「ウルゥゥウアア!!」
「間に合ったか......! 逃げろダーニック!」
「っ......恩に着る、カウレス君!」
「バーサーカーッ!」
「ラァァアアア!」
「きゃん!」
うわあああああああん!
ダーニックさんに逃げられちゃうよおおおお!
「待てやああああ!」
「ナァア!」
「っ!? あっぶ! ちょっ、待って」
「ラアァイ!」
「ひえっ!?」
おのれ! おのれバーサーカーちゃん!
どこかの全身インフェルノみたいなしつこさ見せやがって! 帰ったら覚えてろよもこたん!
「ダーニックは逃がせた......そいつにこれ以上暴れられたら厄介だ! ここで倒すぞ、バーサーカー!」
ニゲラレチャッタ......まあいいか。
ふう。あの人がバーサーカーちゃんのマスターさんだよね。バーサーカーちゃんを令呪で呼んでたし。今も話しかけてるし。
「......令呪はあと二つか......慎重に使わないとな」
なんだか、お似合いじゃない。
いいなー、私もマスターさんと一緒に戦いたかったなー。あんなくそマジメな神父さんじゃなくて。
「ナァァァアアア!!」
「うわわわわ! あっぶない!」
「バーサーカー! 電気は常に放出し続けろ! やつは電気に弱そうだ!」
「ヴヴッ!」
「ぐぬぬっ......!」
というか、これもしかしなくてもヤバくない?
さっきの森なら木に隠れてやり過ごせたけど、ここ隠れるとこないじゃん?
しかもここ敵地のど真ん中じゃん?
バーサーカーちゃん電気ビリビリで私触れないじゃん?
(お前に世界の半分をやろうとか言われた気がしたからつい殴っちゃった)ダーニックさんの言ってた通りの展開じゃん!
「ええい! 弾幕!」
「ナアア!」
「電気に防がれるよね! 知ってる!」
うわああああん!
誰でもいいから助けてええええ!
× × × ×
「ハッ!?」
自陣の者のためになる何かを考えるでもなく、
自身のサーヴァントに命令を下すでもなく、
ただひたすらに一つの芸術作品『赤のキャスターちゃんフィギュア♪』を作るのに夢中だったセレニケの脳に、怪電波が届いた。
「キャスターちゃんを守らなきゃ!」
使い魔の視界で久々に見たライダーは、この城に向かって走っているところだった。
以前までは花が散るほど愛おしく思っていた彼が必死に自分のもとに向かっているのを見てセレニケは、
「令呪を以て命ずる! ライダー! 赤のキャスターちゃんのもとに行け!
重ねて令呪を以て命ずる! ライダー! 赤のキャスターちゃんを死ぬ気で守れ!」
何の躊躇もなく、そんな彼を捨て駒にする覚悟を固めて令呪を使った。しかも二画も。
セレニケ初めての令呪は、敵陣営のサーヴァントを守れというめちゃくちゃなもの。しかも二画で。
聖杯戦争史上、最も摩訶不思議な内容の令呪が、何のトラブルがあってかここに発動した。
× × × ×
「避けろおおおおおお!!」
「ヴゥ!?」
「へ?」
その声は、戦闘中の二人のサーヴァントにとって全くの不意なところから発せられた。
声の発生源には光が集まり―――
「!?」
「うわわわわ!?」
闘争本能の塊である黒のバーサーカーは、これにもしっかり反応し、後ろに飛び退いて回避する。
対して赤のキャスターは、情けない声を出しながら後ろにビッタンと倒れて回避(?)する。
「くっそ......何故だマスター!? どうして!?」
程無くして全身があらわになった、馬上槍の使い手である黒のライダー。
その両手が持つ馬上槍の矛先は、無様に倒れている無防備の赤のキャスター
「ライダー! どうした!?」
「バーサーカーのマスターか!
わからない! マスターに令呪で命令されたんだ!」
あろうことか、黒のライダーは敵であるはずの赤のキャスターに背を向け、味方であるはずの黒のバーサーカーに敵対するような姿勢を作っている......いや、
「内容は!?」
「"赤のキャスターのもとに行け"そして"赤のキャスターを死ぬ気で守れ"だ!」
「どういうことだ!? どういうことなんだ!?」
カウレスの頭には一瞬にして多くの可能性が閃く。
セレニケの裏切りか? 今一信用ならないあの女性なら有り得る。
何者かに脅されたか? キャスターが城に攻めてきた以上、他の何者かも連携してここに攻めてきて、セレニケのもとにいる可能性だってある。
目の前のキャスターが、ダーニックに向かう前に何か仕込んでいた? キャスターというクラスを鑑みれば、むしろそういった小細工があって当然とも言えよう。
(ダメだ、わからない)
思い当たることが多すぎた。
「へぇ~♪ ライダーちゃんは私を守ってくれるんだ!」
「いや、違うよ! あくまで僕と君は敵対関係だ! 僕が君を守るなんておかしいよ!」
「ふ~ん? それならなんで貴女は私を守ってくれているのかな~?」
「こ、これはっ、令呪で......!」
「いや~ん♪ ライダーちゃんツンデレ可愛い♪」
「か、かわ......! ぼ、僕は男の子だぞ! いやいやそうじゃなくて......」
しかも、赤のキャスターまでもとんちんかんなことを言い始めた。これは素なのか、ワザとなのか......
(ワケが、わからない)
もう、ぼくはかんがえるのをやめた。
たおせばいいんだ。
「もういい! やってくれバーサーカー!」
「ナァァアアア!!」
「くそっ......黒どうしでやりあうことになるとは......!」
黒のライダーがいてはその奥の赤のキャスターを倒せない。
黒のライダーには悪いが、厄介な宝具を持つ黒のライダーから無力化し、その後に赤のキャスターを......
「うーんと......じゃああとはお任せして」
......あっ、
「ダーニックさんコロコロチャーンス♪ レッツゴー!」
「ヴゥ!?」
「あっ!?」
「くっ......!」
しまった!
あの女、ダーニックの逃げた先に繋がる廊下に向けて走り始めやがった!
赤のキャスターにとって幸運なことに、カウレスやバーサーカーにとって不幸なことに......ダーニックの逃げた先は赤のキャスターのほうが近く、バーサーカーを無視して進める方向だ。
「どいてくれライダー!」
「すまない、バーサーカーのマスター! 頑張ってはいるんだけど......令呪がっ......!」
「くそっ! 追ってくれ、バーサーカー!」
「ウゥ!」
しかし赤のキャスターの敏捷はE。バーサーカーが今から走れば十分に追いつける。
はずなのだが......
「ダメだ! 避けてくれバーサーカーっ!
『
「ムギュア!?」
「バーサーカー!?」
黒のライダーの宝具が、バーサーカーに向かって発動した。
今度は不意をつかれてしまったバーサーカー、ライダーの必死の軌道逸らしも叶わず、足下を掠めてしまった。
「グウッ......!」
「くそっ、くそっ! 僕には令呪に抵抗できるだけの対魔力があるのに......令呪に込められた想いが強すぎるのか......?」
強制的に足が霊体化させられ、身動きがとれなくなるバーサーカー。
令呪に阻まれ、望まぬことばかりさせられているライダー。
「ナァイスゥ♪ よくやった私のライダーちゃん!」
「違うんだ......違うんだあぁぁぁ......」
「ダメだ! このままではアイツが......!」
「へへ~ん♪ ここまでおーいで~♪」
そして無力なカウレスと、その場の全てを嘲笑いながら尻を向けて逃げる......いや、ダーニックを追う赤のキャスター。
令呪のサポートがあるようで、その足は迷いなくダーニックのいる方向へ向かっている。
「このままでは、ダーニックが......!」
それだけじゃない。
ダーニックが死ぬことでランサーも消えてしまったら、空中庭園で行われているであろう大聖杯奪還戦も敗色濃厚になる。最悪、こっちのサーヴァントが全滅する。
そうなれば、黒のサーヴァントはここにいるバーサーカーとライダー、いたとしてもまだ姿を見せないアサシンの三騎だけ。これだけでは二度と大聖杯を奪還できはしないだろう。
絶対に、絶対にここで赤のキャスターは止めなければならない......!
それには、自分の力だけでは無理だ。
「......バーサーカー!」
足を霊体化させられた、自らのサーヴァントを呼ぶ。
バーサーカーはこちらに振り向き、目があった。
「......ヴヴッ」
―――同じ考えだったようだ。
カウレスは知っている。言語能力に乏しくて思考を上手く伝えられない彼女は、しかしながらその思考能力はバーサーカーとは思えないほど高く、時には自分ですら考えの及ばないことも考えていることを。
そんな彼女との思考が今、重なりあった。
「バーサーカー―――令呪を以て命ずるッ」
赤い呪印が刻まれた右手に、渾身の魔力を込めて言葉を紡いだ。
「赤のキャスターに組み付け!」
行くぞ、バーサーカー。
これが、僕たちの最後の勝負だ。
× × × ×
「ここならばっ......!」
「『
「ちっ......!」
「オオオッ!」
「『
「ムウッ!?」
戦況は、転じて一方的となった。
令呪により強化された黒のランサーの杭は、赤のアーチャーの矢を完璧にいなし、赤のバーサーカーの体を貫き、封じ込める。
「今こそ、その目その体に刻むがいい。
信頼できる臣下を供にした、護国の串刺し公の恐怖を!」
空中庭園に来てから、ランサーは防戦一方だった。
しかし臣下の令呪の助けを得て、初めて攻勢に回った黒のランサーは、いい加減目障りな者に止めを刺しに狙いをつける。
「反逆者。貴様が真に反逆の志を有するというのなら......余の杭を跳ね返して見せよ!」
『
頭上から、足下から、右手に左腕に背中に胸に。
頭蓋から爪先まで全方位から、赤のバーサーカーは黒のランサーの杭に
「.....................」
瞬間、今までうるさいほどの奇声と打撃音を奏でていた赤のバーサーカーが大人しくなった。
「まさか......やられたか!?」
赤のアーチャーは不安になる。
いくら気持ち悪い存在であったとはいえ、赤のバーサーカーという肉壁が失われれば、今の黒のランサー相手にどこまで戦えるかわからないからだ。
こんな変体な変態にも、使い道はあったのだ。
「フン......わかっているだろう。次は貴様だぞ、赤のアーチャー」
「っ......!」
黒のランサーは赤のバーサーカーから目線を外し、赤のアーチャーに向ける。
肉壁が機能停止した今、いくら敏捷Aの彼女でも、狭い廊下の中で全方位から来る杭から逃げ続けるのは至難の業。
「その足、その弓、その戦闘術。名のある狩人とお見受けする。このようなことをしても真名を明かすような者ではないだろうが敢えて、礼を尽くそう。
ヴラド・ツェペシュ。それが我が名であり、今から貴様を串刺しにする者の名だ」
その言葉とともに、黒のランサーは右手に持った槍をゆっくりと赤のアーチャーに向けた。
一寸先の敗北に、赤のアーチャーは額を嫌な汗で濡らす。
槍先で赤のアーチャーを貫くが如きその姿勢で、黒のランサーは宝具を―――
ドゴンッ、と。
巨大な岩石が落ちたような音とともに、周囲に撒き散らされる大魔力の衝撃波。
たまらず、黒のランサーは後退。赤のアーチャーから衝撃波の方へと注意を移す。
「なんだなんだぁ?」
「今のは......?」
「............」
「......一度、槍を収めよう。様子が見たい」
「魔力......しかし、赤の魔術師のお出ましではなさそうだな......」
衝撃波は遠くで戦闘していた大英雄たちにも伝わり、全員の意識を向けさせた。
遠くからでもわかる、赤のバーサーカーの異変。
この戦いが始まる以前より、既に異形の肉塊と成り果ててはいた彼だが、ここでの戦闘でより一層その大きさを増しているように見える。
「......成る程。自らの身に刻まれた傷を、魔力に変換して体内に蓄積しているのか」
「おいランサー、どういうことだ?」
「貧しい見識から言わせてもらうなら、赤のバーサーカーは傷を受ければ受けるほど強くなり、耐えれば耐えるほど体内に多くの魔力を溜め込む」
語るのは赤のランサー。
赤のバーサーカーは言葉が聞こえているのかいないのか―――いや、もし聞こえていたとしても、黒のランサーに向ける圧倒的敵意が逸れることなどない。
それを一身に受ける黒のランサーは、誰よりも赤のバーサーカーの近くにいる。
偶然にもそれは赤のバーサーカーから黒のサーヴァント全員を背中に隠すような形になった。
「しかし、何事にも限界があるように、バーサーカーのあやつの耐久にも限界が来た。
そのときにため込まれた魔力がどうなるか、ということだ」
例えるなら火山の噴火。
もしもそれが、バーサーカーの意志による制御でもって、一方向に放たれたのなら......。
「......来るか、反逆者。
いいだろう。貴様が反逆者であるならば、その前に立ちふさがるべきは黒の王たる余だ」
黒のランサーは、背中にいる臣下を守るため、赤のバーサーカーが放つだろう一撃に、真正面から対峙する構えだ。
事実、ランサー以外の黒のサーヴァントにこの一撃を対処できるかと問われれば、首を傾げることになる。
キャスターは"最終宝具"があれば確実に防御できるが今は無く、アーチャーの矢では威力が足りず、高い敏捷も狭い廊下の中では発揮できない。
(......すまない、ランサー)
そして、セイバーには対処するべきではない理由があった。
彼の放つ『
しかし、赤のサーヴァントが三人―――この城の主やマスターも含めればそれ以上―――いるこの場で真名解放などしては、自身の名が露呈する。そうすれば自ずとアーチャーやキャスター、アサシン辺りが、ジークフリートである自分の弱点である背中を容赦なく狙ってくるだろう。
赤のランサーには既に知られているだろうが、彼相手ならば騎士の誇りにかけてセイバーは背中を取らせない。しかし、不意打ち専門のようなクラスに狙われては、さしものセイバーもたまらない。
「我が一撃はありとあらゆる圧政を飲み込み、全ての権力を打ち砕き、震える民を照らす光となる......」
言葉を一つ一つこぼす度、その体からドロッとした魔力が溢れだして空気を犯す。
身を少しよじる度、巨体から伝わる威圧感が雰囲気を支配する。
しかし―――ヴラド三世には、効かない。
「全身を杭に磔にされて、それでもなお余に抵抗する精神、少しの畏怖をもって褒め称えよう。
だが、余が生前に故国を守ったときも、敵は同じく強大であった。さらに言えば、今の余には頼れる臣下がいる。たった一人の反逆に屈することはない」
護国のため、己のため、そして臣下のため。
ヴラド三世は、己の宝具に全身全霊を賭ける。
そして、いよいよ赤のバーサーカーの準備が整ってしまったようだ。巨体を前屈みにし、前方へ放出する一撃の反動に耐えるようにする。
さながら砲身を構えた大砲の如く。
「おお、圧政者よ......ああ圧政者よ!!
我ここに勝利の凱歌を唄わんッ!!」
「反逆者よ、雄々しき漢よ。
国に還るがいい......!」
『
ついに、赤のバーサーカー渾身の一撃が放たれた。
それは、細工も何もない。ただの魔力砲だった。
しかし―――威力が桁違いだ。先ほどユグドミレニア城を襲った三つの魔力レーザーも相当だったが、それさえも比べものにならない、超極太魔力砲だ。
それは正しく、赤のバーサーカー―――スパルタクスが命を代償に放つ、反逆の鉄槌だった。
『
それに対するは、護国の象徴である杭。
ヴラドはただ数えきれない杭を乱立させるのではなく、令呪により強化されたことを利用して可能な限り杭を操り、広く展開した杭を
完成したのは、数多の杭が合わさってドリルのような形状になった、
黒のランサーと赤のバーサーカー以外の者が戦闘を止め、来たる大衝撃に歯を食い縛って備える中、
「雄々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ———!!」
「オオオオオアアアアア!!!」
ドゴオオオオオオオオン!!!
両者の、一世一代を象った宝具が、衝突した。
× × × ×
「.....................」
一方その頃、ユグドミレニア城の近くにて、空を見上げるサーヴァントが一人。
聖杯戦争の監督役、ルーラーことジャンヌ・ダルクである。
「......どうしましょ」
啓示が降りなかったり、赤と黒の戦場が多すぎてどこを見ていいかわからなくなったりと、聖杯戦争史上でも稀に見るほど散々な状態の彼女である。
今もまた、天空に浮かぶ庭園の戦場を見に行くか、城の中の戦いを見に行くかで選択を迫られている。
「ああ、どうしましょ......」
見に行きたいのはあの空の戦場のほうだ。大英雄が集いも集った激しい戦場を自分が見に行かない道理はない。
中でも一人、黒のランサーには正当な聖杯戦争を狂わせてしまう宝具があるのだ。彼の歴史からすれば積極的にその宝具を使うものではないだろうが、マスターのほうから令呪で無理に発動させないとも限らない。
「......高いですね」
しかし、空の戦場は遥か高い。いくら筋力Bの彼女とはいえ、あそこまで飛び上がることはできない。
ならば行く先を城の中の戦場にするべきなのだが、こちらは見に行くほど危険なメンバーではなかった。
唯一、何を起こすか(しでかすか)わからない赤のキャスターが不安だが、民間人に積極的に害を与える気質でないことは明らかだった。
ルーラーの監督がいるほどの存在ではない。
「......むむむ」
城に向かって急接近する赤い彗星が見えた。
あれは赤のセイバーだ。魔力放出のスキルを駆使し、ジェット噴射の要領で空を飛んでいる。
私にもあんなことができればなあ、と思わなくもない。
「はあ......ん?」
ため息ついでに足元を見ると、ふわあ、と平たい石の板が地面数センチほど浮いているのに気づいた。
ちょうど人が一人ほど乗れそうなサイズであったので、よっこらしょっと何気ない気持ちでルーラーはそこに両足を乗せる。
『ふん、ルーラー一名様ご案内だ。振り落とされるなよ聖女、そのような醜態を晒されてはルーラーというクラスが堕ち、
「なぁ......!?」
グワンッ、と。
突然、ルーラーが乗った石が上に向けて急発進した。
さながら天国へのエレベーター。石はなおも加速を続け、とうにサーヴァントでなければ耐えられないほどの速さに達していた。
流石にルーラーがダメージを負うほどではないが、身動きが取れず、途中下車ができない。
「どういうことなんですかああぁぁぁ............」
ルーラーの姿は、瞬く間に天高く輝く星の向こうに消えていった。