存在する。
その宝具を発動すれば、飛躍的に向上する能力でもって赤のサーヴァントを倒せるはずだ。
......しかし、ダメなのだ。
自身が側に居ないときにあの宝具を使っても、ヴラド三世は恐らくただ自害してしまうだけなのだ。その姿になった自分自身が嫌すぎて。殺すほどに憎すぎて。
「ちっ......赤のキャスターめ......!」
あの妨害、それによるダメージが無かったのなら、ダーニックはこの視界に映る戦場のどこかに潜んでいるはずだった。
英霊ヴラド・ツェペシュのサーヴァント。その魂を食らい、我が妄執と同化させ、吸血鬼の体を乗っ取る。それこそが私の切り札だった。
それには令呪三画と、私自身がヴラドの傍にいて魂に干渉する魔術を行使することが必要だ。つまり、キャスターにボコられて城の中を何とか逃げている現状で切れる札ではないのだ。
「..................」
そして、やはり一刻の猶予もないのだ。
決断、しなくては。
「......ヴラド三世か......我が儘な王だ」
―――仕方がない、か。
『ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが令呪を以て命ずる!』
「ダーニックか......!」
ダーニック......遠くにいるマスターからの令呪の光を、ヴラドは感じた。
確かにこの場は大事なところ、令呪を使うほどの価値もあるというものだ
だが......とヴラド三世は嫌な予感を覚えた。
まさか、
悪魔の宝具、『
『英霊、ヴラド・ツェペシュ! 宝具―――』
「ダーニック! よせ―――」
「オオオオオ!?」
「まさか、黒のマスターの令呪か!? ならば使われる前に......!」
―――私は、貴様を信じることにしたぞ―――
『―――『
「......っ!!」
―――ヴラド三世、我が王よ―――
ランサーの身に令呪の光が届き、赤のアーチャーが先手必勝と射っていた矢を杭で完璧に弾き返す。
その堅さ、鋭さ、そして与える畏怖は、以前の輝きそのもの。
『続けて第二の令呪を以て命ずる!
敏捷のステータスを強化しろ!』
「ダーニック、貴様......」
―――お前は吸血鬼の力を借りなくとも、愛する祖国を幾度となく護った―――
そして、俊敏のランサークラスにしては遅かった敏捷がブーストされ、バーサーカーの攻撃は勿論、アーチャーの矢でさえ直撃は難しくなった。
『最後に第三の令呪を以て命ずる!
聖杯のため、臣下のため、一族のため......死力を尽くして戦い抜け! ヴラド三世!』
―――護国の鬼将と謳われた、英雄なのだと!
「オオオオオアアアアア!!!」
その
ルーマニアの上空、空中庭園にて、