僕には将来なりたいものなんて何も無い。だから別に世の中がどうなろうと事故で死のうと正直どうでも良かった。
今の世の中は女尊男卑だ。……どうしてだって? どうしてもこうもそれはーーーーインフィニット・ストラトスのせいだ。
ISーーインフィニットストラトス 。開発者に何処までも続く空と名付けられた、マルチフォームスーツ。無限の可能性を秘めたそれは現行兵器を凌駕し、兵器の概念を覆した。
今やISの保有数がその国の力を示すと言っても過言でも無い。そんな兵器がーー女性にしか使えないのだ。男性が使用を試みても全く反応を示さず女性にしか使えない。
そんな物が存在するならば、女尊男卑の世の中になるのは必然的にだろう。……だけど、そんな事僕にとってはどうでも良い。女尊男卑だろうとなんだろうと、世の中がどうなろうと知った事では無い。勝手にやってくれって感じだ。
……その筈だったのに。
針のむしろとはこの事を言うのだろうか。突き刺さるのは奇異の視線。それも皆、女性からの視線だ。数十人の女性。それも皆十代。そんな中男は僕1人だけ。
世の中の男が聞いたら羨むかもしれない。普通ならば。だがここは普通では無い。ここはーーーーIS学園。世界でただ一つのIS操縦者育成校だ。ISの適性を認められた候補生達が正操縦者を目指す教育機関。
無論、生徒は女性しかいない。当たり前だ。ISは女性にしか扱えないのだから。なら何故ここに僕がいるのか。それはーーーー。
「あの……?」
「あ……は、はい」
ふと気づくと眼鏡をかけた女性が困った様子でこちらを見ていた。確か、副担任の山田先生だっけか。
「い、今から自己紹介するんだけどね、番号順が一番最初だからお願いしたいんだけど……してくれるかな?」
心底困った様子で山田先生は言う。もしかして上の空で無視をしていた形になってたかもしれない。
「わ、分かりました」
申し訳なさから僕は意を決して立つ。すると視線が一気に集まるのを感じだ。興味。奇異、困惑、嫌悪、期待……様々な感情を孕んだ視線を感じる。それを振り払うように声を絞り出し。
「い、碇シンジです……」
「……」
水を打ったように教室が静まり返る。分かっていた。ただでさえ女性だけの学園に1人だけの特異な存在なのに、IS関係で碇の苗字。否応でもある人を連想せざるを得ないのだ。その人物とはーー。
「久しぶりだな」
懐かしい声。しかし聞きたくなかった声。教室の入り口にその人はいた。凛とした顔立ちに美しい髪。僕とは違い強い意思を感じさせる声。5年ぶりに見る彼女は、僕を置き去りにしたあの日から何一つ変わらずそこに存在していた。
「……姉さん」
彼女は碇千冬。僕の姉だ。
「きゃーっ! 千冬さま!」
「本物の千冬様よ!」
一斉に女子生徒の黄色い声が姉さんに浴びせられる。それもその筈。姉さんはモンドグロッソーーIS世界大会の優勝者であり、世界最高峰のIS操縦者だからだ。故に女性達とっては憧れの存在である。
僕がここに来る原因も姉さんのせいだ。
ある日僕は拉致も同然に連れ去られた。僕を拉致したのは姉さんの命を受けた男達でーーNERVと呼ばれる国の特務機関の者だった。IS学園の母体であり姉さんの属している組織。超法規的な権限を持っているNERVにより僕は有無も言わさずIS学園へ入学させられた。
そもそも僕は男でISを起動できないのに意味が分からない。
端的に言うと僕は姉さん苦手だ。そもそも姉さんは僕のことなんか忘れていると思っていた。それにギクシャクするだけだから会いたくもなかった。勝手に僕を捨てたくせに、今度は勝手に呼び出す。ほんと姉さんは勝手だ。
「碇くん千冬さまの弟なんだ……」
「成る程……だから……」
何かを察するクラスメイト達。
このISありきの世の中で生きている以上、姉さんの存在は否応無く僕へのしかかって来る。目を背けていたその事実を僕は思い知った。