死んで叢雲になったわ。なに、不満なの?   作:東部雲

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色んな憑依ものみて、叢雲が無かったので思いきって投稿しました。なるべく更新遅滞しないように頑張ります。

※叢雲の最後に関する記述を加筆修正しました。ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。m(__)m


プロローグ

 付近の高架を通る列車の騒音が鳴り響く。ガタンゴトンと線路を走る音が少ししたら鳴り止み、変わりに道行く人々の喧騒が周りを包み込む。

 

 そんな日常の風景に、僕は制服姿で歩いていた。

 

 名前は八雲 叢一(やくもそういち)、今年で16の誕生日を迎えて今は高校に通ってる学生だ。何も変わったところや特筆すべき点もない、俗に言う男子高校生。

 

 生活に不自由はない、両親の収入源は安定しているし。僕自身も生まれつき、あるいは事故で何か患ってる訳でもないから不便と思ったこともない。

 学校での成績はまあまあ位だと思う。頑張って勉強すれば今の高校を卒業して、何処かの会社に就職出来るだろう。

 

 そんな僕の変わったところと言えば漫画やアニメ、ゲームにラノベと言ったサブカルチャーが趣味なことかな。

 世間ではオタクって呼ばれるかもだけど、勉強に影響しない程度には慎んでるし。あと剣道を嗜んでるから学内の評判はそう酷いものでもないと思うし。

 

 大丈夫だ、問題ない。

 

 特に最近好んでいるのはとあるアプリ、ソーシャルゲームだ。

 

 艦隊育成シミュレーション『艦隊これくしょん』、通称艦これ。

 太平洋戦争で活躍した軍艦の記憶を持った艦娘を集めたり育成して敵である深海棲艦と戦わせる、というのがこのゲームの主な内容。

 クラスメイトの男子から勧められるままスマホでアンドロイド版をダウンロードしたら、それまでの趣向を一新する程にはまった。

 ネットで初心者向けの攻略情報を確認するのは勿論、気になったノベライズ版や公式漫画も購読。もう、オタク呼ばわりされても仕方ないかもね。

 

 艦これで一番好きな艦娘はと聞かれたら、迷いなく叢雲って答えると思う。

 

 駆逐艦叢雲。

 

 進水した当時は優秀な凌波性能と航続力、重武装を併せ持った驚異的な駆逐艦として世界に衝撃を与えた特Ⅰ型駆逐艦。

 その五番艦となる叢雲は史実の戦績こそ目立ったものではないものの、戦前は満州国皇帝の御召艦になった戦艦比叡の護衛を第12駆逐隊で務め、日中戦争を経て太平洋戦争を戦った歴戦の駆逐艦らしい。

 

 ここまではwikiで調べたけど、そう言った史実を反映してかプライドが高いツンデレ系美少女って感じだったな。

 ゲーム開始時の初期艦選択では叢雲にした。以来叢雲を第1艦隊旗艦、つまり秘書艦としたまま提督業を続けてきた。

 敢えて駆逐艦の叢雲を旗艦にするのは拘ってるから、それぐらい好きな艦娘と言えたから。

 

 最初はセリフがキツくて面食らった、でも時々こちらを気遣う時もあって素直じゃないけど良いかな。厳しさの中に優しさありって感じで。

 旗艦にしてからは色々な海域を攻略して、リランカでレベリングを繰り返して改二にもした。公式はケッコンカッコカリっていうシステムを実装したらしいし、嫁艦にするのは叢雲と決めてすらいる。

 

 今は高校での授業も終わって下校中、帰れば宿題などノルマをこなしてから艦これにログインだ。

 登校前に遠征に出した第2~第4艦隊の結果を確認、補給させては第1艦隊でレベリングするサイクル。

 

 何より叢雲の声を聴きたい。そう思いながら歩道を歩いていると。

 

 目の前を小柄な影が横切っていった。視線で追うと私服の男の子、多分小学生だろう。

 ただ問題なのは今走っている場所で、そこは車道だ。すぐ横の道路は車は通っていないが、向こう側は。

 

 

「不味い!」

 

 急いで飛び出す。ここから向こうの対向車線は僕の進路方向から自動車が既に進入してきてる、このままでは今横切った子供が危ない。

 急いで車道を横断する男の子に追い付き、その勢いのまま背中を突き飛ばす。不意討ちのようなものだったからだろう、反応できずに車道から歩道に押し出され転んでいく。

 

 クラクションの音がすぐ近くで響いた。振り向けば車がすぐ目の前に迫っていた。この距離では、もう避けられない。

 

 衝撃と視界がぐるぐる回る感覚がしたのは同時に思うような錯覚。

 そして、意識は暗転した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

『……あ、れ?』

 

 気付けば周りの風景は変わっていた。

 

 漆黒を塗りたくったような暗闇、暗さを増して行く視界、そして自分の周りで蠢く気泡。

 

 気泡?

 

 僕はさっきまで街を歩いてたはず。授業後帰って艦これにログインするのを楽しみにしながら歩いて、それで。

 

『あの時、車に跳ねられたのか』

 

 解けた疑問が呟きとして漏れ、それが現実として認識すると途端に恐怖を覚えてきた。

 

 暗い、それに冷たい。これが死後の世界だと言うなら、日本で言うところの三途の川は無いのか。こんな暗くて冷たい、寂しい所があの世だっていうのか。

 

 多分僕は今沈んでいっている。なら、底まで沈んでいったらどうなるのか。得体の知れない恐怖で泣き叫びそうになった時だった。

 

『落ち着いてくれ、少年』

 

 何処からか声が届き、直後に上から周りの闇を上書きするような光が近付いてきた。

 

 やがて光が収まるとそこには、セーラー服を着た少女がいた。何故か猫の両前足を掴んで垂れ幕のように吊るしている。

 

『君は?』

『特定の名前は持っていない。敢えて呼ぶなら、“猫吊るし”とでも呼んで欲しい』

『猫吊るし』

 

 何とも見た目通りの呼び名だ。まあ他には呼びようが無いかもしれない、僕もすぐには思い付かないし。

 

『もう把握したかもしれないが、君は現世で死んでしまった。善意から起こした行動とは言え、無茶をしたな』

『…………すぐに行動を起こしたらああなってしまった、少し後悔してるよ』

 

 他にやりようがあったかもしれないし。

 

『まあでも、すぐ行動に移れるのはなかなか凄かったぞ』

『それはどうも。でも、僕はこれからどうなるんだ?』

 

 それが一番気になるところだ。

 

『心配しなくて良い。ここは死後の世界とは少し違う、ある場所に通じる通り道みたいなものだ』

『通り道?』

『献身的行動で若くして命を散らした君が不憫に思ってね、違う人生を送らせようと思ったのさ。どうかな?』

 

 俗に言う神様転生と言うやつだろうか。まあ、目の前にいるのが神様か分からないけど。

 

『僕も、人生があんな中途半端に終わるのは嫌だ。まだ生きていたい』

 

 少なくとも、目の前の猫吊るしに対する答えとしてはこれが一番素直な意見だ。例え代わり映えしない人生でも、あんな形で終わったままには出来ない。

 

『良い返事だ。下の方を見てくれ、ちょうど見えてきた』

 

 言われるまま眼下、と言うより現在進行形で降りていってる先を見つめる。

 

 下方に広がる暗闇が徐々に猫吊るしの放つ燐光に照らされ、あるものが浮き彫りになってくる。それは。

 

『軍艦?』

 

 正確にはその残骸に見えた。遠目から見ても底に沈んだままの船体はボロボロで、殆どの主砲は脱落したり煙突が潰れて無惨な姿だった。

 

『あれは君が愛して止まない艦娘。そのモデルとなった旧日本海軍の駆逐艦叢雲、その骸だよ』

『っ!』

 

 あれが、叢雲?

 僕が艦これで初期艦に選び、ずっと旗艦として大切に育ててきた駆逐艦。

 

 なら、まさかここは。

 

『ここは、サボ島沖?』

『ざっくり言うとそうだな』

 

 いきなり展開が急すぎて、ここに来て頭が混乱する。でも現世で生活する頃とは違い、今は死んでるからか意識は気味悪いくらいクリアだ。そのため思ったより早く予測が立ってしまった、それは。

 

『僕の転生先は、艦隊これくしょん?』

『左様。更に言えば、君は駆逐艦叢雲として新たな生を送ることになる』

 

 猫吊るしが口許を緩めて頷く頃にいつの間にか、海底に沈んで眠り続ける残骸のすぐ上まで降りてきていた。

 

 まず先に右手を、下に向けて表面に触れる。よく見たらフジツボや海藻が張り付いて、外板は酷く錆び付いていた。

 直後、船体が白く眩い光に包まれる。深海での激しい発光に、思わず条件反射で目を細めた。やがて光は狭まり、叢雲の外板に着底した僕の体に流れ込んでくる。

 

 流れ込む光から感じたのは幾つもの感情だった。

 一つは救援に向かって間に合わず、仲間を助けることができなかった無念。

 もう一つは運がなかったとは言え敵飛行場から空襲を受けて航行不能に陥り、その後助けに来た味方の駆逐艦まで沈んだことへの後悔。

 最後は大破炎上して曳航も断念せざるを得ず、姉に自分を沈めさせたことから来る自責。

 

 でも、それに負けないくらい強い意思もある。次に戦うときは誰も沈ませない、自らを沈ませる十字架は背負わせないという揺るぎない決意。そして艦長だった東日出夫氏を誇りに思うゆえのプライド。

 

 先に来たネガティブな感情も、後から来た確かな信念に覆われて僕の体、精神レベルでの融合を始めたことがわかる。

 

 片や世界を震撼させた吹雪型駆逐艦にして、目立たないながら緒戦を戦った歴戦の駆逐艦。

 

 片や特に何か変わった特徴があるわけではなく、平々凡々に学生時代を送った少年。

 

 双方はどちらかと言えば叢雲をベースに、だけどどちらも等しく混じり合い一つに纏まって。

 

『良い旅を。次に目が覚めれば、君は駆逐艦叢雲だ』

 

 視界が白のペイントで塗り潰すように、ゆっくりと狭くなっていく。その中で僕は目の前にいる存在が何なのか分かり始めた、この少女は。

 

 既に公式が画面から廃除、『リストラ』した筈の存在。

 

 そう気付いたのと同時に、意識は完全にホワイトアウトした。




内容自体は他の小説と差別化を図りたい意図があるため、このような描写となっています。感想、もしよければ高評価も宜しくお願い致します。m(._.)m

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